説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】練り込み方式でも樹脂の外観を損なうことなく、優れた帯電防止性、防曇性、印刷適性及び表面の滑性を発揮できる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
下記一般式(1)で表される含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%と炭素数1〜30である疎水基を1又は2以上有するホウ酸エステル系界面活性剤(B)(多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸との反応物、又はその反応物の塩、多価アルコール類をホウ酸エステル化したものに、高級脂肪酸を反応させて得られたもの等)10〜90重量%からなる界面活性剤組成物を0.05重量%〜5.0重量%含有する熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた帯電防止性及び防曇性等の特徴を付与した熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性樹脂製品は、電気の不良導体であるが故に、一度帯電すると帯電した静電気がなかなか逃げない。帯電現象は摩擦や剥離により生じ、そのため熱可塑性樹脂の加工中に帯電による障害が現われたり、実用面ではその静電気のため熱可塑性樹脂製品にゴミやちりが付着しやすい等帯電による障害は数多い。この熱可塑性樹脂の欠点を解決する方法として例えばアルキルジエタノールアミン、脂肪酸ジエタノールアミド、グリセリンモノ脂肪酸エステル等の帯電防止剤としての界面活性剤が単独あるいはこれらの配合物として使用されている。また、熱可塑性樹脂は表面が極めて疎水性であるため耐水性は優れているが、反面、疎水性であるが故に表面に水分が付着した場合、その水分は樹脂表面でぬれの現象を全く示さない。この欠点は例えばポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルムを水分含有食品(果物、野菜、食肉など)の包装に使用した場合、フィルムの内面に凝結した水が付着し、包装した食品が見えにくくなることに現われる。この欠点を解決する方法として例えばソルビタン脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステル等の防曇剤としての界面活性剤が単独あるいはこれらの配合物として使用されている。
【0003】
また前述のように、熱可塑性樹脂は実用面から見て帯電防止性と防曇性共に要求されることが多く、この場合は帯電防止剤と防曇剤とを配合する試みがなされているが、防曇性に優れ且つ帯電防止性にも優れた熱可塑性樹脂製品は未だ得られていないのが現状である。
【0004】
又、かかる用途においては、通常フィルム、シート等の熱可塑性樹脂表面に印刷用インキによる印刷を施して用いられる場合が多く、フィルム表面への印刷はスクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷及びグラビア印刷等の方法が用いられている。印刷インキには、有機溶剤系と水系と大別されるが、有機溶剤系の可燃性による爆発の危険と外気漏出による環境破壊の懸念及び人体への毒性の影響から水系インキによる印刷が次第に行われつつある。しかしながら、プラスチック特有の表面エネルギーの低さから、そのままの状態では印刷インキが表面に付着しない為、表面にコロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理などを施し、表面エネルギーを高めてはいるが、印刷インキの転移性、接着性の点において未だ充分ではない。
【0005】
熱可塑性樹脂製品に帯電防止性及び防曇性等が求められる一方、添加する界面活性剤自身が180〜250℃の高い練り込み温度に耐えうる必要がある。ノニオン界面活性剤は耐熱性がある反面、帯電防止性は十分に満足できる性能に至らない。又アニオン界面活性剤はある程度の帯電防止性を発現するものの、樹脂との相溶性が悪く外観を損ねてしまう。一方、特許文献1及び2に明記されているように一般的に帯電防止性がある第4級アンモニウム塩に代表されるようなカチオン界面活性剤は耐熱性が非常に弱い。
【0006】
従って、これら従来の技術からは必ずしも熱可塑性樹脂組成物に要求されている帯電防止性、防曇性、印刷適性、及び透明性等の全てに充分満足できる性能が得られているとは言えず、更なる改良が求められていた。更に、樹脂を加工して得られるフィルム・シート等の成形体は、その製造過程において表面が滑性を有していれば好ましいと言えるが、前述の性能も持ち合せた適当な滑性は見出されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平2−248439号公報(第1−6頁)
【特許文献2】特開平4−21659号公報(第1−4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、このような状況のもと、加熱工程を含む練り込み方式でも十分な耐熱性を有する上に樹脂の外観を損なうことなく、優れた帯電防止性、防曇性、印刷適性及び表面の滑性を発揮できる熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決する為に鋭意研究した結果、樹脂の外観を損なうことなく、優れた帯電防止性、防曇性、印刷適性及び表面の滑性を発揮できる熱可塑性樹脂組成物の発明を完成させた。すなわち本発明は、下記一般式(1)で表される含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%と炭素数1〜30である疎水基を1又は2以上有するホウ酸エステル系界面活性剤(B)10〜90重量%からなる界面活性剤組成物を0.05重量%〜5.0重量%含有する熱可塑性樹脂組成物である。
【化1】

[Rは、炭素数1〜30の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基を示す。R、Rはそれぞれ独立して水素、又は炭素数2〜30のアシル基を示す。mとnはm+n=0〜100となる0以上の整数を示す。Xは、
【化2】

を示す。Y、Zはそれぞれ独立して1種又は2種以上の
−RO−
(Rは炭素数2〜4のアルキレン基を示す。)である。YとZは互いに同一でも異なっていても良い。]
本発明の好ましい態様に、該含窒素界面活性剤が下記一般式(1)で表される前記熱可塑性樹脂組成物である。また、本発明の好ましい態様に、該ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸との反応物、又はその反応物の塩、更に本発明の別の好ましい態様に、該ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類とホウ酸でエステル化をした化合物と高級脂肪酸との反応物、又はその反応物の塩である前記熱可塑性樹脂組成物がある。本発明の熱可塑性樹脂組成物は特に帯電防止性、防曇性、印刷適性及び滑性に優れた効果を発揮する。更に本発明は上記樹脂組成物からなるフィルム、シート等の樹脂成形体でもある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の界面活性剤組成物を含有する熱可塑性樹脂は、加熱工程を含む練り込み方式を採用した場合でも十分な耐熱性を有し、樹脂の外観を損なうことなく優れた帯電防止性、防曇性、印刷適性及び表面の滑性を発揮することができる。本発明に係る界面活性剤組成物が良好な耐熱性を有する理由は明らかではないが、系中のホウ酸エステル系界面活性剤に含窒素界面活性剤が配位していると考えられることと関係があると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明において、熱可塑性樹脂組成物に含有する界面活性剤組成物は、含窒素界面活性剤(A)とホウ酸エステル系界面活性剤(B)とを組み合せることが必要である。
【0012】
は炭素数1〜30であるが、好ましくは炭素数8〜22の範囲であれば良好な帯電防止性が得られ、又樹脂加工工程において含窒素化合物の発煙による作業環境の悪化を招くことはない。更にRは直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基を有していても構わない。具体的には、カプリル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、イソステアリル基、オレイル基、リノレイル基、ベヘニル基等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
、Rはそれぞれ水素、又は炭素数が2〜30のアシル基であるが、好ましくはR、Rの少なくとも一つが水素であり、好ましくは炭素数が8〜22の範囲であれば良好な帯電防止性が得られ、又樹脂加工工程において含窒素化合物の発煙による作業環境の悪化を招くことはない。
mとnはm+n=0〜100なる0以上の整数を示すが、好ましくは1〜50、更に好ましくは1〜10、最も好ましくは1〜5である。
Xは、

である。
Y、Zはそれぞれ独立して1種又は2種以上の−RO−を示す。Rは炭素数2〜4のエチレン、プロピレン、ブチレン等のアルキレン基であるが、好ましくはエチレン、プロピレンが良い。−RO−が2種以上の場合、それらはブロック付加又はランダム付加でも特に限定されない。YとZは互いに同一でも異なっていても良い。
【0013】
本発明の含窒素界面活性剤の具体的な例として
含窒素界面活性剤(A−1)
【化3】

含窒素界面活性剤(A−2)
【化4】

含窒素界面活性剤(A−3)
【化5】

含窒素界面活性剤(A−4)
【化6】

含窒素界面活性剤(A−5)
【化7】

含窒素界面活性剤(A−6)
【化8】

含窒素界面活性剤(A−7)
【化9】

含窒素界面活性剤(A−8)
【化10】

が挙げられるがこれに限定されるものではなく、これらを単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0014】
本発明に係る含窒素界面活性剤は、公知の方法で得ることができるが、製法は特に限定されるものではない。
【0015】
本発明に係るホウ酸エステル系界面活性剤は、炭素数が1〜30である疎水基を1又は2以上有するものである。該ホウ酸エステル系界面活性剤は、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸とを反応させることにより得ることができ、また多価アルコール類をホウ酸でエステル化した化合物と高級脂肪酸とを反応させても得ることができる。
【0016】
本発明に係るホウ酸エステル系界面活性剤は、多価アルコール類、高級脂肪酸、ホウ酸から合成でき、単量体、多量体、反応副生物などの複数の化合物の混合物として得られる。従って同じ原料を使用しても合成手順により最終化合物の構造は厳密には異なる。
【0017】
本発明に係る多価アルコール類には、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、ポリグリセリン、アラビトール、ソルビトール、ペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、グルコース、ラクトース、単糖類、ショ糖及び/又はそれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加体、或いはエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0018】
本発明に係る高級脂肪酸は炭素数が1〜30であり、飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸でも良く、直鎖もしくは分岐鎖を有していても構わない。具体的には、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、カプリン酸、ノナン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサン酸、ベヘン酸等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。炭素数が8〜24であれば良好な帯電防止性が得られ、又樹脂加工工程において界面活性剤の発煙による作業環境の悪化を招くことはない。
【0019】
本発明に係るホウ酸エステル系界面活性剤には、多価アルコール類の高級脂肪酸エステルとホウ酸との反応物及び多価アルコール類のホウ酸エステルと高級脂肪酸との反応物の塩が含まれる。具体的には、当該反応物のナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、又はアンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩が挙げられるが、好ましくはナトリウム塩、カリウム塩が良い。
【0020】
本発明に係る多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化した化合物とホウ酸とを反応させることにより得られるホウ酸エステル系界面活性剤は、公知の方法で得ることができる。
【0021】
多価アルコールと高級脂肪酸のエステル化反応は、公知の方法により行うことができ、その反応モル比は特に限定しないが、好ましくは多価アルコール1モルに対し高級脂肪酸は1.0〜2.0モルが良い。多価アルコールと高級脂肪酸との反応モル比により、モノエステル、ジエステル、又はトリエステル以上のエステルが得られる。分子蒸留によるモノエステルの純度が高い方が望ましいが、特にエステル化度に限定はなく、これらが混在していても良い。一方、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化をした化合物に対するホウ酸の反応も公知の方法により行うことができ、その反応モル比も特に限定しないが、好ましくは多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化をした化合物1モルに対しホウ酸が0.1〜5.0モル、更に好ましくは0.5〜2.0モルが良い。
【0022】
上記方法により得られるホウ酸エステル系界面活性剤として、具体的にはグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、グリセリンモノステアレートとホウ酸との反応物、グリセリンモノオレートとホウ酸との反応物、グリセリンジラウレートとホウ酸との反応物、グリセリンジステアレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンモノステアレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンモノオレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンジラウレートとホウ酸との反応物、ジグリセリンジステアレートとホウ酸との反応物、ジグリセリントリラウレートとホウ酸との反応物、ポリグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリグリセリンジラウレートとホウ酸との反応物、ポリオキシエチレングリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリオキシプロピレングリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物、ソルビトールモノラウレートとホウ酸との反応物、ソルビトールモノステアレートとホウ酸との反応物、ソルビトールモノオレートとホウ酸との反応物、ポリオキシエチレンソルビトールモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレートとホウ酸との反応物、ペンタエリスリトールモノラウレートとホウ酸との反応物、ペンタエリスリトールモノステアレートとホウ酸との反応物、ペンタエリスリトールジラウレートとホウ酸との反応物、ショ糖モノラウレートとホウ酸との反応物、ショ糖モノステアレートとホウ酸との反応物、ショ糖モノオレートとホウ酸との反応物、ポリエチレングリコールモノラウレートとホウ酸との反応物、ポリプロピレングリコールモノラウレートとホウ酸との反応物、グリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、グリセリンモノオレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、グリセリンジステアレートとホウ酸との反応物のカリウム塩、ジグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、ポリグリセリンモノステアレートとホウ酸との反応物のカルシウム塩、ソルビトールモノラウレートとホウ酸との反応物のナトリウム塩、ペンタエリスリトールモノステアレートとホウ酸との反応物のカルシウム塩等を例示することができるがこれに限定されるものではなく、これらを単独及び2種以上を併用させても良い。
【0023】
本発明に係る多価アルコール類をホウ酸でエステル化した化合物と高級脂肪酸とを反応させることにより得られるホウ酸エステル系界面活性剤は、公知の方法で得ることができる。
【0024】
多価アルコールとホウ酸とのエステル化反応は、公知の方法により行うことができ、その反応モル比は特に限定しないが、好ましくは多価アルコール1モルに対し高級脂肪酸は0.5〜2.0モルが良い。一方、多価アルコール類をホウ酸でエステル化をした化合物に対する高級脂肪酸の反応も公知の方法により行うことができ、その反応モル比も特に限定しないが、好ましくは多価アルコール類をホウ酸でエステル化をした化合物1モルに対し高級脂肪酸酸が1.0〜2.0モルが良い。
【0025】
上記方法により得られるホウ酸エステル系界面活性剤として、具体的にはグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンをベースにそれぞれ例えばグリセロールボレート−ラウレート、グリセロールボレート−パルミテート、グリセロールボレート−ステアレート、グリセロールボレート−オレエート、グリセロールボレート−イソステアレート、グリセロールボレート−ヒドロキシステアレート、アルキレンオキサイドを付加したポリオキシエチレングリセロールボレート−ラウレート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−パルミテート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−ステアレート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−オレエート、ポリオキシエチレングリセロールボレート−イソステアレート、ポリオキシアルキレンボレート−ステアレート、ジグリセロールボレート−ラウレート、グリセロールボレート−ラウレートのナトリウム塩、ジグリセロールボレート−ステアレートのカリウム塩、ポリオキシエチレングリセロールボレート−イソステアレートのカルシウム塩などが例示できるがこれらに限定されるものではなく、これらを単独及び2種以上を併用させても良い。
【0026】
本発明において、界面活性剤組成物は含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%とホウ酸エステル系界面活性剤(B)10〜90重量%とから構成されることが必要であり、(A)90〜50重量%と(B)10〜50重量%とから構成されることが更に好ましい。含窒素界面活性剤(A)が90重量%以上であると、帯電防止及び防曇効果は良いものの熱可塑性樹脂表面の滑性が悪くなる。含窒素界面活性剤(A)が10重量%未満の場合には十分な帯電防止及び防曇効果は得られない。
【0027】
熱可塑性樹脂に対する本発明の界面活性剤組成物の含有量は0.05重量%〜5.0重量%であって、好ましくは0.1重量%〜2.0重量%であり、更に好ましくは0.5重量%〜1.0重量%である。本発明の界面活性剤組成物の含有量に比例して帯電防止性及び防曇性は向上するが、5.0重量%を超えても帯電防止性及び防曇性に大きな向上はなく、むしろ過剰添加によるコスト高、及び熱可塑性樹脂に溶融混練する際のスリップによる供給不良、又は成形体表面の外観不良を生じる。
【0028】
本発明の界面活性剤組成物を0.05重量%〜5.0重量%含有する熱可塑性樹脂組成物は、優れた帯電防止性及び滑性を発揮することができる。具体的には、本発明によれば動摩擦係数が0.4以下で、且つ表面固有抵抗値LOGが13.0[Ω]以下である熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0029】
本発明の界面活性剤組成物は、ポリエステル樹脂等の場合、水分による加水分解を防止する為に、予め乾燥させることが望ましい。好ましくはポリエステル樹脂以外のいずれの樹脂においても本発明の界面活性剤組成物内の水分量が1.0重量%以下が良い。
【0030】
本発明の界面活性剤組成物は、単独でも熱可塑性樹脂に使用することができるが、本発明の目的を損なわない範囲で、必要により本発明以外の公知のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤を単独或いは2種以上併用させても良い。
【0031】
本発明の界面活性剤組成物は、本発明の目的とする帯電防止性及び防曇性を付与させる為に、プラスチック製品表面に塗布する方法でも使用することもできる。使用の際は本発明の界面活性剤をエタノール、イソプロピルアルコールなどの溶媒で約50〜100倍に希釈し、噴霧器又はバーコーター等で塗布する方法などの公知効用の方法が挙げられるが、その方法に特に制限はない。
【0032】
以下、本発明の熱可塑性樹脂について説明する。
本発明の熱可塑性樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリブテン−1(PB−1)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ブタジエン樹脂(BDR)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアクリロニトリル(PAN)、フッ素樹脂(FR)、ポリメタクリルスチレン(MS)、メタクリル樹脂(PMMA)、ナイロン(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリエステルカーボネート(PPC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアセタール(POM)、ポリアリルサルホン(PASF)、ポリアリレート(PAR)、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル(HBP)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)が挙げられるが、熱可塑性樹脂であれば特に限定されるものではなく、これらの樹脂は単独、或いは2種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂の製造方法については、各樹脂において公知の重合方法で得ることができるが、特に限定されるものではない。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂の分子量は、フィルム、シート、成型品等の成型加工条件において最適な分子量であれば、特に限定されるものではない。
【0035】
本発明の目的を損なわない範囲で可塑剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、無機フィラー等の各種添加剤、改質剤、充填剤を付加成分として添加することができる。
【0036】
本発明の界面活性剤組成物の添加方法は、公知の方法で行われる。すなわち、高濃度のマスターバッチを別に作製し、これをフィルム及びシート等の成型品を得るまでの任意の工程で混合しても良いし、熱可塑性樹脂パウダーとあらかじめ混合しても良い。
【0037】
熱可塑性樹脂を加熱加工するにあたり、水分による樹脂の加水分解、或いはフィルム製膜時の発泡を抑制する為にも乾燥する事が好ましい。
【0038】
本発明における熱可塑性樹脂は射出成型、押出成型、ブロー成型、及びTダイ加工、インフレーション加工等によりフィルム、シート等に成型可能である。成型時の温度は樹脂の種類によって異なるが、成型に支障をきたさない溶融粘度の範囲内での温度が好ましい。
【0039】
本発明における熱可塑性樹脂組成物から得られる成形体は、例えば、公知・公用の成形法で得られる成形体を包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠等に関して何ら制限はない。
【0040】
本発明における熱可塑性樹脂組成物を上記成形方法から得られる、ボトル、フィルム又はシート、中空管、積層体、真空(圧空)成形容器、(モノ、マルチ)フィラメント、不織布、発泡体等の成形体は、例えば、ショッピングバッグ、紙袋、シュリンクフィルム、ゴミ袋、コンポストバッグ、弁当箱、惣菜用容器、食品・菓子包装用フィルム、食品用ラップフィルム、化粧品・香粧品用ラップフィルム、おむつ、生理用ナプキン、医薬品用ラップフィルム、製薬用ラップフィルム,肩こりや捻挫等に適用される外科用貼付薬用ラップフィルム、農業用・園芸用フィルム、農薬品用ラップフィルム、温室用フィルム、肥料用袋、包装用バンド、ビデオやオーディオ等の磁気テープカセット製品包装用フィルム、フレキシブルディスク包装用フィルム、製版用フィルム、粘着テープ、テープ、ヤーン、育苗ポット、防水シート、土嚢用袋、建築用フィルム、雑草防止シート、植生ネット、など食品、電子、医療、薬品、化粧品等の各種包装用フィルム、電機・自動車製造業、農業・土木・水産分野で用いられる資材等の広範囲における材料として好適に使用し得る。
【0041】
本発明の一態様として、フィルムの少なくとも一方の表面が印刷インキで印刷されたものがある。フィルム表面への印刷は通常使用されるスクリーン印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷やグラビア印刷などの方法が用いることができる。
【0042】
本発明に使用できる有機溶剤系インキの溶剤は、脂肪族炭化水素系溶剤、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤等が挙げられる。一方水系インキは、溶剤として水が用いられる他、アルコール類、好ましくはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール等の低級アルコールを併用しても良く、これらに特に制限はない。又両系統のインキ共に着色剤として一般的な無機及び有機顔料が使用でき、例えば溶解性及び不溶解性アゾ系、フタロシアニン系、ナフトール系等の有機顔料や酸化チタン、炭酸カルシウム、弁柄、カーボンブラック等の無機顔料が挙げられる。又樹脂バインダーとしては、スチレン−アクリル酸系、スチレン−マレイン酸系等のアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ロジン変性樹脂等で安定なインキと製造できるものであれば良く、単独又は併用して用いることができる。その他添加剤としてワックス類、消泡剤、分散剤等を使用しても良い。又印刷時のインキの粘度調整として有機溶剤系インキには上記溶剤、及び水系インキには水、アルコール類を併用した希釈剤を使用しても良い。
【0043】
本発明のフィルムに対し、上記の有機溶剤系インキ又は水系インキを用いて公知の印刷機により印刷を行う場合、印刷に先立ちフィルム表面をコロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理等の公知の方法により表面の活性化処理を行うとインキのなじみや接着性を向上できる為、何らかの方法で表面の活性化処理を行うことが望ましい。
【実施例】
【0044】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。又下記比較化合物(1)及び(2)を実施例と比較した。
【0045】
<比較化合物(1):ノニオン界面活性剤>
グリセリンモノステアレート(東邦化学工業(株)製)
<比較化合物(2):カチオン界面活性剤>
ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド(東邦化学工業(株)製)
【0046】
<含窒素界面活性剤(A−1)の合成>
ガラス製オートクレーブにラウリルアミン1モルを仕込み、N置換を行いエチレンオキサイド2.0モルを155℃、2時間を要し付加し上述の本発明の含窒素界面活性剤(A−1)を合成した。
【0047】
<含窒素界面活性剤(A−2)の合成>
ガラス製オートクレーブにジエタノールアミン1モルを仕込み、N置換を行いステアリン酸1.0モルを155℃、2時間を要し反応させ上述の本発明の含窒素界面活性剤(A−2)を合成した。
【0048】
<含窒素界面活性剤(A−3)の合成>
ガラス製オートクレーブにラウリルアミン1モルを仕込み、N置換を行いエチレンオキサイド2.0モルを155℃、2時間を要し付加し、その後、得られた化合物1.0モルにラウリン酸を0.8モル仕込み、Nガスを導入しつつ160℃に昇温し4時間エステル化を行ない上述の本発明の含窒素界面活性剤(A−3)を合成した。
【0049】
<ホウ酸エステル系界面活性剤(B−1)の合成>
ガラス製オートクレーブにグリセリン1.0モル及びラウリン酸1.0モルを仕込み、Nガスを導入しつつ水酸化カリウム0.3重量%の存在下、220〜250℃に昇温し5時間エステル化しグリセリンモノラウレート(副生成物としてジエステル以上のエステルも含む)を合成した。続いて合成したグリセリンモノラウレート1.0モルに対して1.0モルのホウ酸を仕込み、130〜135℃まで徐々に加熱脱水し、その後230℃まで徐々に昇温し、目的のグリセリンモノラウレートとホウ酸との反応物(B−1)を合成した。
【0050】
<ホウ酸エステル系界面活性剤(B−2)の合成>
ガラス製オートクレーブにグリセリン1.0モル及びホウ酸1.0モルを仕込み、Nガスを導入しつつ220〜250℃に昇温し5時間エステル化しグリセリンボレートを合成した。続いて合成したグリセリンボレート1.0モルに対して1.0モルのオレイン酸を仕込み、Nガスを導入しつつ水酸化カリウム0.3重量%の存在下、220〜250℃に昇温し5時間エステル化し、目的のグリセリンボレートオレート(副生成物としてジエステル以上のエステルも含む)(B−2)を合成した。
【0051】
<本発明の界面活性剤組成物>
本発明の含窒素界面活性剤(A−1)〜(A−3)とホウ酸エステル系界面活性剤(B−1)及び(B−2)を表1に示した配合比率(重量%)にて配合し、界面活性剤組成物(1)〜(6)として後記のテストに供する。
【0052】
各種の熱可塑性樹脂に対して本発明の界面活性剤組成物(1)〜(6)、比較化合物(1)及び(2)を表2及び表3に示した含有量で混練したのち、2軸押出し機にて押出し温度210℃で50μのTダイキャストフィルムを製膜した。この製膜フィルムを温度23℃、相対湿度50%の恒温恒湿条件下に14日間放置した後、透明性、帯電防止性、防曇性、印刷適性、滑性及び耐熱性を評価し、結果を表2及び表3に示す。
【0053】
<評価方法>
製膜フィルムの性能評価は、具体的に下記の方法によって実施した。
【0054】
(1)透明性
HAZE測定装置(東京電色(株)製 HAZEMETER TC−HIIIDPK)にて製膜フィルムのHAZE値を測定し、界面活性剤未添加のフィルムとの差ΔHAZEで評価した。ΔHAZEが小さい程、界面活性剤未添加のフィルムに近い透明性を示す。ΔHAZEは10以下が目標である。
【0055】
(2)帯電防止性
JIS−K−6911に準じ、(株)川口電気製作所製超絶縁計 P−616を使用して製膜フィルムの表面固有抵抗値を測定した。数値が小さい程、帯電防止性が優れていることを示す。Log(表面固有抵抗値Ω/□)は13以下が目標である。
【0056】
(3)防曇性(無滴性の評価)
製膜フィルムの低温及び高温環境下における防曇性を評価した。
低温防曇性:ビーカーに5℃の水を入れた後、熱可塑性樹脂のフィルムで蓋をした。外気温5℃における6時間後のフィルムの濡れ状態を評価した。
高温防曇性:ビーカーに90℃の水を入れ後、熱可塑性樹脂のフィルムで蓋をした。外気温25℃における30分後のフィルムの濡れ状態を評価した。
防曇性の評価は下記の基準で評価した。
◎ : 全面に均一に濡れて透明
○ : 半分以上が透明
△ : 半分以上が不透明
× : 完全に不透明
【0057】
(4)印刷適性評価(インキ転移性)
製膜フィルムのコロナ放電処理面にグラビア印刷機を用いて、有機溶剤系インキ及び水系インキを印刷しフィルム表面とのインキ転移性を評価した。
転移性評価は印刷表面を光学顕微鏡にて観察し、以下の基準でハジキ・インキの転移量を評価した。
◎ : ハジキがまったく見られず、インキの転移量も多い
○ : 殆どハジキが見られず、多少インキの転写量も多い
△ : 多少ハジキが見られ、インキの転写量は普通
× : ハジキが多く、インキの転写量も少ない
××: 非常にハジキが多く、インキの転写量も少ない
有機溶剤系インキとして東洋インキ製造(株)製「LPスーパー」を専用の希釈溶剤を用いて固形分濃度20〜30重量%に希釈したものを使用した。
水系インキとして東洋インキ製造(株)製「アクワエコール」を専用の希釈溶剤を用いて固形分濃度20〜30重量%、アルコール濃度30%以下に希釈したものを使用した。
【0058】
(5)滑性
製膜フィルムの滑性を、JIS K7125−ISO8295に基づきトライボギア
TYPE HEIDON−14DR(HEIDON社製)を使用して動摩擦係数により評価した。動摩擦係数0.4以下が目標である。
【0059】
(6)耐熱性
また、上記各実施例で用いた本発明の界面活性剤組成物(1)〜(6)、比較化合物(1)及び(2)の残存率を下記に従って測定し耐熱性の指標とした。
熱重量分析計(セイコーインスツルメント(株)製 TG/DTA6200)にて、Air雰囲気下、250℃定温における60分後の残存率(重量%)を測定した。その結果を下記表1に示す。下記表1の結果から、本発明の界面活性剤組成物は、いずれも高い耐熱性を有していることがわかる。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
表2の実施例1〜20の結果に示されるように、本発明の界面活性剤組成物を含有する熱可塑性樹脂組成物は、練り込み方式でも樹脂の外観を損なうことなく、優れた帯電防止性、防曇性、印刷適性及び表面の滑性を発揮でき、高い品質を要求される用途において有用である。又、それよりなるフィルム、シート、射出成形体、フィラメント、不織布、ボトル、ヤーン等の成形体は、(食品)包装資材、農業用、電機・自動車製造業用、土木・建築用、水産用の資材、コンポスト資材等の広範囲における資材として好適に使用し得る。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含窒素界面活性剤(A)90〜10重量%と、炭素数が1〜30である疎水基を1又は2以上有するホウ酸エステル系界面活性剤(B)10〜90重量%からなる界面活性剤組成物を0.05重量%〜5.0重量%含有する熱可塑性樹脂組成物。

[Rは、炭素数が1〜30の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基、アルキルアリール基、又はアリールアルキル基を示す。R、Rはそれぞれ独立して水素、又は炭素数2〜30のアシル基を示す。mとnはm+n=0〜100となる0以上の整数を示す。Xは、

を示す。Y、Zはそれぞれ独立して1種又は2種以上の
−RO−
(Rは炭素数が2〜4のアルキレン基を示す。)である。YとZは互いに同一でも異なっていても良い。]
【請求項2】
ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類を高級脂肪酸でエステル化をした化合物とホウ酸との反応物、又はその反応物の塩である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ホウ酸エステル系界面活性剤が、多価アルコール類をホウ酸でエステル化をした化合物と高級脂肪酸との反応物、又はその反応物の塩である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
優れた帯電防止性(表面固有抵抗率が1.0E+13[Ω/□]以下)、防曇性、透明性、印刷適性、及び滑性(動摩擦係数が0.4以下)を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、含塩素ビニル樹脂およびエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つの熱可塑性樹脂である請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる樹脂成形体。
【請求項7】
成形体がフィルム、シートである請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
成形体が、射出成形体である請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
成形体が、熱成形体である請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
成形体が、発泡体である請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項11】
成形体が、繊維、モノフィラメント、不織布である請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項12】
成形体が、ヤーンである請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項13】
成形体が、積層体である請求項6に記載の樹脂成形体。
【請求項14】
成形体が、ボトルである請求項6に記載の樹脂成形体。


【公開番号】特開2006−241351(P2006−241351A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60463(P2005−60463)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】