説明

熱処理装置

【課題】 対象物の温度を安定的に制御可能な熱処理装置を提供する。
【解決手段】 熱処理装置は、熱処理の対象物1を収納するケース100と、それぞれ該ケースの外周を囲むように、対象物よりも上方および下方に配置された上側ヒータ7および下側ヒータ8とを有する。上側ヒータの最下部aから対象物の最上部bまでの上下方向距離および下側ヒータの最上部dから対象物の最下部cまでの上下方向距離がそれぞれ、ケースの内半径以上の距離に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶等の対象物を熱処理する熱処理装置に関し、特に光学部品として使用される高融点単結晶の熱処理に好適な熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部材としての硝材の1つとして、弗化カルシウム、弗化バリウム、弗化マグネシウム等の弗化化物が知られている。これら弗化物は、KrFレーザ、ArFレーザおよびFレーザ等、真空紫外域とよばれる波長域の光の光学系に使用される。
【0003】
このような弗化物の結晶は、「坩堝降下法」等による結晶成長方法によって製造され、さらに製造された結晶を、熱処理(アニール)した後、所望の厚さに切断される。高精度の歪み除去が必要な場合には、もう一度熱処理(アニール)を行い、所望のレンズ形状等に加工成形され、光学物品として使用される。
【0004】
ここで、弗化カルシウム等の弗化物は、酸化すると透過率が劣化するので、上記熱処理は、熱処理炉内に設けられた気密容器を用い、真空雰囲気、不活性ガス雰囲気又はフッ素系ガス雰囲気にて行われる。そして、ケースに収めた弗化物を気密容器内に配置し、ケースごと、その外周に配置されたヒータによって融点以下の熱処理温度まで昇温し、その後徐々に冷却することにより、歪みの小さい弗化物を得ることができる。
【特許文献1】特開2000−281492号公報(段落0019〜0033、図1等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、ますます光学結晶に対する低歪み化の要求が厳しくなり、熱処理において、より厳密な高温での温度管理が必要になってきた。一般に、熱処理対象の結晶が高融点材料であると、熱処理炉の温度を上昇させるのに大きなヒータ出力を必要とする。このため大容量対応のヒータを使用することになるが、大容量であるほど制御可能な電力分解能(温度分解能)が悪化する。したがって、高融点材料の熱処理炉においては精密な温度コントロールが難しい。
【0006】
また、従来の熱処理炉では、ヒータと熱処理対象である結晶とが近接しているので、ヒータにわずかな出力変動があると、結晶の温度分布が変化し、結晶内の歪み除去を十分に行うことができなくなっていた。
【0007】
さらに、結晶内の温度分布をできるだけ均一にするために、結晶の上方、下方および側方に3つの円筒状ヒータを配置する場合がある。この場合、側方のヒータには、その周方向のいずれかに電力供給のための配線(電力供給経路)が必要であり、該電力供給経路の周辺はその周囲に比べて低温となるために、周方向に温度分布が生じ、結晶の歪みの要因になるおそれがある。
【0008】
本発明は、特に高融点対象物の熱処理に好適であり、対象物の温度を安定的に制御可能な熱処理装置を提供することを目的の1つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの側面としての本発明の熱処理装置は、熱処理の対象物を収納するケースと、それぞれ該ケースの外周を囲むように、前記対象物よりも上方および下方に配置された上側ヒータおよび下側ヒータとを有する。そして、該上側ヒータの最下部から対象物の最上部までの上下方向距離および該下側ヒータの最上部から対象物の最下部までの上下方向距離がそれぞれ、ケースの内半径以上の距離に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記距離設定により、ヒータの出力変動や電力供給経路の変動が熱処理対象物の温度分布に与える影響を小さくすることができる。これにより、高融点対象物の熱処理をする場合であっても、安定的かつ高精度な温度管理を行うことができる。したがって、対象物内の歪み除去を十分に行うことができ、例えば、複屈折率の小さい優れた光学材料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0012】
図1には、本発明の実施例である結晶熱処理装置(アニール装置)の構成を示している。同図において、1は熱処理対象物としての弗化カルシウム(CaF:融点1400℃)結晶であり、結晶サポート部材6を介して上ケース部2、側面ケース部3および下ケース部4により構成されるケース組立体(以下、ケースという)100内に設置されている。
【0013】
ケース100は、本装置の設置ベースとなるベースプレート11上にじかに配置されておらず、軸5を介してベースプレート11から離れた位置(上方)に配置されている。これにより、外部の熱環境の影響を少なくしている。
【0014】
結晶1の温度をコントロールするため、上ケース部2および下ケース部4をそれぞれ取り囲むように上側領域ヒータ7および下側領域ヒータ8が配置されている。図1では、上側領域ヒータ7および下側領域ヒータ8はそれぞれ一体構造物として示されているが、それぞれ複数の部分に分割されていてもよい。
【0015】
このように、本実施例では、ヒータを結晶1の上方と下方の2つ領域にのみ設け、結晶1の側方にヒータを配置していない。これにより、上下のヒータ7,8に対する外部からの電力供給経路をそれぞれ、上端および下端に接続することができ、該電力供給経路からの熱の逃げに起因する周方向の温度分布の不均一な部分を結晶1から最も離れた位置に配置することができる。
【0016】
また、各ヒータの温度を計測するセンサ101とケース100の温度制御のためにヒータ7,8への通電量を制御する制御装置102が本装置に備え付けられている。103はヒータ7,8への電力供給源であり、制御装置102により制御される。
【0017】
さらに、ヒータ7,8およびケース100の周囲には断熱材9が配置され、これらをすべて収めるように気密容器10が配置されている。
【0018】
ベースプレート11は架台12上に設置され、気密容器10とベースプレート11により外部雰囲気より隔離された熱処理炉が形成される。熱処理炉には、真空ポンプ13と、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガスを供給するガス供給源14とが接続されている。
【0019】
ここで、本実施例の熱処理装置の特徴は、上側領域ヒータ7の最下点aが、結晶1の上面bよりも上方であって、かつケース100の内半径以上離れて配置されていること、および下側領域ヒータ8の最上点dが、結晶1の下面cよりも下方であって、ケース100の内半径(側面ケース部3の内半径)以上離れて配置されていることである。すなわち、ケース100のうち結晶1を設置した部分については、該ケース100の半径方向にはヒータが存在せず、上ケース部2および下ケース部4を介した間接的な加熱を行う構成になっている。なお、上ケース部2の下面と下ケース部4の上面とは略平行になっている。
【0020】
さらに、本実施例では、上ケース部2の下面eは上側領域ヒータ7の最下点aよりも下方にあり、かつ下ケース部4の上面fは下側領域ヒータ8の最上点dよりも上方にある構成となっている。
【0021】
以下、酸化防止スカベンジャーとして弗化亜鉛、不活性ガスとしてアルゴンを用いた場合の熱処理プロセスについて説明する。ケース100内に弗化カルシウム結晶1を設置した後、該結晶1に直接触れないように弗化亜鉛を配置しておく。上側領域ヒータ7、下側領域ヒータ8および断熱材9を組み立てた後、気密容器10で密封し、その内部を真空ポンプ13により10−3〜10−5Pa程度に減圧する。その後、電力供給源103から上側領域ヒータ7および下側領域ヒータ8に通電し、ケース100ごと弗化カルシウム結晶1を200〜400℃に加熱する。この加熱脱気により結晶1、ケース、断熱材9の表面等に付着していた水分を除去することができる。
【0022】
その後、ガス供給源14より高純度アルゴンガスを気密容器10内に導入し、1気圧に近い状態にする。アルゴンガスは封止状態よりも微量フロー状態のほうが、長期にわたる熱処理プロセスでの結晶の酸化やスカベンジャーの固体拡散による劣化を防止する効果が高いので、本実施例でも微量フロー状態とする。
【0023】
さらに上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8への通電量を増加させ、温度を上昇させていくと、ケース100内に設置された弗化亜鉛は熱処理最高温度1000〜1300℃に到達する前に融解し、徐々に蒸発する。このとき、弗化亜鉛は残存する水(HO)をフッ酸(HF)ガスとして、また酸化カルシウム(CaO)を弗化カルシウム(CaF)と弗化させ、自らは酸化亜鉛(ZnO)となり、弗化カルシウム結晶1の酸化防止スカベンジャーとして働く。
【0024】
熱処理最高温度に達した後、その温度を20〜100時間保持する。良好な温度分布状態では結晶1内に熱応力のない自由な状態であり、また高温であるため、結晶1内の転位の易動度も大きくなっている。このため、熱処理時間を十分長く取ることで、十分な歪み除去を行うことができる。
【0025】
この後、上側領域ヒータ7および下側領域ヒータ8への通電量を徐々に少なくして室温まで冷却していく。歪みはこの冷却時にも新たに導入されるので十分な注意が必要である。目標とする残留応力量にもよるが、冷却温度勾配が同じであれば、一般に高温で歪み導入量が大きく、低温で歪み導入量が小さくなる。したがって、高温では徐冷速度を小さくし、低温では徐冷速度を大きくすることが結晶品質および生産効率の点で望ましい。
【0026】
以下に示す実験例では、上側領域ヒータ7および下側領域ヒータ8の平均温度において、最高温度の1000℃から900℃までの徐冷を0.5℃/時間の速度とし、また600℃までの徐冷を1℃/時間の速度とし、以下室温までの徐冷を2℃/時間の速度とした。
【0027】
以下に上記実施例1で説明した熱処理装置のより具体的な実施例(実施例2〜6)を、実験例とともに説明する。
【実施例2】
【0028】
本実施例(実験例1)では、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の出力比を固定して温度制御を行い、弗化カルシウム結晶の熱処理を行った。
【0029】
一般に、円筒形状の物体を熱処理する場合、その半径方向に温度分布が存在すると熱応力が発生するため、特に徐冷中においては軸方向に熱を逃がすことが望ましい。このような場合、断面等温線形状は略水平の縞状になるが、このような理想温度分布形状を実現する熱処理炉構造を鋭意検討した結果、ヒータを熱処理結晶に近接させるのではなく、結晶上面よりも上方および結晶下面よりも下方の2つの領域に配置して温度のコントロールを行うことが適切であるという結論に達した。
【0030】
高温での精密な温度制御を必要とする結晶の熱処理炉においては、ヒータに対する電流制御素子として、わずかな電流で大電流を制御できるサイリスタを用いることが多い。しかし、その制御精度や電力供給経路の安定性まで考慮した結果、本実施例では、熱処理炉構造により決まる概略の炉内温度分布を作り、出力変動に鈍感なヒータ配置により熱処理対象結晶の温度をコントロールするという新たな考え方を採用した。
【0031】
ここで、本実施例における結晶の熱処理方法と、その方法によって実現される温度分布について詳細に説明する。
【0032】
図1に示した装置においては、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8により弗化カルシウム結晶1はケース100ごと加熱および冷却される。一方、ケース100は軸5により支持されている。特に高温では、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8からの熱輸送は、その大半が輻射の伝熱形態によるが、この軸5も熱伝導経路となる。このため、弗化カルシウム結晶1の温度を一定に保つためには、下側領域ヒータ8の方に上側領域ヒータ7よりもやや大きな出力を配分する必要がある。この配分は徐冷中も、準定常状態で温度を降下させるため、同様である。
【0033】
そこで、本実施例においては、上側領域ヒータ7の出力と下側領域ヒータ8の出力比を一定にして、各ヒータの温度を計測する熱伝対(温度センサ101)の指示値平均を制御対象温度とした。そして、ヒータ出力の総和を増加および減少させることにより、上述した加熱・徐冷速度で熱処理を行った。
【0034】
なお、本実施例では、特に上ケース部2および下ケース部4を、カーボンの薄板を多数積層する構造とし、ケース100自体でも水平等温線を作り易くした。さらに、上側領域ヒータ7の最下点と熱処理対象結晶1の上面までの上下方向距離(a−b間距離)、および下側領域ヒータ8の最上点と熱処理対象結晶1の下面までの上下方向距離(c−d間距離)は、結晶直径φ300に対応したケース内直径φ360を考慮して、該ケース内半径以上である、やや余裕を見た190mmとして熱処理炉を製作した。
【0035】
このような熱処理炉で、弗化カルシウム結晶1から離れた上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8により上記方法にて加熱を行うと、該ヒータ7,8は円環状であるため、装置断面での等温線は弧を描き、ケース100内は、図2Aに示すような等温線形状を示す。ここで、前述した上側領域ヒータ7の最下点と熱処理対象結晶1の上面までの距離(a−b間距離)および下側領域ヒータ8の最上点と熱処理対象結晶1の下面までの距離(c−d間距離)が十分大きくないと、上ケース部2の下面および下ケース部4の上面で等温線が水平にならず、ケース100内に設置した弗化カルシウム結晶1にもその影響が伝わり、結晶1内に歪が残留してしまう。
【0036】
加熱形状から分かるように、これを回避するための十分な距離とは、結晶1の大きさ、特にケース100の内半径に大きく依存する。熱輻射シミュレーションによれば、結晶自身の温度分布形状を平均温度とともにコントロールするには、少なくともケース100の内半径以上の距離が必要であった。
【0037】
図2Bには、比較例として、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の間に別のヒータ(以下、中間ヒータという)を設置した場合の等温線を示す。この位置に中間ヒータを設置すると等温線は縦方向に形成されるため、図2Aに比べてケース100の等温線形状は水平形状を保つことが困難となる。
【0038】
また、中間ヒータに対する電力供給の配線を行わなければならないため、その配線接続部が低温になることによって、該中間ヒータ内に周方向温度分布が形成されることは避けられない。
【0039】
さらに図2Cには、別の比較例として、上ケース部2の下面が上側領域ヒータ7の最下点よりも上方にある場合の等温線を示す。この場合、水平等温線を形成する部分が熱容量のほとんどない雰囲気領域となるため、使用不可能ではないが、安定した温度コントロールには不適切である。したがって、上ケース部2の下面eは上側領域ヒータ7の最下点aよりも下方にあり、かつ下ケース部4の上面fは、下側領域ヒータ8の最上点dよりも上にあることが望ましい。
【0040】
このように、ケース、結晶およびヒータ間に十分な距離を設定することで、しかもケース100を断熱材9で囲むことにより、上側領域ヒータ7の最下点aと下側領域ヒータ8の最上点dの間の領域、すなわちそこに配置された弗化カルシウム結晶1に水平な等温線を形成することができる。このような等温線形状を、特に最高温度を保持するプロセスおよび徐冷プロセスの間維持するように管理することにより、結晶1からの効果的な歪み除去を行うことができる。
【0041】
また、本実施例でのヒータ7,8による結晶1の加熱は、ヒータを近接させて行う直接加熱ではなく、ケース100による等温線形状の整形を行った状態での間接加熱となるため、仮にヒータ出力が変動したとしてもその影響は直接加熱方式の熱処理炉に比べて小さい。したがって、本発明の効果を得るためには、上ケース部2および下ケース部4の熱容量が、熱処理対象である弗化カルシウム結晶1よりも十分大きいとよい。
【0042】
以上のことにより、光学材料として残存歪みに基づく複屈折率の少ない弗化カルシウム結晶を得ることができた。
【実施例3】
【0043】
(実験例2)
本実施例では、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の出力比を温度の関数として与えて温度制御を行い、弗化カルシウム結晶1の熱処理を行った。
【0044】
弗化カルシウム結晶1の半径方向の温度差を小さくするためには、実験例1で述べたように、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の出力バランスを取ることが重要である。軸5が細く、熱伝導率も小さいなどの条件が揃えば、その熱伝導経路としての影響は小さいので、ヒータ出力比はすべての温度域で一定でも差し支えない。しかし、熱処理対象の弗化カルシウム結晶1の径が大きくなるに従い、ケース100も大型になり、それを支える軸5も太いものとなるので、熱伝導効果の影響も大きなものとなる。
【0045】
熱の輸送形態としては、輻射に比べて熱伝導はより低温で比重が大きくなるので、影響の大きい低温では、上下温度の補正をするための大きな出力を下側領域ヒータ8に与えなければならない。
【0046】
図3Aには、図1の熱処理炉構成において、直径300mmの弗化カルシウム結晶1を熱処理する際に、結晶温度分布が最小になる上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の出力を熱輻射シミュレーションにより求めたものである。図3Aにおいては、代表的な温度域におけるヒータ7,8のそれぞれの出力(上側領域ヒータ7の出力はUPPERW、下側領域ヒータ8の出力はLOWERW)を示している。また、その出力比をUPPERW/LOWERWを図3Bに示した。
【0047】
前述のように、低温になるに従ってヒータ出力比はわずかに小さくなっている。このように、ヒータ出力比を温度の関数としてコントローラ102の内部メモリ等に記憶させておき、各ヒータの温度を計測する熱伝対(温度センサ101)の指示値平均を制御対象温度として、上述した加熱・徐冷速度で熱処理を行うことで、より高精度な歪み除去の熱処理を行うことが可能となる。
【0048】
この方法により、大径の光学材料であってもより複屈折率の少ないものを得ることができる。
【実施例4】
【0049】
(実験例3)
本実施例では、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の温度差を固定して温度制御を行い、弗化カルシウム結晶1の熱処理を行った。
【0050】
また、本実施例では、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8のうち下側領域ヒータ8の方にやや大きな出力を配分するために、熱伝対(温度センサ101)による計測温度が常に下側領域ヒータ8のほうが高くなるように設定した。
【0051】
実施例2にて説明したように、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の出力配分を固定してその平均温度で制御を行うためには、2入力2出力で、かつ演算機能を持つ温度プロセスコントローラが必要であるが、このようなコントローラは概して高価である。このため、本実施例のような温度制御を行えば、1入力1出力のコントローラが2個あれば制御システムを構成できるので、システムを安価に構成することができる。
【実施例5】
【0052】
(実験例4)
本実施例では、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の温度差を温度の関数として与えて温度制御を行い、弗化カルシウム結晶1の熱処理を行った。
【0053】
これは、実施例3で述べたように、特に大径結晶対応の熱処理炉においてはヒータの上下出力比の最適値には温度依存性があるので、それを再現するために設定する上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の温度差を温度の関数として与えて温度制御を行うというものである。
【0054】
図4に、上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の温度差を、直径300mmの弗化カルシウム結晶1を熱処理する際に、結晶温度分布が最小になるという条件で熱輻射シミュレーションにより求めた上下ヒータ7,8の温度差を示す。
【0055】
1000℃から700℃までは、図3Bに示した出力バランス(出力比)に対応して、下側領域ヒータ8の出力を増大させた。しかし、低温になるほど、軸5からの熱伝導効果による熱の逃げが相対的に大きくなるので、上下のヒータの温度差は逆に減少した。
【0056】
600℃になると、上下のヒータの温度差は700℃の時とほとんど変わらなくなった。また、400℃では、軸5からの熱伝導効果による熱の逃げが大きくなるはずであるが、ヒータ7,8からのケース100等への輻射伝熱そのものが働きにくくなるので、出力に対応してヒータそのものの温度が上昇することになり、結果的に上下のヒータの温度差は拡大した。
【0057】
このように、大径結晶対応の熱処理炉では、ヒータ温度で見た場合、最適な上下温度差が温度依存性を持つようになる。このため、最適な上下温度差をあらかじめコントローラ102の内部メモリ等に記憶しておき、各温度で適切な上側領域ヒータ7と下側領域ヒータ8の温度差を設定することにより、大径の光学材料であってもより複屈折率の少ないものを得ることができる。
【実施例6】
【0058】
(実験例5)
本実施例では、図5に示すように、ケース100と上側領域ヒータ7および下側領域ヒータ8との間に、2つの円筒体(内側円筒体15と外側円筒体16)を挿入し、弗化カルシウム結晶1の熱処理を行った。なお、本実施例において、図1中に示した部材の同じ部材については同符号を付して説明を省略する。
【0059】
理想の結晶内等温線形状は水平形状であり、これを得るためには、結晶側面方向の断熱を強化し、軸方向における温度分布が形成し易くなるとよい。このため、本実施例では、図1の構成に加えて、ケース100と両ヒータ7,8との間に、ケース100の外側面に触れないように(少なくとも大部分が触れないように)内側円筒体15を配置し、さらに内側円筒体15の外周面に触れないように(少なくとも大部分が触れないように)外側円筒体16を配置している。
【0060】
ケース100に対して間隔を空けて配置した円筒体15,16には、ヒータ7,8からの輻射伝熱を遮蔽する効果があり、ヒータ7,8からの熱流束を減衰させる。このため、電流制御素子として使用されるサイリスタのノイズや電力供給ラインの変動があってヒータそのものの温度が変動したとしても、その影響を結晶1の温度が受けにくくすることができる。
【0061】
これにより、弗化カルシウム結晶1の温度を安定させ、温度変動による歪みの発生を抑制し、光学材料としてより複屈折率の少ないものを得ることができる。
【0062】
以上説明したように、上記各実施例によれば、熱処理装置において望ましい等温線形状を実現することができ、ヒータの出力変動や電力供給経路の変動が熱処理対象物の温度分布に与える影響を小さくすることができる。これにより、高融点対象物や大径対象物の熱処理をする場合であっても、安定的かつ高精度な温度管理を行うことができ、該対象物の歪み除去を十分に行うことができる。したがって、例えば、弗化カルシウム等を熱処理して、複屈折率の小さい優れた光学材料を製造することができる。
【0063】
また、ケースとヒータとの間に、間隔を空けて円筒体を挿入することで、熱処理対象結晶に対するヒータからの熱流束を減少させ、外乱に強い熱処理装置を実現できる。
【0064】
なお、上記各実施例では、弗化カルシウム結晶を熱処理する場合について説明したが、本発明は、弗化バリウム(融点1280℃)や弗化マグネシウム(融点1255℃)等の他の弗化物や、弗化物以外の結晶その他の物質の熱処理装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例1である熱処理装置の構造を示す模式図。
【図2A】実施例2の熱処理装置における結晶付近の温度分布を示す模式図。
【図2B】実施例2に対する比較例における結晶付近の温度分布を示す模式図。
【図2C】実施例2に対する他の比較例における結晶付近の温度分布を示す模式図。
【図3A】実施例3の熱処理装置における熱輻射シミュレーション結果を示す図。
【図3B】実施例3の熱処理装置における熱輻射シミュレーション結果を示す図。
【図4】実施例5の熱処理装置における熱輻射シミュレーション結果を示す図。
【図5】実施例6の熱処理装置の構造を示す模式図。
【符号の説明】
【0066】
1 弗化カルシウム結晶
2 上ケース部
3 側面ケース部
4 下ケース部
5 軸
7 上側領域ヒータ
8 下側領域ヒータ
9 断熱材
10 気密容器
13 真空ポンプ
14 ガス供給源
15 内側円筒体
16 外側円筒体
100 ケース
101 温度センサ
102 コントローラ
103 電力供給源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理の対象物を収納するケースと、
それぞれ該ケースの外周を囲むように、前記対象物よりも上方および下方に配置された上側ヒータおよび下側ヒータとを有し、
前記上側ヒータの最下部から前記対象物の最上部までの上下方向距離および前記下側ヒータの最上部から前記対象物の最下部までの上下方向距離がそれぞれ、前記ケースの内半径以上の距離に設定されていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記ケースは、前記対象物よりも上方に配置された上ケース部と、前記対象物よりも下方に配置された下ケース部とを有し、
前記上ケース部の最下部は、前記上側ヒータの最下部よりも下方にあり、かつ前記下ケース部の最上部は前記下側ヒータの最上部よりも上方にあることを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記ケースと前記両ヒータとの間に、該ケースの外周を囲む部材が、該ケースとの間に空間を挟んで配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記部材が、前記ケースの径方向に、空間を挟んで複数配置されていることを特徴とする請求項3に記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記上側および下側ヒータの出力比を略一定として又は該出力比を温度の関数として該両ヒータの出力総和を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の熱処理装置。
【請求項6】
前記上側および下側ヒータの温度差を略一定として又は該温度差を温度の関数として該各ヒータの温度を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の熱処理装置。
【請求項7】
前記対象物は、弗化物結晶であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の熱処理装置。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−219360(P2006−219360A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−36810(P2005−36810)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】