説明

熱分析装置

【課題】冷媒槽による炉体の冷却効率を向上させるとともに炉体に温度勾配が生じないようにする。
【解決手段】炉体2、基台4及び蓋10によって構成される加熱炉の周囲にその加熱炉の中心に対して軸対象となるように加熱炉を囲って冷媒槽14が配置されている。加熱炉の内部に収容された炉体2の突出部2cが加熱炉の表面に露出し、冷媒槽14の加熱炉側側面と均一に接している。炉体2と冷媒槽14は固定ネジ18によって固定されており、固定ネジ18の頭と冷媒槽14の凹部14aの底面との間にコイルバネ20が圧縮された状態で挿入されている。コイルバネ20の弾性力により、冷媒槽14は炉体2側に常時押し付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に試料を収容した加熱炉の温度を昇降温させたときに生じる試料の変化を測定する熱分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に従来の熱分析装置の構造の一例を示す。
加熱炉22の内部に試料21aと基準物質21bが載置される熱伝導性の炉体22aが収容されている。ヒータ24が加熱炉2に取り付けられており、炉体22aの温度を昇温できるようになっている。加熱炉22とは離れた位置に冷媒28を貯留する冷媒槽26が設けられている。冷媒槽26と加熱炉22(又はヒータ24)の間に伝熱板30が設けられており、加熱炉22側の熱を冷媒槽26で吸収して炉体22aの温度を低下させるようになっている。炉体22a、試料21a及び基準物質21bの温度を測定するために、炉体22a本体や炉体22aの試料21a載置部、基準物質21b載置部に例えば熱電対からなる温度センサ(図示は省略)が取り付けられている。分析環境を周囲環境から独立した系とするために装置全体が断熱材(図示は省略)で覆われている。
【0003】
上記の構成により、ヒータ24を駆動することによって炉体22aを加熱することができ、また、冷媒槽26に冷媒28を供給して加熱炉22及びヒータ24の熱を伝熱板30を介して冷媒槽26側で吸熱することにより炉体22aを冷却することができる。
【0004】
このような熱分析装置としては、物質のエンタルピ変化を測定する示差走査熱量測定装置(以下、DSCという。)が挙げられる。DSCは材料の耐熱性試験や医薬品のスクリーニング検査、食品の保存条件の検討など広い分野に利用されている。分析時は、試料21aと基準物質21bを炉体22a上の対称な位置に配置し、炉体22aの温度を昇降温させ、そのときに試料に生じる吸発熱変化に起因する温度差を測定する。測定した温度差に基づいて算出された熱流量データを試料温度又は時間をパラメータとしてプロットすることによりDSC曲線が得られる。
【0005】
この分析では、炉体を加熱−冷却−加熱といった具合に加熱と冷却を行なう。このような場合、冷却時にヒータの駆動を停止してその後の加熱で再度ヒータを駆動するといった制御を行なうと、冷却中にヒータ温度が低い温度まで低下してしまい、その後の加熱時にヒータが温まるまでに時間がかかって分析のスループットが低下する。そのため、冷却時もヒータを駆動したままで冷却を行なうことが一般的である。ところが、冷却時にヒータを駆動していたとしても、ヒータが冷媒槽によってあまりにも低い温度まで冷却されてしまうと結局はその後の加熱に時間がかかってしまうため、ヒータの発熱が冷媒槽による吸熱に負けないような構造にしなければならない。
【0006】
図3に示した構造においても、ヒータ24が冷媒槽26によって直接的に冷却されることがないように冷媒槽26が炉体22aから離れた位置に配置されている(例えば、特許文献1を参照。)。
ところが、冷媒槽26を炉体22aから離して配置すると炉体22aと冷媒槽26との間の熱伝達に時間がかかるために冷却効率が悪く、冷却動作に対して加熱炉22の温度が追従しないという問題や、伝熱板30に生じる温度勾配によって炉体22aに温度勾配が生じ、分析結果の信頼性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開平11−174009号公報
【特許文献2】特開平9−229884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
炉体に温度勾配が生じないようにするために、加熱炉の中心に対して軸対象となるように加熱炉の周囲を囲って冷媒槽を配置することが考えられる。そうすると、加熱炉は周囲から均一に冷却されるようになり、炉体に温度勾配が生じにくくなる。しかし、そうした構造をとる従来の装置(例えば、特許文献2を参照。)においても、冷却時のヒータ温度の低下を抑制するためには冷媒槽と加熱炉を直接接触させることはできず、冷却効率を向上させるには限界があった。
【0008】
また、上記の構造で冷媒槽を加熱炉に直接接触させたとしても、加熱炉と冷媒槽との密着性に問題がある。というのは、加熱炉と冷媒槽とをネジなどによって固定した場合、ネジに熱膨張などの変形が発生して加熱炉と冷媒槽との密着が不均一になると加熱炉と冷媒槽との接触熱抵抗が不均一になり、加熱炉が不均一に冷却されて温度勾配を生じるからである。
【0009】
そこで本発明は、冷媒槽による炉体の冷却効率を向上させるとともに炉体に温度勾配が生じないようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載された本発明にかかる熱分析装置は、試料が載置される熱伝導性の炉体及び炉体を加熱するヒータを含み、炉体の温度を昇降温させて試料の測定を行なうための加熱炉と、冷媒を貯留して炉体を冷却する冷媒槽と、を備えた熱分析装置であって、冷媒槽は炉体の中心に対して軸対象となるように炉体の周囲を囲って配置されており、炉体の一部は加熱炉の外側に周囲方向に均一に露出して冷媒槽と接し、その接触部分は冷媒槽と炉体とを密着させる方向に付勢する耐熱性の弾性部材と弾性部材を介して冷媒槽を炉体に固定する固定ネジによって弾性的に固定されているものである。
上記の弾性部材の一例として、圧縮状態に挿入されたコイルバネを挙げることができる。
【0011】
さらに、冷媒槽内面の熱伝達面には冷媒との接触面積を増加させる凹凸構造が形成されていてもよい。そうすれば、冷媒槽の側壁と冷媒との間の熱伝達効率が向上し、その結果、冷却時の炉体の冷却効率が向上する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載された本発明の特徴により、以下の効果が得られる。
冷媒槽は加熱炉の周囲を囲って配置され、炉体の一部が加熱炉の外側に均一に露出して冷媒槽と接しているので、加熱炉内のヒータが冷却時に冷媒槽によって直接的に冷却されることを抑制して冷却後の加熱におけるヒータの立ち上がり速度の低下を防止すると同時に、炉体を周囲方向から均一に高効率に冷却することができる。
炉体と冷媒槽との接触部分は、冷媒槽と炉体とを密着させる方向に付勢する耐熱性の弾性部材と弾性部材を介して冷媒槽を炉体に固定する固定ネジによって弾性的に固定されているので、ネジに熱膨張などの変形が生じても弾性部材の弾性力によって冷媒槽と炉体との密着が維持されて接触熱抵抗が均一になり、炉体に温度勾配が生じにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の熱分析装置の一実施例を図1及び図2を参照しながら説明する。図1は一実施例の熱分析装置の平面図であり、図2は図1の(A)X−X位置、(B)Y−Y位置、(C)Z−Z位置における断面図である。なお、図1及び図2ではこの熱分析装置を囲う断熱材を省略している。
【0014】
試料6a及び基準物質6bを保持する熱伝導性の炉体2が基台4上に配置されている。炉体2の上部は、試料6a及び基準物質6bを載置する上面が円形の試料載置部2aとなっている。炉体2の中位部に水平方向に均一に突出した円盤形状の突出部2cが設けられている。炉体2の下部2bは中空の円柱形状となっており、その周面にシート状のヒータ12が巻かれている。炉体2の試料載置部2aの中心と下部2bの中心は一致している。突出部2cの一部と試料載置部2aは蓋10により覆われている。
【0015】
基台4は平面形状が円形で中央部に凹部が設けられており、その凹部に炉体2の下部2bを収容してその下面を支持している。図示は省略されているが、炉体2と基台4はネジ等により固定されている。
炉体2、基台4及び蓋10により加熱炉が構成されている。炉体2は基台4と蓋10によって加熱炉の内部に収容されているが、突出部2cの上面の外側と周面が加熱炉の表面に露出した状態となっている。
【0016】
この炉体2、基台4及び蓋10によって構成されている加熱炉の周囲には図示されていない冷媒供給機構によって供給される冷媒16を貯留する冷媒槽14が設けられている。冷媒槽14は炉体2、基台4及び蓋10の中心に対して軸対象となるように炉体2の周囲を囲って配置されている。冷媒槽14の加熱炉側側面は加熱炉表面に露出している炉体2の突出部2cの上面及び周面に接触している。
【0017】
冷媒槽14の加熱炉側側壁に複数の円周形状の湾曲部からなる凹凸構造15a,15bが設けられている。凹凸構造15a,15bが設けられていることにより、冷媒槽14側壁と冷媒16との接触面積を増加させている。凹凸構造15a,15bは、例えば冷媒槽14の側壁を肉厚に形成した後でドリル加工により凹凸形状に加工されたものである。冷媒槽14の内部の加熱炉側で冷媒槽14側壁と冷媒16との接触面積が増加することにより、炉体2と冷媒16との間での熱交換効率が向上し、炉体2を冷却する際の冷却効率が向上する。例えば図1及び図2に示した構造における加熱炉側の冷媒槽14側壁と冷媒16との接触面積は、このような構造をもたない場合の1.8〜2.0倍程度に増加している。
【0018】
炉体2の突出部2cの円周方向における均等な4箇所にネジ穴17が開けられている。冷媒槽14上部のネジ穴17に対応する位置に固定ネジ18を挿入するための、固定ネジ18の頭部分と同等かそれよりも大きい径をもつ凹部14aが設けられている。凹部14aの底面のネジ穴17に対応する位置にネジ穴17と同程度の大きさの貫通穴が開けられている。
【0019】
固定ネジ18は冷媒槽14の凹部14aに挿入され、その底面の貫通穴を通って突出部2cのネジ穴17に螺合されている。固定ネジ18の頭と凹部14aの底面と間にコイルバネ20が圧縮された状態で挿入されている。コイルバネ20はその弾性力によって凹部14aの底面を炉体2の突出部2c側に常時押し付けている。コイルバネ20は例えばインコネルなどの耐熱性材料で構成されている。
【0020】
なお、図示は省略されているが、炉体2には炉体2自体の温度を検出する温度センサのほか、試料6a及び基準物質6bの温度を検出する熱電対などの温度センサが設けられている。
【0021】
加熱炉内温度の昇温は、ヒータ12の駆動により行なう。ヒータ12を駆動すると、炉体2の下部2bの周面が均一に加熱されるため、試料6a及び基準物質6cが載置されている炉体2の上面が平面内方向に均一に加熱される。加熱炉内温度を低下させる際は、ヒータ12を駆動した状態で冷媒槽14に冷媒16を供給する。冷媒槽14は炉体2の突出部2cに周囲に均一に接しているため、炉体2は平面内方向に均一に冷却される。
【0022】
この実施例の熱分析装置の構造では、冷媒槽14が炉体2に直接接触しているため、従来よりも冷却効率が向上する。一方で、ヒータ12は加熱炉内に収容され冷媒槽14は加熱炉の周囲に配置され、冷媒槽14との間には断熱性の基台4が介在してヒータ12が冷媒槽14によって直接冷却されないようになっているので、冷却時のヒータ12の温度低下が抑制され、冷却後の加熱にも迅速に対応することができる。
【0023】
炉体2と冷媒槽14が固定ネジ18とコイルバネ20によって弾性的に固定されていることにより、炉体2の温度変化によって各位置の固定ネジ18に熱膨張差などの不均一な変形が生じたとしても、コイルバネ20の弾性力によって炉体2と冷媒槽14との密着が維持されるので、炉体2に温度勾配が生じない。
【0024】
なお、上記実施例では、炉体2と冷媒槽14を弾性的に固定するために、固定ネジ18とコイルバネ20の組み合わせを用いているが、装置の使用温度が比較的低い場合(例えば200℃以下)にはコイルバネ20に代えて、竹の子バネ20a(図3(A)を参照。)や皿バネ20b(図3(B)を参照。)を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】熱分析装置の一実施例を示すその平面図である。
【図2】図1の熱分析装置の(A)X−X位置、(B)Y−Y位置、(C)Z−Z位置の断面図である。
【図3】他の実施例を説明するための、(A)コイルバネに代えて竹の子バネを用いたとき、(B)コイルバネに代えて皿バネを用いたとき、の冷媒槽固定部分の断面図である。
【図4】従来の熱分析装置の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
2 炉体
4 基台
6a 試料
6b 基準試料
10 蓋
12 ヒータ
14 冷媒槽
14a 凹部
15a,15b 凹凸構造
16 冷媒
17 ネジ穴
18 固定ネジ
20 コイルバネ
20a 竹の子バネ
20b 皿バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が載置される熱伝導性の炉体及び前記炉体を加熱するヒータを含み、前記炉体の温度を昇降温させて試料の測定を行なうための加熱炉と、冷媒を貯留して前記炉体を冷却する冷媒槽と、を備えた熱分析装置において、
前記冷媒槽は前記炉体の中心に対して軸対象となるように前記炉体の周囲を囲って配置されており、
前記炉体の一部は周囲方向の外側に均一に露出して前記冷媒槽と接し、その接触部分は前記冷媒槽と前記炉体とを密着させる方向に付勢する耐熱性の弾性部材と前記弾性部材を介して前記冷媒槽を前記炉体に固定する固定ネジによって弾性的に固定されている熱分析装置。
【請求項2】
前記弾性部材は圧縮状態に挿入されたコイルバネである請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記冷媒槽内面の熱伝達面には冷媒との接触面積を増加させる凹凸構造が形成されている請求項1又は2に記載の熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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