説明

熱伝導性樹脂組成物及びそれによる成形体

【課題】窒化ホウ素粉体の高い濃度において成形することが可能な新規な熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】窒化ホウ素粉体と樹脂とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、窒化ホウ素粉体に、窒化ホウ素粉体との混合物の貯蔵弾性率と、窒化ホウ素粉体以外の前記混合物中の成分の粘性率と、前記混合物における窒化ホウ素粉体の体積分率と、から求められる、特定の範囲における特定のパラメータPが0.22以下となる窒化ホウ素粉体を70〜95質量%の含有量で用い、この熱伝導性樹枝組成物から成形体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素粉体を含有する熱伝導性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子装置からの熱の除去は、特にパーソナルコンピュータにおいて重要である。このような装置で発生する熱の除去には、熱伝導性の高い放熱材が用いられる。このような放熱材には、一般に、熱伝導性粒子を分散させた樹脂組成物の成形体が用いられる。電子装置に用いられる放熱材には、一般に高い熱伝導性と絶縁性とが求められる。
【0003】
前記成形体を形成するための熱伝導性樹脂組成物は、一般に、熱伝導性粒子と樹脂とから構成される。このような熱伝導性樹脂組成物において、成形体における高い熱伝導性は、熱伝導性粒子を多量に配合することによって得られるが、一方で熱伝導性粒子の多量の配合は、熱伝導性樹脂組成物の流動性を損ない、成形の不具合による生産性の低下や組成の不均一性をもたらすことがある。このように、熱伝導性樹脂組成物には、高い熱伝導性や、絶縁性等の成形体として所望される他の物性の他に、例えば成形性の低下の抑制や材料の入手の容易さ等の生産性に係る要素も求められている。従来より知られている熱伝導性樹脂組成物には、前記の問題について、検討の余地が残されている。
【0004】
このような熱伝導性樹脂組成物としては、例えば、酸化亜鉛、酸化アルミ、アルミニウム等の熱伝導性粒子を含有する熱伝導性シリコーン樹脂組成物であって、例えば熱伝導性粒子の含有量が窒化ホウ素粉体の含有量が92質量%である樹脂組成物であって、熱伝導率が約5W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また前記熱伝導性樹脂組成物としては、例えば、10〜35体積%の炭素繊維と窒化ホウ素粉体を1〜20体積%含有する樹脂組成物であって、その成形体の熱伝導率が約2〜4W/(m・K)であり、体積抵抗率が102〜109Ω・cmである樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また前記熱伝導性樹脂組成物としては、例えば、表面積、粒度、タップ密度等の粒子特性の異なる二種の混合窒化ホウ素粉体を含有する樹脂組成物であって、例えば窒化ホウ素粉体の含有量が40体積%である樹脂組成物による成形体の熱伝導率が2〜13W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
また前記熱伝導性樹脂組成物としては、例えば、平均粒径225μmのフレーク状結晶の凝集粒子である特殊な窒化ホウ素粉体を含有するポオリベンゾオキサジン組成物であって、例えば窒化ホウ素粉体の含有量が78.5体積%(88.0質量%)である樹脂組成物による成形体の熱伝導率が32.5W/(m・K)である樹脂組成物が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−221310号公報
【特許文献2】特開2008−266586号公報
【特許文献3】特表2010−505729号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Thermochimica Acta 320(1998) 177−186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、窒化ホウ素粉体の高い濃度において成形することが可能な新規な熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、樹脂組成物の貯蔵弾性率、樹脂成分の粘性率、及び窒化ホウ素粉体の含有量から求められる特定のパラメータが一定の値を下回る場合に、そのような条件の熱伝導性樹脂組成物が、窒化ホウ素粉体の含有量が高くても、従来になく低い粘度を示すことを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち本発明は、窒化ホウ素粉体と樹脂とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、窒化ホウ素粉体と樹脂から求められる、下記式で表されるパラメータPが0.22以下であり、窒化ホウ素粉体の含有量が70〜95質量%である熱伝導性樹脂組成物を提供する。
P=Δlog(G’/ηm)/Δφ
【0013】
前記式中、G’は、窒化ホウ素粉体と樹脂からなる混合物の、角周波数1rad/sにおける貯蔵弾性率[Pa]を表し、ηmは、前記樹脂の粘性率[Pa・s]を表し、φは、前記混合物における窒化ホウ素粉体の体積分率[%]を表す。ただし、log(G’/ηm)は1以下であり、かつG’及びηmの測定値から求められるlog(G’/ηm)の値が2デカード以上離れている二点を含む。
【0014】
また本発明は、窒化ホウ素粉体の全細孔容積が0.80cm3/g以下であり、窒化ホウ素粉体のバルク密度が0.70g/cm3以上であり、窒化ホウ素粉体の粒度分布における歪度が−1.0以上1.0以下である前記の熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【0015】
また本発明は、前記樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂である前記の熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【0016】
また本発明は、前記の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、前記パラメータPが0.22以下である窒化ホウ素粉体及び樹脂を用いることから、窒化ホウ素粉体の含有量がより高く成形可能な熱伝導性組成物、及びそれによる高い熱伝導率を有する成形体を得ることができる。
【0018】
また本発明は、窒化ホウ素粉体の全細孔容積、バルク密度、及び粒度分布における歪度を適度な範囲にさらにコントロールすることが、高含有量における成形性と高熱伝導率とのバランスに優れた熱伝導性樹脂組成物及び成形物を得る観点からより一層効果的である。
【0019】
また本発明では、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが、可撓性や絶縁性を有する成形体を形成し、成形体の汎用性を高める観点からより一層効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、窒化ホウ素粉体と樹脂とを含有する。
【0021】
本発明において、窒化ホウ素粉体と樹脂から求められる、下記式で表されるパラメータPが0.22以下である。
P=Δlog(G’/ηm)/Δφ
【0022】
前記式中、G’は、窒化ホウ素粉体と樹脂からなる混合物の、角周波数1rad/sにおける貯蔵弾性率[Pa]を表し、ηmは、前記樹脂の粘性率[Pa・s]を表し、φは、前記混合物における窒化ホウ素粉体の体積分率[%]を表す。ただし前記式において、log(G’/ηm)は、動的粘弾性測定用のプレートと樹脂との間での滑りのない正しい測定値を得る観点から1以下であり、かつG’及びηmの測定値から求められるlog(G’/ηm)の値は、誤差が抑えられた信頼性の高いパラメータPの値を得る観点から、2デカード以上離れている二点を含む。すなわち、Pは、G’/ηm≦10において2デカード以上の範囲を含む測定領域における、G’/ηmの常用対数のφに対する勾配を意味する。
【0023】
パラメータP(以下、「P」とも言う)は、本発明者らが見出した、充填材と樹脂とからなる樹脂組成物の粘度(成形性)の指標を表すパラメータである。Pの値が小さいことは、樹脂組成物に充填材を多量に配合しても粘度の上昇が小さい、ということを示す。一方、Pの値が大きいことは、充填剤の含有量が少なくても高い粘度の樹脂組成物になることを示す。
【0024】
従来公知の窒化ホウ素粉体は、樹脂との混合物において、Pは0.22を超え0.60程度以下であり、Pが0.22以下の窒化ホウ素粉体はなかった。Pが0.40を超える場合は含有量を増やすに従い、粘度が急激に上昇し、80質量%を超える配合の樹脂組成物は得られにくく、また例え配合したとしても、粘度が著しく高いために成形プロセスに制約が生じるという問題点があった。また、0.22よりも大きく0.40以下のPを示す窒化ホウ素粉体も存在するが、熱伝導樹脂組成物の用途の拡大に伴って、より良い成形性が求められることとなり、高い含有量でもより低粘度である熱伝導性樹脂組成物が期待されていることから、成形性の観点から改良が求められることがある。
【0025】
Pは0.22以下であればよいが、より低粘度の樹脂組成物を得る観点から、0.20以下であることが好ましく、0.18以下であることがより好ましい。
【0026】
Pは、例えば、0.22より大きいPを示す窒化ホウ素粉体を出発原料として用い、全細孔容積、バルク密度、粒度分布における歪度を後述の特定の範囲にすることにより、0.22以下のPを示す窒化ホウ素粉体を得ることができる。
【0027】
例えば、全細孔容積、バルク密度、粒度分布における歪度の一部のみが後述の特定の範囲に含まれている窒化ホウ素粉体の、篩による篩い分けやサイクロンによる分級等の公知の分級操作や、篩い分け品や分級品の混合によって、0.22以下のPを示す窒化ホウ素粉体を得ることができる。
【0028】
又は、実質的に窒化ホウ素粉体の熱伝導性を低下させない公知の有機物質又は無機物質との反応による窒化ホウ素粉体の表面処理や造粒、又は焼成温度、雰囲気や添加助剤等の制御による公知の焼成技術や不純物の除去や吸着物の脱離等のための公知の熱処理技術や洗浄技術によって前記の各種パラメータを変化させることで、0.22以下のPを示す窒化ホウ素粉体を得ることができる。
【0029】
実施例では、市販品の篩い分けにより、特定の窒化ホウ素粉体を得る方法を用いているが、本発明の効果が得られる範囲であれば、任意の方法で0.22以下のPを示す窒化ホウ素粉体と樹脂とを含む樹脂組成物を得てもよい。
【0030】
Pは、窒化ホウ素粉体と樹脂からなる混合物の角周波数1rad/sにおける貯蔵弾性率G’と、前記樹脂の粘性率ηmとの測定結果から求めることができる。貯蔵弾性率G’は、log(G’/ηm)が1以下であり、かつG’及びηmの測定値から求められるlog(G’/ηm)の値が2デカード以上離れている二点を含むように、窒化ホウ素粉体の含有量(体積%)が異なる複数種の試料混合物のそれぞれを用いて測定する。前記混合物は、窒化ホウ素粉体と樹脂のみからなるが、この混合物と実質的に同じG’やηmの測定値が得られる範囲において、熱伝導性樹脂組成物に通常用いられる溶剤等の添加物をさらに含有していてもよい。貯蔵弾性率G’は、例えばティー・エー・インスツルメント社製 動的粘弾性測定装置ARESを用いて測定することができる。
【0031】
また、粘性率ηmは、前記混合物から窒化ホウ素粉体が除かれた成分、すなわち前記樹脂から測定される。前記混合物が添加物を含有し、かつ窒化ホウ素粉体と樹脂のみからなる混合物と実質的に同じG’やηmの測定値が得られる場合では、この残存成分には、溶剤等の添加物が含まれていてもよい。粘性率ηmの測定温度は、室温(25℃)であることが好ましい。粘性率ηmは、樹脂の粘性率の測定に用いられる通常の測定装置を用いて求めることができる。
【0032】
粘性率ηmは、0.1Pa・s以上1.0Pa・s以下であることが、熱伝導性樹脂組成物の十分な流動性を得る観点から好ましい。
【0033】
Pは、前記混合物における窒化ホウ素粉体の体積%に対する、前記貯蔵弾性率G’と粘性率ηmの測定値の常用対数log(G’/ηm)の増分として、log(G’/ηm)が1以下でかつ2デカード以上の範囲の複数の値から、例えば最小二乗法によって求めることができる。
【0034】
窒化ホウ素粉体の含有量は、70〜95質量%である。窒化ホウ素粉体の含有量が70質量%未満では、熱伝導性樹脂組成物による成形体の熱伝導率が所望の値よりも小さくなることがある。窒化ホウ素粉体の含有量が95質量%を超えると、熱伝導性樹脂組成物の成形性が低下し、均一な成形体が得られないことがある。窒化ホウ素粉体の含有量は、成形体における熱伝導率を高める観点から、74質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明において、窒化ホウ素粉体は、Pで示される特性以外の他の特性を有していてもよい。このような他の特性としては、例えば全細孔容積、バルク密度、及び粒度分布における歪度が挙げられる。
【0036】
窒化ホウ素粉体は、全細孔容積(以下、「Vp」とも言う)が0.80cm3/g以下であることが好ましい。Vpが0.80cm3/g以下であることは、熱伝導性樹脂組成物において窒化ホウ素粉体の内部に浸透して消費される樹脂の量を少なくし、熱伝導性樹脂組成物において樹脂で構成される実質的なバインダ層の体積を大きくし、熱伝導性樹脂組成物の粘度を低下させ、成形性を向上させる観点から好ましい。
【0037】
Vpが0.80cm3/gより大きい場合、窒化ホウ素粉体と樹脂を含む樹脂組成物を製造するときに、フィラー内部に浸透し、消費される樹脂量が多くなるため、樹脂で構成される実質的なバインダ層の体積が小さくなり、樹脂組成物の粘度が上昇し、成形しにくくなるか、又は全く成形できなくなる等の、成形性が損なわれることがある。
【0038】
Vpは、より低粘度の熱伝導性樹脂組成物を得る観点から、0.70cm3/g以下であることがより好ましく、0.50cm3/g以下であることがさらに好ましい。
【0039】
Vpは、例えば、Vpが0.80cm3/gを超える窒化ホウ素粉体にVpが小さな窒化ホウ素粉体を混合する方法や、Vpが0.80cm3/gを超える窒化ホウ素粉体を従来公知の方法で焼成や粒成長させることにより調整することができる。前記焼成や粒成長は従来公知の条件(温度、雰囲気、助剤)を用いることができる。
【0040】
Vpは、粉体の全細孔容積を測定する通常の装置や方法を用いて測定することができ、例えば、マイクロメリテックス社製 オートポアIV 9520型を用い、室温で試料を減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理をした後、水銀圧入退出曲線を測定して、ポアサイズ10nm〜500μmの全細孔容積として求めることができる。
【0041】
窒化ホウ素粉体は、バルク密度(以下、「ρb」とも言う)が0.70g/cm3以上であることが好ましい。ρbが大きい窒化ホウ素粉体は、窒化ホウ素粉体単体のみを考えた場合、同じ空間体積において窒化ホウ素粉体単体が占める割合が大きい(空隙の割合が小さい)こととなる。つまり、ρbが大きいほど最大充填量が多くなる。ある充填量において、その充填量を最大充填量で除した値が小さいものほど熱伝導性樹脂組成物の粘度が小さく、成形性が向上する。ρbを0.70g/cm3以上とすることは、窒化ホウ素粉体の含有量を多くしても熱伝導性樹脂組成物の粘度が上昇せず、高い熱伝導性のまま、成形性を改良する観点から好ましい。
【0042】
ρbが0.70g/cm3より小さいと、窒化ホウ素粉体の含有量を大きくしにくく、また窒化ホウ素粉体のハンドリング性が低下することがある。ρbは、窒化ホウ素粉体の含有量をより大きくする観点から、0.80g/cm3以上であることがより好ましい。
【0043】
ρbは、例えば、ρbが0.70g/cm3未満の窒化ホウ素粉体にρbの大きい窒化ホウ素粉体を混合する方法や、大きな粒子によってできる間隙を埋めるようなサイズの小さい粒径の窒化ホウ素粉体を混合する方法によって調整することができる。
【0044】
ρbは、粉体のバルク密度を測定する通常の装置や方法を用いて求めることができ、例えば、マイクロメリテックス社製 オートポアIV 9520型を用い、予め容積を測定した専用セルに精秤した粉体試料を入れ、セルごとの質量を測定し、このセルを、減圧下(50μmHg以下)、室温で10分間減圧処理し、処理したセルに水銀を導入し、水銀導入後のセルを秤量し、導入された水銀の質量から水銀の容量を算出し、予め求めたセルの容量からこの水銀容量を差し引いて粉体試料の容量を算出し、この容量で粉体試料の質量を除することによって求めることができる。
【0045】
窒化ホウ素粉体は、粒度分布における歪度(以下、「Sk」とも言う)が−1.0以上1.0以下であることが好ましい。Skが−1.0以上1.0以下であることは、熱伝導性樹脂組成物における窒化ホウ素粉体の高い含有量と優れた成形性との両方を得る観点から好ましい。その理由としては、Skを−1.0以上1.0以下とすることにより、全粉体のうち大きな粒径に偏った部分が成形体における主たる熱の通り道(熱伝導パス)を形成し、それ以外の部分が副たる熱伝導パスを効果的に形成して、全体として熱伝導パスが広い範囲に発達するため、と考えられる。さらに、Skが−1.0以上1.0以下である窒化ホウ素粉体は、そうでない窒化ホウ素粉体に比べ、窒化ホウ素粉体と樹脂との混合時の粘度が比較的低く、前記の効果的な熱伝導パスがさらに容易に形成されると考えられる。
【0046】
Skは、成形体における熱伝導率の向上と熱伝導性樹脂組成物の成形性との両立の観点から、−1.0以上0.8以下であることがより好ましく、−0.8以上0.5以下であることがさらに好ましい。
【0047】
Skは、例えば、Skが−1.0未満又は1.0を超える粉体を篩い分けして歪度が−1.0以上1.0以下の粉体を得る方法、Skが−1.0未満又は1.0を超える粉体を篩い分けして分級し、その二つ以上を選別して混合して調整する方法、Skが−1.0未満又は1.0を超える二種以上の粒子を公知の造粒剤を用いて造粒してSkが−1.0以上1.0以下となるように造粒する方法、Skが−1.0未満の粉体(焼結体であってもよい)を公知の粉砕方法で適当な時間(適度に)粉砕して−1.0以上1.0以下となるように調整する方法、によって調整することができる。
【0048】
Skの調整方法について、さらに詳しく説明する。
Skは粒度分布曲線から計算される分布の偏りを示すパラメータであり、対数正規分布ではSk=0であり、左(粒径の小さい方)に裾を引けば引くほど、Skは、符号は負で絶対値が大きくなり、右(粒径の大きい方)に裾を引けば引くほど、Skは、符号は正で絶対値が大きくなる量である。
【0049】
ここで、一種の粉体を篩い分けして、目的とするSkにする方法としては、篩い分けする前のもとの粒度分布を適当な方法で測定して求め、篩い分けする区間(例えば、150μm以上とか、50〜300μmとか、100μm以下とか)で正確に分離されたと仮定したときの粒度分布を想定し、Skを計算し、それが目的の範囲になるように篩い分けの区間を決める。但し、入手が可能な篩は限定されるので、篩い分けする粉体には、入手可能な篩の区間に応じたSkで規定の範囲に入る粉体を選択する。
【0050】
こうして選択した篩で篩い分けした粉体は、実際にその粒度分布を測定し、そのSkを計算して、規定の範囲に入っていることを確認する。
【0051】
一種の粉体を篩い分けして、その二区間以上を選別して混合する場合も、上記と同様である。
【0052】
二種以上のSkの異なる粉体を混合する場合は、それぞれの粉体の粒度分布を仮に設定した混合比に応じて足し合わせ、新たな粒度分布を形成させ、そのSkを計算する。Skが規定した範囲になるよう、混合比を変えて試行錯誤を繰り返すか、又は自動計算により、最適な混合比を求める。こうして求めた混合比で粉体を混合し、実際にその粒度分布を測定し、そのSkを計算して、規定の範囲に入っていることを確認する。
【0053】
また、調整前の粉体のSkが負の大きな値であれば、粒径の小さい側に極端に裾を引いているということになるので、造粒によって小さい粒子を凝集させて、Skを大きい側に移動させることができる。どのような造粒条件を用いれば、Skが規定の範囲となるかについては、個々に明示することはできないが、造粒後のSkの確認や、造粒に関する当業者の知見に基づいて、また造粒物と上記の篩い分けや混合を利用することによって、Skを所望の範囲に収めることができる。
【0054】
さらに、調整前の粉体が焼結体のような大きな粒子である場合、粉砕によって小さな粒子が徐々に生成し、粒度分布が粒径の小さい方に裾を引いてくることになるので、例えば一定の時間ごとにサンプリングしてSkを測定すれば、規定のSkの粉体を得ることができる。
【0055】
Skは、粉体の歪度を測定する通常の装置や方法を用いて求めることができ、例えば、Malvern社製 乾式粒子画像分析装置モルフォロギG3Sを用い、粉体の画像データを二値化処理することによって、個々の粒子の円相当径を測定し、以下の式より求めることができる。
Sk=Σ(LogXi−LogXm)3/(N・σ3
Xm=Σ(Xi)/N
σ2=Σ(LogXi−LogXm)2/N
ここで、Xiは粒子iの円相当径、Xmは粒子の個数平均径、σは標準偏差、Nは全粒子数を表す。
【0056】
窒化ホウ素粉体の物性を調整する場合には、出発粉体の選択において、全細孔容積やバルク密度が前述の好ましい範囲内であるか、又はそれに近接する粉体を選ぶことが好ましい。出発粉体がこのような条件から外れる場合は、篩い分けされた粉体が前記の好ましい範囲内に入らない可能性があるが、全細孔容積やバルク密度が前記の好ましい範囲に入らない粉体であっても、調整後の粉体を実測し、必要に応じて適宜な操作を行うことによって、全細孔容積やバルク密度を前記の好ましい範囲に調整することが可能である。
【0057】
このように本発明では、特殊な製法や処理法による窒化ホウ素粉体を使用しなくても、通常使用される窒化ホウ素粉体を適宜に分級、混合して使用するだけで、高配合でも成形性がそこなわれない熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0058】
樹脂には、放熱材等の熱伝導性樹脂組成物による成形体に一般に用いられる樹脂成分やゴム成分を用いることができる。樹脂は一種でも二種以上でもよい。
【0059】
樹脂成分としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルアミドイミド樹脂、ポリエーテルアミド樹脂及びポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。また、それらのブロック共重合体、グラフト共重合体等の共重合体も含まれる。熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、シリコーン樹脂、及びフェノール樹脂が挙げられる。
【0060】
ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体ゴム、イソブチレン−イソプレン共重合体ゴム、クロロプレンゴム、シリコンゴム、フッソゴム、クロロ・スルホン化ポリエチレン、及びポリウレタンゴムが挙げられる。
【0061】
樹脂は、成形体の耐熱性の観点から、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂におけるJIS K 7236により求められるエポキシ当量は、工業的に入手しやすい観点から、50〜20,000g/当量であることが好ましく、100〜18,000g/当量であることがより好ましい。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂が挙げられる。また、エポキシ樹脂は二種類以上を混合して用いてもよく、このような場合は、混合物のエポキシ当量が上記範囲であればよい。樹脂は、各種変性剤による変性自由度が高く、効果収縮が小さく寸法安定性に優れる、金属や磁器等に対する接着力が高い、機械的強度が高い、電気絶縁性に優れる、耐熱性に優れる、耐摩耗性に優れる、耐薬品性、耐水性、耐湿性に優れる、可撓性に優れている等の特長を有する成形体を形成する観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0062】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、さらなる成分を含有していてもよい。このようなさらなる成分としては、例えば、液晶性エポキシ樹脂等の、前記の樹脂に機能性を付与した機能性樹脂、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、繊維状窒化ホウ素等の窒化物粒子、アルミナ、繊維状アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、酸化チタン等の絶縁性金属酸化物、ダイヤモンド、フラーレン等の絶縁性炭素成分、樹脂硬化剤、樹脂硬化促進剤、及び溶剤が挙げられる。
【0063】
機能性樹脂は、熱伝導性樹脂組成物や成形体における機能性の発現の観点から、5〜25質量%の含有量で用いられる。窒化物粒子は、成形性と熱伝導性のバランスの観点から、10〜50質量%の含有量で用いられる。前記下限未満では樹脂組成物の熱伝導性が低くなる傾向があり、前記上限値を超えると成形性が悪くなる傾向がある。絶縁性金属酸化物は、成形性と熱伝導性のバランスの観点及び比重の観点から、10〜50質量%の含有量で用いられる。前記上限値を超えると成形性が悪くなる傾向があり、また比重が大きくなる傾向がある。絶縁性炭素成分は、成形性と熱伝導性のバランスの観点から、10〜50質量%の含有量で用いられる。前記上限値を超えると成形性が悪くなる傾向がある。
【0064】
樹脂硬化剤は、用いられる樹脂の種類に応じて適宜に選ばれる。例えばエポキシ樹脂用の樹脂硬化剤としては、酸無水物系硬化剤やアミン系硬化剤が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物が挙げられる。アミン系硬化剤としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン及びジシアンジアミドが挙げられる。エポキシ樹脂用の樹脂硬化剤であれば、通常、エポキシ樹脂に対して当量比で、0.3〜1.5の範囲で配合される。
【0065】
樹脂硬化促進剤は、用いられる樹脂や樹脂硬化剤の種類に応じて適宜に選ばれる。例えば前記酸無水系硬化剤用の樹脂硬化促進剤としては、例えば三フッ化ホウ素モノエチルアミン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、及び2−フェニル−4−メチルイミダゾールが挙げられる。エポキシ樹脂用の樹脂硬化促進剤であれば、エポキシ樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部の含有量で用いられる。
【0066】
溶剤は、熱伝導性樹脂組成物の粘度を下げる観点から用いることができる。溶剤には、公知の溶剤の中から樹脂を溶解する溶剤が用いられる。このような溶剤としては、例えば、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、モノクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、フェノール、及びヘキサフルオロイソプロパノールが挙げられる。溶剤は、樹脂100質量部に対して、0〜10,000質量部の含有量で用いられる。
【0067】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、前記の窒化ホウ素粉体、樹脂、及び必要に応じてさらなる成分を撹拌や混錬によって均一に混合することによって得ることができる。例えば前記の樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、単軸又は二軸混錬機等の一般的な混錬機を用いて、熱可塑性樹脂の溶融温度以上で前記の材料を混錬することによって本発明の熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0068】
また例えば前記の樹脂がエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂である場合には、窒化ホウ素粉体と硬化前の樹脂とを均一に混合することによって、又は得られる混合物を硬化させることによって、本発明の熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。
【0069】
本発明の成形体は、前記の本発明の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる。成形体の成形は、樹脂組成物の成形に一般に用いられる方法を利用して、熱伝導性樹脂組成物の状態や樹脂の種類に応じて適宜に行うことができる。
【0070】
例えば、可塑性や流動性を有する熱伝導性樹脂組成物による成形体の成形は、熱伝導性樹脂組成物を所望の形状で、例えば型へ収容した状態で、硬化させることによって行うことができる。このような成形体の製造では、射出成形、射出圧縮成形、押出成形、及び圧縮成形を利用することができる。前記の樹脂がエポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂である場合では、成形体の成形、すなわち硬化は、それぞれの硬化温度条件で行うことができる。前記の樹脂が熱可塑性樹脂である場合では、成形体の成形は、熱可塑性樹脂の溶融温度以上の温度及び所定の成形速度や圧力の条件で行うことができる。
【0071】
また前記成形体は、熱伝導性樹脂組成物の硬化物を所望の形状に削り出すことによって得ることができる。
【実施例】
【0072】
実施例に用いた材料を以下に示す。
・ビスフェノール系エポキシ樹脂(主剤)(a−1):三菱化学(株)製 jER 828
・エポキシ樹脂硬化剤(酸無水物系)(b−1):三菱化学(株)製 jERキュア YH300
・硬化促進剤(c−1):三菱化学(株)製 jERキュア EMI24
・粉体A:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PT110と粉体Cを質量比20:80で混合した粉体。
・粉体B:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PTX180と粉体Cを質量比70:30で混合した粉体。
・粉体C:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PT670を、日陶科学(株)製 電動フルイANF−30を用い、300μmの篩で篩い分けして篩の上方に残った粉体。
・粉体D:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PT350を、日陶科学(株)製 電動フルイANF−30を用い、150μmの篩を通過した粉体を100μmの篩で篩い分けして100μmの篩の上方に残った粉体。
・粉体E:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PTX180・粉体F:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PT670
・粉体G:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PTX25
・粉体H:モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製 窒化ホウ素PTX60
【0073】
粉体A〜Hのそれぞれを、以下の分析方法によって分析し、各粉体についてそれぞれの測定値を得た。粉体A〜Hの特性値を表1に示す。
【0074】
(1)パラメータP(G’/ηmの対数の粉体濃度に対する勾配)の測定
まず、ビスフェノール系エポキシ樹脂(a−1) 100質量部とエポキシ樹脂硬化剤(b−1) 80質量部との混合物を測定用媒体として用い、測定用媒体の25℃における粘性率ηmを求めた。25℃におけるこの測定用媒体の粘度ηmは、ティー・エー・インスツルメント社製 動的粘弾性測定装置ARESを用いて測定したところ、0.51Pa・sであった。
【0075】
一方で、測定用媒体を(株)シンキー社製 自転・公転真空ミキサーARV−310で2,000rpmで2分間混合し、その混合物に各粉体について5〜50体積%で添加し、日陶科学(株)製 自動乳鉢ANM−150で5分間混合し、各粉体について体積%の異なる複数の測定用の混合物を得た。
【0076】
ティー・エー・インスツルメント社製 動的粘弾性測定装置ARESを用いて、得られた測定用混合物の線形粘弾性領域で貯蔵弾性率G’の周波数分散を測定し、各粉体について、角周波数が1rad/sにおけるG’と測定用媒体の粘度ηmとの比の常用対数log(G’/ηm)を、ηmが0.51[Pa・s]である前記測定用媒体を用い、G’が2.3[Pa]以下の範囲、すなわちlog(G’/ηm)が0.65以下の範囲で測定した。さらに、log(G’/ηm)の値が2デカード以上の範囲を含むように、粉体の体積%(φ)に対してプロットし、log(G’/ηm)−φのグラフの勾配(Δlog(G’/ηm)/Δφ)を最小二乗法により算出して、各粉体についてのパラメータPとした。ここで、log(G’/ηm)のXデカードとは、log(G’max/ηm)−log(G’min/ηm)がXであることを意味する。ここでG’maxは測定範囲におけるG’の最大値を表し、G’minは測定範囲におけるG’の最小値を表す。
【0077】
(2)全細孔容積Vp
マイクロメリテックス社製 オートポアIV 9520型を用いて、各粉体を減圧下(50μmHg以下)で10分間減圧処理をした後、水銀圧入退出曲線を測定して、ポアサイズ10nm〜500μmの全細孔容積を求めた。
【0078】
(3)バルク密度ρb
マイクロメリテックス社製 オートポアIV 9520型を用いて測定した。予め容積を測定した専用セルに精秤した粉体資料を入れ、セルごとの質量を測定した。このセルを、減圧下(50μmHg以下)、室温で10分間減圧処理をした後、水銀を導入した。水銀導入後のセルを秤量し、導入された水銀の質量から水銀の容量を算出し、予め求めたセルの容量からこの水銀容量を差し引いて粉体試料の容量とし、粉体試料の容量で粉体試料の質量を除してバルク密度を算出した。
【0079】
(4)歪度Sk
Malvern社製 乾式粒子画像分析装置モルフォロギG3Sを用い、粉体を少量取り、ガラス平板上に散布し、ガラス上に散布した粒子を、透過照明の光学顕微鏡モードに設定し、5倍レンズを用いて撮影し、約2〜5万個の粒子が含まれる領域の画像を自動スキャンし、その画像データを二値化処理することによって、個々の粒子の円相当径を測定し、以下の式より歪度Skを求めた。
Sk=Σ(LogXi−LogXm)3/(N・σ3
Xm=Σ(Xi)/N
σ2=Σ(LogXi−LogXm)2/N
ここで、Xiは粒子iの円相当径、Xmは粒子の個数平均径、σは標準偏差、Nは全粒子数を表す。
【0080】
【表1】

【0081】
[実施例1]
ビスフェノール系エポキシ樹脂(a−1)100質量部に対して、エポキシ樹脂硬化剤(b−1)を80質量部配合し、これらを(株)シンキー社製 自転・公転真空ミキサーARV−310で2,000rpmで2分間混合した後に、得られた混合物に硬化促進剤(c−1)を2質量部添加し、同じミキサーを用い、2,000rpmで2分間混合し、エポキシ混合物を得た。そのエポキシ混合物に72.4質量%となる量の粉体Aを添加し、日陶科学(株)製 自動乳鉢ANM−150で5分間混合し、熱伝導性樹脂組成物1を得た。
【0082】
熱伝導性樹脂組成物1について、(株)東洋精機製作所製 キャピラリー式レオメータ
キャピログラフ1Bを用い、直径1mm、長さ20mmのオリフィスを用いて、50℃において、せん断速度1,216[1/s]で押し出して、熱伝導性樹脂組成物1の粘度を測定し、その成形性を評価した。
【0083】
また、熱伝導性樹脂組成物1を金型に入れ、温度150℃、プレス圧力15MPaで1時間加圧硬化させ、約40mm角で厚さ約5〜10mmの成形体1を作製した。作製した成形体1を切り出して直径12mm、厚み約1.5mmの円盤状の検体に成形したのち、アルバック理工(株)製 全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置TC−7000を用いて、前記検体の熱伝動率を測定した。
【0084】
さらに、成形体1から直径30mm以上の平面を有する検体を切り出し、(株)三菱化学アナリテック製 ハイレスタUP(MCP−HT450)を用い、リングプローブで前記検体の体積抵抗率を測定した。
熱伝導性樹脂組成物1の組成及び成形体1の物性を表2に示す。
【0085】
[実施例2]
粉体Aに代えて粉体Bを用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物2を得、また成形体2を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物2の組成及び成形体2の物性を表2に示す。
【0086】
[実施例3]
粉体Aに代えて粉体Cを用い、粉体の含有量を88.5質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物3を得、また成形体3を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物3の組成及び成形体3の物性を表3に示す。
【0087】
[実施例4]
粉体Aの含有量を88.5質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物4を得、また成形体4を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物4の組成及び成形体4の物性を表3に示す。
【0088】
[比較例1]
粉体Aに代えて粉体Dを用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C1を得、また成形体C1を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物C1の組成及び成形体C1の物性を表2に示す。
【0089】
[比較例2]
粉体Aに代えて粉体Eを用いた以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C2を得、また成形体C2を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物C2の組成及び成形体C2の物性を表2に示す。
【0090】
[比較例3]
粉体Aに代えて粉体Fを用い、粉体の含有量を88.5質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C3を得、また成形体C3を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物C3の組成及び成形体C3の物性を表3に示す。
【0091】
[比較例4]
粉体Aに代えて粉体Dを用い、粉体の含有量を88.5質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C4を得、また成形体C4を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物C4の組成及び成形体C4の物性を表3に示す。なお、熱伝導性樹脂組成物C4の粘度は、ロードセルの上限を超過し測定できなかった。
【0092】
[比較例5]
粉体Aに代えて粉体Gを用い、粉体の含有量を88.5質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C5を得、また成形体C5を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。しかしながら、熱伝導性樹脂組成物C5は均一に混合されず、粘度測定においてロードセルの上限を超過し測定できなかった。また、均一な成形体が得られず、成形体C5の熱伝導性及び体積抵抗率も測定できなかった。
【0093】
[比較例6]
粉体Aに代えて粉体Hを用い、粉体の含有量を88.5質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C6を得、また成形体C6を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。しかしながら、熱伝導性樹脂組成物C6も均一に混合されず、粘度測定においてロードセルの上限を超過し測定できなかった。また、均一な成形体が得られず、成形体C6の熱伝導性及び体積抵抗率も測定できなかった。
【0094】
[比較例7]
粉体Aの含有量を65.7質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C7を得、また成形体C7を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。熱伝導性樹脂組成物C7の組成及び成形体C7の物性を表4に示す。
【0095】
[比較例8]
粉体Aの含有量を97.0質量%とした以外は実施例1と同様にして熱伝導性樹脂組成物C8を得、また成形体C8を得、これらの物性を実施例1と同様にして求めた。しかしながら、熱伝導性樹脂組成物C8は均一に混合されず、粘度測定においてロードセルの上限を超過し測定できなかった。また、均一な成形体も得られず、成形体C8の熱伝導性及び体積抵抗率も測定できなかった。
【0096】
【表2】

【0097】
表2から明らかなように、窒化ホウ素粉体の含有量が74.2質量%の場合、パラメータPに関わらず高い熱伝導率と体積抵抗率とを有する成形体が得られるが、表2における実施例2と比較例2との対比から明らかなように、0.22以下のパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物の粘度は、0.22を超えるパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物の粘度より小さいことがわかる。
【0098】
【表3】

【0099】
表3から明らかなように、窒化ホウ素粉体の含有量が88.5質量%の場合、0.22以下のパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物の粘度は、0.22より大きいパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物の粘度よりも小さく、かつ0.22以下のパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物による成形体の熱伝導率は、0.22より大きいパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物による成形体の熱伝導率よりも大きいことがわかる。また、窒化ホウ素粉体の含有量が88.5質量%の場合では、0.22よりも大きいパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物の粘度が測定できない程大きくなることがあることがわかる。
【0100】
【表4】

【0101】
表4から明らかなように、窒化ホウ素粉体の含有量が65.7質量%の場合、0.22以下であるパラメータPを示す窒化ホウ素粉体を用いた熱伝導性樹脂組成物の粘度は低いが、熱伝導性樹脂組成物による成形体の熱伝導率は、実施例1や4に比べて低く、熱伝導率が十分に高い成形体が得られないことがあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明では、新たなパラメータPによって、高含有量と成形性とを熱伝導性樹脂組成物において両立可能な窒化ホウ素粉体を特定することができる。したがって、本発明は、例えば電子装置の放熱材等の、このような成形体を利用する技術分野のさらなる発展をもたらすことが期待されると共に、通常の窒化ホウ素粉体の本技術分野における利用のさらなる促進をもたらすことが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素粉体と樹脂とを含有する熱伝導性樹脂組成物において、
前記窒化ホウ素粉体と前記樹脂から求められる、下記式で表されるパラメータPが0.22以下であり、
前記窒化ホウ素粉体の含有量が70〜95質量%であることを特徴とする熱伝導性樹脂組成物。
P=Δlog(G’/ηm)/Δφ
(前記式中、G’は、前記窒化ホウ素粉体と前記樹脂からなる混合物の、角周波数1rad/sにおける貯蔵弾性率[Pa]を表し、ηmは、前記樹脂の粘性率[Pa・s]を表し、φは、前記混合物における窒化ホウ素粉体の体積分率[%]を表す。ただし、log(G’/ηm)は1以下であり、かつG’及びηmの測定値から求められるlog(G’/ηm)の値が2デカード以上離れている二点を含む。)
【請求項2】
前記窒化ホウ素粉体の全細孔容積が0.80cm3/g以下であり、
前記窒化ホウ素粉体のバルク密度が0.70g/cm3以上であり、
前記窒化ホウ素粉体の粒度分布における歪度が−1.0以上1.0以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱伝導性樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2012−17421(P2012−17421A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156196(P2010−156196)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超ハイブリッド材料技術開発(ナノレベル構造制御による相反機能材料技術開発)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】