説明

熱可塑性合成繊維の製造方法

【課題】熱可塑性合成繊維の製造方法において、ゴデッドローラー表面の付着物の蓄積による紡糸糸切れを防ぐことにより生産性を向上させた熱可塑性合成繊維の製造方法の提供。
【解決手段】溶融紡糸した糸条に給油、交絡を付与した後、この糸条にゴデットロールを介して延伸、熱処理を施し巻き取ることからなる熱可塑性合成繊維の製造方法において、延伸直前もしくは延伸直後に配置した糸条規制ガイドが、ゴデットローラーの回転軸方向に往復運動し、その往復運動における糸条往復巾Yと糸条間距離[mm] XPとが、記式Y≦XPを満たしており、かつ、糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間を20%以下としたことを特徴とする熱可塑性合成繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性合成繊維の製造方法に関し、さらに詳しくは、ゴデッドローラー表面の汚れの蓄積による紡糸糸切れを防ぐことにより生産性を向上させた熱可塑性合成繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルやポリアミドに代表される熱可塑性合成繊維の製造においては、その製造コストを下げる種々の取り組みが行われている。中でも、紡糸安定性を向上させることは大きな割合を占めている。
【0003】
紡糸された糸条を巻き取る際の糸条に平滑性、帯電防止性を付与する目的として、通常は油剤を付着させているが、高速製糸をする際には、糸条に付着した油剤成分の一部が経時によりゴデッドローラー表面上に蓄積することになる。この付着物は、高速で走行する糸条に対して糸条の張力変動を引き起こし、ゴデットローラーに糸条が巻き付き糸切れを引き起こしたり、また、巻き取ったドラムフォームを悪化させたりする等の問題を招いていた。
【0004】
特に糸条を2つ以上のゴデットローラー間で延伸し、加熱ゴデッドローラーを介して巻き取る際には、ゴデッドローラー上の付着物が加熱によってゲル化、炭化し付着物の蓄積を促進させ、巻き取り張力が変動することによりドラムフォームの悪化(製品化不能)等の紡糸安定性低下を加速させてしまうという問題があった。
【0005】
ドラムフォームの悪いチーズ状パッケージは、取扱い性も悪く、輸送の際に端面の糸条が損傷を受け易い。また、チーズ状パッケージ端面の糸条と中央部の糸条との収縮差や染着差が発生し易くなり、糸条をチーズ状パッケージから解舒する時の張力変動が大きくなるため、高速解舒時に輪抜けが発生し易いなどの問題があり、高次加工性が劣り、得られる高次加工品の品位も劣るものとなる。
【0006】
このため、チーズ状パッケージのドラムフォームの膨れ度合いをできる限り小さく抑えることが要求されている。これらの問題を解決するためには、定期的に巻取り機を停機させてゴデッドローラー表面の付着物を除去する作業が必要であった。したがって、紡糸機停機に伴う生産性の低下や付着物を除去する作業にかかる人件費等のロスを避けることができなかった。
【0007】
このような問題を解決するための従来技術としては、ゴデッドローラー前もしくはゴデッドローラー後、またはゴデッドローラー間に、糸条の走行位置を規制させる糸道ガイドを配置し、ゴデッドローラーの回転軸方向に往復させる装置(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、この特許文献に具体的に開示されたものは、水に乳化したエマルジョン系油剤において、ゴデッドローラーの回転軸方向に往復運動させることにより、付着物の局部的な堆積防止や、水が溶媒となる自浄化作用で付着物を持ち去る方式であるため、ある程度の効果は得られているものの、水に乳化したエマルジョン系油剤溶媒中の無機不純物の析出によりゴデッドローラーに付着物が蓄積し、糸条の張力変動を引き起こすという問題が依然として残されていた。また、非エマルジョン系油剤で給油を行った場合には、水による自浄化作用を有さないために、加熱ゴデットローラー上の付着物が、糸条の往復運動によって、特に折り返し地点へ局部的に堆積することとなり、これにより折り返し部分での糸条の張力変動が大きくなるという問題あった。
【特許文献1】特開平08−170215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、熱可塑性合成繊維の製造方法において、ゴデッドローラー表面の付着物の蓄積による紡糸糸切れを防ぐことにより生産性を向上させた熱可塑性合成繊維の製造方法の提供を目的とするものである。さらには、エマルジョン系油剤、非エマルジョン系油剤の種類に関係なく、ゴデッドローラー表面の付着物蓄積による紡糸糸切れを防ぐことにより生産性を向上させた熱可塑性合成繊維の製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明によれば、溶融紡糸した糸条に給油、交絡を付与した後、この糸条にゴデットロールを介して延伸、熱処理を施し巻き取ることからなる熱可塑性合成繊維の製造方法において、延伸直前もしくは延伸直後に配置した糸条規制ガイドが、ゴデットローラーの回転軸方向に往復運動し、その往復運動における糸条往復巾Yが下記式(1)式を満たしており、かつ、糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間を20%以下としたことを特徴とする熱可塑性合成繊維の製造方法が提供される。
Y≦XP・・・(1)
ただし、Y:糸条往復幅
XP:糸条間距離[mm]
【0010】
また、本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法においては、
溶融紡糸した糸条を2つのゴデットローラー間で延伸するとともに、少なくとも1つのゴデッドローラーに加熱ローラーを用いて巻き取ること、および
前記加熱ローラーの表面温度が50℃以上、紡糸速度が3000m/min以上であること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下に説明するとおり、ゴデッドローラー表面の汚れの蓄積による紡糸生産性低下を損なうことなく、パッケージフォームに優れた熱可塑性合成繊維を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について、図面を参照しつつ更に詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明のゴデッドローラー上を走行する糸条の一例を示す側面図である。
【0014】
本発明は、溶融紡糸した糸条に給油、交絡を付与した後、この糸条にゴデットロールを介して延伸、熱処理を施し巻き取ることからなる熱可塑性合成繊維の製造方法において、延伸直前もしくは延伸直後に配置した糸条規制ガイドが、ゴデットローラーの回転軸方向に往復運動し、その往復運動における糸条往復巾Yが下記式(1)式を満たしており、かつ、糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間が20%以下としたことを特徴としている。
Y≦XP・・・(1)
ただし、Y:糸条往復幅
XP:糸条間距離[mm]
【0015】
すなわち、図1のゴデッドローラー上を走行する糸条Aに対して、Yは糸条往復運動幅(mm)、XPは糸条間距離(mm)を示しているものである。Yは、糸が隣接する糸条の往復運動幅を示しており、特に往復運動幅の最大幅線上は糸条の折り返し地点を示すものであり、糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間を20%以下にすることによって、隣接する糸条のゴデットローラー表面汚れに影響されることなく製糸性改善効果を発揮できるものである。YがXPより大きい場合、すなわち糸条移動に伴い隣接する糸条の折り返し地点を通過してしまう場合には、その地点に堆積した油剤の熱変性物を乗り越えようとする際に張力変動が起きてしまい、ドラムフォームの不良が発生してしまうものとなり、本発明の目的が達成できなくなる。
【0016】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法において、糸条を延伸する工程では、2つのゴデッドローラー間で延伸し、延伸糸の伸度が20〜70%の範囲となるように適宜延伸倍率を設定、することが好ましい。また、少なくとも1つのゴデッドローラーは加熱ローラーであることが好ましい。油剤の熱変性による付着堆積物により、巻き取り張力変動が顕著に現れる加熱ローラーを使用する場合には、効果的に発揮できるためである。また、特にゴデットローラー表面の付着堆積物(油剤の熱変性物)による汚れが酷くなる条件、すなわち加熱ローラー表面温度50℃以上であることが、本発明を適用する場合により効果的に効果を発揮することができる。好ましくは100℃以上である。
【0017】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法は、紡糸した後に一旦巻き取ることなく引き続き延伸する直接紡糸延伸法、紡糸速度(引き取り速度)を3000m/分以上のように高速として実質的に延伸工程を省略する高速紡糸法、それらを組合せた高速直接紡糸延伸法、加えて、紡糸した後に一旦巻き取り、巻き取った後に延伸する2工程法等のいずれの製造方法でも可能であるが、生産面からは高速直接紡糸延伸法が好ましい。例えば、熱可塑性樹脂を溶融するに際し、プレッシャーメルター法あるいはエクストルーダー法が挙げられるが、両者とも特に限定されるものではない。溶融温度は、熱可塑性樹脂の融点+50〜90℃であることが好ましい。溶融された熱可塑性樹脂をギアポンプで計量した後、紡糸パック内のポリマー通路を通過、紡糸口金孔より吐出させた後、冷却、固化され、給油、交絡付与したのちゴデッドローラーで引き取り、ゴデッドローラー間で延伸し、熱処理を行い巻き取る。
【0018】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法においては、上記したように高速直接紡糸延伸法が好ましく、未延伸糸の寸法や物性の経時変化を抑制するため、紡糸速度は3000m/分以上として繊維構造を発達させることが好ましい。また、生産面から紡糸速度は速い方が好ましいが、紡糸、延伸、巻き取りする際の巻き取り機のスピンドルの強度の点等を考慮すると、8000m/min以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法で使用されるゴデットローラーは、特に限定されるものではないが、糸条を捲回して用いるネルソンローラーや、糸条を片掛けする単一ローラーのいずれでも問題はない。3セクション以上のゴデッドローラーを使用し多段延伸熱処理を行う際は各セクションで本発明を用いることが好ましい。またローラーとフィラメントの滑りを抑制するためにゴデッドローラーの表面状態を鏡面にしたり、糸離れを良くするためにゴデッドローラーを溝付きにしたり、梨地としてもよい。
【0020】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法において、延伸直前もしくは延伸後に配置した糸条規制ガイドがゴデットローラーの回転軸方向に往復運動することが重要な要件である。
【0021】
ゴデットローラーの回転軸とは、運動のベクトルの1成分がゴデットローラーの回転軸方向と平行であることを意味している。ゴデットローラー回転軸に往復運動させる機構としては、モーターの回転運動をカムやボールねじによって往復運動に変換する方法、シリンダの直線運動を繰り返し行って往復運動させる方法などが挙げられる。
【0022】
ただし、糸条の往復運動における糸条往復幅Yが上記の式Y≦XPを満たしており、糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間が20%以下であることが重要な要件である。糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間が20%を超えると、汚れが堆積している箇所での糸条接糸時間が長く、長時間に渡り張力変動が起こるため、その糸条接糸時間が短い程好ましいが、糸条トラバース装置の特に折り返し地点での急激な速度変化はカムやボールねじ等の設備に負担がかかり、カムの破損等が起こりやすくなり、メンテナンス性の観点から、好ましくは10〜20%である。
【0023】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法に供する熱可塑性樹脂ポリマーは、溶融可能であれば特に限定はしないが、例えば、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル、ポリプロピレン、ポリオレフィン、アラミドなどが挙げられる。さらに必要に応じて光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、末端基調節剤、染色性向上剤等が添加されていてもよい。また、紫外線吸収や接触冷感、抗菌性等の付与のため、無機粒子や有機機能剤の添加を行うことも可能である。しかしながら、製糸性や耐久性を低下してしまうため、1μmを超える無機粒子の添加は好ましくなく、白色顔料も含めて無機粒子の添加は限定されるものではないが、2.0%以下であることが好ましく、1.0%未満であることがより好ましい。
【0024】
本発明の熱可塑性合成繊維の製造方法において、給油の形態は、特に限定しないが、例えば、ローラー給油、ガイド給油などによって糸条に付与することができる。給油は紡糸工程中、1度でも複数回に分けて行われても問題ない。紡糸油剤の種類としては、特に限定しないが、鉱物油、脂肪酸エステルの様な平滑剤、高級脂肪酸、脂肪族アルコール、多価アルコール等のエチレンオキシド付加物等の非イオン系界面活性剤が主成分である乳化剤、制電剤等を混合分散させて用いることができ、必要に応じて収束剤、防腐剤等の成分を配合して使用しても良い。紡糸油剤供給量は過剰に付与した場合、紡糸油剤中の制電剤が加熱によりゴデッドローラー上の汚れとなり堆積していくことから、糸条重量当たり0.4〜1.5重量%程度の紡糸油剤有効成分付着量となる様供給することが好ましい。
【0025】
かかる構成からなる本発明の製造方法によれば、エマルジョン系油剤、非エマルジョン系油剤の種類に関係なくゴデッドローラー表面の付着物蓄積による紡糸糸切れを防ぐことにより生産性を向上させることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。なお、本明細書中および実施例中の特性値は、次の通りに測定した。
【0027】
A.巻き取り張力
東レエンジニアリング株式会社製FTR101ロータリー式歪みセンサー型テンションピックアップ(最大検出張力20g)を用い、2ゴデットローラーとワインダー間の巻き取り張力を測定した。
【0028】
B.バルジ率
図2に従い、糸条を巻き取ったチーズ状パッケージの最内層巻幅c(mm)に対する内層の最大膨らみ部巻幅b(mm)の割合(%)を意味しており、次式で算出したものである。
バルジ率(%)={(b−c)/c}×100
バルジ率10%以下を合格、それ以上を不合格とした。
【0029】
C.糸条往復幅
モーターにカムを取り付け、回転運動を往復運動に変換させた。したがって、カムの回転軸からカム外径までの距離が変位点となるため、1周期での糸条往復プロフィールを算出し変位最大距離−変位最小距離を糸条往復幅とした。
【0030】
D.糸条間距離
ゴデットローラーに走行する糸条間の距離を測定し、糸条間距離とした。図1に示すXPである。
【0031】
E.糸条接糸時間
糸条往復プロフィールより1往復中の折り返し地点から1/10までの距離にいる時間を算出し、その滞在時間を1往復時間当たりに換算した。
【0032】
F.98%硫酸相対粘度
試料を98重量%硫酸に濃度1重量%となるように溶解し、オストワルド粘度計によって25℃の高温で流下時間を測定する。硫酸の流下時間に対する試料溶液の流下時間の比を標準試料によって相対粘度に換算した。
【0033】
[実施例1]
98%硫酸相対粘度が2.7の酸化チタンを含まないナイロン6チップを280℃で溶融し、紡糸口金(丸孔,30ホール×2糸条,2口金)から吐出し、冷却固化後、有効成分付着量が0.60重量%となるよう給油ガイドから0.850ml/minの紡糸油剤(平滑剤(主成分:脂肪酸エステル)70%、乳化剤(主成分:脂肪族アルコール)20%、制電剤(主成分:脂肪族リン酸エステル)10%の組成の混合物)を濃度が5%となるよう水に分散させたエマルジョン油剤を付与した後、交絡ノズル(圧空圧0.25MPa)にて交絡付与を行い、第1ゴデッドローラー直前に配置したモーターの回転運動をカムによって往復運動に変換させる糸条トラバース装置により、表1に示すように往復運動させた糸道ガイドを通過させた後、第1ゴデッドローラー(非加熱)と第2ゴデッドローラー(170℃)間で1.60倍の延伸を行い、4300m/分で巻き取ることにより、70デシテックス、30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ(図2)4個を得た。
【0034】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表1に示す。
【0035】
バルジ率、巻き取り張力変化については良好であったが、4日間製糸後、糸条トラバース装置を観察した結果、カムの折り返し部の箇所に亀裂が発生していた。
【0036】
[実施例2、3]
表1に示す糸条トラバース装置を用いた以外は、実施例1と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。
【0037】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表1に示す。なお、4日間製糸後、糸条トラバース装置を観察した結果、カムにキズやか破損等も見られず良好であった。
【0038】
[実施例4〜6、比較例1,2]
紡糸油剤(平滑剤(主成分:脂肪酸エステル)70%、乳化剤(主成分:脂肪族アルコール)20%、制電剤(主成分:脂肪族リン酸エステル)10%の組成の混合物)を鉱物油に分散させた非エマルジョン油剤を用い、表1に示す糸条トラバース装置を用いた以外は、実施例1と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。
【0039】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を、実施例については表1、比較例については表2に示す。なお、実施例4については、4日間製糸後、糸条トラバース装置を観察した結果、カムの折り返し部の箇所に亀裂が発生していた。また、比較例1については、3日以降巻取張力変動が大きくなるとともに、バルジ率も高い。さらに比較例2についても同様の傾向が見られ、巻き取り機より抜き取ることができなかった。
【0040】
[実施例7〜9]
98%硫酸相対粘度が2.7の酸化チタンを含まないナイロン6チップを280℃で溶融し、紡糸口金(丸孔,3ホール×6糸条,2口金)から吐出し、冷却固化後、有効成分付着量が0.60重量%となるよう、給油ガイドから0.195ml/minの紡糸油剤(平滑剤(主成分:脂肪酸エステル化合物)70%、乳化剤(主成分:脂肪族アルコール)20%、制電剤(主成分:脂肪族リン酸エステル)10%の組成の混合物)を濃度が5%となるよう水に分散させたエマルジョン油剤を付与した後、交絡ノズル(圧空圧0.25MPa)にて交絡付与を行い、第1ゴデッドロール直前に表1に示す糸条トラバース装置を通過させた後、第1ゴデッドロール(非加熱)と第2ゴデッドロール(加熱)間で1.60倍で延伸、170℃で熱処理を行い、4500m/分で巻き取ることにより、17デシテックス、3フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ12個を得た。
【0041】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表1に示す。尚、実施例7については、4日間製糸後、糸条トラバース装置を観察した結果、カムの折り返し部の箇所に亀裂が発生していた。
【0042】
[実施例10〜12]
紡糸油剤(平滑剤(主成分:脂肪酸エステル)70%、乳化剤(主成分:脂肪族アルコール)20%、制電剤(主成分:脂肪族リン酸エステル)10%の組成の混合物)を鉱物油に分散させた非エマルジョン油剤を使用し、表1に示す糸条トラバース装置を用いた以外は実施例7と同様に製糸し、17デシテックス3フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ12個を得た。
【0043】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表1に示す。なお、実施例10については、4日間製糸後、糸条トラバース装置を観察した結果、カムの折り返し部の箇所に亀裂が発生していた。
【0044】
[実施例13]
98%硫酸相対粘度2.60の酸化チタンを含まないナイロン66チップを290℃で溶融した以外は、実施例1と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン66糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表1に示す。
【0045】
[実施例14]
紡糸油剤の組成を平滑剤(主成分:脂肪案エステル)60%、乳化剤(主成分:脂肪族アルコール)20%、制電剤(主成分:脂肪族リン酸エステル)20%の組成の混合物)を鉱物油に分散させた非エマルジョン油剤を使用した以外は、実施例1と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表1に示す。
【0046】
[比較例3]
糸条ピッチ間を5mmとした以外は、実施例4と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。
【0047】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表2に示す。
【0048】
[比較例4]
糸条トラバース装置を使用しない以外は、実施例1と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。
【0049】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表2に示す。
【0050】
[比較例5]
糸条トラバース装置を使用しない以外は、実施例4と同様に製糸し、70デシテックス30フィラメントのナイロン6糸条のチーズ状パッケージ4個を得た。
【0051】
得られたチーズ状パッケージのバルジ率、及び巻き取り張力1〜4日間毎日測定した結果を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1、表2の結果から明らかなように、本発明にかかる糸条トラバース装置を用いて得られたナイロン6糸条は、紡糸開始直後と紡糸96時間後でのバルジ率、巻き取り張力変化がなく紡糸安定性に優れている。
【0055】
一方、比較例1〜5の場合は生産経日で張力変動が大きくなり、バルジ率の悪化、即ちパッケージフォーム不良が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の合成繊維の製造方法を採用することにより、ゴデッドローラー表面の汚れの蓄積による紡糸生産性低下を損なうことなく、パッケージフォームに優れた熱可塑性合成繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明のゴデッドローラー上を走行する糸条の一例を示す側面図である。
【図2】バルジ率測定のために用いた熱可塑性繊維糸条のチーズ上パッケージの一例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0058】
A:走行糸条
B:ゴデッドロール
Y:糸条往復運動幅
XP::糸条間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融紡糸した糸条に給油、交絡を付与した後、この糸条にゴデットロールを介して延伸、熱処理を施し巻き取ることからなる熱可塑性合成繊維の製造方法において、延伸直前もしくは延伸直後に配置した糸条規制ガイドが、ゴデットローラーの回転軸方向に往復運動し、その往復運動における糸条往復巾Yが下記式(1)式を満たしており、かつ、糸条トラバース1往復中の折り返し地点から1/10までの距離における糸条接糸時間を20%以下としたことを特徴とする熱可塑性合成繊維の製造方法。
Y≦XP・・・(1)
ただし、Y:糸条往復幅
XP:糸条間距離[mm]
【請求項2】
溶融紡糸した糸条を2つのゴデットローラー間で延伸するとともに、少なくとも1つのゴデッドローラーに加熱ローラーを用いて巻き取ることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性合成繊維の製造方法。
【請求項3】
前記加熱ローラーの表面温度が50℃以上、紡糸速度が3000m/min以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性合成繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−84720(P2009−84720A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253505(P2007−253505)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】