説明

熱可塑性樹脂組成物とその成形体

【課題】成形性良好で、かつ外観および耐剥離性に優れた熱可塑性樹脂組成物およびその熱可塑性樹脂成形物を提供すること。
【解決手段】乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)90〜10重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)及び極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を(A)と(B)の合計100重量に対して1〜30重量部含んでなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物ならびに、成形性良好で、かつ外観および耐剥離性に優れた熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸系樹脂及びポリプロピレン系樹脂とそれらに相容する極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体を構成成分とする熱可塑性樹脂組成物、それからなる成形品に関する。更に詳しくは、成形性良好で、かつ外観に優れ耐剥離性に優れた熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境問題への意識が高まる中、化石原料、石油資源の枯渇、二酸化炭素の増大が問題視されている。優れた成形性を有するポリ乳酸は、とうもろこし等の穀物資源から発酵により得られる乳酸を原料とする、植物由来の樹脂として注目されている。しかしながら、ポリ乳酸は、結晶性樹脂ながらその結晶化速度が著しく遅く、結晶性ポリ乳酸の融点は160〜180℃と高いものの、ガラス転移点が58℃なため非晶性ポリ乳酸の耐熱性は耐熱変形温度で60℃未満と低い、かつアイゾット衝撃強度が30J/mと劣り脆いという欠点があり、用途展開に限界があった。日常の環境下で使用すべく、これら乳酸系樹脂の改良が望まれている。
【0003】
ポリ乳酸に強度を改良すべくポリオレフィンを混合する系として、特開2000-327847号公報で、機械強度を改善している例が示されているが、ポリ乳酸系樹脂とポリオレフィン系樹脂の相容性は極端に低く、単に両者をブレンド、混練しただけでは、相分離、非相容となり、ポリ乳酸の分散粒子径は10μm以上と大きく、外観が悪くかつ成形品表面で層状剥離を起こし実使用は困難である(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000-327847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、乳酸系樹脂及びポリプロピレン系樹脂とそれらと相容性の高い極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体を構成成分とし、成形性を損なわずに、外観が良好でかつ耐剥離性に優れた熱可塑性樹脂組成物、およびその成形物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)90〜10重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)及び極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を1〜30重量部含んでなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0006】
極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)の極性官能基が塩基であることを特徴とする前記に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0007】
また、極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)がイミン変性SBS(C1)、イミン変性SBBS(C2)、イミン変性SEBS(C3)からなる群より選ばれた1種または2種以上の共重合体を含み、該共重合体の合計量が乳酸系樹脂(A)とポリプロピレン系樹脂(B)の合計量100重量部に対して1〜30重量部含んでなることを特徴とする前記の熱可塑性樹脂組成物が本発明の好ましい形態である。
【0008】
また、乳酸系樹脂(A)およびポリプリピレン系樹脂(B)の200℃におけるせん断速度1216sec-1下での溶融粘度が、下記式(1)の範囲を満たす樹脂であり、乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)90〜10重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)及び極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を1〜30重量部含み、乳酸系樹脂(A)の平均分散粒子径が1μm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物が本発明の好ましい形態である。
【0009】
【数1】

【0010】
ここで、Z(A)は乳酸系樹脂(A)の200℃、せん断速度1216sec-1下での溶融粘度であり、Z(B):ポリプロピレン系樹脂(B)の200℃、せん断速度1216sec-1下での溶融粘度である。
【0011】
前記の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体も本発明の好ましい形態である。
前記の熱可塑性樹脂組成物よりなるシートも本発明の好ましい形態である。
【0012】
動的粘弾性の温度依存性に関する試験法(JIS−K−7198、A法)100℃での貯蔵弾性率(E’)が20MPa以上で3000MPa以下であることを特徴とする前記シートは本発明の好ましい形態である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、成形性を損なわずに、外観が良好でかつ製品表面での耐剥離性に優れた熱可塑性樹脂組成物、およびその成形物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明においてシートとは、厚みが10μm〜13mm程度のシートまたはフィルムを両方含んだものをいうこととする。
【0015】
[乳酸系樹脂]
本発明において、乳酸系樹脂(A)とは、L-乳酸および/またはD-乳酸を主たる構成成分とする重合体およびそれを主成分とする重合体組成物を意味するものであり、乳酸単位を少なくとも50モル%以上、好ましくは75モル%以上含有する重合体を主成分とする重合体組成物をいう。乳酸の重縮合や乳酸の環状二量体であるラクチドの開環重合によって合成され、該重合体の性質を著しく損なわない範囲で乳酸と共重合可能な他のモノマーが共重合されたもの、他の樹脂、添加剤等が混合された組成物でもよい。乳酸系樹脂(A)のなかではポリ乳酸が好ましい。ポリ乳酸としてL体或いはD体の構成成分が高くなると耐熱性等が向上するため、そのL体の量が90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは98モル%以上である。或いはD体の量が90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、最も好ましくは98モル%以上である。
【0016】
乳酸と共重合可能なモノマーとしては、ヒドロキシカルボン酸(例えば、グリコール酸、カプロン酸等)、脂肪族多価アルコール(例えば、ブタンジオール、エチレングリコール等)や脂肪族多価カルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸等)、があげられる。乳酸系樹脂(A)がコポリマーの場合、コポリマーの配列の様式は、ランダム共重合体、交替共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれの様式でもよい。さらに、これらは少なくとも一部が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、エチレングリコール/プロピレングリコール共重合体、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリテトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン等の二官能以上等の多価アルコール、キシレンジイソシアネート、2、4-トリレンジイソシアネート等のような多価イソシアネートやセルロース、アセチルセルロースやエチルセルロース等のような多糖類等が共重合されたものでもよく、少なくとも一部が、線状、環状、分岐状、星形、三次元網目構造、等のいずれの構造をとってもよく、何ら制限はない。
【0017】
乳酸系樹脂(A)は、上記原料を直接脱水重縮合する方法、または上記乳酸類やヒドロキシカルボン酸類の環状二量体、例えばラクタイドやグリコライド、あるいはε-カプロラクトンのような環状エステル中間体を開環重合させる方法により得られる。
【0018】
直接脱水重縮合して製造する場合、原料である乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を、脂肪族ジカルボン酸類および脂肪族ジオール類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合する。乳酸系樹脂(A)の重量平均分子量は、5万以上100万以下であり、好ましくは8万以上50万以下であり、更に好ましくは10万以上30万以下である。この分子量範囲で、耐熱性、耐衝撃強度、強度、成形性、加工性が良好である。
【0019】
[ポリプロピレン系樹脂]
本発明で使用するポリプロピレン系樹脂(B)は、公知の方法で製造されたものを用いることができ、例えば高立体規則性触媒を用いてスラリー重合、気相重合あるいは液相塊状重合により製造されるもので重合方法としてはバッチ重合、連続重合のどちらの方法も採用することができる。
【0020】
また、本発明に係るポリプロピレン系樹脂(B)としては、プロピレンを構成単位として少なくとも1%以上、好ましくは10%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは75%以上含むものであり、他の構成成分としてはα-オレフィンとしては、エチレンまたは炭素数4〜20のα-オレフィン、具体的には1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセンなどがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0021】
また、本発明ではメルトフローレート(MFR:ASTM D1238;230℃、2.16kg荷重下で測定)が1g/10分を超え150g/10分以下であるポリプロピレン系樹脂(B)が用いられる。このMFRは好ましくは2〜100g/10分、さらに好ましくは4〜80g/10分である。
【0022】
本発明では、上記のようなMFR値を有するポリプロピレン系樹脂(B)は、ホモポリプロピレンおよび/またはプロピレンブロック共重合体が好ましく用いられ、n-デカン可溶成分を0.1〜40重量%、好ましくは0.1〜35重量%、特に好ましくは0.1〜30重量%の量で含有しても良い。
【0023】
ポリプロピレン系樹脂(B)の23℃デカン可溶成分量は、下記のように測定される。1リットルのフラスコに、3gの試料(ポリプロピレン系樹脂)、20mgの2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、500mlのn-デカンを入れ、145℃で加熱して溶解させる。溶解後8時間をかけて23℃まで冷却し、23℃で8時間維持する。析出した固体と、溶解した重合体を含むn-デカン溶液とをグラスフィルターで濾過分離する。液相を減圧下150℃で恒量になるまで乾燥し、その重量を測定する。得られた重合体溶解量を、試料の重量に対する百分率として算出し、ポリプロピレン系樹脂(B)の23℃デカン可溶分量とする。
【0024】
このポリプロピレン系樹脂(B)の結晶性は、その23℃デカン不溶成分のアイソタクチック-ペンタッド分率[I]は、0.95〜0.99好ましくは0.96〜0.99であることが望ましい。このペンタッドアイソタクティシティは、23℃デカン不溶成分の13C-NMRスペクトルから常法により求めることができる。
ポリプロピレン系樹脂(B)が、プロピレンブロック共重合体である場合には、23℃デカン可溶成分を、4〜40重量%、好ましくは4〜35重量%、より好ましくは4〜30重量%の量で含有していることが望ましい。
【0025】
さらに、本発明に用いるポリプロピレン系樹脂(B)は、分岐状オレフィン類たとえば3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルノルボルナン、アリルノルボルナン、スチレン、ジメチルスチレン、アリルベンゼン、アリルトルエン、アリルナフタレン、ビニルナフタレンなどの単独重合体または共重合体を、予備重合体として0.1重量%以下、好ましくは0.05重量%以下含有していてもよい。これらの中では、特に3-メチル-1-ブテンなどが好ましい。このような分岐状オレフィン類から導かれる予備重合体は、ポリプリピレンの核剤として作用するので、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)を高くすることができるほか、成形性を向上させることができる。
【0026】
前記予備重合体以外の核剤としては、従来知られている種々の核剤、たとえばフォスフェート系核剤、ソルビトール系核剤、芳香族カルボン酸の金属塩、脂肪族カルボン酸の金属塩、ロジン系化合物等の有機系の核剤および/または無機化合物等の無機系の核剤などが特に制限なく用いることができる。具体的には、有機リン酸金属塩であるNA-11UY(旭電化工業(株)製、商標)、ロジン系核剤であるパインクリスタルKM160(荒川化学(株)製、商標)などがあげられる。核剤は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。核剤の配合量は、本発明のポリプロピレン系樹脂(B)中の配合量として、通常0〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%であるのが望ましい。
【0027】
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂(B)は、ガラス曇りを抑制し、耐熱劣化を防ぎ、加工安定性・耐久性の向上のために下記の酸化防止剤および/または脂肪酸の非アルカリ金属塩成分を含有させてもよい。含有方法は特に制限されないが、通常重合パウダーに混合後、押出機にて溶融混練して含有させることができる。
【0028】
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂(B)に含有させることのできる酸化防止剤としては公知のものを用いることができる。好ましくは、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であり、さらに好ましくは105℃以上の融点を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤である。105℃以上の融点を有するヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリチル-テトラキス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレート、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌレート、(2,2’-メチレンビス[4-メチル-6-t-ブチルフェノール])、3,9-ビス[2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)-プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等をあげることができる。ポリプロピレン系樹脂(B)100重量部当たり0.01〜0.5重量部、とりわけ0.03〜0.2重量部用いるのが好ましい。
【0029】
本発明で用いるポリプロピレン系樹脂(B)に含有させることのできる脂肪酸の非アルカリ金属塩は、600以上の分子量、110℃以上の融点を有する脂肪酸の非アルカリ金属塩が好ましい。600以上の分子量、110℃以上の融点を有する脂肪酸の非アルカリ金属塩としては、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛、1,2-ヒドロキシステアリン酸カルシウム、1,2-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、1,2-ヒドロキシステアリン酸亜鉛等をあげることができる。ポリプロピレン系樹脂(B)100重量部当たり0.01〜1重量部、とりわけ0.04〜0.5重量部用いるのが好ましい。
【0030】
[極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体]
本発明で用いられる極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)は、すなわち、芳香族ビニルから導かれるブロック共重合体(X)と共役ジエンから導かれるブロック共重合体(Y)からなる芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体であって極性反応基を有しているものである。
【0031】
上記の芳香族ビニルから導かれるブロック共重合体(X)を形成する芳香族ビニルとしては、スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、p-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-ドデシルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレンなどがあげられる。これらのうち、スチレンが好ましい。
【0032】
上記の共役ジエンから導かれるブロック重合単位(Y)を形成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエンがあげられる。これらを1種または2種以上組み合わせても良い。これらのうちブタジエンまたはイソプレンまたはブタジエンとイソプレンとの組合せが好ましい。
【0033】
また、ブタジエン・イソプレン共重合単位からなる共役ジエンブロック重合単位(Y)は、ブタジエンとイソプレンとのランダム共重合単位、ブロック共重合単位またはテーパード共重合単位のいずれであってもよい。
【0034】
前記の本発明に用いる芳香族ビニルから導かれるブロック共重合体(X)と共役ジエンから導かれるブロック共重合体(Y)からなる芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体は、例えば、芳香族ビニルブロック共重合体(X)が、共役ジエンゴムブロック共重合体(Y)の橋かけ点として存在して物理架橋を形成しており、この芳香族ビニルブロック単位(X)間に存在する共役ジエンブロック単位(Y)は、ソフトセグメントであってゴム弾性を有する。具体的にはポリスチレン-ポリブタジエンまたはポリイソプレンまたはポリイソプレン・ブタジエン-ポリスチレンブロック共重合体が好ましい。
【0035】
前記芳香族ビニルから導かれるブロック共重合体(X)と共役ジエンから導かれるブロック共重合体(Y)からなる芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体は、X(YX)または、(XY)〔nは1以上の整数〕で示される。このうちX(YX)特にX-Y-Xの形態のものが好ましい。
【0036】
本発明で用いる極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)は、極性官能基を有する芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体であり、公知効用の方法により得ることができる。
【0037】
前記極性官能基としては、塩基であることが好ましい。更に塩基性官能基の中でも、特にアミノ基、イミノ基が好ましく。1種または2種以上の塩基性官能基を有していても良い。具体的には官能基としてイミノ基を有するイミン変性したSBS(C1)、イミン変性したSBBS(C2)、イミン変性したSEBS(C3)が好ましい。
【0038】
本発明で用いられる極性官能基で変成された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)は、そのまま用いても良く、また残存した脂肪族二重結合に水素を付加させた、水添ブロック共重合体でも良い。水添する方法は公知の方法を用いても良い、水添率は特に制限されない。
【0039】
本発明で用いられる極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)は、前記の芳香族ビニルブロック重合単位(X)含有量が15重量%以上、好ましくは15〜50重量%の量で含有し、MFR(230℃、2.16kg荷重下)が1〜50g/10分、好ましくは2〜30g/10分である。
【0040】
本発明で用いられる極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)は公知公用の方法で製造したものを用いることができる。例えば特開2003-313255号公報に記載されている方法を用いてもよい。一般的に市販されているものとして、旭化成(株)から市販されているN503、N501があげられる。
【0041】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、乳酸系樹脂(A)を10〜90重量部、好ましくは30〜70重量部、ポリプロピレン系樹脂を(B)90〜10重量部、好ましくは70〜30重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)及び極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を(A)と(B)の合計100重量部に対して1〜30重量部、好ましくは4〜20重量部含んでなる組成物である。
【0042】
本発明で用いる乳酸系樹脂(A)とポリプロピレン系樹脂(B)の溶融粘度を、式(1)の範囲下で組み合わせると、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の島相の平均分散粒子径が1μmになる。
【0043】
【数2】

【0044】
ここで、Z(A)は乳酸系樹脂(A)の200℃、せん断速度1216sec-1下での溶融粘度であり、Z(B)はポリプロピレン系樹脂(B)の200℃、せん断速度1216sec-1下での溶融粘度である。式(1)の値が3以上6以下の場合には、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の島相の分散粒子径が小さく、外観が良好で、耐剥離性に優れた成形品が得られる。
【0045】
上記溶融粘度の測定は、東洋精機(株)製キャピログラフ:型式1Cを使用し常法に従い以下の条件で実施した。該樹脂を200℃のシリンダー内で6分間溶融し、長さが30mmかつ径が1mmのキャピラリーを用い、100mm/分の速度で押出した際にせん断速度が1216sec-1下となり、同せん断速度下で溶融粘度を測定した。
【0046】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物は、用途に応じ目的の物性低下を起こさない範囲で公知公用の無機フィラー、ラバー、相容化剤を添加してもよい。
【0047】
[無機フィラー]
無機フィラー(D)としては一般的に公知公用のものが添加できる。具体的なものとしては、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、ガラス繊維、ガラスビーズ、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、ワラストナイト、ケイ酸カルシウム繊維、炭素繊維、マグネシウムオキシサルフェート繊維、チタン酸カリウム繊維、酸化チタン、亜硫酸カルシウム、ホワイトカーボン、クレー、モンモリロナイト、硫酸カルシウムなどがあげられる。無機フィラー(D)は1種または2種以上を組み合わせて添加することもできる。無機フィラー(D)の中ではガラス繊維、炭素繊維、マイカ、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタンが好ましいが、特にタルク、酸化チタンが好ましい。タルクを用いると、得られる成形品の耐熱性および耐衝撃強度が高くなるので、タルクが好ましく用いられる。また、酸化チタンを用いた場合に得られるシートでは紙のような外観を示すので、好ましく用いられる。特に平均粒子径が0.1〜5μm、好ましくは0.5〜4μmのタルクおよび酸化チタンを用いた場合は、外観に優れた成形品を得ることができるので望ましい。本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)10〜90重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)に対し、無機フィラー(D)の添加量は、0.1〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。
【0048】
[ラバー]
衝撃強度を向上させるために、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物に公知公用のラバーを添加することができる。具体的なものとしては、エチレン・α-オレフィン共重合ゴム、共役ジエン系ゴム、スチレン系ゴムまたは生分解性のエステル系ゴム等のラバー成分を適宜量配合することもできる。このようなラバー(E)の具体的なものとしては、エチレン・1-ブテン共重合体ゴム、エチレン・1-オクテン共重合体ゴム、プロピレン・エチレン共重合体ゴム等のジエンを含まない非晶性または低結晶性のα-オレフィン共重合体;エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン共重合ゴム、エチレン・プロピレン・1、4-ヘキサジエン共重合ゴム、エチレン・プロピレン・シクロオクタジエン共重合ゴム、エチレン・プロピレン・メチレンノルボルネン共重合ゴム、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合ゴム等のエチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴム;エチレン・ブタジエン共重合体ゴム、またスチレン系ゴムとして具体的には、スチレン・ブタジエン・スチレン系のSBSラバー、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン系のSBBSラバー、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系のSEBSラバー、さらにそれらを酸等で変性した、マレイン化変性SBS、マレイン化変性SBBS、マレイン化変性SEBS、生分解性のエステル系ゴムとして具体的には、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンテレフタレートアジペート等およびそれらのイソシアネート架橋体が使用できる。ラバーは1種または2種以上を組み合わせて使用することもできる。本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の耐熱性と耐衝撃強度の物性バランスが優れるものとしては、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系のSEBSおよびスチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレン系のSBBSが望ましい。本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)10〜90重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)に対し、ラバーの添加量は、0.1〜30重量部であることが好ましく、より好ましくは1〜20重量部である。
【0049】
[相容化剤]
本発明で示す相容化剤とは、本発明に用いる乳酸系樹脂(A)とポリプロピレン系樹脂(B)の相容性を向上させ、本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の島相分散径を小さくするものである。本発明に用いる極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)以外に、公知公用のものを用いることができる。例えば、本発明に用いる乳酸系樹脂(A)とポリプロピレン系樹脂(B)の両者に相容する基を有するブロック共重合体であり、一般に市販されているものとして、エポキシ基を有する住友化学(株)から市販されているボンドファーストEや、グリシジル基を有する日本油脂(株)から市販されているモディパーA4200およびカルボキシル基を有する三井化学(株)から市販されているタフマーMH7010などがあげられる。さらに、以下に示す相容化剤(F1)〜(F3)も用いることができる。
【0050】
本発明で示す相容化剤(F1)とは、ポリプロピレン系樹脂(B)にカルボジイミド基と反応する基を導入したポリプロピレン系樹脂(b1)とカルボジイミド基含有化合物とを反応させたものであり、公知公用の方法を用いて得ることができる。
【0051】
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物としては、カルボジイミド基と反応性を有する活性水素を持つ基を有する化合物があげられ、具体的には、カルボン酸、アミン、アルコール、チオール等から由来する基を持つ化合物である。これらの中では、カルボン酸から由来する基を持つ化合物が好適に用いられ、中でも特に不飽和カルボン酸および/またはその誘導体が好ましい。また、活性水素を持つ基を有する化合物以外でも、水などにより容易に活性水素を有する基に変換される基を有する化合物も好ましく使用することができ、具体的にはエポキシ基、グリシジル基を有する化合物があげられる。本発明において、カルボジイミド基と反応する基を有する化合物は、1種または2種以上を使用してもよい。
【0052】
本発明において、カルボジイミド基と反応する基を有する化合物として不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を用いる場合、カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物、無水カルボン酸基を1以上有する不飽和化合物およびその誘導体を挙げることができ、不飽和基としては、ビニル基、ビニレン基、不飽和環状炭化水素基などをあげることができる。具体的な化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸、またはこれらの酸無水物あるいはこれらの誘導体(例えば酸ハライド、アミド、イミド、エステルなど)があげられる。具体的な化合物の例としては、塩化マレニル、マレニルイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、テトラヒドロフタル酸ジメチル、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸ジメチル、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メタクリル酸アミノエチルおよびメタクリル酸アミノプロピルなどをあげることができる。
【0053】
前記カルボン酸誘導体の中でも無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、メタクリル酸アミノプロピルが好ましい。更には、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト-2-エン-5,6-ジカルボン酸無水物などのジカルボン酸無水物であることが特に好ましい。これらを1種または2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0054】
カルボジイミド基と反応する基を有する化合物をポリプロピレン系樹脂(B)に導入する方法としては、公知公用を用いることができる、例えば、ポリプロピレン系樹脂(B)にカルボジイミド基と反応する基を有する化合物をグラフト共重合する方法や、オレフィンとカルボジイミド基と反応する基を有する化合物をラジカル共重合する方法等を用いることができる。
本発明で使用されるカルボジイミド基と反応する基を導入したポリプロピレン系樹脂(b1)中におけるカルボジイミド基と反応する基を有する化合物の含有量は、0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜3.0重量%、さらに好ましくは0.1〜1.0重量%である。
【0055】
本発明に用いられるカルボジイミド基含有化合物は、下記一般式(2)に示される繰り返し単位を有するポリカルボジイミドを含むものである。
【0056】
【化1】

〔式中、R1は2価の有機基を示す〕
【0057】
本発明に用いられるカルボジイミド基含有化合物は、ポリカルボジイミド中にモノカルボジイミドを含んでもよく、単独又は複数の化合物を混合して使用することも可能である。ポリカルボジイミドの合成法は公知公用の方法で合成することができる。例えば有機ポリイソシアネートを、イソシアネート基のカルボジイミド化反応を促進する触媒の存在下で反応させることにより、ポリカルボジイミドを合成することができる。
【0058】
本発明で用いられるカルボジイミド基含有化合物のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めたポリスチレン換算数平均分子量(Mn)は、通常400〜500,000、好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは2,000〜4,000である。
【0059】
なお、市販のカルボジイミド基含有化合物をそのまま使用することも可能である。市販のカルボジイミド基含有化合物(b)としては、例えば日清紡績株式会社製 カルボジライトHMV-8CAやLA1などが挙げられる。
【0060】
本発明の相容化剤(F1)は、カルボジイミド基と反応する基を有するプロピレン系樹脂(b1)とカルボジイミド基含有化合物とを反応させ得られる。具体的には、溶融変性などのように溶融混練することにより得ることが可能であるが、この方法に限定されるものではない。
【0061】
本発明に用いる相容化剤(F1)中のカルボジイミド基と反応する基とカルボジイミド基との反応の進行度合いは、以下の方法により調査することが可能である。
【0062】
本発明に用いるカルボジイミド基と反応する基を有するプロピレン系樹脂(b1)と相容化剤(F1)の熱プレスシートを作成した後に、赤外吸収分析装置を用いて赤外線吸収チャートを測定する。得られたチャートから、カルボジイミド基と反応する基を有するプロピレン系樹脂(b1)および本発明に用いる相容化剤(F1)中のカルボジイミド基と反応する基を有する化合物のピーク強度に起因する吸収帯(無水マレイン酸を用いた場合は、1790cm-1)の吸光度を測定し、カルボジイミド基含有化合物との反応前後の吸光度を比較して、下記式用いて反応率を計算できる。
【0063】
【数3】

【0064】
本発明の相容化剤(F1)について上記方法で求めた反応率は40〜100%、好ましくは50〜100%、更に好ましくは90〜100%である。
【0065】
本発明の相容化剤(F1)を製造するにあたり、カルボジイミド基含有化合物の配合量は、カルボジイミド基と反応する基を有するプロピレン系樹脂(b1)とカルボジイミド基含有化合物(b)を反応させた樹脂組成物100グラムに対し、カルボジイミド基の含量が通常1〜200mmol、好ましくは10〜150mmol、更に好ましくは30〜100mmolである。
【0066】
本発明にかかる相容化剤(F2)は、乳酸系樹脂(A)とプロピレン系樹脂(B)が共有結合を介してブロック状およびまたはグラフト状に結合している構造を有する共重合体である。
【0067】
また、本発明にかかる相容化剤(F2)の分子量は、公知の方法で測定することができる。例えば、1,2-ジクロロベンゼンを溶媒に用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。また、相容化剤(F2)中の乳酸系樹脂(A)と、プロピレン系樹脂(B)との共重合体組成比は、公知の方法で知ることができる。例えば、共重合体を重水素化1,2-ジクロロベンゼンに溶解し、120℃でプロトンNMRスペクトルを測定することにより知ることができる。相容化剤(F2)の分子量と各セグメントの組成比とから、各セグメントの分子量を知ることができる。例えば、共重合体の数平均分子量が4万であり、乳酸系樹脂(A)と、プロピレン系樹脂(B)との組成比が1:1である場合、乳酸系樹脂(A)の分子量は2万、プロピレン系樹脂(B)の分子量は2万である。
【0068】
本発明で示す相容化剤(F2)の製造方法においては公知公用の方法を用いることができる。例えば、水酸基を含有したプロピレン系樹脂(b2)の存在下にラクチドまたは乳酸を主成分とするモノマーを重合させる。
【0069】
本発明に用いられる水酸基を含有したプロピレン系樹脂(b2)はプロピレン系樹脂(B)にヒドロキシル基を有するビニルモノマーがグラフト重合したグラフト変性ポリオレフィン樹脂である。ヒドロキシル基を有するビニルモノマーのグラフト量はプロピレン系樹脂およびビニルモノマーの合計に対して0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。
【0070】
前記プロピレン系樹脂(B)にグラフトさせるヒドロキシル基を有するビニルモノマーとしては、例えば2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート等をあげることができる。これらの中では2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が最も好ましい。ヒドロキシル基を有するビニルモノマーは1種、または2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0071】
本発明に用いられる水酸基を含有したポリプロピレン系樹脂(b2)を製造するには公知の方法が採用できるが、前記プロピレン系樹脂(B)、ヒドロキシル基を有するビニルモノマーおよびラジカル重合開始剤を混合後、例えば押出機で溶融混練することができる。
【0072】
前記プロピレン系樹脂(B)にヒドロキシル基を有するビニルモノマーをグラフト重合する際に用いられるラジカル重合開始剤としては、具体的には3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド(1)、オクタノイルペルオキシド(2)、デカノイルペルオキシド(3)、ラウロイルペルオキシド(4)、コハク酸ペルオキシド(5)、アセチルペルオキシド(6)、t-ブチルペルオキシ(2-エチルヘキサノエート)(7)、m-トルオイルペルオキシド(8)、ベンゾイルペルオキシド(9)、t-ブチルペルオキシイソブチレート(10)、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)3,5,5-トリメチルシクロヘキサン(11)、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン(12)、t-ブチルペルオキシマレイン酸(13)、t-ブチルペルオキシラウレート(14)、t-ブチルペルオキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサノエート(15)、シクロヘキサノンペルオキシド(16)、t-ブチルペルオキシイソプロピルカルボネート(17)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン(18)、t-ブチルペルオキシアセテート(19)、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン(20)、t-ブチルペルオキシベンゾエート(21)、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート(22)、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート(23)、メチルエチルケトンペルオキシド(24)、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(25)、ジクミルペルオキシド(26)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(27)、t-ブチルクミルペルオキシド(28)、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド(29)、ジ-t-ブチルペルオキシド(30)、p-メンタンヒドロペルオキシド(31)、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3(32)、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド(33)、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド(34)、クメンヒドロペルオキシド(35)、t-ブチルヒドロペルオキシド(36)などがあげられる。これらの中では特に(12)〜(36)の化合物が好ましい。
【0073】
前記ラジカル重合開始剤(g)の配合量は、前記ヒドロキシル基を有するビニルモノマー(f)100重量部に対して0.01〜10重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部であるのが好ましい。
【0074】
上記ラクチド及び乳酸以外のその他のモノマーとしては、カプロラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン等の環状エステル(ラクトン)類、ヒドロキシブタン酸、ヒドロキシプロパン酸等のヒドロキシアルカン酸類を用いることができる。
【0075】
本発明に示す相容化剤(F2)の製造方法において、上記水酸基を含有したポリプロピレン系樹脂(b2)の存在下にラクチドまたは乳酸を重合させる場合、用いる触媒および製造法には公知のものが使用できる。前記触媒として、好ましくはスズ系触媒、アルミニウム系触媒である。更に、好ましくは、オクタン酸スズを使用し、その量はラクチドに対して0.01〜5重量%である。
【0076】
重合温度は、60℃から230℃の範囲から適宜選択される。好ましくは、100℃〜200℃である。たとえば、溶媒にキシレンを用い、触媒としてオクタン酸スズを用いて変性ポリオレフィン樹脂にラクチドを反応させる場合、反応温度は110〜150℃程度が好ましい。
【0077】
本発明において相容化剤(F3)とは、アクリル単位を構成成分として含む樹脂とプロピレン系樹脂(B)が共有結合を介してブロック状およびまたはグラフト状およびまたはランダム状に結合している構造を有する共重合体である。
アクリル単位を構成成分として含む樹脂においては、アクリル単位を少なくとも50mol%以上含むことが必要であり、75mol%以上含有することが好ましい。アクリル単位としては、アクリル酸単位が好ましく、好適例としてメタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位およびアクリル酸ブチル単位をあげることができる。これらの構成成分が複数含まれていてもよい。
【0078】
また、相容化剤(F3)中のアクリル単位を構成成分として含む樹脂とプロピレン系樹脂(B)との共重合体組成比は、公知の方法で知ることができる。例えば、相容化剤(F3)を重水素化1,2-ジクロロベンゼンに溶解し、120℃でプロトンNMRスペクトルを測定することにより知ることができる。相容化剤(F3)の組成は目的に応じて適切に変更することができる。組成はアクリル単位を構成成分として含むセグメント(e)とプロピレン系ポリオレフィンセグメント(a)との重量比が好ましくは10/90〜90/10、より好ましくは20/80〜80/20である。
【0079】
また、相容化剤(F3)の分子量は、公知の方法で測定することができる。例えば、1,2-ジクロロベンゼンを溶媒に用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
【0080】
相容化剤(F3)の分子量と各セグメントの組成比とから、各セグメントの分子量を知ることができる。例えば、相容化剤(F3)の重量平均分子量が4万であり、アクリル単位を構成成分として含む樹脂)とプロピレン系樹脂(B)との組成比が重量比で1:1である場合、アクリル単位を構成成分として含む樹脂の重量平均分子量は2万とプロピレン系樹脂(B)の重量平均分子量は2万である。相容化剤(F3)の重量平均分子量に特に制限はないが、好ましくは2000以上20万以下、より好ましくは1万以上10万以下である。
【0081】
(末端位に水酸基を有するポリプロピレンの製造)
三井化学社製ポリプロピレン([η]=7.6)を、プラストミルを用いて窒素雰囲気下、360℃で熱分解処理した。処理して得られた重合体の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定から、26500g/molであった。IR分析の結果から、1重合体鎖当たり0.74個のビニリデン基が存在した。
【0082】
この末端ビニリデン基含有ポリプロピレン25.0gを充分窒素置換した1000mlのガラス製反応器に入れ、デカン800mlおよびジイソブチルアルミニウムヒドリド6mmolを加えて140℃で6時間加熱攪拌を行った。デカン溶液を140℃に保ちながら、乾燥空気を200リットル/hの流量で6時間供給しつづけた後、100℃の溶液温度で10mlのイソブチルアルコールを加えた。反応溶液を、1N塩酸水50mlを含んだメタノール(1.5L)/アセトン(1.5L)混合溶液中に加えてポリマーを析出させ、濾過により回収したポリマーを80℃、減圧下、10時間乾燥して24.8gのポリマーを得た。NMR分析の結果、ポリマー末端に水酸基が存在しており、ポリマー片末端の40%が水酸基であった。
【0083】
(ラジカル重合開始末端を有す末端エステル化ポリプロピレンの製造)
上記により得られた末端水酸基含有ポリポリプロピレン57.4gを、脱気窒素置換された1L2口ナスフラスコに入れ、乾燥トルエン500ml、トリエチルアミン4.1ml、2-ブロモイソブチリルブロミド3.1mlをそれぞれ添加し、80℃に昇温し、3時間加熱撹拌した。
【0084】
スラリー状反応混合液にメタノール20mlを加え、室温まで冷却した後、ポリマーをグラスフィルターで濾過した。このとき、グラスフィルター上のポリマーをメタノール100mlで2回、1N塩酸100mlで2回、純水100mlで2回、メタノール100mlで2回順次洗浄した。ポリマーを50℃、10Torrの減圧条件下で10時間乾燥させた。1H-NMRの結果、末端水酸基がエステル化されたポリマーを得た。
【0085】
相容化剤(F3)の製造法として、ジムロートと攪拌棒を取り付けた500mLガラス製反応器を十分に窒素ガスで置換し、上記末端エステル化ポリプロピレン28.8g、メタクリル酸メチル(MMA)30.3ml、o-キシレン 98.2mlを入れ、ゆっくり攪拌しながら120℃まで昇温させた。 別の窒素置換されたシュレンク瓶に臭化銅(I)100mg、N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチルトリアミンの2M o-キシレン溶液0.63ml、o-キシレン5.0mlを混合させた均一溶液を重号器に導入し120℃まで昇温し、350rpmで攪拌させながらMMAの重合を開始した。
【0086】
7.0時間後、トルエン150mlを加え希釈し、イソブチルアルコール20mlを加え、室温まで冷却した。 重合混合液をメタノール1.5Lに注ぎポリマーを析出させた。析出したポリマーをグラスフィルターで濾別し、メタノール20mlで2回洗浄した後、80℃、15Torrの減圧条件下で10時間乾燥させた。
核磁気共鳴(NMR)分析の結果より、約33wt%の未反応のホモポリプロピレンを含む、36.3wt%のメタクリル酸メチルセグメントを有すポリプロピレン-ポリメタクリル酸メチルブロック共重合体(F3)を得た。
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内で用途に応じて、その他添加剤を添加することが可能であり、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤など)、難燃剤(臭素系難燃剤、燐系難燃剤、メラミン化合物など)、滑剤、離形剤、帯電防止剤、表面ぬれ改善剤、染料や顔料を含む着色剤、結晶核剤(有機結晶核剤・有機カルボン酸金属塩など)結晶化促進剤、可塑剤、アンチブロッキング剤、静電防止剤、防曇剤、末端封鎖剤(エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物)、その他樹脂などを添加できる。これらの添加剤は1種または2種以上を含有させて使用することができる。
【0088】
本発明に用いる結晶核剤としては公知効用のものを用いることができる。好ましくは有機結晶核剤、有機カルボン酸金属塩がこのましい。有機結晶核剤としてはアミド結合を持つ脂肪族カルボン酸アミドを含んでなる有機化合物が好ましい。具体的には、カプリン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、べへミン酸アミドなどの炭素数8から30の脂肪族カルボン酸モノアイミドやメチレンビスステアリン酸アイミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスべへミン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレエンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミト゛、ヘキサメチエレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスべへミン酸アミト゛、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミト゛のような脂肪族カルボン酸ビスアミドなど分子内にアミド結合を有する脂肪族アミト゛類を挙げることができる。
【0089】
特にエチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミト゛、ヘキサメチレンビスベヒミン酸アミドなどが好ましく用いることができる。 本発明における有機結晶核剤の総添加量は、本発明にかかる熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.1〜1.5重量部さらに好ましくは、0.2〜1.0重量部である。
【0090】
本発明においては上記有機結晶化核剤のうち、特にエチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスべへミン酸アミドの中から選ばれた少なくとも1種または2種以上を組み合わせてもよい。
【0091】
本発明における結晶化促進剤はその添加により、有機結晶化核剤を含む本発明にかかる熱可塑性樹脂をいずれかの方法、例えば、熱処理により結晶化させる方法で結晶化させたときに結晶化速度を促進する作用を有するものである。
【0092】
ジ-N-オクチルテフタレート、ジー2−エチルへキシルテレフタレート、ジベンジルテレフタレート、ジイソデシルテレフタレート、ジトリデシルテレフタレート、ジウンデシルテレフタレートなどのフタール酸誘導体、ジオクチルイソフタレートなどのイソフタレート酸誘導体、ジーn−ブチルアジペート、ジオクチルアイジペートなどのアジピン酸誘導体、ジーn-ブチルマレエートなどのマレイン酸誘導体、トリ-N-ブチルシトレート等のクエン酸誘導体、モノブチルイタコネートなどのイタコン酸誘導体、ブチルオレートなどのオレイン酸誘導体、グレセリンモノシノレートなどのリシノール誘導体、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェートなどのリン酸エステルなどの低分子化合物、ポリエチレンアジペート、ポリアクリレートアレチルクエン酸トリブチルなどのヒドロキシ多価カルボン酸エステル類、グレセリントリアセテートやグレセリントリプロピオネートなどの多価アルコールエステル類、ポリチレングリコール、
ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール誘導体、ベンジル−2−(2−メトキシエトキシ)エチルアジペートなどが挙げられる。
【0093】
特に小量で結晶化速度を促進する効果を示し、安価かつ容易に入手できるクエン酸誘導体、ポリアルキレングリコール誘導体、ヒドロキシ多価カルボン酸エステル類、多価アルコールエステル類などが好ましく用い
られる。
【0094】
ポリエチレングリコール、ATBC(商品名;ジェイ・プラス(株)製)、ダイファッティ101(商品名;大八化学(株)製)、リケマールPL−710(商品名;理研ビタミン(株)製)、ラクトサイザーGP4001(商品名;荒川化学(株)製)などは、比較的安価かつ容易に入手でき結晶化促進効果も高く好ましく用いることができる。
【0095】
結晶化促進剤の添加量は本発明にかかる熱可塑性樹脂100重量部に対して0.5〜7重量部であり、さらに好ましくは1〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部である。
【0096】
本発明に用いる滑剤としては、公知公用のものを用いることができる。例えば、流動パラフィン、マイクロクリスタンワックス、天然パラフィン、合成パラフィン、ポリエチレン等の脂肪族炭化水素系滑剤、ステアリン酸、ラウリン酸、ヒドロキシステアリン酸、硬化ひまし油等の脂肪族系滑剤、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、オレイン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスベヘミン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等の脂肪族アミド系滑剤、ステアリン酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの炭素数12〜30の脂肪族金属塩である金属石鹸系滑剤、モンタンサンワックスなどの長鎖エステルワックスなど、またはこれらを複合した複合滑剤が挙げられる。
【0097】
滑剤の使用量は、本発明にかかる熱可塑性樹脂物100重量部に対して0.1〜2重量部、好ましくは0.2〜1.5重量部、より好ましくは0.3〜1重量部である。
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法については一般的に公知な方法を用いることができる。たとえば、乳酸系樹脂(A)、ポリプロピレン系樹脂(B)および極性官能基で変性した芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)と必要に応じて無機フィラー(D)、ラバー(E)、相容化剤(F)および添加剤等を予めブレンドした後、樹脂の融点以上において充分な混練能力のある一軸または多軸押出機を用いて、均一に溶融混練する方法をあげることができる。分散をよくする意味で二軸押出機を用いることが好ましい。さらに、溶融時に混合混練する方法や、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などを採用することもできる。
【0099】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の成形品は、公知公用の押出成形、射出成形、カレンダー成形、ブロー成形等の成形加工技術で製造することができる。さらに、得られた成形品を熱処理することにより、成形品の耐熱性をさらに向上させることもできる。
【0100】
押出成形により得られたシートを延伸加工することにより延伸シートを製造することもできる。
【0101】
また、必要に応じてシート表面に帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリア性、密着性および接着性および易接着性などの機能を有する層をコーティングにより形成することができる。例えばシート片面あるいは両面に、帯電防止剤を含む水性塗工液を塗布・乾燥することにより帯電防止層を形成することができる。また、必要に応じて、他樹脂および他シートをラミネートすることにより、帯電防止性、防曇性、粘着性、ガスバリア性、密着性および接着性および易接着性などの機能を形成することができる。その際、押出しラミ、ドライラミなどの公知の方法を用いることができる。
【0102】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、自動車部品(内装・外装部品など)、各種筐体等の電化製品用樹脂部品、建材、土木資材、家具部材、農業資材、遊技機用資材、食器、スポーツ資材、楽器および日用品など各種用途に利用することができる。たとえば、自動車部品としての各種レバー、各種ハンドル、ホイールキャップ、コピー機、パソコン、プリンター、電子楽器、家庭用ゲーム機、携帯型ゲーム機などのハウジングや内部部品、カーテン部品、ブラインド部品、ルーフパネル、皿、コップ、スプーン、食品容器、コンテナー、栽培容器、ゴルフティー、ゴルフクラブ、シャンプーボトル、キャンディ包装、シュリンクラベル、蓋材料、包装用フィルム、ショッピングバック、ゴミ袋、楽器、キャリアーテープ、印刷用シート、離型シート、多孔性シート、コンテナバッグ、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、ICカード、水切りネット、排水溝フィルター、カバン、歯ブラシ、文具、クーラーボックス、ホースノズル、ペンキャップなどとして有用である。
【0103】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐熱変形温度は60℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上140℃以下である。この耐熱変形温度は、ASTM D648に準じて3.2mm厚の試験片を用いて荷重0.45MPaの条件下で測定した値をいう。また、高速面衝撃試験値は、試験片120mm×130mm×2mm厚の角板の場合には、1.0J以上であり、さらに好ましくは1.0以上10J以下である。この高速面衝撃試験値はISO 6603-2に準じて先端径1/2インチのストライカ、3.0インチの受けを用いて、温度23℃、速度3m/secの条件で測定した値をいう。また、試験片が120mm×130mm×200μm厚のシート場合の高速面衝撃試験値は、480mJ以上であり、さらに好ましくは500mJ以上1000mJ以下である。この高速面衝撃試験値は先端径1/2インチのストライカ、1.0インチの受けを用いて、温度23℃、速度0.06m/secの条件にて測定した値をいう。アイゾット衝撃強度は38j/m以上であり、さらに好ましくは40以上、120以下である。アイゾット衝撃強度はASTM D256に準じて3.2mm厚で切削ノッチ付きの試験片を用いて、温度23℃で測定した値をいう。曲げ弾性率は1000MPa以上であり、さらには1000MPa以上3000MPa以下である。ここでの曲げ弾性率はASTM D790に準じて3.2mm厚の試験片、スパン50mm、曲げ速度1.5mm/min、測定温度23℃の条件にて測定した値をいう。
【0104】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物の島相の平均分散粒子径は1μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下である。平均分散粒子径は成形品断面を電子顕微鏡で観察し、写真をデジタル化し、常法に従い画像処理により測定した。
【0105】
耐剥離試験値(碁盤目剥離)は6以上であり、好ましくは8以上である。この耐剥離試験値は、JIS K5400の付着性(碁盤目法)に準拠し、23℃雰囲気下、得られた成形品表面に10×10mm角の範囲を2mm間隔でカッターで切込みを入れ、ニチバン製粘着テープを充分に貼り付け、90°の角度で一気に引き剥がした。JIS K5400の碁盤目試験の評価点数に則り測定した。また本発明の熱可塑性樹脂からなるシートの100℃における貯蔵弾性率は20MPa以上、3000MPa以下であり、さらに50MPa以上、2000MPa以下が好ましい。この貯蔵弾性率はJIS−K−7198のAに準じて200μmシート試験片を、周波数1Hz、測定温度0〜200℃の条件で測定した値をいう。
【実施例】
【0106】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
なお、本発明において各種物性は下記の方法で測定し評価した。
【0107】
(1)外観
得られた熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形を行い、得られた射出成形品の外観状態を目視で観察した。
【0108】
(2) 溶融粘度
東洋精機(株)製キャピログラフ:型式1Cを使用し、該樹脂を200℃のシリンダー内で6分間溶融し、長さが30mmかつ径が1mmのキャピラリーを用い、100mm/分の速度で押出した際のせん断速度が1216sec-1のときの溶融粘度を測定した。
【0109】
(2)耐剥離試験
得られた成形品について、JIS K5400の付着性(碁盤目法)に準拠し、23℃雰囲気下、表面に10×10mm角の範囲を2mm間隔で、カッターで切込みを入れ、ニチバン製粘着テープを充分に貼り付け、90°の角度で一気に引き剥がした。JIS K5400の碁盤目試験の評価点数に則り、10点満点で8点以上を合格とした。
【0110】
(3) 熱可塑性樹脂組成物の島相の平均分散粒子径 成形品断面を電子顕微鏡で観察し、写真をデジタル化し、常法に従い画像処理により測定した。
【0111】
(4)引張強度および引張伸び
ASTM D638に準じて3.2mm厚のASTM 試験片の場合は、温度23℃、引張速度10mm/minの条件にて測定した。また、シートの場合は10mm幅の短冊型シート試験片を用い、温度23℃、チャック間距離50mm、引張速度20mm/minの条件にて測定した。
【0112】
(5)曲げ弾性率
ASTM D790に準じて3.2mm厚のASTM試験片を用い、温度23℃、スパン50mm、曲げ速度1.5mm/minの条件にて測定した。
【0113】
(6)アイゾット衝撃強度
ASTM D256に準じて3.2mm厚のASTM試験片(切削ノッチ)を用いて、温度23℃で測定した。
【0114】
(7)耐熱変形温度
ASTM D648に準じて3.2mm厚のASTM試験片を用いて、温度23℃、荷重0.45MPaの条件で測定した。
【0115】
(8)高速面衝撃試験
ISO 6603-2に準じて120mm×130mm×2mmの角板を用いて、測定温度23℃、先端径1/2インチ、受け3.0インチ、速度3m/secの条件で測定した。
また、120mm×130mm×0.25mmのシートを用いて、測定温度23℃、先端径1/2インチ、受け1インチ、速度0.06m/secの条件で測定した。
【0116】
(9)貯蔵弾性率(E‘)
厚み200μmのシート試験片で、JIS−K−7198のA法に基づき周波数1Hzで0〜200℃の温度で測定した。
【0117】
[相容化剤(F1−1)の製造方法]
カルボジイミド基と反応する基を有するポリプロピレン系樹脂(b1-1)としてマレイン酸変性ポリプロピレン(数平均分子量3万、固有粘度η0.8g/ml、マレイン酸量1.1wt%)100重量部に対して、カルボジイミド基含有化合物(日清紡績株式会社製ポリカルボジイミド、商品名:カルボジライトHMV−8CA)8.8重量部をシリンダー温度250℃に設定した30mmφニ軸押出機にて溶融混練し、相容化剤(F1−1)を得た。
【0118】
上記マレイン酸変性ポリプロピレンの数平均分子量(Mn)はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。また、上記マレイン酸変性ポリプロピレンの固有粘度ηは135℃デカリン中で測定した値である。上記マレイン酸変性ポリプロピレンのマレイン酸量はマレイン酸変性ポリプロピレンを熱キシレンに溶解した後、アセトン中で再沈殿させて精製し、この精製したものを再度熱キシレンに溶解し、次にN/20濃度のKOH溶液(2−プロパノール)を過剰量加えてグラフトしたモノマーをケン化した後、指示薬としてチモルブルーを用いて過剰KOHをN/20濃度のHCl溶液(2−プロパノール)で逆滴定して求められる値である。
【0119】
[実施例1]
乳酸系樹脂(A)としてポリ乳酸(A-1)(三井化学(株)販売:商品名H100重量平均分子量:16万、比重:1.25、L体/D体=98.7/1.3、200℃・1216sec-1下での溶融粘度:208Pa・s)50重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)としてポリプロピレン(B-1)(230℃測定MFR:60g/10分、比重:0.91、200℃・1216sec-1下での溶融粘度:49Pa・s)を50重量部、(A-1)/(B-1)の溶融粘度比=4.2、塩基性極性官能基としてイミノ基で変性した芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C-1)(旭化成製:N503、230℃測定MFR:20g/10分、比重:0.91、スチレン含量:30wt%)を(A−1)と(B−1)の合計100重量部に対して10重量部、無機フィラー(D)としてタルク(D-1)(富士タルク工業株式会社製;平均粒子径:4.2μm、見掛け密度:0.13g/ml、白色度:98.5%)を(A−1)と(B−1)の合計100重量部に対して10重量部、相容化剤(F1-1)を(A−1)と(B−1)の合計100重量部に対して5部、ステアリン酸(日本油脂(株)製:商品名ステアリン酸桜)を(A−1)と(B−1)の合計100重量部に対して0.1部をミキサーで均一にブレンドし、TEM35BS二軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いてシリンダー温度180℃で溶融混練の後ペレット化し、熱可塑性樹脂組成物を得た。次にTi-80G2射出成形機(東洋機械金属株式会社製)で、シリンダー設定温度170〜200℃、金型温度80℃、射出+保圧時間10秒、冷却時間30秒の条件にて射出成形し、3.2mm厚のASTM試験片を得た。得られた試験片中心部の島相はポリ乳酸であり、ポリ乳酸(A-1)の平均分散粒子系は0.57μmで、表層の粘着テープ碁盤目剥離試験は10点で剥離は見られなかった。
【0120】
[実施例2]
ポリ乳酸(A-1)50重量部、ポリプロピレン系樹脂(B-2)(230℃測定MFR:50g/10分、比重:0.91、ノルマルデカンに可溶な成分量:8%、200℃・1216sec-1下での溶融粘度:65Pa・s)50重量部、(A-1)/(B-2)の溶融粘度比=3.2、塩基性極性官能基で変性した芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C-1)を(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して10重量部、タルク(D-1)を(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して10重量部、相容化剤(F-1)を(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して5部、ステアリン酸を(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して0.1部を[実施例1]と同様の方法で成形し、物性を測定した。得られた試験片中心部の島相はポリ乳酸であり、ポリ乳酸(A−1)の平均分散粒子系は0.67μmで、表層の粘着テープ碁盤目剥離試験は10点で剥離は見られなかった。
【0121】
[比較例1]
ポリ乳酸(A-1)50重量部、ポリプロピレン(B-3)(230℃測定MFR:10g/10分、比重:0.91、200℃・1216sec-1下での溶融粘度:96Pa・s)50重量部、(A-1)/(B-3)の溶融粘度比=2.2、(A−1)と(B−3)の合計100重量部に対してタルク(D-1)10重量部、ラバー(E)としてスチレン・エチレン・ブチレン・スチレン系のSEBSラバー(E-1)(旭化成製:H1062、230℃測定MFR:4.5g/10分、比重:0.89、スチレン含量:18wt%)(A−1)と(B−3)の合計100重量部に対して10重量部、ステアリン酸(A−1)と(B−3)の合計100重量部に対して0.1部を[実施例1]と同様の方法でブレンド後、成形し、物性を測定した。得られた試験片中心部の島相はポリ乳酸であり、ポリ乳酸(A-1)の平均分散粒子系は1.3μmで、表層の粘着テープ碁盤目剥離は0点で全面が剥離した。
【0122】
[比較例2]
ポリ乳酸(A-1)100重量部を実施例1と同様の方法で成形し、物性を測定した。
【0123】
[実施例3]
乳酸系樹脂(A)としてポリ乳酸(A-2)(三井化学(株)販売H400重量平均分子量:20万、比重:1.25、L体/D体=98.7/1.3、200℃・1216sec-1下での溶融粘度:330Pa・s)50重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)としてポリプロピレン(B-2)(230℃測定MFR:50g/10分、比重:0.91、ノルマルデカンに可溶な成分量:8%、200℃・1216sec-1下での溶融粘度:65Pa・s)50重量部、(A-2)/(B-2)の溶融粘度比=5.0、塩基性極性官能基で変性した芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C-1)(旭化成製:N503、230℃測定MFR:20g/10分、比重:0.91、スチレン含量:30wt%)(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して5重量部をミキサーで均一にブレンドし、TEM35BS二軸押出機(東芝機械株式会社製)を用いてシリンダー温度180℃で溶融混練の後ペレット化し、熱可塑性樹脂組成物を得た。次いで、前記の方法で得たペレットをシリンダー温度が220℃に設定されたスクリュー径が50mm、ダイス幅500mmのT−ダイ製膜機へ供給した。温度を30℃に調整したキャストロール上に溶融樹脂を押出し、厚み200μmのシートを得た。上記方法により、引張強度・引張り伸び・高速面衝撃試験・耐剥離試験・平均分散粒子径・100℃での貯蔵弾性率・島相の分散粒子径を測定した。この場合の島相はポリ乳酸(A−2)であり、平均分散粒子径は0.67μmであった。
【0124】
[実施例4]
乳酸系樹脂(A)としてポリ乳酸(A-2)50重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)としてポリプロピレン(B-2)50重量部、塩基性極性官能基で変性した芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C-1)(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して5重量部にさらに無機フィラー(D)として酸化チタン(D−2)(石原産業株式会社製、商品名タイペークCR-60-2、平均粒子径0.21μm)(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して10重量部をブレンド後、実施例3と同様な方法で成形し、物性を測定した。この場合の島相はポリ乳酸(A−2)であり、平均分散粒子径は0.67μmであった。
【0125】
[実施例5]
無機フィラー(D)として酸価チタンのかわりに炭酸カルシウム(D−3)(備北紛化工業株式会社製、商品名ソフトン1800、平均粒子径1.25μm)(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して10重量部を用いる以外は実施例4と同様な方法でブレンドし、成形し、物性を測定した。この場合の島相はポリ乳酸(A−2)であり、平均分散粒子径は0.67μmであった。
【0126】
[実施例6]
共重合体(C)の量(A−1)と(B−2)の合計100重量部に対して5重量部を10重量部にする以外は実施例3と同様な方法でブレンドし、成形し、物性を測定した。この場合の島相はポリ乳酸(A−2)であり、平均分散粒子径は0.67μmであった。
[比較例3]
ポリ乳酸(A-2)50重量部とポリプロピレン系樹脂(B-2)50重量部を実施例3と同様の方法でブレンドし成形し、物性を測定した。島相は連続相となり分散粒子径は測定不可であった。
【0127】
[比較例4]
ポリ乳酸(A-2)100重量部を実施例3と同様の方法で成形し、物性を測定した。
【0128】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明にかかる、乳酸系樹脂(A)とポリプロピレン系樹脂(B)および極性官能基で変性した芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を含んでなる熱可塑性樹脂組成物から得られる熱可塑性樹脂成形物は、PLAが1μm以下に微分散し外観が良好でかつ耐剥離性にも優れ、また成形性も良好なため、射出成形、中空成形、押し出し成形、カレンダー成形などで種々の成形体に加工でき。これらの成形体は電気・電子部品、自動車内外装品、容器、医療材料やその他各種産業資材として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)90〜10重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)及び極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を(A)と(B)の合計100重量に対して1〜30重量部含んでなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)の極性官能基が塩基であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)がイミン変性SBS(C1)、イミン変性SBBS(C2)、イミン変性SEBS(C3)からなる群より選ばれた1種または2種以上の共重合体であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
乳酸系樹脂(A)およびポリプロピレン系樹脂(B)の200℃におけるせん断速度1216sec-1下での溶融粘度が、下記式(1)の範囲を満たす樹脂であり、乳酸系樹脂(A)10〜90重量部、ポリプロピレン系樹脂(B)90〜10重量部(ただし、(A)と(B)の合計を100重量部とする)及び極性官能基で変性された芳香族ビニル・共役ジエンブロック共重合体(C)を1〜30重量部含み、乳酸系樹脂(A)の平均分散粒子径が1μm以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【数1】

ここで、
Z(A):乳酸系樹脂(A)の200℃におけるせん断速度1216sec-1下での溶融粘度
Z(B):ポリプロピレン系樹脂(B)の200℃におけるせん断速度1216sec-1下での溶融粘度
【請求項5】
請求項1〜4に記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形体。
【請求項6】
成形体がシートである請求項5記載の成形体。
【請求項7】
動的粘弾性の温度依存性に関する試験法(JIS−K−7198、A法)100℃での貯蔵弾性率(E’)が20MPa以上で3000MPa以下であることを特徴とする請求項6記載のシート。

【公開番号】特開2006−241445(P2006−241445A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24429(P2006−24429)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】