説明

熱可塑性樹脂組成物及びこれを成形して得られる成形体

【課題】軟質フィルムの柔軟性と耐熱性を向上させることができる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)及び軟質性熱可塑性樹脂(B)を含有する、デューロメータDで測定した硬度が90未満である熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、柔軟性に優れる成形体を提供する熱可塑性樹脂組成物、及びこれを成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の中でも特に、軟質成分を導入し、エラストマー等と呼ばれる柔軟性を示す素材は、しばしば、フィルム形状に加工した後、異種素材との貼り合せ、各種電気・電子機器製品等の部品として用いられる。
例えば、アクリル系軟質樹脂フィルムは、透明性、耐候性に優れる素材の特長を活かして、特に意匠性、加工性が求められる分野で用いられている。
しかしながら、このようなフィルム用樹脂に求められる物性に関して、柔軟性と耐熱性の両立が難しいという問題があった。
【0003】
例えば、各種製品の製造工程において、フィルム部品として加工精度が求められ、他の部品と一体化させる場合、フィルムには変形に追随するための柔軟性が求められ、他の部品と共に高温下にさらす場合、フィルムには変形を抑制するため耐熱性が求められる。しかしながら、アクリル系軟質樹脂において、軟質性をより高めるべく組成を改良した場合、耐熱性が低下するということが一般的であり(特許文献1)、フィルムの柔軟性と耐熱性を樹脂組成で両立することは困難であった。
【0004】
一方、一般的な熱可塑性樹脂の物性を改良する方法として無機系フィラー等の添加が検討されており、特に近年では、ナノサイズで高アスペクト比のフィラーの少量分散が提案されている(特許文献2)。
特許文献2で提案されている方法では、高アスペクト比のフィラーの特徴を活かし、表面硬度及び帯電防止性の向上は実現されているが、耐熱性の向上については何ら示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−140161号公報
【特許文献2】特開2010−132897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年一層複雑になる製品設計、部品加工精度に対応するため、軟質フィルムの柔軟性と耐熱性を向上させることができる樹脂組成物が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、軟質性熱可塑性樹脂に、特定の無機化合物含有重合体を配合することによって、柔軟性と耐熱性の両立が可能となることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、
1.アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)及び軟質性熱可塑性樹脂(B)を含有する、デューロメータDで測定した硬度が90未満である熱可塑性樹脂組成物;
2.無機化合物含有重合体(A)が、アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合して得られるものである、上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物;並びに
3.上記1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軟質性熱可塑性樹脂の優れた性質を損ねることなく、耐熱性を向上させることが可能である。本発明は、例えば、透明性に優れるアクリル樹脂フィルムとして、適用することができ、複雑化する製品設計に対応できるように、部品加工精度をより高度な水準で実現するものであり、その有用性は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いる無機化合物含有重合体(A)は、アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下で、ビニル単量体(a2)を重合して得られる。重合の一態様として、ビニル単量体(a2)にアルミニウム系無機化合物(a1)を分散させた状態で重合を開始する方法が挙げられる。別態様として、ビニル単量体(a2)を有機溶剤に溶解させ、その溶液中にアルミニウム系無機化合物(a1)を分散させた状態で重合を開始する方法が挙げられる。更に別の態様として、ビニル単量体(a2)とアルミニウム系無機化合物(a1)を共に水等の媒体中に分散させた状態で重合を開始する方法が挙げられる。無機化合物含有重合体(A)を得る方法としては、アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合することが好ましい。
【0010】
アルミニウム系無機化合物(a1)としては、例えば、アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトから選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトは火山灰土壌中に風化生成物として得られる天然物、又は合成されたものを用いることができる。得られる成形体の成形外観、表面硬度、帯電防止性、結晶性等が優れることから、人工的に合成されたアロフェン及びイモゴライトが好ましい。
【0011】
アルミニウム系無機化合物(a1)は、球状(粒状)、針状(繊維状)、板状のような形状のものを用いることができる。特に、アロフェンは球状(粒状)を、イモゴライト及びハロイサイトは針状(繊維状)を有する傾向にある。
形状が球状(粒状)である場合、平均粒子径は、好ましくは1nm〜1μmであり、より好ましくは1〜100nmであり、更に好ましくは1〜50nmである。本願発明では、平均粒子径は、アルミニウム系無機化合物(a1)を脱イオン水に分散させ、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した、50%体積平均粒子径を意味する。
形状が針状(繊維状)である場合、アスペクト比5〜10,000を有することが好ましい。具体的には、繊維形状の平均口径は、好ましくは0.5〜100nmであり、より好ましくは0.5〜20nmであり、更に好ましくは0.5〜5nmである。繊維形状の平均長さ(長手方向の平均長さ)は、好ましくは5nm〜200μmであり、より好ましくは10nm〜100μmであり、更に好ましくは10nm〜50μmである。
【0012】
アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトを合成する方法としては、例えば、オルト珪酸ナトリウムと塩化アルミニウムの反応が挙げられる。
このような反応は、水溶液中において、弱酸性で、必要に応じて加熱しながら行なうことができる。また、反応生成物は、必要に応じて、濃縮、洗浄、乾燥して用いることができる。
例えば、反応後の水溶液を弱アルカリ性にして、生成物を沈降させ、上澄み液を分離することができる。また、凍結乾燥を行なって、固形物として取り出すこともできる。
【0013】
尚、本発明で得られる無機化合物含有重合体(A)の製造工程での安定性、得られる熱可塑性樹脂組成物の成形外観及び物性が良好となることから、反応生成物は、濃縮、洗浄、乾燥操作を行なわずに、反応後の弱酸性水溶液のままで、次の工程に用いることが好ましい。
【0014】
生成物がアロフェン、イモゴライト又はハロイサイトであることを確認する方法としては、例えば、X線回折、透過型電子顕微鏡(TEM)、赤外吸収スペクトル(IR)の測定が挙げられる。
X線回折の測定では、回折角(2θ)6°、11°、16°付近に、イモゴラト特有のピークを確認することができる。TEMの観察では、アロフェンの場合には直径約5nmの粒子が凝集した形態を、イモゴライトの場合には繊維が凝集した形態を確認することができる。IRの測定では、Si−O−Al結合に由来する900〜1000cm−1付近の吸収を確認することができる。
【0015】
アロフェン、イモゴライト及びハロイサイトはリン酸系化合物で予め処理したものであることが好ましい。リン酸系化合物での処理とは、例えば、アロフェン、イモゴライト又はハロイサイトを含む水分散液中に、リン酸系化合物を添加することにより行なうことができる。リン酸系化合物としては、後述するリン酸系化合物(a3)として例示されるものを用いることができる。リン酸系化合物による予備処理を施すことにより、得られる熱可塑性樹脂組成物中でのアルミニウム系無機化合物(a1)の分散性を向上させ、ひいてはその成形体の耐表面傷付き性、帯電防止性、耐熱変形性を改善することができる。
【0016】
本発明に用いるビニル単量体(a2)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその塩酸塩、シアノエチル(メタ)アクリレート、シアノブチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸;2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化(メタ)アクリレート;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド等のアクリルアミド単量体が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0017】
これらの中では、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、2,2,2−トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリルが、得られる成形体の成形外観、表面硬度、結晶性等が優れることから好ましく、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、スチレン、アクリロニトリルがより好ましい。ここで、(メタ)アクリレートはアクリレート又はメタクリレートを示し、(メタ)アクリル酸はアクリル酸又はメタクリル酸を示す。
【0018】
アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合する際には、水分散液中にリン酸系化合物(a3)を共存させることが好ましい。リン酸系化合物を共存させることにより、アルミニウム系無機化合物(a1)がリン酸系化合物で予備処理されることで、得られる熱可塑性樹脂組成物中でのアルミニウム系無機化合物(a1)の分散性を向上させ、ひいてはその成形体の耐表面傷付き性、帯電防止性、耐熱変形性を改善することができる。
リン酸系化合物(a3)としては、リン酸基を有するものであれば、無機化合物、有機化合物いずれでもよく、リン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等のリン酸塩、有機ヒドロキシ化合物のリン酸モノエステル又はリン酸ジエステルが好ましい。
【0019】
リン酸系化合物(a3)としてのリン酸エステルの生成に用いる有機ヒドロキシ化合物としては、例えば、ビニル基含有アルコール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘプタノール、オクタノール、シクロオクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ヘプタデカノール、メトキシエタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロプロパノール、フェノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、トリエチレングリコールが挙げられる。これらの中では、ビニル基含有アルコールが、得られる成形体の成形外観、表面硬度、結晶性等が優れることから好ましい。かかるビニル基含有アルコールとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0020】
これらの有機ヒドロキシ化合物を用いて得られるリン酸エステルとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとリン酸とからなるモノエステル及びジエステル、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとリン酸からなるモノエステル及びジエステルが好ましい。
【0021】
リン酸系化合物(a3)として使用できる市販品として、例えば、ホスマーM、ホスマーPE、ホスマーP(以上、ユニケミカル(株)製);JPA−514、JPA−514M(以上、城北化学工業(株)製)、ライトエステルP−1M、ライトアクリレートP−1A(以上、共栄社化学(株)製)、MR200(大八化学工業(株)製)、カヤマー(日本化薬(株)製)、エチレングリコール・メタクリレート・ホスフェート(アルドリッチ社製)が挙げられる。これらの市販品は、モノエステルとジエステルとの混合物の場合もあり、不純物として、ビニル基を含有しない成分が含まれている場合もあるが、リン酸系化合物(a3)として、そのまま用いることができる。リン酸系化合物(a3)は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
アルミニウム系無機化合物(a1)は、ビニル単量体(a2)100質量部に対し、0.00001〜100質量部用いることが好ましく、得られる成形体の成形外観、表面硬度、帯電防止性、結晶性等が優れることから、0.001〜50質量部用いることがより好ましく、0.01〜30質量部用いることが更に好ましく、0.05〜20質量部用いることが特に好ましい。
【0023】
リン酸系化合物(a3)は、アルミニウム系無機化合物(a1)100質量部に対し、1〜10000質量部用いることが好ましく、得られる成形体の成形外観、表面硬度、帯電防止性、結晶性等が優れることから、1〜1000質量部用いることがより好ましく、2〜500質量部用いることが更に好ましく、5〜200質量部用いることが特に好ましい。
【0024】
水分散液に分散媒として用いる水の量は特に限定されないが、重合の安定性、生産性が優れることから、ビニル単量体(a2)100質量部に対し、10〜10000質量部が好ましく、100〜2000質量部がより好ましい。
【0025】
アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合する方法として、懸濁系又は乳化系でのラジカル重合法を用いることができる。具体的には、水中に分散させたアルミニウム系無機化合物(a1)に、必要に応じて、リン酸系化合物(a3)を添加し、その後、ビニル単量体(a2)及び重合開始剤を添加、加熱してラジカル重合を行なうことができる。
【0026】
ビニル単量体(a2)の重合に用いる重合開始剤としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジt−ブチルパーオキサイド、ジt−アミルパーオキサイド、ジt−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジイソプロピルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;及びアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が挙げられる。重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、t−ブチルハイドロパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル及びアゾビス2,4−ジメチルバレロニトリルが好ましい。また、上記有機過酸化物や過硫酸塩は還元剤と組み合わせてレドックス系として用いることもできる。
【0027】
ビニル単量体(a2)の重合は、65〜100℃の温度で行なうことができ、1〜10時間の重合時間で行なうことができる。
必要に応じて、重合を2段階で行なうことができ、例えば、所定温度で所定時間の重合を行なった後、より高い温度で保持して重合を完了させることもできる。
【0028】
更に、ビニル単量体(a2)の重合においては、必要に応じて連鎖移動剤、分散剤、分散助剤、乳化剤等の重合用添加剤を用いることができる。
連鎖移動剤としては、例えば、オクチルメルカプタン及びドデシルメルカプタン及びα−メチルスチレンダイマーが挙げられる。
分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩、(メタ)アクリル酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ポリスチレンスルホン酸のアルカリ金属塩、スチレンスルホン酸のアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体、ケン化度70〜100%のポリビニルアルコ−ル、メチルセルロ−スが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらの中では、懸濁重合時の分散安定性が良好な(メタ)アクリル酸スルホアルキルのアルカリ金属塩と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が好ましい。分散助剤としては、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸マンガンが挙げられる。
乳化剤としては、公知のアニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤及びノニオン系乳化剤を用いることができる。
本発明においては、上述の無機化合物含有重合体の製造方法を、当該無機化合物を含めないことを除き同一の操作で実施して得られた重合体の質量平均分子量を、無機化合物含有重合体(A)の推定分子量とする。無機化合物含有重合体(A)の推定分子量は、ゲルパーミションクロマトグラフィー(GPC)による質量平均分子量として、1万〜100万が好ましく、3万〜50万がより好ましく、5万〜20万が特に好ましい。
【0029】
本発明で用いる軟質性熱可塑性樹脂(B)としては、例えば、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの中では、得られる成形体の透明性及び耐候性が良好であることから、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂が好ましい。
【0030】
軟質性熱可塑性樹脂(B)の一例として、軟質性アクリル系樹脂(B1)がある。
軟質性アクリル系樹脂(B1)の構成成分であるビニル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の反応性基含有(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
軟質性アクリル系樹脂(B1)は、必要に応じて、ブタジエン、スチレン、アクリロニトリル等を、50質量%未満の比率で構成成分として用いてもよい。
【0031】
軟質性アクリル系樹脂(B1)は、公知の方法で製造することができる。例えば、アルキルアクリレートを主成分とする単量体混合物を重合した後、アルキルメタクリレートを主成分とする単量体混合物をグラフト重合して、多段重合体を得る製造方法であってもよい。また、複数の軟質性アクリル系樹脂を混合して用いてもよい。
【0032】
軟質性アクリル系樹脂(B1)は、デューロメータDで測定した硬度が90未満であることが好ましい。
デューロメータDで測定した硬度を90未満とするには、ガラス転移温度25℃以下の重合体成分の比率が樹脂(B1)の10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが更に好ましい。
【0033】
軟質性熱可塑性樹脂(B)の他の例として、フッ素樹脂(B2)がある。
フッ素樹脂(B2)としては、例えば、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)等の完全フッ素化重合体;ポリ三フッ化塩化エチレン(PTCFE,CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等の部分フッ素化重合体;四フッ化エチレン−ペルフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、四フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン−三フッ化塩化エチレン共重合体(ECTFE)等のフッ素化共重合体等が挙げられる。これらの中では、得られる樹脂組成物の透明性、耐候性を考慮すると、PVDF、PVF、PFAが好ましく、PVDFがより好ましい。
フッ素樹脂(B2)は、デューロメータDで測定した硬度が90未満であることが好ましい。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、無機化合物含有重合体(A)に軟質性熱可塑性樹脂(B)をブレンドして得ることができる。本発明の樹脂組成物中、無機化合物含有重合体(A)と、軟質性熱可塑性樹脂(B)の割合としては、合計量を100質量部としたときに、無機化合物含有重合体(A)が0.001質量部以上99質量部以下、軟質性熱可塑性樹脂(B)が1質量部以上99.999質量部以下であることが好ましく、無機化合物含有重合体(A)が0.1質量部以上70質量部以下、軟質性熱可塑性樹脂(B)が30質量部以上99.9質量部以下であることがより好ましく、無機化合物含有重合体(A)が0.5質量部以上40質量部以下、軟質性熱可塑性樹脂(B)が60質量部以上99.5質量部以下であることが更に好ましい。
【0035】
本発明による熱可塑性樹脂組成物の硬度は、JIS K−7215に準拠して測定した硬度であり、デューロメータDで測定した値を用いる。デューロメータDで測定した硬度が90以上の熱可塑性樹脂組成物は、フィルムとしての製造、使用が難しく、特に、強度及び加工性の面で取り扱いが難しい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、軟質性熱可塑性樹脂(B)として、デューロメータDで測定した硬度が90未満の軟質性熱可塑性樹脂を用い、その硬度が保たれるように無機化合物含有重合体(A)を配合することによって調製することができる。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物では、必要に応じて、全構成成分の50質量%未満となるように、軟質性熱可塑性樹脂(B)とは別の熱可塑性樹脂を含有することができる。別の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、メチルメタクリレート−アクリレート共重合体等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、高耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、水素添加スチレン−ブタジエン共重合体等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、環状オレフィン含有重合体等のオレフィン系樹脂;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレングリコールテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)等のジヒドロキシジアリール化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステル化合物と反応させて得られる重合体等のポリカーボネート系樹脂;ポリオキシメチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、可塑剤、顔料等の樹脂用添加剤や、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、ケナフ、バクテリアセルロース等のフィラー等を含有させることができる。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、無機化合物含有重合体(A)と軟質性熱可塑性樹脂(B)を、必要に応じて上記の熱可塑性樹脂、樹脂用添加剤、フィラー等と共にブレンドすることにより調製することができる。ブレンド方法の例としては、バッチ式のニーダー及び単軸又は多軸の押出機等を用いた溶融ブレンド法等を挙げることができる。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各種樹脂成形体用材料や、塗料用、トナー用のバインダー樹脂として用いることができる。
【0040】
本発明の成形体は、上記無機化合物含有重合体(A)を含む熱可塑性樹脂組成物を成形して、得られる。上記無機化合物含有重合体(A)を含む熱可塑性樹脂組成物を用いて成形体を成形する場合、押出成形、射出成形、プレス成形、インフレーション成形、カレンダ成形等の成形方法を適用することができる。例えば、フィルム状、シート状の成形体を得ることができる。
【0041】
上記成形体は、例えば、自動車、家電、OA機器の部品に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例によって本発明を説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。実施例中の「部」、「%」の表記は、それぞれ「質量部」、「質量%」を意味する。
【0043】
[X線回折]
X線回折装置((株)リガク製RINT2500(商品名))を用いて、加速電圧は40kV、加速電流は300mAにより、Cu−Kα線を照射し、回折角(2θ)5〜85°の範囲における回折パターンを測定した。
【0044】
[TEM]
透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM−1200EXII(商品名))を用いて、加速電圧100KV、倍率10万倍で観察した。
【0045】
[IR]
フーリエ変換赤外分光光度計((株)島津製作所製FTIR−8700(商品名))を用いて、KBr法で調整した試料を、透過法により400〜4000cm−1の範囲における吸収スペクトルを測定した。
【0046】
[BET比表面積]
比表面積測定装置(ユアサアイオニクス(株)製モノソーブ(商品名))を用いて、試料を120℃、2時間脱気した後に測定した。
【0047】
[質量平均分子量]
重合体の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(ウォーターズ社製GPC150C(商品名))を用いて測定した。尚、スタンダードとしてポリメチルメタクリレート、移動相としてクロロホルムを用いた。
【0048】
[ゲル含有率]
軟質性アクリル系樹脂(B1)を秤量し(抽出前質量)、アセトン中で還流した後、遠心分離の後上澄み液を除去し、アセトン不溶分を乾燥後、秤量した(抽出後質量)。ゲル含有率は次式(1)により求めた。
ゲル含有率(質量%)=抽出後質量(g)/抽出前質量(g)×100 (1)
【0049】
[ゴム含有率]
軟質性アクリル系樹脂(B1)の、各段階で得られる重合体のガラス転移温度25℃以下の成分を合計し、樹脂(B1)全体に対する割合をゴム含有率とした。
尚、各段階の重合体のガラス転移温度(Tg)は、各単量体に対応する単独重合体のガラス転移温度(Tgi)と、その割合(φi)から、Foxの式(次式(2))により求めた(「Polymer Handbook」 Wiley Inter Science社版、J.Brandrup編、第IV版 参照)。
1/Tg = Σ(φi/Tgi) (2)
【0050】
[無機化合物の分散状態]
得られたフィルム(厚さ200μm)の外観を目視観察した。以下の基準により評価を行なった。
○:無機化合物の存在を目視で確認できなかった。
△:無機化合物の存在を目視で確認できた。フィルムの強度低下は認められなかった。
×:無機化合物の存在を目視で確認できた。フィルムの強度低下が認められ、物性評価を中止した。
【0051】
[デューロメータD硬度]
樹脂組成物を、卓上小型混練機(Custom Scientific Instruments社製CS−183(商品名))を用いて、バレル温度200℃で5分間溶融混練した後、取り付けた金型内に射出して成形した(長さ20mm、幅10mm、厚さ2mm)。
得られた成形品のデューロメータD硬度を、JIS K−7215に準拠して、測定した。
【0052】
[耐熱性]
得られたフィルム(厚さ200μm、幅4mm)を試験片とし、熱機械的分析装置(機種名「TMA/SS6100」、セイコーインスツル(株)製)を用い、引っ張りモード、引張り応力29mNの条件下、チャック間距離10mmで試験片を取り付け、温度20℃から150℃まで5℃/分で昇温しながら、次式で定められる変形率を記録した。
変形開始温度として、軟質性アクリル系樹脂(B1)の場合、変形率2%到達時を示し、フッ素樹脂/アクリル樹脂ブレンドの場合5%到達時を示した。
変形率[%]=チャック間距離の増加分÷チャック間距離の初期値×100
【0053】
[透明性]
得られたフィルム(厚さ200μm)を試験片とし、JIS K−7105に準拠して、全光線透過率及びヘーズを測定した。以下の基準により評価を行なった。
◎:全光線透過率が95%以上、ヘーズが5%未満。
○:全光線透過率が95%未満、ヘーズが5%以上60%未満。
×:全光線透過率が95%未満、ヘーズが60%以上。
【0054】
[耐傷付き性]
得られたフィルム(厚さ200μm)を試験片とし、JIS K−5400に準拠して、鉛筆引っ掻き試験を行なった。但し、基材としてPMMA製シート(厚さ3mm)の上に試験片を載せて、試験を行なった。
【0055】
[帯電防止性]
得られたフィルム(厚さ200μm)の表面を乾いた綿布で所定回数摩擦した後、フィルム表面を平面上のたばこの灰に10mm隔てて近づけた際の、灰の付着性を評価した。尚、評価は、23℃、50%RHの環境下で行なった。また、フィルムは、予めこの環境下で一日放置して用いた。
○:綿布で10回摩擦しても灰が付着しなかった。
△:綿布で10回摩擦すると灰が付着した。3回摩擦すると灰が付着しなかった。
×:綿布で3回摩擦すると灰が付着した。
【0056】
[貯蔵弾性率]
得られたフィルム(厚さ200μm)を試験片とし、熱機械的分析装置(機種名「TMA/SS6100」、セイコーインスツル(株)製)を用い、引っ張りモード、温度25℃、周波数1Hzの条件下、チャック間距離10mmで試験片を取り付け、貯蔵弾性率を測定した。
貯蔵弾性率が高ければ、耐クリープ性、耐応力緩和性が向上し、耐久性が向上する。
【0057】
[製造例1]アルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液の製造
金属チタン製の撹拌機付き反応容器(内容積60L)に、Si濃度0.01Mのオルト珪酸ナトリウム溶液8.6Lを入れ、撹拌した。次にAl濃度0.01Mの塩化アルミニウム溶液21Lを入れ、30分撹拌した。
次いで、0.01MのNaOH溶液18.5Lを1時間かけて添加した。このときのサスペンションのpHは4.5(25℃)であった。そして、このサスペンションを95℃に昇温させ、24時間保持した後、24時間かけて室温まで冷却した。
このときの反応サスペンションのpHは4.2で、極めて透明度の高いものであった。得られた(a1)の水分散液の固形分は0.04%であった。
【0058】
[製造例2]アルミニウム系無機化合物(a1)の粉体の製造
製造例1で得られたアルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液を、凍結乾燥機でマイナス40℃から徐々に昇温して、28時間の乾燥を行ない、粉体を得た。
得られた粉体について、以下の分析を行なった。この分析結果から、アルミニウム系無機化合物(a1)が、イモゴライトであることを確認した。
【0059】
X線回折:回折角(2θ)6°、11°、16°付近にブロードなピークが見られた。
TEM :繊維状の像が見られた。
IR :Si−O−Al結合に由来する950〜1000cm−1付近のダブレット吸収が見られた。
これらの特徴はイモゴライト特有のものである。
また、得られたアルミニウム系無機化合物(a1)のBET比表面積は、325m/gであった。
【0060】
[製造例3]無機化合物含有重合体(A1)の製造
攪拌装置、加熱装置、温度計、冷却管、窒素導入管を備えた反応容器に、製造例1で得られたアルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液1000部((a1)の固形分として0.4部)を仕込み、室温で攪拌した。
10%アンモニア水溶液10部を加えて30分攪拌した後、アシッドホスホオキシエチルメタクリル酸エステル(商品名「ホスマーM」、ユニケミカル(株)製)0.04部を加えて30分攪拌した。
【0061】
次いで、メチルメタクリレート(MMA)100部、連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン(OM)0.1部、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.05部を添加した。
窒素気流下で80℃に昇温して、2時間攪拌した後、90℃に昇温して30分攪拌した。反応容器を冷却した後、生成物を分離、乾燥し、無機化合物含有重合体(A1)を得た。
得られた無機化合物含有重合体(A1)の分子量を推定するため、製造例3を、アルミニウム系無機化合物(a1)を含めないことを除き、同一の操作で実施した。得られた重合体の質量平均分子量をGPCにより測定したところ10万であり、これを無機化合物含有重合体(A1)の推定分子量とした。
【0062】
[製造例4]無機化合物含有重合体(A2)の製造
アルミニウム系無機化合物(a1)の水分散液を300部((a1)の固形分として0.12部)用い、アシッドホスホオキシエチルメタクリル酸エステル(商品名「ホスマーM」、ユニケミカル(株)製)を0.012部用いたこと以外は、製造例3と同様にして、無機化合物含有重合体(A2)を得た。
得られた無機化合物含有重合体(A2)の分子量を推定するため、製造例4を、アルミニウム系無機化合物(a1)を含めないことを除き、同一の操作で実施した。得られた重合体の質量平均分子量をGPCにより測定したところ10万であり、これを無機化合物含有重合体(A2)の推定分子量とした。
【0063】
[製造例5]軟質性アクリル系樹脂(B1−1)の製造
攪拌機を備えた容器に脱イオン水10.8部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−ブチルアクリレート(n−BA)4.5部、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート(1,3−BD)0.2部、アリルメタクリレート(AMA)0.05部及びキュメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.025部からなる単量体成分を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水139.2部を投入し、75℃に昇温した。更に、脱イオン水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、単量体混合物(I−A−1)の重合を完結した。
【0064】
続いて、MMA9.6部、n−BA14.4部、1,3−BD1.0部及びAMA0.25部からなる単量体成分を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、単量体混合物(I−A−2)の重合を完結させ、重合体を得た。単量体混合物(I−A−1)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは−48℃であり、単量体混合物(I−A−2)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは−10℃であった。
続いて、MMA6部、メチルアクリレート(MA)4部及びAMA0.075部からなる単量体成分を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、重合を行なった。単量体混合物(I−B)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは、60℃であった。
【0065】
続いて、MMA57部、MA3部、OM0.264部及びt−ブチルハイドロパーオキサイド(t−BH)0.075部からなる単量体成分(I−C)を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、ゴム含有重合体(I)の重合体ラテックスを得た。(I−C)単量体混合物から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは99℃であった。また、重合後に測定したゴム含有重合体(I)の質量平均粒子径は0.11μmであった。
得られたゴム含有重合体(I)の重合体ラテックスを、濾材としてSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3.5部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(I)を得た。ゴム含有重合体(I)のゲル含有率は70%であった。ゴム含有重合体(I)のゴム含有率は30%であった。
【0066】
また、得られたゴム含有重合体(I)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mLに投入し、3時間攪拌して、ゴム含有重合体(I)のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mLに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mLを調製した。次いで、この分散液70mLについて、リオン(株)製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
得られたゴム含有重合体(I)75部及び熱可塑性重合体(III)[MMA/MA共重合体(MMA/MA=99/1(質量比)、還元粘度ηsp/c=0.06L/g)]25部をヘンシェルミキサーを用いて混合した。この混合物を230℃に加熱した脱気式押出機(池貝鉄工(株)製、PCM−30(商品名))に供給し、混練して、300メッシュのスクリーンメッシュで異物を取り除きながら押し出し、ペレットを得た。
【0067】
[製造例6]軟質性アクリル系樹脂(B1−2)の製造
攪拌機を備えた容器に脱イオン水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、n−BA4.5部、1,3−BD0.2部、AMA0.05部及びCHP0.025部からなる単量体混合物(II−A−1)を投入し、室温下にて攪拌混合した。次いで、攪拌しながら、乳化剤(東邦化学工業(株)製、商品名「フォスファノールRS610NA」)1.3部を上記容器内に投入し、攪拌を20分間継続して乳化液を調製した。
次に、冷却器付き重合容器内に脱イオン水186.5部を投入し、70℃に昇温した。更に、脱イオン水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部及びEDTA0.0003部を加えて調製した混合物を重合容器内に一度に投入した。次いで、窒素下で攪拌しながら、調製した乳化液を8分間にわたって重合容器に滴下した後、15分間反応を継続させ、重合を完結した。
【0068】
続いて、MMA1.5部、n−BA22.5部、1,3−BD1.0部及びAMA0.25部からなる単量体混合物(II−A−2)を、CHP0.016部と共に、90分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、重合を完結させた。
単量体混合物(II−A−1)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは−48℃であり、単量体混合物(II−A−2)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは−48℃であった。
続いて、MMA6部、n−BA4部及びAMA0.075部からなる単量体混合物(II−B)を、CHP0.0125部と共に、45分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させた。単量体混合物(II−B)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは20℃であった。
【0069】
続いて、MMA55.2部、MA4.8部、OM0.19部及びt−BH0.08部からなる単量体混合物(II−C)を140分間にわたって重合容器に滴下した後、60分間反応を継続させ、ゴム含有重合体(II)の重合体ラテックスを得た。単量体混合物(II−C)から得られる重合体のFOXの式から求めたTgは84℃であった。また、重合後に測定したゴム含有重合体(II)の質量平均粒子径は0.12μmであった。
得られたゴム含有重合体(II)の重合体ラテックスを、濾材としてSUS製のメッシュ(平均目開き:62μm)を取り付けた振動型濾過装置を用いて濾過した後、酢酸カルシウム3.0部を含む水溶液中で塩析させ、水洗して回収した後、乾燥し、粉体状のゴム含有重合体(II)を得た。ゴム含有重合体(II)のゲル含有率は、60%であった。ゴム含有重合体(II)のゴム含有率は40%であった。
また、得られたゴム含有重合体(II)214.3gを目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン1500mLに投入し、3時間攪拌して、ゴム含有重合体(II)のアセトン分散液を調製した。次いで、この分散液を目開き32μmのナイロンメッシュで濾過した後、ナイロンメッシュごとクロロホルム中で15分間超音波洗浄することでメッシュ上の捕捉物をクロロホルム洗浄した。次いで、目開き25μmのナイロンメッシュで濾過したアセトン150mLに上記超音波洗浄後の捕捉物をナイロンメッシュごと投入し、この液を15分間超音波処理した後、ナイロンメッシュを除去して、メッシュ上の捕捉物のアセトン分散液150mLを調製した。次いで、この分散液70mLについて、リオン(株)製、自動式液中微粒子計測器(型式:KL−01)にて25℃下で測定し、直径55μm以上の粒子の数を求めたところ、10個であった。
【0070】
[実施例1〜4]
製造例3で得られた無機化合物含有重合体(A1)または製造例4で得られた無機化合物含有重合体(A2)と、軟質性アクリル樹脂(B1−1)または軟質性アクリル樹脂(B1−2)とを、表1に示す割合で混合し、ニーダー(商品名「プラスチコーダー」、ブラベンダー社製、内容積50cm)を用いて、バレル温度200℃で溶融混練して樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物を金型(厚み2mmの鉄板2枚、スペーサー)に挟み、200℃に加熱したプレス盤(王子機械(株)製油圧プレス機、最大荷重37トン、最高使用圧力210kg/cm)の間で、5分かけて、ゲージ圧を30kg/cmまで上昇させた。金型ごと、20℃に冷却したプレス盤(庄司鉄工(株)製油圧プレス機、最大荷重100トン、常用圧力200kg/cm、水冷式)へ移動し、5分間保持した後、金型から、フィルム状の成形物を取り外した。尚、0.2mmの厚みになるように成形条件を調整した。得られたフィルムを用いて、物性を評価した結果を表1に示す。
【0071】
[比較例1]
製造例5で得られた軟質性アクリル樹脂(B1−1)及びPMMAを、表1に示す割合で混合し、ニーダー(商品名「プラスチコーダー」、ブラベンダー社製、内容積50cm)を用いて、バレル温度200℃で溶融混練して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を金型(厚み2mmの鉄板2枚、スペーサー)に挟んで、200℃に加熱したプレス盤(王子機械(株)製油圧プレス機、最大荷重37トン、最高使用圧力210kg/cm)の間で、5分かけて、ゲージ圧を30kg/cmまで上昇させた。金型ごと、20℃に冷却したプレス盤(庄司鉄工(株)製油圧プレス機、最大荷重100トン、常用圧力200kg/cm、水冷式)へ移動し、5分間保持した後、金型から、フィルム状の成形物を取り外した。尚、0.2mmの厚みになるように成形条件を調整した。得られたフィルムを用いて、物性を評価した結果を表1に示す。
【0072】
[比較例2]
軟質性アクリル樹脂(B1−1)を製造例6で得られた(B1−2)に代えたこと以外、比較例1と同一の操作でフィルムを成形し、その物性を評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例3及び4]
製造例2で得られた無機化合物単体(a1)の粉体及び軟質性アクリル樹脂(B1−2)を、それぞれ表1に示す割合で混合し、比較例1と同様の操作により、溶融混練を行ない、得られた樹脂組成物をフィルム状に成形し、物性評価を行なった。物性評価結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

PMMA:三菱レイヨン(株)製アクリペットVH(商品名)
【0075】
実施例1〜4で示されるように、本発明の無機化合物含有重合体を、例えばアクリル系の軟質性樹脂と組み合わせることによって、柔軟性、耐熱性に優れる軟質フィルムが得られることが明らかとなった。
比較例1及び2で示されるように、従来の軟質性アクリル樹脂の場合、柔軟性、耐熱性のいずれか一方に優れるものの、他方には劣っており、両立させることは困難であった。
具体的に説明すると、軟質性熱可塑性樹脂(B)として樹脂(B1−1)を用いた実施例1と比較例1を比べた場合、実施例1では、柔軟性を維持したまま、耐熱性が5℃向上することが明らかとなった。樹脂(B1−2)を用いた実施例2と比較例2を比べた場合、実施例2では、柔軟性を維持したまま、耐熱性が15℃向上することが明らかとなった。
比較例3及び4で示されるように、本発明の無機化合物含有重合体の替わりに、無機化合物の粉体を用いた場合、無機成分が不均一に凝集した樹脂組成物しか得られないため、本発明のような物性発現効果を見出すことはできなかった。
【0076】
[実施例5]
製造例3で得られた無機化合物含有重合体(A1)及びPVDFを表2に示す割合で混合し、実施例1と同様の操作により、溶融混練を行ない、得られた樹脂組成物をフィルム状に成形し、物性評価を行なった。物性評価結果を表2に示す。
【0077】
[実施例6]
無機化合物含有重合体(A1)を製造例4で得られた無機化合物含有重合体(A2)に代えたこと以外、実施例5と同一の操作でフィルムを成形し、その物性を評価した。結果を表2に示す。
【0078】
[比較例5]
PVDF及びPMMAを、表2に示す割合で混合し、比較例1と同様の操作により、溶融混練を行ない、得られた樹脂組成物をフィルム状に成形し、物性評価を行なった。物性評価結果を表2に示す。
【0079】
[比較例6]
製造例2で得られた無機化合物(a1)の粉体、PMMA及びPVDFを、表2に示す割合で混合し、比較例1と同様の操作により、溶融混練を行ない、得られた樹脂組成物をフィルム状に成形し、物性評価を行なった。物性評価結果を表2に示す。
【0080】
【表2】

PMMA:三菱レイヨン(株)製アクリペットVH(商品名)
PVDF:アルケマ社製カイナー720(商品名)
【0081】
実施例5及び6で示されるように、本発明の無機化合物含有重合体を含有する軟質樹脂フィルムは、耐熱性、貯蔵弾性率、耐傷付き性、帯電防止性に優れることが明らかとなった。
比較例5で示されるように、PVDF及びPMMAからなる軟質樹脂フィルムは、耐熱性、貯蔵弾性率、耐傷付き性、帯電防止性に劣る。
具体的に説明すると、軟質性熱可塑性樹脂(B)として樹脂(B−2)を用いた実施例5,6と比較例5を比べた場合、実施例5,6では、柔軟性を維持したまま、耐熱性が10℃向上することが明らかとなった。
比較例6で示されるように、本発明の無機化合物含有重合体の替わりに、無機化合物の粉体を用いた場合、無機成分が不均一に凝集した樹脂組成物しか得られないため、本発明のような物性発現効果を見出すことはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム系無機化合物(a1)の存在下でビニル単量体(a2)を重合して得られる無機化合物含有重合体(A)及び軟質性熱可塑性樹脂(B)を含有する、デューロメータDで測定した硬度が90未満である熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
無機化合物含有重合体(A)が、アルミニウム系無機化合物(a1)を含む水分散液中で、ビニル単量体(a2)を重合して得られるものである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。

【公開番号】特開2012−144586(P2012−144586A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1820(P2011−1820)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】