説明

熱可塑性樹脂組成物

本発明は、熱可塑性樹脂本来の特性を損なうことなく、衝撃強度を発現させることができ、更には耐加水分解性、耐熱着色性をも発現可能な熱可塑性樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明は、ポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A)70〜99質量%と、ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下に、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを含有する単量体または単量体混合物を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合体であって、前記ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55〜90質量%であり、グラフト共重合体100質量部に対して、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム塩を0.05〜10質量部使用して得られたグラフト共重合体(B)1〜30質量%とからなる熱可塑性樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、優れた衝撃強度、高い耐加水分解性および耐熱着色性を有する成形品を提供できる熱可塑性樹脂組成物に関する。
本願は、2003年3月10日に出願された特願2003−063164号および2003年9月3日に出願された特願2003−311818号に対し優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
家電、OA機器分野に使用されるポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂をはじめとする熱可塑性樹脂は、機械的性質、化学的性質が優れている。このため、広く各分野に用いられているが、低温における耐衝撃性が低いことが問題として挙げられている。また、OA用途に関してはリサイクルの一環として耐熱着性、耐加水分解性の改善が求められている。
耐衝撃性を改善するには、MBS樹脂等のグラフトゴムの添加が有効とされているが、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂にMBS樹脂を添加すると耐熱着色性、耐加水分解性が低下する。
耐加水分解性、耐熱着色性を改善するには、ヒンダードフェノール系、チオ系、リン系などの安定剤の添加が有効とされている。しかし、添加量によっては強度を低下させることがある。また、リン系安定剤をポリカーボネート系樹脂に添加すると、加水分解を促進してしまうことがあるので添加量に制限が生じる現状がある。
また、特許第3250050号公報、特開平1−217005公報、および特開平1−297402公報は、グラフト共重合体ラテックスに使用する凝析剤および洗浄水のpHを制限して着色要因の一つである残存乳化剤を減量化させ、これにより熱着色性を改善する製造方法を開示している。しかしながら、この製造方法では、ポリカーボネート等の流動性の高い樹脂の熱着色性は十分改善できない。
また、特開2001−172458号公報は、耐衝撃性に優れたる成形物を与えることができる樹脂組成物として、特定のブタジエン含有量、特定の粒子径およびスルホン酸系塩化合物および/または硫酸系塩化合物を使用したグラフト共重合体を含むポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提案している。しかしながら、得られるポリ塩化ビニル系樹脂組成物においては、耐衝撃性と成形外観とのみが改善される。
更に、特開平11−158365号公報は、ポリカーボネート系樹脂に対し、劣化を起こさせない重合助剤を含む耐衝撃強化剤を含有する組成物を提案している。しかしながら、この組成物においても、ポリカーボネートの分解を充分抑制することはできなかった。
本発明の目的は、本来の特性を損なうことのない熱可塑性樹脂組成物であって、優れた衝撃強度、高い耐加水分解性および耐熱着色性を有する成形品を形成し得る熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【発明の開示】
上記目的を達成するため、本発明は、ポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A1)70〜99質量%と、
ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下で、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを含有する単量体または単量体混合物を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合体であって、前記ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55〜90質量%であり、グラフト共重合体100質量部に対して、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を0.05〜10質量部使用して得られたグラフト共重合体(B)1〜30質量%とからなる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
更に上記目的を達成するため、本発明は、ポリエステル系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A2)70〜99質量%と、
ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下で、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを含有する単量体または単量体混合物を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合体であって、前記ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55〜90質量%であり、グラフト共重合体100質量部に対して、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を0.05〜10質量部使用して得られたグラフト共重合体(B)1〜30質量%とからなる熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明に使用するポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A1)としては、ポリカーボネート樹脂を含有していればどのような樹脂でも良い。例えば、ポリカーボネート/ABSなどのポリカーボネート系樹脂/スチレン系樹脂アロイ、ポリカーボネート/PBTなどのポリカーボネート系樹脂/ポリエステル系樹脂アロイなどが挙げられる。その中でも、特にポリカーボネート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂/スチレン系樹脂アロイが好ましい。
また、本発明に使用するポリエステル系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A2)としては、PET、PBT等のポリエステル樹脂を含有していればどのような樹脂でも良い。例えば、PET/ABSなどのポリエステル系樹脂/スチレン系樹脂アロイ、PPE/PBT等の(変性)PPE系樹脂/ポリエステル系樹脂アロイなどが挙げられる。その中でも、特にPBT樹脂が好ましい。
本発明に使用するグラフト共重合体(B)は、ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下で、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを含有する単量体または単量体混合物を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合体であって、前記ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55〜90質量%であり、グラフト共重合体100質量部に対して、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を0.05〜10質量部使用して得られたものである。上記アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩は、その製造過程において乳化剤として使用することが好ましい。
グラフト共重合体(B)を含有する熱可塑性樹脂によれば、優れた衝撃強度、耐加水分解性、および耐熱着色性に優れた成形品を提供できる熱可塑性樹脂組成物が得られる。
まず、グラフト共重合体(B)を得るためのブタジエン系ゴム質重合体について説明する。
ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスは、1,3−ブタジエンと、1,3−ブタジエンと共重合し得る一種以上のビニル系単量体とを乳化重合して得られる。ゴム質重合体を得るのに用いる単量体全量を100質量%とした場合、上記1,3−ブタジエンは60質量%以上使用されることが好ましく、65質量%以上がより好ましい。全単量体100質量%に対して、1,3−ブタジエンの含有量が60質量%未満となると、十分な耐衝撃性が得られない。
1,3−ブタジエンと共重合し得るビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、臭化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル系単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート等の多官能性単量体等を用いることができる。該ビニル系単量体は、一種または二種以上を使用することができる。
本発明においては、ブタジエン系ゴム質重合体を得るための乳化重合では、乳化剤としてアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を用いることができる。
ブタジエン系ゴム質重合体を得るための乳化重合では、牛脂脂肪酸カリウムなどの脂肪酸系塩化合物を乳化剤として使用することができるが、脂肪酸系塩化合物を使用した場合、スルホン系塩化合物と比べて、耐加水分解性、耐熱着色性が劣る可能性がある。また、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸系塩化合物を使用することもできるが、スルホン酸系塩化合物と比べて、耐成型着色性が劣る可能性がある。
スルホン酸系塩化合物の具体例としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩やアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩が挙げられる。この中でも、特に耐加水分解性、耐熱着色性の点で、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩が好ましい。
なお、ブタジエン系ゴム質重合体を得るための乳化グラフト重合では、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩以外の公知の乳化剤を用いてもよい。
また、ブタジエン系ゴム質重合体を得るためにアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を使用する場合、以下に説明するグラフト共重合体(B)を得るためのメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体などを重合させる工程で使用するアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩の量を考慮する必要がある。すなわち、グラフト共重合体(B)100質量部に対して使用するアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩の総使用量が0.05〜10質量部となるように、ブタジエン系ゴム質重量体を得る際の使用量およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体などを重合させる際の使用量を調整する必要がある。
また、ブタジエン系ゴム質重合体の粒子径は、特に限定されるものではない。しかしながら、得られるグラフト共重合体(B)を含む熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と成形物表面外観とを考慮すると、上記ブタジエン系ゴム質重合体の平均粒子径は100〜800nmの範囲にあることが好ましい。平均粒子径が100nm未満であると、樹脂組成物から得られる成形物の耐衝撃性が悪化することがある。また平均粒子径が800nmを越えると、樹脂組成物から得られる成形物の耐衝撃性が低下するとともに成形表面外観が悪化することがある。
なお、上記ビニル系単量体中に、各種連鎖移動剤やグラフト交叉剤を添加すると、ブタジエン系ゴム質重合体の分子量やグラフト率を調整することができるため、好ましい。
ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスを得るための重合方法としては、一段または二段以上の多段重合が可能である。多段重合の際は、重合に用いる単量体の一部を反応系内にあらかじめ仕込んでおき、重合開始後、残りの単量体を一括添加、分割添加または連続添加することが好ましい。このような重合方式によれば、良好な重合安定性が得られ、かつ所望の粒径および粒径分布を有するラテックスを安定に得ることができる。
次に、グラフト共重合体(B)について説明する。
グラフト共重合体(B)は、上記のブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下に、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体、あるいは他の一種以上のメタクリル酸アルキルエステルと共重合可能なビニル系単量体からなる単量体混合物を、一段もしくは二段以上の多段グラフト重合することにより得ることができる。
グラフト重合は、三段グラフト重合が好ましい。
グラフト一段目はメタクリル酸アルキルエステルを主成分とし、耐衝撃性の向上およびポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性を向上させるために行われる。
グラフト二段目は芳香族ビニル化合物を主成分とし、グラフト共重合体の流動性を上げるために行われる。
グラフト三段目は、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とし、得られる塩化ビニル系樹脂組成物の表面の艶を向上させるために行われる。
重合に用いるラジカル重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤、または酸化剤と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。それらのうちでは、レドックス系開始剤が好ましく、特に硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたラジカル重合開始剤が好ましい。
メタクリル酸アルキルエステルと共重合可能なビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレンならびに各種ハロゲン置換およびアルキル置換スチレン等の芳香族ビニル;エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル等のグリシジル基を有するビニル系単量体等を使用することができる。これらの単量体は、単独または二種以上を併用して使用することができる。
グラフト共重合体(B)中のブタジエン系ゴム質重合体の含有量は55〜90質量%とする。ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55質量%未満であると、十分な耐衝撃性が得られない。一方、ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が90質量%を超えた場合、熱可塑性樹脂組成物の他の優れた特性が失われる傾向にある。
グラフト重合の際には、ブタジエン系ゴム質重合ラテックスを安定化させ、さらにグラフト共重合体(B)の平均粒子径を制御するために、乳化剤としてアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を使用する。
なお、ブタジエン系ゴム質重合体を得るためにアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を使用した場合には、メタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体などを重合させる工程では、先に使用したアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩の量を考慮する必要がある。すなわち、グラフト共重合体(B)100質量部に対してアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩が0.05〜10質量部となるように、ブタジエン系ゴム質重量体を得る際の使用量およびメタクリル酸アルキルエステルを主成分とする単量体などを重合させる際の使用量を調整する必要がある。
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩は、ゴム重合およびグラフト重合で使用する合計量で、グラフト共重合体(B)100質量部に対して0.05質量部〜10質量部、好ましくは0.1質量部〜8質量部である。使用量が0.05質量部より少ないと重合中に凝集物が多発し、また十分な長期成型安定性、金属離型性が得られない。一方、乳化剤使用量が10質量部を超えると重合中に泡立ちやすくなり、生産性が低下する。
得られたグラフト共重合体ラテックスに適当な酸化防止剤や添加剤を加え、あるいは添加せずに、凝析させてスラリーを得て、そのスラリーを熱処理固化して脱水した後、乾燥等することにより粉末状のグラフト共重合体(B)を得ることができる。
凝析剤としては金属塩化合物が使用され、特に好ましくはアルカリ土類金属塩化合物、例えば硫酸マグネシウム、酢酸カルシウム、塩化カルシウム等を使用することができる。更に好ましくはカルシウム塩化合物が耐加水分解性の観点から好ましい。
乳化剤と凝析剤とから生成される塩が強酸塩である場合、その強酸塩はイオン化しにくく、熱可塑性樹脂等の熱分解等により発生するラジカルと反応し難い。このため、着色性物質の形成が起こりにくくなると共に加水分解反応も促進されないため、耐熱着色性、耐加水分解性が優れるものと考える。
熱可塑性樹脂組成物中のグラフト共重合体(B)の含有量は、1〜30質量%とする。グラフト共重合体(B)の含有量が1質量%未満であると十分な耐衝撃性が得られず、また十分な耐加水分解性、耐熱着性が得られない。一方、30質量%を超えると熱可塑性樹脂の他の優れた特性が失われる傾向にある。
グラフト共重合体(B)においては、凝析させたスラリー液のpH調整剤として、アルカリ金属塩化合物(C)を使用することにより、更に耐熱着色性、耐加水分解性を向上させることができる。
アルカリ金属塩化合物(C)は特に限定されるものではなく、例えば水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等を使用することができる。
スラリー液のpHは、pH8〜10の範囲内に調整することが好ましい。この範囲では残存物は水溶性塩を形成する。このため、洗浄工程において着色性物質や加水分解要因となる残存物が減量するからである。pH7未満では残存物を減量させる効果は不十分であり、pH10を超えるとグラフト成分に含まれるアルキル(メタ)アクリレート成分が分解し、メタクリル酸が発生する可能性がある。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の調製方法は特に限定されるものではなく、公知の技術、例えばヘンシェルミキサー、タンブラー等で粉体、粒状物を混合し、これを押出し機、ニーダー、ミキサー等で溶融混合する方法、あらかじめ溶融させた成分に他成分を逐次混合していく方法、さらには混合物を射出成型機で成型する方法等各種方法を採用することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、熱または光に対する安定剤、例えばフェーノール系、フォスファイト系安定剤、紫外線吸収剤、アミン系の光安定剤を添加してもよい。また公知の難燃化剤、例えばリン系、ブロム系、シリコーン系、有機金属塩系難燃剤を添加しても良い。さらに耐加水分解性等の改質剤、酸化チタン、タルク等の充填剤、染顔料、可塑剤等を必要に応じて添加することができる。
以下実施例により本発明を具体的に説明する。なお各実施例、比較例での諸物性の測定法は次の方法による。
(1)質量平均粒子径(dw)
得られたブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスを蒸留水で濃度約3%に希釈したものを試料として、米国MATEC社製、CHDF2000型粒度分布計を用いて測定した。測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件で行った。すなわち、標準条件(専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジおよびキャリア液を使用、液性:中性、流速:1.4ml/min、圧力:約4000psi、および温度:35℃)を保ちながら、濃度約3%の希釈ラテックス試料0.1mlを測定に用いた。なお、標準粒子径物質として米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンを0.02μmから0.8μmの範囲内で合計12点用いた。
(2)アイゾットインパクト強度
30mmΦ二軸押出機にて所定のシリンダー温度で樹脂組成物を溶融混練し、ペレット状に賦型して種々の樹脂組成物を得た。さらに射出成形することで試験片を得た。評価は、ASTM D−256に準じて測定した。
(3)耐加水分解性
賦型ペレットを120℃、100%RH雰囲気下に60時間調湿し、その前後のメルトインデックスを測定した。測定条件:250℃×2.16kgf
(4)耐熱着色性
賦型ペレットを120℃ギアオーブンにて24時間静置した前後の着色を目視判定して5段階評価した。
評価基準:良好(着色なし)5,4,3,2,1不良(着色あり)
(実験例1)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
第一単量体として以下の物質を70Lオートクレーブに仕込み、昇温して43℃になったら下記レドックス系開始剤を反応器内に添加した。反応開始後、さらに65℃まで昇温した。
<第一単量体>
1,3−ブタジエン 20.9部
スチレン 1.1部
p−メンタンハイドロパーオキサイド 0.1部
ピロリン酸ナトリウム 0.5部
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩 0.5部
脱イオン水 70部
<レドックス系開始剤>
硫酸第一鉄 0.0003部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0009部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
重合開始から2時間後に下記重合開始剤を反応器内に添加し、その直後より下記第二単量体、乳化剤、および脱イオン水を2時間かけて連続滴下して追加で仕込んだ。
<重合開始剤>
p−メンタンハイドロパーオキサイド 0.2部
<第二単量体>
1,3−ブタジエン 74.1部
スチレン 3.9部
<乳化剤および脱イオン水>
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩 1.5部
脱イオン水 75部
重合開始から20時間反応させて、ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は100nmであった。
(2)グラフト共重合体(B1)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを固形分として75部、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩1.0部、ロンガリット0.6部を窒素置換したフラスコ内に仕込み、内温を70℃に保持した。次いで、上記単量体混合物100部に対して、メチルメタクリレート7.5部、エチルアクリレート1.5部、およびクメンハイドロキシパーオキサイド0.3部からなる混合物を1時間かけて滴下した後1時間保持した。
その後、前段階で得られた重合体の存在下で、第2段目として、スチレン15部及びクメンハイドロキシパーオキサイドを、スチレンを100とした場合に0.3部の混合物(すなわち、スチレン15部及びクメンハイドロキシパーオキサイド0.045部からなる混合物)を1時間かけて滴下した後3時間保持した。
しかる後、第1段目および第2段目で得られた重合体の存在下で、第3段目としてメチルメタクリレート6部、およびクメンハイドロキシパーオキサイドをメチルメタクリレートを100とした場合に0.3部の混合物(すなわち、メチルメタクリレート6部およびクメンハイドロキシパーオキサイド0.018部からなる混合物)を0.5時間かけて滴下した後、1時間保持してから重合を終了してグラフト共重合体ラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体ラテックスにブチル化ハイドロキシトルエン0.5部を添加した後、20%酢酸カルシウム水溶液を添加して凝析させ、90℃で熱処理固化した。その後凝固物を温水で洗浄し、さらに乾燥してグラフト共重合体(B1)を得た。
(実験例2)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
第一単量体仕込み時のアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を0.1部、追加仕込時のアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を1.9部とした以外は実施例1で用いたブタジエン系ゴム質重合体と同様の重合を行い、重合開始から25時間反応させてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は200nmであった。
(2)グラフト共重合体(B2)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用いて、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(B2)を得た。
(実験例3)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
第一単量体として以下の物質を70Lオートクレーブに仕込み、昇温して43℃になったらレドックス系開始剤を反応器内に添加し、反応を開始後、さらに65℃まで昇温した。
<第一単量体>
1,3−ブタジエン 22.8部
スチレン 7.2部
p−メンタンハイドロパーオキサイド 0.1部
ピロリン酸ナトリウム 0.5部
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩 0.1部
脱イオン水 70部
<レドックス系開始剤>
硫酸第一鉄 0.0003部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.0009部
ロンガリット 0.3部
脱イオン水 5部
重合開始から2時間後に下記開始剤を反応器内に添加し、その直後より第二単量体、乳化剤、および脱イオン水を2時間かけて連続滴下した。
<重合開始剤>
p−メンタンハイドロパーオキサイド 0.2部
<第二単量体>
1,3−ブタジエン 53.2部
スチレン 16.8部
<乳化剤および脱イオン水>
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩 1.9部
脱イオン水 75部
重合開始から15時間反応させて、ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は200nmであった。
(2)グラフト共重合体(B3)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用いて、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(B3)を得た。
(実験例4)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(B4)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、グラフト重合する際に使用するアルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を3.0部使用した以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(B4)を得た。
(実験例5)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(B5)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、20%酢酸カルシウム水溶液のかわりに20%塩化カルシウム水溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(B5)を得た。
(実験例6)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(B6)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、20%酢酸カルシウム水溶液のかわりに10%硫酸アルミニウム水溶液を使用した以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(B6)を得た。
(実験例7)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(B7)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを固形分として80部使用した以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(B7)を得た。
(実験例8)
実験例2で得たグラフト共重合体ラデックスをスプレードライにより乾燥することにより、グラフト共重合体(B8)を得た。
(実験例9)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(B9)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、20%酢酸カルシウム水溶液にて凝析させ熱処理した。次いで、回収した粉体のpHを5%水酸化カリウム水溶液にてpH8.5(弱アルカリ性)に調整し、脱イオン温水にて洗浄したこと以外は実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト重合体(B9)を得た。
(実験例10〜12)
実施例2と同様の方法によりグラフト共重合体(B2)を得た。
(比較実験例1)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(b1)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを固形分として50部使用した以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(b1)を得た。
(比較実験例2)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(b2)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを固形分として95部使用した以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(b2)を得た。
(比較実験例3および4)
実験例2と同様の方法でグラフト共重合体(B2)を得た。
(比較実験例5)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩に代えてラウリル硫酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例2と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は200nmであった。
(2)グラフト共重合体(b5)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩に代えてラウリル硫酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(b5)を得た。
(比較実験例6)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩のかわりにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例2と同様にして、ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は200nmであった。
(2)グラフト共重合体(b6)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩のかわりにドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例1と同様にグラフト重合を行い、グラフト共重合体(b6)を得た。
(比較実験例7)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウムのかわりにオレイン酸ナトリウムを用いた以外は、実施例2と同様にして、ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの質量平均粒子径は200nmであった。
(2)グラフト共重合体(b7)の製造
アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩のかわりにオレイン酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にグラフト共重合体(b7)の製造を行った。
(比較実験例8−11)
(1)ブタジエン系ゴム質重合体ラテックスの製造
比較例7と同様にしてブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを得た。
(2)グラフト共重合体(b8−b11)の製造
上記重合で得られたブタジエン系ゴム質重合体ラテックスを用い、20%酢酸カルシウム水溶液のかわりに、10%硫酸水溶液を添加して凝析させ、90℃で熱処理固化したこと以外は実施例2と同様にグラフト共重合体(b8−b11)の製造を行った。
(実施例1〜9、比較例1〜8)
ポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A1)として粘度平均分子量約22,000のビスフェノールAタイプポリカーボネート(ユーピロンS2200F 三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製)と、難燃剤として有機アルカリ金属塩系難燃剤(BAYOWET Bayer社製)と、上記実験例および比較実験例で得られたグラフト共重合体(B−1〜B9およびb1〜b8)とを、表1の割合で秤量し、ヘンシェルミキサーで4分間混合した後30mmΦ二軸押し出し機にてシリンダー温度260℃で溶融混練し、ペレット状に賦型して熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに射出成形することで試験片を得た。これらを用いて評価した結果を表1に示した。
(実施例10、比較例9)
ポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A1)として粘度平均分子量約17,000のビスフェノールAタイプポリカーボネート(タフロンFN1700A 出光石油化学(株)製)およびAS樹脂(SR30B 宇部サイコン(株)製)と、難燃剤として有機アルカリ金属塩系難燃剤(BAYOWET Bayer社製)と、上記実験例および比較実験例で得られたグラフト共重合体(B10およびb9)とを、表1の割合で秤量し、ヘンシェルミキサーで4分間混合した後30mmΦ二軸押し出し機にてシリンダー温度280℃で溶融混練し、ペレット状に賦型して熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに射出成形することで試験片を得た。これらを用いて評価した結果を表1に示した。
(実施例11、比較例10)
ポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A1)として粘度平均分子量約23,000のビスフェノールAタイプポリカーボネート(レキサン141R GEプラスチックス(株)製)および飽和ポリエステル樹脂である極限粘度[η]が1.05のポリブチレンテレフタレート(バロックス325 GEプラスチックス(株)製)と、上記実験例および比較実験例で得られたグラフト共重合体(B11およびb10)を、表1の割合で秤量し、ヘンシェルミキサーで4分間混合した後30mmΦ二軸押し出し機にてシリンダー温度260℃で溶融混練し、ペレット状に賦型して熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに射出成形することで試験片を得た。これらを用いて評価した結果を表1に示した。
(実施例12、比較例11)
ポリエステル系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A2)としてポリブチレンテレフタレート樹脂(タフペットN1000 三菱レイヨン(株)製)と、上記実験例および比較実験例で得られたグラフト共重合体(B2およびb11)を、表1の割合で秤量し、ヘンシェルミキサーで4分間混合した後30mmΦ二軸押し出し機にてシリンダー温度240℃で溶融混練し、ペレット状に賦型して熱可塑性樹脂組成物を得た。さらに射出成形することで試験片を得た。これらを用いて評価した結果を表1に示した。


なお、表1中における乳化剤の名称は、以下の略称を使用している。
DPEDSはアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王(株)ペレックスSS−L)
DBSNa:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王(株)製 ネオペレックスG−15)
SLS:ラウリル硫酸ナトリウム(花王(株)製 エマール2F)
OANa:オレイン酸ナトリウム(花王(株)製 ノンサールTK−1)
【産業上の利用の可能性】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂本来の特性を損なうことなく、衝撃強度を発現させることができ、更には高い耐加水分解性、耐熱着色性を発現するため、OA機器分野、家電分野等幅広い分野における成形材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A1)70〜99質量%と、
ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下に、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを含有する単量体または単量体混合物を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合体であって、前記ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55〜90質量%であり、グラフト共重合体(B)100質量部に対して、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を0.05〜10質量部使用して得られたグラフト共重合体(B)1〜30質量%とからなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
グラフト共重合体(B)が、凝析剤として、金属塩化合物を使用して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
グラフト共重合体(B)が、凝析剤として、アルカリ土類金属塩化合物を使用して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステル系樹脂を必須成分とする熱可塑性樹脂(A2)70〜99質量%と、
ブタジエン系ゴム質重合体を含有するラテックスの存在下に、少なくともメタクリル酸アルキルエステルを含有する単量体または単量体混合物を乳化グラフト重合して得られたグラフト共重合体であって、前記ブタジエン系ゴム質重合体の含有量が55〜90質量%であり、グラフト共重合体(B)100質量部に対して、アルキルフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム塩を0.05〜10質量部使用して得られたグラフト共重合体(B)1〜30質量%とからなる熱可塑性樹脂組成物。

【国際公開番号】WO2004/081114
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−564052(P2004−564052)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003008
【国際出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】