説明

熱分析装置

【課題】装置全体が手の上にのるくらいの大きさで、消費電力も極めて小さい、教室の机上での使用や、屋外等の必要な場所へ携行して使用することができる手のひらサイズの熱分析装置。
【解決手段】熱量計として熱分析の測定対象となる試料(1)に接する熱流センサー(2)と、該熱流センサーの片面に接する第1の容器(4)と、該第1の容器を格納する第2の容器(7)と、該第2の容器のヒーター(6)と、該ヒーターの温度を測定する温度センサー(5)と、少なくとも、該温度センサーにより該ヒーター温度を制御する制御回路と、該熱流センサーからの出力を測定する測定回路とをモジュール化した計測モジュール(8)を有することを特徴とする熱分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分析装置、特に、手のひらサイズ熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の熱的性質は基礎的に重要な事で、多様な熱分析機器を用いた測定が、学術・産業の両分野で、日常的に行われている。例えば、ある一定条件下で加熱または冷却して、試料の物理量を測定する熱分析方法、熱分析装置が開発されている。熱重量測定、熱量測定、熱伝導率測定、熱分解ガス測定など各種熱測定が行われている。
【0003】
そこで、以下のような熱分析方法、測定データを処理する機能を有する熱分析装置が、薄膜等の特定の試料のために提案されている。
【0004】
(1)従来技術1
従来技術1は、代表図によると、「サンプル位置112と、基準位置113と、サンプル温度熱電対114と、基準温度熱電対115と、熱電気ディスク116と、パージ気体入口117、パージ気体出口118と、銀ブロックヒータ120を含む電気炉119、銀リング121、銀リッド122、ヒータ熱電対123と、炉チャンバ124と、ヒータ・コントローラ125と、ADコンバータ126と、マイクロコンピュータ127と、を含むMDSC装置を用いて熱伝導率測定を行う。」熱伝導率測定装置及び方法を開示している。(特許文献1)
【0005】
(2)従来技術2
従来技術2は、代表図によると、「薄膜試料3の一方の表面に交流加熱用金属膜抵抗4を、他方の表面に温度センサ用金属膜抵抗5を夫々付着し、該試料3をこれと同一材質から成る第1及び第2の媒質1、2で挾み、前記抵抗4に種々の周波数の交流電力を順次加えて加熱し、温度センサ13で検出した試料3の抵抗4付着側表面の交流温度信号と抵抗5から得られた交流温度信号をロックイン増幅器14を介してコンピュータ16に入力し、これらの信号と加熱用交流電力から熱拡散率、熱伝導率等を算出する。」交流カロリメトリによる熱定数測定方法及び装置を開示している。(特許文献2)
【0006】
(3)従来技術3
従来技術3は、代表図によると、「サーモモジュールを用いたサンプル熱流センサ
とリファレンス熱流センサ と、それぞれの片面に接する2つの反応容器と、反対面に接する第1のヒートシンクと、第1のヒートシンクの温度を測定する温度センサと、第1のヒートシンクの下面に接する精密温度制御用のペルチェ素子と、ペルチェ素子の下面に接する第2のヒートシンクと、2つの熱流センサ
を内包する断熱シールドを有しており、断熱シールド外部から間接的なエネルギー供給により、反応容器内部において所定の試薬を混合する混合装置を有する熱量計を提供する。」熱量計を開示している。(特許文献3)
【0007】
【特許文献1】特開平7−55738号公報
【特許文献2】特開平7−103921号公報
【特許文献3】特開2006−275713号公報
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これらの従来の方法、装置は、基準サンプルを作成しなければならず、同一実験目的のために、多数の実験装置を、一度に、準備することは困難である。(特許文献1、3)また、特定の試料に限定されている。(特許文献2)さらに、熱分析装置は、周辺装置も含めると大型、高価となる。教育や開発・研究の現場で、eラーニングと組み合わせて、多目的に実験を行う場合には不十分であり、装置も可搬性がないので、学生実験などの教育現場での使用には向かないのが現状である。
【0010】
このように、従来の市販装置の大きさは、事務机の上を占有する程度に大きく、屋外に持ち出して、検査試料のある場所で使用することが困難であった。価格は、100万円以上と高価であり、誰もが手軽に使用できるというわけにはいかない。これらの制約によって、高感度熱量計を、高・中等教育において利用することはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、実験装置を、複数の目的の実験に共通して使用する汎用部品と、該汎用部品と組み合わせて特定の実験目的を構成する専用部品に分割し、該汎用部品と該専用部品を、基板に構成する卓上組立式実験装置(特願2006−069380号)、及びこの実験装置に用いるのに適した各種熱センサー(特願2005−239958、2006−199741)を開発してきている。
【0012】
そこで、本発明者は、測定回路をモジュール化して一体として、ヒーターを容器に配置した手のひらサイズの熱量計(熱流センサー)を用いた熱分析装置を開発し、その活用によって、高感度・高安定度の熱研究を進めた。装置の小型化、簡素化によって、機器サイズと価格を従来に比べて共に十分の一以下にした。これによって、屋外など使用条件の拡大と、高・中等教育における利用など用途拡大がもたらさすことができる。しかも、測定への準備期間と熱異常に対する応答時間が大幅に短縮された。
【0013】
本発明の構成は、以下の通りである。
(1)請求項1に係る発明
試料に接する熱流センサー、該熱流センサーの片面に接する第1の容器、該第1の容器を格納する第2の容器、該第2の容器に配置されたヒーター、該ヒーターの温度を測定する温度センサーを含む熱量計と、該熱量計に接続され、少なくとも、該温度センサーにより該ヒーター温度を制御する制御回路と、該熱流センサーからの出力電圧を測定する測定回路とをモジュール化した計測モジュールとを有することを特徴とする熱分析装置。
【0014】
(2)請求項2 に係る発明
上記第1の容器は、熱シールドを介して、第2の容器内に格納され、外部と断熱していることを特徴とする請求項1記載の熱分析装置。
【0015】
(3)請求項3に係る発明
上記熱流センサーは、サーモモジュールを用いることを特徴とする請求項1または2いずれか1項に記載の熱分析装置。
【0016】
(4)請求項4に係る発明
記計測モジュールは、USBインターフェースを有し、情報処理装置と、USB接続されていることを特徴とする請求項1ないしは3いずれか1項に記載の熱分析装置。
【0017】
(5)請求項5に係る発明
上記情報処理装置は、通信回線を介して、熱分析に関する情報を送受信することを特徴とする請求項4記載の熱分析装置。
【発明の効果】
【0018】
以上のように構成された本発明は、熱流計、計測モジュールを分離した熱分析装置である。熱流センサーと熱分析の測定対象となる試料を接触させて、熱シールドにより、外部からの熱の影響を排除して測定するので、基準サンプルを多数準備する必要がない。従って、極めて少量の試料、あるいは多数の熱分析装置を準備することが容易になる。
【0019】
また、容器に入るものであれば、薄膜試料や発熱体でなくても測定可能であり、試料を選ばないので、様々な熱分析の測定をすることができる。
【0020】
さらに、容器にヒーターを配置することで、熱分析装置を小型化することができる。
【0021】
加えて、該熱流センサーの測定値により該ヒーター温度を制御する温度制御回路と、該熱流センサーによる出力電圧を測定する電圧測定回路とをモジュール化して一体とすることで、熱異常にたいする応答時間が大幅に短縮された。計測モジュールは、熱流センサーに接続され、出力電圧を測定する。また、USBインターフェースを有し、パーソナルコンピュータにUSB接続できるので、熱分析装置を小型化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施形態(以下、単に本発明という)を、図面により説明する。
【実施例】
【0023】
本発明の実施例を、熱分析装置の熱量計を示す図1、熱量計と計測モジュール、該モジュールにUSB接続したノートパソコンを含む熱分析装置を、図2に示す。但し、発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0024】
図2に示すように、本発明は、熱量計と計測モジュール及び計測モジュールにUSBされたノートパソコンよりなる。熱量計は、φ16mm、高さ27mmと極めて小型であり、手のひらに乗せることができる。以下に、熱量計と計測モジュールについて、さらに説明する。
(1)試料
熱分析の対象となる試料1は、特に限定されない。学生実験を念頭に置いた場合、パラフィンの融解・凝固、金属(インジウムなど)の融解・凝固、卵白の凝固、牛乳のヨーグルト化、卵の孵化などが観測される。
【0025】
熱量計は、以下の(2)から(3)により構成される。
(2)熱流センサーと第1の容器
図1に示すように、熱電素子(サーモモジュール)を、熱流センサー2として使用する。熱流センサー2は、多数の熱電素子対を、二つの絶縁基板ではさんだ構造になっている。片方の基板を、第1の容器4に取り付ける。第1の容器4は、ガラス板3を介して、第2の容器7に配置される。
【0026】
(3)第2の容器と電源装置
第2の容器7は、図2左に示す外部電源に接続されたヒーター6を内蔵し、該ヒーター温度を制御する温度センサー5を有している。図2では、本容器は、フェノールフォーム(旭化成建材、ネオマフォーム)製である。上記第1の容器4と第2の容器7は、ガラス板3を介して、適度に断熱されている。
【0027】
なお、上記外部電源としては、図2左で示すように、ACアダプターに、ヒーター出力用の増幅アンプを取り付けた電源装置を用いている。該電源装置は、電灯コンセントに接続しているので、どこででも使用できる。下記測定モジュールから出力された電圧を約3倍し、電流を0.5Aまで流せるようにしてある。
【0028】
上記のように構成された熱量計は、計測モジュールと接続される。
(4)計測モジュールと情報処理装置
本モジュールは、少なくとも、熱流センサーからの出力電圧を測定する測定回路と、ヒーター用電源回路、USBポートを有しており、一体化され、上記熱流センサー2及びヒーター6に、適宜、接続され、図2に示すように、ノートパソコンに、USB接続する。
【0029】
ノートパソコンは、少なくとも、測定条件を設定し、熱流センサーからの電圧を測定して熱量を計算し温度を求めるソフトウエアを有している。また、断熱容器4を所定の温度範囲に保持するために、温度センサー5により、第2の容器7のヒーター6を制御するソフトウエアを有している。消費電力は、1W程度で可能である。
【0030】
なお、無線USBハブを用いれば、熱流センサー2の計測データを、遠隔で処理、表示することができる。本発明のように、モジュール化することにより、熱異常への応答時間が短縮される。また、実験装置を、多数準備できる。また、1つのモジュールで、様々な容器に対応することができる。
【0031】
ノートパソコンは、通信回線を介して、実験計画、実験装置に関する情報、実験手順、実験に関するチェックポイント、トラブルシューティング等を送り、実験者の学習効果を高めることができる。
【0032】
(5)手順
上記のように構成した熱分析装置を用いて、以下のステップで、実験目的に応じて選択した試料の熱流を測定することができる。
(5−1)試料の準備
熱流センサー2上に、試料1を準備する。上述のように、例えば、パラフィンの融解・凝固、金属(インジウムなど)の融解・凝固、卵白の凝固、牛乳のヨーグルト化、卵の孵化などが観測される。
【0033】
(5−2)測定条件の設定
測定温度、電圧、時間など測定条件を、ノートパソコンから、上記USB接続された計測モジュールを介して、設定する。
【0034】
(5−3)測定
熱電素子に電流を流して、ペルティエ熱輸送を行う。電流の向きと大きさを適当な値に調整して、周辺温度と同じになるように、ヒーターを制御する。この時、熱電素子2の端子間電圧を測定して、試料2における熱流を求めることができる。
【0035】
(5−4)測定結果の処理
この測定結果から、USB接続されたパーソナルコンピュータで、試料1の熱的性質を分析することができる。
【0036】
(5−5)測定結果の表示
分析結果について、レファレンスデーターと比較して、実験結果にについて評価、指導できる。
【0037】
(6)測定結果
図3に示すように、本発明によれば、温度変化に対する熱流(電圧)の応答性が極めて良いので、熱異常に対する応答時間を大幅に短縮することができる。
【0038】
(7)まとめ
本装置は、特に、図2に示すように、装置全体が手の上に乗るくらいの大きさに構成することができる。消費電力も極めて小さくてすむため、教室の机上での使用や、屋外等の必要な場所へ携行して使用することができる。これらの特徴により、大学等の教育現場での使用が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上説明したように、本発明は、熱流計、計測モジュールを分離して、計測モジュールを情報処理装置にUSB接続したので、装置全体を、手の上にのるくらいの大きさに構成することができる。消費電力も極めて小さいため、教室の机上での使用や、屋外等の必要な場所へ携行して使用することができる。これらの特徴により、大学、中・高校等の教育現場での使用が可能になるので、極めて、有用である。また、熱異常に対する応答時間が非常に早いので、学校教育での実験以外でも、各種安全装置に用いることもできるので、幅広い応用が考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明を説明する図(熱量計)
【図2】本発明を説明する図(装置全体)
【図3】本発明による測定結果を説明する図
【符号の説明】
【0041】
1・・・試料
2・・・熱流センサー
3・・・ガラス板
4・・・第1の容器
5・・・温度センサー
6・・・ヒーター
7・・・第2の容器
8・・・計測モジュール
9・・・ノートパソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に接する熱流センサー、該熱流センサーの片面に接する第1の容器、該第1の容器を格納する第2の容器、該第2の容器に配置されたヒーター、該ヒーターの温度を測定する温度センサーを含む熱量計と、該熱量計に接続され、少なくとも、該温度センサーにより該ヒーター温度を制御する制御回路と、該熱流センサーからの出力を測定する測定回路とをモジュール化した計測モジュールとを有することを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
上記第1の容器は、熱シールドを介して、第2の容器内に格納され、外部と断熱していることを特徴とする請求項1記載の熱分析装置。
【請求項3】
上記熱流センサーは、サーモモジュールを用いることを特徴とする請求項1または2いずれか1項に記載の熱分析装置。
【請求項4】
上記計測モジュールは、USBインターフェースを有し、情報処理装置と、USB接続されていることを特徴とする請求項1ないしは3いずれか1項に記載の熱分析装置。
【請求項5】
上記情報処理装置は、通信回線を介して、熱分析に関する情報を送受信することを特徴とする請求項4記載の熱分析装置。



























【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−292290(P2008−292290A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−137936(P2007−137936)
【出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】