説明

熱処理炉及び熱処理方法

【課題】 熱収縮による皺やうねり等を除くと共に、タール付着の問題を生ずることなく炭素繊維シートを連続生産できる熱処理炉を提供する。
【解決手段】 炉2内を走行する原料薄層シート30を熱処理して炭素繊維シート30にする熱処理炉2であって、原料薄層シート入口部4を形成した上流側炉壁6と、炭素繊維シート出口部8を形成した下流側炉壁10と、炉2内を上流炉部14と下流炉部16とを仕切ると共にシート搬送窓18を形成した隔壁12と、上流炉部14に備えた1以上の排ガス処理室34と、炉2内の下流炉部16に備えた1以上の加熱手段28a、28b、28cと、炉2内の下流炉部16のみに設けられた1以上の面圧付与手段26a、26b、26cとを有する熱処理炉とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐炎繊維を原料とする薄層シートから炭素繊維シートを製造する際に使用する熱処理炉において、得られる炭素繊維シートの表面品位低下を防止する手段を有する熱処理炉、並びに、熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維シートは、導電性、通気性が良いため、導電材や電極としての用途が期待されている。特に、電池用電極材としての用途は重要である。
【0003】
炭素繊維シートを電極材用として用いる場合、近年電池の小型化、軽量化が進む中でこれらに対応できるように、炭素繊維シート自体の厚さを小さくすることが求められている。
【0004】
従来より薄層の炭素繊維シートの製造方法としては、炭素繊維、耐炎繊維等の原料繊維を紙、不織布、フェルト、織物等の薄層シートに加工し、これを連続的に熱処理(焼成)する方法が知られている。
【0005】
従来の薄層の炭素繊維シートの製造方法においては、温度域800℃以下の低温における熱処理(前処理)と温度域1500〜2500℃の高温における熱処理(炭素化処理)の2段熱処理が主流である。この2段熱処理において、低温熱処理炉での薄層シートの処理は無緊張下で行われている。高温熱処理炉での薄層シートの処理は無緊張下で行われるか、張力付与下で行われるか、加熱体へ接触させてシート表面を加圧した状態で行われる。
【0006】
しかし、従来の炭素繊維シートの製造方法では、耐炎繊維を原料とする薄層シートの場合、低温熱処理炉で処理中のシートの熱収縮が大きく、無緊張下で熱処理中のシートには皺やうねりが発生し、得られる炭素繊維シートの表面品位(皺、うねり)が低下する問題がある。
【0007】
この炭素繊維シートの製造方法に関し、焼成収縮に起因する表面品位改善を目的とした製造装置が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0008】
特許文献1には、低温熱処理炉と高温熱処理炉とを基本構成とする製造装置において、高温熱処理炉の下流側に皺加熱矯正炉を設けることにより、薄層シートの焼成収縮に起因する表面品位を改善することが開示されている。
【0009】
特許文献2には、焼成前の薄層シートを熱板や金型で連続加熱加圧することにより、焼成後の薄層シートの表面品位を改善することが開示されている。
【0010】
特許文献3には、熱硬化性樹脂を含浸した炭素繊維紙を、加熱プレス後、焼成して炭素電極基材を製造するに当たって、加熱プレス処理直前、直後における樹脂硬化進行度を所定範囲にすることにより、焼成後の薄層シートの表面品位を改善することが開示されている。
【0011】
しかし、特許文献1〜3に開示された製造装置は何れも、基本構成の熱処理炉以外に薄層シート表面品位改善のための付帯設備が必要になり、製造装置全体の大型化や、コストが上昇する問題がある。
【特許文献1】特開2004−256959号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0008]〜[0010]、[0017]〜[0020]、[0040]、図1〜3)
【特許文献2】特開2004−308098号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0006]、[0029]〜[0044]、[0062]〜[0069]、図1〜2)
【特許文献3】特開2004−134108号公報 (特許請求の範囲、段落番号[0002]〜[0016]、[0029]〜[0038]、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
薄層炭素繊維シートの製造には温度域500〜1000℃における熱処理(前処理)と温度域1500〜2300℃における熱処理(炭素化処理)の2回の熱処理を行うことが好ましい。耐炎繊維を原料とする薄層シートの焼成過程においては、薄層シートの大きな収縮挙動(約20%の面収縮)に起因して生ずる皺やうねりを抑制することが、薄層シート表面の品位を改善するためのポイントである。薄層シートの熱分解挙動に起因して熱収縮は500〜1000℃で顕著に起きるので、皺やうねりの抑制には前処理炉での手当てが重要である。
【0013】
本発明者の属する研究グループは、熱処理時に皺やうねり等の形状変化を起こさない炭素繊維シートの製造方法を検討しているうちに、前処理炉における熱処理とこれに続く炭素化炉における熱処理の2回の熱処理のうち、前処理炉における温度分布を適正にし、更にこの前処理炉内にローラーを設けて原料の薄層シートにテンションを付与し、薄層シートをローラー上で接圧を負荷しながら熱処理することにより、シートに生ずる熱収縮による皺やうねり等の問題を生ずることなく炭素繊維シートを連続生産できることを知得し、先に出願した(特願2004−166002)。
【0014】
本発明者は、図4に示す熱処理炉(前処理炉)を新たに製造し、この熱処理炉を用いて炭素繊維シートを製造することを試みた。図4は上記熱処理炉の概略側面図である。
【0015】
この熱処理炉62で熱処理される薄層シート64の搬送方向に沿って炉62の最上流側の炉壁(上流側炉壁)66には、原料薄層シート入口部68が設けられている。炉62の最下流側の炉壁(下流側炉壁)70には、炭素繊維シート出口部72が設けられている。
【0016】
原料薄層シート入口部68及び炭素繊維シート出口部72は、不図示のシール手段で窒素ガス等の不活性ガスを用いてガスシールされており、これにより炉62内に空気が混入することの無いように構成されている。
【0017】
炉62内は、隔壁74で水平方向に上流炉部76と下流炉部78とに仕切られている。前記隔壁74にはシート搬送窓80が形成されている。下流炉部78は、下流炉部隔壁82aで水平方向に上流側から下流側に向かって順次下流炉部分室84a、84bに仕切られている。前記下流炉部隔壁82aにはシート搬送窓86aが形成されている。
【0018】
下流炉部78の分室84a、84b内には、面圧付与手段の接圧ローラー88a、88bがそれぞれ配設されている。更に各分室84a、84bの上壁には加熱手段90a、90bがそれぞれ配設されている。加熱手段は各分室に要求される温度分布の精度により複数個、上下に設置することも可能である。
【0019】
上流炉部76内には、その上部に加熱手段92a、下部に加熱手段92bが配設されている。更に、上流炉部76内の上流側から下流側に向かって順に面圧付与手段の接圧ローラー94a、94bが配設されている。96は、炉62内で発生する排ガスを燃焼処理する排ガス処理室である。
【0020】
本発明者は、上記熱処理炉において接圧ローラー等の面圧付与手段を用いて薄層シートに100Pa以上、好ましくは150Pa以上の接圧を付与して熱処理をしてみた。これにより、熱処理時に皺やうねり等の形状変化を起こさない高表面品位の中間シートが得られた。これを温度域1500〜2300℃の炭素化炉において熱処理することにより、熱処理時に皺やうねり等の形状変化を起こさない高表面品位の炭素繊維シートが得られることが解った。
【0021】
しかし、上記熱処理炉においては炉内に接圧ローラー等の面圧付与手段を設けていることから、炉内における発生ガス成分中のタールが面圧付与手段に付着して薄層炭素繊維シート表面の品位が低下する問題を起こす。
【0022】
本発明者は、薄層シートの表面品位の改善について更に検討を重ねるうちに、ガスの発生が顕著な温度域と、面圧付与が必要な温度域とに、熱処理炉内を分離することにより高品位な薄層炭素繊維シートを連続的に安定して製造可能なことを見出した。
【0023】
そこで、ガスの発生が顕著な温度域では面圧付与手段を用いずに(無面圧又は無支持で)薄層シートを熱処理した(第1工程)。ここで、無面圧とは、面圧付与手段を積極的に用いて面圧を掛けないことを意味し、例えばシートの自重によりガイドバー等との間に生ずる僅かな圧力は含まない。
【0024】
その下流の面圧付与が必要な温度域においては面圧付与手段で面圧を負荷しながら薄層シートを熱処理した(第2工程)。
【0025】
これにより、熱収縮による皺やうねり等を除くことができるばかりか、タール付着の問題を生ずることなく炭素繊維シートを連続生産できることを知得し、本発明を完成するに到った。従って、本発明の目的とするところは、上記問題を解決した熱処理炉及び熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
【0027】
〔1〕 炉内を走行する原料薄層シートを熱処理して炭素繊維シートにする熱処理炉であって、炉の上流側に原料薄層シート入口部を形成した上流側炉壁と、炉の下流側に炭素繊維シート出口部を形成した下流側炉壁と、炉内を上流炉部と下流炉部とに仕切ると共にシート搬送窓を形成した隔壁と、上流炉部の上方及び/又は下方に備えた1以上の排ガス処理室と、下流炉部に備えた1以上の加熱手段と、上流炉部と下流炉部のうち下流炉部のみに設けられた1以上の面圧付与手段とを有する熱処理炉。
【0028】
〔2〕 面圧付与手段が接圧ローラーである〔1〕に記載の熱処理炉。
【0029】
〔3〕 上流炉部内に、走行する薄層シートを載置する1以上のガイドバーが設置されてなる〔1〕に記載の熱処理炉。
【0030】
〔4〕 原料薄層シートを支持するガイドバーを備えた中空炉内を無面圧で走行する原料薄層シートを熱処理する第1工程と、次いで面圧を負荷して薄層シートを熱処理する第2工程とを有する熱処理方法。
【0031】
〔5〕 中空炉内を無支持で走行する原料薄層シートを熱処理する第1工程と、次いで面圧を負荷して薄層シートを熱処理する第2工程とを有する熱処理方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明の熱処理炉及び熱処理方法によれば、シート搬送窓を形成した隔壁で炉内を仕切って形成した上流炉部と下流炉部のうち上流炉部では接圧ローラー等の面圧付与手段を用いずに熱処理後、下流炉部においては面圧付与手段で面圧を負荷しながら薄層シートを熱処理しているので、熱収縮による皺やうねり等を除くことができるばかりか、タール付着の問題を生ずることなく炭素繊維シートを連続生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【0034】
図1は本発明の熱処理炉の一例を示す概略側面図である。2は内部中空に構成された熱処理炉で、炉壁は断熱材を用いて形成されている。
【0035】
熱処理炉2で熱処理される後述の薄層シート30の搬送方向に沿って炉2の最上流側の炉壁(上流側炉壁)6には、原料薄層シート入口部4が設けられている。炉2の最下流側の炉壁(下流側炉壁)10には、炭素繊維シート出口部8が設けられている。
【0036】
原料薄層シート入口部4及び炭素繊維シート出口部8は、不図示のシール手段で窒素ガス等の不活性ガスを用いてガスシールされており、これにより炉2内に空気が混入することの無いように構成されている。
【0037】
炉2内は、隔壁12で水平方向に上流炉部14と下流炉部16とに仕切られている。前記隔壁12にはシート搬送窓18が形成されている。下流炉部16は、下流炉部隔壁20a、20bで水平方向に上流側から下流側に向かって順次下流炉部分室22a、22b、22cに仕切られている。前記下流炉部隔壁20a、20bには、それぞれシート搬送窓24a、24bが形成されている。
【0038】
下流炉部16の分室22a、22b、22c内には、面圧付与手段の接圧ローラー26a、26b、26cがそれぞれ配設されている。更に各分室22a、22b、22cの上壁には加熱手段28a、28b、28cがそれぞれ配設されている。即ち、下流炉部16には複数(本図においては3本)の接圧ローラー、複数(本図においては3台)の加熱手段が配設されている。
【0039】
下流炉部16を均等に加熱し、薄層シート30を幅方向に均等に焼成するためには、下流炉部16の薄層シート30の搬送方向に沿う方向の長さ即ち下流炉部分室22a、22b、22cの各長さは、各分室の設定温度に対する薄層シート30の反応が終了するための滞留時間が得られる長さが必要である。滞留時間は、原料薄層シート30の目付や焼成速度によって異なる。また、硬く、曲げ強度が低いシートを焼成する場合は、下流炉部16内に設置する接圧ローラー26a、26b、26cの径を、シートが破断しない程度に大きくする必要がある為、隔壁12を設ける位置は、これらを検討した上で決定する必要がある。
【0040】
本例の熱処理炉2で対象とする厚さ0.1〜10mmの原料薄層シート30を焼成する場合、隔壁12は、薄層シート30が隔壁12に到達するまでに薄層シート30の熱収縮の30〜50%が完了する位置に設ける。
【0041】
下流炉部分室22a、22b、22cに、それぞれ装備された加熱手段28a、28b、28cにより下流炉部16は最下流の分室22cで炉2内の最高温に加熱される。下流炉部16の温度は、分室22a、22b、22cを通して600〜900℃である。下流炉部16における600℃から900℃までの温度上昇曲線は、なだらかな勾配であることが好ましい。この温度上昇曲線は、下流炉部隔壁20a、20bの何れかの箇所で最も急勾配になるが、その急勾配の隔壁前後における温度差は200℃以下にすることが好ましい。この温度差が200℃を超える場合は、薄層シート30に皺やうねりが発生し易く、シート表面の品位が低下するので好ましくない。
【0042】
この下流炉部16において、原料薄層シート30は接圧ローラー26a、26b、26c間をジグザグに張り渡され、前記ローラーにより接圧を受けながら炭素化し、炭素繊維シート出口部8を通って炉2外に収縮による皺やうねり等の無い炭素繊維シート30として取り出される。
【0043】
上流炉部14には、炉2内を走行する薄層シート30を載置する複数(本図においては5本)のガイドバー32a、32b、32c、32d、32eが設置されている。34は、炉2内で発生する排ガスを燃焼処理する排ガス処理室である。
【0044】
上流炉部14内には、その上部に加熱手段36a、下部に加熱手段36bが設置されている。この加熱手段36a、36bからの輻射熱等の伝熱により上流炉部14は加熱され、上流から下流に向かうに従って高温になる温度勾配を有する昇温域が形成されている。上流炉部14内の温度は最下流部(隔壁12近傍)で最高温を示し、その温度は360〜540℃が好ましく、390〜510℃が更に好ましい。
【0045】
上流炉部14内の最下流部温度が360℃未満の場合は、ガスの発生が十分でない。上流炉部14内の最下流部温度が540℃を超える場合は、薄層シート30の熱収縮が50%を超え、皺やうねりの発生が大きく、その後面圧付与を実施しても修正することが困難となる。
【0046】
上記温度勾配を有する炉本体2内において、原料薄層シート30は上流炉部14でガスが最も発生する。この発生ガスに対し、上流部14では接圧ローラーなどの面圧付与手段を用いていないので、薄層シート30へのタール付着の問題は生じない。なお、本例では上流部14にガイドバー32a、32b、32c、32d、32eが設置されてはいるが、ガイドバーと薄層シートとの接触面積や面圧が小さいので、薄層シート30へのタール付着の問題は無視できる。
【0047】
前述したように、下流炉部16は面圧付与機能を要する。このため、接圧ローラー26a、26b、26cのような内部機構を必要とし、必然的に薄層シート30の搬送方向に直交する炉内断面積が大きくなる。
【0048】
これに対し、上流炉部14は、薄層シート30を予備処理する機能を有し、面圧付与機能は不要である。このため、内部は中空で理論的には薄層シート30の通過する断面があれば良い。従って、通常、上流炉部14は下流炉部16よりも炉内断面積は小さくなる。
【0049】
なお、上流炉部14をガイドバーを設置しない構成にしても良いが、ガイドバー32a、32b、32c、32d、32eを設置した本例では、薄層シート30の垂下を防止できるので、上流炉部14における炉内高さを更に低くすることができ、即ち炉内断面積を更に小さくすることができ、製造装置の小型化や、コスト低減ができる。ガイドバー32a、32b、32c、32d、32eの径は0.01〜0.1mが好ましい。
【0050】
また、上流炉部14で発生する排ガスを燃焼処理する排ガス処理室34は、炉2内の上流炉部14に備えてあるので、接圧ローラー26a、26b、26cが配設された下流炉部16への排ガス混入を防ぐことができ、下流炉部16においても薄層シート30へのタール付着の問題は生じない。
【0051】
図2は、図1の例の熱処理炉において、下流炉部16が下流炉部隔壁20aで水平方向に上流側から下流側に向かって順次下流炉部分室22a、22bに仕切られてなる本発明の熱処理炉の他の例を示す概略側面図である。前記下流炉部隔壁20aには、シート搬送窓24aが形成されている。
【0052】
下流炉部16の分室22a、22b内には、面圧付与手段の接圧ローラー26a、26bがそれぞれ配設されている。更に各分室22a、22bの上壁には加熱手段28a、28bがそれぞれ配設されている。即ち、下流炉部16には複数(本図においては2本)の接圧ローラー、複数(本図においては2台)の加熱手段が配設されている。
【0053】
図2の例の熱処理炉38は、図1の例の熱処理炉2について下流炉部隔壁20b、下流炉部分室22c、シート搬送窓24c、接圧ローラー26c、加熱手段28cが無い以外は図1と同様の構成であるので、同一箇所に同一参照符号を付している。
【0054】
図3は本発明の熱処理炉の更に他の例を示す概略側面図である。
【0055】
図3において、熱処理炉42内は、隔壁44で水平方向に上流炉部46と下流炉部48とに仕切られている。前記隔壁44にはシート搬送窓50が形成されている。下流炉部48内には、面圧付与手段の接圧ローラー52が配設され、加熱手段54が配設されている。
【0056】
この下流炉部48において、原料薄層シート56は接圧ローラー52で折り返され、前記ローラーにより接圧を受けながら炭素化し、下流側炉壁58に設けられた炭素繊維シート出口部60を通って炉42外に収縮による皺やうねり等の無い炭素繊維シート56として取り出される。
【0057】
この折返し構造の接圧ローラー52は、原料薄層シート56との接触面積が大きいので、用いる接圧ローラーの本数を少なくすることができ、製造装置の小型化や、コスト低減ができる。
【0058】
図3において炉42、隔壁44、上流炉部46、下流炉部48、シート搬送窓50、接圧ローラー52、加熱手段54、原料薄層シート56、下流側炉壁58、炭素繊維シート出口部60以外の構成は図1と同様であるので、同一箇所に同一参照符号を付してその説明を省略する。
【0059】
なお、面圧付与手段26a、26b、26c、52は図1及び2の例では接圧ローラーを用いているが、ニップローラー、プレス等の面圧付与手段を用いることもできる。排ガス処理室34は図1及び2の例では1個を設置したが、これに限らず焼成条件により上方、下方に複数個設置することも可能である。
【0060】
また、本発明の熱処理炉の形態は図1及び2の形態だけではなく、本発明の要旨を変更しない限り、適宜変形して差支えない。
【実施例】
【0061】
実施例1
図1に示す熱処理炉2を用いて炭素繊維シート30を製造した。
【0062】
シート搬送方向の炉内長さは上流炉部14で0.5m、下流炉部分室22aで0.3m、下流炉部分室22bで0.3m、下流炉部分室22cで0.3m、炉内幅は1.2m、炉内高さは上流炉部14で0.15m、下流炉部16で0.7mであった。ガイドバー32a、32b、32c、32d、32eの径は何れも0.025mであった。接圧ローラー26a、26b、26cの径は何れも0.5mであった。
【0063】
表1に示すように、炉2内は、窒素雰囲気下加熱し、上流炉部14の温度を500℃、下流炉部分室22aの温度を700℃、下流炉部分室22bの温度を800℃、下流炉部分室22cの温度を900℃に調節した。
【0064】
この熱処理炉2内を、厚さ0.4mm、幅1000mm、目付200g/m2の耐炎繊維シート(原反)を、ローラー26a、26b、26cにおける接圧150Pa、搬送速度50m/hrで搬送させた。
【0065】
得られた中間シートは、厚さ0.35mm(原反に対して88%)、目付135g/m2(原反に対して68%)、幅910mm(原反に対して91%)のものであり、タールの付着、皺、うねりの無い高品位のものであった。よって、表1に示す中間シートの表面品位評価は◎であった。
【0066】
更に、この中間シートを温度2000℃の炭素化炉に搬送速度50m/hrで搬送させて熱処理した。得られた炭素繊維シートは、厚さ0.25mm(原反に対して63%)、目付95g/m2(原反に対して48%)、幅900mm(原反に対して90%)のものであり、タールの付着、皺、うねりの無い高品位のものであった。
【0067】
実施例2
図2に示す熱処理炉38を用いて炭素繊維シート30を製造した。
【0068】
シート搬送方向の炉内長さは上流炉部14で0.5m、下流炉部分室22aで0.3m、下流炉部分室22bで0.3m、炉内幅は1.2m、炉内高さは上流炉部14で0.15m、下流炉部16で0.7mであった。ガイドバー32a、32b、32c、32d、32eの径は何れも0.025mであった。接圧ローラー26a、26bの径は何れも0.5mであった。
【0069】
表1に示すように、炉38内は、窒素雰囲気下加熱し、上流炉部14の温度を500℃、下流炉部分室22aの温度を700℃、下流炉部分室22bの温度を900℃に調節した。
【0070】
この熱処理炉38内を、厚さ0.4mm、幅1000mm、目付200g/m2の耐炎繊維シート(原反)を、ローラー26a、26b、26cにおける接圧150Pa、搬送速度50m/hrで搬送させた。
【0071】
得られた中間シートは、厚さ0.35mm(原反に対して88%)、目付135g/m2(原反に対して68%)、幅910mm(原反に対して91%)のものであり、タールの付着、皺、うねりの無い高品位のものであった。よって、表1に示す中間シートの表面品位評価は◎であった。
【0072】
更に、この中間シートを温度2000℃の炭素化炉に搬送速度50m/hrで搬送させて熱処理した。得られた炭素繊維シートは、厚さ0.25mm(原反に対して63%)、目付95g/m2(原反に対して48%)、幅900mm(原反に対して90%)のものであり、タールの付着、皺、うねりの無い高品位のものであった。
【0073】
実施例3
炉38内における上流炉部14の温度を550℃に調節した以外は、実施例2と同様に耐炎繊維シートを熱処理した。
【0074】
その結果、得られた中間シートは、厚さ0.35mm(原反に対して88%)、目付135g/m2(原反に対して68%)、幅910mm(原反に対して91%)のものであり、皺、うねりの少なさは実施例1及び2程ではなかったが、タールの付着の無い高品位のものであった。よって、表1に示す中間シートの表面品位評価は○であった。
【0075】
更に、この中間シートを温度2000℃の炭素化炉に搬送速度50m/hrで搬送させて熱処理した。得られた炭素繊維シートは、厚さ0.25mm(原反に対して63%)、目付95g/m2(原反に対して48%)、幅900mm(原反に対して90%)のものであり、皺、うねりの少なさは実施例1及び2程ではなかったが、タールの付着の無い高品位のものであった。
【0076】
比較例1
図4に示す熱処理炉62を用いて炭素繊維シート30を製造した。
【0077】
シート搬送方向の炉内長さは上流炉部76で0.5m、下流炉部分室84aで0.3m、下流炉部分室84bで0.3m、炉内幅は1.2m、炉内高さは上流炉部76、下流炉部84a、下流炉部分室84bを通じて0.7mであった。接圧ローラー94a、94b、88a、88bの径は何れも0.5mであった。
【0078】
表1に示すように、炉62内は、窒素雰囲気下加熱し、上流炉部76の温度を500℃、下流炉部分室84aの温度を700℃、下流炉部分室84bの温度を900℃に調節した。
【0079】
この熱処理炉62内を、厚さ0.4mm、幅1000mm、目付200g/m2の耐炎繊維シート(原反)を、ローラー94a、94b、88a、88bにおける接圧150Pa、搬送速度50m/hrで搬送させた。
【0080】
得られた中間シートは、厚さ0.35mm(原反に対して88%)、目付135g/m2(原反に対して68%)、幅910mm(原反に対して91%)のものであり、皺、うねりは少なかったが、タールが付着してシート表面品位が低下し、後工程の炭素化処理を続けることはできなかった。よって、表1に示す中間シートの表面品位評価は×であった。
【0081】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の熱処理炉の一例を示す概略側面図である。
【図2】本発明の熱処理炉の他の例を示す概略側面図である。
【図3】本発明の熱処理炉の更に他の例を示す概略側面図である。
【図4】比較例1で用いた熱処理炉を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0083】
2、42、62 熱処理炉
4、68 原料薄層シート入口部
6、66 原料薄層シート入口部を有する上流側炉壁
8、60、72 炭素繊維シート出口部
10、58、70 炭素繊維シート出口部を有する下流側炉壁
12、20a、20b、44、74、82a 隔壁
14、46、76 上流炉部
16、48、78 下流炉部
18、24a、24b、50、80、86a シート搬送窓
22a、22b、22c、84a、84b 下流炉部分室
26a、26b、26c、52、88a、88b 面圧付与手段
28a、28b、28c、54、90a、90b 加熱手段
30、56、64 薄層シート
32a、32b、32c、32d、32e ガイドバー
34、96 排ガス処理室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内を走行する原料薄層シートを熱処理して炭素繊維シートにする熱処理炉であって、炉の上流側に原料薄層シート入口部を形成した上流側炉壁と、炉の下流側に炭素繊維シート出口部を形成した下流側炉壁と、炉内を上流炉部と下流炉部とに仕切ると共にシート搬送窓を形成した隔壁と、上流炉部の上方及び/又は下方に備えた1以上の排ガス処理室と、下流炉部に備えた1以上の加熱手段と、上流炉部と下流炉部のうち下流炉部のみに設けられた1以上の面圧付与手段とを有する熱処理炉。
【請求項2】
面圧付与手段が接圧ローラーである請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
上流炉部内に、走行する薄層シートを載置する1以上のガイドバーが設置されてなる請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項4】
原料薄層シートを支持するガイドバーを備えた中空炉内を無面圧で走行する原料薄層シートを熱処理する第1工程と、次いで面圧を負荷して薄層シートを熱処理する第2工程とを有する熱処理方法。
【請求項5】
中空炉内を無支持で走行する原料薄層シートを熱処理する第1工程と、次いで面圧を負荷して薄層シートを熱処理する第2工程とを有する熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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