説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】耐加水分解性の向上を図り、耐加水分解性と、引張り強度や引張り弾性率等の剛性とのバランスに優れた、ポリ乳酸系の新しい熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】次の配合;
(A)ポリ乳酸樹脂:50〜98質量%
(B)グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体:1〜20質量%
(C)タルク:1〜30質量%
を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地球環境問題への関心の高まりから、石油資源に過度に依存することがなく、しかも生分解性を有しているプラスチックの実現が望まれている。このようなプラスチックの候補の一つとしてポリ乳酸樹脂がある。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸樹脂は、加水分解しやすく、実用化できる程度の耐加水分解性を有することが必要である。また、一般的に硬くて脆い材料であり、引張り強度や引張り弾性率等の剛性の点においても実用上の改善が必要とされていた。
【0004】
そこで、このような問題を解決するための方策が様々に検討されている。
【0005】
例えば、耐水性を高め、機械的強度を維持するために、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体とアクリロニトリル−スチレン共重合体とのグラフト共重合体と、熱可塑性樹脂とをポリ乳酸に代表される脂肪族ポリエステル樹脂に配合して化学的に結合した後、カルボジイミドを添加する方法(特許文献1)や、ポリ乳酸樹脂の耐衝撃性を改善するために、エポキシ基を含有したゴム成分とフィブリル化フッ素樹脂を添加する方法(特許文献2)が提案されている。
【0006】
しかしながら、このような従来の改善策においても、耐加水分解性は必ずしも実用的に十分でなく、また、耐加水分解性と、引張り強度や引張り弾性率等の剛性とのバランスに優れたポリ乳酸系の熱可塑性樹脂組成物は実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−145937号公報
【特許文献2】特開2008−291107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記のとおりの背景から、従来技術の問題点を解消し、長時間の使用が想定される家電分野や建材、サニタリー分野等への広い範囲での実用が期待されるものとして、耐加水分解性の向上を図り、耐加水分解性と、引張り強度や引張り弾性率等の剛性とのバランスに優れた、ポリ乳酸系の新しい熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は以下のことを特徴としている。
【0010】
第1には、次の配合;
(A)ポリ乳酸樹脂:50〜98質量%
(B)グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体:1〜20質量%
(C)タルク:1〜30質量%
を有する。
【0011】
第2には、上記第1の熱可塑性樹脂組成物において、カルボジイミド化合物を含有する。
【0012】
第3には、上記第1または第2の熱可塑性樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂を含有する。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明によれば、ポリ乳酸樹脂組成物の耐加水分解性を向上させることができ、しかも、耐加水分解性と、引張り強度や引張り弾性率等の剛性とのバランスに優れたものとすることができる。これによって、長時間の使用が想定される家電分野、建材、サニタリー分野等への広い利用が図られることになる。
【0014】
第2の発明によれば、ポリ乳酸の末端基と反応するカルボジイミドをさらに含有することにより、上記第1の発明の効果に加えて、高温高湿環境下での耐久性の向上も図られることになる。
【0015】
また第3の発明によれば、ポリカーボネート樹脂をさらに含有することにより、上記第1または第2の発明の効果に加えて、成形品全体の耐加水分解性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の前記熱可塑性樹脂組成物において含有される前記(A)ポリ乳酸樹脂については、ポリ乳酸および乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体を意味する。とうもろこしなどの植物から得られたでんぷんを発酵させて、乳酸とし、化学合成にてポリマー化したものである。
【0017】
乳酸としては、L−および/またはD−乳酸、乳酸の二量体であるラクトンなどが挙げられる。さらに乳酸と共重合可能なヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸などが挙げられ、1種または2種以上使用できる。
【0018】
本発明においては、市販されているポリL−乳酸が好ましい。
【0019】
ポリ乳酸の分子量には特に制限はないが、物理的、熱的特性の面より重量平均分子量が1万以上、より好ましくは3万以上であることが考慮される。
【0020】
なお、ポリ乳酸としては、以上のポリ乳酸樹脂についてはその配合割合は50〜98質量%の範囲内とする。50質量%未満の場合にはポリ乳酸樹脂としての引張り強度や引張り弾性率等の剛性の点で実現することは難しく、98質量%を超える場合には高い耐加水分解性を実現することが難しくなる。
【0021】
本発明において、(B)グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体とは、グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの混合物であり、このうちの全部もしくは一部が、グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとが共重合した重合体として存在していてもよい。この重合体は多層構造を有していてもよい。
【0022】
シリコーンアクリル複合ゴムは、アクリル酸アルキル単位からなるアクリル成分とシリル基末端ポリエーテルからなるシリコーン成分との重合体である。
【0023】
アクリル酸アルキル単位としては、具体的には、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−プロピル、メタアクリル酸n−ブチル、メタアクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸n−ヘキシル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸オクタデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸クロロメチル、メタアクリル酸2−クロロエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタアクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルまたはメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられる。これらの単位は1種ないし2種以上を用いることができる。
【0024】
シリル基末端ポリエーテルのシリル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキルシリル、3−クロロプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピルなどのハロゲン化アルキルシリル、ビニル、アリル、ブテニルなどのアルケニルシリル、フェニル、トリル、ナフチルなどのアリールシリル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのシクロアルキルシリル、ベンジル、フェネチルなどのアリール−アルキルシリルなどが挙げられる。また、ポリエーテルにはポリエチレン、ポリプロピレンなどが用いられる。これらは1種ないし2種以上を用いることができる。
【0025】
多層構造重合体は、最内層(コア層)とそれを覆う1層以上の層(シェル層)から構成され、また、隣接し合った層が異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる構造を有する重合体である。
【0026】
(B)グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体についても市販のものを利用することができる。具体例として、三菱レイヨン株式会社製メタブレンS2200を挙げることができる。
【0027】
(B)グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体の配合割合は、1〜20質量%の範囲内とする。1質量%未満の場合には、耐加水分解性の向上が図れないし、20質量%を超える場合には、混練時にゲル化し樹脂組成物のペレット化が困難になる等、加工性の点において難点が生じる。
【0028】
さらに本発明においては、(C)タルクを配合する。このタルクは市販のフィラー材等としてよく知られているものである。その大きさについては、通常、粒径0.5μm〜12μmの範囲内のものとすることが好ましい。
【0029】
タルクの配合割合としては、1〜30質量%の範囲内とする。タルク配合量が1質量%未満の場合には引張り弾性率の向上が図られず、30質量%を超える場合には混練時にタルクの一部がスクリューに食い込まず樹脂組成物のペレット化が困難になる等、加工性が低下する。
【0030】
そして、本発明の熱可塑性樹脂組成物においては前記成分以外に、ポリカルボジイミド化合物やモノカルボジイミド化合物等のカルボジイミド化合物を含有することが有効である。このものは、本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるポリ乳酸樹脂のカルボキシル基末端の一部または全部と反応して封鎖する働きを示すものであり、実用的に十分な耐加水分解性を備えた成形品を得ることができ、高温高湿環境下での耐久性の向上を図ることができる。
【0031】
ポリカルボジイミド化合物としては、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5−トリイソプロピルベンゼン及び1,5−ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド等が挙げられ、モノカルボジイミド化合物としては、N,N’−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド等が挙げられる。
【0032】
カルボジイミド化合物ついても市販のものを利用することができ、具体例として、日清紡績株式会社製カルボジライトLA−1(ポリ(4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド))を挙げることができる。
【0033】
カルボジイミド化合物の配合割合は、例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物の全体量中、0.1〜5質量%の範囲内とすることが好ましい。0.1質量%未満では前記耐久性の向上はあまり期待できず、5質量%を超えると混練時にゲル化し樹脂組成物のペレット化が困難になる等、加工性の点において難点が生じる場合があるので好ましくない。
【0034】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、ポリカーボネート樹脂を含有することが有効である。これによって、成形品全体の耐加水分解性をさらに向上させることができる。
【0035】
ポリカーボネート樹脂は、市販のものを利用可能であって、その配合割合は、例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物の全体量中、1〜20質量%の範囲内とすることが好ましい。1質量%未満では耐加水分解性の向上はあまり期待できず、20質量%を超えるとポリ乳酸樹脂の比率が下がり、ポリ乳酸樹脂の特徴である非石油系樹脂使用比率が低下するので好ましくない。
【0036】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、結晶核剤を含有してもよい。通常、ポリ乳酸樹脂成形材料は金型内で結晶化することにより耐熱性、弾性率等が向上するが、結晶化速度が遅く、金型内の保持時間をかなり長くして結晶化を促進させる必要がある。結晶核剤は、その結晶化速度を早くして金型内保持時間を短くすることができる。このような結晶核剤として、例えば、平均粒子径3μm以下のフェニルホスホン酸亜鉛等が挙げられる。このものは市販品を利用することができ、具体例として、日産化学工業株式会社製エコプロモートを挙げることができる。
【0037】
さらに本発明の熱可塑性樹脂組成物においては、本発明の目的、効果を損なわない限りにおいて、その目的に応じて樹脂の混合時、成形時等に、安定剤、顔料、染料、補強剤(マイカ、クレー、ガラス繊維等)、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤、無機および有機系抗菌剤等の公知の添加剤を配合することができる。
【0038】
以上のとおりの本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分の混合、混練によって製造することができる。ペレットとして製造する場合には、特に制限はなく、例えば、二軸押出機、バンバリーミキサー、加熱ロール等を用いることができるが、中でも二軸押出機による溶融混練が好ましく、必要に応じて、サイドフィードなどにより樹脂やその他の添加剤を配合することもできる。
【0039】
本発明のポリ乳酸系の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、シート成形、真空成形などの通常の成形方法によって、各種成形品に成形することができる。
【0040】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん本発明は以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
<樹脂組成物の製造>
表1に示した配合割合(単位:質量%)で各成分を配合した。
【0042】
樹脂成分については予め乾燥処理を行い、次いで配合物を10分間、タンブラーで混合し、2軸押出機に通した。2軸押出機の温度はダイス付近で190℃、投入口付近で200℃の設定とした。2軸押出機から出たストランドをすぐに冷却槽で冷却し、その後カッターで2〜4mmのペレットに切断した。
<成形>
成形前に前記ペレットの乾燥処理を行った。乾燥は除湿乾燥機で120℃×4h行い、成形は100トン射出成形機で行った。
【0043】
シリンダーの温度はヘッド付近で200℃、材料投入口付近で190℃の設定とした。金型温度は110℃、金型内保持時間は100sとした。なお、実施例13については金型内保持時間を300sとした。
<評価>
1)得られた成形品試料について引張り強度、引張り弾性率、耐久性について評価した。その際の方法は次のとおりとした。
(評価方法)
引張り強度
ISO 527に準拠し、引張り強度を測定した。
【0044】
引張り弾性率
ISO 527に準拠し、引張り弾性率を測定した。
【0045】
耐久性
60℃、95RHにて湿熱テストを実施し、引張り強度の保持率が80%以下となる時間を測定した。
【0046】
2)表1に示した実施例1〜13と比較例1〜4との対比から明らかなように、本発明の実施例によれば、
引張り強度:50MPa以上
引張り弾性率:2.8GPa以上
耐久性:250hr以上
のバランスに優れた特性が得られている。なかでもカルボジイミドを用いた実施例5〜7やポリカーボネート樹脂を用いた実施例8〜10はいずれも耐久性が500hr以上であり、耐久性の向上が図られていることを確認した。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の配合;
(A)ポリ乳酸樹脂:50〜98質量%
(B)グリシジルメタクリレートとシリコーンアクリル複合ゴムとの複合体:1〜20質量%
(C)タルク:1〜30質量%
を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
カルボジイミド化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリカーボネート樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−6638(P2011−6638A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153916(P2009−153916)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】