説明

熱可塑性樹脂組成物

【課題】軽量かつ線膨張係数が小さく、耐耐衝撃性および表面外観に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)ゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合させて得られたグラフト共重合体が1〜50重量部、(D)タルクが30〜200重量部を配合してなる樹脂組成物であり、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが構造周期0.001〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有する熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ線膨張係数が小さく、耐衝撃性および表面外観に優れる熱可塑性樹脂組成物、成形品および車両用外装部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上、地球温暖化防止を目的として車体重量の軽量化が望まれており、自動車外装部品においては、アルミニウムやスチール材から熱可塑性樹脂への代替が検討されている。しかし、熱可塑性樹脂は、アルミニウムやスチール材に比べて、線膨張係数が大きいため、寸法精度に劣ることが課題となっていた。
【0003】
一方、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂とのブレンド物は、機械的性質、耐熱性、耐薬品性などに優れていることから、エンジニアリングプラスチックとして、幅広く用いられている。更に近年では、耐衝撃性や剛性を改良するために、ゴム質重合体やガラス繊維、タルク、マイカ、ウィスカーなどの微細な無機充填剤を配合したものも広く用いられている。
【0004】
特許文献1では、芳香族ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂またはポリブチレンテレフタレート樹脂、弾性重合体およびタルクを配合してなる樹脂組成物が提案されている。しかしながら、タルクの配合量が少ないため線膨張係数が大きく、ABS樹脂およびポリブチレンテレフタレート樹脂を同時に配合する場合についての記載がない。
【0005】
特許文献2では、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ゴム質重合体にビニル系単量体をグラフト重合させて得られたグラフト共重合体、タルクを配合してなる樹脂組成物が提案されている。
【0006】
特許文献3では、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、タルクおよび有機リン酸エステルを配合してなる樹脂組成物が提案されている。
【0007】
特許文献4では、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ゴム状弾性体および無機質充填剤ルを配合してなる樹脂組成物が提案されている。
【0008】
しかし、これらの特許文献で示された方法で得られる樹脂組成物は、タルクの配合量が少ない場合には線膨張係数が大きく、タルク配合量を増加させると軽量性が損なわれるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−217942号公報
【特許文献2】特開2009−221472号公報
【特許文献3】特開平6−49343号公報
【特許文献4】特開平5−222283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は軽量かつ線膨張係数が小さく、耐衝撃性および表面外観に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果得られたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ゴム強化スチレン系樹脂、(D)タルクを配合してなる樹脂組成物であって、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)ゴム強化スチレン系樹脂が1〜100重量部、(D)タルクが30〜200重量部を配合してなる樹脂組成物であり、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが構造周期0.001〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物、
(2)(C)ゴム強化スチレン系樹脂が、ABS樹脂、AAS樹脂、MBS樹脂およびAES樹脂から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(3)(C)ゴム強化スチレン系樹脂が、ABS樹脂であることを特徴とする上記(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物、
(4)(C)ゴム強化スチレン系樹脂が、(r)ゴム質重合体5〜80重量%の存在下で、(a1)スチレン系単量体単位5〜90重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体単位1〜50重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体単位0〜80重量%からなる単量体混合物20〜95重量%をグラフト重合してなるグラフト重合体(C−1)5〜100重量部と、(a1)スチレン系単量体単位5〜90重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体単位1〜50重量%、および(a3)これらと共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜80重量%からなる単量体混合物を重合して得られる(C’−1)ビニル系共重合体0〜95重量部(ただし(a1)〜(a3)の合計をそれぞれ100重量%とする)とからなるゴム強化スチレン系樹脂である(1)〜(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物、
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、軽量かつ線膨張係数が小さく、耐衝撃性および表面外観に優れた組成物を提供することができる。加えて上記の熱可塑性組成物は、各種成形品、車両部品、車両用外装部品などとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明において使用される(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン或いは炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体と反応させることにより容易に製造される。反応は公知の方法、例えば、ホスゲンを用いる場合は界面法により、又炭酸ジエステルを用いる場合は溶融状で反応させるエステル交換法等が採用される。
【0016】
上記原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が代表的である。その他、たとえば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用されるが、これらの他にピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル類を混合して使用してもよい。更に、フロログルシン等の多官能性化合物を併用した分岐を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することも出来る。
【0017】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、ホスゲン、またはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類が挙げられる。
【0018】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは10,000〜50,000であり、より好ましくは15,000〜40,000であり、最も好ましくは15,000〜30,000である。
【0019】
所望の分子量の芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、末端停止剤或いは分子量調節剤を用いる方法や重合反応条件の選択等公知の方法が採用される。
【0020】
本発明に使用される(A)芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを含有していても良い。芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、例えば、末端停止剤あるいは分子量調節剤を用いて芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルを反応させることで得られる。芳香族ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノールA或いはビスフェノールAと他の2価のフェノールとの混合物が好ましい。
【0021】
末端停止剤あるいは分子量調節剤としては、例えば、フェノール、p−t−アルキルフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸、脂肪族カルボン酸クロライド等が挙げられる。芳香族ポリカーボネートオリゴマーの具体例としては、好ましくは、p−t−ブチルフェノールで末端停止されたビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、p−t−ブチルフェノールで末端停止されたテトラブロムビスフェノールAとビスフェノールAからのコポリカーボネートオリゴマー等が挙げられるが、必ずしも(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と同じ原料や反応方法で製造されたオリゴマーである必要はない。
【0022】
芳香族ポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した値で、好ましくは1,500〜9,500であり、より好ましくは2,000〜9,000であり、最も好ましくは2,500〜8,500である。
【0023】
ポリカーボネートオリゴマーの含有量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂中の0〜25重量%、好ましくは3〜20重量%である。上記範囲でポリカーボネートオリゴマーを含有する芳香族ポリカーボネート樹脂を用いると、本発明樹脂組成物から製造された成形品表面への塗料や印刷インキ等の密着性を改善することが出来る。芳香族ポリカーボネートオリゴマーの含有量が25重量%を越えると得られる成形品の耐衝撃性の低下が著しくなり好ましくない。
【0024】
本発明を構成する(B)芳香族ポリエステル樹脂とは、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体、(ハ)ラクトンから選択された一種以上を重縮合してなる重合体または共重合体であり、液晶性を示さないポリエステルである。
【0025】
上記ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸単位およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0026】
また、上記ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体としては、炭素数2〜20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなど、あるいは分子量200〜100000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、芳香族ジオキシ化合物すなわち、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、及びこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0027】
また、上記ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。上記ラクトンとしてはカプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどを挙げることができる。
【0028】
これらの重合体ないしは共重合体の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ビスフェノールA(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレ−ト)、ポリプロピレンナフタレート、ポリプロピレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)テレフタレート、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)/ビスフェノールA、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)/ビスフェノールAなどの芳香族ポリエステル や、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/スルホイソフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバテート)、ポリプロピレン(テレフタレート/セバテート)、ポリエチレン(テレフタレート/セバテート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリ−ε−カプロラクトンなどポリエーテルあるいは脂肪族ポリエステルを芳香族ポリエステルに共重合した共重合体や、ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオキサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリネオペンチルグリコールオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレン(サクシネート/アジペート)、ポリプロピレン(サクシネート/アジペート)、ポリエチレン(サクシネート/アジペート)、ポリヒドロキシ酪酸及びβ−ヒドロキシ酪酸とβ−ヒドロキシ吉草酸とのコポリマーなどのポリヒドロキシアルカノエート、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル、ポリブチレンサクシネート・カーボネートなどの脂肪族ポリエステルカーボネートが挙げられる。
【0029】
これらの中で、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体が好ましく、具体的には、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ(シクロヘキサンジメチレン/エチレン)テレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)を好ましく挙げることができる。上記芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体中の全ジカルボン酸に対する芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の割合が30モル%以上であることがさらに好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
また、これらの中では、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体がさらに好ましく、具体的には、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリプロピレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリプロピレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリプロピレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート)を挙げることできる。上記テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とブタンジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体中の全ジカルボン酸に対するテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の割合が30モル%以上であることがさらに好ましく、40モル%以上であることがさらに好ましい。
【0031】
本発明における上記(B)芳香族ポリエステル樹脂の具体例のさらなる好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステルエラストマー、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネートを挙げることができ、中でも特に成形性や耐熱性の点で、ポリブチレンテレフタレートまたはポリエチレンテレフタレートから選択される少なくとも1種が主成分であることが好ましく、ポリブチレンテレフタレートが主成分であることがより好ましい。
【0032】
また、(B)芳香族ポリエステル樹脂は共重合体でもよく、具体例としてはポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)などが挙げられ、単独で用いても2種以上混合して用いても良い。
【0033】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂の粘度は溶融混練が可能であれば特に制限はないが、通常、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度は0.36〜3.0dl/gであることが好ましい。特に0.9〜2.0dl/gの範囲にあるものが成形性の点から好適である。固有粘度が0.36dl/g未満では機械的特性が不良であり、また、固有粘度が3.0dl/gを越えると成形性が不良となる傾向がある。
【0034】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、耐熱性の点から120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、180℃以上であることがより好ましく、特に220℃以上であることが好ましい。上限は350℃である。さらに、成形性および生産性の点で、220℃〜250℃の範囲にあることが好ましい。なお、本発明において、(B)芳香族ポリエステル樹脂の融点は、示差走査熱量計(DSC)により昇温速度20℃/分で測定した値である。
【0035】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂は、m−クレゾール溶液をアルカリ溶液で電位差滴定して求めたCOOH末端基量が1〜50eq/t(ポリマー1トン当りの末端基量)の範囲にあるものが耐久性の点から好ましく使用できる。
【0036】
本発明で用いる(B)芳香族ポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の重縮合法や開環重合法などにより製造することができ、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、カルボキシル末端基量を少なくすることができ、かつ、流動性向上効果が大きくなるという点で、連続重合が好ましく、コストの点で、直接重合が好ましい。
【0037】
本発明における(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%である。(A)芳香族ポリカーボネート樹脂10〜90重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂10〜90重量%がより好ましく、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂40〜80重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂20〜60重量%が最も好ましい。(A)芳香族ポリカーボネート樹脂の配合量が1重量%未満であると、樹脂組成物の衝撃強度が低下したり、表面外観が低下する傾向にあり、99重量%を超えると、耐薬品性が低下したり、成形加工性不良になる。
【0038】
本発明で用いる(C)ゴム強化スチレン系樹脂としては、通常ゴム状重合体の存在下に、スチレン、αメチルスチレン等のスチレン系単量体および必要に応じこれと共重合可能なビニル単量体を加えた単量体混合物を、例えば塊状重合、塊状懸濁重合、溶液重合、沈殿重合または乳化重合等の方法により重合または共重合(以下「(共)重合」と称する場合もある)することにより得られるものであり、スチレン系単量体を含有する(共)重合体がゴム質重合体にグラフトした構造をとったもの、スチレン系単量体を含有する(共)重合体がゴム質重合体に非グラフトした構造をとったものが使用できる。
【0039】
このような(C)ゴム強化スチレン系樹脂の具体例としては、例えば、耐衝撃性ポリスチレン、ABS樹脂(アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル−アクリレートを主成分とするゴム−スチレン共重合体)、MBS樹脂(メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体)などが挙げられる。耐衝撃性が優れる点から、ABS樹脂、AAS樹脂、MBS樹脂、AES樹脂が好ましく、ABS樹脂、AAS樹脂がより好ましく、ABS樹脂が特に好ましい。
【0040】
具体的には、(r)ゴム質重合体5〜80重量%の存在下で、(a1)スチレン系単量体単位5〜90重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体単位1〜50重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体単位0〜80重量%からなる単量体混合物95〜20重量%をグラフト重合して得られるグラフト(共)重合体(C−1)5〜100重量部と、(a1)スチレン系単量体単位5〜90重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体単位1〜50重量%、および(a3)これらと共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜80重量%からなる単量体混合物を重合して得られる(C’−1)スチレン系共重合体0〜95重量部とからなるものが好適である。
【0041】
本発明において前記の(r)ゴム質重合体にグラフト重合させる単量体混合物の割合は、(r)ゴム質重合体5〜80重量%に対して、単量体混合物95〜20重量%が好ましく、より好ましくは(r)ゴム質重合体35〜70重量%に対して、単量体混合物65〜30重量%であり、さらに好ましくは(r)ゴム質重合体40〜60重量%に対して、単量体混合物60〜40重量%である。(r)ゴム質重合体が5重量%未満の場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が十分でない場合があり、(r)ゴム質重合体が80重量%を超える場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数が増大することがある。
【0042】
上記(r)ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものが好適であり、具体的にはポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−ブタジエンのブロック共重合体、アクリル酸ブチル−ブタジエン共重合体などのジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、アクリレートとポリオルガノシロキサンの複合ゴム、ポリイソプレン、エチレン−オレフィン共重合体、エチレン−不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン−脂肪酸ビニル共重合体、およびエチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合体などが挙げられる。なかでも、線膨張係数と耐衝撃性とのバランスに優れていることから、スチレン−ブタジエン共重合体の使用が好ましい。
【0043】
(r)ゴム質重合体のゴム粒子径は特に制限されないが、ゴム粒子の重量平均粒子径が0.15〜0.6μm、特に0.2〜0.6μmが主成分である場合が、耐衝撃性にすぐれることから好ましい。
【0044】
なお、ゴム粒子の平均重量粒子径は、「Rubber Age Vol.88 p.484〜490(1960)by E.Schmidt, P.H.Biddison」に記載のアルギン酸ナトリウム法(アルギン酸ナトリウムの濃度によりクリーム化するポリブタジエン粒子径が異なることを利用して、クリーム化した重量割合と、アルギン酸ナトリウム濃度の累積重量分率とより累積重量分率50%の粒子径を求める)により測定することができる。
【0045】
(a1)スチレン系単量体の具体例としては、スチレンが好ましく使用されるが、炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体の1種以上を好ましく含むことができる。炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレンが好ましく使用される。
【0046】
(a2)シアン化ビニル系単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく用いられる。
【0047】
(a3)他のビニル系単量体としては、メタクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、およびN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体が挙げられる。
【0048】
本発明の(C)ゴム強化スチレン系樹脂においてABS樹脂を用いる場合、特に制限はないが、ブタジエン系ゴムの存在下、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体及び必要に応じこれらと共重合可能なその他の単量体を含む単量体混合物を乳化重合法、塊状重合法、塊状−懸濁重合法、乳化懸濁重合法などの公知の重合法で重合して得られる、いわゆるゴムグラフト共重合樹脂である。
【0049】
本発明のABS樹脂を構成するスチレン系単量体には、主としてスチレンが使われるが、その一部をα−メチルスチレン、パラメチルスチレンで代替しても差し支えない。また、シアン化ビニル系単量体としてはアクリロニトリルが主として選ばれるが、その一部をメタアクリロニトリルで置き換えても差し支えない。
【0050】
本発明のブタジエン系ゴムを製造するのに用いられる単量体としては、脂肪族共役ジエン系単量体単独、またはこれとスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、及びこれらと共重合可能なその他の単量体との混合物が挙げられる。
【0051】
脂肪族共役ジエン系単量体の例としては、例えば1,3−ブタジエン、イソブレン、クロロプレン等が挙げられ、1,3−ブタジエンが好ましい。
【0052】
脂肪族共役ジエン系単量体と共重合可能な他の単量体の例としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、スチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−メチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の不飽和カルボン酸エステル系単量体等が挙げられる。
【0053】
ブタジエン系ゴムを得るのに使用される上記脂肪族共役ジエン系単量体量は、脂肪族共役ジエン系単量体と共重合可能な他の単量体の合計100重量%に対し、脂肪族共役ジエン系単量体が40〜100重量%が好ましく、50〜95重量%がより好ましく、60〜90重量%がさらに好ましい。脂肪族共役ジエン系単量体の使用量が40重量%未満の場合、(C)ゴム強化スチレン系樹脂を配合して得られる本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が低下することがある。
【0054】
グラフト(共)重合体(C−1)は、公知の重合法で得ることができる。例えば、ゴム質重合体ラテックスの存在下に単量体および連鎖移動剤の混合物と乳化剤に溶解したラジカル発生剤の溶液を連続的に重合容器に供給して乳化重合する方法などによって得ることができる。
【0055】
グラフト(共)重合体(C−1)は、ゴム質重合体に単量体または単量体混合物がグラフトした構造をとったグラフト(共)重合体の他に、グラフトしていない(共)重合体を含有したものである。グラフト(共)重合体のグラフト率は特に制限がないが、耐衝撃性および光沢が均衡してすぐれる樹脂組成物を得るためには、20〜80%、特に25〜50%の範囲であることが好ましい。ここで、グラフト率は次式により算出される値である。
グラフト率(%)=[<ゴム質重合体にグラフト重合したビニル系共重合体量>/<グラフト共重合体のゴム含有量>]×100
【0056】
グラフトしていない(共)重合体の特性は特に制限されないが、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度[η](30℃で測定)が、0.25〜1.00dl/g、特に0.25〜0.80dl/gの範囲であることが、すぐれた耐衝撃性の樹脂組成物を得るために好ましい条件である。
【0057】
本発明の(C)ゴム強化スチレン系樹脂においてABS樹脂を用いる場合、スチレン系単量体、およびその他の共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物を重合して得られるスチレン系(共)重合体(C’−1)を用いることができる。
【0058】
スチレン系(共)重合体(C’−1)はスチレン系単量体を必須とする共重合体である。スチレン系単量体の具体例としては、スチレンが好ましく使用されるが、炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体の1種以上を好ましく含むことができる。炭素数1〜4のアルキル基により置換されたスチレン系単量体としては、例えばα−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン、t−ブチルスチレンなどが挙げられるが、特にα−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレンが好ましく使用される。
【0059】
スチレン系単量体以外の単量体としては、一層の耐衝撃性、耐薬品性、メッキ性向上を目的とする場合にはシアン化ビニル系単量体が、また靭性および色調の向上を目的とする場合には(メタ)アクリル酸エステル系単量体が好ましく用いられる。
【0060】
シアン化ビニル系単量体の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルおよびエタクリロニトリルなどが挙げられるが、特にアクリロニトリルが好ましく使用される。(メタ)アクリル酸エステル系単量体の具体例としては、アクリル酸およびメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル化物などが挙げられるが、特にメタクリル酸メチルが好ましく使用される。
【0061】
また、必要に応じて使用されるこれらと共重合可能な他のビニル系単量体としては、ビニルトルエンなど、スチレン系単量体以外の芳香族ビニル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミドおよびN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体が挙げられる。
【0062】
本発明において、マレイミド系単量体を共重合したスチレン系共重合体、即ち、マレイミド基変性スチレン系共重合体は、ポリスチレン系樹脂中に含有させて使用することにより、樹脂組成物の耐熱性を向上でき、さらに難燃性も特異的に向上できるため、好ましく使用することができる。
【0063】
スチレン系(共)重合体の構成成分であるスチレン系単量体の割合は、樹脂組成物の耐衝撃性の観点から、全単量体に対し5〜90重量%が好ましく、より好ましくは10〜80重量%の範囲である。シアン化ビニル系単量体を混合する場合には、耐衝撃性、流動性の観点から、1〜50重量%が好ましく、さらに好ましくは40重量%以下の範囲である。
【0064】
スチレン系(共)重合体(C’−1)の特性には制限はないが、メチルエチルケトン溶媒を用いて、30℃で測定した極限粘度[η]が、0.25〜5.00dl/g、特に0.35〜3.00dl/gの範囲のものが、すぐれた耐衝撃性および成形加工性を有する樹脂組成物が得られることから好ましい。
【0065】
スチレン系(共)重合体(C’−1)の製造法には特に制限がなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状−懸濁重合法および溶液−塊状重合法など通常の方法を用いることができる。
【0066】
本発明に用いる(D)タルクは、一般に化学組成式Mg(Si10)(OH)で表されるMgOとケイ酸塩からなる天然物であり、特に含鉄種又は含ニッケル種であってもよい。タルク粒子の結晶形状については特に制限はなく、板状晶さらには柱状晶であってもよい。
【0067】
タルクの平均一次粒子径としては、0.5〜6μmであり、粒径が100μより大きい粒子を実質的に含まないものを使用することが好ましい。タルクの平均一次粒子径は、(株)堀場製作所製LA−700レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用い、その体積割合で50%に相当するメジアン径を平均一次粒子径とした。
【0068】
また、タルク表面をエポキシシラン、アミノシラン等の各種シランカップリング剤で処理しても良い。
【0069】
本発明における(D)タルクは、嵩比重が0.1〜2.5のものが好ましく、0.4〜1.5の範囲がより好ましい。嵩比重が0.1より小さくなるとコンパウンド時の生産性が低下し、滞留時間が長くなるため、得られる熱可塑性樹脂組成物の熱安定性、耐衝撃性が低下する傾向にある。嵩比重が2.5より大きくなると混練時にタルクが崩れず分散不良が起こり、表面外観が低下する傾向があるため好ましくない。
【0070】
本発明に用いる(D)タルクの配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、30〜200重量部である必要があり、好ましくは40〜150重量部であり、より好ましくは50〜120重量部である。30重量部より少なくなると線膨張係数の改良が十分でなく、200重量部より多くなると、面衝撃強度、表面外観などが損なわれる。
【0071】
本発明においては、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが構造周期0.01〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有する必要がある。
【0072】
かかる構造周期をもつ樹脂組成物を得るためには、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂が、一旦相溶解し、後述のスピノーダル分解によって構造形成せしめることが好ましい。さらにこの構造形成の実現のためには、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが、後述の部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系であることが好ましい。
【0073】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、相溶系、非相溶系および半相溶系がある。相溶系は、平衡状態である非剪断下において、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な温度の全領域において相溶な系である。非相溶系は、相溶系とは逆に、全領域で非相溶となる系である。半相溶系は、ある特定の温度および組成の領域で相溶し、別の領域で非相溶となる系である。さらにこの半相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するものと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0074】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶する系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶した相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系などがある。 本発明においては、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂以外の3成分以上からなるポリマーアロイの場合、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂以外の3成分目が、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の少なくともいずれかに分配される系であることが好ましい。この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる非相溶系の構造と同等になる。以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0075】
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0076】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0077】
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
【0078】
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends,Leszek A Utracki, hanserPublishers,Munich Viema New York,P64に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0079】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0080】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]−1/2(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
【0081】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行するが、本発明で規定する構造を得るには、この最終的に巨視的な2相に分離する前の所望の構造周期に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0082】
また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。この場合には所望の粒子間距離に到達した段階で構造を固定すればよい。
【0083】
本発明でいう、両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0084】
また、本発明にいう分散構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックスの中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0085】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造に構造制御されたものである必要がある。構造周期0.001〜0.5μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜0.5μmの範囲の分散構造に制御することが好ましく、さらには、構造周期0.005〜0.2μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.005〜0.2μmの範囲の分散構造に制御することがより好ましい。
【0086】
構造周期0.001μm未満、あるいは粒子間距離0.001μm未満の場合、耐熱性などの特性が低下し、構造周期1μmを超える場合、または粒子間距離1μmにおいては、線膨張係数が大きくなり、表面外観も低下する。
【0087】
一方、上述の準安定領域での相分離である核生成と成長では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.001〜1μmの範囲の両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を形成させることは困難である。
【0088】
上記スピノーダル分解を実現させるためには、各熱可塑性樹脂を相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。
【0089】
まずこの2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、共通溶媒に溶解後、この溶液から噴霧乾燥、凍結乾燥、非溶媒物質中の凝固、溶媒蒸発によるフィルム生成等の方法により得られる溶媒キャスト法や、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる。中でも溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。
【0090】
溶融混練により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組み合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。相溶化のための温度は、部分相溶系の樹脂が相溶する条件である必要がある。
【0091】
次に上記溶融混練により相溶状態とした樹脂組成物をスピノーダル曲線の内側の不安定状態として、スピノーダル分解せしめるに際し、不安定状態とするための温度、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより設定することができる。
【0092】
スピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間で相分離相の一方または両方の成分の構造固定や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定や、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定が挙げられる。
【0093】
本発明において(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とを上記スピノーダル分解により相分離させて本発明の熱可塑性樹脂組成物とするには、前述したように部分相溶系や、剪断場依存型相溶解・相分解する系や、反応誘発型相分解する系である樹脂を組み合わせることが好ましい。
【0094】
一般に部分相溶系には、同一組成において低温側で相溶しやすくなる低温相溶型相図を有するものや、逆に高温側で相溶しやすくなる高温相溶型相図を有するものが知られている。この低温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も低い温度を、下限臨界共溶温度(lower critical solution temperature略してLCST)と呼び、高温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も高い温度を、上限臨界共溶温度(upper critical solution temperature略してUCST)と呼ぶ。
【0095】
部分相溶系を用いて相溶状態となった2成分以上の樹脂は、低温相溶型相図の場合、LCST以上の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることで、また高温相溶型相図の場合、UCST以下の温度かつスピノーダル曲線の内側の温度にすることでスピノーダル分解を行わせることができる。
【0096】
またこの部分相溶系によるスピノーダル分解の他に、非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発すること、例えば溶融混練時等の剪断下で一旦相溶し、非剪断下で再度不安定状態となり相分解するいわゆる剪断場依存型相溶解・相分解によってもスピノーダル分解による相分離が可能であり、この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの剪断場依存型相溶解・相分解は、スピノーダル曲線が剪断場により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となるためより好ましく用いられる。かかる溶融混練時の剪断下により相溶化させるには、通常の押出機が用いられるが、2軸押出機を用いることが好ましい。また、樹脂の組み合わせによっては射出成形機の可塑化工程で相溶化できる場合もある。この場合における相溶化のための温度、初期過程を形成させるための熱処理温度、および初期過程から構造発展させる熱処理温度や、その他の条件は、樹脂の組み合わせによっても異なり一概にはいえないが、種々の剪断条件下での相図に基づき、簡単な予備実験をすることにより条件を設定することができる。また上記射出成形機の可塑化工程での相溶化を確実に実現させる方法として、予め2軸押出機で溶融混練し相溶化させ、吐出後氷水中などで急冷し相溶化状態で構造を固定させたものを用いて射出成形する方法などが好ましい例として挙げられる。
【0097】
また、本発明を構成する熱可塑性樹脂組成物に、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどのコポリマーである第3成分を添加することは、相分解した相間における界面の自由エネルギーを低下させるため、両相連続構造における構造周期や、分散構造における分散粒子間距離の制御を容易にするため好ましく用いられる。この場合通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
【0098】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが、構造周期0.001〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造である必要があり、その測定法としてはヨウ素染色法によりポリカーボネート成分を染色後、透過型電子顕微鏡にて観察する。さらに構造周期の測定法として具体的には、X線発生装置として例えば理学電機社製RU−200で、CuKα線を線源とし、出力50KV/150mA、スリット径0.5mm、カメラ半径405mm、露出時間120分、フィルムKodakDEF−5にて散乱写真を撮影し、小角X線散乱により構造周期を決定する。小角X線散乱においてピーク位置(θm)から下式で構造周期(Λm)を計算する。
Λm=(λ/2)/sin(θm/2)
【0099】
スピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上の樹脂を、一旦相溶状態とした後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態とすることが必要である。一般的な半相溶系におけるスピノーダル分解においては、相溶条件下で溶融混練後、非相溶域に温度ジャンプさせることによって、スピノーダル分解を生じさせ得る。一方、上記剪断場依存型スピノーダル分解においては、非相溶系において、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化しているため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。
【0100】
本発明の(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とを配合してなるポリマーアロイは、上記剪断場依存型スピノーダル分解に属し、溶融混練時の剪断速度100〜10000sec−1の範囲の剪断下で相溶化するため、非剪断下とすることのみでスピノーダル分解を生じさせ得る。なお、上記において剪断速度は、例えば平行円盤型剪断賦与装置を用いる場合、所定の温度に加熱し溶融状態とした樹脂を平行円盤間に投入し、中心からの距離(r)、平行円盤間の間隔(h)、回転の角速度(ω)から、ω×r/hとして求めることが可能である。
【0101】
かかるポリマーアロイの具体的な製造方法としては、上記剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が好ましい例として挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とを、2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が好ましい方法として挙げられる。
【0102】
かかる2軸押出機を用いる場合、ニーディングブロックを多用したスクリューアレンジにしたり、樹脂温度を下げたり、スクリュー回転数を高くしたり、使用ポリマーの粘度を上げることによってより高剪断応力状態を形成することにより、適宜調節することができる。
【0103】
本発明においては熱可塑性樹脂組成物中の(D)タルクのアルカリ成分を中和する目的で、(E)有機酸を配合することができる。
【0104】
(E)有機酸には種々のタイプのものを使用することができ、例えば、炭素数6〜30の脂肪酸が挙げられ、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、無水マレイン酸、酸変性のシロキサンなどが代表的な化合物として例示される。とりわけ無水マレイン酸、カプリン酸が好適に用いられる。
【0105】
(E)有機酸の配合量は、添加効果と流動性の点から、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として0.001〜2重量部であることが好ましく、0.01〜1重量部であることがより好ましい。
【0106】
本発明においては(F)変性スチレン系重合体を配合することができる。
【0107】
(F)変性スチレン系重合体とは、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基およびオキサゾリン基から選ばれた少なくとも一種の官能基を含有するビニル系単量体単位を含むスチレン系重合体が挙げられる。
【0108】
この(F)変性スチレン系重合体としては、スチレン系単量体を含む一種または二種以上のビニル系単量体を重合または共重合して得られる構造を有し、かつ分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基およびオキサゾリン基から選ばれた少なくとも一種の官能基を含有する重合体である。これらの官能基を含有する化合物の含有量については制限されないが、特に変性スチレン系重合体100重量部当たり0.01〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0109】
(F)変性スチレン系重合体中にカルボキシル基を導入する方法には特に制限はないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、無水マレイン酸、フタル酸およびイタコン酸などのカルボキシル基または無水カルボキシル基を有するビニル系単量体を所定のビニル系単量体と共重合する方法、γ,γ’−アゾビス(γ−シアノバレイン酸)、α,α’−アゾビス(α−シアノエチル)−p−安息香酸および過酸化サクシン酸などのカルボキシル基を有する重合開始剤および/またはチオグリコール酸、α−メルカプトプロピオン酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプト−イソ酪酸および2,3または4−メルカプト安息香酸などのカルボキシル基を有する重合度調節剤を用いて、所定のビニル系単量体を(共)重合する方法、およびメタクリル酸メチルやアクリル酸メチルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体と所定のビニル系単量体、必要に応じてシアン化ビニル系単量体との共重合体をアルカリによってケン化する方法などを用いることができる。
【0110】
上記ヒドロキシル基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、メタクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、メタクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4,4−ジヒドロキシ−2−ブテンなどのヒドロキシル基を有するビニル系単量体を、所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0111】
上記エポキシ基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルおよびp−グリシジルスチレンなどのエポキシ基を有するビニル系単量体を、所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0112】
中でも、メタクリル酸グリシジルを共重合させることによりエポキシ基を導入したエポキシ変性スチレン系重合体は、ポリスチレン系樹脂中に含有させて使用した場合、本発明の樹脂組成物の衝撃強度を向上させ、かつ難燃性付与が容易となるため好ましく用いることができる。
【0113】
上記アミノ基を導入する方法についても特に制限はないが、例えばアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、メタクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレンなどのアミノ基およびその誘導体を有するビニル系単量体を、所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0114】
上記オキサゾリン基を導入する方法についても特に制限はないが、例えば2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンおよび2−スチリル−オキサゾリンなどのオキサゾリン基を有するビニル系単量体を所定のビニル系単量体と共重合する方法などを用いることができる。
【0115】
(F)変性スチレン系重合体の特性には制限はないが、メチルエチルケトン溶媒を用いて、30℃で測定した極限粘度[η]が、0.25〜5.00dl/g、特に0.35〜3.00dl/gの範囲のものが、すぐれた耐衝撃性および成形加工性を有する樹脂組成物が得られることから好ましい。
【0116】
(F)変性スチレン系重合体の製造法には特に制限がなく、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法、塊状−懸濁重合法および溶液−塊状重合法など通常の方法を用いることができる。
【0117】
(F)変性スチレン系重合体の添加量は、特に制限はないが、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜40重量部の範囲が好ましい。さらに好ましくは0.5〜35重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜30重量部の範囲にある場合である。添加量を0.1重量部以上使用することで、相溶化剤としての効果を発揮することができ、添加量を40重量部以下とすることで、樹脂組成物の流動性、滞留安定性を維持することができるため好ましい。
【0118】
本発明においては(G)ポリカーボネート系グラフト重合体を配合することができる。
【0119】
(G)ポリカーボネート系グラフト重合体としては、ポリカーボネート樹脂セグメントとビニル系重合体セグメントからなるものが好ましく、ポリカーボネート樹脂セグメントが連続相を形成し、ビニル系重合体セグメントが分散相となる多層構造を有するグラフト重合体が好ましい。
【0120】
(G)ポリカーボネート系グラフト重合体の製造方法は、ポリカーボネート系樹脂の水性懸濁液にビニル系単量体、ラジカル共重合性有機過酸化物およびラジカル重合開始剤を加え、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件下で加熱し、前記ビニル系単量体、ラジカル共重合性有機過酸化物およびラジカル重合開始剤をポリカーボネート系樹脂に含浸せしめ、次いでこの水性懸濁液の温度を上昇させ、ビニル系単量体とラジカル共重合性有機過酸化物とを、ポリカーボネート系樹脂中で共重合して生成したグラフト化前駆体を100〜350℃で溶融混合して(G)ポリカーボネート系グラフト重合体を得ることができる。
【0121】
このような(G)ポリカーボネート系グラフト重合体としては、例えばポリカーボネート樹脂にスチレンとアクリロニトリルからなる単量体混合物をグラフト重合して得られるPC−g−SAN(ポリカーボネート−グラフト−スチレン/アクリロニトリル共重合体、例えば日本油脂株式会社製「モディパーCH430」)、ポリカーボネート樹脂にスチレン単量体をグラフト重合して得られるPC−g−PS(ポリカーボネート−グラフト−ポリスチレン、例えば日本油脂株式会社製「モディパーCL130D」)、ポリカーボネート樹脂にスチレンとアクリロニトリル、および官能基変性ビニルからなる単量体混合物をグラフト重合して得られるPC−g−mSAN(ポリカーボネート−グラフト−変性スチレン/アクリロニトリル共重合体、例えば日本油脂株式会社製「モディパーCL440G」)などを挙げることができる。
【0122】
(G)ポリカーボネート系グラフト重合体の添加量は、特に制限は無いが、(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対して、0.1〜40重量部の範囲が好ましい。さらに好ましくは0.5〜35重量部の範囲であり、特に好ましい範囲としては1〜30重量部の範囲である。添加量を0.1重量部以上使用することで相溶化剤としての効果を発揮することができ、添加量を40重量部以下とすることで、樹脂組成物の流動性、滞留安定性を維持することができるため好ましい。
【0123】
本発明においては熱可塑性樹脂の流動性を向上させるために、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物を配合することができる。(H)成分としては、分子中に3つ以上の官能基を有するものであれば限定はされず、低分子化合物であってもよいし、重合体であってもよい。また(H)成分としては、3官能性化合物、4官能性化合物および5官能性化合物などの3つ以上の官能基を有する化合物であればいずれでもよいが、流動性および機械物性が優れるという点で、3官能性化合物または4官能性化合物であることがより好ましく、4官能性化合物であることがさらに好ましい。
【0124】
本発明で用いる(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物は、流動性および耐衝撃性に優れるという点で、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物であることが好ましく、特に流動性および機械特性に優れるという点で、官能基を有する末端構造の二つ以上が式(1)で表される構造である化合物であることがより好ましく、官能基を有する末端構造の三つ以上が式(1)で表される構造である化合物であることがさらに好ましく、官能基を有する末端構造の全てが式(1)で表される構造である化合物であることが最も好ましい。
【0125】
【化1】

【0126】
ここで、Rは、炭素数1〜15の炭化水素基を表し、nは、1〜10の整数を表し、Xは、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択される少なくとも1種の官能基を表す。
【0127】
本発明においては、流動性、耐久性および機械物性などが優れるという点で、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜7の整数を表し、Xは、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、エステル基、アミド基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことが好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜5の整数を表し、Xは、水酸基、カルボン酸基、アミノ基、グリシジル基、エステル基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことがより好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜4の整数を表し、Xは、水酸基、アミノ基、グリシジル基、エステル基から選択される少なくとも1種の官能基を表すことがさらに好ましく、Rは、アルキレン基を表し、nは、1〜3の整数を表し、Xは、水酸基であることが特に好ましい。なお、本発明において、Rが、アルキレン基の場合、式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示す。
【0128】
本発明において、(H)成分中の多官能性官能基は、水酸基、アルデヒド基、カルボン酸基、スルホ基、アミノ基、グリシジル基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、オキサジン基、エステル基、アミド基、シラノール基、シリルエーテル基から選択された少なくとも1種類以上であることが好ましく、(H)成分中の官能基は、これらの中から同一あるいは異なる3つ以上の官能基を有していることが好ましい。また、本発明において、(H)成分が、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の二つ以上が式(1)で表される構造である化合物である場合には、官能基としては、上記の中の同一のものでもよく、あるいは異なるものでもよいが、流動性、機械物性、耐久性、耐熱性および生産性の点で、同一のものであることが好ましい。
【0129】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,6−へキサントリオール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、トリエタノールアミン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、トリトリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、スクロース、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,2,4−トリヒドロキシベンゼンなどの炭素数3〜24の多価アルコールやポリビニルアルコールなどのポリマーが挙げられる。なかでも、流動性、機械物性の点から分岐構造を有するグリセリン、ジグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが好ましい。
【0130】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がカルボン酸基の場合は、プロパン−1,2,3−トリカルボン酸、2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ナフタレン−2,5,7−トリカルボン酸、ピリジン−2,4,6−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,7,8−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸などの多価カルボン酸やアクリル酸、メタクリル酸などのポリマーが挙げられ、それらの酸無水物も使用できる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有するプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメリット酸、トリメシン酸およびその酸無水物が好ましい。
【0131】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の官能基がアミノ基の場合は、3つ以上の置換基のうち少なくとも1つは1級または2級アミンであることが好ましく、いずれも1級または2級アミンであることがさらに好ましく、いずれも1級アミンであることが特に好ましい。(F)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は、1,2,3−トリアミノプロパン、1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、1,2,4−トリアミノブタン、1,2,3,4−テトラミノブタン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、1,2,3−トリアミノシクロヘキサン、1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、1,2,3−トリアミノベンゼン、1,2,4,5−テトラミノベンゼン、1,2,4−トリアミノナフタレン、2,5,7−トリアミノナフタレン、2,4,6−トリアミノピリジン、1,2,7,8−テトラミノナフタレン、1,4,5,8−テトラミノナフタレン等が挙げられる。なかでも、流動性の点から分岐構造を有する1,2,3−トリアミノプロパン、1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましい。
【0132】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がグリシジル基の場合は、トリグリシジルトリアゾリジン−3,5−ジオン、トリグリシジルイソシアヌレートなどの単量体や、ポリ(エチレン/グリシジルメタクリレート)−g−ポリメチルメタクリレート、グリシジル基含有アクリルポリマー、グリシジル基含有アクリル/スチレンポリマーなどのポリマーが挙げられる。
【0133】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がイソシアネート基の場合は、ノナントリイソシアネート(例えば4−イソシアナトメチル−1,8−オクタンジイソシアネート(TIN))、デカントリイソシアネート、ウンデカントリイソシアネート、ドデカントリイソシアネートなどが挙げられる。
【0134】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0135】
(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0136】
また、流動性、機械物性の点から、(H)3つ以上の官能基を有する化合物がアルキレンオキシド単位を一つ以上含むことが好ましい。なお、本発明において、(H)成分が、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、官能基を有する末端構造の少なくとも一つが式(1)で表される構造である化合物であり、式(1)中のRが、アルキレン基の場合、式(1)で表される構造は、アルキレンオキシド単位を含有する構造を示すものであり、特に流動性に優れるという点で、(H)成分としては、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物であって、アルキレンオキシド単位を含有する多官能性化合物であることが最も好ましい。本発明において、アルキレンオキシド単位の好ましい例として、炭素原子数1〜4である脂肪族アルキレンオキシド単位が有効であり、具体例としてはメチレンオキシド単位、エチレンオキシド単位、トリメチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、テトラメチレンオキシド単位、1,2−ブチレンオキシド単位、2,3−ブチレンオキシド単位若しくはイソブチレンオキシド単位などを挙げることができ、本発明においては、特に、流動性、リサイクル性、耐久性、耐熱性および機械物性に優れるという点で、アルキレンオキシド単位としてエチレンオキシド単位又はプロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用するのが好ましく、耐衝撃性に優れるという点で、プロピレンオキシド単位が含まれる化合物を使用することが特に好ましい。
【0137】
本発明で用いる(H)成分において、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物に含まれるアルキレンオキシド単位数については、流動性および機械物性に優れるという点で、1官能基当たりのアルキレンオキシド単位が0.1〜20であることが好ましく、0.5〜10であることがより好ましく、1〜2であることがさらに好ましい。
【0138】
アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシメチレングリセリン、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシトリメチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシテトラメチレングリセリン、(ポリ)オキシメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシトリメチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシテトラメチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシトリメチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシテトラメチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシトリメチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシメチレングルコース、(ポリ)オキシエチレングルコース、(ポリ)オキシトリメチレングルコース、(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシエチレン−(ポリ)オキシプロピレングルコース、(ポリ)オキシテトラメチレングルコース等を挙げることができる。
【0139】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む2−メチルプロパン−1,2,3−トリスカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,4−トリカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むヘミメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むピロメリット酸、(ポリ)メチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸等を挙げることができる。
【0140】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノ−2−メチルプロパン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,3,4−テトラミノブタン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4,5−テトラミノシクロヘキサン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)メチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)トリメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン、(ポリ)テトラメチレンオキシド単位を含む1,2,4−トリアミノベンゼン等を挙げることができる。
【0141】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がエステル基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上水酸基を有する化合物の脂肪族酸エステルまたは芳香族酸エステルや、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のエステル誘導体などが挙げられる。
【0142】
また、アルキレンオキシド単位を一つ以上含む(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の好ましい例として、官能基がアミド基の場合は、上記アルキレンオキシド単位を含む3つ以上カルボン酸基を有する化合物のアミド誘導体などが挙げられる。
【0143】
流動性の点からアルキレンオキシド単位を一つ以上含む(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の特に好ましい例として、官能基が水酸基の場合は、(ポリ)オキシエチレングリセリン、(ポリ)オキシプロピレングリセリン、(ポリ)オキシエチレンジグリセリン、(ポリ)オキシプロピレンジグリセリン、(ポリ)オキシエチレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレントリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシプロピレンジトリメチロールプロパン、(ポリ)オキシエチレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンペンタエリスリトール、(ポリ)オキシエチレンジペンタエリスリトール、(ポリ)オキシプロピレンジペンタエリスリトールが挙げられ、官能基がカルボン酸の場合は、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むプロパン−1,2,3−トリカルボン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメリット酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むトリメシン酸、(ポリ)エチレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含むシクロヘキサン−1,3,5−トリカルボン酸が挙げられ、官能基がアミノ基の場合は(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,2,3−トリアミノプロパン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノシクロヘキサン、(ポリ)エチレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼン、(ポリ)プロピレンオキシド単位を含む1,3,5−トリアミノベンゼンが挙げられる。
【0144】
本発明で用いる、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の粘度は、25℃において15000m・Pa以下であることが好ましく、流動性、機械物性の点から5000m・Pa以下であることがさらに好ましく、2000m・Pa以下であることが特に好ましい。下限は特にないが、成形時のブリード性の点から100m・Pa以上であることが好ましい。25℃における粘度が15000m・Paよりも大きいと流動性改良効果が不十分であるため好ましくない。
【0145】
本発明で用いる、(H)3つ以上の官能基を有する化合物の分子量または重量平均分子量(Mw)は、流動性の点で、50〜10000の範囲であることが好ましく、150〜8000の範囲であることがより好ましく、200〜3000の範囲であることがさらに好ましい。本発明において、(F)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物のMwは、溶媒としてヘキサフルオロイソプロパノールを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリメチルメタクリレート(PMMA)換算の値である。
【0146】
本発明で用いる、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の含水分は1%以下であることが好ましい。より好ましくは含水分0.5%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。(H)成分の含水分の下限は特にない。含水分が1%よりも高いと機械物性の低下を引き起こすため好ましくない。
【0147】
本発明における、(H)3つ以上の官能基を有する多官能性化合物の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(H)成分が0.01〜4重量部の範囲であることが好ましく、流動性と耐衝撃性の点から、0.05〜2重量部の範囲で配合することがより好ましく、0.1〜0.7重量部の範囲で配合することがさらに好ましい。
【0148】
本発明においては、(H)成分が少なくとも1つ以上の水酸基、あるいはカルボン酸基を有していることが流動性の点から好ましく、(H)成分が3つ以上水酸基、あるいはカルボン酸基を有していることがより好ましく、(H)成分が3つ以上水酸基を有していることがさらに好ましく、(H)成分の全ての官能基が水酸基であることが特に好ましい。
【0149】
本発明においては、酸化防止剤を配合することができる。
【0150】
酸化防止剤の例としては、フェノール系化合物、リン系化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ系化合物が挙げられる。
【0151】
フェノール系化合物としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−トが好ましく、特に好ましくはペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]である。
【0152】
フェノール系化合物は1種類、又は2種類以上を同時に用いる事が出来る。フェノール系化合物の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部が好ましい。
【0153】
リン系化合物としては、トリフェニルフォスファイト、トリオクタデシルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、ビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ビス(3−メチル−1,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイトがあり、好ましくはビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、ビス(3−メチル−1,5−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトで、特にビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジフォスファイトが好ましい。
【0154】
リン系化合物は1種類、又は2種類以上を同時に用いる事が出来る。リン系化合物の配合量は、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜1重量部が好ましい。
【0155】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、無機および有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などの添加剤、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を添加することができる。
【0156】
離型剤の例としては、カルナウバワックス、ライスワックス等の植物系ワックス、蜜ろう、ラノリン等の動物系ワックス、モンタンワックス等の鉱物系ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の石油系ワックス、ひまし油及びその誘導体、脂肪酸及びその誘導体等の油脂系ワックスが挙げられる。
【0157】
安定剤の例としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを含むベンゾトリアゾール系化合物、ならびに2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンのようなベンゾフェノン系化合物、モノまたはジステアリルホスフェート、トリメチルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0158】
これらの各種添加剤は、2種以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用して使用してもよい。
【0159】
なお、例えば酸化防止剤として例示した添加剤は、安定剤や紫外線吸収剤として作用することもある。また、安定剤として例示したものについても酸化防止作用や紫外線吸収作用のあるものがある。すなわち前記分類は便宜的なものであり、作用を限定したものではない。
【0160】
紫外線吸収剤の例としては、例えば2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、ビス(5−ベンゾイル−4−ヒドロキシ−2−メトキシフェニル)メタンなどに代表されるベンゾフェノン系紫外線吸収剤、また2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α’−ジメチルベンジル)フェニルベンゾトリアゾール、2,2’メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール]、メチル−3−[3−tert−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート−ポリエチレングリコールとの縮合物に代表されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。
【0161】
またビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ポリ{[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチルピペリジル)イミノ]}、ポリメチルプロピル3−オキシ−[4−(2,2,6,6−テトラメチル)ピペリジニル]シロキサンなどに代表されるヒンダードアミン系の光安定剤も含むことができ、かかる光安定剤は上記紫外線吸収剤や各種酸化防止剤との併用において、耐候性などの点においてより良好な性能を発揮する。
【0162】
難燃剤の例としては、ハロゲン系、リン酸エステル系、金属塩系、赤リン、シリコーン系、金属水和物系などであり、難燃助剤としては、三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなどが挙げられる。
【0163】
熱可塑性樹脂の例としては、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、ポリアセタール、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキサイド等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0164】
これらの他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、本発明のポリエステル樹脂成形体を構成するポリエステル樹脂組成物を製造する任意の段階で配合することが可能であり、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を配合する際に同時に添加する方法や、予め芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を溶融混練した後に添加する方法や、始めに芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂のいずれか片方の樹脂に添加し溶融混練後、残りの樹脂を配合する方法等が挙げられる。
【0165】
本発明の熱樹脂可塑性樹脂組成物はこれら配合成分が均一に分散されていることが好ましく、その配合方法は任意の方法を用いることができる。代表例として、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなど、公知の溶融混合機を用いて、200〜350℃の温度で溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に付着している水分は少ない方がよく、予め事前乾燥しておくことが望ましいが、必ずしも全ての成分を乾燥させる必要がある訳ではない。
【0166】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する好ましい方法は、高剪断を付与することのできる二軸押出機内で、シリンダー温度150〜250℃、好ましくは180〜230℃において、(A)〜(D)およびその他の添加物を配合した原料を該押出機に供給し、芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を一旦相溶化させ、剪断場依存型スピノーダル分解を利用し溶融混練する方法である。
【0167】
そこで上述特異的な相分離構造を実用的な成形加工条件下で安定して得るために、各成分を溶融混練することにより得られるが、溶融混練を樹脂圧力1.5〜10MPaで行うことが好ましい。
【0168】
本発明の製造方法における樹脂圧力とは、溶融混練装置に取り付けた樹脂圧力計で測定した値であり、ゲージ圧を樹脂圧力とする。
【0169】
上記溶融混練時の樹脂圧力とは、一貫して1.5MPa以上が必要ではなく、少なくとも1ヵ所以上樹脂圧力が1.5MPa以上となる領域が存在すれば良く、押出機を用いて溶融混練する際には、通常最も樹脂圧力が高くなる箇所、例えば逆フルフライトやニーディングブロックによる樹脂滞留箇所で樹脂圧力が2MPa以上となるようにすることが好ましい。
【0170】
溶融混練時の樹脂圧力は1.5MPa以上であれば機械的性能が許す限り特に制限はないが、好ましくは2〜10MPaの範囲で用いられ、特に2〜5MPaの範囲であれば、両相連続構造がより安定して得られやすく、樹脂の劣化が小さいため好ましく用いられる。
【0171】
溶融混練時の樹脂圧力を調整する方法としては、特に制限はないが、例えば(イ)溶融混練温度の低下による樹脂粘度の向上、(ロ)目的の樹脂圧力になるような分子量のポリマーを選択する、(ハ)逆フルフライト、ニーディングブロック導入などのスクリューアレンジ変更による樹脂滞留、(ニ)原料供給速度の向上、ダイス部へのメッシュ導入によるバレル内のポリマー充満率を上げる、(ホ)スクリュー回転数を上げる、(ヘ)任意の添加剤を混合することによる樹脂粘度の向上、(ト)炭酸ガス導入などの超臨界状態などが挙げられる。
【0172】
芳香族ポリカーボネート樹脂と芳香族ポリエステル樹脂を一旦相溶化させ、それを押出機から吐出後直ぐに冷却することによって、芳香族ポリカーボネート樹脂相と芳香族ポリエステル相が相溶化した状態で構造が固定されたペレットか、あるいはスピノーダル分解の初期状態である構造周期が0.4μm以下の両相連続構造のペレットを製造した後、このペレットを射出成形し、その射出成形の過程においてスピノーダル分解をさらに進行させ、構造周期が0.001〜1μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの範囲の分散構造を有するポリエステル樹脂成形品を形成せしめる方法である。
【0173】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は通常上記の如く製造されたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0174】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の強熱可塑性樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより中空成形品とすることも可能である。
【0175】
かくして得られた本発明の熱可塑性樹脂組成物は、幅広い分野に使用することが可能であり、各種電子・電気機器、OA機器、車輌部品、機械部品、その他農業資材、搬送容器、包装容器、および雑貨などの各種用途にも有用である。特に耐熱性、剛性、および耐衝撃性との両立、並びに成形品寿命に対する要求が厳しい車輌内装用部品および車輌外装用部品に適したものである。
【0176】
車輌内装用部品としては、例えばセンターパネル、インストルメンタルパネル、ダッシュボード、コンソールボックス、インナードアハンドル、リアボード、インナーピラーカバー、インナードアカバー、インナードアポケット、シートバックカバー、インナールーフカバー、ラゲッジフロアボード、カーナビゲーション・カーテレビジョンなどのディスプレーハウジングなどが挙げられる。
【0177】
車輌外装用部品としては、例えば、アウタードアハンドル、フェンダーパネル、ドアパネル、スポイラー、ガーニッシュ、ピラーカバー、フロントグリル、リアボディパネル、モーターバイクのカウル、トラックの荷台カバーなどが挙げられる。
【実施例】
【0178】
以下に実施例を挙げて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0179】
実施例および比較例の評価方法を次に示す。なお特に断りがない限り、「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。試薬としては、市販の良好品を用いた。
【0180】
(1)構造周期の確認
シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、住友重機械社製SG75H−MIVを使用し、80mm×80mm×3mmの角板を作製した。この角板から、厚み100μmの切片を切り出し、ヨウ素染色法によりポリカーボネートを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて5万倍に拡大して観察を行った。また上記射出成形により得られた成形品から厚み100μmの切片を切り出したサンプルについて、両相連続構造の場合の構造周期または分散構造の場合の粒子間距離を小角X線散乱(0.4μm未満の構造周期または粒子間距離の場合)もしくは光散乱(0.4μm以上の構造周期または粒子間距離の場合)にて測定した。X線発生装置は理学電機社製RU−200で、CuKα線を線源とし、出力50KV/150mA、スリット径0.5mm、カメラ半径405mm、露出時間120分、フィルムKodakDEF−5にて散乱写真を撮影した。いずれのサンプルもピークが観察され、該ピーク位置(θm)から下式で計算した構造周期または粒子間距離(Λm)を求めた。
Λm =(λ/2)/sin(θm/2)
【0181】
(2)落球衝撃試験
(縦)85mm×(横)85mm×(高さ)50mmの受け台付き落球試験装置を用い、(1)で作製し、−30℃に調温した厚み3mmの角板を受け台上に置き、その中心に100cmの高さより1kgの剛球を落下して、割れや亀裂発生の有無を確認した。試験は10枚について行った。
その結果、割れや亀裂の発生が5枚以上したものを×、割れや亀裂の発生が4枚以下のものを○と判定した。
【0182】
(3)表面外観
(1)で作製した厚み3mmの角板について、表面粗さ測定装置(ACCRTECH社製)を用いてRa(中心線平均粗さ、μm)を測定することにより、表面外観の評価を行った。
【0183】
(4)塗装外観
自動車外板用一般塗料を用いて、(1)で作製した厚み3mmの角板について、以下の条件で塗装し、表面を下記3段階で評価した。
(条件)
ベース(15μm)→フラッシュ(1分)→クリヤ(25μm)→セッティング(10分)→80℃×30分乾燥
○…塗装のゆず肌が見られない
△…一部に塗装のゆず肌が見られる
×…全体に塗装のゆず肌が見られる
【0184】
(5)線膨張係数
(1)で作製した厚さ約3mmの角板の中心部分を用いて、樹脂の流動方向(MD)とその直角方向(TD)にそれぞれ約5mm×12mmに切り取り、紙ヤスリで表面を研磨した。測定はセイコー電子(株)製のTMA−100を用いて行い、測定条件は、窒素雰囲気下、−50℃で10分間保持した後、−50℃から120℃の範囲を昇温速度5℃/分で昇温し、−30〜80℃の範囲の線膨張係数を算出した。
【0185】
(6)比重
(1)と同様の方法で、射出成形により作製した厚さ1/8インチのアイゾット試験片について、電子比重計ED−120T(アルファミラージュ(株)製)を用いて、比重測定を行った。
【0186】
参考例1
(C−1)ゴム強化スチレン系樹脂(ABS樹脂)の調製
以下にゴム強化スチレン系樹脂の調製方法を示す。なおグラフト率は次の方法で求めたものである。グラフト共重合体の所定量(m)にアセトンを加え4時間還流した。この溶液を8000rpm(遠心力10,000G(約100×10m/s ))30分遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を70℃で5時間減圧乾燥し、重量(n)を測定した。
グラフト率=[(n)−(m)×L]/[(m)×L]×100
ここでLはグラフト共重合体のゴム含有率を意味する。
【0187】
上記アセトン溶液の濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、析出物(アセトン可溶分)を得た。この可溶分を、70℃で5時間減圧乾燥後、0.4g/100ml(メチルエチルケトン、30℃)に調製し、ウベローデ粘度計を用いて極限粘度を測定した。また得られたグラフト共重合体中の各単量体単位の含有率について、30μm程度のフィルム状の試料をプレス成形により作成し、FT−IR分析より得られるピーク強度比から測定した。
【0188】
スチレンブタジエンゴムラテックス(ブタジエン/スチレン比:85/15、ゴム平均粒子径0.20μm、ゲル含有量80%):40部(固形分換算)
スチレンブタジエンゴムラテックス(ブタジエン/スチレン比:85/15、ゴム粒子径1.25μm、ゲル含有量80%):10部。
【0189】
オレイン酸カリウム:0.5重量部
ブドウ糖:0.5重量部
ピロリン酸ナトリウム:0.5重量部
硫酸第一鉄:0.005重量部
脱イオン水:120重量部
【0190】
以上の物質を重合容器に仕込み、撹拌しながら65℃に昇温した。内温が65℃に達した時点を重合開始として、スチレン42.5部、アクリロニトリル7.5重量部、およびt−ドデシルメルカプタン0.4部を5時間かけて連続滴下した。並行してクメンハイドロパーオキサイド0.2部、オレイン酸カリウム2.5重量部および純水25重量部からなる水溶液を、7時間で連続滴下し反応を完結させた。得られたグラフト共重合体ラテックスを硫酸で凝固し、苛性ソ−ダで中和した後、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状として得た。
【0191】
得られたグラフト共重合体のグラフト率は24%、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.33dl/gであった。
【0192】
参考例2
(C−2)ゴム強化スチレン系樹脂(ABS樹脂)の調製
ポリブタジエンゴムラテックス(ゴム平均粒子径0.20μm、ゲル含率80%)60部(固形分換算)を用い、連続滴下する単量体組成をスチレン34部、アクリロニトリ6部、t−ドデシルメルカプタン0.3部に変更した以外は、参考例1と同様の方法で(C−2)ゴム強化スチレン系樹脂を作製した。得られたゴム強化スチレン系樹脂(C−1)のグラフト率は25%であり、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.33dl/gであった。
【0193】
参考例3
(C−3)ゴム強化スチレン系樹脂(AAS樹脂)の調製
テトラエトキシシラン2部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン0.5部、及びオクタメチルシクロテトラシロキサン97.5部を混合し、シロキサン混合物100部を得た。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、及びデシルベンゼンスルホン酸をそれぞれ1部を溶解した蒸留水200部に、上記混合シロキサン100部を加え、ホモミキサーを用いて10、000rpmで予備攪拌した後、ホモジナイザーにより300kg/cmの圧力で乳化、分散させ、オルガノシロキサンラテックスを得た。この混合液をコンデンサー及び攪拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、攪拌混合しながら、80℃で5時間加熱した後、20℃で放置し、24時間後に水酸化ナトリウム水溶液でこのラテックスのpHを7に中和し、重合を完結させて、ポリオルガノシロキサンラテックスを得た。
【0194】
上記ポリオルガノシロキサンラテックスを30部(固形分)採取し、攪拌器を備えたセパラブルフラスコに入れ蒸留水57.5部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n−ブチルアクリレート39部、アリルメタクリレート1部及びtert−ブチルヒドロペルオキシド0.24部の混合液を仕込み、30分攪拌し、この混合液をポリオルガノシロキサンゴム粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.001部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.003部、ロンガリット0.26部、及び蒸留水5部の混合液を仕込み、ラジカル重合を開始させ、内温70℃で2時間保持し、重合を完了して複合ゴムラテックスを得た。
【0195】
この複合ゴムラテックスに、tert−ブチルヒドロペルオキシド0.3部と、スチレン21部、アクリロニトリル9部の混合液を70℃にて60分間にわたり滴下し、その後70℃で2時間保持し、複合ゴムへのグラフト重合を完了した。得られたグラフト共重合体ラテックスを塩化カルシウム1.5部の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後、75℃で16時間乾燥し、粉末状のゴム強化スチレン系樹脂(C−3)を得た。
【0196】
参考例4
(C−4)ゴム強化スチレン系樹脂(MBS樹脂)の調製
スチレンブタジエンゴムラテックス(ブタジエン/スチレン比:85/15、ゴム平均粒子径0.15μm、ゲル含率80%)80部(固形分換算)の存在下にスチレン30%とメチルメタクリレート70%からなる単量体混合物20部を乳化重合した以外は、参考例1と同様の方法で(C−4)ゴム強化スチレン系樹脂を作製した。得られたゴム強化スチレン系樹脂(C−1)のグラフト率は21%であり、メチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.36dl/gであった。
【0197】
参考例5
(C’−1)スチレン−アクリロニトリル共重合体の調製
スチレン72%、アクリロニトリル28%からなる単量体混合物を懸濁重合してスチレン−アクリロニトリル共重合体を調製した。得られた共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.43dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位72重量%、アクリロニトリル単位28重量%であった。
【0198】
参考例6
(F−1)変性スチレン系重合体
スチレン69.7%、アクリロニトリル30%、グリシジルメタクリレート0.3%からなる単量体混合物を懸濁重合して変性ビニル系共重合体を調製した。得られた変性ビニル系共重合体のメチルエチルケトン可溶分の極限粘度は0.53dl/g、各単量体単位の含有率は、スチレン単位69.7重量%、アクリロニトリル単位30重量%、グリシジルメタクリレート単位0.3重量%であった。
【0199】
以下に実施例および比較例に使用した配合組成物を示す。
(A−1)芳香族ポリカーボネート樹脂(PC);商品名「タフロンA1900」、出光化学(株)製、粘度均分子量19,000
(B−1)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT);商品名「トレコン1100M」、東レ(株)製、固有粘度1.41、融点225℃
(C)ゴム強化スチレン系樹脂
(C−1);上記参考例1で製造したゴム強化スチレン系樹脂
(C−2);上記参考例2で製造したゴム強化スチレン系樹脂
(C−3);上記参考例3で製造したゴム強化スチレン系樹脂
(C−4);上記参考例4で製造したゴム強化スチレン系樹脂
(C’−1);上記参考例5で製造したスチレン−アクリロニトリル共重合体
(D−1)タルク;商品名「HT−7000」、ハリマ化成(株)製、嵩比重0.65の顆粒状タルク、メジアン径5μm
(E−1)無水マレイン酸;商品名「CRYSTALMAN AB」、日油(株)製
(F−1)上記参考例6で製造した変性スチレン系重合体
(G−1)ポリカーボネート−グラフト−変性スチレン/アクリロニトリル共重合体(PC−g−mSAN);「モディパーCL430G」、日油(株)製
(I−1)酸化防止剤:フェノール系酸化防止剤(ADEKA製AO−60)
(I−2)酸化防止剤:リン系化合物((株)ADEKA製PEP−36)。
【0200】
実施例1〜6、比較例1〜2
表1に示す組成になるように原料を配合し、ドライブレンドした後、シリンダー温度を220℃、スクリュー回転数を200rpmに設定した、3ヶ所のニーディングブロック部を有するTEX30α二軸押出機(日本製鋼所製)でダイ部の樹脂圧力が2〜3MPaとなるよう溶融混練し、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各ペレットは、110℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、前記の評価方法で成形し、評価を行った。
【0201】
比較例3
シリンダー温度を280℃、スクリュー回転数を200rpmに設定したニーディングブロック部を有しないTEX30α二軸押出機を用い、表1に示す配合に変更した以外は、実施例1と同様の方法により溶融混練し、ペレットを作製した。この時の樹脂圧力は0.2MPaであった。その後実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0202】
【表1】

【0203】
実施例1〜6の熱可塑性樹脂組成物は軽量でかつ線膨張係数が小さく、低温時の面衝撃強度および表面外観にも優れている。一方比較例1〜3の熱可塑性樹脂組成物は、比重、線膨張係数、低温時の面衝撃強度および表面外観のいずれかが劣っていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂、(B)芳香族ポリエステル樹脂、(C)ゴム強化スチレン系樹脂、(D)タルクを配合してなる樹脂組成物であって、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量%として、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂1〜99重量%、(B)芳香族ポリエステル樹脂1〜99重量%であり、(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂の合計を100重量部として、(C)ゴム強化スチレン系樹脂が1〜100重量部、(D)タルクが30〜200重量部を配合してなる樹脂組成物であり、
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂と(B)芳香族ポリエステル樹脂とが構造周期0.001〜1.0μmの両相連続構造、または粒子間距離0.001〜1μmの分散構造を有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
(C)ゴム強化スチレン系樹脂が、ABS樹脂、AAS樹脂、MBS樹脂およびAES樹脂から選ばれる少なくとも1種からなることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
(C)ゴム強化スチレン系樹脂が、ABS樹脂からなることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
(C)ゴム強化スチレン系樹脂が、(r)ゴム質重合体5〜80重量%の存在下で、(a1)スチレン系単量体単位5〜90重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体単位1〜50重量%、および(a3)これらと共重合可能な他のビニル系単量体単位0〜80重量%からなる単量体混合物20〜95重量%をグラフト重合してなるグラフト重合体(C−1)5〜100重量部と、(a1)スチレン系単量体単位5〜90重量%、(a2)シアン化ビニル系単量体単位1〜50重量%、およびこれらと共重合可能な(a3)他のビニル系単量体単位0〜80重量%からなる単量体混合物を重合して得られる(C’−1)スチレン系共重合体0〜95重量部(ただし(a1)〜(a3)の合計をそれぞれ100重量%とする)とからなるゴム強化スチレン系樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2012−92324(P2012−92324A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214060(P2011−214060)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】