説明

熱分解付着物除去方法及び熱分解ガス化システム

【課題】バイオマスの熱分解ガス化システムにおいて、配管内壁などに付着した熱分解生成物を効果的に除去できる方法及び熱分解ガス化システムを提供する。
【解決手段】下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスの熱分解ガス化システム10において、熱分解ガス化炉11と燃焼炉13との間に設けられる配管12に、酸素濃度が5体積%以上13体積%以下の不活性ガス及び酸素の混合ガスを流通させ、ガス温度500℃以上の条件で、前記配管12の内壁に付着した熱分解付着物を燃焼させて除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスの熱分解ガス化システムにおいて、配管内部などに付着した熱分解生成物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に例示されるバイオマス熱分解ガス化システム10では、熱分解ガス化炉11内で、温度300〜600℃、酸素を遮断した雰囲気下にて、バイオマスが熱分解される。熱分解ガス化炉11で発生した熱分解ガスは、配管12を介して燃焼炉13に輸送され、燃焼炉13内で燃焼される。
上記バイオマス熱分解ガス化システムを運転すると、配管内壁や配管の途中に設置されるファン14のインペラなどに、熱分解ガスが凝縮すると共にダスト分が付着したり堆積する。付着物及び堆積物(以下付着物)の量が増加すると、配管の閉塞やインペラのバランス悪化のため、ファンの出力が増大して振動が増加するなど連続運転に支障が生じる。このため、熱分解ガス化システムを定期的に停止させ、配管内部を清掃して付着物を除去する必要があった。
【0003】
石油精製工業や石油化学工業などにおいては、デコーキングと称される熱分解付着物除去方法が知られている。デコーキングは、高温のスチームや不活性ガスを配管内に流通させて配管内壁の付着物に熱衝撃を与えることにより、付着物にスポーリング(収縮ひび割れ)を発生させて配管から脱離させ、脱離した付着物を流体(ガス)により排出させるとともに、残留付着物を少量の空気を混入させたガスを用いて燃焼分解させる方法である。
特許文献1には、600℃以上の燃焼分解では管の材質劣化が避けられないため厳密な運転管理が必要であると記載されている。また、付着物が多量の場合にスポーリングを実施すると、剥離したコークにより管が閉塞することが問題であることが記載されている。これを防止するために、特許文献1に開示の技術は、管内に付着した原油等に起因するコークを、空気と水蒸気または不活性気体の混合雰囲気下において、温度350℃〜500℃、酸素濃度3体積%〜21体積%の条件化でデコーキングを実施するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2973347号公報(請求項1、段落[0013]〜[0018]、[0020])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイオマス熱分解ガス化システムにおいて、ガスによるスポーリングは、表層部に形成される比較的軟質のバイオマス熱分解付着物の除去にある程度の効果が認められるものの、ガスの管内流速及び圧力を高く維持する必要があった。これは、バイオマス熱分解ガス化システムなどのバイオマスエネルギー変換設備では特に重要とされるライフサイクルコストの低減の観点から好ましくない。また、バイオマス原料では石油原料と比較して付着物量が多いために、バイオマス熱分解付着物を高温で燃焼分解させると、局部的な発熱や暴走的な燃焼が発生し易い。
【0006】
また、石油由来の熱分解付着物(コーク)とバイオマス由来の熱分解付着物とでは、成分が全く異なるため、付着物の性状や熱分解機構が異なる。特許文献1では、コークの熱変性硬化収縮に起因する剥離を防止するために、500℃以下で燃焼分解を実施していた。しかし、特許文献1の条件でバイオマス熱分解ガス化システムの熱分解付着物の除去を実施しても、付着物除去効果が低いために、除去に長時間を要するという問題が生じた。すなわち、特許文献1の条件でバイオマス熱分解付着物を除去するには、設備を長時間に亘り停止させる必要があり、実用的ではない。
【0007】
本発明は、バイオマスの熱分解ガス化システムにおいて、配管内壁などに付着した熱分解生成物を効果的に除去できる方法及び熱分解ガス化システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスの熱分解ガス化システムにおいて、熱分解ガス化炉と燃焼炉との間に設けられる配管に、酸素濃度が5体積%以上13体積%以下の不活性ガス及び酸素の混合ガスを流通させ、ガス温度500℃以上の条件で、前記配管の内壁に付着した熱分解付着物を燃焼させて除去する熱分解付着物除去方法を提供する。
【0009】
また本発明は、下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスの熱分解ガス化システムであって、熱分解ガス化炉と、該熱分解ガス化炉の下流側に設けられる燃焼炉と、前記熱分解ガス化炉と前記燃焼炉との間に設けられる配管とを備え、前記配管に接続され、不活性ガス及び酸素の混合ガスとされる酸化剤を前記配管に供給するための酸化剤供給口と、前記酸化剤の酸素濃度を5体積%以上13体積%以下に調整するための酸化剤調整部と、前記配管の内壁を加熱するための加熱部と、前記配管の内側を流通するガスの温度を計測するガス温度検出部と、前記ガスの温度を制御するためのガス温度制御部とを備える熱分解ガス化システムを提供する。
【0010】
バイオマス熱分解ガス化システムの配管や配管の途中に設けられるファンに付着する付着物は、300〜600℃でガス化された成分が主体である。熱分解ガスが配管やファンに到達すると、設備起動時はガス温度に対して配管内壁の温度が低いために、ガス成分が凝縮して配管内壁に付着する。熱分解付着物の堆積層が厚くなると、堆積層が断熱層となるため、付着物の成長に伴い高沸点成分が主として堆積される。つまり、堆積層の表面側は高沸点成分が主となる。本発明では、ガス温度500℃以上の条件とすることにより、堆積層表面側の高沸点成分を効果的に燃焼分解除去させることができるため、堆積層下層への分解反応が促進される。バイオマス熱分解付着物の場合、上記温度範囲での熱変性硬化収縮は発生せず、付着物が多量に剥離し配管を閉塞する恐れが少ない。
燃焼分解を、酸素濃度5体積%以上13体積%以下の不活性ガス及び酸素の混合ガス雰囲気下で実施すると、部分燃焼により熱分解付着物が酸化され、固体から気体への相変化が促進される。また、本発明では、膜分離装置のような安価な装置を用いて上述の酸素濃度範囲に調整できるために、ライフサイクルコストを低減することが可能である。酸素濃度が5体積%よりも低くなると、反応性が急激に低下する。一方、酸素濃度が13体積%を超えると、暴走的な燃焼が起こり、反応の制御が困難となる。
本発明の熱分解付着物除去方法では、配管の空塔速度が1m/s程度の低流速で燃焼分解させることができるため、混合ガスの供給量が抑制される。このため、ライフサイクルコストを低減することが可能となる。
【0011】
本発明の熱分解ガス化システムにおいて、前記酸化剤調整部が、前記配管を流通する排ガスを採取するためのダクトと、該採取された排ガスと空気とを混合する混合部とを備えることにより、酸化剤製造に必要な動力を低減することができるので、好ましい。
【0012】
上記発明において、前記ガス温度が650℃以下の条件で、前記熱分解付着物を除去することが好ましい。また、前記配管の鉄皮温度が600℃以下の条件で、前記熱分解付着物を除去することが好ましい。
ガス温度または配管の鉄皮温度(配管外表面の温度)が上記温度範囲を満たすように熱分解付着物を燃焼分解させれば、配管の損傷及び劣化を防止することができる。
【0013】
上記発明において、常温とされる前記混合ガスが、前記配管内に供給されることが好ましい。
【0014】
本発明では、供給する混合ガスを上記の反応温度まで予め加熱する必要が無い。供給された混合ガスは燃焼時の反応熱により昇温される。このため、設備運転時の化石燃料の使用量を抑制できるとともに、混合ガス供給系の酸素濃度計を耐高温仕様及び耐排ガス仕様とする必要がない。この結果、ライフサイクルコストを低減することができる。
【0015】
上記発明において、前記混合ガスが、前記配管の途中に設けられるファンよりも上流側の配管内に供給されることが好ましい。
【0016】
酸化剤である混合ガスを配管上流部から供給すると、配管内壁及びファンのインペラなどに堆積した付着物が、上流側から順次燃焼分解される。配管下流側のガス温度や配管温度を測定し、温度が規定値以下となれば、配管内部の燃焼分解の終了を判断することができる。すなわち、本発明によれば、配管内部に酸素濃度計を設置しなくても、ガス温度及び反応温度から燃焼分解状況を把握することができる。
【0017】
上記発明において、前記配管の一箇所または複数の箇所で前記配管内のガス温度が計測され、該計測されたガス温度の少なくとも1つの値が650℃を超える場合に、前記配管内を流通する前記混合ガスの酸素濃度を、5体積%未満に減少させることが好ましい。
【0018】
上述のように、反応温度が高くなると配管の材質が損傷を受ける可能性が高まる。そこで、一箇所または複数個所で計測される配管内のガス温度が650℃を超える場合に、混合ガスの酸素濃度を5体積%未満にすると、燃焼分解反応が抑制されてガス温度が低下し、ガスにより配管も冷却される。本発明によれば、燃焼分解反応を容易に制御することができるとともに、配管の損傷を防止することができる。
【0019】
上記発明において、前記配管の傾斜部分の内壁に、常温の圧縮空気を噴射することが好ましい。また、本発明の熱分解ガス化システムは、前記配管の内壁に圧縮空気を噴射するためのブラストノズルを更に備えることが好ましい。
【0020】
例えば、配管の縮流部や鉛直方向に対して斜めまたは水平に設置されている配管など、配管の傾斜部の内壁には、熱分解ガスが偏って付着し易く、部分的に厚い熱分解付着物の堆積層が形成される。堆積層が厚いと、デコーキングの所要時間が長くなる。また、配管傾斜部分等の下側内壁に燃焼により生成した灰分が堆積されるために、熱分解付着物と酸素との反応率が低下する。
厚い付着物の堆積層が形成された部分に常温の圧縮空気を噴射すると、噴射による衝撃により堆積層にクラックが発生する。また、燃焼後の灰分が下流側に向かって飛散する。これにより、熱分解付着物と酸素との接触面が増大するため、反応率が向上する。配管内壁への圧縮空気の噴射は、堆積物が多いバイオマスを原料とする熱分解ガス化システムにおいて特に有効である。また、本発明では常温の圧縮空気を利用することから、一般的に導入されているスチームスポーリングと比較してライフサイクルコストを大幅に低減することが可能である。
【0021】
上記発明において、前記熱分解付着物が燃焼して発生する排ガスが、前記燃焼炉において補助燃料と混合されるとともに、温度700℃以上で酸化処理されることが好ましい。
【0022】
上述の熱分解付着物の燃焼分解では、COを含む排ガスが排出される。後段に設けた燃焼炉において、排ガスを補助燃料と混合させ、700℃以上の温度条件で酸化処理することにより、COとして放出することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の熱分解付着物除去方法を用いれば、バイオマス由来の熱分解付着物を短時間で安全に除去することができる。また、熱分解ガス化システムのライフサイクルコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】バイオマス熱分解ガス化システムの概略図である。
【図2】図1のバイオマス熱分解ガス化システムの一部を示す概略図である。
【図3】バイオマス熱分解付着物を燃焼させたときの付着物質量変化を表すグラフである。
【図4】デコーキング中における各位置でのガス温度及び鉄皮温度の経時変化を表すグラフである。
【図5】配管傾斜部の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の熱分解付着物除去方法を詳細に説明する。
図1に示すバイオマス熱分解ガス化システムにおいて、ファン14の出力が基準値を超えた場合、あるいは、バイオマス熱分解ガス化システムを一定期間運転後に、熱分解ガス化炉が停止される。次いで、配管内壁及びファンのインペラなどに堆積した熱分解付着物の燃焼分解除去(デコーキング)が実施される。
【0026】
図2は、図1のバイオマスガス化システムの配管部分を示す概略図である。本実施形態の熱分解付着物除去方法では、酸化剤が、配管の少なくとも1箇所から導入される。例えば、図2の酸化剤供給口L(ファン14の上流側配管)、酸化剤供給口M(熱分解ガス化炉出口15における配管)、酸化剤供給口N(配管の傾斜部分(配管傾斜部)16と燃焼炉13に接続する配管との接続部)から酸化剤が供給される。ファン14の上流側(熱分解ガス化炉側)に設置される酸化剤供給口Lまたは酸化剤供給口Mから酸化剤を供給すると、ファンのインペラに付着した付着物を効果的に除去できるため、好ましい。図2では、酸化剤供給口Lを1箇所設けているが、複数の酸化剤供給口Lを熱分解ガス化炉13とファン14との間に設けても良い。
【0027】
本実施形態において、酸化剤は酸素及び窒素の混合ガスとされる。酸化剤中の酸素濃度は5体積%以上13体積%以下とされる。酸素濃度が5体積%よりも低くなると、反応性が急激に低下する。一方、酸素濃度が13体積%を超えると、暴走的な燃焼が起こり、反応の制御が困難となる。
酸化剤中の酸素濃度は、酸素濃度が5体積%未満の窒素を主とする低酸素濃度ガスと圧縮空気との混合比を変えることにより調整される。低酸素濃度ガスは、気体膜分離装置や圧力スイング装置(PSA)を用いて製造することができる。例えば、低酸素濃度ガス貯蔵タンクと圧縮空気タンクとが設置され、低酸素濃度ガスと圧縮空気とが所望の比率で混合されてから、酸化剤供給口から配管内に供給される。
配管内に供給される酸化剤は、常温であることが好ましい。常温とは、圧縮空気タンク及び低酸素濃度ガス貯蔵タンクが設置される場所の温度(外気温)と同等の温度であり、例えば25℃程度とされる。
【0028】
上記低酸素濃度ガスは、配管12を流通する、燃焼分解により発生したCOを含む排ガスとすることができる。この場合、配管12にダクトが連結される。排ガスの一部がこのダクトを通じて配管外部に排出され、採取される。配管12に連結されたダクトの他方端は、空気が流通するダクトに連結される。連結部には流量調節弁が設置されて、空気が流通するダクトに供給される排ガス量が調節されるようになっている。このような構成とすることにより、採取された排ガスと空気とが上記酸素濃度範囲で混合される。混合された排ガスと空気は、酸化剤として酸化剤供給口L,M,Nから配管12へと供給される。
このような構成とすることにより、圧縮空気を生成するための空気圧縮機が不要となり、酸化剤製造に必要な動力を低減することが可能となる。
【0029】
酸化剤供給口から供給された常温の酸化剤(混合ガス)は、1m/s程度の空塔速度で配管12内を流通する。配管12がヒータにより加熱されることで、熱分解付着物が加熱される。熱分解付着物が400℃以上に加熱されると、着火してデコーキングが開始される。熱分解付着物が部分燃焼して分解すると、ガス温度が上昇する。本実施形態における燃焼分解反応時のガス温度は、500℃以上とされる。500℃以上でデコーキングを実施することにより、付着物堆積層の表面側に主として含まれる高沸点成分が気化し、酸化剤中の酸素と反応して燃焼分解反応が促進される。高沸点成分が分解除去されると、堆積層下層側への燃焼分解反応が進行する。燃焼分解により発生したCOを含む排ガス及び灰分は、混合ガスとともに配管12下流側へと輸送される。
【0030】
熱分解反応温度が高すぎると、オーステナイト系ステンレス製の配管に損傷及び劣化が生じる。配管の損傷及び劣化を防止するために、配管の鉄皮温度が600℃以下の条件でデコーキングが実施される。あるいは、ガス温度と鉄皮温度との間に相関関係があるため、ガス温度によりデコーキング温度の上限値を設定しても良い。ガス温度は鉄皮温度よりも高いことから、ガス温度の上限値は鉄皮温度の上限値よりも高く設定される。本実施形態では、デコーキング時のガス温度は650℃以下とされる。ガス温度は、配管内部に温度計を挿入して計測される。配管断面での挿入位置は、付着物の堆積量を考慮して適宜設定される。例えば、300mmφの配管では、配管内壁から中心に向かって100mmの位置でのガス温度が計測される。
【0031】
酸化剤中の酸素濃度が高いほど、熱分解付着物と酸素との反応性が向上する。デコーキング開始時に上記酸素濃度範囲内で比較的高酸素濃度の酸化剤を供給すると、着火により急激にガス温度が上昇する可能性がある。そこで、デコーキング開始時では供給される酸化剤中の酸素を低濃度とし、ガス温度や配管の鉄皮温度を監視しながら段階的に酸素濃度を上昇させても良い。こうすることで、反応を制御して急激な温度上昇の発生を防止することができる。
【0032】
例えば酸素濃度12%以上と高酸素濃度を維持しながらデコーキングを行うと、熱分解付着物と酸素との反応性が良好であるために、反応熱によりガス温度が650℃を超える場合がある。本実施形態では、温度計により計測されるガス温度が650℃を超えた場合に、酸化剤としての圧縮空気の供給を遮断することにより、酸化剤中の酸素濃度を5体積%未満に減少させても良い。上述のように、酸素濃度が5体積%未満となるとバイオマス熱分解付着物の燃焼反応率が急激に低下する。このため、反応熱の発生が抑制され、熱分解付着物が酸化剤(混合ガス)により冷却されるため、計測されるガス温度及びヒータ温度が低下する。酸素濃度を低減させる期間は、ガス温度の低下幅に基づいて決定しても良い。あるいは、圧縮空気の供給を所定時間遮断するように予め設定し制御しても良い。配管の複数の箇所でガス温度を計測し、少なくとも1つの箇所でのガス温度が650℃を超えた場合に酸素濃度を低減させると、燃焼分解反応の制御精度が高まり、より確実に配管の損傷及び劣化を防止できる。
【0033】
デコーキングは、配管の上流側から下流側に向かって進行する。これは、燃焼分解反応が生じている箇所で酸化剤中の酸素が消費され、反応発生箇所の下流側には酸素が到達しにくいためである。付着物が完全に燃焼除去されデコーキングが終了した箇所では、反応熱による寄与がなくなり、常温の酸化剤が流通するために、計測されるガス温度が低下する。このとき、下流側ではデコーキングが継続されるため、ガス温度は高温で維持されている。従って、ガス温度の経時変化を測定することにより、デコーキング終了の判断をすることができる。また、配管の複数箇所においてガス温度を監視することにより、デコーキングの進行状況を把握することが可能である。上述のように、ガス温度と鉄皮温度との間に相関があることから、配管の鉄皮温度を監視することによっても、デコーキングの進行状況を把握し、デコーキング終了を判断することができる。
【0034】
図3は、雰囲気温度400℃、600℃、及び800℃の3条件として、酸素濃度11%、温度400℃の酸化剤を供給してバイオマス熱分解付着物を燃焼させたときの付着物質量変化を表す。同図において、横軸は反応時間、縦軸は、初期付着物質量(20g)に対する残留付着物質量の比である。
温度400℃に比べて、温度600℃及び800℃では質量減少量が大きいことから、反応性が向上していると言える。温度600℃及び800℃の反応性はほぼ同等であった。図3の結果は、反応性と配管材質とを考慮すると、温度600℃程度でのデコーキングが有利であることを示している。
【0035】
図4は、本実施形態に係る熱分解付着物除去方法を実施した結果の一例であり、ファン表面温度(鉄皮温度)、及び、デコーキング中での配管の異なる位置におけるガス温度及び鉄皮温度の経時変化を表すグラフである。同図において、横軸は経過時間、縦軸は各計測位置でのガス温度または鉄皮温度及び酸化剤中の酸素濃度である。図2のファン14入口及び燃焼炉13入口ではガス温度を計測し、ファン14、傾斜部a(16a)及び傾斜部b(16b)では鉄皮温度を計測した。
【0036】
図4によると、デコーキング初期では、ファン入口でのガス温度、ファン及び傾斜部aでの鉄皮温度が500℃を超えていることから、当該部分でデコーキングが発生していると判断できる。一方、傾斜部aより下流側にある傾斜部bでの鉄皮温度及び燃焼炉入口でのガス温度は、ファン及び傾斜部aから遅れて500℃を超えた。また、16時間経過付近で傾斜部bでの鉄皮温度及び燃焼炉入口でのガス温度は上昇しているのに対し、ファン入口ガス温度、ファン及び傾斜部aでの鉄皮温度は下降している。これは、上流側でデコーキングがほぼ終了しているが、下流側ではデコーキングが継続されていることを示している。このように、図4からはデコーキングは上流側から進行することが確認できる。
本実験では、デコーキング中に酸化剤中の酸素濃度を12%から5%未満(約4.7%)に低下させたところ、酸素濃度を低下させるのとほぼ同時に各部におけるガス温度及び鉄皮温度が低下し始め、再び酸化剤中の酸素濃度を12%に上昇させると、各部でのガス温度及び鉄皮温度が上昇した。この結果は、デコーキング中に酸化剤中の酸素濃度を変化させることにより、ガス温度の調整が可能であることを示している。
【0037】
本実施形態では、配管の縮流部や図2に示す配管傾斜部16の下側内壁など、鉛直方向に対して傾斜して設置される配管内壁に熱分解付着物が堆積しやすい。また、酸化剤(混合ガス)が低流速で配管を流れる場合には、配管傾斜部の下側内壁に燃焼分解により発生する灰分が堆積しやすい。本実施形態では、デコーキング中に熱分解付着物や灰分が堆積しやすい箇所に向かって、圧縮空気を噴射しても良い。
【0038】
図5は配管傾斜部の部分断面図である。配管傾斜部16の上部に2つのブラストノズル20が設置される。ブラストノズル20はブラスタ(不図示)に接続される。図5では、ブラストノズル20は配管傾斜部16の下側内壁のほぼ同じ位置にブラスタから供給された圧縮空気が当たるように配置されている。
配管傾斜部16では、ガス流れ方向の複数個所に上記ブラストノズルを設置することができる。ガス流れ方向のブラストノズル設置間隔は、例えば、ノズルから噴射された圧縮空気が配管(熱分解付着物)に到達した位置か消失するまでの距離をシミュレーションにより算出して決定される。
【0039】
ブラストノズル20からの圧縮空気の噴射は、所定の時間間隔にて、例えば圧力0.5MPa程度、射出量200l/sの条件で実施される。噴射間隔は、付着・堆積による圧力損失の上昇速度などを考慮し、適宜設定される。圧縮空気が熱分解付着物の堆積層に衝突した衝撃により、配管下側内壁に形成された熱分解付着物の堆積層にクラックが発生する。また、圧縮空気とともに燃焼分解により発生し堆積した灰分が下流側へ流される。これにより、発生したクラック部分では新しい反応面が酸化剤と接触するようになり、熱分解付着物の燃焼分解が促進される。
【0040】
なお、ブラストノズルからの圧縮空気の噴射は、熱分解ガス化反応中に実施しても良い。こうすることで、配管内壁に形成される熱分解付着物が厚くなる前に、熱分解付着物を剥離させて除去することができる。その結果、熱分解付着量を抑制することができ、デコーキング時の急激な温度上昇を防止できるとともに、デコーキングの所要時間を更に削減することができる。
【0041】
本実施形態の熱分解付着物除去は、低酸素濃度での部分燃焼分解であるため、上記熱分解付着物除去で発生した排ガスである熱分解ガスは、下流側の燃焼炉に到達する。熱分解ガスは、燃焼炉上部に設けられたガスバーナから燃焼炉内に噴射され、燃焼炉上部から供給される都市ガスなどの補助燃料と混合されて、燃焼する。熱分解ガス燃焼時の燃焼炉温度は、700℃程度とされる。熱分解ガス中に多量のCOが含まれるが、これによりCOが完全燃焼してCOとなり、燃焼炉から排出される。
【符号の説明】
【0042】
10 バイオマス熱分解ガス化システム
11 熱分解ガス化炉
12 配管
13 燃焼炉
14 ファン
15 熱分解ガス化炉出口
16 配管傾斜部
20 ブラストノズル
L,M,N 酸化剤供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスの熱分解ガス化システムにおいて、
熱分解ガス化炉と燃焼炉との間に設けられる配管に、酸素濃度が5体積%以上13体積%以下の不活性ガス及び酸素の混合ガスを流通させ、ガス温度500℃以上の条件で、前記配管の内壁に付着した熱分解付着物を燃焼させて除去する熱分解付着物除去方法。
【請求項2】
前記ガス温度が650℃以下の条件で、前記熱分解付着物を除去する請求項1に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項3】
前記配管の鉄皮温度が600℃以下の条件で、前記熱分解付着物を除去する請求項1に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項4】
常温とされる前記混合ガスが、前記配管内に供給される請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項5】
前記混合ガスが、前記配管の途中に設けられるファンよりも上流側の配管内に供給される請求項4に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項6】
前記配管の一箇所または複数の箇所で前記配管内のガス温度が計測され、該計測されたガス温度の少なくとも1つの値が650℃を超える場合に、前記配管内を流通する前記混合ガスの酸素濃度を、5体積%未満に減少させる請求項1に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項7】
前記配管の傾斜部分の内壁に、常温の圧縮空気が噴射される請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項8】
前記熱分解付着物が燃焼して発生する排ガスが、前記燃焼炉において補助燃料と混合されるとともに、温度700℃以上で酸化処理される請求項1に記載の熱分解付着物除去方法。
【請求項9】
下水汚泥や木質バイオマスなどのバイオマスの熱分解ガス化システムであって、
熱分解ガス化炉と、
該熱分解ガス化炉の下流側に設けられる燃焼炉と、
前記熱分解ガス化炉と前記燃焼炉との間に設けられる配管とを備え、
前記配管に接続され、不活性ガス及び酸素の混合ガスとされる酸化剤を前記配管に供給するための酸化剤供給口と、
前記酸化剤の酸素濃度を5体積%以上13体積%以下に調整するための酸化剤調整部と、
前記配管の内壁を加熱するための加熱部と、
前記配管の内側を流通するガスの温度を計測するガス温度検出部と、
前記ガスの温度を制御するためのガス温度制御部と
を備える熱分解ガス化システム。
【請求項10】
前記酸化剤調整部が、前記配管を流通する排ガスを採取するためのダクトと、該採取された排ガスと空気とを混合する混合部とを備える請求項9に記載の熱分解ガス化システム。
【請求項11】
前記配管の内壁に、圧縮空気を噴射するためのブラストノズルを更に備える請求項9に記載の熱分解ガス化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−68859(P2011−68859A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159683(P2010−159683)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(501370370)三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】