説明

熱可塑性エラストマーを含む気密性層を有する空気式物品

膨張ガスに対して不透過性のエラストマー層を備え、このエラストマー層が、少なくとも、主要エラストマーとして、熱可塑性スチレン/イソブチレン/スチレン(SIBS)エラストマーを含むことを特徴とするインフレータブル物品。好ましくは、上記SIBSエラストマーは5質量%〜50質量%のスチレンを含み、その数平均分子量は30 000〜500 000g/モルであり、そのTgは−20℃よりも低い。好ましくは、上記気密エラストマー層は、可塑剤として、SIBSエラストマー用の増量剤オイルも好ましくは5〜100phrの含有量で含む。本発明のインフレータブル物品は、特に、自動車用の内部チューブまたは空気式タイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、“インフレータブル”物品、即ち、定義により、その物品を空気によりまたは等価の膨張ガスにより膨張させたときにその使用可能な形状となる物品に関する。
本発明は、さらに詳細には、これらインフレータブル物品の不透過性、特に空気式タイヤの不透過性を確保する気密層に関する。
【背景技術】
【0002】
“チューブレス”タイプ(即ち、内部チューブを含まないタイプ)の通常の空気式タイヤにおいては、その放射状内面は、気密層(または、より一般的には、あらゆる膨張ガスに対して不透過性である層)を含み、この気密層は、空気式タイヤを膨張させ、加圧下に保つことを可能にする。その気密特性は、比較的低い圧力低下率を確保することを可能にし、膨張したタイヤを、通常の操作状況においては、十分な時間、通常数週間または数ヶ月間保つことを可能にしている。また、気密層は、カーカス補強材をタイヤの内部空間から発する空気の拡散から保護する役割を有する。
【0003】
気密内部層即ち“内部ライナー”のこの役割は、現在のところ、ブチルゴム(イソブチレン/イソプレンコポリマー)をベースとする組成物によって果たされており、その優れた気密特性については長期にわたりよく知られている。
しかしながら、ブチルゴムまたはエラストマーをベースとする組成物の1つの周知の欠点は、これらの組成物が高いヒステリシス損失を有することであり、さらにまた、広い温度範囲に亘って、この欠点が、空気式タイヤの転がり抵抗性を悪化させることである。
これらの気密性内部層のヒステリシスを、従って、最終的には、自動車の燃料消費を低下させることが、最近の技術が直面する一般的目的である。
【発明の概要】
【0004】
上記に対し、本出願人等は、研究中に、ブチルゴム以外のエラストマーが、そのような目的に対応する気密性内部層を得るのを可能にすると共に、この内部層に極めて良好な気密特性を付与することを見いだした。
【0005】
従って、第1の目的によれば、本発明は、空気のような膨張ガスに対して不透過性のエラストマー層を備えたインフレータブル物品に関し、上記エラストマー層が、少なくとも、主要エラストマーとして、熱可塑性スチレン/イソブチレン/スチレン(SIBS)エラストマーを含むことを特徴とする。
また、ブチルゴムと比較して、SIBSは、その熱可塑特性故に、溶融(液体)状態のままで加工することができ、結果として、簡素化された加工の実現性を提供するという大きな利点を有する。
【0006】
本発明は、詳細には、空気式タイヤ、または内部チューブ、特に空気式タイヤ用の内部チューブのようなゴム製のインフレータブル物品に関する。
本発明は、より詳細には、乗用車タイプ、SUV (スポーツ用多目的車)タイプ、二輪車(特に、オートバイ)のような自動車;航空機;バン類、重量車両(即ち、地下鉄列車、バス、道路輸送車両(トラック、トラクター、トレーラー)、または農業用車両もしくは土木工事車両のような道路外車両)から選ばれる産業用車両;および、他の輸送または操作用車両に装着することを意図する空気式タイヤに関する。
【0007】
また、本発明は、上述したような気密エラストマー層を製造中の上記インフレータブル物品に組込むかまたは製造後の上記インフレータブル物品に付加することからなる、インフレータブル物品を膨張ガスに対してシーリングする方法にも関する。
また、本発明は、上記で定義したようなエラストマー層の、インフレータブル物品における膨張ガスに対して不透過性の層としての使用にも関する。
本発明およびその利点は、以下の説明および典型的な実施態様に照らして、さらにまた、本発明に従う空気式タイヤを半径断面で略図的に示すこれらの実施例に関連する一様の添付図面から容易に理解し得るであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に従う空気式タイヤを半径断面で略図的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
I. 本発明の詳細な説明
本説明においては、特に断らない限り、示すパーセント(%)は、全て質量%である。
さらにまた、“aとbの間”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aよりも大きくbよりも小さい範囲の値の領域を示し(即ち、限界値aとbを除く)、一方、“a〜b”なる表現によって示される値の間隔は、いずれも、aからbまでの範囲である値の領域を意味する(即ち、厳格な限定値aおよびbを含む)。
【0010】
I-1. 気密性エラストマー層
本発明に従うインフレータブル物品は、少なくとも、主要エラストマーとして(質量による)、熱可塑性SIBSエラストマー(本発明の1つの好ましい実施態様によれば、可塑剤としての少なくとも1種の増量剤オイルと混合し得る)を含む少なくとも1つの気密性エラストマー層または組成物を備えているという主要な特性を有する。
【0011】
I-1-A. 熱可塑性SIBSエラストマー
“SIBSエラストマー”なる表現は、本出願においては、定義により、中央ポリイソブチレンブロックが、必要に応じてハロゲン化した1以上の不飽和単位、特に、1以上のジエン単位、例えば、イソプレン単位で遮断されていてもよいまたは遮断されてなくてもよい任意のスチレン/イソブチレン/スチレントリブロックエラストマーを意味するものと理解される。
上記SIBSエラストマーは、知られているとおり、熱可塑性エラストマー(TPE)類、より正確には、熱可塑性スチレン(TPS)エラストマー類の群に属する。
【0012】
ここで、TPSエラストマーは、一般に、スチレン系ブロックコポリマーの形であることを思い起されたい。熱可塑性ポリマーとエラストマー間に構造中間物を有することにより、上記TPSエラストマーは、可撓性のエラストマーブロック、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリ(エチレン‐ブチレン)或いは例えばSIBSの場合のポリイソブチレンの各ブロックが結合した硬質ポリスチレンブロックからなる。上記TPSエラストマーは、多くの場合、1つの可撓性セグメントが結合した2つの硬質セグメントを有するトリブロックエラストマーである。硬質および可撓性セグメントは、線状、星型または枝分れ構造であり得る。典型的には、これらのセグメントまたはブロックの各々は、少なくとも5個よりも多い、一般的には10個よりも多い基本単位を有する(例えば、SIBSにおけるスチレン単位とイソプレン単位)。
【0013】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、上記SIBSエラストマー中のスチレン質量含有量は、5〜50%である。上記の最低値よりも低いと、上記エラストマーの熱可塑特性が実質的に低下するリスクに至り、一方、推奨される最高値よりも高いと、上記気密層の弾力性が悪影響を受け得る。これらの理由により、スチレン含有量は、より好ましくは10〜40%、特に15〜35%である。
用語“スチレン”は、本説明においては、非置換または置換スチレンをベースとする任意のモノマーを意味するものと理解すべきである;置換スチレンのうちでは、例えば、メチルスチレン(例えば、α‐メチルスチレン、β‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、tret‐ブチルスチレン)、クロロスチレン(例えば、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン)を挙げることができる。
【0014】
上記SIBSエラストマーのガラス転移温度(Tg、ASTM D3418に従って測定)は、好ましくは−20℃よりも低く、より好ましくは−40℃よりも低い。これらの最低温度よりも高いTg値は、極めて低温で使用するときの気密層の性能を低下させ得る;そのような使用においては、SIBSエラストマーのTgは、さらにより好ましくは、−50℃よりも低い。
【0015】
上記SIBSエラストマーの数平均分子量(Mnで示す)は、好ましくは30 000〜500 000g/モル、より好ましくは40 000〜400 000g/モルである。上記の最低値よりも低いと、SIBSエラストマー鎖間の凝集が、その必要に応じての希釈(増量剤オイルの存在)故に、悪影響を受けるリスクに至る;さらにまた、使用温度の上昇は、機械的性質、特に、破壊時特性に悪影響を及ぼすリスクに至り、結果として、“高温”性能の低下に至る。さらにまた、高すぎる分子量Mnは、気密層の可撓性に関して有害であり得る。従って、50 000〜300 000g/モルの範囲内にある値が、特に空気式タイヤにおける上記組成物の使用において、とりわけ適していることが観察される。
【0016】
上記SIBSエラストマーの数平均分子量(Mn)は、SEC (立体排除クロマトグラフィー)により、既知の方法で測定する。試験片を、先ず、約1g/lの濃度でテトラヒドロフラン中に溶解する;その後、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。使用する装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は0.7ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は90分である。商品名STYRAGEL (HMW7、HMW6Eおよび2本のHT6E)を有する直列の4本のWATERSカラムセットを使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、WATERS 2410示差屈折計であり;クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェアは、WATERS MILLENNIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得た較正曲線と対比する。
【0017】
上記SIBSエラストマーの多分散性指数Ip (注:Ip = Mw/Mn;Mwは、質量平均分子量である)は、好ましくは3よりも低く、より好ましくは、Ipは2よりも低い。
【0018】
上記SIBSエラストマーは、独自で上記気密エラストマー層を構成し得、或いは、このエラストマー層内で、他の成分と組合せてエラストマー組成物を調製してもよい。
任意成分としての他のエラストマーをこの組成物において使用する場合、SIBSエラストマーは、質量での主要エラストマーを構成する;SIBSエラストマーは、その場合、エラストマー全体の好ましくは50質量%よりも多く、より好ましくは70質量%よりも多くを示す。好ましくは小量で存在するそのようなさらなるエラストマーは、例えば、ミクロ構造の適合性限界内での天然ゴムまたは合成ポリイソプレン、ブチルゴム、またはSIBS以外の熱可塑性スチレン(TPS)エラストマーであり得る。
【0019】
上記のSIBSに加えて使用し得るSIBS以外のTSPエラストマーとしては、特に、
スチレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/イソプレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/イソプレン/ブタジエン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン‐ブチレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン‐プロピレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン‐エチレン‐プロピレン/スチレンブロックコポリマー、およびこれらコポリマーの混合物からなる群から選ばれるTPSエラストマーを挙げることができる。さらに好ましくは、上記任意成分としてのさらなるTPSエラストマーは、スチレン/エチレン‐ブチレン/スチレンブロックコポリマー、スチレン/エチレン‐プロピレン/スチレンブロックコポリマーおよびこれらコポリマーの混合物からなる群から選ばれる。
しかしながら、1つの好ましい実施態様によれば、SIBSエラストマーは、単独のエラストマー、上記気密層または組成物中に存在する単独の熱可塑性エラストマーである。
【0020】
SIBSエラストマーは、押出加工または成形加工により、例えば、ビーズまたは顆粒形で入手し得る原材料から出発して、TPE類においての通常の方法で加工し得る。SIBSエラストマーは、商業的に入手可能であり、例えば、KANEKA社から品名“SIBSTAR”(例えば、“Sibstar 102T”、“Sibstar 103T”または“Sibstar 073T”)として販売されている。
【0021】
SIBSエラストマー、さらにまた、その合成は、例えば、特許文献EP 731 112号、US 4 946 899号およびUS 5 260 383号に記載されている。SIBSエラストマーは、先ずは生体医学用途用に開発され、その後、医療器具、自動車部品または電気製品用の部品、電線用のシース材、シーリングまたは弾性部品のような多様なTPEエラストマー独特の各種用途において説明されている(例えば、EP 1 431 343号、EP 1 561 783号、EP 1 566 405号またはWO 2005/103146号参照)。
しかしながら、本出願人等の知る限り、インフレータブル物品、特に、空気式タイヤの気密エラストマー層の主要エラストマーとしてのそれらSIBSの使用を記載している或いは示唆している従来技術文献はない;本製品は、全く予期に反して、ブチルゴムをベースとする通常の組成物と競合し得ることが判明したものである。
【0022】
I-1-B. 増量剤オイル
上記のSIBSエラストマーは、それ自体で、このエラストマーを使用して完成させるインフレータブル物品に関連する気体に対する不透過性機能については十分である。
しかしながら、本発明の1つの好ましい実施態様によれば、SIBSエラストマーは、増量剤オイル(または可塑化用オイル)も可塑剤として含む組成物中で使用する;増量剤オイルの役割は、不透過性の一定の喪失を代償としてではあるが気密層のモジュラスを低め且つ粘着力を高めることによって加工性、特に、インフレータブル物品への組込みを容易にすることである。
【0023】
任意の増量剤オイル、好ましくは、エラストマー、特に熱可塑性エラストマーを増量または可塑化することのできる弱極性を有する増量剤オイルを使用し得る。周囲温度(23℃)において、これらのオイルは、比較的粘稠であり、本来固体である樹脂、特に、粘着性樹脂とは対照的に、液体(即ち、心覚えとしては、最終的には収容物の形で現れる能力を有する物質)である。
好ましくは、増量剤オイルは、ポリオレフィンオイル(即ち、オレフィン類、モノオレフィン類またはジオレフィン類の重合によって得られるオイル)、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル(低または高粘度を有する)、芳香族オイル、鉱油およびこれらのオイル類の混合物からなる群から選択する。
【0024】
SIBSへの増量剤オイルの添加は、使用するオイルのタイプおよび量によって変動するSIBSの不透過性の喪失をもたらすことに留意すべきである。好ましくは、ポリブテンタイプのオイル、特に、試験した他のオイルと比較して、特にパラフィンタイプの通常のオイルと比較して、諸性質の最良の妥協点が実証されているポリイソブチレン(PIB)オイルを使用する。
ポリイソブチレンオイルの例としては、特に、Univar社から商品名“Dynapak Poly”(例えば、“Dynapak Poly 190”)として、BASF社から商品名“Glissopal”(例えば、“Glissopal 1000”)または“Oppanol”(例えば、“Oppanol B12”)として販売されているものがある;パラフィン系オイルは、例えば、Exxon社から商品名“Telura 618”として、またはRepsol社から商品名“Extensol 51”として販売されている。
【0025】
上記増量剤オイルの数平均分子量(Mn)は、好ましくは200〜25 000g/モル、より好ましくは300〜10 000g/モルである。過度に低いMn値においては、オイルが上記組成物の外に移行するリスクが存在し、一方、過度に高いMn値は、この組成物が硬質になり過ぎる結果となり得る。350〜4000g/モル、特に400〜3000g/モルのMn値が、意図する用途、特に、空気式タイヤにおける使用において優れた妥協点であることが判明している。
【0026】
上記増量剤オイルの数平均分子量(Mn)は、SECによって測定する;試験片を、先ず、約1g/lの濃度でテトラヒドロフラン中に溶解し、次いで、溶液を、0.45μmの有孔度を有するフィルター上で、注入前に濾過する。装置は、WATERS Allianceクロマトグラフである。溶出溶媒はテトラヒドロフランであり、流量は1ml/分であり、系の温度は35℃であり、分析時間は30分である。商品名“STYRAGEL HT6E”を有する2本のWATERSカラムセットを使用する。ポリマー試験標本溶液の注入容量は、100μlである。検出器は、WATERS 2410示差屈折計であり;クロマトグラフデータを処理するその関連ソフトウェアは、WATERS MILLENIUMシステムである。算出した平均分子量を、ポリスチレン標準によって得た較正曲線と対比する。
【0027】
当業者であれば、特に使用することを意図するインフレータブル物品の気密エラストマー層の特定の使用条件に応じて増量剤オイルの量を如何にして調整するかは、以下の説明および実施態様に照らして知り得ることであろう。
上記増量剤オイルの含有量は、5phrよりも多く、好ましくは5〜100phrであるのが好ましい(phr:エラストマー全体、即ち、エラストマー組成物または層中に存在するSIBS+任意の他の使用し得るエラストマーの100質量部当りの質量部)。
上記の最低値よりも低いと、上記エラストマー組成物は、ある種の用途において高過ぎる剛性を有するリスクに至り、一方、推奨する最高値よりも高いと、上記組成物が不十分な凝集力を有し且つ当該用途次第で悪化し得る不透過性を喪失するリスクが存在する。
これらの理由により、特に空気式タイヤにおける上記気密組成物の使用においては、増量剤オイル含有量は、好ましくは10phrよりも多く、特に10〜90phrであり、さらに好ましくは20phrよりも多く、特に20〜80phrである。
【0028】
I-1-C. 各種添加剤
さらにまた、上記の気密層または組成物は、気密層中に通常存在し当業者にとって既知の各種添加剤も含み得る。例えば、カーボンブラックまたはシリカのような補強用充填剤、非補強用または不活性充填剤、組成物を着色するのに有利に使用し得る着色剤、不透過性をさらに改良する板状充填剤(例えば、カオリンのようなフィロシリケート、タルク、雲母、グラファイト、クレーまたは変性クレー(“オルガノクレー”))、上記の増量剤オイル以外の可塑剤、酸化防止剤またはオゾン劣化防止剤のような安定剤、UV安定剤、各種加工助剤または他の安定剤、或いはインフレータブル物品の残余の構造体への接着を促進することのできる促進剤が挙げられる。
【0029】
上記のエラストマー(SIBSおよび他の使用し得るエラストマー)以外に、上記気密組成物は、SIBSエラストマーに対して常に少質量画分で、例えば、SIBSエラストマーと匹敵する熱可塑性ポリマーのようなエラストマー以外のポリマーも含み得る。
上記の気密層または組成物は、固体(23℃において)で且つ弾性である配合物であり、特に、その特定の配合故に、極めて高い可撓性と極めて高い変形性に特徴を有する。
【0030】
本発明の1つの好ましい実施態様によれば、この気密層または組成物は、10%伸び(M10で示す)において、2MPaよりも低い、より好ましくは1.5MPaよりも低い(特に1MPaよりも低い)割線引張モジュラスを有する。この性質は、23℃の温度での1回目の伸び(即ち、順応サイクルなし)において、500mm/分の引張速度で測定し(ASTM D412)規格)、試験片の初期断面に対して標準化する。
【0031】
I‐2. 空気式タイヤでの上記気密層の使用
上記のSIBSをベースとする層または組成物は、任意のタイプのインフレータブル物品における気密層として使用し得る。そのようなインフレータブル物品の例としては、インフレータブルなボート、バルーンまたはゲームもしくはスポーツにおいて使用するボール類を挙げることができる。
上記組成物は、ゴム製の最終製品または半製品いずれかのインフレータブル物品における、特に、二輪車、乗用車または産業用車両のような自動車用の空気式タイヤにおける気密層(または、任意の他の膨張ガス、例えば、窒素に対して不透過性である層)として使用するのに特に適している。
【0032】
そのような気密層は、好ましくは、インフレータブル物品の内壁上に設置するが、その内部構造中に完全に一体化させてもよい。
気密層の厚さは、好ましくは0.05mmよりも厚く、より好ましくは0.1mm〜10mm(特に0.1〜1.0mm)である。
特定の用途分野並びに関連する寸法および圧力に応じて、本発明の実施方法は変動し、その場合、気密層は幾つかの好ましい厚さ範囲を有することは容易に理解されることであろう。
【0033】
従って、例えば、乗用車タイヤの場合、気密層は、少なくとも0.4mm、好ましくは0.8〜2mmの厚さを有し得る。もう1つの例によれば、重量または農業用車両タイヤの場合、好ましい厚さは、1〜3mmであり得る。もう1つの例によれば、土木工学分野の車両用または航空機用の空気式タイヤの場合、好ましい厚さは、2〜10mmであり得る。
ブチルゴムをベースとする通常の気密層と比較して、上記の気密組成物は、以下の典型的な実施態様において実証しているように、はるかに低いヒステリシスを示し、従って、空気式タイヤに低減された転がり抵抗性を付与するという利点を有する。
【0034】
II. 本発明の典型的な実施態様
上記の気密エラストマー層は、全てのタイプの車両、特に、乗用車または重量車両のような産業用車両の空気式タイヤにおいて有利にしようすることができる。
1つの例として、添付図面は、本発明に従う空気式タイヤの半径断面を極めて略図的に示している(一定の縮尺で描かれていない)。
【0035】
この空気式タイヤ1は、クラウン補強材即ちベルト6によって補強されたクラウン2、2つの側壁3および2つのビード4を有し、これらのビード4の各々は、ビードワイヤー5によって補強されている。クラウン2は、トレッド(この略図には示していない)が取付けられている。カーカス補強材7は、各ビード4内の2本のビードワイヤー5の周りに巻付けられており、この補強材7の上返し8は、例えば、空気式タイヤ1の外側に向って位置しており、この場合、タイヤリム9上に取付けて示している。カーカス補強材7は、それ自体知られている通り、コード、いわゆる“ラジアル”コード、例えば、繊維または金属コードによって補強されている少なくとも1枚のプライからなる、即ち、これらのコードは、実際上、互いに平行に配置されて一方のビードから他方のビードに延びて円周正中面(2つのビード4の中間に位置しクラウン補強材6の中央を通る空気式タイヤの回転軸に対して垂直の面)と80°〜90°の角度をなしている。
空気式タイヤ1の内壁は、空気式タイヤ1の内部空洞11の側面上で、例えばおよそ0.9mmに等しい厚さを有する気密層10を有する。
【0036】
この内部層(即ち“内部ライナー”)は、空気式タイヤの内壁全体を覆っており、一方の側壁から他方の側壁に、少なくとも空気式タイヤが装着位置にあるときのリムフランジまで延びている。この内部層は、カーカス補強材を空気式タイヤの内部空間11から発する空気の拡散から保護することを意図する上記空気式タイヤの半径内面を形成している。この内部層は、空気式タイヤを膨張させ、加圧下に保つことを可能にする。その気密特性は、比較的低い圧力損失率を確保するのを可能とし且つ膨張した空気式タイヤを正常な操作状態に十分な時間、通常数週間または数ヶ月間保つのを可能にする筈である。
【0037】
ブチルゴムをベースとする組成物を使用する通常の空気式タイヤと異なり、本発明に従う空気式タイヤは、本例においては、気密層10として、約55phrのPIBオイル(“Dynapak Poly 190”;ほぼ1000 g/モルのMn)で増量したSIBSエラストマー(ほぼ15%のスチレン含有量、ほぼ−65℃のTgおよびほぼ90 000 g/モルのMnを有する“Sibstar 102T”)を使用している。
【0038】
上述したようなその気密層10を備えた空気式タイヤは、加硫(または硬化)前または後において製造し得る。
第1の場合(即ち、空気式タイヤの加硫前)、上記気密層を通常の方法で所望の位置に単純に適用して層10を形成させる。その後、加硫を通常に実施する。SIBSエラストマーは、加硫工程に関連するストレスに良好に耐え得る。
空気式タイヤ技術の熟練者にとっての1つの有利な製造変法は、例えば、第1工程において、気密層を、構築用ドラム上に、該ドラムを空気式タイヤの残余の構造体で被覆する前に、当業者にとって周知の製造方法に従い、適切な厚さを有するスキムの形で直接付着させることからなるであろう。
【0039】
第2の場合(即ち、空気式タイヤの硬化後)、上記気密層は、適切な手段によって硬化させた空気式タイヤの内側に、例えば、適切な厚さのフィルムを結合させることによって、スプレーすることによって或いは押出またはブロー成形することによって適用する。
【0040】
以下の例においては、気密特性を、先ず、一方のブチルゴムをベースとする組成物および他方のSIBS (“Sibstar 102T”)をベースとする組成物(SIBSエラストマーに関しては、増量剤オイルを含むおよび含まないもの)の各試験片について分析した。
【0041】
この分析においては、硬質壁透磁率計(permeameter)を使用し、圧力センサー(0〜6バールの範囲に較正した)を備え、且つ空気注入バルブを備えたチューブと連結したオーブン(本例では60℃の温度)内に入れた。上記透磁率計は、ディスク形状(本例においては、例えば、65mmの直径を有する)で且つ3mmまでの範囲であり得る均一な厚さ(本例においては0.5mm)有する標準試験片を受入れ得る。圧力センサーを、0.5 Hzの周波数で連続収集(2秒毎に1ポイント)を実施するコンピュータに接続しているNational Instruments社のデータ収集カード(0〜10Vのアナログ4チャンネル収集)に接続する。透過係数(K)を回帰直線から測定して(1000ポイントに亘っての平均)、試験した試験片による圧力低下の傾斜αを、時間の関数として、装置の安定化後、即ち、圧力が時間の関数として直線的に降下する定常状態を得た後に得る。
【0042】
先ず、単独で、即ち、増量剤オイルまたは他の添加剤を含まないで使用したSIBSは、等しい厚さにおいて、ブチルゴムをベースとする通常の組成物の透過係数と同等の極めて低い透過係数を有することが判明した。そのモジュラスM10は、対照組成物のモジュラスM10よりも、それ自体ほぼ40%低い(2.3MPaと比較して1.4MPa)。
このことは、既に、そのような材料における顕著な結果を構成している。
【0043】
既に示しているように、不透過性の一定の損減が代償として受入れられるならば、SIBSエラストマーへの増量剤オイルの添加は、有利なことに、エラストマー組成物のモジュラスの低下および粘着力の増大により、エラストマー組成物のインフレータブル物品への組込みを容易にし得る。
即ち、例えば、45および65phrの増量剤オイルを使用することによって、透過係数は、パラフィン系オイルのような通常のオイルの存在下においては、係数2よりも高く(それぞれ、2.2倍および3.4倍)上昇した(従って、不透過性は低下した)のに対し、この透過係数は、PIBオイル(“Dynapak Poly 190”)の存在下では、2よりも実質的に低い係数(それぞれ、15および1.6倍)、すなわち、空気式タイヤでの使用に対してあまり有害でない最終的な係数でしか上昇しなかったことを観察した。
【0044】
この理由により、SIBSとPIBオイルとの組合せは諸性質の最良の妥協点を提供することが判明した。SIBSとPIBをベースとするこの組成物においては、さらにまた、モジュラスM10がさらに低下し、1MPaよりも低い値まで減じていたことも観察した。
【0045】
上記の実験室試験の後、乗用車タイプの本発明に従う空気式タイヤ(寸法 195/65 R15)を製造し、その内壁を、0.9mmの厚さを有する気密層(10)で被覆し(タイヤの残余部を製造する前の構築用ドラム上で)、その後、タイヤを加硫させた。この気密層(10)は、上述したようにして、55phrのPIBオイルで増量したSIBSから製造した。
本発明に従うこれらの空気式タイヤを、同じ厚さを有し、ブチルゴムをベーするとする通常の気密層を含む対照タイヤ(Michelin “Energy 3”ブランド)と比較した。各空気式タイヤの転がり抵抗性を、ISO 8767 (1992年)法に従い、フライホイール上で測定した。
本発明の空気式タイヤは、極めて有意に、当業者にとって予期に反して、対照空気式タイヤと対比してほぼ4%低下した転がり抵抗性を有することを観察した。
【0046】
結論として、本発明は、空気式タイヤの設計者に、内部シーリング層のヒステリシスを極めて有意に低下させ、従って、そのようなタイヤを装着した自動車の燃費を軽減する機会を提供している。
また、SIBSは、その熱可塑特性故に、溶融(液体)状態で加工し得、従って、通常のブチルゴム組成物と比較して、これらの気密内部層の改良された加工の実現性を提供するという多大な利点を有する。
【符号の説明】
【0047】
1 空気式タイヤ
2 クラウン
3 側壁
4 ビード
5 ビードワイヤー
6 クラウン補強材(ベルト)
7 カーカス補強材
8 カーカス補強材の上返し
9 タイヤリム
10 気密層
11 内部空洞


【特許請求の範囲】
【請求項1】
膨張ガスに対して不透過性のエラストマー層を備えたインフレータブル物品であって、前記エラストマー層が、少なくとも、主要エラストマーとして、熱可塑性スチレン/イソブチレン/スチレン (SIBS)エラストマーを含むことを特徴とするインフレータブル物品。
【請求項2】
前記SIBSエラストマーが、5〜50質量%のスチレンを含む、請求項1記載のインフレータブル物品。
【請求項3】
前記SIBSエラストマーのガラス転移温度(Tg)が、−20℃よりも低い、請求項1または2記載のインフレータブル物品。
【請求項4】
前記SIBSエラストマーの数平均分子量(Mn)が、30 000〜500 000g/モルである、請求項1〜3のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項5】
前記気密層が、エラストマー用の増量剤オイルを含む、請求項1〜4のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項6】
前記増量剤オイルが、ポリオレフィンオイル、パラフィン系オイル、ナフテン系おいる、芳香族オイル、鉱油およびこれらオイル類の混合物からなる群から選ばれる、請求項5記載のインフレータブル物品。
【請求項7】
前記増量剤オイルの数平均分子量(Mn)が、200〜25 000g/モルである、請求項5または6記載のインフレータブル物品。
【請求項8】
前記増量剤オイルの含有量が、5phrよりも多い、請求項5〜7のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項9】
前記増量剤オイルの含有量が、5phr〜100phrである、請求項8記載のインフレータブル物品。
【請求項10】
前記気密層が、0.05mmよりも厚い、好ましくは0.1mm〜10mmの厚さを有する、請求項1〜9のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項11】
前記気密層を、前記インフレータブル物品の内壁に設置する、請求項1〜10のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項12】
前記物品が、ゴム製である、請求項1〜11のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項13】
前記インフレータブル物品が、空気式タイヤである、請求項1〜12のいずれか1項記載のインフレータブル物品。
【請求項14】
前記インフレータブル物品が、内部チューブである、請求項1〜12のいずれか1項記載のインフレータブル物品。

【公表番号】特表2010−527839(P2010−527839A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509711(P2010−509711)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【国際出願番号】PCT/EP2008/004024
【国際公開番号】WO2008/145276
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(599093568)ソシエテ ド テクノロジー ミシュラン (552)
【出願人】(508032479)ミシュラン ルシェルシュ エ テクニーク ソシエテ アノニム (499)
【Fターム(参考)】