説明

熱可塑性樹脂成形体及び化粧板

【課題】 表面平滑性、加工性、耐溶剤性、耐薬性等を良好に発揮することができるようにすること。
【解決手段】 化粧板10は、板状の基材11と、その表面に積層された厚み1.0mm〜5.0mmの熱可塑性樹脂成形体13とを備えて構成されている。熱可塑性樹脂成形体13は、表層15と、この表層15と基材11との間に位置するベース層16とを備えている。表層15の溶融粘着温度(t1)、ベース層16の溶融粘着温度(t2)とすると、5≦(t1−t2)<150(℃)を満たすように設定され、ベース層16と基材11とを熱圧成形させることにより、熱可塑性樹脂成形体13が基材11に積層される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂成形体及び化粧板に係り、更に詳しくは、表面を平滑な状態にすることができる熱可塑性樹脂成形体及び化粧板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、キッチン用扉等にあっては、MDF、パーチクルボード、合板等の基材に、接着剤を介して厚み約0.1〜0.4mmの化粧用シートを積層した化粧板(以下、従来構造1とする)が利用されている。また、化粧板の他の構造として、1.5mm厚程度のアクリル板を基材に貼り付けた化粧板(以下、従来構造2とする)も利用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来構造1にあっては、比較的薄厚となるため、基材の外面の凹凸が大きかったり、基材に塗布された接着剤にムラがあると、シートの表面における平滑性が損なわれ、鏡面仕上げのシートでは、反射の影響により平滑性の悪さが特に目立つこととなる。しかも、基材の両面に厚みが異なるシートを貼り付けると、各シートの線膨張率若しくは収縮率が相違するため、化粧板全体に反りが発生するという問題もある。
【0004】
また、従来構造2にあっては、切断や穴明けによって欠け或いは割れが生じ、加工性に劣ることとなる他、不用意な衝撃によっても割れが発生し易いという不都合を招来する。しかも、アクリルは、一般的に耐溶剤性、耐薬性の点で十分ではないという問題もある。更に、アクリル板は吸水率が高いので、それ自体が吸水により伸びて化粧板の反りの原因となる。この反りを回避するためには、基材の両面にアクリル板をそれぞれ貼ることが不可避となり、使用材料が増えてコストアップするばかりでなく、化粧板全体が高重量化するという不都合もある。また、基材の木口や木端には、アクリル板とは別体のシートを貼付しているので、当該シートとアクリル板との間から水分が侵入して止水性が不十分になり易い。
【0005】
[発明の目的]
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、表面平滑性に優れ、加工性や耐溶剤性、耐薬性を良好に発揮することができ、基板の木口側からの止水性を改善することができる熱可塑性樹脂成形体及び化粧板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、表層と、この表層に積層されたベース層とを含み、厚みが1.0mm〜5.0mmに設定された熱可塑性樹脂成形体であって、
前記表層の溶融粘着温度(t1)、前記ベース層の溶融粘着温度(t2)とすると、
5≦(t1−t2)<150(℃)
を満たす、という構成を採っている。
【0007】
また、本発明は、板状の基材の表面に、厚み1.0mm〜5.0mmの熱可塑性樹脂成形体が積層された化粧板であって、
前記熱可塑性樹脂成形体は、表層と、この表層と前記基材との間に位置するベース層とを含み、
前記表層の溶融粘着温度(t1)、前記ベース層の溶融粘着温度(t2)とすると、
5≦(t1−t2)<150(℃)
を満たす、という構成も採用される。
【0008】
本発明において、前記ベース層は、ABS若しくはPPにより構成するとよい。
【0009】
また、前記表層は、O−PET、フッ素系樹脂及びPMMAを混合した樹脂、PEN及びA−PETを混合した樹脂、PENの何れかにより構成することが好ましい。
【0010】
また、前記熱可塑性樹脂成形体は、ベース層と基材とを熱圧成形させたり、ベース層に塗布したホットメルト接着剤を介して基材に積層される、という構成も好ましくは採用される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱可塑性樹脂成形体の厚みが前述した範囲に設定されるので、基材に積層したときに、接着剤の塗布ムラや基材の凹凸の影響を回避することができ、熱可塑性樹脂成形体表面の平滑性を良好に保つことが可能となる。また、表層とベース層とで前述のように溶融粘着温度が異なるので、表層に印刷を施すとともにベース層と基材とを熱圧成形させる場合、表層の印刷柄が伸びたり歪んだりすることを防止しつつ、ベース層だけを溶融して粘着させることができる。しかも、熱圧成形時に、表層のべたつきや艶消えも回避しながらベース層を溶融させ、熱可塑性樹脂成形体を基材の木口側に折り曲げて当該木口に粘着でき、木口側から水分等が侵入することを抑制することが可能となる。
また、ベース層をABS若しくはPPとすれば、加工性や耐衝撃性を優れたものとすることができる。
更に、表層の少なくとも露出面を形成する層を前述した樹脂とすることにより、耐溶剤性・耐薬性を改善することができる。また、基材の裏面側に比較的薄厚のシートを貼った場合であっても、吸水率の影響を緩和し、後述するように化粧板全体の反りを防止することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、「溶融粘着温度」とは、熱可塑性樹脂シート又はフィルムを加熱していき、当該熱可塑性樹脂シート又はフィルムに接触させた鏡面仕上げの金属ロール又は金属プレートに対して、粘着力(ベタ付き)を発生し始める温度とする。具体的には、各シート又はフィルムの溶融粘着温度は、以下の表1の示される温度となる。
【0013】
【表1】

【0014】
図1には、本実施形態に係る化粧板の層構造を表す断面図が示されている。この図において、化粧板10は、基材11と、この基材11の裏面(図中下面)に積層された裏面材12と、基材11の表面(図中上面)に積層された熱可塑性樹脂成形体13とを備えた基本構成となっている。
基材11としては、厚みが3.0〜20.0mmに設定されたMDF、パーチクルボード、合板等の木質系基材が例示できる。
裏面材12としては、厚みが100μm〜5.0mmに設定されたABS等の熱可塑性樹脂シート、フィルム及び板状体が例示できる。
【0015】
前記熱可塑性樹脂成形体13は、その外周領域が折り曲げられて基材11の木口面を被覆するように積層されている。熱可塑性樹脂成形体13は、表層15と、この表層15と前記基材11との間に位置するベース層16とからなり、この表層15及びベース層16を熱プレス、熱ロールプレス等の手法により熱融着させて形成されている。表層15は、図2に示されるように単層とする他、図3に示されるように複層として構成することができる。更に、図4に示されるように、表層15の同図中下面側にインキ18を印刷若しくはベタ印刷し、当該インキ18の面にプライマー層、或いは、接着層19を設けるとともに、表層15を透明としてもよい。
ここで、熱可塑性樹脂成形体13の厚みは、1mm〜5mmに設定されている。厚みが1mm未満であると、基材11の面の凹凸等により熱可塑性樹脂成形体13表面の平滑性が損なわれる場合がある一方、厚みが5mmを越えると、化粧板10が高重量化して実用的でない。
【0016】
前記表層15は、前述した溶融粘着温度(t1)がベース層16の溶融粘着温度(t2)に対し、
5≦(t1−t2)<150(℃)・・・(式A)
を満たす樹脂により構成されている。
ここで、(t1−t2)<5であると、後述する熱圧成形時に、表層15が変形若しくは変質して外観上の体裁が損なわれる場合がある。一方、150≦(t1−t2)であると、熱圧成形温度が高くなり過ぎることにより、ベース層16や基材11が劣化してしまうといった不都合がある。
具体的には、ベース層16は、ABS若しくはPPを主成分とするバージン熱可塑性樹脂、フィラー及び顔料含有熱可塑性樹脂、木粉含有熱可塑性樹脂等が例示できる。表層15は、単層の場合、O−PET、フッ素系樹脂及びPMMAを混合した樹脂、PEN及びA−PETを混合した樹脂、複層の場合、O−PET/PO(PP)、PEN/A−PET、フッ素系樹脂及びPMMAを混合した樹脂/フッ素系樹脂及びPMMAを混合した樹脂(二つの層で各樹脂の配合比を変える)であって、溶融粘着温度が前記(式A)を満たすものが例示できる。
【0017】
本発明の化粧板10の製造方法は、先ず、基材11の表裏各面を研削して平滑処理を行った後、基材11の裏面に裏面材12を接着若しくは熱圧成形することにより積層する。次いで、基材11の平面サイズより大きい熱可塑性樹脂成形体13を基材11の表面に載置する。そして、所定のプレス機を介して熱可塑性樹脂成形体13の表面を加熱しながら基材11に押圧する。このとき、加熱温度t3℃は以下の(式B)の範囲内となる温度に設定され、これにより、ベース層16が溶融して熱圧成形され、熱可塑性樹脂成形体13が基材11の表面に積層される。
t2<t3<t1(℃)・・・・(式B)
その後、熱可塑性樹脂成形体13を加熱した状態で、その外周領域を基材11の木口面側に折り曲げる。これにより、一枚の熱可塑性樹脂成形体13により基材11の木口面側も一体的に被覆される。
【0018】
なお、基材11と熱可塑性樹脂成形体13との積層は、例えば、図5に示されるように、熱可塑性樹脂成形体13のベース層16側にホットメルト接着剤20を予め塗布し、当該熱可塑性樹脂成形体13を前記加熱温度t3にて加熱しながら基材11に押圧することにより行ってもよい。このとき、基材11の外縁に対向するベース層16に断面視V字状の切り込みCを形成し、表層15だけの厚みとなる部分で熱可塑性樹脂成形体13を折り曲げることで、当該折り曲げをスムースに行える。
【0019】
以下、本発明に係る化粧板の実施例を比較例とともに説明する。
【0020】
[実施例1〜8、比較例1〜4]
実施例1〜8、比較例1〜4において、以下の表2及び表3に示される条件下にて、化粧板を形成した。ここで、各実施例及び各比較例の基材は、平面サイズ450mm×700mm、厚み18〜20mmに設定され、穴明け加工等が表面に施されていないものを用いた。なお、表3中の「木口処理」において、表面一体貼りとは、図1に示されるように、一体をなす熱可塑性樹脂成形体が基材の表面と木口面とに貼付される一方、アクリルテープエッジ貼りとは、基材の表面に貼付される熱可塑性樹脂成形体とは別体のアクリルテープを、基材の木口面に貼付したものである。
【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
以上のように得られた化粧板に対し、耐溶剤性、耐薬性、反り、表面性、ロングウェーブ値及び止水性を確認するための実験を行った。その結果を表4に示す。
ここで、耐溶剤性に関する実験として、化粧板の表面すなわち熱可塑性樹脂成形体側において、アセトン、ラッカーシンナー、エタノール、キシレン等を用いて総合的に評価した。耐薬性に関する実験としては、耐酸に関してHCl、耐アルカリに関してNaOHを用いて総合的に評価した。反りは、温度35℃、湿度95%の条件下、5日間放置する環境試験後に測定を行った。ロングウェーブ値は、BYK社の測定機器を用いて測定した。なお、0値に近い数値である程、平滑面を意味する。止水性は、熱可塑性樹脂成形体側が水面に接するようにして、化粧板を12時間浸漬させた。
【0024】
【表4】

【0025】
表1から明らかなように、本発明に係る実施例1〜8の化粧板の方が、耐溶剤性、耐薬品性、止水性で優れた結果を示した。また、裏面材と、熱可塑性樹脂成形体との厚みが異なる場合であっても、化粧板の反りを良好に抑制することができた。特に、実施例2〜6では、PO、フッ素系樹脂からなるPVDFの吸水率が小さい(PO、フッ素系樹脂の吸水率は、0.01未満)ので、この影響により反りを効果的に回避したものと推測される。更に、各実施例において、熱可塑性樹脂成形体の表面を平滑として表面性を良好に発揮することができた。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る化粧板の層構造を示す概略断面図。
【図2】前記化粧板を部分的に拡大した概略断面図。
【図3】変形例に係る図2と同様の断面図。
【図4】他の変形例に係る図2と同様の断面図。
【図5】(A)は、更に他の変形例に化粧板の基材に熱可塑性樹脂成形体を積層する直前状態の概略断面図、(B)は、(A)の熱可塑性樹脂成形体の積層後の断面図。
【符号の説明】
【0027】
10・・・化粧板、11・・・基材、13・・・熱可塑性樹脂成形体、15・・・表層、16・・・ベース層、20・・・ホットメルト接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層と、この表層に積層されたベース層とを含み、厚みが1.0mm〜5.0mmに設定された熱可塑性樹脂成形体であって、
前記表層の溶融粘着温度(t1)、前記ベース層の溶融粘着温度(t2)とすると、
5≦(t1−t2)<150(℃)
を満たすことを特徴とする熱可塑性樹脂成形体。
【請求項2】
板状の基材の表面に、厚み1.0mm〜5.0mmの熱可塑性樹脂成形体が積層された化粧板であって、
前記熱可塑性樹脂成形体は、表層と、この表層と前記基材との間に位置するベース層とを含み、
前記表層の溶融粘着温度(t1)、前記ベース層の溶融粘着温度(t2)とすると、
5≦(t1−t2)<150(℃)
を満たすことを特徴とする化粧板。
【請求項3】
前記ベース層は、ABS若しくはPPにより構成されていることを特徴とする請求項2記載の化粧板。
【請求項4】
前記表層は、O−PET、フッ素系樹脂及びPMMAを混合した樹脂、PEN及びA−PETを混合した樹脂、PENの何れかにより構成されていることを特徴とする請求項2又は3記載の化粧板。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂成形体は、ベース層と基材とを熱圧成形させることで当該基材に積層されていることを特徴とする請求項2,3又は4記載の化粧板。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂成形体は、ベース層に塗布したホットメルト接着剤を介して基材に積層されていることを特徴とする請求項2,3又は4記載の化粧板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−192620(P2006−192620A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4490(P2005−4490)
【出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(392008529)ヤマハリビングテック株式会社 (349)
【Fターム(参考)】