熱処理用ボート
【課題】 半導体基板を複数枚重ね合わせて熱処理する際に、半導体基板同士のズレを抑制し、また半導体基板の間に隙間を発生させることなく保持できる熱処理用ボートを提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、前記基板固定具は、前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する熱処理用ボート。
【解決手段】 少なくとも、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、前記基板固定具は、前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する熱処理用ボート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一形状の半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に、半導体基板を固定するための熱処理用ボートに関するものであり、特に、太陽電池のエミッタ層を形成するための熱処理時に、半導体基板を固定する熱処理用ボートに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、一般に半導体基板の受光面側表面にドーパントを拡散させたエミッタ層が形成されている。例えば、P型シリコン基板の受光面にはリンを拡散させエミッタ層を形成している。このエミッタ層形成のための熱処理工程は、生産性向上のため2枚の半導体基板を重ねて行われることが多い(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
太陽電池用の半導体基板を拡散炉内で熱処理するための冶具として、例えば図9のような熱処理用ボートが一般的に用いられていた。すなわち、図9の熱処理用ボートは、4本の梁103a、103b、103c、103dと、該梁同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為の側板102なる部分から構成され、4本の梁の内側には半導体基板を搭載する為の溝105a、105b、105c、105dが複数箇所設けられている。使用する際は、図10に示すように上部から2枚の半導体基板107同士を重ねて溝105a、105b、105c、105dに沿って挿入し、半導体基板を梁で保持するものである。
【0004】
しかしながら、図9の様な一般的に使用されている熱処理用ボートを用いた場合、半導体基板107を挿入するために、角形半導体基板の向かい合う辺と接触する溝105aと溝105bの溝底間の距離が、これに搭載される角形半導体基板の寸法より大きくなるように遊びをもたせて設計されている。そのため、例えば図11の様に重ね合わせた半導体基板同士がズレて搭載されてしまうと、角形半導体基板の裏面にドーパントが拡散されることとなる。
また、図12の様に片側の溝底にのみ接触し、もう一方の溝底には接触しない状態で搭載されてしまうと、熱処理によって角形半導体基板に反りが発生した場合に、溝底で固定されていない側のエッジや基板上部側が開いてしまう。この状態でドーパントの拡散熱処理を行うと、反りにより生じた隙間からドーパントが回りこみ、角形半導体基板の裏面に拡散されることとなる。
【0005】
また、前記一般的に使用されている熱処理用ボートを用いた拡散処理では、ドーパントが均一に拡散されない場合があり、半導体基板のシート抵抗のバラツキが大きくなるという問題があった。
【0006】
ドーパントが半導体基板の裏面に拡散されてしまう問題は、太陽電池の性能低下の1つの要因となり、性能のばらつきの原因となっていた。すなわち、例えば、リンをドーパントとして用いる場合、P型基板の裏面にリンが拡散されると、拡散電位が下がり開放電圧が下がって太陽電池の性能が低下していた。したがって、高効率の太陽電池を安定して製造するためには、エミッタ層形成の熱処理時に、半導体基板の裏面にドーパントが回り込むことを極力避ける必要がある。
【0007】
半導体基板の裏面へのドーパントの拡散を防止する技術として、半導体基板を保持する熱処理用ボートの梁に形成する溝に着目し、螺旋状溝を有し、ボート本体に固定されず回転可能な梁を使うことで、他のボート本体に固定された梁に設けられた溝と位置を変えることができる機能を有する熱処理用ボートがある(特許文献2を参照。)。この熱処理用ボートを用いた場合、半導体基板と接触する螺旋状溝が設けられた梁を回転させることで、位置が固定された他の梁の溝に対する相対位置が変化し、重ね合わせた半導体基板同士を締め付けることができ、基板同士の隙間が開かなくなり、拡散熱処理時のドーパントの裏面への回り込みが抑制される。
しかし、締め付け具合が弱いと回り込み抑制効果が不充分となり、締め付け具合が強すぎると締め付け箇所からワレ不良が多発するなど別の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−162518号公報
【特許文献2】特開2006−86243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、同一形状の半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に、半導体基板同士のズレを抑制し、また半導体基板の間に隙間を発生させることなく保持できる熱処理用ボートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の1つの側面に係る熱処理用ボートは、同一形状の角形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該角形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、少なくとも、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、前記基板固定具は、溝を介して前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する熱処理用ボートである。
本発明の他の側面に係る熱処理用ボートは、同一形状の丸形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、少なくとも、前記1組の丸形半導体基板の周縁部と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、前記基板固定具は、溝を介して前記1組の丸形半導体基板の中心よりも高い位置から当該1組の丸形半導体基板を中心方向へ加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の丸形半導体基板の中心よりも低い位置から当該1組の丸形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する熱処理用ボートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による熱処理ボートを使用すれば、従来の熱処理ボートを使用する場合に生じた半導体基板の位置ズレを抑制し隙間を無くすことができる。その結果、ドーパントの裏面への拡散が抑制されるとともに、重ね合わせた基板同士を締め付け過ぎることも無いので、安定した歩留りで拡散熱処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の熱処理用ボートの一態様を示す(a)平面図、および、(b)断面図である。
【図2】図1の熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した状態の(a)平面図、および、(b)側面図である。
【図3】本発明の熱処理用ボートの他の態様を示す(a)平面図、および、(b)断面図である。
【図4】図3の熱処理用ボートに丸形半導体基板を搭載した状態の(a)平面図、および、(b)側面図である。
【図5】実施例1の開放面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図6】実施例2の開放面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図7】実施例1の重ね合わせ面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図8】実施例2の重ね合わせ面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図9】一般的な熱処理用ボートの(a)平面図、および、(b)断面図である。
【図10】図9の熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した状態の(a)平面図、および、(b)側面図である。
【図11】一般的な熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した際、基板同士にズレが生じた場合の一例を示す模式図である。
【図12】一般的な熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した際、熱処理による反りで基板同士に隙間が生じた場合の一例を示す模式図である。
【図13】比較例の開放面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図14】比較例の重ね合わせ面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる熱処理用ボートについて説明する。
まず、同一形状の角形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、四角形以上の多角形形状を有する半導体基板を固定対象とする。対象となる半導体基板は、必ずしも正方形形状でなくともよく、正方形の頂点となる部分が切り落とされた擬似正方形形状でもよい。また、長方形形状やその頂点となる部分が切り落とされた擬似長方形形状でもよく、六角形や八角形といった形状でもよい。これらの半導体基板は、非熱処理面を裏面とし、裏面が熱処理されないよう同一形状の半導体基板の裏面同士をあらかじめ静電気等によって2枚1組で重ね合わせて、表面を熱処理する。
このような形状の半導体基板を固定する熱処理用ボートは、少なくとも基板固定具と、当該基板固定具を固定し熱処理用ボート自体の機械的強度を保つため、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有する。
基板固定具は、梁の役割を果たすものであり、支持板は、基板固定具の両端に連結されて基板固定具を支持するとともに、熱処理用ボートそのものの機械的強度を保持する側板の役割を果たすものである。
そして、当該基板固定具は、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える。各辺と接触する溝は、好ましくは2箇所以上あれば、角形半導体基板の固定がより容易となる。
前記基板固定具は、溝を介して前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する。第1基板固定具が角形半導体基板の重心よりも高い位置から、非鉛直方向へ角形半導体基板を加圧すると、角形半導体基板も非鉛直方向へ加圧する力が生じる。第2基板固定具は角形半導体基板の重心よりも低い位置にあることから、第1基板固定具と角形半導体基板の加圧の力と自重とを受けとめ、支えることとなる。このような第1基板固定具の上からの加圧と、第2基板固定具の下からの支持によって、角形半導体基板が固定されることとなる。
【0014】
第1基板固定具の素材として、例えば熱の影響を受けにくいが、可とう性に優れている耐熱性弾性体等の可とう性材料を用いれば、第1基板固定具が角形半導体基板を加圧することができる。耐熱性弾性体としては、例えば、カーボン/カーボンコンポジェット製、または黒鉛シート製、もしくは耐熱金属製であることが好ましい。
【0015】
上記角形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、角形半導体基板の頂点部分が下向きとなるように固定することが好ましい。頂点部分には、多角形の頂点のみならず、擬似多角形形状である場合の頂点となる部分が切り落とされた部分も含まれる。
上記頂点部分が下向きとなるように固定する場合、第1基板固定具が角形半導体基板の少なくとも2辺から角形半導体基板を非鉛直方向に加圧することができ、また、第2基板固定具が角形半導体基板の少なくとも2辺から角形半導体基板を支持することができるため、熱処理用ボートは、角形半導体基板をより確実に固定することができる。
【0016】
次に、丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートについて説明する。
同一形状の丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、真円や楕円等といった丸形の半導体基板を固定対象とする。角形半導体基板と同様に、非熱処理面を裏面とし、裏面が熱処理されないよう同一形状の半導体基板の裏面同士をあらかじめ静電気等によって2枚1組で重ね合わせて、表面を熱処理する。
このような形状の半導体基板を固定する熱処理用ボートは、少なくとも基板固定具と、当該基板固定具を固定し熱処理用ボート自体の機械的強度を保つため、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有する。
そして、当該基板固定具は、前記1組の丸形半導体基板の周縁部と接触する溝を備える。前記基板固定具は、溝を介して前記1組の丸形半導体基板の中心よりも高い位置から当該1組の丸形半導体基板を中心方向へ加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の丸形半導体基板の中心よりも低い位置から当該1組の丸形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する。第1基板固定具が丸形半導体基板の中心よりも高い位置から、丸形半導体基板を中心方向へ加圧すると、丸形半導体基板も中心から外方向へ加圧する力が生じる。第2基板固定具は丸形半導体基板の中心よりも低い位置にあることから、第1基板固定具と角形半導体基板の加圧の力と自重とを受けとめ、支えることとなる。このような第1基板固定具の上からの加圧と第2基板固定具の下からの支持によって、丸形半導体基板が固定されることとなる。
【0017】
角形半導体基板の場合と同様に、第1基板固定具の素材として、例えば熱の影響を受けにくいが、可とう性に優れている耐熱性弾性体等の可とう性材料を用いれば、第1基板固定具が丸形半導体基板を加圧することができる。耐熱性弾性体としては、例えば、カーボン/カーボンコンポジェット製、または黒鉛シート製、もしくは耐熱金属製であることが好ましい。
【0018】
本発明の角形半導体基板または丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートの基板固定具が備える溝は、その幅が2枚1組で重ね合わせた半導体基板の合計厚さ以上あればよい。合計厚さ以上あれば、半導体基板が溝に収まるからである。例えば厚さ200μmの半導体基板を2枚1組で重ね合わせて熱処理を行う場合、溝の幅は少なくとも400μm以上あればよい。一方、生産性の観点から、1つのボートになるべく多くの半導体基板を搭載して熱処理するには、隣り合う溝同士のピッチを狭める必要がある為、溝の幅があまり広すぎると溝ピッチを狭めることができなくなり、生産性が悪くなる。従って、実用的には溝の幅は100〜1000μm程度であることが望ましい。
【0019】
なお、溝は、熱処理用ボートとして基板を固定できるものであれば、必ずしも平たい底面を有している必要はない。したがって、角形半導体基板の各辺や丸形半導体基板の周縁部と、溝の底面とがぴったりと接触している必要はなく、例えば、角形半導体基板の各辺と点接触するような溝の底面形状であってよい。溝は、基板固定具を石英等の材料で構成する場合は、ガラス加工器、研磨器等を使用して、所定の径の棒状に加工することができる。
【0020】
本発明の角形半導体基板または丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、半導体基板を加圧する第1基板固定具を備える第1ボートと、半導体基板を支持する第2基板固定具を備える第2ボートとに物理的に分割されている構造を取ることができ、これらのボート1対で1つの熱処理用ボートとして使用することができる。分割した構造を取ることにより、半導体基板を梁で挟み込んで固定することが容易となる。
このような熱処理用ボートとしては、第1ボートと第2ボートが上下に2分割されている構造のものや、左右に2分割されている構造のものが考えられ、第1ボート〜第3ボートの3分割に分割されている構造等も取ることができる。
【0021】
上記のように熱処理用ボートが第1ボートと第2ボートからなる場合において、第1ボートと第2ボートが上下に2分割されている構造のものであれば、第1ボートの自重により第1基板固定具が半導体基板を加圧し、かつ前記第1ボートの自重および前記半導体基板の自重を受けて前記第2基板固定具が前記半導体基板を支持することができ、重力を利用して半導体基板を固定できるため、好ましい。
【0022】
第1ボートと第2ボートは、上下対称な構造であることが好ましい。上下対称な構造であれば、熱処理用ボートを炉内に設置したときにガスの流れが一定となり、半導体基板のシート抵抗の面内バラツキを抑制することができるからである。上下対称な構造としては、例えば第1ボートと第2ボートが鏡面対称の構造のものや、回転対称の構造のものが挙げられる。
【0023】
本発明の熱処理用ボートは、基板固定具を含めて、例えば、高純度石英や高純度SiCなどで作ることができる。コストの面からは高純度石英を使用することが望ましい。
【0024】
上記のようにして熱処理用ボートに搭載された2枚1組の半導体基板に対するドーパントの拡散方法は、オキシ塩化リンやジボラン等を用いた気相拡散法でもよく、リン酸やホウ酸等を溶かした液体を用いたスピン塗布法又は印刷法又はインクジェット法でもよい。
いずれの方法であっても、本発明の熱処理用ボートを用いることで半導体基板を重ね合わせた面側に、意図しないドーパントが拡散することを防ぐことができる。
【0025】
以下、熱処理用ボートについて、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。この場合において、本発明は図面の実施形態に限定されるものではない。また、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
図1に示す熱処理用ボート1の一例は、角形半導体基板を固定する熱処理用ボートである。上部ボート8と下部ボート9とに物理的に分離されており、上下対称(2回転対称)な構造であるこれらのボート1対で1つの熱処理用ボートとして使用する。上部ボート8は、4本の基板固定具(梁)3aと当該基板固定具3a同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3aの両端に連結される支持板(側板)2aから構成され、4本の基板固定具3aの内側には角形半導体基板の上側の2辺とそれぞれ2箇所ずつ接触して半導体基板を固定するための溝5e〜5hが設けられている。
一方、下部ボート9は、4本の基板固定具(梁)3bと当該基板固定具3b同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3bの両端に連結される支持板(側板)2bから構成され、4本の基板固定具3bの内側には角形半導体基板の下側の2辺と接触して半導体基板を固定するための溝5a〜5dが設けられている。
【0027】
図1の熱処理用ボートを使用する際は、まず、あらかじめ静電気によって裏面同士を2枚1組で重ね合わせた角形半導体基板7の2つの下辺を、図2に示す様に、頂点部分7aが下向きとなるように下部ボード9の基板固定具3bの溝5a〜5dに差し込むことにより、角形半導体基板7の自重で下辺が下部ボード9により支持される。重ね合わせた基板同士のズレは、基板の自重により解消される。
続いて、下部ボード9により支持された角形半導体基板7の2つの上辺に、上部ボード8の基板固定具3aの溝5e〜5hを合わせ入れる。
上記構成により、上部ボート8は、自重により基板固定具3aを介して角形半導体基板7を非鉛直方向に加圧し、下部ボート9は、上部ボード8および角形半導体基板7の自重を受け、基板固定具3bを介して角形半導体基板7を支持することとなり、角形半導体基板7が固定される。このように2枚1組の角形半導体基板7がズレることなく固定されれば、ドーパントの裏面への拡散を抑制しつつ、安定した歩留りで拡散熱処理を行うことができる。
【0028】
図3に示す熱処理用ボート1の一例は、丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートである。上部ボート8と下部ボート9とに物理的に分離されており、上下対称な構造であるこれらのボート1対で1つの熱処理用ボートとして使用する。上部ボート8は、4本の基板固定具3aと当該基板固定具3a同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3aの両端に連結される支持板2aから構成され、4本の基板固定具3aの内側には角形半導体基板の上側の2辺とそれぞれ2箇所ずつ接触して半導体基板を固定するための溝5e〜5hが設けられている。
一方、下部ボート9は、4本の基板固定具3bと当該基板固定具3b同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3bの両端に連結される支持板2bから構成され、4本の基板固定具3bの内側には丸形半導体基板の周縁部と接触して半導体基板を固定するための溝5a〜5dが設けられている。
【0029】
図3の熱処理用ボートを使用する際は、まず、あらかじめ静電気によって裏面同士を2枚1組で重ね合わせた丸形半導体基板7の周縁部7bの下側を、図4に示す様に、下部ボード9の基板固定具3bの溝5a〜5dに差し込むことにより、丸形半導体基板7の自重で下部ボード9により支持される。重ね合わせた基板同士のズレは、基板の自重により解消される。
続いて、下部ボード9により支持された丸形半導体基板7の周縁部の上側に、上部ボード8の基板固定具3aの溝5e〜5hを合わせ入れる。
上記構成により、上部ボート8は、自重により基板固定具3aを介して丸形半導体基板7を中心方向に加圧し、下部ボート9は、上部ボード8および丸形半導体基板7の自重を受け、基板固定具3bを介して丸形半導体基板7を支持することとなり、丸形半導体基板7が固定される。このように2枚1組の丸形半導体基板7がズレることなく固定されれば、ドーパントの裏面への拡散を抑制しつつ、安定した歩留りで拡散熱処理を行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
まず、角形半導体基板として、一辺の長さが156mmの正方形、厚さ200μm、面方位(100)、CZ法で製造されたボロンドープp型、比抵抗1〜3Ω・cmのラップドウェーハを準備した。
次に上記の角型半導体基板を搭載し拡散熱処理する為、高純度石英を用いて図1に示した様な熱処理用ボート1を作製した。基板を固定する基板固定具(梁)は、長さ172mm直径10mmの円柱を8本用意した。これらの基板固定具の端から16mmの位置に最初の溝の中央が来るように位置合わせし、そこから隣り合う溝同士のピッチが2.5mmとなる様に基板固定具1本あたりに56溝切り込み加工を行った。なお、溝の深さは3.5mm、溝底幅1000μmに加工した。
図2に示した様に、正方形の半導体基板のそれぞれの辺の各2箇所ずつと均等に接触できるよう、溝5aと5b、溝5cと5d、溝5eと5f、溝5gと5hをペアとした。各ペアの溝を有する基板固定具3同士の間隔は78mmとした。次に溝5aと5b及び溝5cと5dが加工された基板固定具3bを、溝5aと5b及び溝5cと5dが90°の角度をなして基板側に向くように支持板(側板)2bで固定して下部ボート9とした。また、溝5eと5f及び溝5gと5hが加工された基板固定具3aを、溝5eと5f及び溝5gと5hが90°の角度をなして基板側に向くように支持板2aで固定して上部ボート8とした。
上記の正方形のp型半導体基板7を、下部ボート9の基板固定具3bの各溝に1つの溝あたり2枚ずつ重ね合わせた状態で搭載し、合計112枚(56組)並べた。p型半導体基板7の自重によって、p型半導体基板7の下側2辺が、下部ボート9の基板固定具3bの溝5a〜5dに固定された。
次に、上記で並べたp型半導体基板7の上側2辺に、上部ボート8の基板固定具3aの溝を合わせて載せた。上部ボート8の自重によってp型半導体基板7の上側2辺が上部ボート8の基板固定具3aの溝5e〜5hに固定された。
次に、外径410mm、内径400mm、長さ3500mm、片側に内径400mmの開口部を持つ石英製炉芯管が搭載された熱処理炉で、拡散熱処理を行った。
熱処理炉は常時830℃にセットし、ボート挿入後、40分間リンのデポジションを行い、続いて17分間ドライブインを行い、ボート取出しを行った。
熱処理時のガス組成は、リンのデポジション中は窒素20L/分と酸素0.3L/分とオキシ塩化リン(POCl3)0.45L/分の混合ガスとし、それ以外の待機中及び蓋開閉時及びボート挿入・取出し時及びドライブイン中は、窒素20L/分と酸素0.3L/分の混合ガスとした。
【0031】
(実施例2)
丸形半導体基板として、直径150mm、厚さ200μm、面方位(100)、CZ法で製造されたボロンドープp型、比抵抗1〜3Ω・cmのラップドウェーハを準備した。
上記の丸形半導体基板を搭載し拡散熱処理する為、高純度石英を用いて図3に示した様な熱処理用ボート1を作製した。基板を固定する基板固定具(梁)は、長さ172mm直径10mmの円柱を8本用意した。これらの基板固定具の端から16mmの位置に最初の溝の中央が来るように位置合わせし、そこから隣り合う溝同士のピッチが2.5mmとなる様に基板固定具1本あたりに56溝切り込み加工を行った。なお、溝の深さは3.5mm、溝底幅1000μmに加工した。
図4に示した様に、上記丸形半導体基板の周縁部と接触できるよう、溝5aと5b、溝5cと5d、溝5eと5f、溝5gと5hをペアとした。溝5a〜5hの向きが丸型半導体基板の中心に向かうように回転させ、各ペアの溝を有する基板固定具3同士の間隔は78mmとした。溝5a〜5dが加工された基板固定具3bを溝5a〜5dが丸型半導体基板の中心に向かう位置関係を保ったまま支持板2bで固定して下部ボート9とした。溝5e〜5hが加工された基板固定具3aを溝5e〜5hが丸型半導体基板の中心に向かう位置関係を保ったまま支持板2aで固定して上部ボート8とした。
上記の丸型のp型半導体基板7を、下部ボート9の基板固定具3bの各溝5a〜5dに1つの溝あたり2枚ずつ重ね合わせた状態で搭載し、合計112枚(56組)並べた。p型半導体基板7の自重によって、下部ボート9の基板固定具3bの溝5a〜5dに固定された。
次に、上記で並べたp型半導体基板7の上側に、上部ボート8の基板固定具3aの溝5e〜5hを合わせて載せた。上部ボート8の自重によってp型半導体基板7の上側が基板固定具3aの溝5e〜5hに固定された。
次に、外径410mm、内径400mm、長さ3500mm、片側に内径400mmの開口部を持つ石英製炉芯管が搭載された熱処理炉で、拡散熱処理を行った。
熱処理炉は常時830℃にセットし、ボート挿入後、40分間リンのデポジションを行い、続いて17分間ドライブインを行い、ボート取出しを行った。
熱処理時のガス組成は、リンのデポジション中は窒素20L/分と酸素0.3L/分とオキシ塩化リン(POCl3)0.45L/分の混合ガスとし、それ以外の待機中及び蓋開閉時及びボート挿入・取出し時及びドライブイン中は、窒素20L/分と酸素0.3L/分の混合ガスとした。
【0032】
(比較例)
角形半導体基板として、一辺の長さが156mmの正方形、厚さ200μm、面方位(100)、CZ法で製造されたボロンドープp型、比抵抗1〜3Ω・cmのラップドウェーハを準備した。
上記のp型半導体基板を搭載し拡散熱処理する為、高純度石英を用いて図9に示した様な熱処理用ボート100を作製した。基板を固定する基板固定具(梁)は、長さ172mm直径10mmの円柱を4本用意した。これらの基板固定具の端から16mmの位置に最初の溝の中央が来るように位置合わせし、そこから隣り合う溝同士のピッチが2.5mmとなる様に基板固定具1本あたりに56溝切り込み加工を行った。なお、溝の深さは3.5mm、溝底幅1000μmに加工した。
図10に示した様に、正方形のp型半導体基板107の下側の辺を2箇所ずつ、側辺を各1箇所保持できるように梁103a〜103dを調整した。溝105bと溝105cの梁103同士の間隔は78mmとした。溝105aと溝105dの溝の向きが向かい合う様にし、溝底間隔を159mmとした。上記位置関係を保ったまま側板102で固定して一般的な熱処理用ボートとした。
上記の正方形のp型半導体基板107を、下部の梁103c、103dの各溝に1つの溝あたり2枚ずつ重ね合わせた状態で搭載し、合計112枚(56組)並べた。p型半導体基板107の自重によって下側1辺が、溝に固定された。p型半導体基板107の側辺を押し、溝105a側に押し込んで固定した。溝105d側は固定されず、辺から溝底まで約3mmの遊びができた。
次に外径410mm、内径400mm、長さ3500mm、片側に内径400mmの開口部を持つ石英製炉芯管が搭載された熱処理炉で、拡散熱処理を行った。
熱処理炉は常時830℃にセットし、ボート挿入後、40分間リンのデポジションを行い、続いて17分間ドライブインを行い、ボート取出しを行った。
熱処理時のガス組成は、リンのデポジション中は窒素20L/分と酸素0.3L/分とオキシ塩化リン(POCl3)0.45L/分の混合ガスとし、それ以外の待機中及び蓋開閉時及びボート挿入・取出し時及びドライブイン中は、窒素20L/分と酸素0.3L/分の混合ガスとした。
【0033】
上述の実施例1、2及び比較例により拡散熱処理を行い、得られた半導体基板について以下の方法で評価を行った。
拡散熱処理の終わった半導体基板を、25%HFに4分間浸漬しガラス膜を除去、純水リンスし、乾燥させ、4探針法でシート抵抗測定を行った。シート抵抗測定は、2枚に重ねた半導体基板の開放面側(処理面側)と重ね合わせ面側(裏面側)の両方について測定した。正方形の半導体基板は、向かい合う辺の中央を横断する様に、2mmピッチで測定した。丸形の半導体基板は、ある点から直径150mmを2mmピッチで測定し、これと直交するもう1本の150mmの直線上を2mmピッチで測定した。図中、縦方向、横方向の測定は、それぞれ測定を開始したエッジからの距離が大きくなるにつれて、熱処理時の基板の鉛直方向上方に向かうように測定した。この場合の縦方向とはボードの開口部と1平行な方向であり、横方向とはそれに直交する方向を示す。
表1、図5、図6および図13に、実施例1,実施例2および比較例で得られた基板の開放面側のシート抵抗測定結果を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1、2及び比較例、何れも熱処理用ボートを用いた場合も、開放面側は略同等のシート抵抗を示した。
【0036】
表2、図7、図8および図14に、実施例1、実施例2および比較例で得られた基板の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。
【0037】
【表2】
【0038】
図7に実施例1の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。一部、測定できない点があった。リンの回り込みによりp型半導体基板がn型に充分反転していない為であると考えられる。
図8に実施例2の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。一部、測定できない点があった。リンの回り込みによりp型基板がn型に充分反転していない為であると考えられる。
図14に比較例の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。基板エッジ付近は開放面側と同程度のシート抵抗を示す所もあった。これはリンの回り込みがある為であると考えられる。
【0039】
以上のように比較例に対して実施例1及び2は、シート抵抗の平均値が高く、重ね合わせ面側へのリンの回り込みが抑制されていることが示唆された。
【符号の説明】
【0040】
1 熱処理用ボート
100 従来の熱処理用ボート
2、2a、2b 支持板(側板)
102 側板
3、3a、3b 基板固定具(梁)
103a、103b、103c、103d 梁
5、5a、5b、5c、5d、5e、5f、5g、5h、105a、105b、105c、105d 溝
7、107 半導体基板
7a 頂点部分
7b 周縁部
8 上部ボート
9 下部ボート
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一形状の半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に、半導体基板を固定するための熱処理用ボートに関するものであり、特に、太陽電池のエミッタ層を形成するための熱処理時に、半導体基板を固定する熱処理用ボートに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、一般に半導体基板の受光面側表面にドーパントを拡散させたエミッタ層が形成されている。例えば、P型シリコン基板の受光面にはリンを拡散させエミッタ層を形成している。このエミッタ層形成のための熱処理工程は、生産性向上のため2枚の半導体基板を重ねて行われることが多い(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
太陽電池用の半導体基板を拡散炉内で熱処理するための冶具として、例えば図9のような熱処理用ボートが一般的に用いられていた。すなわち、図9の熱処理用ボートは、4本の梁103a、103b、103c、103dと、該梁同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為の側板102なる部分から構成され、4本の梁の内側には半導体基板を搭載する為の溝105a、105b、105c、105dが複数箇所設けられている。使用する際は、図10に示すように上部から2枚の半導体基板107同士を重ねて溝105a、105b、105c、105dに沿って挿入し、半導体基板を梁で保持するものである。
【0004】
しかしながら、図9の様な一般的に使用されている熱処理用ボートを用いた場合、半導体基板107を挿入するために、角形半導体基板の向かい合う辺と接触する溝105aと溝105bの溝底間の距離が、これに搭載される角形半導体基板の寸法より大きくなるように遊びをもたせて設計されている。そのため、例えば図11の様に重ね合わせた半導体基板同士がズレて搭載されてしまうと、角形半導体基板の裏面にドーパントが拡散されることとなる。
また、図12の様に片側の溝底にのみ接触し、もう一方の溝底には接触しない状態で搭載されてしまうと、熱処理によって角形半導体基板に反りが発生した場合に、溝底で固定されていない側のエッジや基板上部側が開いてしまう。この状態でドーパントの拡散熱処理を行うと、反りにより生じた隙間からドーパントが回りこみ、角形半導体基板の裏面に拡散されることとなる。
【0005】
また、前記一般的に使用されている熱処理用ボートを用いた拡散処理では、ドーパントが均一に拡散されない場合があり、半導体基板のシート抵抗のバラツキが大きくなるという問題があった。
【0006】
ドーパントが半導体基板の裏面に拡散されてしまう問題は、太陽電池の性能低下の1つの要因となり、性能のばらつきの原因となっていた。すなわち、例えば、リンをドーパントとして用いる場合、P型基板の裏面にリンが拡散されると、拡散電位が下がり開放電圧が下がって太陽電池の性能が低下していた。したがって、高効率の太陽電池を安定して製造するためには、エミッタ層形成の熱処理時に、半導体基板の裏面にドーパントが回り込むことを極力避ける必要がある。
【0007】
半導体基板の裏面へのドーパントの拡散を防止する技術として、半導体基板を保持する熱処理用ボートの梁に形成する溝に着目し、螺旋状溝を有し、ボート本体に固定されず回転可能な梁を使うことで、他のボート本体に固定された梁に設けられた溝と位置を変えることができる機能を有する熱処理用ボートがある(特許文献2を参照。)。この熱処理用ボートを用いた場合、半導体基板と接触する螺旋状溝が設けられた梁を回転させることで、位置が固定された他の梁の溝に対する相対位置が変化し、重ね合わせた半導体基板同士を締め付けることができ、基板同士の隙間が開かなくなり、拡散熱処理時のドーパントの裏面への回り込みが抑制される。
しかし、締め付け具合が弱いと回り込み抑制効果が不充分となり、締め付け具合が強すぎると締め付け箇所からワレ不良が多発するなど別の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−162518号公報
【特許文献2】特開2006−86243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、同一形状の半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に、半導体基板同士のズレを抑制し、また半導体基板の間に隙間を発生させることなく保持できる熱処理用ボートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものである。すなわち、本発明の1つの側面に係る熱処理用ボートは、同一形状の角形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該角形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、少なくとも、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、前記基板固定具は、溝を介して前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する熱処理用ボートである。
本発明の他の側面に係る熱処理用ボートは、同一形状の丸形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、少なくとも、前記1組の丸形半導体基板の周縁部と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、前記基板固定具は、溝を介して前記1組の丸形半導体基板の中心よりも高い位置から当該1組の丸形半導体基板を中心方向へ加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の丸形半導体基板の中心よりも低い位置から当該1組の丸形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する熱処理用ボートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明による熱処理ボートを使用すれば、従来の熱処理ボートを使用する場合に生じた半導体基板の位置ズレを抑制し隙間を無くすことができる。その結果、ドーパントの裏面への拡散が抑制されるとともに、重ね合わせた基板同士を締め付け過ぎることも無いので、安定した歩留りで拡散熱処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の熱処理用ボートの一態様を示す(a)平面図、および、(b)断面図である。
【図2】図1の熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した状態の(a)平面図、および、(b)側面図である。
【図3】本発明の熱処理用ボートの他の態様を示す(a)平面図、および、(b)断面図である。
【図4】図3の熱処理用ボートに丸形半導体基板を搭載した状態の(a)平面図、および、(b)側面図である。
【図5】実施例1の開放面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図6】実施例2の開放面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図7】実施例1の重ね合わせ面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図8】実施例2の重ね合わせ面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図9】一般的な熱処理用ボートの(a)平面図、および、(b)断面図である。
【図10】図9の熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した状態の(a)平面図、および、(b)側面図である。
【図11】一般的な熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した際、基板同士にズレが生じた場合の一例を示す模式図である。
【図12】一般的な熱処理用ボートに角形半導体基板を搭載した際、熱処理による反りで基板同士に隙間が生じた場合の一例を示す模式図である。
【図13】比較例の開放面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【図14】比較例の重ね合わせ面側のシート抵抗を縦方向および横方向から測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明にかかる熱処理用ボートについて説明する。
まず、同一形状の角形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、四角形以上の多角形形状を有する半導体基板を固定対象とする。対象となる半導体基板は、必ずしも正方形形状でなくともよく、正方形の頂点となる部分が切り落とされた擬似正方形形状でもよい。また、長方形形状やその頂点となる部分が切り落とされた擬似長方形形状でもよく、六角形や八角形といった形状でもよい。これらの半導体基板は、非熱処理面を裏面とし、裏面が熱処理されないよう同一形状の半導体基板の裏面同士をあらかじめ静電気等によって2枚1組で重ね合わせて、表面を熱処理する。
このような形状の半導体基板を固定する熱処理用ボートは、少なくとも基板固定具と、当該基板固定具を固定し熱処理用ボート自体の機械的強度を保つため、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有する。
基板固定具は、梁の役割を果たすものであり、支持板は、基板固定具の両端に連結されて基板固定具を支持するとともに、熱処理用ボートそのものの機械的強度を保持する側板の役割を果たすものである。
そして、当該基板固定具は、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える。各辺と接触する溝は、好ましくは2箇所以上あれば、角形半導体基板の固定がより容易となる。
前記基板固定具は、溝を介して前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する。第1基板固定具が角形半導体基板の重心よりも高い位置から、非鉛直方向へ角形半導体基板を加圧すると、角形半導体基板も非鉛直方向へ加圧する力が生じる。第2基板固定具は角形半導体基板の重心よりも低い位置にあることから、第1基板固定具と角形半導体基板の加圧の力と自重とを受けとめ、支えることとなる。このような第1基板固定具の上からの加圧と、第2基板固定具の下からの支持によって、角形半導体基板が固定されることとなる。
【0014】
第1基板固定具の素材として、例えば熱の影響を受けにくいが、可とう性に優れている耐熱性弾性体等の可とう性材料を用いれば、第1基板固定具が角形半導体基板を加圧することができる。耐熱性弾性体としては、例えば、カーボン/カーボンコンポジェット製、または黒鉛シート製、もしくは耐熱金属製であることが好ましい。
【0015】
上記角形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、角形半導体基板の頂点部分が下向きとなるように固定することが好ましい。頂点部分には、多角形の頂点のみならず、擬似多角形形状である場合の頂点となる部分が切り落とされた部分も含まれる。
上記頂点部分が下向きとなるように固定する場合、第1基板固定具が角形半導体基板の少なくとも2辺から角形半導体基板を非鉛直方向に加圧することができ、また、第2基板固定具が角形半導体基板の少なくとも2辺から角形半導体基板を支持することができるため、熱処理用ボートは、角形半導体基板をより確実に固定することができる。
【0016】
次に、丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートについて説明する。
同一形状の丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、真円や楕円等といった丸形の半導体基板を固定対象とする。角形半導体基板と同様に、非熱処理面を裏面とし、裏面が熱処理されないよう同一形状の半導体基板の裏面同士をあらかじめ静電気等によって2枚1組で重ね合わせて、表面を熱処理する。
このような形状の半導体基板を固定する熱処理用ボートは、少なくとも基板固定具と、当該基板固定具を固定し熱処理用ボート自体の機械的強度を保つため、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有する。
そして、当該基板固定具は、前記1組の丸形半導体基板の周縁部と接触する溝を備える。前記基板固定具は、溝を介して前記1組の丸形半導体基板の中心よりも高い位置から当該1組の丸形半導体基板を中心方向へ加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、前記1組の丸形半導体基板の中心よりも低い位置から当該1組の丸形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、少なくとも有する。第1基板固定具が丸形半導体基板の中心よりも高い位置から、丸形半導体基板を中心方向へ加圧すると、丸形半導体基板も中心から外方向へ加圧する力が生じる。第2基板固定具は丸形半導体基板の中心よりも低い位置にあることから、第1基板固定具と角形半導体基板の加圧の力と自重とを受けとめ、支えることとなる。このような第1基板固定具の上からの加圧と第2基板固定具の下からの支持によって、丸形半導体基板が固定されることとなる。
【0017】
角形半導体基板の場合と同様に、第1基板固定具の素材として、例えば熱の影響を受けにくいが、可とう性に優れている耐熱性弾性体等の可とう性材料を用いれば、第1基板固定具が丸形半導体基板を加圧することができる。耐熱性弾性体としては、例えば、カーボン/カーボンコンポジェット製、または黒鉛シート製、もしくは耐熱金属製であることが好ましい。
【0018】
本発明の角形半導体基板または丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートの基板固定具が備える溝は、その幅が2枚1組で重ね合わせた半導体基板の合計厚さ以上あればよい。合計厚さ以上あれば、半導体基板が溝に収まるからである。例えば厚さ200μmの半導体基板を2枚1組で重ね合わせて熱処理を行う場合、溝の幅は少なくとも400μm以上あればよい。一方、生産性の観点から、1つのボートになるべく多くの半導体基板を搭載して熱処理するには、隣り合う溝同士のピッチを狭める必要がある為、溝の幅があまり広すぎると溝ピッチを狭めることができなくなり、生産性が悪くなる。従って、実用的には溝の幅は100〜1000μm程度であることが望ましい。
【0019】
なお、溝は、熱処理用ボートとして基板を固定できるものであれば、必ずしも平たい底面を有している必要はない。したがって、角形半導体基板の各辺や丸形半導体基板の周縁部と、溝の底面とがぴったりと接触している必要はなく、例えば、角形半導体基板の各辺と点接触するような溝の底面形状であってよい。溝は、基板固定具を石英等の材料で構成する場合は、ガラス加工器、研磨器等を使用して、所定の径の棒状に加工することができる。
【0020】
本発明の角形半導体基板または丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートは、半導体基板を加圧する第1基板固定具を備える第1ボートと、半導体基板を支持する第2基板固定具を備える第2ボートとに物理的に分割されている構造を取ることができ、これらのボート1対で1つの熱処理用ボートとして使用することができる。分割した構造を取ることにより、半導体基板を梁で挟み込んで固定することが容易となる。
このような熱処理用ボートとしては、第1ボートと第2ボートが上下に2分割されている構造のものや、左右に2分割されている構造のものが考えられ、第1ボート〜第3ボートの3分割に分割されている構造等も取ることができる。
【0021】
上記のように熱処理用ボートが第1ボートと第2ボートからなる場合において、第1ボートと第2ボートが上下に2分割されている構造のものであれば、第1ボートの自重により第1基板固定具が半導体基板を加圧し、かつ前記第1ボートの自重および前記半導体基板の自重を受けて前記第2基板固定具が前記半導体基板を支持することができ、重力を利用して半導体基板を固定できるため、好ましい。
【0022】
第1ボートと第2ボートは、上下対称な構造であることが好ましい。上下対称な構造であれば、熱処理用ボートを炉内に設置したときにガスの流れが一定となり、半導体基板のシート抵抗の面内バラツキを抑制することができるからである。上下対称な構造としては、例えば第1ボートと第2ボートが鏡面対称の構造のものや、回転対称の構造のものが挙げられる。
【0023】
本発明の熱処理用ボートは、基板固定具を含めて、例えば、高純度石英や高純度SiCなどで作ることができる。コストの面からは高純度石英を使用することが望ましい。
【0024】
上記のようにして熱処理用ボートに搭載された2枚1組の半導体基板に対するドーパントの拡散方法は、オキシ塩化リンやジボラン等を用いた気相拡散法でもよく、リン酸やホウ酸等を溶かした液体を用いたスピン塗布法又は印刷法又はインクジェット法でもよい。
いずれの方法であっても、本発明の熱処理用ボートを用いることで半導体基板を重ね合わせた面側に、意図しないドーパントが拡散することを防ぐことができる。
【0025】
以下、熱処理用ボートについて、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。この場合において、本発明は図面の実施形態に限定されるものではない。また、実施の形態を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
【0026】
図1に示す熱処理用ボート1の一例は、角形半導体基板を固定する熱処理用ボートである。上部ボート8と下部ボート9とに物理的に分離されており、上下対称(2回転対称)な構造であるこれらのボート1対で1つの熱処理用ボートとして使用する。上部ボート8は、4本の基板固定具(梁)3aと当該基板固定具3a同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3aの両端に連結される支持板(側板)2aから構成され、4本の基板固定具3aの内側には角形半導体基板の上側の2辺とそれぞれ2箇所ずつ接触して半導体基板を固定するための溝5e〜5hが設けられている。
一方、下部ボート9は、4本の基板固定具(梁)3bと当該基板固定具3b同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3bの両端に連結される支持板(側板)2bから構成され、4本の基板固定具3bの内側には角形半導体基板の下側の2辺と接触して半導体基板を固定するための溝5a〜5dが設けられている。
【0027】
図1の熱処理用ボートを使用する際は、まず、あらかじめ静電気によって裏面同士を2枚1組で重ね合わせた角形半導体基板7の2つの下辺を、図2に示す様に、頂点部分7aが下向きとなるように下部ボード9の基板固定具3bの溝5a〜5dに差し込むことにより、角形半導体基板7の自重で下辺が下部ボード9により支持される。重ね合わせた基板同士のズレは、基板の自重により解消される。
続いて、下部ボード9により支持された角形半導体基板7の2つの上辺に、上部ボード8の基板固定具3aの溝5e〜5hを合わせ入れる。
上記構成により、上部ボート8は、自重により基板固定具3aを介して角形半導体基板7を非鉛直方向に加圧し、下部ボート9は、上部ボード8および角形半導体基板7の自重を受け、基板固定具3bを介して角形半導体基板7を支持することとなり、角形半導体基板7が固定される。このように2枚1組の角形半導体基板7がズレることなく固定されれば、ドーパントの裏面への拡散を抑制しつつ、安定した歩留りで拡散熱処理を行うことができる。
【0028】
図3に示す熱処理用ボート1の一例は、丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートである。上部ボート8と下部ボート9とに物理的に分離されており、上下対称な構造であるこれらのボート1対で1つの熱処理用ボートとして使用する。上部ボート8は、4本の基板固定具3aと当該基板固定具3a同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3aの両端に連結される支持板2aから構成され、4本の基板固定具3aの内側には角形半導体基板の上側の2辺とそれぞれ2箇所ずつ接触して半導体基板を固定するための溝5e〜5hが設けられている。
一方、下部ボート9は、4本の基板固定具3bと当該基板固定具3b同士を固定しボート自体の機械的強度を保つ為、基板固定具3bの両端に連結される支持板2bから構成され、4本の基板固定具3bの内側には丸形半導体基板の周縁部と接触して半導体基板を固定するための溝5a〜5dが設けられている。
【0029】
図3の熱処理用ボートを使用する際は、まず、あらかじめ静電気によって裏面同士を2枚1組で重ね合わせた丸形半導体基板7の周縁部7bの下側を、図4に示す様に、下部ボード9の基板固定具3bの溝5a〜5dに差し込むことにより、丸形半導体基板7の自重で下部ボード9により支持される。重ね合わせた基板同士のズレは、基板の自重により解消される。
続いて、下部ボード9により支持された丸形半導体基板7の周縁部の上側に、上部ボード8の基板固定具3aの溝5e〜5hを合わせ入れる。
上記構成により、上部ボート8は、自重により基板固定具3aを介して丸形半導体基板7を中心方向に加圧し、下部ボート9は、上部ボード8および丸形半導体基板7の自重を受け、基板固定具3bを介して丸形半導体基板7を支持することとなり、丸形半導体基板7が固定される。このように2枚1組の丸形半導体基板7がズレることなく固定されれば、ドーパントの裏面への拡散を抑制しつつ、安定した歩留りで拡散熱処理を行うことができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
まず、角形半導体基板として、一辺の長さが156mmの正方形、厚さ200μm、面方位(100)、CZ法で製造されたボロンドープp型、比抵抗1〜3Ω・cmのラップドウェーハを準備した。
次に上記の角型半導体基板を搭載し拡散熱処理する為、高純度石英を用いて図1に示した様な熱処理用ボート1を作製した。基板を固定する基板固定具(梁)は、長さ172mm直径10mmの円柱を8本用意した。これらの基板固定具の端から16mmの位置に最初の溝の中央が来るように位置合わせし、そこから隣り合う溝同士のピッチが2.5mmとなる様に基板固定具1本あたりに56溝切り込み加工を行った。なお、溝の深さは3.5mm、溝底幅1000μmに加工した。
図2に示した様に、正方形の半導体基板のそれぞれの辺の各2箇所ずつと均等に接触できるよう、溝5aと5b、溝5cと5d、溝5eと5f、溝5gと5hをペアとした。各ペアの溝を有する基板固定具3同士の間隔は78mmとした。次に溝5aと5b及び溝5cと5dが加工された基板固定具3bを、溝5aと5b及び溝5cと5dが90°の角度をなして基板側に向くように支持板(側板)2bで固定して下部ボート9とした。また、溝5eと5f及び溝5gと5hが加工された基板固定具3aを、溝5eと5f及び溝5gと5hが90°の角度をなして基板側に向くように支持板2aで固定して上部ボート8とした。
上記の正方形のp型半導体基板7を、下部ボート9の基板固定具3bの各溝に1つの溝あたり2枚ずつ重ね合わせた状態で搭載し、合計112枚(56組)並べた。p型半導体基板7の自重によって、p型半導体基板7の下側2辺が、下部ボート9の基板固定具3bの溝5a〜5dに固定された。
次に、上記で並べたp型半導体基板7の上側2辺に、上部ボート8の基板固定具3aの溝を合わせて載せた。上部ボート8の自重によってp型半導体基板7の上側2辺が上部ボート8の基板固定具3aの溝5e〜5hに固定された。
次に、外径410mm、内径400mm、長さ3500mm、片側に内径400mmの開口部を持つ石英製炉芯管が搭載された熱処理炉で、拡散熱処理を行った。
熱処理炉は常時830℃にセットし、ボート挿入後、40分間リンのデポジションを行い、続いて17分間ドライブインを行い、ボート取出しを行った。
熱処理時のガス組成は、リンのデポジション中は窒素20L/分と酸素0.3L/分とオキシ塩化リン(POCl3)0.45L/分の混合ガスとし、それ以外の待機中及び蓋開閉時及びボート挿入・取出し時及びドライブイン中は、窒素20L/分と酸素0.3L/分の混合ガスとした。
【0031】
(実施例2)
丸形半導体基板として、直径150mm、厚さ200μm、面方位(100)、CZ法で製造されたボロンドープp型、比抵抗1〜3Ω・cmのラップドウェーハを準備した。
上記の丸形半導体基板を搭載し拡散熱処理する為、高純度石英を用いて図3に示した様な熱処理用ボート1を作製した。基板を固定する基板固定具(梁)は、長さ172mm直径10mmの円柱を8本用意した。これらの基板固定具の端から16mmの位置に最初の溝の中央が来るように位置合わせし、そこから隣り合う溝同士のピッチが2.5mmとなる様に基板固定具1本あたりに56溝切り込み加工を行った。なお、溝の深さは3.5mm、溝底幅1000μmに加工した。
図4に示した様に、上記丸形半導体基板の周縁部と接触できるよう、溝5aと5b、溝5cと5d、溝5eと5f、溝5gと5hをペアとした。溝5a〜5hの向きが丸型半導体基板の中心に向かうように回転させ、各ペアの溝を有する基板固定具3同士の間隔は78mmとした。溝5a〜5dが加工された基板固定具3bを溝5a〜5dが丸型半導体基板の中心に向かう位置関係を保ったまま支持板2bで固定して下部ボート9とした。溝5e〜5hが加工された基板固定具3aを溝5e〜5hが丸型半導体基板の中心に向かう位置関係を保ったまま支持板2aで固定して上部ボート8とした。
上記の丸型のp型半導体基板7を、下部ボート9の基板固定具3bの各溝5a〜5dに1つの溝あたり2枚ずつ重ね合わせた状態で搭載し、合計112枚(56組)並べた。p型半導体基板7の自重によって、下部ボート9の基板固定具3bの溝5a〜5dに固定された。
次に、上記で並べたp型半導体基板7の上側に、上部ボート8の基板固定具3aの溝5e〜5hを合わせて載せた。上部ボート8の自重によってp型半導体基板7の上側が基板固定具3aの溝5e〜5hに固定された。
次に、外径410mm、内径400mm、長さ3500mm、片側に内径400mmの開口部を持つ石英製炉芯管が搭載された熱処理炉で、拡散熱処理を行った。
熱処理炉は常時830℃にセットし、ボート挿入後、40分間リンのデポジションを行い、続いて17分間ドライブインを行い、ボート取出しを行った。
熱処理時のガス組成は、リンのデポジション中は窒素20L/分と酸素0.3L/分とオキシ塩化リン(POCl3)0.45L/分の混合ガスとし、それ以外の待機中及び蓋開閉時及びボート挿入・取出し時及びドライブイン中は、窒素20L/分と酸素0.3L/分の混合ガスとした。
【0032】
(比較例)
角形半導体基板として、一辺の長さが156mmの正方形、厚さ200μm、面方位(100)、CZ法で製造されたボロンドープp型、比抵抗1〜3Ω・cmのラップドウェーハを準備した。
上記のp型半導体基板を搭載し拡散熱処理する為、高純度石英を用いて図9に示した様な熱処理用ボート100を作製した。基板を固定する基板固定具(梁)は、長さ172mm直径10mmの円柱を4本用意した。これらの基板固定具の端から16mmの位置に最初の溝の中央が来るように位置合わせし、そこから隣り合う溝同士のピッチが2.5mmとなる様に基板固定具1本あたりに56溝切り込み加工を行った。なお、溝の深さは3.5mm、溝底幅1000μmに加工した。
図10に示した様に、正方形のp型半導体基板107の下側の辺を2箇所ずつ、側辺を各1箇所保持できるように梁103a〜103dを調整した。溝105bと溝105cの梁103同士の間隔は78mmとした。溝105aと溝105dの溝の向きが向かい合う様にし、溝底間隔を159mmとした。上記位置関係を保ったまま側板102で固定して一般的な熱処理用ボートとした。
上記の正方形のp型半導体基板107を、下部の梁103c、103dの各溝に1つの溝あたり2枚ずつ重ね合わせた状態で搭載し、合計112枚(56組)並べた。p型半導体基板107の自重によって下側1辺が、溝に固定された。p型半導体基板107の側辺を押し、溝105a側に押し込んで固定した。溝105d側は固定されず、辺から溝底まで約3mmの遊びができた。
次に外径410mm、内径400mm、長さ3500mm、片側に内径400mmの開口部を持つ石英製炉芯管が搭載された熱処理炉で、拡散熱処理を行った。
熱処理炉は常時830℃にセットし、ボート挿入後、40分間リンのデポジションを行い、続いて17分間ドライブインを行い、ボート取出しを行った。
熱処理時のガス組成は、リンのデポジション中は窒素20L/分と酸素0.3L/分とオキシ塩化リン(POCl3)0.45L/分の混合ガスとし、それ以外の待機中及び蓋開閉時及びボート挿入・取出し時及びドライブイン中は、窒素20L/分と酸素0.3L/分の混合ガスとした。
【0033】
上述の実施例1、2及び比較例により拡散熱処理を行い、得られた半導体基板について以下の方法で評価を行った。
拡散熱処理の終わった半導体基板を、25%HFに4分間浸漬しガラス膜を除去、純水リンスし、乾燥させ、4探針法でシート抵抗測定を行った。シート抵抗測定は、2枚に重ねた半導体基板の開放面側(処理面側)と重ね合わせ面側(裏面側)の両方について測定した。正方形の半導体基板は、向かい合う辺の中央を横断する様に、2mmピッチで測定した。丸形の半導体基板は、ある点から直径150mmを2mmピッチで測定し、これと直交するもう1本の150mmの直線上を2mmピッチで測定した。図中、縦方向、横方向の測定は、それぞれ測定を開始したエッジからの距離が大きくなるにつれて、熱処理時の基板の鉛直方向上方に向かうように測定した。この場合の縦方向とはボードの開口部と1平行な方向であり、横方向とはそれに直交する方向を示す。
表1、図5、図6および図13に、実施例1,実施例2および比較例で得られた基板の開放面側のシート抵抗測定結果を示す。
【0034】
【表1】
【0035】
実施例1、2及び比較例、何れも熱処理用ボートを用いた場合も、開放面側は略同等のシート抵抗を示した。
【0036】
表2、図7、図8および図14に、実施例1、実施例2および比較例で得られた基板の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。
【0037】
【表2】
【0038】
図7に実施例1の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。一部、測定できない点があった。リンの回り込みによりp型半導体基板がn型に充分反転していない為であると考えられる。
図8に実施例2の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。一部、測定できない点があった。リンの回り込みによりp型基板がn型に充分反転していない為であると考えられる。
図14に比較例の重ね合わせ面側のシート抵抗測定結果を示す。基板エッジ付近は開放面側と同程度のシート抵抗を示す所もあった。これはリンの回り込みがある為であると考えられる。
【0039】
以上のように比較例に対して実施例1及び2は、シート抵抗の平均値が高く、重ね合わせ面側へのリンの回り込みが抑制されていることが示唆された。
【符号の説明】
【0040】
1 熱処理用ボート
100 従来の熱処理用ボート
2、2a、2b 支持板(側板)
102 側板
3、3a、3b 基板固定具(梁)
103a、103b、103c、103d 梁
5、5a、5b、5c、5d、5e、5f、5g、5h、105a、105b、105c、105d 溝
7、107 半導体基板
7a 頂点部分
7b 周縁部
8 上部ボート
9 下部ボート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一形状の角形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該角形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、
少なくとも、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、
前記基板固定具は、溝を介して前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、
前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、
少なくとも有する熱処理用ボート。
【請求項2】
前記角形半導体基板の頂点部分が下向きとなるように固定する請求項1記載の熱処理用ボート。
【請求項3】
同一形状の丸形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、
少なくとも、前記1組の丸形半導体基板の周縁部と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、
前記基板固定具は、溝を介して前記1組の丸形半導体基板の中心よりも高い位置から当該1組の丸形半導体基板を中心方向へ加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、
前記1組の丸形半導体基板の中心よりも低い位置から当該1組の丸形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、
少なくとも有する熱処理用ボート。
【請求項4】
前記溝の幅が、100μm〜1000μmである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の熱処理ボート。
【請求項5】
前記第1基板固定具を備える第1ボートと、前記第2基板固定具を備える第2ボートからなる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱処理用ボート。
【請求項6】
前記第1ボートの自重により前記第1基板固定具が前記半導体基板を加圧し、かつ前記第1ボートの自重および前記半導体基板の自重を受けて前記第2基板固定具が前記半導体基板を支持する請求項5に記載の熱処理用ボート。
【請求項7】
前記第1ボートと前記第2ボートが上下対称な構造である請求項5または請求項6に記載の熱処理ボート。
【請求項1】
同一形状の角形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該角形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、
少なくとも、前記1組の角形半導体基板の各辺の少なくとも1箇所と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、
前記基板固定具は、溝を介して前記1組の角形半導体基板の重心よりも高い位置から当該1組の角形半導体基板を非鉛直方向に加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、
前記1組の角形半導体基板の重心よりも低い位置から当該1組の角形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、
少なくとも有する熱処理用ボート。
【請求項2】
前記角形半導体基板の頂点部分が下向きとなるように固定する請求項1記載の熱処理用ボート。
【請求項3】
同一形状の丸形半導体基板の裏面同士を2枚1組で重ね合わせて熱処理する際に少なくとも1組の当該丸形半導体基板を固定する熱処理用ボートであって、
少なくとも、前記1組の丸形半導体基板の周縁部と接触する溝を備える基板固定具と、当該基板固定具の両端に連結される支持板とを有し、
前記基板固定具は、溝を介して前記1組の丸形半導体基板の中心よりも高い位置から当該1組の丸形半導体基板を中心方向へ加圧する少なくとも1つの第1基板固定具と、
前記1組の丸形半導体基板の中心よりも低い位置から当該1組の丸形半導体基板を支持する少なくとも1つの第2基板固定具を、
少なくとも有する熱処理用ボート。
【請求項4】
前記溝の幅が、100μm〜1000μmである請求項1〜請求項3のいずれかに記載の熱処理ボート。
【請求項5】
前記第1基板固定具を備える第1ボートと、前記第2基板固定具を備える第2ボートからなる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の熱処理用ボート。
【請求項6】
前記第1ボートの自重により前記第1基板固定具が前記半導体基板を加圧し、かつ前記第1ボートの自重および前記半導体基板の自重を受けて前記第2基板固定具が前記半導体基板を支持する請求項5に記載の熱処理用ボート。
【請求項7】
前記第1ボートと前記第2ボートが上下対称な構造である請求項5または請求項6に記載の熱処理ボート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−89820(P2013−89820A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230124(P2011−230124)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
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