説明

熱可塑性プラスチック材の溶着装置および溶着方法

【課題】発泡プラスチック板材や段ボールプラスチック板材のように内部に空隙を含むプラスチック板材であっても低コストで作業性良く、かつ溶着後の外観を良好に保ったまま溶着すること。
【解決手段】互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材P1,P2の間に配置され、輻射熱により非接触で複数の熱可塑性プラスチック材P1,P2を加熱するヒータユニット2と、ヒータユニット2による加熱時に複数の熱可塑性プラスチック材P1,P2を向かい合わせた状態で保持するとともに、ヒータユニット2による加熱後、複数の熱可塑性プラスチック材P1,P2同士を圧接させる下吸着台30および上吸着台40を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性を有するプラスチックにより形成された熱可塑性プラスチック材同士を溶着によって接合する熱可塑性プラスチック材の溶着装置および溶着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性を有するプラスチックにより形成された発泡プラスチック板材や段ボールプラスチック板材等のプラスチック材同士を互いに溶着する方法としては、超音波溶着法、振動溶着法、熱風溶着法やヒータ板挿入による溶着法などが知られている。
【0003】
超音波溶着法では、2枚のプラスチック板材を重ねて固定台に載せ、上側のプラスチック板材に超音波振動子(ホーン)を強く押し当てて超音波の縦波を加える。こうすると上側のプラスチック板材の中を超音波が伝わり、下側のプラスチック板材との境界面で超音波の振動エネルギが熱エネルギに転じて境界面を溶かし、両者を溶着させる。
【0004】
振動溶着法では、2枚のプラスチック板材を重ねて予め滑り防止加工を施した固定台に載せ、上側のプラスチック板材の表面に同じく滑り防止加工を施した音波振動子を強く押し当てて横方向に音波周波数で振動させることにより、プラスチック板材の境界面に摩擦熱を生じさせ、境界面を溶かして両者を溶着させる。
【0005】
熱風溶着法では、溶着する2枚のプラスチック板材の溶着したい表面をそれぞれ同時に熱風で溶かし、互いに押し当てて両者を溶着させる。また、ヒータ板挿入による溶着法では、溶着する2枚のプラスチック板材の溶着したい部分でヒータ板を挟んでおき、ヒータ板の温度を上げて両者が溶けたところでヒータ板を抜き、プラスチック板材を互いに押し当てて両者を溶着させる(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平6−1344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発泡プラスチック板材や段ボールプラスチック板材のように内部に空隙を含むプラスチック板材を溶着する場合、超音波溶着法では、超音波がホーンを当てた側のプラスチック板材の中で減衰して熱に転じてしまうので、ホーンがプラスチック板材を溶かして中にめり込んでしまうという問題がある。めり込んだホーンの下には薄い溶融プラスチックの層が発生するが、この溶融プラスチック層が他方のプラスチック板材に十分入り込んだ状態で溶着することになり、プラスチック板材の性状を保ったまま溶着することはできない。
【0008】
振動溶着法では、発泡プラスチック板材や段ボールプラスチック板材の性状を保ったまま溶着することは可能であるが、音波振動子が振動する際に大音響を発するので、防音設備を要することになり、作業性に欠けるとともに、コストが高くなるという問題がある。
【0009】
熱風溶着法では、大量の空気を加熱して強制対流によってプラスチック板材の表面を溶かすので熱エネルギの無駄が多く、また、プラスチック板材の表面の溶融状態を正確にコントロールすることが難しい。ヒータ板挿入による溶着法では、プラスチック板材が溶けてからヒータ板を抜くときに、2枚のプラスチック板材の間から溶けたプラスチックがヒータ板と一緒に飛び出すため、溶着箇所が変形してしまい、溶着後の外観が悪くなってしまうという問題がある。
【0010】
そこで、本発明においては、発泡プラスチック板材や段ボールプラスチック板材のように内部に空隙を含むプラスチック板材であっても、熱エネルギの無駄が少なく、低コストで作業性良く、かつ溶着後の外観を良好に保ったまま溶着することが可能な熱可塑性プラスチック材の溶着装置および溶着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱可塑性プラスチック材の溶着装置は、互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材の間に配置され、輻射熱により非接触で前記複数の熱可塑性プラスチック材を加熱するヒータと、ヒータによる加熱時に複数の熱可塑性プラスチック材を向かい合わせた状態で保持するとともに、ヒータによる加熱後、複数の熱可塑性プラスチック材同士を圧接させる保持装置とを有するものである。
【0012】
また、本発明の熱可塑性プラスチック材の溶着方法は、互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材を向かい合わせた状態で保持し、これらの複数の熱可塑性プラスチック材の間に配置したヒータの輻射熱により複数の熱可塑性プラスチック材を非接触で加熱し、複数の熱可塑性プラスチック材の表面を溶融させること、熱可塑性プラスチック材の表面が溶融した後、複数の熱可塑性プラスチック材同士を圧接することを含む。
【0013】
これらの発明によれば、互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材の間に配置されたヒータの輻射熱により複数の熱可塑性プラスチック材が非接触で加熱され、これらの複数の熱可塑性プラスチック材の表面が短時間で同時に溶融する。そして、これらの表面が溶融した複数の熱可塑性プラスチック材同士が圧接されることにより、熱可塑性プラスチック材同士が溶着される。
【0014】
ここで、ヒータは、保持装置により保持される熱可塑性プラスチック材の間に進退可能なものであって、複数の熱可塑性プラスチック材の間に進行させた状態で加熱を行い、複数の熱可塑性プラスチック材同士の圧接の際には複数の熱可塑性プラスチック材の間から退避させるものであることが望ましい。
【0015】
これにより、溶着前の熱可塑性プラスチック材の表面の溶融を、熱可塑性プラスチック材を移動させずにヒータ側を移動させて行うことができるので、熱可塑性プラスチック材の位置合わせが容易となる。また、溶着後の位置ずれを防ぐことができるので、高精度な溶着を行うことが可能となる。
【0016】
また、ヒータは、輻射熱が照射される範囲を限定するマスクを備えたものであることが望ましい。ヒータからの輻射熱は全方向に発せられるので、マスクによってその輻射熱が照射される範囲を限定することで、熱可塑性プラスチック材の表面の所望の部分のみを溶融して溶着することが可能となる。
【0017】
また、保持装置は、熱可塑性プラスチック材をエアーの吸引によって平板に吸着して保持するものであることが望ましい。エアーの吸引によって平板に吸着して保持することで、熱可塑性プラスチック材の熱膨張に関わらず、熱可塑性プラスチック材の変形を防ぐことができ、高精度な溶着を行うことが可能となる。
【0018】
また、上記保持装置の熱可塑性プラスチック材を吸引する平板には温度センサを備えることが望ましい。これにより熱可塑性プラスチック材の加熱状態を検出し、溶着を最適に制御することが可能となる。
【0019】
また、ヒータは、通電により発熱し、弾性体により所定の引張力が加えられて保持された金属製の帯状板の電熱ヒータであることが望ましい。これにより、加熱の時間的な変化を容易に制御することが可能となるとともに、加熱によって電熱ヒータが膨張変形しても弾性体により引っ張られてその真っ直ぐな状態が維持されるので、狂いのない輻射熱放射を維持することが可能となる。
【0020】
また、電熱ヒータには、窒素や炭酸ガスなどの酸化を防ぐ気体を供給する構成とすることが望ましい。これにより、発熱により高温となった電熱ヒータの酸化による劣化を抑え、電熱ヒータの寿命を延ばすことができる。
【発明の効果】
【0021】
(1)互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材を向かい合わせた状態で保持し、これらの複数の熱可塑性プラスチック材の間に配置したヒータの輻射熱により複数の熱可塑性プラスチック材を非接触で加熱し、複数の熱可塑性プラスチック材の表面を溶融させ、熱可塑性プラスチック材の表面が溶融した後、複数の熱可塑性プラスチック材同士を圧接する構成により、熱可塑性プラスチック材の加熱時に、その加熱面には一切何も接触しないので、溶解箇所が変形することがなく、また、輻射熱により短時間で複数の熱可塑性プラスチック材の表面を同時に溶融させることができるので、エネルギの無駄が少なく、低コストで作業性良く、かつ溶着後の外観を良好に保ったまま溶着することが可能となる。
【0022】
(2)ヒータが、保持装置により保持される熱可塑性プラスチック材の間に進退可能なものであって、複数の熱可塑性プラスチック材の間に進行させた状態で加熱を行い、複数の熱可塑性プラスチック材同士の圧接の際には複数の熱可塑性プラスチック材の間から退避させるものであることにより、溶着前の熱可塑性プラスチック材の表面の溶融を、熱可塑性プラスチック材を移動させずにヒータ側を移動させて行うことができるので、熱可塑性プラスチック材の位置合わせが容易となり、高精度な溶着を行うことが可能となる。
【0023】
(3)ヒータが、輻射熱が照射される範囲を限定するマスクを備えたものであることにより、ヒータからの輻射熱は全方向に発せられるが、マスクによってその輻射熱が照射される範囲が限定されることで、熱可塑性プラスチック材の表面の所望の部分のみを溶融して溶着することが可能となる。これにより、互いに溶着したい熱可塑性プラスチック材の表面の余計な部分が溶融することがなくなり、溶着後の外観をより良好にすることが可能となる。
【0024】
(4)保持装置が、熱可塑性プラスチック材をエアーの吸引によって平板に吸着して保持するものであることにより、熱可塑性プラスチック材の加熱状態に関わらず、熱可塑性プラスチック材の変形を防ぐことができ、高精度な溶着を行うことが可能となる。
【0025】
(5)ヒータが、通電により発熱する電熱ヒータであることにより、加熱の時間変化を正確に制御することが可能となり、溶着対象の熱可塑性プラスチック材の状態に応じて最適に加熱することが可能となる。
【0026】
(6)ヒータが、弾性体により所定の引張力が加えられて保持された金属製の帯状板であることにより、同じ温度の線状のヒータに比べて熱を放射する面の面積が大きく、それだけ強力な輻射熱を発生することができる。また、加熱によって帯状板が変形しても弾性体により引っ張られてその真っ直ぐな状態が維持されるので、狂いのない輻射熱放射を維持することが可能となり、高精度な溶着を行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は本発明の実施の形態における熱可塑性プラスチック材の溶着装置の概略構成を示すブロック図、図2は本発明の実施の形態における熱可塑性プラスチック材の溶着装置の概略断面図、図3は図2の溶着装置のヒータユニットの詳細を示す図であって、(a)は上部照射マスクを取り外した状態を示す上面図、(b)は上部照射マスクを取り付けた状態を示す上面図、(c)は(a)のA−A断面図である。
【0028】
図1に示すように、本発明の実施の形態における熱可塑性プラスチック材の溶着装置1は、熱可塑性プラスチック材(以下、「プラスチック材」と称す。)の溶着面を加熱するためのヒータユニット2と、ヒータユニット2をプラスチック材の溶着面に対して進退させるためのヒータ進退機構3と、互いに溶着する2つのプラスチック材を保持するための保持装置4と、プラスチック剤をエアーの吸引によって保持装置4に吸着するための吸引装置5と、互いに溶着するプラスチック材をガイドして位置決めするためのガイド装置6と、温度、位置、電圧や電流などを検知する各種センサ7と、溶着装置1の動作状態の表示や操作を行うための表示操作盤8と、溶着装置1の状態を記録する記録装置9と、溶着装置1の各部を制御する制御装置10とから構成される。
【0029】
ヒータユニット2は、互いに溶着する2つのプラスチック材P1,P2(図4F参照。)の間に配置されて、これらの2つのプラスチック材P1,P2を輻射熱により非接触で加熱するものである。ヒータユニット2は、図2に示すように、主に、通電により発熱する電熱ヒータ装置11と、この電熱ヒータ装置11を収容するケースであるとともに電熱ヒータ装置11の輻射熱が照射される範囲を限定するマスク機能を有するケース兼マスク12と、電熱ヒータ装置11に通電して発熱させるための電源装置(図示せず。)と、窒素供給管25とから構成される。
【0030】
ケース兼マスク12は、図3に示すように、下部照射マスク12aと上部照射マスク12bとから構成されている。下部照射マスク12aおよび上部照射マスク12bには、それぞれ照射範囲を限定するための開口部13a,13bが設けられている。
【0031】
電熱ヒータ装置11は、図3に示すように、金属製の真っ直ぐな帯状板であるヒータ板14と、ヒータ板14の一端に固定された固定電極用ヒータ板固定金具15と、ヒータ板14の他端に固定されたスライド電極用ヒータ板固定金具16と、下部照射マスク12aに固定されるとともに固定電極用ヒータ板固定金具15が固定される固定電極17と、スライド電極用ヒータ板固定金具16に固定されるスライド電極18と、一端がスライド電極18に連結され、スライド電極18に所定の引張力を加えて保持する弾性体としての引きばね19と、下部照射マスク12aに固定されるとともに引きばね19の他端が連結された固定電極20と、スライド電極18と固定電極20とを電気的接続する多芯リード線21と、固定電極17,20と電源装置とを電気的接続する電源ケーブル22,23とから構成される。
【0032】
この構成の電熱ヒータ装置11では、電源装置から供給される電力が、一方は電源ケーブル22、固定電極17および固定電極用ヒータ板固定金具15を通じて、他方は電源ケーブル23、固定電極20、多芯リード線21、スライド電極18およびスライド電極用ヒータ板固定金具16を通じて、ヒータ板14に通電される。ここで、ヒータ板14が長さ30cm程度幅1〜2cm程度、厚さ0.1mm程度のステンレス鋼製の板の場合、出力数ボルト程度の降圧トランスを介して20〜40Aの電流を加えると、ヒータ板14は黄色に発光し、強烈な輻射熱を発する。このとき、ヒータ板14は温度上昇によって延びるが、引きばね19により所定の引張力が加えられて保持されているため、スライド電極18が固定電極17から離れる方向にスライド(移動)し、真っ直ぐな状態に維持される。
【0033】
窒素供給管25は、ヒータの酸化を防ぐ気体として窒素ガスをケース兼マスク12内に供給するものである。供給される窒素ガスは、窒素供給管25に形成されたスリット状の窒素吹き出し口26からヒータ板14の下方へ向けてゆっくりと供給される。ヒータ板14の下方へ供給された窒素ガスは、ヒータ板14の熱による上昇気流でゆっくりとヒータ板14を覆い、ヒータ板14の酸化を抑える。これにより、ヒータ板14の寿命を延ばすことができる。なお、窒素ガスに代えて炭酸ガスなどの他の酸化防止ガスを用いることも可能である。
【0034】
図1に戻って、ヒータ進退機構3は、ヒータユニット2を保持装置4により保持されるプラスチック材P1,P2の間に進退させるものである。ヒータ進退機構3は、ヒータユニット2を加熱時には2つのプラスチック材P1,P2の間に進行させた状態とし、圧接時には2つのプラスチック材P1,P2の間から待避させた状態とする。
【0035】
保持装置4は、下側に配置される下吸着台30と、上側に配置される上吸着台40とから構成される。下吸着台30は、多数の開孔31が設けられた平板32により上面が形成された中空の箱であり、吸引装置5が接続される吸引口33を備える。一方、上吸着台40は、多数の開孔41が設けられた平板42により下面が形成された中空の箱であり、吸引装置5が接続される吸引口43を備える。平板32,42には、保持するプラスチック材P1,P2の温度を測定するためのサーミスタなどの温度センサ(図示せず。)が設けられている。
【0036】
吸引装置5は、下吸着台30および上吸着台40の各吸引口33,43からエアーを吸引することにより、それぞれの開孔31,41に陰圧を生じさせ、この陰圧によりプラスチック材P1,P2をそれぞれ下吸着台30の平板32の上面および上吸着台40の平板42の下面に吸着させるものである。
【0037】
ガイド装置6は、下吸着台30により保持するプラスチック材P1の位置決めを行うための下ガイド60と、上吸着台40により保持するプラスチック材P2の位置決めを行うための上ガイド61とから構成される。
【0038】
次に、上記構成のプラスチック材の溶着装置1の動作について、図4A〜Jを参照して説明する。図4A〜Jは図1の溶着装置1による溶着工程を示す説明図である。
【0039】
まず、図4Aに示すように、下吸着台30の先端部にガイド装置6の下ガイド60を、その上方に上ガイド61を配置する。このとき、下ガイド60の先端部60aは、下吸着台30の上面よりも上に突き出るように配置され、図4Bに示すようにプラスチック材P1は、その先端がこの下ガイド60の先端部60aに突き合わされることで位置決めされるようになっている。また、上ガイド61の先端にはストッパ部61aが形成されており、図4Bに示すようにプラスチック材P2は、その先端がこの上ガイド61上のストッパ部61aに突き合わされることで位置決めされるようになっている。また、この上ガイド61の位置は、下吸着台30上に配置されるプラスチック材P1と、この上ガイド61上に配置されるプラスチック材P2とが、溶着代の分だけ重ね合わさる位置に配置される。
【0040】
次に、図4Bに示すように、2つのプラスチック材P1,P2をそれぞれ下吸着台30上および上ガイド61上に配置する。このとき、前述のようにプラスチック材P1は、その先端が下ガイド60の先端部60aに突き合わされるように、プラスチック材P2は、その先端が上ガイド61上のストッパ部61aに突き合わされるように配置される。そして、図4Cに示すように、上ガイド61上に配置されたプラスチック材P2上に、上吸着台40が配置され、図4Dに示すように、吸引装置5により下吸着台30および上吸着台40の各吸引口33,43からエアーを吸引して、プラスチック材P1,P2をそれぞれ下吸着台30の平板32の上面および上吸着台40の平板42の下面に吸着させる。
【0041】
次に、図4Eに示すように、下ガイド60および上ガイド61を退避させ、図4Fに示すように、ヒータユニット2を、プラスチック材P1,P2の間に進行させる。そして、電熱ヒータ装置11に通電し、ヒータ板14から発せられる輻射熱によりプラスチック材P1,P2を例えば5秒程度加熱する。このとき、ヒータ板14は温度上昇によって延びるが、引きばね19によって所定の引張力が加えられて保持されているため、真っ直ぐな状態に維持され、上下のプラスチック材P1,P2との間の距離は一定に保たれる。
【0042】
その後、ヒータユニット2をプラスチック材P1,P2の間から待避させ、図4Gに示すように、上吸着台40を下降させて圧接する。このとき、下ガイド60の高さを調節しておき、上吸着台40が下ガイド60に当接する位置まで下降させるようにすることで、プラスチック材P1,P2同士のめり込み深さを設定することができる。
【0043】
そして、図4Hに示すように、下吸着台30および上吸着台40のそれぞれの先端部の扉34,44を解放し、下吸着台30および上吸着台40の内部に外気を通過させて、プラスチック材P1,P2の溶着部を冷却する。プラスチック材P1,P2の溶着箇所が冷えて固まると溶着は完了する。次に、図4Iに示すように、吸引装置5による下吸着台30および上吸着台40の各吸引口33,43からのエアーの吸引を停止し、上吸着台40を除去する。最後に、図4Jに示すように溶着済みのプラスチック材P1,P2を除去する。
【0044】
以上のように、本実施形態における溶着装置1では、互いに溶着する2つのプラスチック材P1,P2の間に配置されたヒータ板14の輻射熱によりこれらのプラスチック材P1,P2が非接触で加熱され、これらのプラスチック材P1,P2の表面が短時間で同時に溶融する。そして、これらの表面が溶融したプラスチック材P1,P2同士が圧接されることにより、プラスチック材P1,P2同士が溶着され、強固に接合される。
【0045】
このように本実施形態における溶着装置1では、プラスチック材P1,P2の加熱時に、その加熱面には一切何も接触しないので、溶解箇所が外力で変形することがなく、また、輻射熱により短時間で2つのプラスチック材P1,P2の表面を同時に溶融させることができるので、エネルギの無駄が少なく、低コストで作業性良く、かつ溶着後の外観を良好に保ったまま溶着することが可能である。
【0046】
また、本実施形態における溶着装置1では、プラスチック材P1,P2を移動させずにヒータユニット2側を移動させて、溶着するプラスチック材P1,P2の表面の溶融を行うので、プラスチック材P1,P2を溶融前に位置合わせするだけで位置合わせが完了する。また、溶着後の位置ずれを防ぐことができるので、高精度な溶着を行うことが可能である。
【0047】
また、本実施形態における溶着装置1では、ヒータユニット2のヒータ板14からの輻射熱は全方向に発せられるが、その輻射熱が照射される範囲はケース兼マスク12によって限定されるので、プラスチック材P1,P2の表面の所望の部分のみを溶融して溶着することが可能である。これにより、互いに溶着したいプラスチック材P1,P2の表面の余計な部分が溶融することがなくなり、溶着後の外観をより良好にすることが可能である。
【0048】
また、本実施形態における溶着装置1では、保持装置4が、プラスチック材P1,P2をエアーの吸引によって常に下吸着台30および上吸着台40の平板32,42に吸着して保持するので、プラスチック材P1,P2の加熱状態に関わらず、プラスチック材P1,P2の変形を防いでいる。したがって、プラスチック材P1,P2の加熱時の熱膨張による変形を防ぐことができ、高精度な溶着を行うことが可能である。
【0049】
また、本実施形態における溶着装置1では、ヒータ板14が、通電により発熱する電熱ヒータであるため、このヒータ板14の加熱の時間変化を正確に制御することが可能であり、プラスチック材P1,P2の状態に応じて最適に加熱することが可能である。
【0050】
また、本実施形態における溶着装置1では、ヒータ板14が、引きばね19により所定の引張力が加えられて保持されているので、加熱によってヒータ板14が変形しても引きばね19より引っ張られてその真っ直ぐな状態が維持される。これにより、上下のプラスチック材P1,P2との間の距離は一定に保たれるので、狂いのない輻射熱放射を維持することが可能となり、高精度な溶着を行うことが可能である。
【0051】
以上のように、本実施形態における溶着装置1では、位置合わせが容易であり、輻射熱の強さや加熱時間、加熱範囲などの溶着条件を制御することが容易であることから、作業性に優れている。例えば、プラスチック材P1,P2のセットと除去に8秒、加熱時間5秒、冷却時間7秒の場合、1回の溶着作業に20秒を要するが、これを現在広く使われている熱風溶着法における1回の溶着作業の約1分以上と比べれば、所要時間が1/3以下となる。また溶着装置1では、プラスチック材P1,P2のセットと除去に人手を想定しているが、溶着開始から冷却までは機械による自動化が容易なので、一人の作業者が同時に2台の自動化した溶着装置1で交互に作業することにすればさらに作業性を高めることができる。
【0052】
また、従来の熱風溶着法では1回の溶着作業で1kWのヒートガンを約1分間(60秒)作動させるのが普通であり、60kJのエネルギを消費する。これに対して、本実施形態における溶着装置1では、例えば10V、40A、5秒間の通電の場合、加熱に要するエネルギは400W×5s=2kJに過ぎない。1回の溶着作業に20秒間かかり、加熱以外の各種装置の電力が時間平均500Wとすれば、1回の溶着作業で使う各種装置のエネルギは10kJとなるので、1回の溶着に要するエネルギの総和は12kJとなる。これは上記従来の熱風溶着法に比べて1/5のエネルギに過ぎない。このように、本実施形態における溶着装置1はエネルギの節約にも効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ポリプロピレンなどの熱可塑性を有するプラスチックにより形成された熱可塑性プラスチック材同士を溶着により接合する熱可塑性プラスチック材の溶着装置および溶着方法として有用である。特に、本発明は、発泡プラスチック板材や段ボールプラスチック板材等のように内部に空隙を含むプラスチック材同士を互いに接合して、その溶着物としてのプラスチック製の容器や器具等を製造するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態における熱可塑性プラスチック材の溶着装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態における熱可塑性プラスチック材の溶着装置の概略断面図である。
【図3】図2の溶着装置のヒータユニットの詳細を示す図であって、(a)は上部照射マスクを取り外した状態を示す上面図、(b)は上部照射マスクを取り付けた状態を示す上面図、(c)は(a)のA−A断面図である。
【図4A】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4B】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4C】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4D】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4E】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4F】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4G】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4H】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4I】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【図4J】図1の溶着装置による溶着工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0055】
1 溶着装置
2 ヒータユニット
3 ヒータ進退機構
4 保持装置
5 吸引装置
6 ガイド装置
7 各種センサ
8 表示操作盤
9 記録装置
10 制御装置
11 電熱ヒータ装置
12 ケース兼マスク
12a 下部照射マスク
12b 上部照射マスク
13a,13b 開口部
14 ヒータ板
15 固定電極用ヒータ板固定金具
16 スライド電極用ヒータ板固定金具
17 固定電極
18 スライド電極
19 引きばね
20 固定電極
21 多芯リード線
22,23 電源ケーブル
25 窒素供給管
26 窒素吹き出し口
30 下吸着台
31 開孔
32 平板
33 吸引口
40 上吸着台
41 開孔
42 平板
43 吸引口
60 下ガイド
60a 先端部
61 上ガイド
61a ストッパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材の間に配置され、輻射熱により非接触で前記複数の熱可塑性プラスチック材を加熱するヒータと、
前記ヒータによる加熱時に前記複数の熱可塑性プラスチック材を向かい合わせた状態で保持するとともに、前記ヒータによる加熱後、前記複数の熱可塑性プラスチック材同士を圧接させる保持装置と
を有する熱可塑性プラスチック材の溶着装置。
【請求項2】
前記ヒータは、前記保持装置により保持される熱可塑性プラスチック材の間に進退可能なものであって、前記複数の熱可塑性プラスチック材の間に進行させた状態で加熱を行い、前記複数の熱可塑性プラスチック材同士の圧接の際には前記複数の熱可塑性プラスチック材の間から退避させるものであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性プラスチック材の溶着装置。
【請求項3】
前記保持装置は、前記熱可塑性プラスチック材をエアーの吸引によって平板に吸着して保持するものである請求項1または2に記載の熱可塑性プラスチック材の溶着装置。
【請求項4】
前記ヒータは、通電により発熱し、弾性体により所定の引張力が加えられて保持された金属製の帯状板の電熱ヒータである請求項1から3のいずれかに記載の熱可塑性プラスチック材の溶着装置。
【請求項5】
互いに溶着する複数の熱可塑性プラスチック材を向かい合わせた状態で保持し、これらの複数の熱可塑性プラスチック材の間に配置したヒータの輻射熱により前記複数の熱可塑性プラスチック材を非接触で加熱し、前記複数の熱可塑性プラスチック材の表面を溶融させること、
前記熱可塑性プラスチック材の表面が溶融した後、前記複数の熱可塑性プラスチック材同士を圧接すること
を含む熱可塑性プラスチック材の溶着方法。
【請求項6】
前記ヒータによる加熱は、前記複数の熱可塑性プラスチック材の間に前記ヒータを進行させた状態で行うこと、
前記複数の熱可塑性プラスチック材同士の圧接の際には、前記ヒータを前記複数の熱可塑性プラスチック材の間から退避させること
を特徴とする請求項5記載の熱可塑性プラスチック材の溶着方法。
【請求項7】
前記ヒータによる加熱は、前記輻射熱が照射される範囲をマスクにより限定して行うことを特徴とする請求項5または6に記載の熱可塑性プラスチック材の溶着方法。
【請求項8】
前記複数の熱可塑性プラスチック材の保持は、エアーの吸引によって平板に吸着して行うことを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の熱可塑性プラスチック材の溶着方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図4D】
image rotate

【図4E】
image rotate

【図4F】
image rotate

【図4G】
image rotate

【図4H】
image rotate

【図4I】
image rotate

【図4J】
image rotate