説明

熱伝導性シリコーンゲル硬化物

【課題】熱伝導性が良好で、未硬化時における優れたポットライフ特性を有するとともに、硬化後には低ブリード性に優れた熱伝導性シリコーンゲル硬化物を提供する。
【解決手段】(A)分岐型オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)付加反応触媒および(D)熱伝導性フィラーを含有する組成物を熱硬化してなる熱伝導性シリコーンゲル硬化物であって、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、一般式(1)で表され、かつ25℃における粘度が10〜100,000mPa・sであり、及び(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に、一般式(2)で表される単位を有することを特徴とする低ブリード性の熱伝導性シリコーンゲル硬化物など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シリコーンゲル硬化物に関し、詳しくは、分岐型のオルガノポリシロキサンを用いることにより、従来品よりもオイルブリードが発生しにくい特性(以下、「低ブリード性」と称す。)に優れた熱伝導性シリコーンゲル硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱伝導性シート等のゲル状硬化物は、パワートランジスタ、パワーモジュール、サイリスタ、整流器、トランス等の発熱性の電気・電子部品から発生する熱を効率良く放熱するために用いられる。特に、シリコーン系マトリックスの熱伝導性シートが優れた温度特性や低圧縮歪性の観点から、好適に使用されている。このシリコーン系マトリックスの熱伝導性シートは、通常、発熱体とヒートシンクの間に加圧挟設されて使用されるため、熱、圧力の影響を著しく受けて、長期間使用すると、マトリックス中のオイル成分のブリード(所謂オイルブリード)が発生し易くなる懸念がある。そして、オイルブリードした場合には、そのオイルによって、電子基板の接点不良などの問題を発生する可能性も有り、無視できない問題である。特に、低硬度のものや部分的架橋したグリース状のものほど、こうしたオイルブリードの問題についての懸念が大きい。
【0003】
そのため、ブリードを低減させる方法が種々提案され、例えば、(i)硬度(架橋度)を高くする方法や、(ii)表面を高架橋ゴム層で被覆する方法などが提案されているが、(i)の方法では、発熱体表面への密着性が低い、挟設時の反発弾性が大きい、素子破損しやすい等の問題点があり、また、(ii)の方法では、全面被覆する必要が有るので、生産性が悪いことや被覆層が熱抵抗となる等の問題点がある。
【0004】
さらに、(iii)の方法として、組成改良や製法の工夫による方法も提案されており、特許文献では、例えば、特許文献1では、ベースポリマーの(A)1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を1個以上有するポリオルガノシロキサン、架橋材の(B)1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を2個以上有するポリオルガノハイドロジェンシロキサン、白金系触媒の(C)成分、熱伝導性充填材の(D)成分を含有する放熱材を製造するにあたり、まず、(A)成分、(B)成分及び(C)成分を連続的に加熱混練し、混練を停止することなく所定温度まで冷却して付加反応硬化型シリコーンゲルを得てから、このシリコーンゲルに(D)成分を加えることによって、オイルブリードの発生が著しく改善された放熱材が得られることを開示している。また、特許文献2では、熱伝導性充填剤を高充填しても、低硬度でオイルブリードの発生し難い硬化物を与える付加反応硬化型シリコーン組成物を提供するために、(A)(A1)1分子中に2個以上のケイ素原子結合アルケニル基を有する直鎖状のポリオルガノシロキサン及び(A2)脂肪族不飽和結合を有しない分岐状のシリコーンレジン、(B)一般式:RSi(OSiRH)(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基またはフェニル基、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基である。)で表されるポリオルガノハイドロジェンシロキサン、並びに(C)白金系触媒、さらに熱伝導性充填剤を含有し、ゲル状硬化物の針入度(ASTM D1403 1/4コーン)が20〜150である付加反応硬化型シリコーン組成物および熱伝導性シリコーンゴムシートが提案されている。
【0005】
しかしながら、オイルブリードの低減には効果があるものの、上記特許文献1の方法では、冷却するなどの工程の追加による生産性の低下が避けられず、また、硬化時には冷却された組成物を所定の温度まで加熱するための熱エネルギーも多く必要となるので、生産コストの観点から、実用性に乏しいものであった。また、特許文献2の方法では、オイルブリードの原因である直鎖状のポリシロキサンの量を、分岐型シリコーンレジンを加えることにより減らして、オイルブリードを減じる方法であって、直鎖状のポリオルガノシロキサン由来のオイルブリード自体を解消したものではなく、所望のゲル硬度とするには、分岐型シリコーンレジンの添加量に限界があり、その結果、オイルブリードの根本的な対策としては、改善の余地があった。さらに、これらの方法では、生産時の取り扱い性や成形性に影響を及ぼす未硬化時のポットライフ(可使時間)については、検討されていなかった。
さらに、低架橋性のグリース状のものについては、これまで具体的な対策がなされていなかった。
そのため、未硬化時におけるポットライフに優れるとともに、硬化物がゲル状であって、且つ熱伝導性が良好で、低ブリード性のシリコーンゲル組成物およびそれからなる熱伝導性シートが求められている。
【特許文献1】特開2008−184549号公報
【特許文献2】特開2007−154098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、熱伝導性が良好で、未硬化時における優れたポットライフ特性を有するとともに、硬化後には低ブリード性に優れた熱伝導性シリコーンゲル硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、熱伝導性フィラーを含む熱伝導性シリコーンゲル組成物の主成分に、特定の分岐型オルガノポリシロキサンを用いると、その熱伝導性シリコーンゲル組成物からなる熱伝導シートなどのシリコーンゲル硬化物は、低ブリード性に優れることを見出した。そして、本発明は、これらの知見に基づき、完成するに至ったものである。
特に、従来から用いられている直鎖型オルガノポリシロキサンに替えて、特定の分岐型オルガノポリシロキサンを用いると、その分岐鎖が立体障害となり、或いは三次元的に架橋した網目構造がその分岐鎖により密となり、その結果、未架橋のフリー分子の移動を阻害して、低ブリード性に優れることが可能となったものである。
【0008】
なお、本明細書において、シリコーンゲルとは、JIS K6301に規定され、A型スプリング式硬度計で測定されたゴム硬度(デュロメータA硬度;通称JIS−A硬度)が0であるシリコーン硬化物を意味する。また、ゲル状とは、シリコーン硬化物がこのようなシリコーンゲルの状態にあることを意味する。かかるシリコーンゲルは、一般に、架橋度が低い3次元的網目構造を有し、応力により変形して振動を吸収する。
【0009】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、(A)分岐型オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)付加反応触媒および(D)熱伝導性フィラーを含有する組成物を熱硬化してなる熱伝導性シリコーンゲル硬化物であって、
(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表され、かつ25℃における粘度が10〜100,000mPa・sであり、及び
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に、下記一般式(2)で表される単位を有することを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物が提供される。
一般式(1):
[RSiO(4−a)/2[RSiO2/2[RSiO(4−b−c)/2
(式中、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、Rは、同一または異種の炭素数2〜10のアルケニル基であり、aは0または1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であって、2≦b+c≦3を満たし、p、q、rは、1≦p≦30、100≦q、2≦rであり、且つ、0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0を満たす。)
一般式(2):
[RSiO(4−d−e)/2
(式中、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、dは1または2であり、eは1または2であって、2≦d+e≦3を満たし、sは2以上の数であり、但し、式(1)のcが1で、rが2の場合は、sは3以上である。)
【0010】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記一般式(1)において、pが3〜20であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000〜100,000であり、及び(C)成分の付加反応触媒がヒドロシリル化反応触媒であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物が提供される。
【0011】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、形状がシート状であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、無荷重時に、自己保形性を有するグリース状であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物が提供される。
【0012】
本発明は、上記した如く、熱伝導性シリコーンゲル硬化物などに係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(1)第1の発明において、(D)成分の熱伝導性フィラーは、金属または金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物および炭素材料からなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
(2)第1の発明において、(D)成分の熱伝導性フィラーの含有量が50〜90重量%であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
(3)第4の発明において、SRIS 0101規格のアスカーC硬度が0〜30であること、またはJIS K2207に準拠した25℃における針入度が20〜200であることを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、熱伝導性が良好で、低ブリード性に優れるという顕著な効果を発揮する。そのため、電子・電気機器の信頼性を向上させることができ、パワートランジスタ、パワーモジュール、サイリスタ、整流器、トランス等の発熱性の電気・電子部品などに好適に用いることができる。また、未硬化時のポットライフ特性が優れているため、生産性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の低ブリード性の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、(A)分岐型オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)付加反応触媒および(D)熱伝導性フィラーを含有する組成物を熱硬化してなるものである。
以下に、本発明に係る組成物、本発明の低ブリード性の熱伝導性シリコーンゲル硬化物などについて、詳細に説明する。
【0015】
1.組成物の構成成分
(1)分岐型オルガノポリシロキサン(A)
本発明に係る組成物は、(A)成分として、分岐型オルガノポリシロキサンを配合することに、最大の特徴がある。
先ず、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、取り扱いの点から、粘性として、未硬化状態ではJIS Z8803準拠の共軸二重円筒形回転粘度計で測定した25℃における粘度が10〜100,000mPa・sの範囲が好ましい。
粘度が10mPa・s未満の場合には、(A)〜(D)成分を配合した組成物を、金型に注型すると、(D)成分の熱伝導性フィラーが硬化前に沈降し、均一組成の熱伝導性シリコーンゲル硬化物が製造できない。一方、粘度が100,000mPa・sを超える場合には、得られる組成物の取り扱い作業性が悪くなり、また、必要十分な量の熱伝導性フィラー(D)を充填できず、熱伝導特性が不満足なものとなる。
【0016】
次に、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表されるものである。
一般式(1):
[RSiO(4−a)/2[RSiO2/2[RSiO(4−b−c)/2
(式中、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、Rは、同一または異種の炭素数2〜10のアルケニル基であり、aは0または1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であって、2≦b+c≦3を満たし、p、q、rは、1≦p≦30、100≦q、2≦rであり、且つ、0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0を満たす。)
【0017】
上記一般式(1)のRである炭素数1〜10の一価炭化水素基は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖のアルキル基や、1−メチルブチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは、合成が容易なことおよび得られるシリコーンゲル硬化物の耐熱性や物理的性質が優れたものであることから、メチル(CH−)基である。これらの基の水素原子が部分的に他の原子又は結合基で置換されたものでもよい。また、Rは、複数ある場合(a=1、p≧2)、同一または異種であってもよい。
【0018】
また、上記一般式(1)のRは、炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖のアルキル基や、1−メチルブチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは、合成が容易なことおよび得られるシリコーンゲルの耐熱性や物理的性質が優れたものであることから、メチル(CH−)基である。これらの基の水素原子が部分的に他の原子又は結合基で置換されたものでもよい。また、Rは、同一または異種であってもよい。
【0019】
さらに、上記一般式(1)のRは、炭素数2〜10のアルケニル基であり、具体的には、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、シクロヘキセニル基などであり、好ましくは、多くの種類の触媒によって容易に反応することから、ビニル基である。また、Rは、複数ある場合、同一または異種であってもよい。
【0020】
また、一般式(1)において、aは0または1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であって、且つ2≦b+c≦3を満たす数であり、好ましくは、aは1であり、bは1であり、cは1である。
さらに、p、q、rは、1≦p≦30、100≦q、2≦rであり、且つ0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0を満たす数であり、好ましくは、pは3〜20、qは300〜3,000、rは5〜17である。
【0021】
上記p、q、rは、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンを構成するシロキサン成分の組成比を表す。p、q、rの値によって、(A)成分の硬化物の様態が変化し、pの組成割合が大きくなるに従い、ゲル状態からゴム状態、さらにはレジン状態へ変化して、その結果、熱伝導性シリコーン硬化物の様態も同様に変化するが、本発明の熱伝導性シリコーン硬化物は、ゲル独特の柔軟性を持たせるために、pの組成割合が0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0を満たす条件を必須要件とする。
ここで、pは、側鎖の数(主鎖からの分岐の数)を規定する数値であり、また、低ブリード性に寄与する重要なファクターであって、pは3〜20、すなわち、Si−Oの主鎖から分岐した側鎖の数が、一分子当たり3〜20が好ましく、特に好ましくは5〜15である。pが2以下の場合には、本発明の主効果である低ブリード性の効果が小さく、従来品のオイルブリード改善というレベルまでには至らない。一方、pが20を超えると、逆にオイルブリードが多くなるので、熱伝導性ゲルシートなどの用途においては、好ましくない。また、pの値とオイルブリード量の関係においては、特に好ましいpの範囲である5〜15において、オイルブリード量が最小となる。
【0022】
また、qは、Si−Oの繰り返し単位の数であり、ポリシロキサンの直鎖の長さを規定する数値であって、qが大きいほど直鎖の長さが長くなり、同じ側鎖条件であれば分子量が大きくなる。
qは、pと関係しながら、硬化後の低ブリード性と未硬化時の(A)成分の粘度に関与するファクターである。低ブリード性については、例えば、pが一定において、qが大きくなると、硬化後の未架橋浮遊状態の成分(A)分子については、分子運動し難くなるので、結果としてオイルブリードが低減される。また、qの増加に伴いpも増加する場合や、qの減少に伴いpが増加する等の場合には、硬化後の架橋網目が密になるとともに、硬化後の未架橋浮遊状態の成分(A)分子の分子運動も、分子間の立体障害によって制限されるので、結果としてオイルブリードがより低減される。
本発明においては、qが100以上であることを必須の要件とする。qが100未満であると、本発明のpの範囲において、十分なオイルブリード低減の効果が得られない。一方の未硬化時の(A)成分の粘度については、総じて、qが大きくなると粘度は大きくなり、qが小さいと粘度が小さくなる。
本発明において、qのより好ましい範囲は、低ブリード性が十分に得られ、かつ取り扱いに適した粘度となる300〜3,000である。
【0023】
さらに、rは、加熱して(B)成分のケイ素結合水素原子と反応するためのアルケニル基の含有割合を表す。架橋してゲル硬化物を得るためには、分子内に最低2個のアルケニル基が必要であり、r=1では、反応後に架橋しないため、ゲル硬化物が得られない。そのため、rは2以上であることが必要である。
そして、0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0から外れると、本発明の主効果である低ブリード性のゲル状硬化物が得られない。
【0024】
(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンとして、具体的には、例えば、下記の一般式で表されるものが挙げられる。
【0025】
【化1】

【0026】
式中、p、q、rは、1≦p≦30、100≦q、2≦rであり、且つ0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0を満たす数である。
【0027】
(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、分子内に三官能または四官能のシロキサンを1個以上30個未満含む。また、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンと反応して熱伝導性シリコーンゲル硬化物を与えるためのアルケニル基を2個以上有する。
【0028】
また、本発明における(A)成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)については、好ましくは1,000〜100,000である。重量平均分子量(Mw)は、主鎖の長さ、側鎖の数及び側鎖の長さの構造要因に対応して決まる(A)成分の分子量の平均値であり、前記の構造要因によって、硬化後の三次元架橋網目の大きさと、硬化状態における未架橋浮遊(A)成分の分子運動の難易性が変化するので、その結果、低ブリード性と深く関係する。また、前記qの説明の通り、未硬化時の(A)成分の粘度にも関係する。具体的には、前記のp及びqの説明の通りである。
低ブリード性の観点からは、重量平均分子量(Mw)が1,000未満であると、十分な低ブリード性が得られず、一方、重量平均分子量(Mw)が100,000を超える場合には、pが小さい条件において、架橋網目構造が粗くなって、十分な低ブリード性が得られにくい。一方、未硬化時の粘度の観点からは、重量平均分子量(Mw)が1,000未満であると、未硬化(A)成分の粘度が低くなり、前記したように、熱伝導性フィラー(D)が硬化前に沈降し、均一組成の熱伝導性シリコーンゲル硬化物が製造できない、また、重量平均分子量(Mw)が100,000を超えると、組成物の粘度が高くなって、混合作業性が低下したり、熱伝導性フィラー(D)を必要十分な量配合できず、目的とする熱伝導特性が得られないという不具合を発生させる。
【0029】
(2)オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)
本発明に係る組成物は、(B)成分として、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを配合する。
上記(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に、下記一般式(2)で表される単位を有するものである。
一般式(2):
[RSiO(4−d−e)/2
(式中、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、dは1または2であり、eは1または2であって、2≦d+e≦3を満たし、sは2以上の数であり、但し、式(1)のcが1で、rが2の場合は、sは3以上である。)
【0030】
上記一般式(2)のRである炭素数1〜10の一価炭化水素基は、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基の直鎖のアルキル基や、1−メチルブチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基などの分岐のアルキル基、フェニルなどの芳香族単環炭化水素基などが挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル(CH−)基である。また、一般式(2)において、Rは、複数ある場合(d=2)、同一または異種であってもよい。
【0031】
また、一般式(2)において、dは1または2であり、eは1または2で、且つ2≦d+e≦3を満たす数であり、sは2以上の数であり、好ましくはdは1であり、eは1である。
【0032】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとして、具体的には、例えば、下記の一般式で表されるものが挙げられる。
【0033】
【化2】

【0034】
式中、x,yは、x≧0,y≧0,x+y=2の数であり、mとnは0<n≦250,0<m≦50,0<m+n≦250、m+y≧2を満たす整数である。
【0035】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内にケイ素原子結合水素原子を2個以上有する。但し、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサン中のアルケニル基の含有数が2個の場合、(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子結合水素原子の数は3個以上である。これらのケイ素原子結合水素原子の位置は、オルガノポリシロキサンの末端、側鎖のどちらでもよい。
【0036】
(3)付加反応触媒(C)
本発明において、付加反応触媒(C)は、(A)成分中のケイ素原子に結合するアルケニル基と、(B)成分中のケイ素原子に結合する水素原子との付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進するものとして知られているいかなる触媒でもよい。通常、白金族金属系触媒が用いられ、例えば、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、塩化白金酸−2−エチルヘキサノール溶液等の白金系触媒、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、パラジウム黒とトリフェニルホスフィンとの混合物等のパラジウム系触媒、ロジウム触媒等が挙げられる。中でも塩化白金酸−2−エチルヘキサノール溶液が好ましい。
【0037】
これらの触媒の配合量は、いわゆる触媒量でよい。通常、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、0.1〜100ppm(触媒金属元素換算)の範囲である。
【0038】
(4)熱伝導性フィラー(D)
本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物には、熱伝導性のために、熱伝導性フィラー(D)が用いられる。
熱伝導性フィラー(D)は、熱伝導性充填剤とも言われ、金属、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、炭化物など、公知のものを一種又は二種以上を混合して使用できる。例えば、シリカ(石英)、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、マグネシア、亜鉛華、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、雲母、フェライト、黒鉛、グラファイト、カーボンナノチューブ、カーボンマイクロコイルなどが挙げられる。中でも、シリコーンゲルやゴムに対する分散性がよく、安価で環境負荷が少ない観点から、水酸化アルミニウムやアルミナが好ましい。また、これらの熱伝導性フィラーは、必要に応じてシランカップリング剤などで表面処理をしてもよい。
【0039】
また、(D)成分の平均粒径は、100μm以下、好ましくは0.1〜80μmである。平均粒径が100μmを超えると、放熱材の安定性が悪化し易い。平均粒径は、例えばレーザー光回折法で求めることができる。(D)成分の形状は、球状、不定形状のいずれでもよい。
さらに、本発明で使用する熱伝導性フィラー(D)は、目的とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物の熱伝導特性に応じて、選択することができる。例えば、熱伝導率を高くするのであれば、金属系や窒化物系のフィラーが、逆に、高熱伝導率を望まない場合やコスト低減する場合においては、アルミナや水酸化アルミニウム等のフィラーが選択される。水酸化アルミニウムの場合には、難燃性付与効果もある。
【0040】
(5)各成分の含有割合
本発明に係る組成物において、(B)成分の配合量は、(A)成分のケイ素原子に結合したアルケニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が0.1〜1.5個、好ましくは0.2〜1.2個となる量である。0.1個未満であると、架橋度合が不十分となるため、(A)〜(D)成分を加熱混練しても、付加反応硬化型シリコーンゲル硬化物が得られ難い。一方、1.5個を超えると、所望の針入度(20〜200)の付加反応硬化型シリコーンゲル硬化物が得られ難く、さらに、この付加反応硬化型シリコーンゲルの物性が経時で変化しやすい。
また、(C)成分の配合量は、前記したように、通常、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、0.1〜100ppm(触媒金属元素換算)の範囲である。
さらに、(D)成分の配合量は組成物全量基準で、50〜90重量%である。また、(A)成分〜(C)成分の合計100重量部に対して、好ましくは500〜900重量部(83〜90重量%)、より好ましくは600〜800重量部(86〜89重量%)である。配合量が500重量部未満であると、所望の熱伝導特性(放熱特性)が得られにくい。一方、900重量部を超えると、未硬化物の粘度が著しく高くなり作業性の低下を招く。
【0041】
(6)その他の配合剤
本発明に係る組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲において、必要に応じて、前記の成分以外にも、硬化性シリコーン組成物に従来添加することが知られている添加剤を添加してよい。例えば、そのような添加剤として、アセチレンアルコール化合物等の硬化反応制御剤、炭酸マンガン、カーボンブラック等の難燃性付与剤、染料、顔料等の着色剤、耐熱安定剤、耐油安定剤等が挙げられる。
【0042】
尚、本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物を得るためには、本発明に係る組成物において、上記(A)〜(D)成分の混合、真空脱泡、注型等の工程中に、組成物が硬化に至らない一定の作業可使時間が必要である。この作業可使時間を、通常「ポットライフ」と言い、ポットライフが長いほど、組成物の粘度上昇が低く作業性が良い。ポットライフの一評価方法として、組成物の粘度が2倍になる時間、すなわち倍粘度時間が用いられる。
そこで、(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンを含有する、本発明に係る組成物のポットライフを、従来の直鎖型オルガノポリシロキサンからなる熱伝導性シリコーン組成物のものと比較したところ、後述するように、予想し得るものでない驚くべき実験結果が得られている。
すなわち、25℃における倍粘度時間を測定したところ、硬化反応抑制剤を含有しない本発明に係る組成物は、硬化反応抑制剤を含有する従来の直鎖型シリコーン組成物に比べて、ポットライフが約3倍長いという結果を得た。これは、本発明者によれば、本発明に係る組成物において、(A)成分である分岐型オルガノポリシロキサンには、分子内に複数のアルケニル基が含まれており、そのアルケニル基のπ電子が触媒の白金原子に配位し、硬化抑制剤と同様の作用を示した結果と、考察されている。
したがって、付加硬化反応系の直鎖型シリコーン組成物に従来使用されていた硬化反応抑制剤または硬化反応制御剤は、本発明においては、必ずしも添加する必要ないという利点もある。
【0043】
2.低ブリード性の熱伝導性シリコーンゲル硬化物
(1)製造方法
本発明の低ブリード性の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、上記の組成物を熱硬化してなるものである。
本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物の製造方法としては、特に限定されないが、通常、組成物を構成する(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンと(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとを原料とし、両者を(C)成分の付加反応触媒の存在下でハイドロシリル化反応(付加反応)させることにより得られる。また、(D)成分の熱伝導性フィラーは、予め原料中に配合されても良いし、反応途中で配合してもよい。
具体的には、本発明に係る(A)〜(D)成分を、所定量計量後、ハンドミキサーやケミカルミキサーを用いて均一になるまで混合し、真空脱泡後、所定の型へ注型し、70℃以上で加熱することにより、本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物を得ることができる。
【0044】
また、本発明で用いられる(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンには、環状4量体〜10量体のいわゆる低分子量シロキサン成分が含有されている場合がある。これらは、電子部品や基板における電気接点障害の原因となり得る物質として、知られており、本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物を電気・電子用途で使用する場合には、これら低分子量シロキサン成分を蒸留や溶媒抽出法により、除去しておくことが望ましい。
【0045】
(2)特性、用途
上記の製造方法で得られた熱伝導性シリコーンゲル硬化物の硬度は、SRIS 0101規格のアスカーC硬度が0〜30であるか、またはJIS K2207「石油アスファルト」に準拠した針入度(25℃)が20〜200、または稠度が50〜100(JISK2220 1/4コーン)であることが望ましい。
また、本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物の熱伝導性としては、(D)成分の熱伝導性フィラーの配合量に関連するが、JIS R2616に準拠したプローブ法で測定した熱伝導率が0.5〜10.0W/mKの範囲であることが望ましい。
【0046】
本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、熱伝導性が良好で、低ブリード性に優れるため、発熱性電子部品と放熱体との間に介在される熱伝導性材料や放熱材料として、好適に用いられ、特に、放熱シートや熱伝導性シートなどのシート状の形態で用いられる。なお、本発明におけるシート状とは、特に厚みに限定は無く、薄膜状のフィルムの概念も含むものである。
例えば、本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物からなる熱伝導性シートは、熱伝導性が良好で、通常、オイルブリードが発生しやすい低架橋(低硬度)の様態であっても、従来品に比べて、低ブリード性を有するから、家電製品やコンピュータ機器等の放熱用シートとして好適であり、ICチップ等の半導体部品の表面とヒートシンクやヒートパイプ等の放熱部品の接合空隙を埋めるように挟設して用いられて、動作状態の半導体部品の発熱を放熱部材品に効率よく熱伝達するので、発熱による半導体部品の誤動作や故障を改善できる。その結果、電子・電気機器の信頼性を向上させることができる。
【0047】
また、本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、無荷重時に、自己保形性を有するグリース状であってもよい。例えば、光ピックアップ装置や光記録再生装置のダンピング材として、用いる場合には、ダンピング材の形状保持性(自己保形性)に寄与するものである。ここで、「自己保形性」という用語は、たとえ傾斜状態のような軽微な負荷を加えた状態或いは無荷重の状態で保持しておいても、そのままの形状を保つことができることを意味するものである。また、ここでいうグリース状とは、付加型硬化反応による架橋が起こっていることを要件としており、従来のグリースとは異なるものである。このグリース状の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、稠度が50〜100(JIS K2220 1/4コーン)であることが望ましい。グリース状の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、従来の公知の使い方が可能であるが、シリンジに封入して硬化させて、使用時にシリンジから押し出す使い方が、取扱い性の観点から好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に特に限定されるものではない。
尚、得られた分岐型オルガノポリシロキサン、シリコーンゲルなどの物性などは、以下の評価法により、評価した。
(1)粘度:
マルコム製粘度計「PC−1TL」(ロータータイプB、回転数40rpm、試料温度25℃±1℃)で測定した。
(2)分子量分布:
Shodex製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン換算値を算出した。
(3)ビニル基および水分含有率:
ヨウ素滴定法により測定した。
(4)シリコーンゲル硬度:
JIS K2207「石油アスファルト」に準拠した針入度測定法で求めた。
(5)熱伝導率:
JIS R2616に準拠したプローブ法で測定した。測定器は、京都電子工業社製の熱伝導率計QTM−500(プローブ:PD−11)を用い、試料は、60mm×120mm×厚さ10mmとした。
【0049】
[実施例1]
(1)分岐型オルガノポリシロキサン(分子量6万、分岐数3の分岐型ポリビニルシロキサン)の作製:
還流管付き水分分留管、温度計、撹拌器を備えた3Lの四口フラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン1477g、メチルトリエトキシシラン13.3g、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン11.6g、50重量%水酸化カリウム水溶液9.2g、及びトルエン169gを入れた。水分分留管には、別途トルエン30mLを満たし、加熱、撹拌を開始した。反応液の温度が130〜140℃で共沸脱水し、水の流出がなくなってから、さらに2時間撹拌しながら還流し平衡重合反応を行った。
反応は、ポリスチレン換算のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でサンプリング液の分子量分布に変化がなくなった時点を終点とした。反応液を50℃まで冷却後、酢酸5.8gを加えて、30分間撹拌し、アルカリ触媒を中和した。塩を加水分解後、水500gを入れて5分間撹拌、静置、分液の操作を3回繰り返し、水層のpHが中性であることを確認した。50〜130℃/2.6〜5.2kPaで蒸留により有機層からトルエンを留去、次いで130〜200℃/0.7〜2.2kPaで低分子量シロキサンを留去し、目的のポリオルガノシロキサン1277gを得た。その構造式を以下に示す。
その収率は82%で、粘度(25℃)が899mPa・s、重量平均分子量が44000、ビニル基含有量が0.33%(理論値0.23%)であった。
【0050】
【化3】

【0051】
(2)組成物とシリコーンゲル硬化物の調製:
上記で作製した分岐型のポリオルガノシロキサン104g、ポリハイドロジェンシロキサン(信越化学工業(株)製「KF−99」(水素含有率3.1%))0.84g、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製「HS−341」)502g、顔料(GE東芝シリコーン(株)製「ME50−M」)2.1g、および白金触媒(エヌ・イー ケムキャット(株)製「Pt−VTS」1重量%溶液)0.2gを、10分間ハンドミキサーで混合し、25℃/1kPaで10分間脱泡した。所定の金型に注型し、オーブンに入れ70℃/1時間、100℃/3時間で加熱硬化し、シリコーン硬化物700gを得た。
その硬度(針入度)が100で、熱伝導率が1.0W/mKであった。
【0052】
[実施例2〜4]
(1)分岐型オルガノポリシロキサンの作製:
原料の使用量が異なる他は、実施例1と同様にして、分岐数が5〜15のポリオルガノシロキサンを合成した結果を、表1に示す。
【0053】
(2)組成物とシリコーンゲル硬化物の調製:
例えば、実施例2では、上記で作製したポリオルガノシロキサン103g、ポリハイドロジェンシロキサン(信越化学工業(株)製「KF−99」(水素含有率0.31%))1.4g、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製「HS−341」)502g、顔料(GE東芝シリコーン(株)製「ME50−M」)2.1g、および白金触媒(エヌ・イー ケムキャット(株)製「Pt−VTS」1重量%溶液)0.2gを、10分間ハンドミキサーで混合し、25℃/1kPaで10分間脱泡した。所定の金型に注型し、オーブンに入れ70℃/1時間、100℃/3時間で加熱硬化し、シリコーン硬化物700gを得た。
その硬度(針入度)が95で、熱伝導率が1.0W/mKであった。
また、各実施例で得た熱伝導ゲル硬化物の硬度(針入度)と熱伝導率の測定結果を、表2に示す。
【0054】
[比較例1]
(1)組成物とシリコーンゲル硬化物の調製:
直鎖構造の二液加熱硬化型シリコーン組成物(東レ・ダウコーニング(株)製「SE4445CV A/B」)のA液52g、B液52gと、水酸化アルミニウム(昭和電工(株)製「HS−341」)502g、および顔料(GE東芝シリコーン(株)製「ME50−M」)2.1gを、10分間ハンドミキサーで混合し、25℃/1kPaで10分間脱泡した。所定の金型に注型し、オーブンに入れ70℃/1時間、100℃/3時間で加熱硬化し、シリコーン硬化物700gを得た。
その硬度(針入度)が80で、熱伝導率が1.0W/mKであった。その評価結果も、表2に示す。
【0055】
(性能評価):
実施例1〜4および比較例1で作製したシリコーンゲル硬化物から、熱伝導性ゲルシートを作製し、次の評価方法で(i)オイルブリード性と(ii)ポットライフの性能を測定した。その評価結果を表1に示す。
【0056】
(i)オイルブリード性:
オイルブリード性の評価は、実施例1〜4及び比較例1で得たゲルシートを13×13×3mmにカットしたサンプルを3個用意して、図1に示す装置を用いて、17%圧縮し、ゲル表面の温度が45〜80℃となるように、セットした。
ゲルシート表面にブリードしたオイルを除去したときのゲルシートの質量について、経時的に測定し、サンプル3個の質量変化の平均値をゲルシートから流出したオイル量(オイルブリード量)とした。その評価結果を図2に示す。
図2によれば、時間経過と共に、分岐数が多いシリコーン硬化物程、総じてゲルの質量減が少なかった、すなわちオイルブリード量が少なかったが、特に分岐数10近傍でオイルブリード量が著しく小さくなった。具体的には、1000時間経過時点で、実施例3の熱伝導ゲルシートの質量減少率は、比較例1の約20%であり、約80%ものブリード量の低下が実現できた。
このことから、分岐型オルガノポリシロキサンを用いた組成物を硬化して得られる熱伝導性ゲルシートのオイルブリード量は、従来の直鎖型オルガノポリシロキサンを用いた熱伝導性ゲルシートより、著しく低減できることが確認できた。
さらに、実施例1〜4は、比較例よりも低硬度であるにもかかわらず、オイルブリード量が著しく小さく、従来の低硬度品では成しえなかった低硬度低ブリード性能を実現した。
【0057】
(ii)ポットライフ:
実施例3および比較例1でのシリコーン硬化物の作製の際に、原料混合時のハンドリング性について、ポットライフを測定、評価した。その評価結果を図3に示す。
図3によれば、初期の粘度は、実施例3の分岐型の方が低く、また、粘度が2倍になる時間も、実施例3の分岐型の方が比較例1の直鎖型に比べて、約3倍長く、ハンドリング性に優れていた。なお、実施例1、実施例2、実施例4も、ポットライフの特性は、実施例3と同じなので、図3への記載は割愛した。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の低ブリード性の熱伝導性シリコーンゲル硬化物は、熱伝導性が良好で、低ブリード性に優れるから、パワートランジスタ、パワーモジュール、サイリスタ、整流器、トランス等の発熱性の電気・電子部品ばかりでなく、広範囲の用途に、好適に用いることができ、特に、低硬度の放熱材が要求される用途において、その効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明に係るオイルブリード性の評価方法を説明する模式図(側面図)である。
【図2】本発明の熱伝導性シリコーンゲル硬化物からなる熱伝導性シートのオイルブリード性の評価結果を示す図である。
【図3】本発明に係る組成物のポットライフの評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
101 冷却ファン
102 アルミ板
103 アルミ板
104 テフロン(登録商標)シート
105 テフロン(登録商標)シート
106 スペーサー
107 スペーサー
108 ホットプレート
110 温度センサー
120 温度センサー
201 試験試料
202 試験試料
203 試験試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分岐型オルガノポリシロキサン、(B)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)付加反応触媒および(D)熱伝導性フィラーを含有する組成物を熱硬化してなる熱伝導性シリコーンゲル硬化物であって、
(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、下記一般式(1)で表され、かつ25℃における粘度が10〜100,000mPa・sであり、及び
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、分子内に、下記一般式(2)で表される単位を有することを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
一般式(1):
[RSiO(4−a)/2[RSiO2/2[RSiO(4−b−c)/2
(式中、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、Rは、同一または異種の炭素数2〜10のアルケニル基であり、aは0または1であり、bは0〜2の整数であり、cは1〜3の整数であって、2≦b+c≦3を満たし、p、q、rは、1≦p≦30、100≦q、2≦rであり、且つ、0.1≦[100×p/(p+q+r)]≦5.0を満たす。)
一般式(2):
[RSiO(4−d−e)/2
(式中、Rは、同一または異種の炭素数1〜10の一価炭化水素基であり、dは1または2であり、eは1または2であって、2≦d+e≦3を満たし、sは2以上の数であり、但し、式(1)のcが1で、rが2の場合は、sは3以上である。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、pが3〜20であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
【請求項3】
(A)成分の分岐型オルガノポリシロキサンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が1,000〜100,000であり、及び
(C)成分の付加反応触媒がヒドロシリル化反応触媒であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
【請求項4】
形状がシート状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゲル硬化物。
【請求項5】
無荷重時に、自己保形性を有するグリース状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性シリコーンゲル硬化物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−120979(P2010−120979A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293018(P2008−293018)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(306026980)株式会社タイカ (62)
【Fターム(参考)】