説明

熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー

【課題】従来の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの課題を解決し、優れた弾性特性(弾性回復特性及び収縮時の締め付け力の向上)と成形性を有する熱可塑性熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを提供すること。
【解決手段】熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーであって、以下に示すネオペンチレンオキサイド構造単位を3〜30モル%共重合してなるポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメントと90〜100モル%がトリメチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントを含有し、下記(1)〜(2)の条件を満足することを特徴とする熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
(1)40重量% ≦ ソフトセグメント含量 ≦ 85重量%
(2)1000 ≦ ソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルの数平均分子量(Mn) ≦ 5000
(3)還元粘度(ηsp/c) : 1.0〜5.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性特性、耐熱性及び成形性に優れた熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードセグメントにポリテトラメチレンテレフタレート(以下、PBTと略記することがある)、ソフトセグメントにポリテトラメチレングリコール(以下、PTMGと略記することがある)を用いた熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(以下、PBT系エラストマーと略記することがある)は、従来のオレフィン系エラストマーや熱可塑性ポリウレタン系エラストマーと比較して優れた耐熱性を有することから、CVJブーツ等自動車用の樹脂成形品として広く利用されている。またPBT系エラストマーは、弾性繊維としても利用されている。しかしながら、PBT系エラストマーはよりゴム弾性を高めるためにソフトセグメント含量を高めると融点が著しく低下するという問題があった。またPBT系エラストマーは、弾性回復特性が不十分であり、更に伸長時の応力値に対して収縮時の応力値が非常に低い(収縮時の締め付け力が小さい)等、弾性繊維として優れた特性を発揮するウレタン糸並みの弾性特性を発揮することは到底できない。
【0003】
一方、ハードセグメントに伸縮特性に優れたポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記する)、ソフトセグメントにポリテトラメチレングリコール、或いはポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコールを利用した熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(以下、PTT系エラストマーと略記)も従来知られている(文献1、特許文献1及び特許文献2)。しかしながら、これらPTT系エラストマーは、繊維製造工程において巻き取った未延伸糸が膠着し、延伸時にスムーズに解除できず、糸切れが頻発した。同様の問題は、フィルム及び樹脂の成形時にも発生し、フィルムロールからフィルムがはがれない、或いは金型から樹脂を取り出せないという問題があった。また得られた弾性繊維もウレタン糸並みの弾性特性、即ち伸び縮みを繰り返したときに元の寸法への戻りやすい(弾性回復率の高さ:図1参照 Laの値が小さい程、弾性回復率が高い)、伸び縮みの動作に対して締め付け力の変化が小さい(図2参照 SとSの差が小さい程、荷重除去時の応力保持率が高い)という特徴を発揮することができないという問題があった。
本発明者らは鋭意検討を重ね、PTT系エラストマーにおけるこれらの問題が、ソフトセグメント構造に起因することを見出し、本発明に到達した。
【0004】
【非特許文献1】Journal of the Korean Fiber Society vol.37,No.11,2000
【特許文献1】特開平2−248425
【特許文献2】特表2005−507972
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの課題を解決し、優れた弾性特性(弾性回復特性及び収縮時の締め付け力の向上)と成形性を有する熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の通りである。
1.熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーであって、以下に示すネオペンチレンオキサイド構造単位を3〜30モル%共重合してなるポリアルキレンエーテルエステルソ
フトセグメントと90〜100モル%がトリメチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントとを含有し、下記(1)〜(2)の条件を満足することを特徴とする熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
(1)40重量% ≦ ソフトセグメント含量 ≦ 85重量%
(2)1000 ≦ ソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルの数平均分子量(Mn) ≦ 5000
(3)還元粘度(ηsp/c) : 1.0〜5.0
【0007】
【化1】

【0008】
2.ポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメントを構成する他のポリアルキレンエーテルが、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする前記1.記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
3.前記(1)〜(3)の条件以外に、更に(4)及び(5)の条件を満足することを特徴とする前記1.又は2.記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
(4)0℃ ≦ 降温結晶化温度 ≦ 100℃
(5)降温結晶化開始温度と降温結晶化終了温度の差 ≦ 100℃
4.前記1.〜3.のいずれかに記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維。
5.前記4.記載の繊維を一部又は全部に含む織編物。
6.前記1.〜3.のいずれかに記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られたフィルム及び成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、ハードセグメントとして90〜100モル%がトリメチレンテレフタレート単位であるポリエステルを含有し、ソフトセグメントとして3〜30モル%のネオペンチレンオキサイド構造単位を有する、特定のポリアルキレンエーテルを採用することに特徴を有するものである。
上記の特徴により、未延伸糸の膠着やフィルム形成時のロールへの粘着がなく、優れた弾性特性と成形性を有する熱可塑性ポリエーテルエラストマーの提供が可能となる。
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維は、熱セット工程や染色工程における弾性特性低下が起こらず、弾性特性に優れた織編物を提供することができる。
また、本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維は、ウレタン糸では実現できない染色が可能である。また、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー繊維は、他繊維素材との混用においても他繊維素材の染料による汚染が起こらないので衣料用織編物を構成する素材として極めて有効である。
更に、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーはフィルムや成形体原料として有効に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、耐熱性向上、成形性向上の観点からネオペンチレンオキサイド構造単位(化1)を3〜30モル%共重合してなるポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメントを含有する必要がある。
例えば同じ分子量、同じ含量で、ポリアルキレンエーテルとしてポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのみのソフトセグメントからなる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとネオペンチレンオキサイド構造単位を3〜30モル%共重合したポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのソフトセグメントからなる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーとを比較したときに、後者の共重合ソフトセグメントを有する熱可塑性ポリエーテルエラストマーの融点が20℃以上高くなる。
【0011】
またネオペンチレンオキサイド構造単位を3〜30モル%共重合したポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールのソフトセグメントからなる熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、ソフトセグメント含量が高くなる程、結晶成分が効率的かつ強固に結晶化する傾向が極めて顕著に認められ、更に降温結晶化開始から終了までの温度差が小さくなるという特徴が認められる。
これらの特徴のために、本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーを原料とした紡糸製造工程、フィルム或いは樹脂成形工程における結晶化温度管理が容易となり、また得られる弾性繊維、フィルム或いは樹脂は、解舒、金型からの取り出しが極めて容易で、繊維物性やフィルム物性を損なわれない。
【0012】
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの融点及び成形性を高めるという観点から、ネオペンチレンオキサイド構造単位の共重合比率は3〜30モル%であり、好ましくは5〜20モル%、より好ましくは8〜15モル%である。
尚、ポリアルキレンエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの群から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、弾性特性向上の観点からポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールがより好ましい。
【0013】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーに含有されるポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメントは、ジカルボン酸とネオペンチレンオキサイド構造単位を3〜30モル%共重合してなるポリアルキレンエーテルからなる。
ジカルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸、二安息香酸、ナフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4−スルホニル二安息香酸等の芳香族、セバシン酸、1,3−または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、グルタル酸、コハク酸、シュウ酸、アゼライン酸、ジメチルマロン酸、フマル酸、シトラコン酸、アリルマロン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、ピメリン酸、スベリン酸、2,5−ジエチルアジピン酸、2−エチルスベリン酸、2,2,3,3−テトラメチルコハク酸、シクロペンタネンジカルボン酸、デカヒドロ−1,5−(または2,6−)ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビシクロヘキシルジカルボン酸、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルカルボン酸)、3,4−フランジカルボキシレート、及び1,1−シクロブタンジカルボキシレート等の脂肪族もしくは脂環式ジカルボン酸の群から選ばれた少なくとも1種であり、耐熱性の観点から芳香族ジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸が最も好ましい。
【0014】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、ソフトセグメント含量が熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー重量全体に対して40〜85重量%であることが必要である。ソフトセグメント含量が40〜85重量%の範囲に制御されていることによって、優れた弾性特性と耐熱性を発揮することができる。ソフトセグメント含量が40重
量%未満では、優れた弾性特性を発揮することができず、また85重量%を超えると融点が急激に低下するとともに、ハードセグメントが物理的架橋点として十分に作用できないため伸長時の塑性変形が大きく、弾性特性が低下する。好ましくは60〜80重量%である。
【0015】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーのソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルの数平均分子量は、弾性特性及び耐熱性の観点から1000〜5000であることが必要である。好ましくは1300〜4500、最も好ましくは1500〜4000の範囲である。
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、90〜100モル%がトリメチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントを含有する必要がある。90〜100モル%がトリメチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントを含有することで、従来のテトラメチレンエステルハードセグメントからなる弾性繊維と比較して優れた弾性特性を発揮することができる。尚、本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、10モル%未満であって、かつ本発明の目的である弾性特性や耐熱性、成形性を阻害しない範囲で、ハードセグメントにテトラメチレンテレフタレートやエチレンテレフタレート等トリメチレンテレフタレート単位以外のエステルを含むことができる。
【0016】
本発明におけるトリメチレンテレフタレートハードセグメントの含量は、ポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメント含量によって決定されるが、少なくとも熱可塑性ポリエーテルエラストマー重量対比15重量%含まれていることが、弾性特性向上の観点から好ましい。
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、還元粘度(ηsp/c)が1.0〜5.0である必要がある。還元粘度が1.0未満であると、繊維強度が著しく低下し、衣料用繊維としての使用に耐えないものとなる。また本発明の組成の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーで還元粘度5.0を超えることは事実上困難である。好ましくは、1.2〜4.0、より好ましくは1.3〜3.0である。
【0017】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、降温結晶化温度が0〜100℃の範囲にあることが好ましい。ここで降温結晶化温度とは、ポリマーをDSC上で250℃まで昇温し、その温度で3分間保持し完全に溶融させた後、20℃/分の速度で−30℃まで降温したときの、結晶化の発熱ピークトップ温度をいう。
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、降温結晶化温度を0〜100℃の範囲に制御することで、優れた弾性特性と成形性を発揮することができる。降温結晶化温度が100℃を超えると、ハードセグメントの急速な結晶化とともに、ソフトセグメントの構造をも固定化され、たとえソフトセグメント含量が同一であっても非晶質量が低下し、弾性特性を低下させてしまう。降温結晶化温度が0℃を下回ると固化してもベトツキ感が残り、効率よく紡糸或いは成形を行うことができない。より好ましくは20〜80℃である。また本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、降温結晶化開始温度と降温結晶化終了温度の差が100℃以下であることが好ましい。降温結晶化開始温度と降温結晶化終了温度の差が100℃以下であることで、狭い温度範囲内で効率よく結晶相の結晶化が起こるため、結晶相と非晶質相のよりよい相分離構造が形成され、弾性特性が向上するとともに、当該相分離構造を形成させるための温度管理が容易であり、繊維或いは成形品の生産効率上きわめて優位である。結晶化開始温度と結晶化終了温度の差は、より好ましくは80℃以下である。
【0018】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、溶融重合工程、溶融成形工程における熱分解抑制の観点から、ヒンダードフェノール系酸化安定剤をテレフタル酸環あたりのフェノール環モル%として0.3〜5モル%含有することが好ましく、より好ましくは0.5〜3モル%である。
本発明で利用されるヒンダードフェノール系酸化安定剤の種類としては、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,3‘、3“、5,5’、5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a‘,a“−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル] ホスフェートが挙げられる。
【0019】
環状ダイマーの生成を抑制するという観点からペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,3‘、3“、5,5’、5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a‘,a“−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール,ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル] ホスフェートが最も好ましい。
また本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、溶融成形時の熱分解を抑制するという観点から熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーに対し、リン元素3〜250ppmに相当するリン化合物を含有することが好ましい。
【0020】
リン化合物の種類としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、リン酸、亜リン酸,ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル] ホスフェート等があげられる。
更に本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは、エラストマーの弾性特性や成形性を阻害しない範囲で、紫外線安定剤、無機充填剤、顔料などを含有することができる。
【0021】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーの製造方法については特に制限はないが、好ましい方法としては以下の方法が挙げられる。
テレフタル酸またはその低級アルコールエステル誘導体、トリメチレングリコール、ネオペンチレンオキサイド構造単位(化1)を3〜30モル%が共重合されたポリアルキレンエーテルをエステル交換触媒の存在下、180〜240℃の温度でエステル交換反応を行う。エステル交換触媒としてはチタンテトラブトキシドやチタンテトライソプロポキシドに代表されるチタンアルコキサイドが挙げられ、用いるジカルボン酸に対して0.02〜1重量%添加することが好ましい。エステル交換触媒量が1重量%を超えると、溶融成形時に熱分解を加速し、環状ダイマーを生成し、降温結晶開始温度と終了温度の差が100℃を超えてしまう。
【0022】
その後、チタンアルコキサイド系の重縮合反応触媒の存在下、少なくとも1torr以下、好ましくは0.5torr以下の減圧下、200〜260℃の温度で重縮合反応を行
う。重縮合反応速度を高め、かつ熱分解による環状ダイマー生成を抑制し、降温結晶開始温度と終了温度の差を100℃以内に制御すると言う観点から、重縮合反応触媒量は、用いるジカルボン酸に対して0.02〜1重量%の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5重量%である。また重縮合反応温度も重縮合反応速度を高め、かつ熱分解による環状ダイマー生成を抑制し、降温結晶開始温度と終了温度の差を100℃以内に制御すると言う観点から、220〜245℃の範囲で制御することが好ましい。
【0023】
尚、ヒンダードフェノール系酸化防止剤やリン系化合物を添加する場合は、重合のどの段階で添加してもよく、一気に或いは数回に分けて添加してもよいが、ヒンダードフェノール系酸化安定剤は、ポリアルキレンエーテルの熱分解を抑制する観点から、エステル交換反応或いはエステル化反応開始前に添加することが好ましく、リン系化合物はエステル交換反応或いはエステル化反応終了後に添加することが、エステル交換反応或いはエステル化反応を阻害することなく着色も抑制できる点から好ましい。
上記方法で得られた熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーをチップ、粉、繊維状、板状、ブロック状にして、アルゴン等の不活性ガスの存在下、或いは100torr以下、好ましくは10torr以下の減圧下で170〜220℃、3〜48時間固相重合を行うことができる。
【0024】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは弾性繊維、フィルム及び樹脂成形体の原料として有効に利用することができる。本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた弾性繊維は、例えば200%伸長時の回復率が80%を超え、更に伸長100%における荷重除去時の応力保持率が30%を超え、従来のウレタン糸或いは熱可塑性ウレタン糸と同等以上の優れた弾性特性を有する。
また本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維はウレタン糸では実現できない染色が可能であり、更に耐熱性が高いので、繊維製品製造時の熱セットや染色等の熱処理で熱劣化することもない。
【0025】
また本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維は、綿、ウール等の天然繊維素材、ベンベルグ、レーヨン等の化学繊維、或いはアクリル繊維、ポリエステル繊維やナイロン繊維等の合成繊維との混用も可能であり、従来の繊維製品とは概念の全く新しい衣料を提供することができる。もちろん本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維はウレタン糸で問題になる他繊維素材の染料による汚染等も起こらない。即ち、本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた弾性繊維は、衣料用繊維としてきわめて有効に利用することができる。
更に本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーは融点が高く、また短時間に結晶化できるので、フィルムや樹脂成形品の原料としても有効に利用できる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。尚、物性の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)還元粘度(ηSP/C
還元粘度は、35℃、o−クロロフェノール50ミリリットルに試料0.5gを溶解し、オストワルド粘度管を用いて求めた。
(2)ソフトセグメントのネオペンチレンオキサイドの共重合比率、ポリアルキレンエーテルの数平均分子量及びソフトセグメント含有量
試料を溶媒:TMS(テトラメチルシラン)を含むCDCl/HFIP−d(ヘキサフルオロイソプロパノール)混合溶媒(9/1)に1〜2vol%の濃度で室温で溶解し、H−NMR(ブルカー・バイオスピン社製 AVANCEII AV400M)を用いて測定した。
【0027】
(3)降温結晶化温度、降温結晶化開始温度と降温結晶化終了温度との差及び融点
DSC(パーキンエルマー社製 Pyris−1)で窒素気流下(200ml/min)、試料を室温から250℃まで50℃/minで昇温、250℃で3分間保持した後、0℃まで20℃/minの冷却速度で冷却させた。冷却させた試料を更に20℃/minの昇温速度で250℃まで昇温させた。降温結晶化温度(Tc)は、降温結晶化ピークトップ温度とする。降温結晶化開始温度と降温結晶化終了温度との差は、降温結晶化ピークの立ち上り点を開始温度(Tc1)、降温結晶化ピークの最終点を終了温度(Tc2)とし、Tc1とTc2の差で求めた。融点(Tm)は、2回目の昇温熱曲線から求めた。
【0028】
(4)紡糸、延伸条件
試料を除湿乾燥機パールロータリージョイント(株式会社 昭和技研工業社製)を用いて115℃で6時間乾燥させ、水分率50ppm以下にした。バレル径9.55mmφ、バレル長350mm(有効長250mm)のキャピログラフ−1B(東洋精機社製)に直径1mm、長さ1mm(L/D=1)、垂直面からの角度120°の紡口を取り付け、設定紡糸温度に到達した後、乾燥試料をバレル内に投入し、投入より10分後に50m/minの押出し速度で押出し、押出された未延伸糸を巻き取り機を用いて、定速で巻き取った。ついで、未延伸糸を横型延伸機を用い、供給ロール5m/minで、伸度が400%程度になるように引き取りロール速度を調整して延伸を行った(延伸温度:室温)。
(5)繊維の強伸度
繊維の強伸度は、JIS−L−1013に準じて測定した。
【0029】
(6)200%伸長弾性回復率
繊維をチャック間距離20cmで定速伸長形の引っ張り試験機に取り付け、伸長率200%まで引っ張り速度20cm/minで伸長し、同じ速度で収縮させ、これを3回繰り返して応力−ひずみ曲線を描く。3回目の収縮中、応力がゼロになった時の伸度を残留伸度(La)とする。弾性回復率は以下の式に従って求めた(図1)。
弾性回復率=(200−La)/200×100(%)
(7)荷重除去時の応力保持率
(6)の200%伸長繰返し試験において、1回目の伸長中の伸長100%における応力(S)と3回目の収縮中の伸長100%における応力(S)より、以下の式に従って求めた(図2参照)。
荷重除去時の応力保持率=(S)/(S)×100(%)
【0030】
[実施例1]
3L容積の反応容器に、テレフタル酸ジメチル654g、ポリアルキレンエーテルとしてネオペンチルグリコールが10モル%共重合されたPTMG(数平均分子量1800)825g、トリメチレングリコール512g、チタンテトラブトキシド0.33g、酸化防止剤:イルガノックス1010(チバスペシャリティーケミカルズ社製)15gを投入し、窒素雰囲気下ヒーター温度220℃でエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、トリメチルホスフェート0.27gを添加し、更にその5分後チタンテトラブトキシド0.33gを添加し、245℃、0.2〜0.3torrで4時間重縮合反応を行った。得られた樹脂は、3mm角にペレット化した。また得られたペレットを紡糸温度245℃で(4)に記載された条件(具体的条件:表2に記載)で、紡糸延伸を行ったところ、未延伸糸同士が膠着を起こすことなく、安定的に弾性繊維が得られ、かつ得られた繊維の200%伸長回復率は85%、荷重除去時の応力保持率30%であった。当該繊維の物性を表2に示す。
【0031】
[実施例2]
テレフタル酸ジメチル528g、ポリアルキレンエーテルとしてネオペンチルグリコールが10モル%共重合されたPTMG(数平均分子量1800)963g、トリメチレン
グリコール413g、チタンテトラブトキシドをエステル交換触媒、重縮合触媒としてそれぞれ0.26g、トリメチルホスフェート0.22g添加した以外は、実施例1と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行った。ペレット物性及び繊維物性を表1及び表2に示す。

また、実施例2で得られたの繊維を用いて編物を公知の方法で作成したところ、比較例1で得られたPBT糸の弾性繊維で作成したものと比べ、優れた弾性を有する編物が得られた。
【0032】
[実施例3]
数平均分子量1800を有するネオペンチルグリコールが20モル%共重合されたPTMGを用いた添加した以外は、実施例2と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行った。ペレット物性及び繊維物性を表1及び表2に示す。
【0033】
[実施例4]
テレフタル酸ジメチル356g、数平均分子量3000を有するネオペンチルグリコールが10モル%共重合されたPTMG1139g、トリメチレングリコール273g、チタンテトラブトキシドをエステル交換触媒、重縮合触媒としてそれぞれ0.18g、トリメチルホスフェート0.15g添加した以外は、実施例1と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行った。ペレット物性及び繊維物性を表1及び表2に示す。
【0034】
[実施例5]
テレフタル酸ジメチル518g、数平均分子量2000を有するネオペンチルグリコールが10モル%共重合されたポリ(1,3−プロピレン)グリコール(PPG)971g、トリメチレングリコール406g、チタンテトラブトキシドをエステル交換触媒、重縮合触媒としてそれぞれ0.26g、トリメチルホスフェート0.21g添加した以外は、実施例1と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行った。ペレット物性及び繊維物性を表1及び表2に示す。
【0035】
[比較例1]
テレフタル酸ジメチル501g、数平均分子量1800を有するPTMG963g、テトラメチレングリコール405g、チタンテトラブトキシドをエステル交換触媒、重縮合触媒としてそれぞれ0.25g、トリメチルホスフェート0.21g添加した以外は、実施例1と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行った。得られた繊維の200%伸長回復率は44%、荷重除去時の応力保持率0%であり、弾性特性が著しく劣るものであった。ペレット物性及び繊維の物性を表1及び表2に示す。
【0036】
[比較例2]
テレフタル酸ジメチル654g、数平均分子量1800を有するPTMG826g、テトラメチレングリコール512g、チタンテトラブトキシドをエステル交換触媒、重縮合触媒としてそれぞれ0.33g、トリメチルホスフェート0.27g添加した以外は、実施例1と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行ったが、延伸時に未延伸糸同士が膠着し、解舒字に糸切れが多発した。得られた繊維の200%伸長回復率は63%、荷重除去時の応力保持率9%であり、弾性特性が劣るものであった。ペレット物性及び繊維の物性を表1及び表2に示す。
【0037】
[比較例3]
テレフタル酸ジメチル970g、数平均分子量1800を有するネオペンチルグリコールが10モル%共重合されたPTMG482g、トリメチレングリコール760g、チタ
ンテトラブトキシドをエステル交換触媒、重縮合触媒としてそれぞれ0.49g、トリメチルホスフェート0.40g添加した以外は、実施例1と同様に重合反応を行った。また表2に記載された条件で紡糸・延伸を行った。得られた繊維の200%伸長回復率は46.3%、荷重除去時の応力保持率0%であり、弾性特性が劣るものであった。
【0038】
[実施例6]
実施例2で得られたエラストマー95gを長さ150mm×幅150mm×厚3mmの金型に入れ、下記条件で成型した。得られた成型体は容易に金型から取り出すことができ、変形等起こらなかった。一方、比較例2で得られたエラストマーを実施例2のエラストマー同様の条件で成型したところ、金型からの取出しが非常に困難で引きちぎれや変形が発生した。
成型機:ホットプレス機 DAC−37(松田製作所製)
温度×圧力×時間:220℃×1MPa×5分間
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維は、熱セット工程や染色工程における弾性特性低下が起こらず、弾性特性に優れた織編物を提供することができる。
また、本発明の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維は、ウレタン糸では実現できない染色が可能である。また、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー繊維は、他繊維素材との混用においても他繊維素材の染料による汚染が起こらないので衣料用織編物を構成する素材として極めて有効である。
更に、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーはフィルムや成形体原料として有効
に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】200%伸張弾性回復率
【図2】荷重除去時の応力保持率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーであって、以下に示すネオペンチレンオキサイド構造単位を3〜30モル%共重合してなるポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメントと90〜100モル%がトリメチレンテレフタレート単位からなるハードセグメントとを含有し、下記(1)〜(2)の条件を満足することを特徴とする熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
(1)40重量% ≦ ソフトセグメント含量 ≦ 85重量%
(2)1000 ≦ ソフトセグメントを構成するポリアルキレンエーテルの数平均分子量(Mn) ≦ 5000
(3)還元粘度(ηsp/c) : 1.0〜5.0
【化1】

【請求項2】
前記ポリアルキレンエーテルエステルソフトセグメントを構成する他のポリアルキレンエーテルが、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
【請求項3】
前記(1)〜(3)の条件以外に、更に(4)及び(5)の条件を満足することを特徴とする請求項1又は2記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー。
(4)0℃ ≦ 降温結晶化温度 ≦ 100℃
(5)降温結晶化開始温度と降温結晶化終了温度の差 ≦ 100℃
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られた繊維。
【請求項5】
請求項4記載の繊維を一部又は全部に含む織編物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーから得られたフィルム及び成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−24129(P2009−24129A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190927(P2007−190927)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】