説明

熱可塑性樹脂組成物、成形体、及び2色成形体

【課題】生産性及びレーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さく、摩擦音が生じ難い成形品を形成することができる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂、この熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部のシリコーンオイル含有無機化合物、及び、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.0001〜5質量部のレーザー光吸収剤を含有し、シリコーンオイル含有無機化合物は、無機粉体とシリコーンオイルを含有するものであり、シリコーンオイルの含有率は、シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して、20〜80質量%であるレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、成形体、及び2色成形体に関する。更に詳しくは、生産性及びレーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さく、摩擦音が生じ難い成形体(成形品)を形成可能な熱可塑性樹脂組成物、成形体、及び2色成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パソコンのキーボード、ファクシミリなどのOA機器パネルなどに、文字、記号、図柄等を印字する方法としては、インクを用いたマーキング方法が知られている。しかし、この方法は、マーキングが困難な部分(例えば、曲面など)にマーキングするのは難しく、印刷後に乾燥する時間が必要であった。
【0003】
そこで、最近では、レーザー光線照射によって成形体の表面にマーキングする方法、即ち、特定の熱可塑性樹脂組成物によって形成した成形品にレーザー光線を照射し、成形品表面の一部分を蒸発または熱分解により消失させ、成形品の表面に文字、記号及び色図柄等を発現させる方法が報告されている。この方法は、曲面などのマーキングが困難な部分にマーキングする場合であっても良好に印字することができ、また、インクを用いた印刷に比べて、インクを乾燥させる時間が不要であるという利点がある。
【0004】
このような利点を有するため、このマーキング方法は、例えば、医療用部品やパソコンのキーボードなどの成形品に多数使用されている。そして、上記熱可塑性樹脂組成物としては、例えば、熱可塑性樹脂にカーボンブラックや低次酸化チタンなどの添加剤(レーザー光吸収剤)を混練して得られるものが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2007−238653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の熱可塑性樹脂組成物は、透明な成形体の表面に、黒文字、黒色記号、黒色図柄等をコントラスト良好にマーキングすることが可能であり、しかもその成形体は透明性に優れるものであるが、成形品がその他の部材と接触すると、摩擦音が生じる場合があった。例えば、上記熱可塑性樹脂組成物によってゲーム機などに使用するボタンを形成した場合、このボタンとボタンを支持するための支持枠などが接触し、摩擦音を生じることがあった。
【0007】
そのため、摩擦抵抗が小さく(即ち、摺動性が向上され)、摩擦音が生じ難い成形品を形成可能であることに加えて、生産性及びレーザー発色性を維持した熱可塑性樹脂組成物の開発が切望されていた。
【0008】
本発明は、上述のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、生産性及びレーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さく、摩擦音が生じ難い成形品を形成可能な熱可塑性樹脂組成物、成形体、及び2色成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、以下の熱可塑性樹脂組成物、成形体、及び2色成形体が提供される。
【0010】
[1] 熱可塑性樹脂、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部のシリコーンオイル含有無機化合物、及び、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.0001〜5質量部のレーザー光吸収剤を含有し、前記シリコーンオイル含有無機化合物は、無機粉体とシリコーンオイルを含有するものであり、前記シリコーンオイルの含有率は、前記シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して、20〜80質量%であるレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【0011】
[2] 前記無機粉体は、粉体状のシリカであり、前記シリコーンオイルは、25℃における表面張力が0.015〜0.035N/mであり、25℃における動粘度が1000〜20万mm/秒であるメチルアルキルシリコーンオイルである前記[1]に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
[3] 前記レーザー光吸収剤が、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、硫化物、及び、窒化物からなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]または[2]に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[4] 前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部の着色剤を更に含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[5] 前記熱可塑性樹脂は、オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、及び、エステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物を射出成形または押出成形することにより得られる成形体。
【0016】
[7] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物によって形成された支持体と、前記支持体を被覆する透明の熱可塑性樹脂からなる被覆体と、を有する2色成形体。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、生産性及びレーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さく、摩擦音が生じ難い成形品を形成することができるという効果を奏するものである。
【0018】
本発明の成形体は、レーザー発色性を維持し、摩擦音が生じ難いという効果を奏するものである。
【0019】
本発明の2色成形体は、レーザー発色性を維持し、摩擦音が生じ難いという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に属することが理解されるべきである。
【0021】
[1]熱可塑性樹脂組成物:
本発明のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物(以下、単に「本発明の熱可塑性樹脂組成物」と記す場合がある)の一実施形態は、熱可塑性樹脂、この熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部のシリコーンオイル含有無機化合物、及び、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.0001〜5質量部のレーザー光吸収剤を含有するものである。そして、シリコーンオイル含有無機化合物は、無機粉体とシリコーンオイルを含有するものであり、シリコーンオイルの含有率は、シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して、20〜80質量%である。更に、レーザーマーキングされる成形品の材料として用いられるものである。このような熱可塑性樹脂組成物は、生産性及びレーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さく、摩擦音が生じ難い成形品を形成することができる。
【0022】
[1−1]熱可塑性樹脂:
熱可塑性樹脂としては、従来公知の熱可塑性樹脂を適宜選択して用いることができる。具体的には、オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、及び、エステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、及び、スチレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。これらの樹脂を用いることによって、レーザー発色性が良好になるという利点がある。
【0023】
オレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等を挙げることができる。ポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6T、ポリアミド9Tなどを挙げることができる。熱可塑性ウレタン樹脂としては、例えば、ポリエーテル系ウレタン樹脂、ポリエステル系ウレタン樹脂などを挙げることができる。アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ゴム強化アクリル樹脂などを挙げることができる。スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリルスチレン共重合体などを挙げることができる。エステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(具体的には、A−PET、PETG)、ポリブチレンテレフタレート共重合ポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアリレート(PAR)などを挙げることができる。
【0024】
なお、白色発色にはアクリル樹脂を用いることが好ましく、黒色発色にはポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
[1−2]シリコーンオイル含有無機化合物:
シリコーンオイル含有無機化合物は、無機粉体とシリコーンオイルを含有するものであり、シリコーンオイルの含有量は、シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して20〜80質量%である。このようなシリコーンオイル含有無機化合物を含有することによって、生産性を低下させずに摩擦抵抗を減少させることができるという利点がある。
【0026】
ここで、ペレット、ビーズ、フレーク状などの熱可塑性樹脂にシリコーンオイルを加えると、シリコーンオイルは、熱可塑性樹脂に吸収され難いため、シリコーンオイルが余ることになる。そして、この余ったシリコーンオイルが、押し出しの際にスクリューとバレル間に入り込むため、スクリューは回転しているが熱可塑性樹脂は滑って空回りするようになる。そのため、スクリューによる熱可塑性樹脂のフィード量が低下してしまうという問題があった。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、シリコーンオイル含有無機化合物を用いるため、即ち、シリコーンオイル含有無機化合物中にシリコーンオイルを含有させたものを用いているため、上記のようにシリコーンオイルが余ってしまうという問題が生じ難く、フィード量が低下してしまうことを防止することができる。そのため、生産性が低下しなくなるという利点がある。
【0027】
シリコーンオイル含有無機化合物は、例えば、無機粉体を担持体として、この無機粉体に所定量のシリコーンオイルを含浸させて得ることができる。無機粉体は、粉体状の無機物である限り特に制限はないが、例えば、シリカなどを挙げることができる。
【0028】
無機粉体の含有率は、シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して、20〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることが更に好ましく、30〜60質量%であることが特に好ましい。上記含有率が20質量%未満であると、無機粉体がシリコーンオイルを含浸することが困難になるため、生産性が低下するおそれがある。一方、80質量%超であると、シリコーンオイルを加えることによる効果が十分に得られ難くなるとともに、無機粉体の割合が多くなることに起因して、熱可塑性樹脂の性質が損なわれる(即ち、熱可塑性樹脂を含有することによって得られる利点が得られなくなる)おそれがある。
【0029】
シリコーンオイルとしては、例えば、メチルアルキルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、メタクリレート変性シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどを挙げることができる。これらの中でも、メチルアルキルシリコーンオイルが好ましい。
【0030】
シリコーンオイルは、25℃における表面張力が、0.015〜0.035N/mであることが好ましく、0.018〜0.032N/mであることが更に好ましく、0.020〜0.030N/mであることが特に好ましい。上記表面張力が0.015N/m未満であると、熱可塑性樹脂に対する相溶性が低くなるおそれがある。一方、0.035N/m超であると、粘性が高くなり熱可塑性樹脂に分散し難くなるおそれがある。ここで、本明細書において「表面張力」は、例えば、LAUDA社製の「MPT C」などの表面張力測定装置を用いて測定される値である。
【0031】
また、シリコーンオイルは、25℃における動粘度が、1000〜20万mm/秒であることが好ましく、3000〜18万mm/秒であることが更に好ましく、5000〜15万mm/秒であることが特に好ましい。上記動粘度が1000mm/秒未満であると、熱可塑性樹脂に対する相溶性が低くなるおそれがある。一方、20万mm/秒超であると、粘性が高くなり熱可塑性樹脂に分散し難くなるおそれがある。ここで、本明細書において「動粘度」は、例えば、LAUDA社製の「PVS1」などの動粘度測定装置を用いて測定される値である。
【0032】
シリコーンオイルの含有率は、シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して、20〜80質量%であり、30〜80質量%であることが好ましく、40〜70質量%であることが更に好ましい。上記含有率が20質量%未満であると、摩擦抵抗を減少させる効果が少なくなる。また、無機粉体の割合が多くなるため熱可塑性樹脂の機能が十分に発揮されなくなる(即ち、熱可塑性樹脂を含有することによって得られる利点が得られなくなる)。一方、80質量%超であると、無機粉体がシリコーンオイルを含浸することが困難になるため、生産性が低下することになる。
【0033】
シリコーンオイル含有無機化合物には、無機粉体及びシリコーンオイル以外に、その他の成分を含有することもできる。その他の成分としては、例えば、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、安定剤、難燃剤、無機フィラー、有機フィラーなどを挙げることができる。
【0034】
シリコーンオイル含有無機化合物の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、0.3〜4質量部であることが好ましく、0.5〜3質量部であることが更に好ましい。上記含有量が0.1質量部未満であると、シリコーンオイルの量が少なすぎるため、摩擦抵抗を減少させる効果が十分に得られなくなる。一方、5質量部超であると、シリコーンオイルがベース色に及ぼす影響が大きくなり、ベース色とレーザー発色部のコントラストが減少し、レーザー発色性が悪くなる。
【0035】
なお、従来、成形品の摩擦抵抗を低減する方法として、熱可塑性樹脂にシリコーンオイルを練り込むことが行われているが、この方法は、練り込むシリコーンオイルの量が多く(例えば、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜3質量部)、成形品の生産性が十分ではなく、レーザー発光性も十分ではない。また、仮に、粉体状の熱可塑性樹脂にシリコーンオイルを練り込んだとしても、成形品の生産性は十分ではなく、レーザー発光性も十分ではない。
【0036】
[1−3]レーザー光吸収剤:
レーザー光吸収剤は、レーザー光を吸収して光を熱エネルギーに変換し、発生した熱により樹脂表面を炭化させて印字するための化合物である。レーザー光吸収剤としては、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、硫化物、及び、窒化物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの化合物であると、良好なレーザー発色性を得ることができるという利点がある。カーボンブラックとしては、例えば、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラックなどを挙げることができる。金属酸化物としては、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)、ATO(アンチモンドープ酸化スズ)、CuO、Fe、SnOなどを挙げることができる。これらの中でも、特にITOが好ましい。硫化物としては、例えば、硫化亜鉛、硫化鉄、二硫化炭素などを挙げることができる。窒化物としては、例えば、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化鉄などを挙げることができる。
【0037】
また、レーザー光吸収剤としては、チタンブラックに金属含有化合物を組み合わせたものなどを用いることができる。このように金属含有化合物を更に配合することによって優れた黒色発色を得ることができる。金属含有化合物に含有される金属としては、例えば、ビスマス、ニッケル、亜鉛、カルシウム、銅、チタン、ケイ素、コバルト、鉄などを挙げることができる。
【0038】
金属含有化合物としては、上記金属の酸化物、炭酸塩、水酸化物、有機カルボン酸塩などを挙げることができる。具体的には、酸化ビスマス、ギ酸ニッケル、ホウ酸亜鉛、ホウ酸カルシウム、リン酸系亜鉛、ケイ酸カルシウム、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、塩基性酢酸ビスマス、水酸化ニッケル、ショウ酸銅、塩基性炭酸銅、炭酸カルシウム、チオシアン酸銅、クエン酸銅、シュウ酸鉄、酸化チタンなどを挙げることができる。なお、これらの金属含有化合物は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
レーザー光吸収剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.0001〜5質量部であり、0.0005〜4質量部であることが好ましく、0.001〜3質量部であることが更に好ましい。上記含有量が0.0001質量部未満であると、レーザー照射による熱の発生が少ないため、発色性が劣る。一方、5質量部超であると、レーザー照射により熱を発生し過ぎるため、発色部分が焦げた状態となり発色性が劣る。
【0040】
レーザー光吸収剤は、その数平均粒子径が、1〜120nmであることが好ましく、3〜100nmであることが更に好ましく、5〜80nmであることが特に好ましい。上記数平均粒子径が1nm未満であると、レーザー照射による熱の発生が少ないため発色性が劣るおそれがある。一方、120nm超であると、レーザー照射により熱を発生し過ぎて発色が悪くなるとともに、ベース色への影響も大きくなるおそれがある。ここで、本明細書において「数平均粒子径」とは、動的光散乱法を利用して測定した数平均粒子径のことである。数平均粒子径は、例えば、島津製作所社製の商品名「SUPERSCAN SS−550」を用いて測定することができる。
【0041】
[1−4]着色剤:
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部の着色剤を更に含有するものであることが好ましい。なお、この着色剤は、上記レーザー光吸収剤以外のものである。
【0042】
着色剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料、染料などを挙げることができる。無機顔料としては、例えば、白色顔料、黄色顔料、赤色顔料、青色顔料などを挙げることができる。白色顔料としては、例えば、酸化チタン、硫酸バリウム、硫化亜鉛、酸化亜鉛などを挙げることができる。黄色顔料としては、例えば、酸化鉄、チタンイエローなどを挙げることができる。赤色顔料としては、例えば、酸化鉄などを挙げることができる。青色顔料としては、例えば、コバルトブルー、群青などを挙げることができる。また、有機顔料としては、例えば、モノアゾ、縮合アゾ、ジスアゾ、複素環、キナクリドン、ペリレン、フタロシアニンなどを挙げることができる。染料としては、例えば、モノアゾ、アンスラキノン、ジスアゾ、複素環、ペリノン、チオインヂゴなどを挙げることができる。
【0043】
着色剤の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、上述したように0.001〜10質量部であることが好ましく、0.01〜5質量部であることが更に好ましく、0.1〜3質量部であることが特に好ましい。上記含有量が0.001質量部未満であると、添加量が少ないため着色力が弱くなるおそれがある。一方、10質量部超であると、熱可塑性樹脂の機能が十分に発揮されなくなる(即ち、熱可塑性樹脂を含有することによって得られる利点が得られなくなる)おそれがある。
【0044】
更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、強化剤などの添加剤を添加することができる。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、それぞれ所定量の、熱可塑性樹脂、シリコーンオイル含有無機化合物、レーザー光吸収剤、及び着色剤を、従来公知の条件にて混合して得ることができる。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、レーザーマーキング用のものである。即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物を原料にして形成した成形品は、レーザー光線が照射されると、照射部位がマーキング(印字)されるものである。
【0047】
従来、ゲーム機のボタン、医療用部品、パソコンのキーボードなどに印字されている文字、記号、図柄等は、インクを用いた印刷によって印字されていたが、インクを用いた印刷であると、曲面などの部分にマーキングすることは困難であった。また、時間の経過とともに、インクが剥げ落ちることがあった。
【0048】
そこで、近年、レーザー照射によるマーキング(レーザーマーキング)が行われている。このレーザーマーキングは、成形品(熱可塑性樹脂組成物)中に含有させた、レーザー光を吸収する性質を有するレーザー光吸収剤(例えば、カーボンブラックなど)が、レーザー光によって発熱し、この熱によって成形品の所望の部分を発色させるものである。このようなレーザーマーキングによると、曲面などの部分であっても容易に印字することができ、また、印字部分が剥げ落ちることがないという利点がある。
【0049】
レーザー光のレーザー媒質としては、例えば、ネオジウム変性イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、イットリウム−四酸化バナジウム(YVO)、He−Neレーザー、Arレーザー、COレーザー、エキシマレーザー、半導体レーザー、色素レーザーなどを挙げることができる。なお、レーザー光のビーム径は、使用用途によって適宜選択することができる。
【0050】
[2]成形体:
本発明の成形体は、本発明のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物を射出成形または押出成形することにより得られるものである。このような成形体は、レーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さい、即ち、摩擦音が生じ難いものである。
【0051】
射出成形の条件は、従来公知の条件を適宜採用することができるが、例えば、上記組成物温度が、160〜320℃(好ましくは、180〜300℃)の条件で行うことができる。
【0052】
押出成形の条件は、従来公知の条件を適宜採用することができるが、例えば、上記組成物温度が、160〜340℃(好ましくは、180〜320℃)の条件で行うことができる。
【0053】
[3]2色成形体:
本発明の2色成形体は、本発明のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物によって形成された支持体と、この支持体を被覆する透明の熱可塑性樹脂からなる被覆体と、を有するものである。このような2色成形体は、レーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さい、即ち、摩擦音が生じ難いものである。例えば、ゲーム機のボタン、医療用部品、パソコンのキーボードなどを、本発明の2色成形体によって構成すると、被覆体が保護層となりレーザー印字部が消え難いという利点がある。
【0054】
図1は、レーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物によって形成された支持体11と、この支持体11を被覆する透明の熱可塑性樹脂からなる被覆体12と、を有する2色成形体10を示す例である。図2は、ゲーム機100のボタン部分を示す模式的に示す断面図であり、2色成形体10は、固定枠20に嵌め込まれ、ボタンとして機能する。
【0055】
支持体の厚さは、0.5〜5mmであることが好ましく、0.7〜4mmであることが更に好ましい。
【0056】
透明の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメタクリルスチレン樹脂(MS樹脂)、AS樹脂、メチルメタアクリレート樹脂(PMMA樹脂)、軟質メチルメタアクリレート樹脂(軟質PMMA樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリシクロヘキサン1,4−ジメチルフタレート樹脂、ポリスチレン樹脂、透明ABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、表面硬度特性が向上するという観点から、メチルメタアクリレート樹脂、軟質メチルメタアクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましく、メチルメタアクリレート樹脂、軟質メチルメタアクリレート樹脂が更に好ましい。なお、被覆体の厚さは、0.5〜5mmであることが好ましく、0.7〜4mmであることが更に好ましい。
【0057】
被覆体と支持体の厚み構成比(被覆体/支持体)は、1/9〜9/1であることが好ましく、3/7〜7/3であることが更に好ましい。この厚みの構成比であると、更にコントラストを出す必要がある場合、即ち、レーザーマーキングを複数回行う場合であっても、被覆体にクラックや破損が生じ難いという利点がある。
【0058】
なお、2色成形体には、必要に応じて、その特性を損なわない範囲で、他の添加剤、例えば離型剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、強化剤などを含有させることができる。
【0059】
2色成形体の全体の厚みは、1.0〜10mmであることが好ましく、1.5〜8mmであることが更に好ましい。上記厚みが1.0mm未満であると、被覆体が薄くなり過ぎてクラックが入りやすくなるおそれがある。一方、10mm超であると、被覆体が厚くなり過ぎるためレーザー発色性が劣るおそれがある。
【0060】
2色成形体は、支持体と被覆体を、射出成形にて共成形することにより形成することができる。射出成形による共成形方法としては、例えば、コアバック法、ダイスライド法、ロータリー法などのような2色(2種類)の樹脂をそれぞれ別々の射出シリンダーから金型内部に順次、射出充填して異種材料あるいは異色材料の成形品を作る成形法が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「表面張力」及び「動粘度」は、以下に示す方法によって測定した。
【0062】
表面張力:
LAUDA社製の「MPT C」を用いて、25℃における表面張力の測定を行った。
【0063】
動粘度:
LAUDA社製の「PVS1」を用いて、25℃における動粘度の測定を行った。
【0064】
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてアクリル樹脂100部に対して、レーザー光吸収剤としてカーボンブラック(キャボット社製、商品グレード「モナーク♯1000」)0.1部、着色剤として群青(第一化成社製、商品グレード「D−981」)1.0部、シリコーンオイル含有無機化合物として東レ・ダウコーニング社製の商品名「トレフィルF202」(シリカ/ジメチルシリコーンオイル=40/60質量%、ジメチルシリコーンオイルの25℃における表面張力:0.021N/m、ジメチルシリコーンオイルの25℃における動粘度:60000mm/秒、表1中、「S−1」と記す)1.0部を混練し、230℃で押出成形して樹脂組成物ペレット(熱可塑性樹脂組成物)を得た。なお、アクリル樹脂は、三菱レイヨン社製の、商品名「VRL40」を52部、商品名「VH」を33部、商品名「MF」を15部混合して得られたものを用いた。
【0065】
押出成形性:
得られた樹脂組成物ペレットについて、日本プラコン社製の押出機(商品名「DMG40mm」)を使用して、スクリュー回転数100rpmの条件にて吐出量(kg/時間)の測定を行い、押出成形性の評価を行った。評価基準を以下に示す。
◎:吐出量20kg/時間以上
○:吐出量15kg/時間以上、20kg/時間未満
△:吐出量10kg/時間以上、15kg/時間未満
×:吐出量10kg/時間未満
【0066】
次に、得られたペレットを90℃で3時間、予備乾燥した後、日精樹脂工業社製の商品名「NEX−30」にて230℃の条件で射出成形を行い、外径23mm、内径20mm、厚み20mmの摺動性測定用リングを成形した。
【0067】
摺動性:
成形した摺動性測定用リングについて、オリエンテック社製の摺動試験機(商品名「EFM−III」)を使用して、周速度100mm/秒、荷重0.5kgの条件で5分間測定を行い、動摩擦係数を算出した。この動摩擦係数によって摺動性の評価を行った。評価基準を以下に示す。
◎:動摩擦係数0.1未満
○:動摩擦係数0.1以上、0.2未満
△:動摩擦係数0.2以上、0.3未満
×:動摩擦係数0.3以上
【0068】
レーザー発色性:
樹脂組成物ペレットを用い、日精樹脂工業社製の射出成形機(商品名「NEX−30」)にて平板プレート(5cm×10cm×0.3cm)を作成した。次に、Nd・YAGレーザー(ロフィンバーゼル社製、商品名「RSM30D」)を使用して、レーザー照射速度400mm/秒の条件で上記平板プレートにレーザー照射を行い、所定の文字を発色させた。その後、この平板プレートについて発色した部分と生地部分とのコントラストの良否を目視にて観察し、以下の基準で判定した。
◎:発色視認性が極めて良好である
○:発色視認性が良好である
△:発色視認性がある
×:発色視認性に劣る
【0069】
本実施例で得られた樹脂組成物ペレットは、押出成形性が「◎」であり、摺動性が「○」であり、レーザー発色性が「◎」であった。
【0070】
(実施例2,3)
表1に示す配合量としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットについて、上述した、押出成形性、摺動性、及びレーザー発色性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
(比較例1)
シリコーンオイル含有無機化合物を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット(熱可塑性樹脂組成物)を得た。得られた樹脂組成物ペレットについて、上述した、押出成形性、摺動性、及びレーザー発色性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
実施例1のシリコーンオイル含有無機化合物(東レ・ダウコーニング社製の商品名「トレフィルF202」)に代えて、シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製の商品名「SH200−100000CS」(ジメチルシリコーンオイル、25℃における表面張力:0.021N/m、25℃における動粘度:100000mm/秒、表1中、「S−2」と記す))を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物ペレット(熱可塑性樹脂組成物)を得た。得られた樹脂組成物ペレットについて、上述した、押出成形性、摺動性、及びレーザー発色性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
表1に示す配合量としたこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得た。得られた樹脂組成物ペレットについて、上述した、押出成形性、摺動性、及びレーザー発色性の各評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0075】
表1から明らかなように、実施例1〜3の熱可塑性樹脂組成物は、比較例1〜3の熱可塑性樹脂組成物に比べて、生産性及びレーザー発色性を維持し、摩擦抵抗が小さく、摩擦音が生じ難い成形品を形成することができることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、レーザー光線照射によって、文字、記号、図柄等が印字される成形品(例えば、ゲーム機のボタン、医療用部品、パソコンのキーボードなど)を形成するための材料として好適である。本発明の成形体及び2色成形体は、例えば、ゲーム機のボタン、医療用部品、パソコンのキーボードなどとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の2色成形体の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の2色成形体を嵌め込んだゲーム機の一部を示す断面図である。
【符号の説明】
【0078】
10:2色成形体、11:支持体、12:被覆体、20:固定枠、100:ゲーム機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂、
前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜5質量部のシリコーンオイル含有無機化合物、及び、
前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.0001〜5質量部のレーザー光吸収剤を含有し、
前記シリコーンオイル含有無機化合物は、無機粉体とシリコーンオイルを含有するものであり、前記シリコーンオイルの含有率は、前記シリコーンオイル含有無機化合物の全量に対して、20〜80質量%であるレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機粉体は、粉体状のシリカであり、前記シリコーンオイルは、25℃における表面張力が0.015〜0.035N/mであり、25℃における動粘度が1000〜20万mm/秒であるメチルアルキルシリコーンオイルである請求項1記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記レーザー光吸収剤が、カーボンブラック、チタンブラック、金属酸化物、硫化物、及び、窒化物からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.001〜10質量部の着色剤を更に含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、オレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、及び、エステル系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物を射出成形または押出成形することにより得られる成形体。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のレーザーマーキング用の熱可塑性樹脂組成物によって形成された支持体と、前記支持体を被覆する透明の熱可塑性樹脂からなる被覆体と、を有する2色成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−138285(P2010−138285A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315934(P2008−315934)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】