説明

熱可塑性樹脂組成物およびそのシート

【課題】 本発明の目的は、柔軟性や、緩衝性、ガスバリヤー性、機械強度などに優れ、加熱することなく常温で成型加工可能な、環境に優しい熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【解決手段】
上記課題は、(a)芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックおよび脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体を、(b)リモネンに溶解させた組成物とすることにより、解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックおよび脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体を、特定の有機溶剤に希釈溶解させた熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックと、脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックとからなるブロック共重合体は、高いガスバリア性や柔軟性、機械特性等を有しており、シーリング材等の種々の用途で広く用いられている(特許文献1)。
【0003】
このブロック共重合体は熱可塑性を示し、重合体が溶融状態になるまで加熱することにより加工を行うことが可能である。しかし、重合体を溶融状態にするには、高温に加熱する必要がある。従って、例えば、他の材料を基材とし、これにブロック共重合体を塗布して積層した状態で使用する場合のようにブロック共重合体を他の材料と組み合わせて使用する場合には、接触する材料についても耐熱性が要求される。
【0004】
このような問題を解決する方法として、このブロック共重合体を溶剤で溶解し、溶液状態で取り扱う方法がある。しかし、このブロック共重合体を容易に溶解できる溶剤は少なく、そのような溶剤として、例えばトルエン等に代表される芳香族系炭化水素系溶剤、または、塩化メチレン等に代表されるハロゲン系溶剤がある。
【0005】
しかし、いずれの溶剤も環境面の問題で使用に制限がある。また、これらの溶剤を使用して溶液化して塗布する場合には、一般的には完全溶解によりニュートン流体(チクソ性の無い溶液)となり、いわゆるたれ易い材料となる。このような場合、垂直面に塗布する際や厚塗りした際には、コールドフローなどにより、塗布直後に垂れたり、溶剤揮発後の膜厚が大きくばらつくという問題があった。
【0006】
一方、ポリマーや化学物質の溶剤として、環境への付加が少ないリモネンを用いることが知られている。例えば特許文献2には、ポリイソブチレン系エラストマーからなる硬化性組成物が開示されている。この組成物においては、一般的な溶剤であるトルエンや塩化メチレン等と比べて環境に対する負荷が小さいD−リモネンが溶剤として用いられている。しかし、特許文献2に記載の組成物は室温ではチクソ性がなく、垂直面に塗布した場合や厚塗りした場合には、コールドフローなどにより、塗布直後に垂れたり厚みが一定にならないなど、目的とする形状に成形することが困難であった。また、この組成物は硬化性組成物であるため、当該組成物を成形体やシーリング材として用いる場合には、硬化を十分行うために長時間養生を行う必要があり、硬化反応が十分に進行するまで形状を保持するための型枠等が必要であった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−265719号公報
【特許文献2】国際公開第98/021765号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、柔軟性、緩衝性、ガスバリヤー性、機械強度などの優れた特性を有し、常温で成形加工が可能でかつ長時間の養生が必要のない、環境に優しい熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を積み重ねた結果、特定のブロック共重合体を特定の溶剤に溶解することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
即ち本発明は、(a)芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックおよび脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体を、(b)リモネンに溶解させたことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
【0011】
また、別の実施態様として、上記組成物を成形後、リモネンを揮発させてなるシート、コーティング層またはシーリング材や、上記組成物を、管の内部表面に塗布後、リモネンを揮発させてなる多層構造を有する配管がある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、緩衝性、ガスバリヤー性、機械強度などに優れる。また、本発明に係る熱可塑性樹脂組成物は、常温でせん断応力を与えることにより流動性を示すが、静態時には流動性を有さないため、厚みのある成形体を常温で容易に形成することが可能である。更に、揮発溶剤がリモネンであることから、従来の溶剤に比べて環境に優しいという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の(a)成分であるブロック共重合体は、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックと、脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックとからなる熱可塑性を示すブロック共重合体である。
【0014】
芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックは、芳香族ビニル系化合物以外の単量体を含んでいても、含んでいなくてもよい。芳香族ビニル系化合物以外の単量体を含む場合には、重合体ブロック全体のなかで芳香族ビニル化合物が60重量%以上を占めることが好ましく、さらに、80重量%以上を占めることが好ましい。重合体ブロック全体のなかで芳香族ビニル系化合物が60重量%以下の場合、重合体ブロックの凝集力が低下するため好ましくない。芳香族ビニル系化合物としては、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレンおよびインデンが挙げられる。芳香族ビニル化合物以外の単量体としては、芳香族ビニル化合物と重合可能な単量体であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族オレフィン類やジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。さらに、芳香族系ビニル化合物がスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレンおよびインデンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上であることが、その入手性および物性バランスの観点から望ましい。
【0015】
脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックは、脂肪族炭化水素系化合物以外の単量体を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。脂肪族炭化水素系化合物以外の単量体を含む場合には、重合体ブロック全体のなかで脂肪族炭化水素系化合物が60重量%以上を占めることが好ましく、さらに、80重量%以上を占めることが、その合成の容易さと物性バランスの観点から好ましい。重合体ブロック中の脂肪族炭化水素系化合物以外の単量体としては、特に限定されないが、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類等の単量体が例示できる。
【0016】
また、(a)成分であるブロック共重合体における脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックと芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックとの重量比率は、特に制限はないが、常温での形状保持性と脆さの観点から、(脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロック)/(芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック)=95/5〜60/40が好ましく、さらに90/10〜65/35が好ましい。
【0017】
また、(a)成分であるブロック共重合体の数平均分子量は、特に制限はないが、10000〜300000が好ましい。特に、常温(10℃〜30℃)での形状保持性と脆さの観点から、50000〜150000が好ましい。なお、本明細書における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算で算出した値である。
【0018】
なお、(a)成分であるブロック共重合体は、目的とする特性にあわせ、(脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロック)と(芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック)の割合や、分子量の異なる2種以上の混合物を使用できる。
【0019】
また、(a)成分であるブロック共重合体の構造は、特に制限されないが、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体のいずれでも良く、その混合物でも良い。このうち、その成型性と物性バランスの観点から、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック−脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロック−芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック−脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体が好ましく、その混合物でも良い。また、その機械強度等からブロック化率は高いほど好ましく、70%以上が好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0020】
(a)成分であるブロック共重合体の具体的な構造としては、入手性や高温での流動性の面から、スチレン系ブロックと、ブタジエンおよび/又はイソプレンのブロックよりなるブロック共重合体やその水素添加物が好ましく挙げられ、より具体的な例としては、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)、SEBS(スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体)、SEPS(スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体)などが好ましく挙げられる。
【0021】
さらに、(a)成分であるブロック共重合体として、(a)成分の脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックが、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるイソブチレン系ブロック共重合体も挙げられる。イソブチレン系ブロック共重合体は、常温及び低温での柔軟性、緩衝性、制振性、防音性、保温性、ガスバリヤー性、さらには、屋外曝露時の耐候性、熱的安定性等に優れることから、好適に使用できる。イソブチレン系ブロック共重合体の構造に特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましいイソブチレン系ブロック共重合体の構造としては、物性バランスの点から、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロック−芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるトリブロック共重合体、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック−イソブチレンを主成分とする重合体ブロックからなるジブロック共重合体が好ましく、その混合物でも良い。
【0022】
イソブチレンを主成分とする単量体成分は、イソブチレン以外の単量体を含んでいても含んでいなくても良い。イソブチレン以外の単量体としては、カチオン重合可能な単量体であれば特に制限はない。
【0023】
なお、イソブチレン系ブロック共重合体の製造方法については特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体及び芳香族ビニル系化合物を主成分する単量体を順次重合させることにより得られる。
(CR12X)n3 (1)
[式中Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシ基またはアシロキシ基から選ばれる置換基、R1、R2はそれぞれ水素原子または炭素数1〜6の1価炭化水素基でR1、R2は同一であっても異なっていても良く、R3は芳香族炭化水素基または脂肪族炭化水素基であり、nは1〜6の自然数を示す。]
【0024】
上記一般式(1)で表わされる化合物は開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。
(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン
65C(CH32Cl
1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン
1,4−Cl(CH32CC64C(CH32Cl
1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン
1,3−Cl(CH32CC64C(CH32Cl
1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン
1,3,5−(ClC(CH32363
1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン1,3−(C(CH32Cl)2-5−(C(CH33)C63
【0025】
これらの中でも特に好ましいのはビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C64(C(CH32Cl)2]、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[(ClC(CH32363]である。[なおビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれ、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、トリス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはトリクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0026】
イソブチレン系ブロック共重合体の重合に際し、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl4、TiBr4、BCl3、BF3、BF3・OEt2、SnCl4、SbCl5、SbF5、WCl6、TaCl5、VCl5、FeCl3、ZnBr2、AlCl3、AlBr3等の金属ハロゲン化物;Et2AlCl、EtAlCl2等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl4、BF3・OEt2、SnCl4が好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されず、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(1)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜50モル当量の範囲である。
【0027】
イソブチレン系ブロック共重合体の重合に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体が生成する。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0028】
イソブチレン系ブロック共重合体の重合は、必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ特に制約なく使用することができる。具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油、イソブチレンモノマーを含むC4留分等を挙げることができる。
【0029】
これらの溶媒は、ブロック共重合体を構成する単量体の重合特性及び生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
上記溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50重量%、好ましくは5〜35重量%となるように決定される。
【0031】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を冷却下例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。
【0032】
本発明に使用される(b)成分であるリモネンは、市販されている一般的なものがいずれも使用可能である。リモネン(分子式:C1016、分子量136.24、比重0.84、引火点48℃、沸点175〜177℃)は、香料や洗剤にも用いられ、独特のオレンジ臭を持つ環境に優しい溶剤である。また、安全衛生法にも登録されている物質であり、消防法上は、第2条危険物第4類第2石油類に分類される。
【0033】
(b)成分の使用量は、その溶解後の粘度や揮発溶剤量の観点から(a)成分100重量部に対し20重量部から900重量部が好ましい。また、50重量部から400重量とした場合は、常温でせん断応力を与えることにより流動性を示し易く、静態時には流動性を有さないため、塗布直後に垂れることがなく、更には溶剤揮発後の成形体の厚みを厚くすることが可能になる。(b)成分が20重量部より少ないと均一な溶解状態が得られず、常温下で流動性を示さないため、成型時に高温にする必要がある。また、(b)成分が900重量部より多いと揮発分が大きくなるだけで好ましくない。
【0034】
本発明にかかる組成物には、浸み出しが問題とならない範囲で、可塑剤を使用することができる。可塑剤としては特に限定されないが、室温で液体又は液状の材料が好適に用いられる。また親水性及び疎水性のいずれの可塑剤も使用できる。このような可塑剤としては鉱物油系、植物油系、合成系等の各種ゴム用又は樹脂用可塑剤が挙げられる。鉱物油系としては、ナフテン系、パラフィン系等のプロセスオイル等が、植物油系としては、ひまし油、綿実油、あまみ油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、木ろう、パインオイル、オリーブ油等が、合成系としてはポリブテン、低分子量ポリブタジエン等が例示できる。これらの中でも、ブロック共重合体(a)との相溶性あるいは熱可塑性樹脂組成物の物性バランスの点から、パラフィン系プロセスオイル又はポリブテンが好ましく用いられる。これら可塑剤は所望の粘度及び物性を得るために、2種以上を適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0035】
可塑剤の配合量は、ブロック共重合体(a)100重量部に対して、0〜200重量部とするのが好ましく、より好ましくは5〜100重量部である。200重量部を超えると可塑剤のブリードアウトが発生するため好ましくない。
【0036】
また本発明にかかる組成物には、さらに湿気や臭気を吸着する吸着材を配合してもよい。吸着材としては、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ等が例示され、これらのいずれも使用することができる。これらは2種以上を組み合わせて用いてもよい。このような吸着材は、本発明に係る組成物が曝露される環境下で接する大気等の湿気や臭気を吸着することができ、室内の不快な臭気を吸着する建築内装材等として好適に使用できる。このような目的を効果的に達成するためには、吸着材の配合量はブロック共重合体(a)100重量部に対して1〜300重量部であることが好ましい。
【0037】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物には、物性改良あるいは経済上のメリットから、充填材を配合することができる。好適な充填材としては、クレー、珪藻土、シリカ、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、金属酸化物、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム等の無機充填材、各種の金属粉、木片、ガラス粉、セラミックス粉、カーボンブラック、粒状ないし粉末ポリマー、粒状ないし粉末状固体充填材、その他の各種の天然又は人工の短繊維、長繊維等が例示できる。また中空フィラー、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン等の無機中空フィラー、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン共重合体からなる有機中空フィラーを配合することにより、軽量化を図ることができる。
【0038】
充填材の配合量は、ブロック共重合体(a)100重量部に対して0〜300重量部とするのが好ましく、より好ましくは0〜150重量部である。300重量部を超えると得られる熱可塑性樹脂組成物の柔軟性及び流動性が損なわれるので好ましくない。
【0039】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤及び/又は紫外線吸収剤を配合することができる。その配合量はブロック共重合体(a)100重量部に対して、0〜10重量部とするのが好ましく、より好ましくは0〜5重量部である。さらに他の添加剤として難燃剤、抗菌剤、光安定剤、着色剤、流動性改良剤、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、架橋剤、架橋助剤等を添加することができ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用可能である。さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物の性能を損なわない範囲であれば、その他の各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性エラストマー等を配合しても良い。
【0040】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はなく、市販の混合機、混練機などの装置を使用することができる。
【0041】
上記のようにして得られる熱可塑性樹脂組成物は、そのまま使用してもよいし、他の材料を基材とし、これに塗布して積層した状態で使用したり、また基材に塗布して積層する以外の方法で組み合わせて、複合材料として使用してもよい。その場合に、複合材料を形成するのに用いる他の基材は特に制限されず、使用目的や使用形態などに応じて適宜選択することができる。限定されるものではないが、組み合わせて用い得る基材としては、例えば、天然繊維、合成繊維、半合成繊維、無機繊維などからなる織布、編布、不織布などの布帛類;紙;プラスチックやゴムからなるフイルム、シート、板、その他の形状物;金属からなる箔、シート、板、その他の形状物;木材;セラミックなどを挙げることができる。
【0042】
熱可塑性樹脂組成物と基材との複合一体化に当たっては、それらの間の親和性、接着性などに応じて、例えば圧着、接着剤による接着、押出ラミネートのような成形と同時に積層を行う方法などの任意の方法を使用することができる。また、本発明の組成物を使うと配管内の内部にコート層を形成すべく、ガス管や水道管などの配管の内部側に溶液状態で塗布後、溶剤揮発させて多層構造を有する配管等を容易に得ることが出来る。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0044】
本実施例に示すブロック共重合体の分子量は以下に示す方法で測定した。
分子量測定方法:Waters社製GPCシステム(カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)、移動相:クロロホルム)。数平均分子量はポリスチレン換算で表記。
【0045】
以下に、イソブチレン系ブロック共重合体の製造例を示す。
(製造例1)スチレン含量30%のトリブロック構造共重合体(以下、SIBSと略す)
500mLのセパラブルフラスコの重合容器内を窒素置換した後、注射器を用いて、n−ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)97.6mL及び塩化ブチル(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)140.5mLを加え、重合容器を−70℃のドライアイス/メタノールバス中につけて冷却した後、イソブチレンモノマー47.7mL(505.3mmol)が入っている三方コック付耐圧ガラス製液化採取管にテフロン(登録商標)製の送液チューブを接続し、重合容器内にイソブチレンモノマーを窒素圧により送液した。p−ジクミルクロライド0.097g(0.42mmol)及びN,N−ジメチルアセトアミド0.073g(0.84mmol)を加えた。次にさらに四塩化チタン1.66mL(15.12mmol)を加えて重合を開始した。重合開始から75分撹拌を行った後、重合溶液約1mLをサンプリングして、イソブチレンの転化率を測定した。95%以上の転化率となった後、続いて、スチレンモノマー13.71g(131.67mmol)を重合容器内に添加した。この混合溶液を添加してから75分後に、大量の水に加えて反応を終了させた。
【0046】
反応溶液を2回水洗し、溶媒を蒸発させ、得られた重合体を60℃で24時間真空乾燥することにより目的のブロック共重合体を得た。得られたイソブチレン系ブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量は103,000であり、1H−NMRにより求めたポリスチレンの含有量は30重量%であった。
【0047】
(実施例、比較例)
A,B両成分を、表1に示した割合で総重量が200gになるように500mlのガラス製円筒容器(ビーカー)に入れ、20℃で攪拌翼を用いて内容物を均一溶解するまで24時間以上攪拌を継続して、目的の熱可塑性樹脂組成物を得た。この熱可塑性樹脂組成物の外観を目視にて、観察し評価した。
【0048】
評価結果を合わせて表1に示す。なお、使用した各成分の詳細および略号は以下の通りである。
成分(a)ブロック共重合体:
上記製造例1で製造したSIBS
スチレン−エチレン/プロピレン−スチレンブロック共重合体:
セプトン2007(株式会社クラレ社製) 数平均分子量87000、スチレン含有量30重量%(以下、SEPSと略す)
【0049】
(粘度測定)
実施例1〜3と比較例1〜2の熱可塑性樹脂組成物の粘度を、JIS K7117−1に従い23℃の条件下、1rpmと10rpmの回転数で測定した。結果は表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
(評価結果)
実施例1〜3と比較例1及び2を比較してわかるように、実施例の熱可塑性樹脂組成物は、完全溶解した均一な溶液となっていた。成型時を想定した10rpm時の粘度は、実施例1〜3と比較例1及び2の全てで200ポイズ以下であり、容易に成形できることが示唆された。一方、せん断応力が作用しない静態時の変形性を、(低せん断(1rpm)時の粘度)/(高せん断速度(10rpm)時の粘度)の比で観察した。比較例1及び2では上記比が1を示し、ニュートン流体(いわゆるたれ易い材料)であったのに対し、実施例1〜3では上記比が1よりも高く、非ニュートン流体(いわゆるたれ難い材料)であることが分かる。また、実施例1及び2は上記比が1.5以上を示し、静態時の変形性が低いことが分かる。実際に、実施例1〜3の熱可塑性樹脂組成物が200g入った500mlのガラス製円筒容器を2時間横倒しにしても、内容物は全く移動せず、せん断応力が作用しない状態で流動しないことが観察出来た。同様な操作を比較例1及び2の熱可塑性樹脂組成物に対し行ったところ、横倒すると同時に流動した。
【0052】
この様に、実施例1〜3の本発明に係る熱可塑性組成物は、柔軟性、緩衝性、ガスバリヤー性、機械強度などの優れた特性を有している本発明に用いられる熱可塑性ブロック共重合体を、加熱することなく、常温で成型加工可能な熱可塑性樹脂組成物として提供できることがわかる。
【0053】
また、実施例1〜3の熱可塑性樹脂組成物を、20℃でガラス上に約500ミクロンの膜厚でコーティングした後、ゆっくり加温し、100℃で溶剤を完全揮発させた上で、得られたシート層の機械特性を評価したが、いずれも、当該熱可塑性樹脂組成物が含有するブロック共重合体と同様の性能を保持していることが確認出来た。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により得られる熱可塑性樹脂組成物は、柔軟性、緩衝性、制振性、防音性、保温性、ガスバリヤー性、耐候性、熱的安定性等に優れるため、自動車内装用用途、家電用部材用途、食品用包装材用途、日用雑貨用途、玩具・運動用具用途、衣料用途、土木シート・防水シート・ガスケット・成型シール材・複層ガラス用シーリング等の土木・建築用途等に利用可能であり、特に、環境に優しい熱可塑性樹脂組成物として、シート、コーティング層、シーリング材や、さらには、ガス管や水道管などの配管の内部側に溶液状態で塗布後、溶剤揮発させて得られる多層構造を有する配管等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロックおよび脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックからなるブロック共重合体を、(b)リモネンに溶解させたことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ブロック共重合体(a)100重量部を、20〜900重量部のリモネンに溶解させたことを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ブロック共重合体(a)100重量部を、50〜400重量部のリモネンに溶解させたことを特徴とする請求項2記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(a)成分の芳香族系ビニル化合物が、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレンおよびインデンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
(a)成分の脂肪族炭化水素系化合物を構成単量体とする重合体ブロックが、イソブチレンを主成分とする重合体ブロックである請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
ブロック共重合体(a)の分子量が1万以上30万以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形後、リモネンを揮発させてなることを特徴とするシート。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形後、リモネンを揮発させてなることを特徴とするコーティング層。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を成形後、リモネンを揮発させてなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物のシーリング材。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載の組成物を、管の内部表面に塗布後、リモネンを揮発させてなる多層構造を有する配管。

【公開番号】特開2007−246815(P2007−246815A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74706(P2006−74706)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】