説明

熱可塑性樹脂組成物及びその成形体

【課題】良好な電気伝導性を有し、成形収縮率の異方性も小さい熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブと、珪酸カルシウムの繊維状結晶とを混合して、熱可塑性樹脂組成物とする。熱可塑性樹脂としては、液晶ポリエステル樹脂が好ましく用いられる、カーボンナノチューブとしては、多層構造を有するものが好ましく用いられる。珪酸カルシウムの繊維状結晶としては、ゾノトライトの結晶が凝集してなる凝集粒子が好ましく用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性を有する熱可塑性樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子機器、例えば携帯電話等の通信機器やパーソナルコンピュータ等のOA機器の高性能化に伴い、その動作周波数の高周波数化が進んでいる。一方、高周波の動作周波数で作動する電気・電子機器は、高周波の電磁波を放射し易いプロセッサや通信ケーブル等の電気・電子部品を有するため、この電磁波により誤作動が起き易いという問題がある。また、この電磁波は、近接する他の電気・電子機器の誤作動を引き起こす原因にもなり、その人体への影響も懸念されている。そこで、高周波の電磁波を放射し易い電気・電子部品には、この電磁波を遮蔽すべく、電気伝導性を有する筐体が設けられている。
【0003】
電気伝導性を有する筐体としては、金属製のものが一般的であるが、軽量性や形状の自由度に乏しい。そこで、熱可塑性樹脂製のものが種々検討されているが、熱可塑性樹脂は一般に電気絶縁性であるため、電気伝導性を持たせるべく、電気伝導性フィラーを配合する必要がある。そして、この電気伝導性フィラーとしては、カーボンブラックや炭素繊維、金属粉や金属繊維が一般的であるが(例えば特許文献1、2参照)、良好な電気伝導性を発現させるには、その配合量を多くする必要があるため、熱可塑性樹脂の成形性が損なわれたり、その成形体の機械的強度が低下したりするという問題がある。そこで、配合量が少なくても、良好な電気伝導性を有する熱可塑性樹脂組成物を与えうる電気伝導性フィラーとして、カーボンナノチューブが検討されている(例えば特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−131067号公報
【特許文献2】特開平8−253671号公報
【特許文献3】特開平3−74465号公報
【特許文献4】特開平8−27279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブが通常、凝集した状態にあり、熱可塑性樹脂に分散し難いため、特にカーボンナノチューブの配合量が少ない場合、電気伝導性が必ずしも十分でないことがある。また、従来の熱可塑性樹脂にカーボンナノチューブを配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、特にカーボンナノチューブの配合量が少ない場合、成形収縮率の異方性が大きく、得られる成形体が反り易いことがある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、良好な電気伝導性を有し、成形収縮率の異方性も小さい熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。そして、この熱可塑性樹脂組成物を用いて、良好な電気伝導性を有し、反り難い成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブと、珪酸カルシウムの繊維状結晶とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物を提供する。また、本発明は、前記熱可塑性樹脂を溶融成形してなる成形体を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、良好な電気伝導性を有し、成形収縮率の異方性も小さいので、この熱可塑性樹脂組成物を溶融成形することにより、良好な電気伝導性を有し、反り難い成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<熱可塑性樹脂>
熱可塑性樹脂は、200〜450℃で成形できるものであることが好ましく、その例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド、ハロゲン化ビニル樹脂、ポリアセタール、飽和ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアリールスルホン、ポリアリールケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリアリールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミド、液晶ポリマー、フッ素樹脂が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせたポリマーアロイとして用いてもよい。中でも、耐熱性に優れることから、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド4/6、ポリアミド6Tが好ましく、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、液晶ポリマーがより好ましい。
【0010】
<ポリフェニレンサルファイド>
ポリフェニレンサルファイドは、典型的にはp−フェニレンチオ基(−pC64−S−)主な構造単位として有する樹脂である。ポリフェニレンサルファイドの製造方法としては、例えば、ハロゲン置換芳香族化合物と硫化アルカリとを反応させる方法(例えば米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報参照)、チオフェノール類をアルカリ触媒又は銅塩の存在下で縮合反応させる方法(例えば米国特許第3274165号明細書参照)、芳香族化合物と塩化硫黄とをルイス酸触媒の存在下で縮合反応させる方法(例えば特公昭46−27255号公報参照)が挙げられる。また、ポリフェニレンサルファイドの市販品の例としては、大日本インキ化学工業(株)製のものが挙げられる。
【0011】
<ポリエーテルスルホン>
ポリエーテルスルホンとしては、有機溶媒中、アルカリ金属化合物の存在下、二価フェノール化合物とジハロジフェニル化合物とを重縮合させることにより得られるものや、二価フェノール化合物のアルカリ金属二塩とジハロジフェニル化合物とを重縮合させることにより得られるものが、好ましく用いられる。
【0012】
前記有機溶媒としては、有機極性溶媒が好ましく、その例としては、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒、N−メチル−2−ピペリドン等のピペリドン系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の2−イミダゾリノン系溶媒、ヘキサメチルホスホラスアミド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホン等のジフェニル化合物が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホラスアミド、γ−ブチロラクトン、スルホラン、1,3−ジオキソラン及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0013】
前記アルカリ金属化合物としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシド等が挙げられる。中でも、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の無水アルカリ金属炭酸塩が好ましい。
【0014】
前記二価フェノール化合物としては、例えば、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4’−ビフェノールの他、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等のジヒドロキシジフェニルスルホン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等のジヒドロキシジフェニルエーテル類、これらの化合物のベンゼン環の水素原子の少なくとも1つが、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基等の低級アルコキシ基、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子で置換されてなるものが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、価格と入手の容易性から、ハイドロキノン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニルプロパン)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンが好ましく、下記式(1)で表されるビスフェノールがより好ましく、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンがさらに好ましい。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Yは、直接結合、−SO2−、−C(CH32−又は−O−を表す。)
【0017】
前記ジハロジフェニル化合物としては、典型的には、スルホン基を有するジハロジフェニル化合物、例えば、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン等のジハロジフェニルスルホン類、1,4−ビス(4−クロルフェニルスルホニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ベンゼン等のビス(ハロゲノフェニルスルホニル)ベンゼン類、4,4’−ビス(4−クロルフェニルスルホニル)ビフェニル、4,4’−ビス(4−フルオロフェニルスルホニル)ビフェニル等のビス(ハロゲノフェニルスルホニル)ビフェニル類が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を混合して用いてもよい。中でも、入手が容易であることから、ジハロジフェニルスルホン類が好ましく、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホンがより好ましく、下記式(2)で表される4,4’−ジクロロジフェニルスルホンがさらに好ましい。
【0018】
【化2】

【0019】
ポリエーテルスルホンは、二価フェノール化合物とジハロジフェニルスルホン化合物とを実質的に等モル量で使用して重縮合させたものであることが好ましい。分子量を調整するために、二価フェノール化合物を等モルから僅かに過剰量で使用して得られたものでもよい。また同様に分子量を調整するために、少量のモノハロジフェニル化合物又は一価フェノール化合物を重合溶液中に添加して得られたものでもよい。
【0020】
ポリエーテルスルホンを得る際の重縮合の反応温度は、140〜340℃であることが好ましい。この反応温度が高すぎると、生成物ポリマーの分解反応が進むため、高純度のポリエーテルスルホンを得ることができず、この反応温度が低すぎると、有用な高分子量の重合体が得られない。ポリエーテルスルホンとしては、その重量平均分子量がポリスチレン換算で50000〜200000であるものが好まれる。
【0021】
<液晶ポリマー>
液晶ポリマーとは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するポリマーをいう。この光学的異方性は、直交偏光子を利用した通常の偏光検査法によって確認することができる。液晶ポリマーは、その分子形状が細長く、扁平で分子の長鎖に沿って剛性が高い分子鎖(この剛性が高い分子鎖は通常「メソゲン基」と呼称されている)を有するものであり、かかるメソゲン基は高分子主鎖又は側鎖のいずれか一方又は両方に有していればよいが、得られる成形体が、より高耐熱性となることを求めるならば、高分子主鎖にメソゲン基を有するものが好ましい。
【0022】
液晶ポリマーの例としては、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、液晶ポリエステルイミド、液晶ポリアミドが挙げられ、中でも、より強度に優れた成形体が得られる点で、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミド、液晶ポリアミドが好ましく、より低吸水性の成形体が得られる点で、液晶ポリエステル、液晶ポリエステルアミドが好ましい。
【0023】
好適な液晶ポリマーとしては、下記(A1)〜(A6)に示される液晶ポリエステルが挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(A1):下記式(i)で表される繰返し単位からなる液晶ポリエステル。
(A2):下記式(ii)で表される繰返し単位及び下記式(iii)で表される繰返し単位からなる液晶ポリエステル。
(A3):下記式(i)で表される繰返し単位、下記式(ii)で表される繰返し単位及び下記式(iii)で表される繰返し単位からなる液晶ポリエステル。
(A4):前記(A1)において、下記式(i)で表される繰返し単位の一部又は全部を、下記式(iv)で表される繰返し単位に置き換えてなる液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド。
(A5):前記(A2)において、下記式(iii)で表される繰返し単位の一部又は全部を、下記式(v)で表される繰返し単位及び/又は下記式(vi)で表される繰返し単位に置き換えてなる液晶ポリエステルアミド又は液晶ポリアミド。
(A6):前記(A3)において、下記式(iii)で表される繰返し単位の一部又は全部を、下記式(v)で表される繰返し単位及び/又は下記式(vi)で表される繰返し単位に置き換えてなる液晶ポリエステルアミド。
【0025】
−O−Ar1−CO− (i)
−CO−Ar2−CO− (ii)
−O−Ar3−O− (iii)
−NH−Ar4−CO− (iv)
−O−Ar5−NH− (v)
−NH−Ar6−NH− (vi)
【0026】
(式中、Ar1及びAr4は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2、Ar3、Ar5及びAr6は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5又はAr6で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【0027】
繰返し単位(i)は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される繰返し単位であり、芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、4−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシビフェニル−4−カルボン酸、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アリールシ基又はハロゲン原子で置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0028】
繰返し単位(ii)は、芳香族ジカルボン酸から誘導される繰返し単位であり、芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸、これらの芳香族ジカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子に置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0029】
繰返し単位(iii)は、芳香族ジオールから誘導される繰返し単位であり、芳香族ジオールとしては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシン、ナフタレン−2,6−ジオール、4,4’−ビフェニレンジオール、3,3’−ビフェニレンジオール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、これらの芳香族ジオールにある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。
【0030】
繰返し単位(iv)単位は、芳香族アミノカルボン酸から誘導される繰返し単位であり、芳香族アミノカルボン酸としては、例えば、4−アミノ安息香酸、3−アミノ安息香酸、6−アミノ−2−ナフトエ酸、これらの芳香族アミノカルボン酸にある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されてなる芳香族アミノカルボン酸が挙げられる。
【0031】
繰返し単位(v)は、ヒドロキシル基を有する芳香族アミンから誘導される繰返し単位であり、ヒドロキシル基を有する芳香族アミンとしては、例えば、4−アミノフェノール、3−アミノフェノール、4−アミノ−1−ナフトール、4−アミノ−4’−ヒドロキシジフェニル、これらのヒドロキシル基を有する芳香族アミンにある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されてなる芳香族ヒドロキシアミンが挙げられる。
【0032】
繰返し単位(vi)単位は、芳香族ジアミンから誘導される構造単位であり、芳香族ジアミンとしては、例えば、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミンこれらの芳香族ジアミンにある芳香環上の水素原子の一部又は全部が、アルキル基、アリール基又はハロゲン原子で置換されてなる芳香族ジアミンが挙げられる。
【0033】
ここで、繰返し単位(i)〜(vi)が有する置換基について例示すると、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基が挙げられ、その炭素数は通常1〜10であり、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよいし、脂環状であってもよい。また、アリール基としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられ、その炭素数は通常6〜10である。また、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0034】
上述した液晶ポリマーの中でも、(A1)〜(A3)の群から選ばれる液晶ポリエステルが、より耐熱性や寸法安定性に優れた成形体が得られる点で好ましく、(A1)又は(A3)の液晶ポリエステルがより好ましく、(A3)の液晶ポリエステルがさらに好ましい。
【0035】
上述のとおり、(A1)の液晶ポリエステルは、繰返し単位(i)からなるものであり、複数種の繰返し単位(i)を有しているものであることが好ましい。その理由は、耐熱性と成形加工性のバランスに優れているためである。
【0036】
(A3)の液晶ポリエステルは、繰返し単位(i)、繰返し単位(ii)及び繰返し単位(iii)を有するものであり、これらの合計を100モル%としたとき、繰返し単位(i)の含有量が30〜80モル%であり、繰返し単位(ii)の含有量が10〜35モル%であり、繰返し単位(iii)の含有量が10〜35モル%であることが好ましい。なお、繰返し単位(ii)と繰返し単位(iii)とのモル比率は、繰返し単位(ii)/繰返し単位(iii)で表して、0.9/1.0〜1.0/0.9であることが好ましく、1.0/1.0、すなわち実質的に等モルであると、液晶ポリエステルを製造する際に、エステル結合を形成し得るカルボキシル基とヒドロキシル基の数が同等となることから、得られる液晶ポリエステルの高分子量化が図れ、より耐熱性に優れた成形体を得るうえで有利である。
【0037】
ここで、繰返し単位(i)があまり少なく、繰返し単位(ii)及び/又は繰返し単位(iii)があまり多いと、得られるポリエステルが液晶性を発現し難くなる傾向にある。一方、繰返し単位(i)単位があまり多く、繰返し単位(ii)及び/又は繰返し単位(iii)があまり少ないと、得られる液晶ポリエステルが溶融し難くなり、成形性が低下する傾向にある。
【0038】
繰返し単位(i)の含有量は40〜70モル%であることがより好ましく、45〜65モル%であることがさらに好ましい。また、繰返し単位(ii)及び繰返し単位(iii)の含有量は、それぞれ15〜30モル%であることがより好ましく、それぞれ17.5〜27.5モル%であることがさらに好ましい。
【0039】
(A1)又は(A3)の液晶ポリエステルを得るには、当該液晶ポリエステルを誘導する原料モノマー、すなわち複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を、又は、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールを、公知の手段により重合させることで得ることができる。中でも液晶ポリエステルの製造の容易さの面で、原料モノマーを予め、エステル形成性誘導体に転換してから液晶ポリエステルを製造することが好ましい。
【0040】
ここで、エステル形成性誘導体は、エステル生成反応を促進するような基を有するものであり、分子内にカルボキシル基を有する原料モノマーの場合、例えば、当該カルボキシル基がハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基に転換したものや、当該カルボキシル基が低級アルコールによりアルコキシカルボニル基に転換したものが挙げられる。また、分子内にヒドロキシル基を有する原料モノマーの場合、例えば、該ヒドロキシル基が低級カルボン酸によりアシルオキシ基に転換したものが挙げられる。
【0041】
このようなエステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステルの製造において特に好適な方法としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールのヒドロキシル基が低級カルボン酸によりアシルオキシ基に転換したエステル形成性誘導体を用いた方法である。このアシル化は、通常、ヒドロキシル基を有する化合物を、無水酢酸と反応させることで行なわれる。このようなエステル形成性誘導体を、芳香族ジカルボン酸と脱酢酸重合させることにより、液晶ポリエステルを得ることができる。
【0042】
前記エステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステルの製造方法としては、(A1)の液晶ポリエステルについては、例えば特開昭61−69866号公報に記載の方法、(A3)の液晶ポリエステルについては、例えば特開2002−146003号公報に記載の方法が適用できる。すなわち、繰返し単位(i)、繰返し単位(ii)及び繰返し単位(iii)に対応するモノマーを混合し、無水酢酸でアシル化してエステル形成性誘導体を形成した後、該エステル形成性誘導体を含む原料モノマーを溶融重合させることにより、液晶ポリエステルを得ることができる。
【0043】
ここで、より一層の耐熱性に優れた成形体を目的とする場合、前記溶融重合で得られた液晶ポリエステルをプレポリマーとし、該プレポリマーをさらに高分子量化させることが好ましく、かかる高分子量化には固相重合を用いると有利である。この固相重合は、前記プレポリマーを粉砕して粉末とし、この粉末を加熱することにより行うことができる。この固相重合によれば、重合がより進行して高分子量化が可能である。
【0044】
前記プレポリマーを粉末とするには、例えば、プレポリマーを冷却固化した後に粉砕すればよい。粉砕して得られる粉末の平均粒径は、0.05〜3mmであることが好ましく、0.05〜1.5mmであることが、液晶ポリエステルの高分子量化がより促進されるため、より好ましい。また、この平均粒径は、0.1〜1.0mmであることが、粒子間のシンタリングを生じることがないため、固相重合の操作性が良好になりやすく、効率的に液晶ポリエステルの高分子量化が促進されるため、さらに好ましい。なお、プレポリマーの平均粒径は、外観観察等により求められる。
【0045】
好適な固相重合では、まず、室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温する。このときの昇温時間は、反応時間の短縮といった観点から1時間以内であることが好ましい。次いで、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温させる。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.1〜0.15℃/分の昇温速度で行うことがより好ましい。該昇温速度が0.3℃/分以下であれば、前記粉末の粒子間のシンタリングがより生じ難くなり、より高分子量の液晶ポリエステルの製造が可能となる。
【0046】
また、液晶ポリエステルの分子量をより高めるためには、前記固相重合の最終過程において、通常280℃以上で、好ましくは280℃〜400℃で、30分以上反応させることが好ましい。特に液晶ポリエステルの熱安定性をより良好にする点からは、280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、285〜340℃で30分〜20時間反応させることがより好ましい。かかる加熱条件は、当該液晶ポリエステルの製造に用いた、原料モノマーの種類により、適宜最適化できる。
【0047】
前記固相重合を行って得られた(A3)の液晶ポリエステルは、十分な高分子量化が達成され、耐熱性に優れた成形体を得ることができる。好ましくはその流動開始温度が280℃以上の液晶ポリエステルであり、該流動開始温度は280〜390℃であることがより好ましい。
【0048】
なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。この流動開始温度を測定する装置としては、例えば、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」が用いられる。
【0049】
以上、液晶ポリマーとして特に好適な(A1)又は(A3)の液晶ポリエステルに関して説明したが、その他の液晶ポリマー、例えば(A2)、(A4)〜(A6)の液晶ポリエステルに関しても、上述したようなエステル形成性誘導体を用いる製造方法により、容易に製造することができる。
【0050】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブは、例えば、気相成長法、アーク放電法、レーザー蒸発法により得られ、多層構造を有するものであることが好ましい。また、カーボンナノチューブの数平均繊維径は、5〜20nmであることが好ましく、5〜15nmであることがより好ましい。カーボンナノチューブのの数平均繊維径があまり小さいと、嵩高くなり、成形加工し難くなるため、好ましくない。一方、カーボンナノチューブのの数平均繊維径があまり大きいと、所望の導電性が得られ難くなるため、好ましくない。また、カーボンナノチューブの平均アスペクト比(数平均繊維長/数平均繊維径)は、100以上であることが、その優れた導電性が発現し易くなるので、好ましい。
【0051】
カーボンナノチューブの市販品の例としては、昭和電工(株)製の「VGCF−X」、Nanocyl S.A.製の「NC7000」、バイエルホールディング(株)製の「baytubes C150P」が挙げられる。
【0052】
<珪酸カルシウムの繊維状結晶>
珪酸カルシウムの繊維状結晶としては、例えば、トベルモライト(Ca5Si616(OH)2・4H2O)の結晶、ウォラストナイト(CaO・SiO2)の結晶、ゾノトライト(CaO・SiO2・H2O)の結晶が挙げられる。中でも、ゾノトライトの結晶が好ましい。ウォラストナイトの結晶としては、例えば巴化学(株)やナガセケムスペック(株)から、数平均繊維長6〜25μm程度のものが入手できる。また、ゾノトライトの結晶としては、例えば宇部マテリアルズ(株)から、数平均繊維長10〜20μm程度のものが入手できる。
【0053】
珪酸カルシウムの繊維状結晶は、その数平均繊維長が0.1〜10μmであることが好ましく、その数平均繊維径が10nm〜1μmであることが好ましく、50〜600nmであることがより好ましい。これら所定範囲の数平均繊維長及び数平均繊維径を有する珪酸カルシウムの繊維状結晶は、熱可塑性樹脂との親和性が良好であるので、好ましい。
【0054】
なお、珪酸カルシウムの繊維状結晶の数平均繊維長及び数平均繊維径は、前記繊維状結晶をメタノールに分散させて、分散液を調製し、該分散液をスライドガラス上に展開し、メタノールを蒸発させた後に、走査型電子顕微鏡を用いて、測定倍率2000倍で顕微鏡写真を撮り、その写真から、前記繊維状結晶100個程度の繊維長を計測し、それらの計測値を数平均すると共に、同様に前記繊維状結晶100個程度の繊維径を計測し、それらの計測値を数平均することにより、求められる。
【0055】
珪酸カルシウムの繊維状結晶は、それが凝集してなる凝集粒子の状態にあることが好ましく、換言すれば、前記繊維状結晶が集合体化してなる二次粒子の状態にあることが好ましい。トベルモライトの結晶が凝集してなる凝集粒子は、例えば、特開平6−40715号公報に開示されるように、石灰乳と結晶質珪酸原料と水とを混合して原料スラリーを得、該原料スラリーを加圧下加熱攪拌しながら水熱合成反応を行うことにより得られる。また、ウォラストナイトの結晶が凝集してなる凝集粒子の製造方法は、例えば特開昭53−146997号公報に開示されている。また、ゾノトライトの結晶が凝集してなる凝集粒子の市販品の例としては、日本インシュレーション株式会社製「ゾノトライトパウダーXK」(体積平均粒子径30μm)や「ゾノトライトパウダーXJ」(体積平均粒子径22μm)等が挙げられる。なお、凝集粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定により求めることができる。
【0056】
凝集粒子の形状は、球状ないし略球状であってもよいし、異形状であってもよく、また、その表面の一部に凹凸を有していてもよい。また、凝集粒子は、熱可塑性樹脂と溶融混練する際、混和性がより良好になることから、その体積平均粒子径が1〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましく、20〜40μmのであることがさらに好ましい。例えば、上述の方法により繊維状結晶を凝集させ、得られた凝集粒子が所望の体積平均粒子径を有しない場合は、分級することで、所望の体積平均粒子径に調節することもできる。
【0057】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて、熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ及び珪酸カルシウムの繊維状結晶以外の成分が含まれていてもよく、その例としては、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維等の繊維状補強剤;ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー等の針状補強剤;ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト等の無機充填剤;フッ素樹脂、金属石鹸類等の離型改良剤;染料、顔料等の着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;界面活性剤が挙げられ、必要に応じて、それらの2種以上を併用してもよい。また、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤等の外部滑剤効果を有する添加剤を用いることも可能である。
【0058】
<熱可塑性樹脂組成物>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブと、珪酸カルシウムの繊維状結晶と、必要に応じて用いられる他の成分とを混合することにより得ることができるが、より低コストである点で、これら成分を溶融混練しすることにより得ることが好ましく、押出溶融混練してペレット状で得ることがさらに好ましい。また、溶融混練の前に、これら成分を、例えばヘンシェルミキサーやタンブラーを用いて混合しておいてもよい。
【0059】
カーボンナノチューブの含有量は、熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ及び珪酸カルシウムの繊維状結晶の合計含有量100重量部に対して、1〜10重量部であることが好ましく、1〜6重量部であることがより好ましく、1〜5重量部であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの含有量がこのような範囲にあると、電気伝導性と成形加工性のバランスがよく有利である。
【0060】
また、珪酸カルシウムの繊維状結晶の含有量は、熱可塑性樹脂、カーボンナノチューブ及び珪酸カルシウムの繊維状結晶の合計含有量100重量部に対して、1〜5重量部であることが好ましく、1〜4重量部であることがより好ましく、1〜3重量部であることがさらに好ましい。珪酸カルシウムの繊維状結晶の含有量がこのような範囲にあると、電気伝導性と成形収縮率の低異方性のバランスがよく有利である。
【0061】
<成形体>
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、トランスファー成形、ブロー成形、プレス成形、射出プレス成形、押出射出成形が挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上を組み合わせてもよい。中でも、電気・電子機器の部品として用いられる電気・電子部品の製造には、射出成形や押出射出成形等の溶融成形が好ましく、射出成形がより好ましい。
【0062】
射出成形は、射出成形機(例えば日精樹脂工業(株)製の「油圧式横型成形機PS40E5ASE型」)を用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物を溶融させ、溶融した熱可塑性樹脂組成物を、適切な温度に加熱され、所望のキャビティ形状を有する金型内に射出することにより行うことができる。射出するために熱可塑性樹脂組成物を加熱溶融させる温度は、使用する熱可塑性樹脂組成物の流動開始温度Tp’(℃)を基点として、Tp’+10(℃)以上Tp’+50(℃)以下にすることが好ましい。また、金型の温度は、熱可塑性樹脂組成物の冷却速度と生産性の点から、通常、室温〜180(℃)の範囲から選択される。
【0063】
こうして得られる成形体は、その体積固有抵抗値が1012Ωcm以下であることが好ましい。また、溶融成形時の前記熱可塑性樹脂組成物の流れ方向における成形収縮率に対する前記流れ方向に垂直な方向における成形収縮率の比の値が5以下であることが好ましい。
【0064】
こうして得られる成形体は、各種用途に適用できるが、特にその電気伝導性を活かして、表面実装部品として好適に用いられる。かかる表面実装部品としては、例えば、電気・電子部品のハウジング、チョークコイル、コネクターが挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形体は、表面実装部品として用いると、電子ノイズを吸収するという効果が期待されるので、極めて有用である。また、半導体製造過程で用いられるトレーとして用いると、静電気によるダストを防ぐ効果が期待されるので、有用である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0066】
カーボンナノチューブとして、多層カーボンナノチューブである昭和電工(株)製の「VGCF−X」(数平均繊維径:15μm、数平均アスペクト比:200)を用いた。
【0067】
珪酸カルシウムの繊維状結晶として、ゾノトライトの結晶が凝集してなる凝集粒子である日本インシュレーション(株)製の「ゾノトライトパウダー XK」(体積平均粒子径(レーザー回折法):30μm、充填密度(JIS K1464):0.084g/cc、吸油量(JIS K5101):492ml/100g、比表面積(BET法):56m2/g)を用いた。
【0068】
ガラス繊維として、旭ファイバーガラス(株)製の「チョップドガラス繊維CS03JAPX−1」(数平均繊維径:10μm、数平均繊維長:3mm)を用いた。
【0069】
製造例1(液晶ポリエステルの製造)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、パラヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を仕込み、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。その後、留出する副生酢酸と未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了としてプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕して粉末とした。この粉末を、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から285℃まで5時間かけて昇温し、同温度で3時間保持することにより、固相重合を行った。冷却して得られた液晶ポリエステルの流動開始温度は327℃であった。
【0070】
実施例1、2、比較例1、2
製造例1で得られた液晶ポリエステル、カーボンナノチューブ、珪酸カルシウムの繊維状結晶及びガラス繊維を、表1に示す重量割合で、同方向2軸押出機(池貝鉄工株式会社製の「PCM−30HS」)を用いて、340℃で混練し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製の「PS40E5ASE型」)を用いて、シリンダー温度350℃、金型温度130℃、射出率30cm3/sで射出成形し、成形体1(64mm×64mm×1mm)及び成形体2(64mm×64mm×3mm)を得た。
このようにして得た成形体の体積固有抵抗値及び成形収縮率を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
成形体1について、ASTMD257に準拠し、東亜電波工業株式会社製の「SM−10E型超絶縁計」を用いて、体積固有抵抗を測定し、結果を表1に示した。
【0072】
成形体2について、射出成形時の熱可塑性樹脂組成物の流れ方向(MD)における成形収縮率、及び流れ方向に垂直な方向(TD)における成形収縮率を測定し、前者に対する後者の比の値を成形収縮率の異方性として求め、結果を表1に示した。
【0073】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブと、珪酸カルシウムの繊維状結晶とを含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が液晶ポリエステル樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂が、下記(A1)に示される液晶ポリエステル樹脂、下記(A2)に示される液晶ポリエステル樹脂及び下記(A3)に示される液晶ポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種の液晶ポリエステル樹脂である請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(A1):下記式(i)で表される繰返し単位からなる液晶ポリエステル樹脂。
(A2):下記式(ii)で表される繰返し単位及び下記式(iii)で表される繰返し単位からなる液晶ポリエステル樹脂。
(A3):下記式(i)で表される繰返し単位、下記式(ii)で表される繰返し単位及び下記式(iii)で表される繰返し単位からなる液晶ポリエステル樹脂。
−O−Ar1−CO− (i)
−CO−Ar2−CO− (ii)
−O−Ar3−O− (iii)
(式中、Ar1は、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、1,4−フェニレン基、2,6−ナフタレンジイル基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニリレン基を表す。また、Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリエーテルスルホン樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルスルホン樹脂が、有機溶媒中、アルカリ金属化合物の存在下に、下記式(1)で表される化合物と下記式(2)で表される化合物とを重縮合させて得られる樹脂である請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Yは、直接結合、−SO2−、−C(CH32−又は−O−を表す。)
【化2】

【請求項6】
前記Yが−SO2−である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブが多層構造を有するカーボンナノチューブである請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブの数平均繊維径が5〜20nmである請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブの数平均アスペクト比が100以上である請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
前記繊維状結晶を、それが凝集してなる凝集粒子として含む請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項11】
前記繊維状結晶がゾノトライトの結晶である請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
前記カーボンナノチューブの含有量が、前記熱可塑性樹脂、前記カーボンナノチューブ及び前記繊維状結晶の合計含有量100重量部に対して、1〜10重量部である請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
前記繊維状結晶の含有量が、前記熱可塑性樹脂、前記カーボンナノチューブ及び前記繊維状結晶の合計含有量100重量部に対して、1〜5重量部である請求項1〜12のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を溶融成形してなる成形体。
【請求項15】
体積固有抵抗値が1012Ωcm以下である請求項14に記載の成形体。
【請求項16】
溶融成形時の前記熱可塑性樹脂組成物の流れ方向における成形収縮率に対する前記流れ方向に垂直な方向における成形収縮率の比の値が5以下である請求項15又は16に記載の成形体。

【公開番号】特開2011−132281(P2011−132281A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290229(P2009−290229)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】