説明

熱可塑性セルロース組成物の製造方法及びその成形体の製造方法

【課題】簡便な方法にて、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を得る製造方法の提供。
【解決手段】綿状のセルロースおよび粒状のアルキルセルロースの混合物を、酸無水物によりアシル化するアシル化工程を備えることによる熱可塑性セルロース組成物の製造方法。該アルキルセルロースとしては、炭素数1以上4以下のアルキル基を有するものであることが好ましく、特に、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース及びヒドロキシエチルエチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。該混合物における綿状のセルロースと粒状のアルキルセルロースの混合比(綿状のセルロース/粒状のアルキルセルロース)が質量基準で100/50〜100/10であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な熱可塑性セルロース組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース及びセルロースエステル、セルロースエーテル等のセルロース誘導体は、地球上で再生産可能なバイオマス材料として、また、環境中にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。
【0003】
現在、工業的に生産されるセルロース誘導体であるセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートの製造にあたっては汎用性が高いこと、低コストであること、温和な条件で反応が進行することから、硫酸触媒下、有機酸溶媒中で、アシル化剤として無水酢酸あるいは種々有機酸の酸無水物を用いてアシル化する手法が採用されている。
【0004】
これらのセルロースエステルは、強靱で高光沢、透明性、耐油性、耐光性が良いという特徴を有するため、繊維、プラスチック、フィルター、塗料など幅広い分野に利用されている。しかし、単独で加熱すると溶融と同時に着色や分解が生じるセルロースエステルも少なくない。例えば最も汎用に用いられているセルロースアセテートでは、可塑剤の添加なしでは良好な成型品を得ることができない。また、溶融成形ではなく種々の溶剤を用いてセルロース誘導体を溶解し成形する場合においても、可塑剤の添加なしでは良好な可撓性を有することができないため、いずれの成形においてもセルロースアセテートに代表されるセルロースエステルには可塑剤を添加することが必要である。
【0005】
このため、種々の可塑剤が使用されており、その代表的なものとしてジエチルフタレート等のフタル酸エステル、トリアセチン等の多価アルコールエステル、トリフェニルフォスフェート等のリン酸エステル、ジブチルアジペート等の二塩基性脂肪酸エステルなどが使用されてきた。
【0006】
セルロースエステルと上記可塑剤の混合に関して、特許文献1では別途作成したセルロースエステルのフレークに対して混合攪拌機を用いて混練を行う例が記載されている。
【0007】
また、高分子量の可塑剤を用いた方法としては、例えば特許文献2ではフタル酸系ポリエステルが、特許文献3ではポリカプロラクトンが使用できることが示されている。また、特許文献4ではセルロースエステルと非常に相溶性の高い可塑剤として、側鎖にアミド結合を有するビニルポリマー、又はビニル共重合ポリマーが用いられている。該公報におけるセルロース誘導体と共重合ポリマーの混練に関する記載として、押出機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロールなどを使用して溶融混練するか、適当な溶剤を使用して、溶解混練する方法が示されている。特許文献5ではセルロースエステル合成中に可塑剤を加え、熱可塑性組成物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−157159号公報
【特許文献2】特開昭61−276836号公報
【特許文献3】特開平07−076632号公報
【特許文献4】特開平12−212224号公報
【特許文献5】特許第3932997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1から4のいずれにおいても、可塑剤を含有したセルロースエステル組成物を得るためには、任意の方法によって得られたセルロースエステル誘導体のフレークと可塑剤を別途溶融混練、あるいは溶解混練を行う必要がある。
溶融混練の混練温度は200℃前後と高温を要するため、低沸点化合物との混練に用いることができない。また、粘性が高いセルロースエステルと可塑剤の混練では均一に混合するまでに長時間を要する。
一方、溶解混練においてはセルロースエステル及び可塑剤をともに溶解する溶媒を用いる必要がある。セルローストリアセテートの溶媒として、様々な有機溶媒が提案されており、実質的に使用されている溶媒としては塩化メチレン等が挙げられる。しかしながら、塩化メチレンのようなハロゲン化炭化水素は、近年、地球環境保護の観点から、その使用は規制されつつある。また塩化メチレンの沸点は41℃と低く、製造工程においても揮散しやすいため、作業環境を考えたときも問題がある。またセルロースアセテートプロピオネートに代表されるセルロースの混合脂肪酸エステルはセルロースアセテートに比べて溶解性が高く、多種の溶媒を用いることができる。しかし、その場合でも用いた溶媒自体及び溶媒の回収工程を作るコストが生じるため経済的ではない。
また特許文献5の方法では、用いられている可塑剤が一般的な低分子量の可塑剤であることから、乾燥や成形作業において可塑剤の蒸散等の問題がある。
【0010】
以上のように、熱可塑性を有するセルロース組成物を得るために可塑剤を使用する場合には種々の問題があり、さらなる改良が求められていた。
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、特に、簡便な方法にて、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
【0013】
項1.綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物を、酸無水物によりアシル化するアシル化工程を備えたことを特徴とする熱可塑性セルロース組成物の製造方法。
項2.前記アルキルセルロースが炭素数1以上4以下のアルキル基を有する、項1に記載の製造方法。
項3.前記酸無水物が無水酢酸、無水プロピオン酸及び無水酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、項1又は2に記載の製造方法。
項4.前記アシル化における触媒として硫酸又はメタンスルホン酸を用いる、項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
項5.前記アルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース及びヒドロキシエチルエチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
項6.前記混合物における綿状のセルロースと粒状のアルキルセルロースの混合比(綿状のセルロース/粒状のアルキルセルロース)が質量基準で100/50〜100/10である、項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
項7.項1〜6のいずれか1項に記載のアシル化工程に先立って、
前記混合物に酸性化合物を添加する前処理工程を備えた、項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
項8.項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた熱可塑性セルロース組成物を含有する成形材料を、加熱により溶融成形する工程を備えた成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡便な方法にて、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明では、綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物を酸無水物によりアシル化することで、可塑剤の使用を低減し、若しくは可塑剤を使用することなく、加熱による混錬等を行わない簡便な方法によって、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することに成功した。
【0016】
本発明は、綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物を、酸無水物によりアシル化するアシル化工程を備えたことを特徴とする熱可塑性セルロース組成物の製造方法である。以下に本発明の熱可塑性セルロース組成物の製造方法、及びこれを用いた成形体の製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」とは、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0017】
(綿状のセルロース)
本発明で使用するセルロースは綿状であれば限定されない。本発明における綿状とは、繊維状のものが不規則に集合したものを言い、例えばかさ密度0.1g/100ml以上20g/100ml以下であるものを言う。綿状のセルロースのかさ密度は、0.1g/100ml以上15g/100ml以下であることが好ましく、1.0g/100ml以上10g/100ml以下であることが更に好ましい。
【0018】
本発明で用いる綿状のセルロースは、例えばロール状のセルロースをシュレッダー等で裁断し、それを遠心粉砕機等で解砕することで得ることができる。
【0019】
セルロースには、粒状(かさ密度25g/100ml以上80g/100ml以下)、綿状(かさ密度0.1g/100ml以上20g/100ml以下)等の様々な形状が存在するが、本発明では綿状のセルロースを用いる。
【0020】
かさ密度は、特表2008―534735号公報に記載の方法で測定することができる。具体的には、ローブファルマ・エレクトロラボ・タップ密度試験機(LobePharma Electrolab Tap Density Tester)(USP)モデルETD−1020を用いて、セルロースのかさ密度を次のように測定することができる。
1)100mlのUSP1メスシリンダーの(空の)風袋重量を±0.01gの範囲内で測定する。
2)100mlのUSP1メスシリンダー中に、〜90mlの圧縮されていないセルロースを入れる。
3)このメスシリンダーをタップ密度試験機中に置き、落下300回/分の速度で200回分落下(タップ)させる。
4)得られたタップ後のセルロースの体積を、目視にて±1mlの範囲内で測定し、更にセルロースの重量を±0.01gの範囲内で測定する。
5)セルロースの重量をタップ後のセルロースの体積で割ることによって、かさ密度を計算する。
【0021】
本発明にいうセルロースとは、−(C10)−で表される繰り返し単位を有する化合物であり、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって結合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。
【0022】
(粒状のアルキルセルロース)
本発明で使用するアルキルセルロースは粒状であれば限定されない。本発明における粒状とは、粒子の粒子径の最大径と最小径との比率が10以下のものであり、例えばかさ密度25g/100ml以上80g/100ml以下であるものを言う。粒状のアルキルセルロースのかさ密度は、25g/100ml以上70g/100ml以下であることが好ましく、30g/100ml以上60g/100ml以下であることが更に好ましく、30g/100ml以上50g/100ml以下であることが最も好ましい。粒状のアルキルセルロースのかさ密度の測定は、上記綿状のセルロースにおけるかさ密度の測定と同様の方法で行うことができる。
【0023】
本発明のアルキルセルロースは、炭素数1以上4以下のアルキル基を有していることが好ましい。炭素数1以上4以下のアルキル基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合をもっていてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。炭素数1以上4以下のアルキル基は、さらなる置換基を有していてもよい。さらなる置換基としては、例えば、水酸基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基等が挙げられる。炭素数1以上4以下のアルキル基が有するさらなる置換基としては、水酸基が好ましい。
炭素数1以上4以下のアルキル基がさらなる置換基を有し、その置換基に炭素が含まれる場合、その置換基の炭素数は、炭素数1以上4以下のアルキル基の炭素数として含めないものとする。
【0024】
本発明にいうアルキルセルロースは下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
(一般式(1)中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、−C2n+1又は−(C2mO)−Hを表す。n及びmはそれぞれ独立に1〜7の整数を表す。kは1〜10の整数を表し、繰り返し単位ごとに異なっていてもよい。ただし、R、R及びRの少なくとも1つが、−C2n+1又は−(C2mO)−Hである。)
【0027】
一般式(1)において、R、R及びRの少なくとも1つが−(C2mO)−Hであることが好ましい。
【0028】
一般式(1)において−C2n+1で表される基は、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。nは1〜7の整数を表し、1〜4が好ましく、1〜3が更に好ましい。−C2n+1で表される基は、具体的には−CH、−C、−C、−CH(CH、−C、−CH−CH(CH、−CH(CH)−CH−CH、−C(CH等である。好ましくは−CH、−C、−Cである。
【0029】
一般式(1)において−(C2mO)−Hで表される基は、直鎖及び分岐のいずれであってもよい。mは1〜7の整数を表し、1〜4が好ましく、2〜3が更に好ましい。kは1〜10の整数を表し、1〜8が好ましく、1〜5が更に好ましい。kは繰り返し単位ごとに異なっていてもよい。−(C2mO)−Hで表される基は、具体的には−(CO)−H、−(CO)−H、−{CHCH(CH)O}−H等が挙げられる。好ましくは−(CO)−H、−{CHCH(CH)O}−Hである。ここで、kは一般式(1)において定義したものと同じである。
【0030】
一般式(1)で表される化合物としては、好ましくは、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース等が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルエチルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースがもっとも好ましい。
【0031】
本発明における綿状のセルロースと粒状のアルキルセルロースの混合物における混合比(綿状のセルロース/粒状のアルキルセルロース)は、質量基準で100/100〜100/1が好ましく、100/50〜100/10が更に好ましく、100/40〜100/20が最も好ましい。
【0032】
本発明では綿状のセルロースと粒状のアルキルセルロースを用いることで、簡便な方法にて、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することに成功した。かさ密度が異なるものを混合して反応を行う場合、反応が不均一系になることが予想されるため、一般的にはかさ密度が近いもの、すなわち形状が類似しているものを混合して反応を行う。したがって綿状の化合物と粒状の化合物を混合して反応を行うことは通常考えられない。しかし本発明では、形状の異なる綿状セルロースと粒状のアルキルセルロースを混合し、当該混合物を酸無水物によりアシル化することで、可塑剤の使用を低減し、若しくは可塑剤を使用することなく、簡便な方法にて、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することに成功した。
本発明の構成とすることで、可塑剤の使用を低減し、若しくは可塑剤を使用することなく、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することが可能となったメカニズムは明らかではないが、次のように推察される。綿状のセルロースと粒状のアルキルセルロースの混合物をアシル化することで、熱可塑性を向上させると考えられるアシル化されたアルキルセルロースを、溶融混練等を行うことなく組成物中に導入できたため、セルロース組成物に熱可塑性を付与することができたと考えられる。
【0033】
(酸無水物)
本発明で用いる酸無水物は、カルボン酸2分子から水1分子が脱離して生成する化合物であれば限定されない。酸無水物としては、炭素数4以上が好ましく、炭素数4以上10以下が更に好ましく、炭素数4以上8以下が最も好ましい。
【0034】
酸無水物としては、例えば、炭素数2〜12のカルボン酸2分子から水1分子が脱離して生成する化合物であるカルボン酸無水物を用いる。このようなカルボン酸無水物としては、例えば、無水酢酸(エタン酸無水物)、無水プロピオン酸(プロパン酸無水物)、無水酪酸(ブタン酸無水物)、吉草酸無水物(ペンタン酸無水物)、カプロン酸無水物(ヘキサン酸無水物)、エナント酸無水物(ヘプタン酸無水物)、カプリル酸無水物(オクタン酸無水物)、ペラルゴン酸無水物(ノナン酸無水物)、カプリン酸無水物(デカン酸無水物)、ラウリン酸無水物(ドデカン酸無水物)等が挙げられる。これらの中でも、無水酢酸、無水プロピオン酸及び無水酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0035】
本発明におけるアシル化工程においては、綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースに含まれる水酸基に対して等モル以上の酸無水物を用いることが好ましい。
【0036】
(アシル化工程)
本発明のアシル化工程では、綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物と、酸無水物とを混合する。当該アシル化工程により、セルロース及びアルキルセルロース中の水酸基が酸無水物とアシル化反応を起こすことにより、セルロース及びアルキルセルロース中にアシル基が導入される。本発明で用いる綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースに含まれる水酸基は、本発明のアシル化工程により70〜100モル%アシル化されることが好ましく、80〜100モル%アシル化されることが更に好ましい。ここでアシル化度は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより決定することができる。
【0037】
本発明のアシル化工程における反応温度は、セルロース混合物の粘性と反応速度の観点から、−20〜80℃であることが好ましく、−10〜70℃であることが反応性の観点から更に好ましい。
【0038】
本発明のアシル化工程における反応時間は、0.5〜12時間であることが好ましく、副生成物の発生を抑えるために1〜6時間であることが更に好ましい。
【0039】
本発明のアシル化工程は、例えば、0.013atm(10Torr)〜常圧の圧力下で行われることが好ましく、0.039atm(30Torr)〜常圧の圧力下で行われることが更に好ましい。
【0040】
本発明のアシル化工程における溶媒としては、酢酸、プロピオン酸等が好ましく、酢酸が更に好ましい。酢酸としては、氷酢酸が好ましく用いられる。
【0041】
また、本発明のアシル化における触媒として、酸を用いても良い。好ましい酸としては、例えば硫酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、過塩素酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、トリクロロ酢酸等がある。更に好ましくは硫酸とメタンスルホン酸である。最も好ましくは硫酸である。また、重硫酸塩も用いても良く、例えば、重硫酸リチウム、重硫酸ナトリウム、重硫酸カリウムが挙げられる。また、固体酸触媒も用いても良く、例えばイオン交換樹脂等の高分子固体酸触媒、ゼオライトに代表される無機酸化物固体酸触媒、特開2009−67730号公報で用いられるようなカーボン形の固体酸触媒が挙げられる。また、ルイス酸触媒も用いても良く、米国特許2,976,277号明細書で用いられるようなチタン酸エステル触媒、塩化亜鉛などが挙げられる。
【0042】
(前処理工程)
本発明における熱可塑性セルロース組成物の製造は、前記アシル化工程に先立って、セルロース及びアルキルセルロースの混合物に酸性化合物を添加する前処理工程を備えることが好ましい。前処理工程によって、セルロースの混合物がアシル化工程に好適な状態になると推察される。なお、前処理工程の後にアシル化工程を行うが、前処理工程の後に適宜他の工程を入れてもよい。他の工程とは、例えば冷却する工程であってもよいし、他の置換基を導入するような反応であってもよい。
【0043】
前記前処理工程で使用する酸性化合物はセルロースの反応性を向上させるものであれば限定されない。前処理工程で使用する酸性化合物としては、例えば酢酸、プロピオン酸等が挙げられ、酢酸を用いることが好ましい。酢酸としては氷酢酸が好ましく用いられる。
【0044】
前記前処理工程は、例えば10℃〜80℃で行われることが好ましく、20℃〜60℃で行われることが更に好ましい。
【0045】
前記前処理工程は、例えば10分〜20時間かけて行われることが好ましく、10分〜2時間かけて行われることが更に好ましい。
【0046】
前記前処理工程は、例えば常圧〜2atm(1520Torr)の圧力下で行われることが好ましく、常圧であることが更に好ましい。
【0047】
(セルロース組成物)
本発明の製法で得られたセルロース組成物は、アシル化されたセルロース及びアシル化されたアルキルセルロースを含む。本発明の製法で得られたセルロース組成物中に存在する、アシル化されたセルロースとアシル化されたアルキルセルロースの割合(アシル化されたセルロース/アシル化されたアルキルセルロース)は、質量基準で100/100〜100/1が好ましく、100/50〜100/10が更に好ましく、100/40〜100/20が最も好ましい。
【0048】
アシル化されたセルロースとしては、例えば、アセチルセルロースやプロピオニルセルロース、ブチリルセルロース、アセチルプロピオニルセルロース、アセチルブチリルセルロース、プロピオニルブチリルセルロース、アセチルプロピルブチリルセルロース等が挙げられる。アシル化されたアルキルセルロースとしては、例えばアセトキシプロピルアセチルセルロース、アセトキシプロピルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルアセチルセルロース、アセトキシエチルプロピオニルセルロース、アセトキシプロピルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピオニルセルロース、アセトキシプロピルエチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルプロピルアセチルセルロース、アセトキシプロピルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシプロピルブチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルプロピオニルオキシプロピルメチルアセチルプロピオニルセルロース、ブチリルオキシプロピルメチルアセチルセルロース、アセトキシプロピルブチリルオキシプロピルメチルアセチルブチリルセルロース、アセトキシエチルメチルアセチルセルロース、アセトキシエチルエチルアセチルセルロース、アセトキシエチルプロピルアセチルセルロース、アセトキシエチルブチルアセチルセルロース、アセトキシエチルメチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルエチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルブチルプロピオニルセルロース、アセトキシプロピルメチルプロピオニルセルロース、アセトキシエチルヘキシルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルメチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルアセチルセルロース、プロピオニルオキシエチルメチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシプロピルメチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルエチルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルプロピルプロピオニルセルロース、プロピオニルオキシエチルブチルプロピオニルセルロース、が挙げられる。
【0049】
本発明の製法で得られたセルロース組成物の分子量は、数平均分子量(Mn)が5×10〜1000×10の範囲が好ましく、10×10〜500×10の範囲が更に好ましく、10×10〜200×10の範囲が最も好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、7×10〜10000×10の範囲が好ましく、15×10〜5000×10の範囲が更に好ましく、100×10〜3000×10の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。分子量分布(MWD)は1.1〜10.0の範囲が好ましく、1.5〜8.0の範囲が更に好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
【0050】
本発明における、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0051】
(成形体の製造方法)
本発明者らは、既述の製造方法によって得られた熱可塑性セルロース組成物を含有する成形材料を、加熱により溶融成形する工程を備えた成形体の製造方法を見出した。以下に詳細に説明する。
【0052】
本発明における成形体の製造方法では、上記で説明した熱可塑性セルロース組成物を含有する成形材料を加熱により溶融成形する工程を備えており、必要に応じて成形材料にその他の添加剤を含有することができる。成形材料における熱可塑性セルロース組成物の含有割合は、好ましくは75質量%以上100質量%以下、より好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
【0053】
本発明の成形材料は、本発明の熱可塑性セルロース組成物のほか、必要に応じて、フィラー、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0054】
本発明の成形材料は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、成形材料によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0055】
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0056】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0057】
成形材料がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、熱可塑性セルロース組成物100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは5〜10質量部とすればよい。
【0058】
本発明の成形材料は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤及びケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0059】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0060】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0061】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0062】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0063】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0065】
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
また、前記リン含有難燃剤又はケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0067】
本発明の成形材料が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、熱可塑性セルロース組成物100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは2〜10質量部とすればよい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0068】
本発明の成形材料は、前記の熱可塑性セルロース組成物、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、前記熱可塑性セルロース組成物に含まれるポリマー以外のポリマー、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0069】
本発明の成形材料が熱可塑性セルロース組成物に含まれるポリマー以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0070】
本発明では、綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物を酸無水物によりアシル化することで、可塑剤の使用を低減し、若しくは可塑剤を使用することなく、簡便な方法にて、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を得ることができるが、本発明の効果を阻害しない限り、成形材料に可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0071】
本発明の成形体は、前記熱可塑性セルロース組成物を含む成形材料を加熱により溶融成形することにより得られる。より具体的には、前記熱可塑性セルロース組成物、又は、前記熱可塑性セルロース組成物及び必要に応じて各種添加剤等を含む成形材料を加熱し、各種の成形方法により成形する工程を含む製造方法によって得られる。成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0072】
本発明の成形体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0074】
(綿状のセルロースの調製)
針葉樹サルファイトパルプロール(α−セルロース含量87%)を家庭用シュレッダーにて裁断し、そのものを超遠心粉砕機ZM−200(レッチェ製)にて回転数18000rpmにて解砕した。以下、このセルロースを綿状のセルロースと示す。
【0075】
ローブファルマ・エレクトロラボ・タップ密度試験機(LobePharma Electrolab Tap Density Tester)(USP)モデルETD−1020を用いて、得られた綿状のセルロースのかさ密度を以下1)〜5)のように測定したところ、かさ密度は6g/100mlであった。
1)100mlのUSP1メスシリンダーの(空の)風袋重量を±0.01gの範囲内で測定した。
2)100mlのUSP1メスシリンダー中に、〜90mlの圧縮されていない上記で調製した綿状のセルロースを入れた。
3)このメスシリンダーをタップ密度試験機中に置き、落下300回/分の速度で200回分落下(タップ)させた。
4)得られたタップ後のセルロースの体積を、目視にて±1mlの範囲内で測定し、更に綿状のセルロースの重量を±0.01gの範囲内で測定した。
5)綿状のセルロースの重量をタップ後のセルロースの体積で割ることによって、かさ密度を計算した。
【0076】
(合成例)
<実施例1−1>
攪拌羽付き5L容ガラス反応容器に、上記で調製した綿状のセルロース49gに対し、粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製、かさ密度35g/100ml)を15g加え、氷酢酸24gを添加し常温常圧、攪拌速度200rpmで2時間激しく攪拌することで前処理活性化した。
無水酢酸180gと氷酢酸240gと、硫酸19.2gの混合液を予め5℃に調節して3L容ニーダーに準備しておき、この混合液に前記の前処理活性化セルロースを投入して、反応系の温度を35℃以下に保ち、4時間攪拌混合した。反応系はお餅状から透明なアメ状に変化し、ここでサンプリングしたものを偏光顕微鏡にて観察したところ、セルロースの結晶は完全に消失していることを確認した。この時点をアシル化反応終了点とした。水53gを添加し、系内温度を50℃とし、50分攪拌混合した。24wt%の酢酸マグネシウム水溶液を58g加え25分攪拌後、29g加え10分攪拌後、14.5g加え20分後、7.25g加え25分後、20g加えた。その後、室温にて水を滴下し、取り出した。得られた粗製物を水で洗浄後、0.002wt%の水酸化カルシウム水溶液にて洗い、ろ取した。乾燥することでセルロース組成物(P−1)を得た。
【0077】
<実施例2−1>
攪拌羽付き5L容ガラス反応容器に、上記で調製した綿状のセルロース49gに対し、粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を15g加え、氷酢酸24gを添加し常温常圧、攪拌速度200rpmで2時間激しく攪拌することで前処理活性化した。
無水酢酸180gと氷酢酸240gと、硫酸4.8gの混合液を予め5℃に調節して3L容ニーダーに準備しておき、この混合液に前記の前処理活性化セルロースを投入して、反応系の温度を35℃以下に保ち、6時間攪拌混合した。反応系はお餅状から透明なアメ状に変化し、ここでサンプリングしたものを偏光顕微鏡にて観察したところ、セルロースの結晶は完全に消失していることを確認した。この時点をアシル化反応終了点とした。水53gを添加し、系内温度を50℃とし、50分攪拌混合した。24wt%の酢酸マグネシウム水溶液を14.5g加え25分攪拌後、7.25g加え10分攪拌後、3.63g加え20分後、1.81g加え25分後、10g加えた。その後、室温にて水を滴下し、取り出した。得られた粗製物を水で洗浄後、0.002wt%の水酸化カルシウム水溶液にて洗い、ろ取した。乾燥することでセルロース組成物(P−2)を得た。
【0078】
<実施例3−1>
攪拌羽付き5L容ガラス反応容器に、上記で調製した綿状のセルロース49gに対し、粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を15g加え、氷酢酸24gを添加し常温常圧、攪拌速度200rpmで2時間激しく攪拌することで前処理活性化した。
無水酢酸144gと氷酢酸180gと、硫酸1.5gの混合液を予め−2℃に調節して3L容ニーダーに準備しておき、この混合液に前記の前処理活性化セルロースを投入して攪拌混合した。この前処理活性化したセルロースを投入した時間を0分とする。30分後には反応系内温度が30℃であり、このとき、硫酸0.3g/酢酸18gの溶液を滴下した。50分後には反応系内温度が62.5℃であり、その後更に15分攪拌した。反応系はお餅状から透明なアメ状に変化し、ここでサンプリングしたものを偏光顕微鏡にて観察したところ、セルロースの結晶は完全に消失していることを確認した。この時点をアシル化反応終了点とした。アシル化反応終了後、24wt%の酢酸マグネシウム水溶液を12g加え25分攪拌した。内容物をオートクレーブに移し、温水60mlを加え加熱した。90分後系内温度は150℃であり、更に25分温度を維持した後、大量の希酢酸水溶液にて再沈を行った。得られた粗製物を水で洗浄後、0.002wt%の水酸化カルシウム水溶液にて洗い、ろ取した。乾燥することでセルロース組成物(P−3)を得た。
【0079】
<実施例4−1>
攪拌羽付き5L容ガラス反応容器に、上記で調製した綿状のセルロース49gに対し、粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を15g加え、氷酢酸24 gを添加し常温常圧、攪拌速度200rpmで2時間激しく攪拌することで前処理活性化した。
プロピオン酸89g、無水酢酸21g、無水プロピオン酸335gと、硫酸1.2gの混合液を予め5℃に調節して3L容ニーダーに準備しておき、この混合液に前記の前処理活性化セルロースを投入して攪拌混合した。この前処理活性化したセルロースを投入した時間を0分とする。30分後には反応系内温度が30℃であり、このとき、硫酸0.3g/酢酸18gの溶液を滴下した。50分後には反応系内温度が61℃であり、その後更に15分攪拌した。反応系はお餅状から透明なアメ状に変化し、ここでサンプリングしたものを偏光顕微鏡にて観察したところ、セルロースの結晶は完全に消失していることを確認した。この時点をアシル化反応終了点とした。アシル化反応終了後、24wt%の酢酸マグネシウム水溶液を22g加え25分攪拌した。内容物をオートクレーブに移し、温水60mlを加え加熱した。90分後系内温度は150℃であり、更に25分温度を維持した後、大量の希酢酸水溶液にて再沈を行った。得られた粗製物を水で洗浄後、0.002wt%の水酸化カルシウム水溶液にて洗い、ろ取した。乾燥することでセルロース組成物(P−4)を得た。
【0080】
<実施例5−1>
攪拌羽付き5L容ガラス反応容器に、上記で調製した綿状のセルロース49gに対し、粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を15g加え、氷酢酸24gを添加し常温常圧、攪拌速度200rpmで2時間激しく攪拌することで前処理活性化した。
プロピオン酸89g、無水酢酸21g、無水プロピオン酸335gと、硫酸1.2gの混合液を予め5℃に調節して3L容ニーダーに準備しておき、この混合液に前記の前処理活性化セルロースを投入して攪拌混合した。この前処理活性化したセルロースを投入した時間を0分とする。30分後には反応系内温度が30℃であり、このとき、硫酸0.3g/酢酸18gの溶液を滴下した。50分後には反応系内温度が62℃であり、その後更に15分攪拌した。反応系はお餅状から透明なアメ状に変化し、ここでサンプリングしたものを偏光顕微鏡にて観察したところ、セルロースの結晶は完全に消失していることを確認した。この時点をアシル化反応終了点とした。アシル化反応終了後、酢酸水溶液(50wt%)180mlを加え、系内温度を50℃とし、50分攪拌混合した。24wt%の酢酸マグネシウム水溶液を14.5g加え25分攪拌後、7.25g加え10分攪拌後、3.63g加え20分後、1.81g加え25分後、10g加えた。その後、室温にて水を滴下し、取り出した。得られた粗製物を水で洗浄後、0.002wt%の水酸化カルシウム水溶液にて洗い、ろ取した。乾燥することでセルロース組成物(P−5)を得た。
【0081】
<実施例6−1>
実施例5−1におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシエチルメチルセルロース(商品名マーポローズME−350T;松本油脂製)に変更する以外、実施例5−1と同様の操作にてセルロース組成物(P−6)を得た。
【0082】
<実施例7−1>
実施例5−1におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシエチルセルロース(商品名HEC AX−15;住友精化製)に変更する以外、実施例5−1と同様の操作にてセルロース組成物(P−7)を得た。
【0083】
<実施例8−1>
実施例5−1におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルセルロース(Aldrich製)に変更する以外、実施例5−1と同様の操作にてセルロース組成物(P−8)を得た。
【0084】
<比較例1−1>
−酢酸セルロース(H−1)の合成−
攪拌羽付き5L容ガラス反応容器に、上記で調製した綿状のセルロース60gに、氷酢酸24gを添加し常温常圧、攪拌速度200rpmで2時間激しく攪拌することで前処理活性化した。
無水酢酸144gと氷酢酸180gと、硫酸1.5gの混合液を予め5℃に調節して3L容ニーダーに準備しておき、この混合液に前記の前処理活性化セルロースを投入して攪拌混合した。この前処理活性化セルロースを投入した時間を0分とする。30分後には反応系内温度が30℃であり、このとき、硫酸0.3g/酢酸18gの溶液を滴下した。50分後には反応系内温度が62℃であり、その後更に15分攪拌した。反応系はお餅状から透明なアメ状に変化し、ここでサンプリングしたものを偏光顕微鏡にて観察したところ、セルロースの結晶は完全に消失していることを確認した。この時点をアシル化反応終了点とした。アシル化反応終了後、酢酸水溶液(50wt%)180mlを加え、系内温度を50℃とし、50分攪拌混合した。24wt%の酢酸マグネシウム水溶液を14.5g加え25分攪拌後、7.25g加え10分攪拌後、3.63g加え20分後、1.81g加え25分後、10g加えた。その後、室温にて水を滴下し、取り出した。得られた粗製物を水で洗浄後、0.002wt%の水酸化カルシウム水溶液にて洗い、ろ取した。乾燥することで酢酸セルロース(H−1)を得た。
【0085】
−アセトキシプロピルアセチルメチルセルロース(H−2)の合成−
酢酸セルロース(H−1)の合成における綿状のセルロースを粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)に変更する以外、(H−1)と同様の操作にてアセトキシプロピルアセチルメチルセルロース(H−2)を得た。
【0086】
80gの(H−1)と20gの(H−2)を粉体のまま混合することで、セルロ−ス組成物(J−1)とした。
【0087】
<比較例2−1>
−アセトキシエチルアセチルセルロース(H―3)の合成−
アセトキシプロピルアセチルメチルセルロース(H―2)の合成におけるヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名マーポロ−ズ90MP−4000:松本油脂製薬株式会社製)を粒状のアルキルセルロースであるヒドロキシエチルセルロース(商品名HEC AX−15;住友精化製)に変更する以外、(H―2)と同様の操作にてアセトキシアセトキシエチルアセチルセルロース(H―3)を得た。
【0088】
80gの(H−1)と20gの(H−3)を混合し、セルロ−ス組成物(J−2)とした。
【0089】
<比較例3−1>
実施例1−1における綿状のセルロースをKCプロックW−400G(粒状のセルロース:日本製紙製)に変更する以外、実施例1−1と同様の操作にてセルロース組成物(J−3)を得た。なお、粒状のセルロースのかさ密度を、綿状のセルロースと同様の方法にて測定したところ、かさ密度は30g/100mlであった。
【0090】
以上で得られた組成物について、セルロースに含まれる水酸基(R、R及びR)に置換された官能基の種類、並びにアシル化度は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより、観測及び決定した。
【0091】
(セルロース組成物の分子量及び分子量分布測定)
得られたセルロース組成物について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、を測定した。これらの測定方法は以下の通りである。
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0092】
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び置換度をまとめて表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
HPMC=ヒドロキシプロピルメチルセルロース(かさ密度35g/100ml)
HEMC=ヒドロキシエチルメチルセルロース(かさ密度33g/100ml)
HEC =ヒドロキシエチルセルロース(かさ密度36g/100ml)
HPC =ヒドロキシプロピルセルロース(かさ密度36g/100ml)
【0095】
(成形体の作製)
<実施例1−2:セルロース組成物(P−1)からなる成形体の作製>
−樹脂ペレットの作成−
上記で得られたセルロース組成物(P−1)100質量部と炭酸カルシウム1質量部を、シリンダー温度210℃にて混練した後、二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給してセルロース組成物のペレットを作製した。
【0096】
−試験片作製−
上記で得られたセルロース組成物のペレットを射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度200℃、金型温度30℃、射出圧力3kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(PT−1)を成形した。金型温度は30℃とした。試験片PT−1は着色がなく良好な状態であった。
【0097】
<実施例2−2〜8−2:セルロース組成物(P−2)〜(P−8)からなる成形体の作製>
実施例1の方法においてセルロース組成物(P−1)を下表に示すものに変更する以外は実施例1と同様の方法にてセルロース組成物(P−2)〜(P−8)のペレットを作製し、多目的試験片(PT−2)〜(PT−8)を作製した。試験片PT−2〜8はいずれも着色がなく良好な状態であった。
【0098】
<比較例1−2:セルロース組成物(J−1)からなる成形体の作製>
−樹脂ペレットの作成−
上記で得られたセルロース組成物(J−1)100質量部と炭酸カルシウム1質量部を、シリンダー温度210℃にて混練したところ、熱可塑性が不足のため、ペレット作成ができなかった。そのため、シリンダー温度250℃にて混練し、二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給してセルロース組成物のペレットを作製した。
【0099】
−試験片作製−
上記で得られたセルロース組成物ペレットを射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度240℃、金型温度30℃、射出圧力3kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(JT−1)を成形した。金型温度は30℃とした。試験片JT−1は着色があった。
【0100】
<比較例2−2:セルロース組成物(J−2)からなる成形体の作製>
−樹脂ペレットの作成−
上記で得られたセルロース組成物(J−2)100質量部と炭酸カルシウム1質量部を、シリンダー温度210℃にて混練したところ、熱可塑性が不足のため、ペレット作成ができなかった。そのため、シリンダー温度250℃にて混練し、二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給してセルロース組成物のペレットを作製した。
【0101】
−試験片作製−
上記で得られたセルロース誘導体組成物ペレットを射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度240℃、金型温度30℃、射出圧力3kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(JT−2)を成形した。金型温度は30℃とした。試験片JT−2は着色があった。
【0102】
<比較例3−2:セルロース組成物(J−3)からなる成形体の作製>
−樹脂ペレットの作成−
上記で得られたセルロース組成物(J−3)100質量部と炭酸カルシウム1質量部を、シリンダー温度210℃にて混練した後、二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給してセルロース組成物のペレットを作製した。
【0103】
−試験片作製−
上記で得られたセルロース組成物ペレットを射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度200℃、金型温度30℃、射出圧力3kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(JT−3)を成形した。金型温度は30℃とした。試験片JT−3は着色がなかった。
【0104】
(試験片の物性測定)
得られた組成物及び試験片について、下記の方法にしたがって10Pa・s時の温度、シャルピー衝撃強度及び熱変形温度(HDT)を評価した。結果を下表に示す。
【0105】
−10Pa・s時の温度−
フローテスター(島津製)を用いて、P−1〜P−8及びJ−1〜J−3それぞれのセルロース組成物について溶融粘度測定を行い、10Pa・s時の温度を測定した。ここで、10Pa・s時の温度が220℃以下であるとき、熱可塑性があると言うことができ、実用上問題のない範囲で用いることができる。測定結果を表2に示す。
【0106】
−シャルピー衝撃強度−
ISO179に準拠して、射出成形にて成形したPT−1〜PT−8及びJT−1〜JT−3それぞれの試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上静置した後、シャルピー衝撃試験機((株)東洋精機製作所製)によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。測定は3回測定の平均値である。ここで、シャルピー衝撃強度が5KJ/m以上であるとき、十分な強度があると言うことができ、実用上問題のない範囲で用いることができる。測定結果を表2に示す。
【0107】
−熱変形温度(HDT)−
ISO75に準拠して、PT−1〜PT−8それぞれの試験片の中央に一定の曲げ荷重(1.8MPa)を加え(フラットワイズ方向)、等速度で昇温させ、中央部のひずみが0.34mmに達したときの温度を測定した。PT−1〜PT−8の測定結果はそれぞれ、114℃、115℃、118℃、105℃、107℃、103℃、105℃、102℃であり、いずれも優れた耐熱性を示した。
【0108】
【表2】

【0109】
以上の結果から明らかなように、本発明では、綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物を酸無水物によりアシル化することで、可塑剤を使用することなく、混錬等を行わない簡便な方法によって、良好な熱可塑性及び強度を有するセルロース組成物を製造することに成功した。また本発明の熱可塑性セルロース組成物の製造方法を用いることにより、可塑剤の蒸散等の問題を解決することができた。更に本発明の構成とすることで、着色がなく、耐熱性にも優れた熱可塑性セルロース組成物を得ることができると分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿状のセルロース及び粒状のアルキルセルロースの混合物を、酸無水物によりアシル化するアシル化工程を備えたことを特徴とする熱可塑性セルロース組成物の製造方法。
【請求項2】
前記アルキルセルロースが炭素数1以上4以下のアルキル基を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記酸無水物が無水酢酸、無水プロピオン酸及び無水酪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記アシル化における触媒として硫酸又はメタンスルホン酸を用いる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記アルキルセルロースがヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース及びヒドロキシエチルエチルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記混合物における綿状のセルロースと粒状のアルキルセルロースの混合比(綿状のセルロース/粒状のアルキルセルロース)が質量基準で100/50〜100/10である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアシル化工程に先立って、
前記混合物に酸性化合物を添加する前処理工程を備えた、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた熱可塑性セルロース組成物を含有する成形材料を、加熱により溶融成形する工程を備えた成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−195787(P2011−195787A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67069(P2010−67069)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】