説明

熱可塑性樹脂混練用押出機および熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂の混練に関して、同方向回転2軸押出機から吐出して得られる熱可塑性樹脂組成物中の未反応モノマー等を低減することができる押出機と、その押出機を使用した熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】最上流の第一供給口2と、その下流側の第二供給口5を具備し、ベント口と溶融樹脂非充満部からなる脱揮ゾーンを2以上具備した同方向回転2軸押出機であって、第二供給部の上流側の脱揮ゾーンをL1、下流側の脱揮ゾーンをL2として、L1の長さがL/Dで3〜20、L2の長さがL/Dで3〜20(L=スクリュ長さ、D=スクリュ直径)であり、かつ、L1とL2の合計長さが8〜30である押出機を用いて熱可塑性樹脂組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同方向回転2軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂を溶融混練し、組成物を製造する場合において、熱可塑性樹脂に含まれる未反応モノマー、重合副反応物、重合溶媒などを効率的に除去することを可能とする押出機、および該押出機を用いる熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂には、未反応モノマー、重合時の副反応物や溶媒などが残存する。これら残存物は、押出工程を経て熱可塑性樹脂組成物となっても該組成物内に残留し、該組成物の射出成形、押出成形などに際して、ガスとなって揮発し臭気となったり、金型汚れなどの悪影響を及ぼすことが判っている。熱可塑性樹脂の重合工程において、これら残存物を除去する方法も検討されているが、熱可塑性樹脂組成物を製造する押出工程においても十分に脱揮することが好ましく、様々な検討がなされてきた。
【0003】
特許文献1には、ポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、PASと略称する)を溶融押出しするに際し、ガス体供給口とベント口を設けた2軸押出機を用い、該押出機にガス体を供給しながら溶融押出しし、同時に該樹脂中の水分及びオリゴマ成分をベント口より除去する技術が記載されている。さらに、ベント口は2個以上設けることが好ましく、その位置は、PASの溶融部であれば良いと記載されている。しかしながら、ガス体として空気、酸素などの活性ガスを用いた場合、熱可塑性樹脂が架橋反応を起こしてその組成物の流動性を低下させたり、酸化による色の変化、劣化による機械特性値の低下などを起こす。一方、窒素に代表される不活性ガスを用いた場合、押出機周囲の酸素濃度が低下し、作業者を危険に晒しかねないという不都合があった。
【0004】
特許文献2、3にはそれぞれ、加熱装置とベント口を有する押出機を用いてPASを溶融状態に保持すると同時に、該押出機に水または水蒸気、あるいは有機溶媒を注入することにより、PAS中に含まれるオリゴマ成分を分離させ、水蒸気あるいは有機溶媒と共にベント口から排出しつつ押出しする記述が記載されている。さらに、ベント口は少なくとも2個持つことが好ましく、その位置は、ダイヘッド部に2個でも良いし、ダイヘッド部と溶融部の他の適宜位置に設けることが出来ると記載されている。しかしながら、このような液体ないしその蒸気を供給すると、押出機内の溶融樹脂が液体ないしその蒸気によって冷やされ固化するなど、押出性を悪化させる懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−306170号公報
【特許文献2】特開平6−306171号公報
【特許文献3】特開平6−313040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
同方向回転2軸押出機を用いて、熱可塑性樹脂中に残存している未反応モノマー、副反応物、溶媒など(以下、残存物と略称する)を除去しつつ熱可塑性樹脂組成物を製造するに際して、ガス体や水、水蒸気、有機溶媒などを2軸押出機内へ供給することなく、残存物を減少させる方法を見出すことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、以下の構成からなる。
1.最上流の第一供給口と、その下流側の第二供給口を具備し、ベント口と溶融樹脂非充満部からなる脱揮ゾーンを2以上具備した同方向回転2軸押出機であって、第二供給部の上流側の脱揮ゾーンをL1、下流側の脱揮ゾーンをL2として、L1の長さがL/Dで3〜20、L2の長さがL/Dで3〜20(L=スクリュ長さ、D=スクリュ直径)であり、かつ、L1とL2の合計長さが8〜30である熱可塑性樹脂混練用押出機。
2.上記1に記載の熱可塑性樹脂混練用押出機の第一供給口から熱可塑性樹脂を供給し、第二供給口から無機充填材を供給することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
3.脱揮ゾーンL1およびL2のベント口を10kPa以下に減圧することを特徴とする上記2記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
4.熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂である上記2または3記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明による同方向回転2軸押出機を用いて製造した熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中に残存していた未反応モノマー、副反応物、溶媒などの残存物が除去され少なくなる。該熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形、押出成形などを行なった場合、成形中に発生するガスの量や、金型に付着するデポジット量が低減する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に用いられる押出機の1例であり、実施例1で用いた押出機の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、最上流の第一供給口と、その下流側の第二供給口を具備し、ベント口と溶融樹脂非充満部からなる脱揮ゾーンを2以上具備した同方向回転2軸押出機であって、第二供給部の上流側の脱揮ゾーンをL1、下流側の脱揮ゾーンをL2として、L1の長さがL/Dで3〜20、L2の長さがL/Dで3〜20(L=スクリュ長さ、D=スクリュ直径)であり、かつ、L1とL2の合計長さが8〜30であることを特徴とする。
【0011】
脱揮ゾーンは、ベント口と溶融樹脂非充満部から構成される。溶融樹脂非充満部は、スクリュウエレメントの溝部が溶融樹脂で充満されておらず、上流側、下流側双方の端部が溶融樹脂で充満している部位を差す。脱揮ゾーンには、溶融樹脂非充満部に1つ以上のベント口が設けられており、ベント口にはさらに、溶融樹脂非充満部内の気体を系外へ出すための装置、例えば真空ポンプが接続されている。
【0012】
溶融樹脂非充満部のスクリュウエレメントは、複数のフルフライトスクリュウエレメントで構成されることが一般的であるが、溶融樹脂が充満しなければ、フライト部に切り欠きのあるエレメントや、ニーディングディスクなどを用いても良い。また、ピッチの異なるフルフライトスクリュウエレメントを組合わせたり、フルフライトスクリュウエレメントと他のエレメントを併用することは、溶融樹脂非充満部内で溶融樹脂の表面が更新されやすくなるので好ましい。
【0013】
脱揮ゾーンL1は押出機第二供給部の上流側、L2は下流側に位置することが重要である。第二供給部の上流側、下流側のいずれか一方に脱揮ゾーンを集中させた場合、残存物の除去が不十分となる。
【0014】
脱揮ゾーンL1、L2はいずれも、その長さがL/D(L=スクリュ長さ、D=スクリュ径)で3〜20であることが重要である。3未満の場合、脱揮が不十分となり残存物の除去が不十分となる。一方、20を越えた場合、熱可塑性樹脂組成物の溶融滞留時間が長くなりすぎるため、着色や熱分解反応が進み、熱分解物が発生したり、機械特性等の品質変化が許容できなくなる。好ましくは5〜18であり、より好ましくは7〜16である。
【0015】
脱揮ゾーンL1とL2の合計長さは、L/Dで8〜30であることが重要である。8未満の場合、脱揮が不十分となり残存物の除去が不十分となる。一方、30を越えた場合、熱可塑性樹脂組成物の溶融滞留時間が長くなりすぎるため、着色や熱分解反応が進み、熱分解物が発生したり、機械特性等の品質変化が許容できなくなる。好ましくは10〜29であり、より好ましくは15〜28である。
【0016】
脱揮ゾーンL1、L2はそれぞれ、複数の脱揮ゾーンから構成されていても良い。
【0017】
脱揮ゾーンL1、L2の圧力は、10kPa以下であることがより好ましい。より好ましくは5kPa以下、更に好ましくは3kPa以下である。
【0018】
上記の様な熱可塑性樹脂組成物の溶融混練製造方法に際しては、押出機のバレル温度は、供給する熱可塑性樹脂の融点温度以上380℃以下、またはガラス転移温度以上380℃以下に設定して行なうことが好ましい。バレル温度が低すぎると原料中の脱揮効率が低下し、逆に高すぎると樹脂の熱分解などの悪影響が発生することがある。
【0019】
脱揮ゾーンL1より上流側に大気開放ベントを設置しても良い。
【0020】
第一供給口より供給される熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート等)、ポリオキシメチレン(ポリアセタール等)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリスチレン、液晶ポリエステル等を挙げることができる。中でも、ポリフェニレンスルフィド樹脂において、特に効果が高い。
【0021】
第二供給口より供給される原料は有機物、無機物いずれでも良いが、無機充填材を供給する場合に特に効果が高くなる。無機充填材の種類は特に限定されないが、珪酸鉱物、珪酸塩鉱物や種々の鉱物類を粉砕などの加工により微粉化した板状、針状、粒状、及び繊維状のものが好ましく用いられる。具体例としては、ベントナイト、ドロマイト、モンモリロナイト、バーライト、微粉ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、ドーソナイト、シラスバルーン、クレー、セリサイト、長石粉、タルク、炭酸カルシウム、炭酸リチウム、カオリン、ゼオライト(合成ゼオライトも含む)、滑石、マイカ、合成マイカおよびワラステナイト(合成ワラステナイトも含む)、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ハイドロタルサイトおよびシリカなどの粉体フィラーやガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、スラグ繊維、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、窒化硅素繊維及びホウ素繊維などの無機強化繊維等が挙げられる。
【0022】
更に、第一供給口、第二供給口のいずれからも、付加的成分を加えることができる。例えば、エラストマー、難燃剤、酸化防止剤、耐候性改良剤、離型剤、帯電防止剤、核剤、着色剤等を添加することができる。
【実施例】
【0023】
次に実施例及び比較例によって、本発明の効果を具体的に説明する。高沸点成分量の測定は、以下の通り実施した。
【0024】
ペレットを真空下に置き、320℃の温度条件下、2時間加熱して発生した揮発成分を捕集したのち、該捕集物中の高沸点成分量を求めた。なお、ここで言う高沸点成分量とは、トリフェニルホスフィンを基準溶媒として捕集物のガスクロマトグラフィー分析を行ない、保持時間18分以上の検出ピーク面積の総計の比である。
【0025】
(実施例1)
(株)日本製鋼所製二軸押出機TEX44αII(バレル数16(L/D=56))の、第一供給口、第一脱揮ゾーン、第二供給口、第二脱揮ゾーンの配置関係を図1に示すように整え、実験に用いた。東レ(株)製ポリフェニレンスルフィド樹脂L4230 60重量%を第一供給口、日本電気硝子(株)製ガラス繊維T717 40重量%(ただし、ポリフェニレンスルフィドとガラス繊維の合計を100重量%とする)を第二供給口から供給した。シリンダ設定温度300℃、吐出量200kg/h、スクリュウ回転数450rpmの条件下で混練した。吐出したストランドをペレタイズしてペレット状樹脂組成物を作製し、高沸点成分量を測定した。
【0026】
(実施例2〜5、比較例1〜4)
第一脱揮ゾーン、第二脱揮ゾーンの長さが表1に示される長さになるよう押出機のバレル構成、スクリュウを組替え、実施例1と同じ組成、押出条件でペレット状樹脂組成物を得、高沸点成分量を測定した。
【0027】
表1より、比較例に比べ実施例は、本発明の第一脱揮ゾーン長さ、第二脱揮ゾーン長さ、真空度を用いることにより、より効率的に高沸成分を除去できていることがわかる。
【0028】
【表1】

【符号の説明】
【0029】
1.2軸押出機シリンダ
2.第一供給口
3.スクリュ
4.第一ベント口
5.第二供給口
6.第二ベント口
7.第一混練ゾーン
8.第一脱揮ゾーン(L1)
9.シールリング
10.第二混練ゾーン
11.第二脱揮ゾーン(L2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最上流の第一供給口と、その下流側の第二供給口を具備し、ベント口と溶融樹脂非充満部からなる脱揮ゾーンを2以上具備した同方向回転2軸押出機であって、第二供給部の上流側の脱揮ゾーンをL1、下流側の脱揮ゾーンをL2として、L1の長さがL/Dで3〜20、L2の長さがL/Dで3〜20(L=スクリュ長さ、D=スクリュ直径)であり、かつ、L1とL2の合計長さが8〜30である熱可塑性樹脂混練用押出機。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂混練用押出機の第一供給口から熱可塑性樹脂を供給し、第二供給口から無機充填材を供給することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
脱揮ゾーンL1およびL2のベント口を10kPa以下に減圧することを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂がポリフェニレンスルフィド樹脂である請求項2または3記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−228408(P2010−228408A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80996(P2009−80996)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】