説明

熱可塑性エラストマー組成物

【課題】良好な柔軟性、屈曲耐久性を有し、かつ、優れた圧縮永久歪みと優れた耐油性の両方を有し、高価なTPV化の工程を経ることなく、物性に優れた熱可塑性エラストマーを提供する。
【解決手段】ゴム重合体(C)からなる1層以上のコアと、シェル重合体(S)からなる1層以上のシェルと、を有するコアシェル重合体(CS)を含む熱可塑性エラストマーであって、その成形体の圧縮永久歪みであって、JIS−K6262(70℃、22時間)に準拠して測定された圧縮永久歪みが、40%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコアシェル重合体であって、柔軟性、耐油性、及び、圧縮永久ひずみに優れる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コアシェル重合体と同等の構造である多層構造樹脂であって、常温で良好な柔軟性、屈曲耐久性を有する軟質樹脂としては特許文献1がある。即ち、成形が容易であり、常温で良好な柔軟性、屈曲耐久性を有するとともに組成によっては優れた透明性を有し、射出成形材料、シート、フィルムおよびチューブ等これらの加工品に最適な樹脂として、共役ジオレフィンを含む単量体混合物を重合してなるTgが30℃以下である少なくとも1層の架橋重合体層10〜90重量部と、組成の異なる架橋重合体層0〜80重量部と、多官能架橋性単量体、及び最外層である多官能グラフト単量体を含まない単量体混合物を重合してなる少なくとも1層の非架橋重合体層10〜90重量部とからなる多層構造重合体である軟質多層構造樹脂が提案されている。しかし、この軟質樹脂はゴムの特徴である圧縮永久歪みが不十分であり、用途が制限されている。
【0003】
さらに、同様の多層構造樹脂であって、アクリル系単量体からなるアクリル系軟質樹脂として特許文献2がある。(例えば、クラレ社製パラペット(登録商標))。このアクリル系軟質樹脂は、アクリル系であるため、耐油性には優れるが、やはり、圧縮永久歪みが不十分であり、用途が制限されている。
【0004】
一方、圧縮永久ひずみの優れる熱可塑性エラストマーとして、特許文献3に開示されているように有機過酸化物を用いて部分架橋したモノオレフィン共重合体ゴムとポリオレフィン樹脂との熱可塑性ブレンドあるいはモノオレフィン共重合体ゴムとポリオレフィン樹脂に架橋助剤として有機過酸化物を用いて溶融混練を行い、部分架橋した組成物、すなわち動的に熱処理(動的架橋)により得られる組成物がこれに該当する。しかし、本組成物はポリオレフィン樹脂と、ポリオレフィンゴムからなるため、耐油性に劣るという欠点があり、用途が制限されており、また、動的架橋は,成形が煩雑であり、多くの付帯設備が必要であることから、より汎用的な押出機で生産できる熱可塑性エラストマーが求められている。即ち、動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)は、TPV化の工程が高価であるとの問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−263829号公報
【特許文献2】特開平06−248035号公報
【特許文献3】特開昭47−018943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、常温で良好な柔軟性、屈曲耐久性を有し、かつ、優れた圧縮永久歪みと優れた耐油性の両方を有する熱可塑性エラストマーに関し、特に、圧縮永久歪が小さく短時間での復元性に優れるTPV並の物性を確保しつつ、高価なTPV化の工程を経ることなく、物性に優れた熱可塑性エラストマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、従来のコア・シェル構造の(メタ)アクリレート共重合体では得られない、優れた圧縮永久ひずみが、特定構成のコアシェル構造のグラフト共重合体では得られることを発見し本発明をなした。
【0008】
即ち、本発明は、ゴム重合体(C)からなる1層以上のコアと、シェル重合体(S)からなる1層以上のシェルと、を有するコアシェル重合体(CS)を含む熱可塑性エラストマーであって、その成形体の圧縮永久歪みであって、JIS−K6262(70℃、22時間)に準拠して測定された圧縮永久歪みが、40%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物に関する。このような本発明の熱可塑性エラストマーは、架橋ゴムが微分散しており、良好な物性が得られる。
【0009】
好ましい実施態様は、前記ゴム重合体(C)を、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、及びシリコンゴムからなる群から選ばれる1種以上とすることである。
【0010】
好ましい実施態様は、前記ゴム重合体(C)のガラス転移温度を、25℃以下とすることである。
【0011】
好ましい実施態様は、前記シェル重合体(S)のガラス転移温度を、75℃以上とすることである。
【0012】
好ましい実施態様は、前記コアシェル重合体(CS)100重量%の内、前記ゴム重合体(C)が60〜99.9重量%、前記シェル重合体(S)が0.1〜40重量%である熱可塑性エラストマー組成物とすることである。
【0013】
好ましい実施態様は、前記ゴム重合体(C)を、アクリル酸エステル化合物(C)30〜99.9重量%、多官能性単量体(C)0.1〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(C)0〜69.9重量%からなるゴム重合体用単量体の重合体とすることである。
【0014】
好ましい実施態様は、前記ゴム重合体用単量体中の前記多官能性単量体を、全ゴム重合体用単量体を100重量%とした全体の平均値で0.5〜5重量%とすることである。
【0015】
好ましい実施態様は、前記シェル重合体(S)を、(メタ)アクリル酸エステル(S)、及びビニルシアンからなる群から選ばれる1種以上の単量体50〜100重量%、多官能性単量体(S)0〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(S)0〜50重量%からなるシェル重合体用単量体の重合体とすることである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、常温で良好な柔軟性、屈曲耐久性を有し、かつ、優れた圧縮永久歪みと優れた耐油性の両方を有し、これらの物性につき、TPV並の物性を確保しつつ、高価なTPV化の工程を経ることがない、単純ブレンドで大幅なコストダウンが可能な優れた熱可塑性エラストマーとなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(熱可塑性エラストマー組成物)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム重合体(C)からなる1層以上のコアと、シェル重合体(S)からなる1層以上のシェルと、を有するコアシェル重合体(CS)を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、その成形体の圧縮永久歪みであって、JIS−K6262(70℃、22時間)に準拠して測定された圧縮永久歪みが、40%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。前記圧縮永久歪みは、小さければ小さいほど好ましく、より好ましくは30%以下とすることである。
【0018】
(配合剤)
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、通常使用される配合剤を適宜添加することができる。そのような添加剤としては、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、繊維強化剤、充填剤、酸化防止剤、顔料、導電性付与剤、加水分解抑制剤、増粘剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、流動性改良剤、離型剤、相溶化剤、熱安定剤等が挙げられる。
【0019】
(成形体)
前記成形体は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、ロールプレス法、押出成形法、カレンダー成形法等の方法で熱成形した成形体で、好ましくはガラス転移温度が75℃以上の前記シェル重合体(S)の海、及び好ましくは架橋密度が高い前記ゴム重合体(C)の島からなる海島構造を構造として含むので、圧縮永久歪みが小さいという優れた特徴に加え、その高い耐油性を活かし、パッキン、オイルシール、オイルホース等に好適に用いられる。
【0020】
(圧縮永久歪み)
本発明に係る圧縮永久歪みは、上述したようにJIS−K6262(70℃、22時間)に準拠して測定されるが、具体的な測定方法は、実施例で説明する。
【0021】
(コアシェル重合体(CS))
本発明に係るコアシェル重合体(CS)は、熱可塑性エラストマーの柔らかさの指標である、例えばJIS K 7215に示されている、デュロメータ硬さを低くする観点、及び成形のしやすさの観点から、その全体の重量を100重量%としたときに、ゴム重合体(C)60〜99.9重量%、及びシェル重合体(S)0.1〜40重量%からなることが好ましく、より好ましくは、ゴム重合体(C)70〜99重量%、シェル重合体(S)1〜30重量%とすること、さらに好ましくは、ゴム重合体(C)80〜95重量%、シェル重合体(S)5〜20重量%とすることである。
【0022】
本発明に係るコアシェル重合体の層構造については、例えば、コアにシェルが完全に被覆した層構造が一般的であるが、コアとシェルの重量比率等によっては、層構造を形成するためのシェル量が不十分な場合もありうる。そのような場合は、完全な層構造である必要はなく、コアの一部をシェルが被覆した構造であってもよく、あるいはコアの一部にシェルの構成要素である単量体の少なくとも一部がグラフト重合した構造も好適に用いることができる。なお、上記層構造の概念は、本発明におけるコア中もしくはシェル中において多層構造が形成される場合にも同様に当てはまる。
【0023】
このような本発明に係るコアシェル重合体は、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンション重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法等により製造することができる。中でも、構造制御が容易である点から、乳化重合法により製造されたコアシェル重合体を好適に用いることができる。
【0024】
本発明に係るコアシェル重合体(CS)は、成形体中において、前記海島構造を形成した時に、より有効に圧縮永久ひずみを小さくする効果を発揮させる観点から、コアシェル重合体の体積平均粒子径、即ち、コアシェル構造のグラフト共重合体の一次粒子の体積平均粒子径が、0.05〜0.5μmであることが好ましい。また、成形前の状態においては、取扱いが困難な微粉、及び成形に悪影響の怖れがある粗大粒子を含まない、前記一次粒子が凝集した二次粒子径の体積平均粒子径が、50〜1000μmの粉体であることが更に好ましい。
【0025】
なお、前記コアシェルの一次粒子の体積平均粒子径は、例えば、MICROTRAC UPA150(登録商標)(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。前記コアシェル重合体の二次粒子の体積平均粒子径、例えば、MICROTRACK FRA−SVRSC(登録商標)(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0026】
(ゴム重合体(C))
本発明に係るゴム重合体(C)は、前記成形体中で、上述したように海島構造の島部を構成する部分であり、ゴム弾性付与の観点から、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、及びシリコンゴムからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、その中でも耐油性の観点から、アクリルゴム、及びシリコンゴムからなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、特に好ましくは、ゴム弾性、及び耐油性に優れるアクリルゴムである。
【0027】
また、本発明に係るゴム重合体(C)のガラス転移温度は、上述のデュロメータ硬さを低くする観点から、25℃以下であることが好ましく、より好ましくは0℃以下である。
【0028】
このようなゴム重合体(C)は、ゴム重合体用単量体を重合してなる重合体、即ち、ゴム重合体用単量体の重合体である。
【0029】
なお、重合体のガラス転移温度(以下,Tgとも言う)は、例えば、示差熱走査熱量系により測定することができるが、本発明においては、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book (J.Brandrup,Interscience1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることにする。例えば,ポリメチルメタクリレートのTgは105℃であり、ポリブチルアクリレートのTgは−54℃である。
【0030】
前記アクリルゴムは、アクリルモノマーを主成分として重合される重合体であり、このようなアクリルモノマーとしては、ゴム重合体用単量体の項で詳細に説明する。
【0031】
前記シリコンゴムとしては、例えばジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ等の、アルキル或いはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系重合体が好ましく例示され、具体的には、1,3,5,7−オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)に代表される環状シロキサンや、好ましくは重量平均分子量が500〜20,000以下の直鎖状、又は分岐状のオルガノシロキサンオリゴマーを主成分とするオルガノシロキサン系ゴム重合体形成用単量体を、酸や、アルカリ、塩、フッ素化合物などの触媒を用いて、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の方法で重合したポリオルガノシロキサンの粒子を好ましく例示することができる。
【0032】
また、前記オルガノシロキサン系ゴム重合体形成用単量体100重量%中には、架橋構造を形成する観点から、メチルトリエトキシシラン、テトラプロピルオキシシランなどの3官能以上のアルコキシシラン、及びメチルオルソシリケートなどの3官能以上のシランの縮合体からなる群から選ばれる1種以上が、0〜20重量%含まれていることが好ましいく、より好ましくは0.1〜5重量%、さらに好ましくは1〜3重量%である。
【0033】
さらに、前記オルガノシロキサン系ゴム重合体形成用単量体100重量%中には、アリル置換基をこのオルガノシロキサン系ゴム重合体に導入することで、本発明に係るシェル重合体(S)を、このシロキサンゴムに接してグラフト重合することにより、シリコンゴムのシェル重合体(S)による被覆を十分なものとして、上述した海島構造を意図通りに形成し、永久圧縮歪みを小さくする観点から、メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルフェニルジメトキシメチルシランなどの2官能の加水分解性基、及びビニル基を含有するシラン化合物であるグラフト交叉剤が、0重量%〜50重量%含まれていることが好ましい。
【0034】
(ゴム重合体用単量体)
本発明に係るゴム重合体用単量体は、耐油性、及び圧縮永久歪みを小さくする観点から、本発明のゴム重合体(C)を好ましくはアクリルゴムとした場合には、アクリル酸エステル化合物(C)30〜99.9重量%、多官能性単量体(C)0.1〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(C)0〜69.9重量%からなることが好ましく、より好ましくは、アクリル酸エステル化合物(C)50〜99.5重量%、多官能性単量体(C)0.5〜5重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(C)0〜49.5重量%とすること、さらに好ましくは、アクリル酸エステル化合物(C)60〜99.5重量%、多官能性単量体(C)0.5〜5重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(C)0〜39.5重量%とすることであり、特に好ましくは、アクリル酸エステル化合物(C)60〜99重量%、多官能性単量体(C)1〜3重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(C)0〜39重量%とすることである。前記重量%は、全ゴム重合体用単量体を100重量%とした全体の平均値であり、ここで全体の平均値とは、例えば、多官能性単量体(C)を含む層、及び含まない層からなるゴム重合体の場合には、これら両方の層を形成する全ての多官能性単量体(C)の量の、ゴム重合体用単量体全体の量に対する割合であることを意味する。
【0035】
(アクリル酸エステル化合物(C))
前記ゴム重合体用単量体に用いられるアクリル酸エステル化合物(C)としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ベヘニル等の炭素数が1〜22のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル類;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の炭素数が1〜22のアルキル基を有し、ヒドロキシル基を有するアクリル酸エステル類;アクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有するアクリル酸エステル類;アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸エトキシエチル等の炭素数が1〜22のアルキル基を有し、アルコキシル基を有するアクリル酸エステル類が挙げられる。前記アクリル酸エステル類のアルキル基の炭素数については必ずしも制限されるものではないが、例えば炭素数が22を超えると重合性が劣る場合があるため、アルキル基の炭素数が22以下のアクリル酸エステル類が好適に使用されうる。中でも、アクリルゴムとして汎用的に用いられている、アルキル基の炭素数が12以下のアクリル酸エステル類が好適に使用される。特に耐油性、圧縮永久歪みの観点から、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシメチル、アクリル酸エトキシエチルが好適に使用され得る。なお、これらは単独で用いても良く、2種以上組み合わせても良い。
【0036】
(多官能性単量体(C))
前記多官能性単量体(C)は、コアに架橋構造を導入する架橋剤の役割を有し、また、コアにシェルがグラフト重合する際のグラフト点を供給するグラフト交叉剤の役割を有するものである。前記多官能性単量体の具体例としては、共役ジエンは含まれず、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能性(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、グリシジルジアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が挙げられる。特に好ましくはアリルメタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン(DVB)である。
【0037】
(これらと共重合可能な不飽和単量体(C))
前記これらと共重合可能な不飽和単量体(C)としては、前記(メタ)アクリル酸エステル化合物(C)、及び前記多官能性単量体(C)以外の二重結合を有する化合物であって、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物、スチレン、α−メチルスチレン、1−又は2−ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン等のビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類等が挙げられる。耐油性の観点から好ましくは、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸である。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
(シェル重合体(S))
本発明に係るシェル重合体(S)は、前記成形体中では、上述したように海島構造の海部を構成する部分であり、圧縮永久歪みの観点から、そのガラス転移温度は、75℃以上であることが好ましく、より好ましくは80℃以上である。
【0039】
このようなシェル重合体(S)は、シェル重合体用単量体を重合してなる重合体、即ち、シェル重合体用単量体の重合体である。
【0040】
(シェル重合体(S)用単量体)
本発明に係るシェル重合体(S)用単量体は、耐油性の観点から、(メタ)アクリル酸エステル(S)、及びビニルシアンからなる群から選ばれる1種以上の単量体50〜100重量%、多官能性単量体(S)0〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(S)0〜50重量%からなることが好ましく、耐油性をさらに向上させる観点から、より好ましくは、(メタ)アクリル酸エステル(S)、及びビニルシアンからなる群から選ばれる1種以上の単量体60〜100重量%、多官能性単量体(S)0〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(S)0〜40重量%とすることである。
【0041】
((メタ)アクリル酸エステル(S))
前記シェル重合体用単量体に用いられる(メタ)アクリル酸エステル(S)としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベヘニル等の炭素数が1〜22のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の炭素数が1〜22のアルキル基を有し、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の炭素数が1〜22のアルキル基を有し、アルコキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。前記(メタ)アクリル酸エステル類のアルキル基の炭素数については必ずしも制限されるものではないが、例えば炭素数が22を超えると重合性が劣る場合があるため、アルキル基の炭素数が22以下の(メタ)アクリル酸エステル類が好適に使用されうる。中でも、重合性が優れ、安価で汎用的に用いられている、アルキル基の炭素数が12以下の(メタ)アクリル酸エステル類が好適に使用される。特に耐油性、圧縮永久歪みの観点から、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルが好適に使用され得る。なお、これらは単独で用いても良く、2種以上組み合わせても良い。
【0042】
(ビニルシアン)
前記ビニルシアンとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられるが、好ましくは、アクリロニトリルである。
【0043】
(多官能性単量体(S))
前記多官能性単量体(S)としては、上述の多官能性単量体(C)として例示したものの他、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3ジメチル−1,3ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3ヘキサジエン等の共役ジエン系化合物が挙げられる。特に好ましくはアリルメタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン(DVB)である。
【0044】
(これらと共重合可能な不飽和単量体(S))
前記これらと共重合可能な不飽和単量体(S)としては、前記(メタ)アクリル酸エステル(S)、及び前記多官能性単量体(S)以外の二重結合を有する化合物であって、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、1−又は2−ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン等のビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸等のビニルカルボン酸類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等のハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のアルケン類等が挙げられる。耐油性の観点から好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸である。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
(コアシェル重合体Aの作製)
温度計、攪拌機、還流冷却器、窒素流入口、単量体と乳化剤の添加装置を有するガラス反応器に、脱イオン水140重量部、パルミチン酸カリウム0.05重量部を仕込み、窒素気流中で攪拌しながら40℃に昇温した。次にブチルアクリレート(以下BAとも言う)8.46重量部、アリルメタクリレート(以下、AMAとも言う)0.04重量部、クメンハイドロパーオキサイド0.02重量部の混合物を仕込み、その10分後にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム0.006重量部と硫酸第一鉄・7水和塩0.001重量部を蒸留水5重量部に溶解した混合液、およびホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム0.2重量部を仕込んだ。60分攪拌後、そこにパルミチン酸カリウム0.08重量部仕込んだ。10分攪拌後、そこにBA33.83重量部、AMA0.17重量部およびクメンハイドロパーオキサイド0.1重量部からなる単量体の混合物を180分を要して滴下した。また、前記の単量体混合物の添加とともに、0.5重量部のパルミチン酸カリウムを5重量%濃度の水溶液にしたものを180分にわたり連続的に追加した。単量体混合物添加終了後、60分攪拌を続け、1層目のコアを得た。単量体成分の重合転化率は99.1%であった。このコアに、2層目コア成分として、BA41.65重量部、AMA0.85重量部、クメンハイドロパーオキサイド0.1重量部からなる単量体の混合物を180分を要して滴下した。また、前記の単量体混合物の添加とともに、0.5重量部のパルミチン酸カリウムを5重量%濃度の水溶液にしたものを180分にわたり連続的に追加した。単量体混合物添加終了後、60分攪拌を続け、2層目のコアを得た。単量体成分の重合転化率は99.5%であった。
【0047】
このようにして、全ゴム重合体用単量体を100重量%とした全体の平均値で、1.25重量%の多官能性単量体を含むゴム状重合体用単量体の重合体であるゴム状重合体(C)からなるコアを製造した。
【0048】
この2層からなるコアに、シェル成分として、メチルメタクリレート(以下、MMAとも言う)13.2重量部、ブチルメタアクリレート(以下、BMAとも言う)1.8重量部、およびクメンハイドロパーオキサイド0.01重量部の混合物を45℃で60分間にわたって連続的に添加した。添加終了後、クメンハイドロパーオキサイド0.1重量部を添加し、さらに60分攪拌を続けて重合を完結させた。単量体成分の重合転化率は99.3%であった。以上により、ガラス転移温度(以下、Tgとも言う):−54℃のコア(C)85重量%、Tg:92℃のシェル(S)15重量%のコアシェル重合体Aのラテックスを得た。なお、このコアシェル重合体AのMICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)により測定した体積平均粒子径は、0.2μmであった。
【0049】
コアシェル重合体Aのラテックスを温度30℃に冷却し、加圧ノズルの一種である旋回流式円錐ノズルでノズル径0.6mmを用い、噴霧圧力3.7kg/cm2にて、塔底部液面からの高さ5m、直径60cmの円筒状の装置中に、体積平均液滴径が約200μmの液滴となるように噴霧した。それと同時に、35重量%濃度の塩化カルシウム水溶液を、塩化カルシウム固形分がコアシェル重合体Aの固形分100重量部に対し5〜15重量部となるように二流体ノズルにて空気と混合しながら、液滴径0.1〜10μmで噴霧した。塔内を落下したラテックス液滴は、塔底部にて30℃の1.0重量%濃度の塩化カルシウム水溶液を入れた受槽に投入され、これを回収した。
【0050】
得られた凝固ラテックス粒子水溶液に、5重量%濃度のパルミチン酸カリウム水溶液をパルミチン酸カリウム固形分がコアシェル重合体A固形分100重量部に対し1.5重量部となるよう添加し、熱処理した後脱水、乾燥することにより、白色樹脂粉末を調製した。
【0051】
以下の実施例1、及び比較例1〜3の各種熱可塑性エラストマー成形体の調製、及び評価を実施した。
【0052】
(実施例1)
コアシェル重合体A粉末を、8インチテストロールを用い、210℃にて5分間混練した後、210℃にてプレス成形を行い、厚さ2.0mmの成形板を得た。
【0053】
(比較例1、2)
有機過酸化物を用いて部分架橋したモノオレフィン共重合体ゴムとポリオレフィン樹脂との熱可塑性樹脂ブレンド、又は、モノオレフィン共重合体ゴムとポリオレフィン樹脂に架橋助剤として有機過酸化物を用いて溶融混練を行い、部分架橋した組成物、即ち、動的に熱処理(動的架橋)により得られた組成物の例としてSantprene 101−55、及びSantprene 211−80を用いた。
【0054】
Santprene 101−55は、8インチテストロールを用い、180℃にて5分間混練した後、180℃にてプレス成形を行い、厚さ2.0mmの成形板として、また、Santprene 211−80は、8インチテストロールを用い、190℃にて5分間混練した後、190℃にてプレス成形を行い、厚さ2.0mmの成形板として、各々サンプルを作成した。
【0055】
(比較例3)
可塑剤不要の軟質樹脂の例として、アクリル系軟質樹脂であるクラレのパラペットSA−FW001を用いた。パラペットSA−FW001を、8インチテストロールを用いて、190℃にて5分間混練した後、190℃にてプレス成形を行い、厚さ2.0mmの成形板を得た。
【0056】
(熱可塑性エラストマー成形体の評価)
得られた成形体から各種評価試験片の切り出しを行い、硬さ試験、永久ひずみ試験、及び耐油性試験を実施した。
【0057】
(硬さ試験)
硬さ試験はJIS K−6253に準じて、タイプAデュロメータ硬さ試験で、厚さ2.0mmの試験片を3枚重ねた試験片に、1.0kgの荷重をかけ、荷重が試験片の加圧面に密着してから1秒以内の標準硬さを読み取ることで実施した。
【0058】
(永久歪み試験)
永久ひずみ試験はJIS K−6262に準じて、大形試験片を用い、70℃、22時間、試験片を圧縮する割合25%の条件で実施し、圧縮解除後、23℃、30分放置後の圧縮変形残存量を、前記25%を100%として測定した。
【0059】
(耐油性試験)
耐油性試験はJIS K−6258に準じて、サンプルをJISの規定によるNo.3油に、70℃、72時間浸漬し、浸漬前後の重量変化率を測定することで実施した。
【0060】
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1および比較例1、2より、熱可塑性エラストマーが本発明で規定する範囲内のものであれば、優れた圧縮永久ひずみと優れた耐油性の両方を有していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム重合体(C)からなる1層以上のコアと、シェル重合体(S)からなる1層以上のシェルと、を有するコアシェル重合体(CS)を含む熱可塑性エラストマーであって、その成形体の圧縮永久歪みであって、JIS−K6262(70℃、22時間)に準拠して測定された圧縮永久歪みが、40%以下であることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記ゴム重合体(C)が、ブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリルゴム、及びシリコンゴムからなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記ゴム重合体(C)のガラス転移温度が、25℃以下である請求項1、又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記シェル重合体(S)のガラス転移温度が、75℃以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記コアシェル重合体(CS)100重量%の内、前記ゴム重合体(C)が60〜99.9重量%、前記シェル重合体(S)が0.1〜40重量%である請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記ゴム重合体(C)が、アクリル酸エステル化合物(C)30〜99.9重量%、多官能性単量体(C)0.1〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(C)0〜69.9重量%からなるゴム重合体用単量体の重合体である請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
前記ゴム重合体用単量体中の前記多官能性単量体が、全ゴム重合体用単量体を100重量%とした全体の平均値で、0.5〜5重量%であることを特徴とする請求項6に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
前記シェル重合体(S)が、(メタ)アクリル酸エステル(S)、及びビニルシアンからなる群から選ばれる1種以上の単量体50〜100重量%、多官能性単量体(S)0〜10重量%、及びこれらと共重合可能な不飽和単量体(S)0〜50重量%からなるシェル重合体用単量体の重合体である請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。

【公開番号】特開2010−235834(P2010−235834A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86730(P2009−86730)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】