説明

熱可塑性樹脂組成物およびこれを用いた成形品

本発明の要旨は、ポリ乳酸系重合体(A)と、 メチルメタクリレート単量体単位を含有するアクリル系重合体(B)と、 ゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体(C)とを含有しており、 グラフト共重合体(C)の屈折率Rcと、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabが以下の関係式(1)を満足する熱可塑性樹脂組成物にある。 −0.004≦Rc−Rab≦+0.008 ・・・(式1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリ乳酸系重合体を含み、高い透明性、耐熱性および耐衝撃性を有する熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル等からなるプラスチック製品の使用量は、現在、膨大な量となっており、これらの廃棄物処理が環境問題の一つとしてクローズアップされてきている。すなわち、現状の廃棄物処理は、焼却処分や埋設処理であるが、例えば、ポリエチレン等を焼却処分すると、その燃焼カロリーが高いため、焼却炉を傷め寿命を縮める原因となる。また、ポリ塩化ビニル等を焼却処分すると、有害ガスが発生する。
一方、プラスチック製品を埋設処理するには土地も限られている。また、自然環境中に廃棄された場合、これらプラスチックは、化学的安定性が極めて高いため、微生物などによる分解がほとんど起こらず、ほぼ半永久的に残存することになる。そのため、景観を損なう原因や、海洋生物の生活環境を汚染するなどの問題を引き起こしている。
【0003】
この様な状況もあり、最近では生分解性または自然環境下で分解するプラスチックが注目されてきている。生分解性プラスチックは、土壌中や水中で、加水分解や生分解により、徐々に崩壊・分解が進行し、最終的に微生物の作用により無害な分解物となることが知られている。現在、実用化が検討されている生分解性プラスチックは、天然素材系のバイオセルロースや澱粉主体のプラスチック、脂肪族ポリエステル、変性PVA(ポリビニルアルコール)、セルロースエステル化合物、デンプン変性体、およびこれらのブレンド体に大別される。これら生分解性プラスチックの内、加工性、コスト、機械特性、耐水性等の点で比較的バランスがとれていて、様々な用途に使いやすいものとしては、脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0004】
脂肪族ポリエステルとしては、例えば、微生物産出系重合体としてポリ(ヒドロキシ酪酸/吉草酸)が知られており、合成系重合体としてポリカプロラクトンや、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールの縮合体が知られており、そして、半合成系重合体としてポリ乳酸系重合体が知られている。
ポリ乳酸系重合体は、非石油系原料、さつまいも、トウモロコシなどの原料を使用して合成されていることから、石油資源を使用しない植物系由来のプラスチックとして注目されており、今まで石油系プラスチックを使用していた用途においてポリ乳酸系重合体へ置き換えの動きが盛んである。
【0005】
ポリ乳酸系重合体は、その透明性を生かし、フィルムやシート用途に主に使用されている。しかしながら、ポリ乳酸系重合体単体では耐熱性が低いことから、従来の透明ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどの石油系汎用プラスチックを代替することは困難である。
耐熱性を高めるために、ポリカプロラクトンや無機充填材を添加することにより、耐熱性を高めようとする事例もあるが、耐熱性は向上するものの、ポリ乳酸系重合体の持つ優れた透明性は失われてしまう。
また、衝撃強度の改善を目的に、ポリ乳酸系重合体に衝撃強度改質剤を添加する検討がなされている(特許文献1〜2参照)。この場合、耐衝撃性は向上するが、ポリ乳酸系重合体の持つ優れた透明性は失われてしまう。
【特許文献1】特許第2725870号公報
【特許文献2】特開2003−286396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
よって、本発明の目的は、ポリ乳酸系重合体の透明性を生かしつつ、耐熱性と耐衝撃性を兼ね備えた熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、本発明の熱可塑性樹脂組成物の要旨は、ポリ乳酸系重合体(A)と、メチルメタクリレート単量体単位を含有するアクリル系重合体(B)と、ゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体(C)とを含有しており、グラフト共重合体(C)の屈折率Rcと、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabが以下の関係式(1)を満足する熱可塑性樹脂組成物にある。
−0.004≦Rc−Rab≦+0.008 ・・・(式1)
前記ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)との組成比が1/99〜99/1(質量比)の範囲内にあることが好ましい。
また、グラフト共重合体(C)は、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して1〜50質量部配合されてなることが好ましい。
更にグラフト共重合体(C)は、ゴム質重合体として、ポリオルガノシロキサンを含有するシリコーン系ゴムもしくはポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含有するアクリル系ゴムを用いて得られたものであることが好ましい。
また、本発明の成形品の要旨は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた成形品にある。
前記成形品は、その全光線透過率が、65%以上であることが好ましい。
更に前記成形品は、ヘイズ値が60%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、高い透明性、耐熱性及び耐衝撃性を兼ね備えた成形品を得ることができる。このような成形品は、これらの物性が要求される建材、自動車、玩具、文房具などの雑貨、さらには自動車部品、OA機器、家電機器といった用途に特に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、ポリ乳酸系重合体(A)と、メチルメタクリレート単量体単位を含有するアクリル系重合体(B)と、ゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体(C)とを含有しており、グラフト共重合体(C)の屈折率Rcと、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabが以下の関係式(1)を満足する。
−0.004≦Rc−Rab≦+0.008 ・・・(式1)
本発明におけるグラフト共重合体(C)の屈折率Rcは、アッベ屈折率計により測定することができる。
また、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabとは、予め樹脂組成物を構成するポリ乳酸系重合体とアクリル系重合体をその使用比率で混合し、アッベ屈折率計によりその屈折率を測定して得られた値をいう。
これら屈折率の差を上記所定範囲内とすることにより、透明性が高く、更には耐熱性、衝撃強度にも優れた成形品を与える樹脂組成物を得ることができる。
【0010】
<ポリ乳酸系重合体(A)>
本発明に使用するポリ乳酸系重合体(A)としては、ポリ乳酸若しくは乳酸と他の成分との共重合により得られる乳酸コポリマーを使用することができる。また、これらの重合体の混合物を使用することもできる。
【0011】
ポリ乳酸は、従来公知の方法で合成することができる。例えば、特開平7−33861号公報、特開昭59−96123号公報、高分子討論会予稿集44巻第3198−3199頁に記載されるような乳酸からの直接脱水縮合、または乳酸環状二量体ラクチドの開環重合によって合成することができる。
直接脱水縮合を行う場合、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、またはこれらの混合物のいずれの乳酸を用いてもよい。また、開環重合を行う場合においては、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、メソ−ラクチド、またはこれらの混合物のいずれのラクチドを用いてもよい。
【0012】
ラクチドの合成、精製および重合操作については、例えば、米国特許4057537号公報、公開欧州特許出願第261572号公報、Polymer Bulletin,14,491〜495(1985)、およびMakromol Chem.,187,1611−1628(1986)等の様々な文献に記載されている。
ポリ乳酸におけるL−乳酸単位およびD−乳酸単位の構成モル比(L/D)は、100/0〜0/100のいずれであってもよい。L/Dは、好ましくは100/0〜60/40であり、より好ましくは100/0〜80/20である。
【0013】
乳酸コポリマーは、乳酸モノマーまたはラクチドと、これらと共重合可能な他の成分とが共重合したものである。共重合可能な他の成分としては、2個以上のエステル結合形成性の官能基を持つジカルボン酸、多価アルコール、ヒドロキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。
【0014】
前記多価アルコールとしては、例えば、ビスフェノールにエチレンオキシドを付加反応させたものなどの芳香族多価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族多価アルコール;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのエーテルグリコール等が挙げられる。
【0015】
前記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、ヒドロキシブチルカルボン酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、その他特開平6−184417号公報に記載されているもの等が挙げられる。
ラクトンとしては、例えば、グリコリド、ε−カプロラクトングリコリド、ε−カプロラクトン、β−プロピオラクトン、δ−ブチロラクトン、β−またはγ−ブチロラクトン、ピバロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。
【0016】
乳酸コポリマーの生分解性は、コポリマーにおける乳酸単位の含量により影響される。このため、乳酸コポリマー中の乳酸単位の含有量は、用いる共重合成分にもよるが、好ましくは50モル%以上であり、更に好ましくは70モル%以上とするのがよい。乳酸単位の含有量や共重合成分によって、得られる製品の機械特性や生分解性を向上させることができる。
【0017】
ポリ乳酸系重合体(A)は、特に限定されないが、結晶性のものの場合、通常は融点が60〜200℃、質量平均分子量が5万〜50万のものが好ましく用いられる。質量平均分子量は、10万〜30万のものが更に好ましく用いられる。
また、共重合体を使用する場合と同じ効果を得る目的で、ポリ乳酸と、他の脂肪族ポリエステルとを単にブレンドしてもよい。この場合において、ブレンド物に含まれるポリ乳酸の含有量等は、モル換算で50モル%以上が好ましく、更に好ましくは70モル%以上とするのがよい。
ポリ乳酸系重合体(A)としては、市販されているものを使用でき、例えば、三井化学株式会社製レイシア「H−100」、「H−400」、「H−100J」などが挙げられる。
【0018】
<アクリル系重合体(B)>
アクリル系重合体(B)は、メチルメタクリレート単量体単位を含有する重合体であり、メチルメタクリレートの単独重合体、若しくはメチルメタクリレートとこれと共重合可能な単量体との共重合体を使用することができる。共重合体を使用する場合、メチルメタクリレート単量体単位を50質量%以上、好ましくは70質量%以上含有する共重合体を使用することが好ましい。
【0019】
メチルメタクリレートと共重合可能な他の単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどのアルキルアクリレート;エチルメタクリレート、ブチルメタクリレートなどの他のアルキルメタクリレートなどが挙げられる。
また、アクリル系重合体(B)としては、メチルメタクリレートと共重合可能な他の単量体として、スチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、シクロヘキシルマレイミドやフェニルマレイミド、マレイン酸無水物、グルタル酸無水物などが共重合されているものを使用することもできる。
前述した単量体のうち、高い透明性と耐熱性の観点から、メチルメタクリレートとメチルアクリレートの共重合体を使用することが好ましい。
【0020】
アクリル系重合体(B)の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の懸濁重合、塊状重合、乳化重合法等の各種方法が適用される。アクリル系重合体(B)の分子量は、特に限定されるものではないが、質量平均分子量6万〜30万が好ましい。
【0021】
アクリル系重合体(B)としては、市販されているものが使用でき、例えば、三菱レイヨン株式会社製アクリペット「VH」、「MF」、「MD」、「UT−100」などが挙げられる。
また、フェニルマレイミドが共重合されているアクリル系重合体(B)としては、例えば、三菱レイヨン株式会社製PMIレジン「P35S」「P60S」などが挙げられる。
【0022】
<グラフト共重合体(C)>
本発明におけるグラフト共重合体(C)は、ゴム質重合体にビニル系単量体がグラフト重合されたグラフト共重合体である。
本発明のグラフト共重合体に用いられるゴム質重合体としては、大別して、ポリオルガノシロキサンを含有するシリコーン系ゴムと、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含有するアクリル系ゴムが挙げられる。これら成分の製造方法は、特に限定はされないが、乳化重合法が最適である。
グラフト重合に用いるビニル系単量体としては、特に限定されないが、グラフト共重合体(C)の屈折率を調整するために、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、シアン化ビニル化合物から選ばれた少なくとも一種以上であることが好ましい。
【0023】
(シリコーン系ゴムグラフト共重合体)
本発明に使用するシリコーン系ゴムは、ポリオルガノシロキサンゴムと、ポリオルガノシロキサンとアクアクリルゴムを複合化したシリコーン/アクリル系複合ゴムが挙げられるが、透明性や耐衝撃性の観点からシリコーン/アクリル系複合ゴムを使用することが好ましい。
ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムは、ポリオルガノシロキサン成分が1〜99質量%、アルキル(メタ)アクリレートゴム成分が99〜1質量%(両成分の合計量は100重量%)の範囲内にあることが好ましい。
【0024】
ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムの製造方法としては、特に限定はされないが、乳化重合によってまずポリオルガノシロキサンのラテックスを調製し、次にポリアルキル(メタ)アクリレートゴムを構成する単量体をポリオルガノシロキサンラテックスの粒子に含浸させてからこれを重合すること方法が好ましい。
【0025】
ポリオルガノシロキサン成分は、オルガノシロキサンおよび架橋剤(CI)を用いて乳化重合により調製することができる。その際、さらにグラフト交叉剤(GI)を併用することもできる。
オルガノシロキサンとしては、3員環以上の各種の環状体が挙げられ、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。中でも、好ましく用いられるのは3〜6員環のものである。これらは単独でまたは2種以上を混合して用いられる。オルガノシロキサンの使用量は、ポリオルガノシロキサン成分中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。
【0026】
架橋剤(CI)としては、3官能性または4官能性のシラン系架橋剤、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。特に、4官能性の架橋剤が好ましく、この中でもテトラエトキシシランが特に好ましい。架橋剤の使用量は、ポリオルガノシロキサン成分中、好ましくは0.1〜30質量%である。
【0027】
グラフト交叉剤(GI)としては、次式で表される単位を形成し得る化合物等が挙げられる。
CH=C(R)−COO−(CH−SiR(3−n)/2(GI−1)
CH=C(R)−C−SiR(3−n)/2(GI−2)
CH=CH−SiR(3−n)/2(GI−3)
HS−(CH−SiR(3−n)/2(GI−4)
(式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、またはフェニル基であり、Rは水素原子またはメチル基であり、nは0、1または2であり、pは1〜6の数を示す。)
上記式(GI−1)の単位を形成し得る(メタ)アクリロイルオキシシロキサンは、グラフト効率が高いため有効なグラフト鎖を形成することが可能であり、耐衝撃性発現の点で有利である。
【0028】
上記式(GI−1)の単位を形成し得る化合物としては、メタクリロイルオキシシロキサンが特に好ましい。メタクリロイルオキシシロキサンの具体例としては、β−メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
【0029】
上記式(GI−2)の単位を形成し得る化合物としては、ビニルシロキサンが挙げられ、具体例としては、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンが挙げられる。
上記式(GI−3)の単位を形成し得る化合物としては、p−ビニルフェニルジメトキシメチルシランが挙げられる。
上記式(GI−4)の単位を形成し得る化合物としては、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルメトキシジメチルシラン、γ−メルカプトプロピルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
グラフト交叉剤の使用量は、ポリオルガノシロキサン成分中、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは0.5〜5質量%である。
【0030】
ポリオルガノシロキサン成分のラテックスの製造は、例えば、米国特許第2,891,920号公報、米国特許第3,294,725号公報等に記載された方法を用いることができる。本発明においては、例えば、オルガノシロキサン、架橋剤(CI)および所望によりグラフト交叉剤(GI)の混合溶液を、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸等のスルホン酸系乳化剤の存在下で、例えばホモジナイザー等を用いて水と剪断混合する方法により製造することが好ましい。アルキルベンゼンスルホン酸はオルガノシロキサンの乳化剤として作用すると同時に重合開始剤ともなるので好適である。この際、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、アルキルスルホン酸金属塩等を併用するとグラフト重合を行う際にポリマーを安定に維持するのに効果があるので好ましい。
【0031】
ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分は、アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(CII)およびグラフト交叉剤(GII)を用いて合成することができる。
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、n−ラウリルメタクリレート等のアルキルメタクリレート等が挙げられ、特にn−ブチルアクリレートが好ましい。
【0032】
架橋剤(CII)としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
グラフト交叉剤(GII)としては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは架橋剤として用いることもできる。これら架橋剤並びにグラフト交叉剤は単独であるいは2種以上併用して用いられる。これら架橋剤およびグラフト交叉剤の合計の使用量は、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分中、好ましくは0.1〜20質量%である。
【0033】
ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の製造は、例えば以下のようにして行われる。
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリの水溶液の添加により中和されたポリオルガノシロキサン成分のラテックス中へ、上記アルキル(メタ)アクリレート、架橋剤(CII)およびグラフト交叉剤(GII)を添加し、ポリオルガノシロキサン粒子へ含浸させた後、通常のラジカル重合開始剤を作用させて行う。重合の進行と共にポリオルガノシロキサン成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分との複合ゴムのラテックスが得られる。
このようにして乳化重合により製造されたポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムは、ビニル系単量体とグラフト共重合可能である。
【0034】
ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムは、トルエンにより90℃で4時間抽出して測定したゲル含量が80質量%以上であることが好ましい。
本発明においては、この複合ゴムとして、ポリオルガノシロキサンゴム成分の主骨格がジメチルシロキサンの繰り返し単位を有し、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の主骨格がn−ブチルアクリレートの繰り返し単位を有する複合ゴムが好ましく用いられる。
【0035】
以上説明したポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムの存在下に、1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合させることにより、ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムとグラフト部から成るポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムグラフト共重合体を得ることができる。
グラフト部を構成するビニル系単量体は、特に制限されない。その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等の各種のビニル系単量体が挙げられる。これらビニル系単量体は、1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0036】
シリコーン系ゴムグラフト共重合体(C)の屈折率Rcと、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabとを所定範囲内とするためには以下の方法を用いる。即ち、例えばアクリル系重合体(B)の含有量が多く、Rabが高い値を有する樹脂組成物に対しては、ポリオルガノシロキサンゴムよりも、屈折率の高いポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムを用いて得られたグラフト共重合体を使用することが好ましい。この場合、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分をより多く使用することによって、グラフト共重合体の屈折率Rcを更に高くすることが可能となる。
逆にRabに合わせてグラフト共重合体の屈折率Rcを下げたい場合には、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分の使用量を少なくすることにより、屈折率Rcを下げることができる。
また、ゴム質重合体にグラフト共重合するビニル系単量体の種類や量を調節することにより、グラフト共重合体(C)の屈折率Rcを調整することもできる。
【0037】
(アクリル系ゴムグラフト共重合体)
本発明に使用するグラフト共重合体の製造に使用するアクリル系ゴムは、(メタ)アクリレート系単量体またはそれを主成分とするの混合物を重合して得られたゴムである。
(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、通常、(メタ)アクリレートが使用される。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0038】
アクリル系ゴムは0℃以下のガラス転移温度をもつ重合体であることが耐衝撃発現性の面で好ましいことから、(メタ)アクリル系単量体としては、特にn−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。また、室温付近において結晶性を有する(メタ)アクリレート[例えば、ステアリルメタクリレート等]を用いる場合は、これを溶解する単量体と混合して使用するとよい。
【0039】
アクリル系ゴムは、単量体の1種または2種以上を単に重合させて得た(共)重合体であってもよいが、特に、低温衝撃強度においてさらに高い物性を発現させる複合ゴムであることが好ましい。
複合ゴムの好適な例としては、分岐側鎖をもつアルコールまたは炭素数が13以上のアルキル基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、あるいは、ヒドロキシル基、メトキシ基またはエトキシ基を含有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも1種に由来する単位を含むアクリルゴム(AR1)成分と、n−ブチルアクリレートに由来する単位を含むアクリルゴム(AR2)成分とを主成分とする複合ゴムであり、アクリルゴム(AR1)成分由来のガラス転移温度(Tg1)が、アクリルゴム(AR2)成分由来のガラス転移温度(Tg2)よりも低いものが挙げられる。このような複合ゴムは、単純な共重合タイプのゴムに比べて、より高い低温耐衝撃性を付与することが可能である。
【0040】
アクリルゴム(AR1)成分を構成する(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、トリデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレートが好ましい。
また、複合ゴムは、通常はアクリルゴム(AR1)成分5〜95質量%とアクリルゴム(AR2)成分95〜5質量%とを含み、好ましくはアクリルゴム(AR1)成分10〜90質量%とアクリルゴム(AR2)成分90〜10質量%とを含み、さらに好ましくはアクリルゴム(AR1)成分10〜80質量%とアクリルゴム(AR2)成分90〜20質量%とを含む。これら範囲は、共重合タイプのゴムに対する優位性の点で意義がある。
【0041】
アクリル系ゴムを得るために用いる単量体は、通常は、分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体を含み、その含有量は2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体は、架橋剤またはグラフト交叉剤として機能する。架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーン等が挙げられる。グラフト交叉剤としては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは、架橋剤として用いることもできる。これら架橋剤およびグラフト交叉剤は、単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
また、複合ゴムをアクリル系ゴムとして用いる場合、アクリルゴム(AR1)成分およびアクリルゴム(AR2)成分に対する架橋剤またはグラフト交叉剤の使用量は、夫々の成分に対する使用量(質量%)を基準として、(AR1)成分よりも(AR2)成分に対する使用する量の方が多いことが好ましい。
【0042】
アクリル系ゴムは、10℃以下にガラス転移温度を2つ以上有してもよい。その場合には、アクリルゴム(AR1)成分由来のガラス転移温度(Tg1)が、アクリルゴム(AR2)成分由来のガラス転移温度(Tg2)よりも低いことが好ましい。ガラス転移温度がこのような条件を満たす場合、得られるグラフト共重合体がより高い耐衝撃性を発現する。このことは、複合ゴムであるとの特徴でもあり、単純な共重合体とは異なる点でもある。
【0043】
ここで、アクリル系ゴムのガラス転移温度は、動的機械的特性解析装置(以下「DMA」という)によるTanδの転移点として測定される。一般に、単量体から得られた重合体は固有のガラス転移温度を持ち、単独(単一成分または複数成分のランダム共重合体)では一つの転移点が観測されるが、複数成分の混合物、あるいは複合化された重合体では、夫々に固有の転移点が観測される。例えば、2成分からなる場合、測定により2つの転移点が観測される。DMAにより測定されるTanδ曲線では、2つのピークが観測される。組成比に偏りがある場合や転移温度が近い場合には、夫々のピークが接近する場合があり、ショルダー部分を持つピークとして観測される場合があるが、単独成分の場合に見られる単純な1ピークの曲線とは異なるので判別可能である。
【0044】
(メタ)アクリル系単量体と他の単量体の混合物を共重合させる場合、他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、メタクリル酸変性シリコーン、フッ素含有ビニル化合物等の各種のビニル系単量体を共重合成分として含んでいてもよい。他の単量体の使用量は、30質量%以下が好ましい。
アクリル系ゴムを製造する際には、乳化剤または分散安定剤として、アニオン性、非イオン性、カチオン性など、従来より知られる各種の界面活性剤を使用できる。また必要に応じて、2種以上の界面活性剤を混合して用いることもできる。
【0045】
更に、アクリル系ゴムとしては、(メタ)アクリル系単量体とジエン系単量体を共重合して得られる共重合ゴムを使用することもできる。この場合の(メタ)アクリル系単量体としては、特に制限されないが、通常、前述した(メタ)アクリレートが使用される。また、ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等が挙げることができる。
アクリル系単量体とジエン系単量体の組成比として、ジエン系単量体が、全単量体100質量部中45質量%を超えない比率で添加することが好ましい。45質量%を超えると屈折率が高くなり、透明性が損なわれる。
また、この時アクリル系単量体およびジエン系単量体と共重合しうる他のビニル系単量体を共重合することもできる。ビニル系単量体の具体例としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル、塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル系単量体、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート等の多官能性単量体等を用いることができる。また、これらのビニル系単量体は、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
以上説明したアクリル系ゴムの存在下に、1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合させることにより、アクリル系ゴムとグラフト部から成るアクリル系ゴムグラフト共重合体を得ることができる。
グラフト部を構成するビニル系単量体は、特に制限されない。その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等の各種のビニル系単量体が挙げられる。これらビニル系単量体は、1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。これら単量体の使用量は20質量%以下であることが好ましい。
【0047】
ビニル系単量体は、耐衝撃性、耐熱性の点から、分子中に2個以上の不飽和結合を有するビニル系単量体を含んでいても良い。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーン等、架橋剤として機能する単量体;アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等、架橋剤および/またはグラフト交叉剤として機能する単量体などが挙げられる。
【0048】
グラフト部は、1段、もしくは多段重合により製造することができる。グラフト共重合体(C)のマトリクス中での分散性、界面強度等をどのように設定したいかにもよるが、グラフト部を多段化することにより、耐衝撃性を向上させる効果がある。例えば、グラフト部がグリシジルメタクリレートのような反応性単量体単位を含む場合は、グリシジルメタクリレートの反応性を保持しつつ、分散性等を良好に保つ方法として、多段重合により製造することは有効な手段である。ただし、いたずらに多段化することは製造工程が増加し、生産性が低下するので、必要以上に増加することは好ましくない。従ってその重合は5段以下が好ましく、3段以下がより好ましい。
【0049】
グラフト部を製造するための重合方法としては、一般的な滴下重合を用いることができる。アクリル系ゴムの1段目を乳化剤非存在下で製造した場合には、アクリル系ゴムの存在下に、グラフト部を構成する成分を一括で仕込み、その後触媒を添加して重合する方法がよい。この方法によれば、粉体回収時に、凝集粒子が融着しにくくなる。また、多段重合の場合、2段目以降は一括で仕込んでも、滴下で仕込んでも構わない。
【0050】
グラフト共重合体におけるアクリル系ゴムとグラフト部の比率は、両者の合計100質量部を基準として、アクリル系ゴムの量が80〜99質量部であることが好ましく、80〜95質量部であることがより好ましく、80〜90質量部であることが特に好ましい。グラフト部の量が1質量部以上であれば、得られるグラフト共重合体の熱可塑性樹脂組成物中での分散性が良好となり、熱可塑性樹脂組成物の加工性が向上する。一方、グラフト部の量が20質量部以下であれば、グラフト共重合体の衝撃強度発現性が向上する。
【0051】
アクリル系ゴムグラフト共重合体(C)の屈折率Rcと、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabとを所定範囲内とするためには以下の方法を用いる。即ち、例えばアクリル系重合体(B)の含有量が多く、Rabが高い値を有する樹脂組成物に対しては、ゴム質重合体に用いる(メタ)アクリレート系単量体として、屈折率がより高い重合体を与える(メタ)アクリレート系単量体を、より多くの量使用することで、アクリル系グラフト共重合体の屈折率を上昇させる。
逆にRabに合わせてグラフト共重合体の屈折率Rcを下げたい場合には、より低い屈折率を与える(メタ)アクリレートをゴム質重合体に使用することで屈折率Rcを下げることができる。
また、ゴム質重合体にグラフト共重合するビニル系単量体の種類や量を調節することにより、グラフト共重合体(C)の屈折率Rcを調整することもできる。
【0052】
グラフト共重合体(C)は通常ラテックスとして得られる。このラテックスとして得られたグラフト共重合体は、噴霧回収、または酸、塩等の凝析剤による湿式凝固により、粉体または顆粒として回収することが好ましい。ただし、官能基を含む場合には、酸による湿式凝固は好ましくない。酸を用いた場合には、官能基を失活、あるいは悪影響を及ぼす場合があるからである。また、塩類を用いた湿式凝固を行う場合は、アルカリ土類金属塩、例えば酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等を用いることが好ましい。アルカリ土類金属を用いれば、水分および熱によるマトリクス樹脂の分解等の劣化を極力抑制することができる。マトリクス樹脂の劣化が抑制できれば、熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の耐湿熱性が向上する。耐湿熱性は、成形品の衝撃強度発現性に影響し、成形品のリサイクル性に大きな影響を与える。
【0053】
さらに、リサイクル性を考慮した回収法としては、凝析剤用の塩類そのものを含まない噴霧回収法が有効である。噴霧回収する際には、グラフト共重合体以外に、フィラー類、あるいはその他の重合体を同時に共噴霧し、両者が合わさった粉体として回収することができる。共噴霧するものの種類を選ぶことにより、粉体性状のより好ましい取り扱い性を実現することもできる。共噴霧する成分としてはカルシウム成分をはじめ、シリカ、硬質ビニル系共重合体等が挙げられる。
【0054】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、少なくとも、ポリ乳酸系重合体(A)と、アクリル系重合体(B)と、グラフト共重合体(C)とを含有するものである。
ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)との組成比は、1/99〜99/1(質量比)であり、好ましくは5/95〜95/5(質量比)である。ポリ乳酸系重合体(A)の量が1質量%未満となると環境に負荷の低減効果が少なく、アクリル系重合体(B)の量が1質量%未満となると耐熱性の向上効果が小さくなる。
グラフト共重合体(C)の配合量は特に制限されないが、通常、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して1〜50質量部が好ましく、1〜30質量部がより好ましい。
【0055】
また、本発明においては透明性を損なわない範囲で、さらにポリスチレン、HIPS、ABS、AS、MS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等の他の熱可塑性樹脂を添加することができる。
これらの重合体の配合量は、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0056】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を調製する場合は、その物性を損なわない限りにおいて、熱可塑樹脂のコンパウンド時、混練時、成形時等の所望の段階で、従来より知られる各種難燃剤、安定剤、充填剤等を添加できる。
【0057】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に使用できる難燃剤は、特に限定されないが、ハロゲン系難燃剤、リン酸系難燃剤、シリコーン系難燃剤を使用すると、耐衝撃性等を損なうことなく、高い難燃性を発現することができるので好ましい。このような難燃剤としては、例えば、ハロゲン含有化合物、リン酸系化合物、シリコーン系化合物、ハロゲン含有有機金属塩系化合物等が挙げられる。
難燃剤の具体例としては、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、縮合リン酸エステル化合物等のリン酸系化合物;水酸化アルミニウム;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸アンチモン系化合物;含ハロゲンリン酸エステル化合物、含ハロゲン縮合リン酸エステル化合物、塩素化パラフィン、臭素化芳香族トリアジン、臭素化フェニルアルキルエーテル等の臭素化芳香族化合物等のハロゲン含有化合物;スルフォンあるいは硫酸塩系化合物;エポキシ系反応型難燃剤;等が挙げられる。
難燃剤の配合量は、透明性の観点から、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して10質量部以下が好ましく、5質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0058】
安定剤としては、金属系安定剤およびその他の安定剤が挙げられる。
金属系安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛系安定剤;カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤;アルキル基、エステル基等と、脂肪酸塩、マレイン酸塩、含硫化物等とから誘導される有機スズ系安定剤;Ba−Zn系、Ca−Zn系、Ba−Ca−Sn系、Ca−Mg−Sn系、Ca−Zn−Sn系、Pb−Sn系、Pb−Ba−Ca系等の複合金属石けん系安定剤;バリウム、亜鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸等の分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ナフテン酸等の脂肪環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体などの芳香族酸といった通常二種以上の有機酸とから誘導される金属塩系安定剤;これら安定剤を石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体等の有機溶剤に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、酸化防止剤、プレートアウト防止剤、滑剤等の安定化助剤を配合してなる金属塩液状安定剤等が挙げられる。
【0059】
その他の安定剤としては、エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化合物;リンがアルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基等で置換され、かつプロピレングリコール等の2価アルコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の芳香族化合物を有する有機亜リン酸エステル;2,4−ジ−t−ブチル−3−ヒドロキシトルエン(BHT)や硫黄やメチレン基等で二量体化したビスフェノール等のヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミンまたはニッケル錯塩の光安定剤;カーボンブラック、ルチル型酸化チタン等の紫外線遮蔽剤;トリメロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール、β−アミノクロトン酸エステル、2−フェニルインドール、ジフェニルチオ尿素、ジシアンジアミドなどの含窒素化合物;ジアルキルチオジプロピオン酸エステルなどの含硫黄化合物;アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β−ジケトンなどのケト化合物;有機珪素化合物;ほう酸エステル;などが挙げられる。これら安定剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
安定剤の使用量は、透明性の観点から、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して5質量部以下が好ましく、2質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0060】
充填剤としては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩;酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等の無機質系の充填剤;ポリアミド等の有機繊維、シリコーン等の有機質系の充填剤;木粉等の天然有機物;などが挙げられる。特に、グラスファイバーやカーボンファイバー等の繊維状補強材を含む繊維強化樹脂組成物は、非常に有用である。
充填剤の使用量は、透明性の観点から、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して5質量部以下が好ましく、3質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その他、加工助剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、耐熱向上剤、離型剤、結晶核剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、防曇剤、発泡剤、抗菌剤等を添加することができる。
【0062】
加工助剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。加工助剤の使用量は、透明性の観点から、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して15質量部以下が好ましく、5質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0063】
可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の芳香族多塩基酸のアルキルエステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジシオノニルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジイソノニルアゼレート等の脂肪酸多塩基酸のアルキルエステル;トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の多価アルコールとの分子量600〜8,000程度の重縮合体の末端を、一価アルコールまたは一価カルボン酸で封止した化合物等のポリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸−2−エチルヘキシル等のエポキシ系可塑剤;塩素化パラフィン等が挙げられる。
可塑剤の使用量は、透明性の観点から、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して30質量部以下が好ましく、10質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0064】
滑剤としては、例えば、流動パラフィン、低分子量ポリエチレン等の純炭化水素、ハロゲン化炭化水素、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸、脂肪酸アミド、グリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)、金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステル等のエステル、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等が挙げられる。
耐熱向上剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、イミド系共重合体、スチレン−アクリロニトリル系共重合体等が挙げられる。
滑剤の使用量は、透明性の観点から、ポリ乳酸系重合体(A)およびアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して5質量部以下が好ましく、1質量部が更に好ましいが、透明性の観点から最も好ましいのは0質量部である。
【0065】
(熱可塑性樹脂組成物の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されない。従来より知られる各種の混合方法を使用でき、通常は、溶融混合法が好ましい。また、必要に応じて少量の溶剤を使用してもよい。混合に使用する装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられる。これら装置は、回分的または連続的に運転すればよい。成分の混合順は特に限定されない。
【0066】
本発明の成形品は、前述した熱可塑性樹脂組成物を成形することにより得られる。成型方法は、特に限定されず、公知の成型方法のなかから本発明の熱可塑性樹脂組成物に適した方法を選択すればよい。例えば、押出機、射出成型機、ブロー成型機、インフレーション成型機、カレンダー成型機等の各種成型機を用いて成型する方法を挙げることができる。これらの内、特に高い透明性を付与する観点からは、押出機、射出成型機、ブロー成型機、カレンダー成型機により成形することが好ましい。また、本発明の成形品は、全光線透過率が、65%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上である成形品とすることが好ましい。ここでいう全光線透過率は、熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形法により、厚さ3mm、10cm角の板を成形し、ASTM D1003に準じて測定して得られた値をいう。
更に本発明の成形品は、そのヘイズ値が60%以下、好ましくは40%以下、更に好ましくは20%以下とすることが好ましい。ここでいうヘイズ値とは、熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形法により、厚さ3mm、10cm角の板を成形し、ASTM D1003に準じて測定した値をいう。
このようにして得られた成形品は、例えば、建材、自動車、玩具、文房具などの雑貨、さらには自動車部品、OA機器、家電機器などに利用できるが、その高い透明性、耐衝撃性、耐熱性を有していることから、特に建材、自動車部品、OA機器、家電機器として好ましく用いられる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
また、本実施例において「部」および「%」は、特に断らない限り「質量部」および「質量%」を意味する。
【0068】
各種評価は以下の方法により行った。
(1)平均粒子径
ラテックス中のポリオルガノシロキサンの質量平均粒子径、および重合ラテックス中のグラフト共重合体の質量平均粒子径は、大塚電子(株)社製DLS−700型を用いた動的光散乱法により求めた。
(2)質量平均分子量測定(GPC測定)
乾燥させた試料をテトラヒドロフラン(THF)に40℃で1時間かけて溶解させた後、室温にて1晩静置して、東ソー(株)社製GPC(HLC−8020)、同社製GPC用カラム(TSK−GEL GMHXL×2本)を用いて以下の条件で質量平均分子量を測定した。ここで、GPCの検量線は同社製単分散ポリスチレンを用いて作成した。
・試料濃度:0.1g/dl
・注入量:0.1ml
・カラム温度:40℃
【0069】
(3)ペレットの作製
(実施例1〜10、比較例1〜13): φ30mm、L/D=28の同方向二軸押出機を用い、ポリ乳酸系重合体(A)、アクリル系重合体(B)、グラフト共重合体(C)、他の成分を溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
(実施例11〜17、比較例14〜16): φ30mm、L/D=35の同方向二軸押出機(TEX−30α JSW(株)製)を用い、ポリ乳酸系重合体(A)、アクリル系重合体(B)、グラフト共重合体(C)、他の成分を溶融混練し、熱可塑性樹脂組成物ペレットを得た。
(4)評価用試験片の作製
上記熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形法により10cm角の板を成形した。
【0070】
(5)シャルピー衝撃強度
上記熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形法により幅10mm、高さ4mm、長さ12.7mm試験片を成形し、JIS・K−7111により、23℃でシャルピー衝撃強度を測定した。
(6)全光線透過率
上記熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形法により、厚さ3mm、10cm角の板を成形し、ASTM D1003に準じて測定した。
(7)ヘイズ
上記熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形法により、厚さ3mm、10cm角の板を成形し、ASTM D1003に準じて測定した。
(8)アイゾット衝撃強度
上記熱可塑性樹脂組成物ペレットを用いて、射出成形法により12.7mm×127mmの棒状試験片より切り出して、JIS・K−7113により、23℃でアイゾット衝撃強度を測定した。
【0071】
(9)荷重たわみ温度:
(実施例1〜10、比較例1〜13):射出成形法により幅10mm、高さ4mm、長さ12.7mm試験片を用いて、ISO75に準じて荷重1.80MPaの条件で測定した。
(実施例11〜17、比較例14〜17):射出成形法により幅12.7mm、高さ3.2mm、長さ127mm試験片を用いて、JIS.K−7191に準じて荷重0.45MPaの条件で測定した。
(10)屈折率
・ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabの測定
ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系樹脂(B)のみで作成したペレットを用いて、射出成形法により12.7mm×127mmの棒状試験片より切り出し、ASTM−D542に準じてアッベ屈折率計により測定した。接触液には塩化亜鉛飽和水溶液を用いた。
・グラフト共重合体(C)の屈折率Rcの測定
加熱プレス法(150℃予熱5分後に加圧1分、その後冷却2分)により、グラフト共重合体(C)の粉体から厚さ約1mm薄膜を作成した。その薄膜を用い、ASTM−D542に準じて、アッベ屈折率計により屈折率を測定した。接触液には塩化亜鉛飽和水溶液を用いた。
【0072】
(製造例1)アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−1)の製造:
2−エチルヘキシルアクリレート100部と、2−エチルヘキシルアクリレート量に対して1.0質量%に相当する量のアリルメタクリレートとからなる混合物を、ラウリル硫酸ナトリウムを0.8部溶解した蒸留水195部に加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備撹拌し、さらにホモジナイザーにより30MPaの圧力で乳化、分散させ、(メタ)アクリレートエマルジョンを得た。
このエマルジョンを、コンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、窒素置換および混合撹拌しながら加熱し、50℃になった時にターシャリブチルハイドロパーオキサイド0.5部を添加した。その後、50℃に昇温し、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を投入し、5時間保持して、1段目の重合工程を完了して、アクリルゴム(AR5)のラテックスを得た。
【0073】
このアクリルゴム(AR5)のラテックスに、ターシャリブチルハイドロパーオキサイド0.06部と、メチルメタクリレート13部およびブチルアクリレート2.0部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、グラフト重合を完了し、アクリル系ゴムグラフト共重合体(ARL7)のラテックスを得た。このグラフト共重合体のラテックスを、塩化カルシウム1.5質量%を溶解した熱水200部中に滴下し、アクリル系ゴムグラフト共重合体(ARL7)を凝固、分離し、洗浄し、75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリルゴム系グラフト共重合体(M−1)を得た。
【0074】
[実施例1〜10、比較例1〜13]
ポリ乳酸系重合体(A)としてレイシアH−100(三井化学(株)製)を使用した。アクリル系重合体(B)としては、アクリペットVH(三菱レイヨン(株)製、メチルメタクリレート(MMA)−メチルアクリレート(MA)共重合体、質量平均分子量(GPC測定)=6万)を使用した。グラフト共重合体(C)として以下のグラフト共重合体(1)〜(10)、(M−1)を使用した。また、生分解性強化剤として大日本インキ化学工業株式会社の「プラメートPD−150」を用いて、表1〜3に示す割合でハンドブレンドした後、同方向二軸押出機(池貝社製PCM30−28.5)を用いて、バレル温度200℃、スクリュー回転数150rpmにて溶融混練することによってペレット状に賦型した後、これを用いて評価用試験片を作製し、各評価に供した。結果を表1〜3に示す。
なお、表中に示す各グラフト共重合は以下のものを使用した。
(1)S−2005:三菱レイヨン(株)製 メタブレンS−2005、ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムグラフト共重合体
(2)S−2001;三菱レイヨン(株)製 メタブレンS−2001、ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムグラフト共重合体
(3)SRK−200:三菱レイヨン(株)製 メタブレンSRK−200、ポリオルガノシロキサン/アクリル系複合ゴムグラフト共重合体
(4)W−450A:三菱レイヨン(株)製 メタブレンW−450A、アクリル系ゴムグラフト共重合体
(5)W−460A:三菱レイヨン(株)製 メタブレンW−460A、アクリル系ゴムグラフト共重合体
(6)FM−50:(株)カネカ製カネエースFM−50、アクリル系ゴムグラフト共重合体
(7)IM−808:LG社製IM−808、アクリル系ゴムグラフト共重合体
(8)KM−355P:R&H社製KM−355P、アクリル系ゴムグラフト共重合体
(9)C−223A:三菱レイヨン(株)製 メタブレンC−223A、ジエン系ゴムグラフト共重合体
(10)C−102:三菱レイヨン(株)製 メタブレンC−102、ジエン系ゴムグラフト共重合体
【0075】


【0076】

【0077】

【0078】
(製造例2)ブタジエン/アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−2)の製造
(1)ブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックス(b1)の製造
以下の物質を70Lオートクレーブに仕込み、昇温して43℃となった時点で、レドックス系開始剤をオートクレーブ内に添加し反応を開始後、更に60℃まで昇温した。
1,3−ブタジエン 10部
ブチルアクリレート 90部
牛脂脂肪酸カリウム 0.93部
M−ラウロイルザルコシンナトリウム 0.39部
ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド 0.22部
脱イオン水 200部
(レドックス系開始剤)
硫酸第一鉄 0.0024部
デキストローズ 0.16部
ピロリン酸ナトリウム 0.24部
エチレンジアミンテトラアセテートジナトリウム 0.0009部
脱イオン水 5.25部
重合開始から5時間反応させて、さらにブ牛脂脂肪酸カリウムを0.39部、M−ラウロイルザルコシンナトリウムを0.16部を投入したのち、ゴム重合体ラテックス(b1)を得た。得られたブタジエン系ゴム重合体ラテックス(b1)の粒子径は91nmであった。
(2)カルボキシル基含有共重合体(b2−1)の重合
カルボキシル基含有共重合体として、以下の混合物を63℃で4時間重合させ、転化率98%、pH5.0のエマルジョン(MAA−BA共重合体)を調製した。
n−ブチルアクリレート 85部
メタクリル酸 15部
オレイン酸ナトリウム 1.75部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 3.57部
過硫酸カリウム 0.3部
脱イオン水 200部
(3)グラフト共重合体(M−2)の製造
ブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックス(b1)を固形分として70部に対し、カルボキシル基含有共重合体(b2−1)をを固形分換算で2.0部添加し、室温にて30分攪拌した。
その後、アルケニルコハク酸カリウム2.0部と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部とをフラスコ内に仕込み、内温を70℃に保持して、メチルメタクリレート28.5部と、n−ブチルアクリレート1.5部と、クメンハイドロキシパーオキサイドを上記単量体混合物を100とした場合に0.375部との混合物を70分かけて滴下した後、1.5時間保持し、グラフト重合工程を終了して、グラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した後、18.8%酢酸カルシウム水溶液を添加して凝析させ、90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し、さらに乾燥してグラフト共重合体(M−2)を得た。
【0079】
(製造例3)ブタジエン/アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−3)の製造
製造例2で得られたブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックス(b−1)を固形分として75部に対し、カルボキシル基含有共重合体(b2−1)を固形分換算で2.0部添加し、室温にて30分攪拌した。
その後、アルケニルコハク酸カリウム2.0部と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部とをフラスコ内に仕込み、内温を70℃に保持して、メチルメタクリレート23.8部と、n−ブチルアクリレート1.3部と、クメンハイドロキシパーオキサイドを上記単量体混合物を100とした場合に0.375部との混合物を70分かけて滴下した後、1.5時間保持し、グラフト重合工程を終了して、グラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した後、18.8%酢酸カルシウム水溶液を添加して凝析させ、90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し、さらに乾燥してグラフト共重合体(M−3)を得た。
【0080】
(製造例4)ブタジエン/アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−4)の製造
製造例2で得られたブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックス(b−1)を固形分として80部に対し、カルボキシル基含有共重合体(b2−1)を固形分換算で2.0部添加し、室温にて30分攪拌した。
その後、アルケニルコハク酸カリウム2.0部と、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.6部とをフラスコ内に仕込み、内温を70℃に保持して、メチルメタクリレート19部と、n−ブチルアクリレート1.0部と、クメンハイドロキシパーオキサイドを上記単量体混合物を100とした場合に0.375部との混合物を70分かけて滴下した後、1.5時間保持し、グラフト重合工程を終了して、グラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した後、18.8%酢酸カルシウム水溶液を添加して凝析させ、90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し、さらに乾燥してグラフト共重合体(M−4)を得た。
【0081】
(製造例5)ブタジエン/アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−5)の製造
ブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックスの比率を20/80に変更したこと以外は、製造例4と同様にしてグラフト重合体(M−5)を得た。なおゴム重合体ラテックスの粒子径は92nmであった。
【0082】
(製造例6)ブタジエン/アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−6)の製造
ブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックスの比率を5/95に変更したこと以外は、製造例4と同様にしてグラフト重合体(M−6)を得た。なおゴム重合体ラテックスの粒子径は89nmであった。
【0083】
(製造例7)ブタジエン/アクリル系ゴムグラフト共重合体(M−7)の製造
(1)カルボキシル基含有共重合体(b2−2)の重合
カルボキシル基含有共重合体として、以下の混合物を63℃で4時間重合させ、転化率98%、pH5.0のエマルジョン(MAA−BA共重合体)を調製した。
n−ブチルアクリレート 85.5部
メタクリル酸 11.5部
オレイン酸ナトリウム 1.47部
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム 3.57部
過硫酸カリウム 0.3部
脱イオン水 200部
(2)グラフト共重合体(M−7)の製造
製造例3で作成したブタジエン/アクリル系ゴム重合体ラテックス(b1)を固形分として75部に対し、カルボキシル基含有共重合体(b2−2)を固形分換算で2.0部添加したこと以外は、製造例4と同様にしてグラフト重合体(M−7)を得た。
【0084】
[実施例11〜17、比較例14〜16]
ポリ乳酸系重合体(A)としてレイシアH−100(三井化学(株)製)、アクリル系重合体(B)としてアクリペットVH(三菱レイヨン(株)製、メチルメタクリレート(MMA)−メチルアクリレート(MA)共重合体、質量平均分子量(GPC測定)=6万)を用い、グラフト共重合体(C)として、グラフト共重合体(M−2)〜(M−7)を用い、表4、5に示す割合でハンドブレンドした後、同方向二軸押出機(JSW社製TEX−30α)を用いて、バレル温度210℃、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練することによってペレット状に賦型した後、これを用いて評価用試験片を作製し、各評価に供した。評価結果を表4、5に示す。
【0085】


【0086】

【0087】
本実施例、比較例の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、高い透明性、耐熱性、衝撃強度を有する成形品を与えることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、高い透明性、耐熱性、耐衝撃性を有する成形品を得ることができる。よって本発明の熱可塑性樹脂組成物を、従来の使用されていた透明ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどの石油系汎用プラスチックの代替品として用いることができ、建材、自動車、玩具、文房具などの雑貨、さらには自動車部品、OA機器、家電機器などの用途に広く利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系重合体(A)と、
メチルメタクリレート単量体単位を含有するアクリル系重合体(B)と、
ゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合して得られたグラフト共重合体(C)とを含有しており、
グラフト共重合体(C)の屈折率Rcと、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計屈折率Rabが以下の関係式(1)を満足する熱可塑性樹脂組成物。
−0.004≦Rc−Rab≦+0.008 ・・・(式1)
【請求項2】
ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)との組成比が1/99〜99/1(質量比)であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
グラフト共重合体(C)が、ポリ乳酸系重合体(A)とアクリル系重合体(B)の合計100質量部に対して1〜50質量部配合されてなる請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
グラフト共重合体(C)が、ゴム質重合体として、ポリオルガノシロキサンを含有するシリコーン系ゴムもしくはポリアルキル(メタ)アクリレートゴムとを含有するアクリル系ゴムを用いて得られたものである請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた成形品。
【請求項6】
全光線透過率が、65%以上であることを特徴とする請求項5記載の成形品。
【請求項7】
ヘイズ値が60%以下であることを特徴とする請求項6記載の成形品。

【国際公開番号】WO2005/085352
【国際公開日】平成17年9月15日(2005.9.15)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519392(P2006−519392)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003760
【国際出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】