説明

熱可塑性重合体組成物および成形品

【課題】制電性、制電性の持続性、耐衝撃性および耐久性に優れた成形品が得られる熱可塑性重合体組成物を提供する。
【解決手段】脂肪族ポリエステル(A)40〜97質量%と、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)3〜60質量%(但し、成分(A)と成分(B)の合計を100質量%とする)から成る熱可塑性重合体組成物。更に、ゴム質重合体(C1)の存在下または非存在下に芳香族ビニル化合物または芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(C2)を重合して得られるスチレン系樹脂(C)を含有し、その割合が脂肪族ポリエステル(A)と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の合計100質量部に対し5〜200質量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制電性、耐衝撃性および耐久性に優れた熱可塑性性重合体組成物、そして、この熱可塑性重合体組成物から成る成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリエステルは、生分解性を有する材料として注目を集めている。更に、脂肪族ポリエステルの一部については、従来の石油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックの開発がなされており、地球温暖化対策および将来枯渇が予想される石油資源の代替化を図るのもとして注目を集めている。
【0003】
しかしながら、一般に、脂肪族ポリエステルは、耐衝撃性が低く、その使用用途が大きく制限されている。斯かる欠点を改良するため、ポリ乳酸と変性オレフィン化合物から成る組成物(特許文献1)、脂肪族ポリエステルとシンジオタクチックポリプロピレンから成る組成物(特許文献2)、更には、ポリ乳酸とエチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)系熱可塑性エラストマーから成る組成物(特許文献3)が提案されているが、耐衝撃性の改良効果が少なく、更に、これらの組成物を射出成形して得た成形品において剥離現象が見られる場合があるという問題がある。
【0004】
一方、脂肪族ポリエステルは、帯電し易く、静電気障害が懸念される分野への使用に制限がある。これらの欠点を改良するため、脂肪族ポリエステル、特にポリ乳酸にグリセリン脂肪酸ポリエステルから成るノニオン系界面活性剤を配合して帯電性を改良する方法が提案されている(特許文献4)。また、生分解性樹脂に特定のアニオン系界面活性剤を配合することも提案されている(特許文献5)。しかしながら、これらの方法では、帯電防止性が充分でないと共に、帯電防止性の持続性が得られないという問題がある。また、脂肪族ポリエステルは、高温高湿の環境下で強度低下を起し易い等の耐久性が劣る問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平9―316310号公報
【特許文献2】特開平10―251498号公報
【特許文献3】特開2002―37987号公報
【特許文献4】特開平10−36650号公報
【特許文献5】特開2005−264159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、制電性、耐衝撃性および耐久性に優れた熱可塑性重合体組成物、そして、この熱可塑性重合体組成物から成る成形品を提供するとにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、脂肪族ポリエステルとソフトセグメントにエーテル結合を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマーとから成る組成物により、上記の目的を容易に達成できるとの知見を見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の要旨は、脂肪族ポリエステル(A)40〜97質量%と、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)3〜60質量%(但し、成分(A)と成分(B)の合計を100質量%とする)から成ることを特徴とする熱可塑性重合体組成物に存する。
【0009】
本発明の好ましい態様においては、更に、ゴム質重合体(C1)の存在下または非存在下に芳香族ビニル化合物または芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(C2)を重合して得られるスチレン系樹脂(C)を含有し、その割合が脂肪族ポリエステル(A)と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の合計100質量部に対し5〜200質量部である。
【0010】
そして、本発明の第2の要旨は、上記の熱可塑性重合体組成物から成ることを特徴とする成形品に存する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、脂肪族ポリエステル(A)及びソフトセグメントにエーテル結合を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)を配合した組成物であり、斯かる組成物によれば、特に、制電性、耐衝撃性および耐久性に優れた成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。本発明においては、必須成分として脂肪族ポリエステル(A)及びソフトセグメントにエーテル結合を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)を使用し、任意成分として特定のスチレン系樹脂(C)を使用する。
【0013】
<脂肪族ポリエステル(A)>
本発明で使用する脂肪族ポリエステル(A)としては、特に限定されるものではなく、(i)脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸またはその機能的誘導体を主体とする成分を重縮合させて得られる脂肪族ポリエステル、(ii)脂肪族オキシカルボン酸を主体とする成分を重縮合させて得られる脂肪族ポリエステル、(iii)ε−カプロラクトン等のラクトン化合物を主体とする成分を重縮合して得られる脂肪族ポリエステル等があり、好ましくは上記(i)及び上記(ii)であり、更に好ましくは上記(i)及び上記(i)/上記(ii)の併用系である。ここで使用される脂肪族ジオールは、以下の一般式(1)で表わされる。
【0014】
【化1】

【0015】
一般式(1)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を表わす。Rの炭素数は、通常2〜11、好ましくは2〜6である。Rはシクロアルキレン基を包含し、また、分岐鎖を有ししていてもよい。好ましいRは、「−(CH)n―」であり、ここで、nは2〜11の整数、好ましくは2〜6の整数を示す。
【0016】
上記の脂肪族ジオールの具体例としては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中では、得られる脂肪族ポリエステルの物性の面から、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。上記の脂肪族ジオールは2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記の脂肪族ジカルボン酸は以下の一般式(2)で表わされる。
【0018】
【化2】

【0019】
一般式(2)中、Rは直接結合または2価の脂肪族炭化水素基を表わす。Rの炭素数は、通常2〜11、好ましくは2〜6である。Rはシクロアルキレン基を包含し、また、分岐鎖を有していてもよい。好ましいRは、「−(CH)m−」であり、ここで、mは0又は1〜11の整数、好ましくは0又は1〜6の整数を表わす。
【0020】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン酸などが挙げられ、誘導体としては、2個のカルボキシル基の双方が例えばエステル基などに変換されている化合物が好ましい。これらの中では、得られる脂肪族ポリエステルの物性の面から、コハク酸またはアジピン酸が好ましく、特にコハク酸が好ましい。上記の脂肪族ジカルボン酸は2種以上を併用してもよい。
【0021】
脂肪族オキシカルボン酸としては、分子中に1個の水酸基と1個のカルボン酸基を有するものであれば特に限定されないが、以下の一般式(3)で表わされる脂肪族オキシカルボン酸が好適である。
【0022】
【化3】

【0023】
一般式(3)中、Rは2価の脂肪族炭化水素基を表わす。Rの炭素数は、通常1〜11、好ましくは1〜16である。Rはシクロアルキレン基を包含し、また、分岐鎖を有していてもよい。
【0024】
脂肪族オキシカルボン酸は、好ましくは、1つの炭素原子に水酸基とカルボキシル基を持つ化合物であり、特に、以下の一般式(4)で表わされる化合物が好ましい。
【0025】
【化4】

【0026】
一般式(4)中、zは0又は1以上の整数、好ましくは0又は1〜10、更に好ましくは0又は1〜5である。
【0027】
脂肪族オキシカルボン酸の具体例としては、乳酸、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、2−ホドロキシ−n―酪酸、2−ヒドロキシ−3,3−ジメチル酪酸、2−ヒドロキシ−3−メチル酪酸、2−メチル乳酸、2−ヒドロキシカプロン酸、これらの混合物などが挙げられる。これらに光学異性体が存在する場合には、D体、L体、ラセミ体の何れでもよく、形状としては、固体、液体、水溶液の何れであってもよい。特に、使用時の重合速度の増大が顕著であり且つ入手が容易である、乳酸またはグリコール酸およびこれらの水溶液が好ましい。乳酸やグリコール酸は、50%、70%、90%水溶液が一般に市販されており、入手が容易である。
【0028】
前記(i)の脂肪族ジオール化合物と脂肪族ジカルボン酸化合物から成る脂肪族ポリエステルには、前記の脂肪族オキシカルボン酸化合物を共重合してもよく、更に、上記(ii)のオキシカルボン酸から成る脂肪族ポリエステルには、前記の脂肪族ジオール化合物、前記脂の肪族ジカルボン酸化合物を共重合してもよい。更に、前記(iii)のラクトン化合物から成る脂肪族ポリエステルには、前記の脂肪族オキシカルボン酸化合物、脂肪族ジオール化合物、脂肪族ジカルボン酸化合物を共重合することが出来る。
【0029】
更に、前記(i)、(ii)及び(iii)の脂肪族ポリエステルには、その他の化合物として、3官能脂肪族オキシカルボン酸、または、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ビスフェノールA等の芳香族ジオール、ヒドロキシ安息香酸などの芳香族オキシカルボン酸などを適宜共重合することが出来る。
【0030】
前記の脂肪族ポリエステルのエステル化反応に使用される触媒としては、公知のものが全て使用でき、例えば、ゲルマニウム、チタン、アンチモン、スズ、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの反応系に可溶な金属化合物が挙げられる。これらの中では、ゲルマニウム化合物が好ましく、その具体例としては、テトラアルコキシゲルマニウム等の有機ゲルマニウム化合物、または、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物が挙げられる。価格や入手の容易性から、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム又はテトラブトキシゲルマニウムが特に好ましい。
【0031】
触媒の使用量は、使用するモノマー量の合計量に対し、通常0.001〜3質量%、好ましくは0.005〜1.5質量%である。触媒の添加時期は、ポリエステル生成前であれば特に制限されないが、原料仕込み時に添加してもよく、減圧開始時に添加してもよい。原料仕込む時に脂肪族オキシカルボン酸と同時に添加するか、または、2官能性脂肪オキシカルボン酸およびその水溶液に触媒を溶解して添加するのが特に好ましい。
【0032】
脂肪族ポリエステルを製造する際の温度、時間、圧力などの条件は、目的物である脂肪族ポリエステルが得られる条件であれば特に限定されないが、反応温度は、通常150〜260℃、好ましくは180〜230℃、重合時間は、通常1時間以上、好ましくは2〜15時間、反応圧力(減圧度)は、通常10mmHg以下、好ましくは2mmHg以下である。
【0033】
脂肪族ポリエステル(A)の数平均分子量(Mn)は、本発明の目的である耐衝撃性の面から、通常1〜20万、好ましくは2〜20万である。また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、通常3以上、好ましくは4以上である。
【0034】
本発明においては、本発明の目的の1つである耐衝撃性をより向上させる観点から、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)を構成するジオール成分および/またはジカルボン酸成分(誘導体を含む)の少なくとも何れかが植物由来であることが好ましく、両原料とも植物由来であることが更に好ましい。
【0035】
本発明で使用する脂肪族ポリエステル(A)として好ましいものは、前記ポリ乳酸系樹脂(A1)、前記1,4−ブタンジオールとコハク酸から主として成るポリエステル(A2)及び上記(A1)/(A2)の組み合わせである。この場合、配合組成は、通常30〜98/2〜70質量%、好ましくは40〜98/2〜60質量%、更に好ましくは50〜95/5〜50質量%である。上記(A1)を使用した場合は特に制電性および耐久性が優れ、上記(A2)を使用した場合は特に耐衝撃性に優れる。また、上記の範囲で併用した場合、制電性、耐衝撃性および耐久性のバランスに優れる。
【0036】
<熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)>
本発明で使用する熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、一般に、ジイソシアネートと鎖延長剤から成るハードセグメントブロックとポリオールとジイソシアネートから成るソフトセグメントブロックを繰り返し単位とするブロック共重合体であり、ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。
【0037】
上記のポリエステルポリオールとしては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。また、前記ジカルボン酸のエステル化合物または酸無水物とジオールの縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε−カプロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。なお、上記のジオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール等が挙げられ、これらは混合物として使用してもよい。
【0038】
また、ポリカーボネートポリオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの1種または2種以上とジエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるポリカーボネートポリオール等が挙げられる。また、ポリカプロラクトンポリオールとポリヘキサメチレンカーボネートとの共重合体であってもよい。
【0039】
更に、ポリエステルエーテルポリオールとしては、前記の脂肪族ジカルボン酸、前記の芳香族ジカルボン酸、前記の脂環族ジカルボン酸、及び、そのエステル若しくは酸無水物と、ジエチレングリコール、プロピレンオキサイド付加物などのグリコール等、または、これらの混合物との縮合反応物などが挙げられる。
【0040】
更に、ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、これらのコポリエーテル等が挙げられる。前記した各種ポリオールのうち、耐加水分解性の点からポリエーテルポリオールが好ましい。
【0041】
制電性を向上させるという本発明の目的から、好ましいソフトセグメントは、ポリエステルエーテルポリオール及びポリエーテルポリオールである。
【0042】
イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、トリジンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、キシレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、トリイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネートメチルオクタン、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート等が挙げられる。これらの中ては、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI:HMDI)が特に好ましく使用される。
【0043】
鎖延長剤としては,低分子量ポリオールが使用され、例えば、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン等の脂肪族ポリオール;1,4−ジメチロールベンゼン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物もしくはプロピレンオキサイド付加物等の芳香族グリコールが挙げられる。
【0044】
本発明で使用される上記ハードセグメントと上記ソフトセグメントの比率は、通常ハードセグメント/ソフトセグメント=10〜90/10〜90質量%の範囲である。
【0045】
尚、本発明で使用される熱可塑性ポリウレタンエラストマーの硬度は、ショアAで70〜99の範囲のものが好ましく使用できる。このような熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ディーアイシーバイエルポリマー社製のエステル(アジペート)系として「T−1000シリーズ」のT−1180、T−1185;エステル(ラクトン)系として「T−2000シリーズ」のT−2180、T−2185;エーテル系として「T−8000シリーズ」のT−8180、T−8185、「TP−6000シリーズ」のTP−6580A(何れも商品名)等として入手できる。
【0046】
<スチレン系樹脂(C)>
本発明で使用するスチレン系樹脂(C)は、ゴム質重合体(C1)の存在下または非存在下に芳香族ビニル化合物または芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(C2)を重合して得られる。耐衝撃性の面から、ゴム質重合体(C1)の存在下にグラフト(共)重合した重合体を少なくとも1種含むものが好ましい。
【0047】
ゴム質重合体(C1)の含有量は、スチレン系樹脂(C)を基準として(100質量%として)、通常3〜80質量%、好ましくは5〜70質量%、更に好ましくは10〜60質量%である。
【0048】
ゴム質重合体(C1)としては、特に限定されないが、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、エチレン・ブテン−1共重合体、エチレン・ブテン−1・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム、シリコーン・アクリル系IPNゴム、天然ゴム、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体、スチレン−イソプレン系ブロック共重合体、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体の水素添加物、スチレン−ブタジエン系ブロック共重合体の水素添加物などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。これらの中では、ポリブタジエン、ブタジエン・スチレン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体、アクリルゴム、シリコーンゴム、天然ゴムが好ましい。
【0049】
ゴム質重合体(C1)のゲル含率は、特に限定されないが、乳化重合でゴム質重合体(C1)を得る場合、通常98質量%以下、好ましくは40〜98質量%である。この範囲において、特に、耐衝撃性に優れた成形品を与える熱可塑性樹脂組成物を得ることが出来る。ゲル含率は、ゴム質重合体(C1)の製造時に、分子量調節剤の種類および量、重合時間、重合温度、重合転化率等を適宜設定することにより調整される。また、上記ゲル含率は、以下に示す方法により求めることが出来る。
【0050】
すなわち、ゴム質重合体1gをトルエン100mlに投入し、室温で48時間静置した後、100メッシュの金網(質量をW1グラムとする)で濾過したトルエン不溶分と金網を80℃で6時間真空乾燥して秤量し(質量W2グラムとする)、以下の式(I)により算出する。
【0051】
【数1】

【0052】
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α―メチルスチレン、ヒドロキシスチレン等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。また、これらの中では、スチレン又はα―メチルスチレンが好ましい。
【0053】
芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、ビニルシアン化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド化合物、および、その他の各種官能基含有不飽和化合物などが挙げられる。
【0054】
本発明の好ましい態様においては、芳香族ビニル化合物を必須単量体成分とし、これに必要に応じ、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物およびマレイミド化合物からなる群より選ばれる1種または2種以上が単量体成分として使用され、更に必要に応じ、その他の各種官能基含有不飽和化合物の少なくとも1種が単量体成分として併用される。その他の各種官能基含有不飽和化合物としては、不飽和酸化合物、エポキシ基含有不飽和化合物、水酸基含有不飽和化合物、オキサドリン基含有不飽和化合物、酸無水物基含有不飽和化合物、置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0055】
シアン化ビニル合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。シアン化ビニル化合物を使用すると耐薬品性が付与される。シアン化ビニル化合物の使用量は、全単量体成分中の割合として、通常1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。
【0056】
(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。(メタ)アクリル酸エステル化合物を使用すると表面硬度が向上する。(メタ)アクリル酸エステル化合物の使用量は、全単量体成分中の割合として、通常1〜80質量%、好ましくは5〜80質量%である。
【0057】
マレイミド化合物としては、マレイミド、N―フェニルマレイミド、N―シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。また、マレイミド単位を導入するために、無水マレイン酸を共重合させ、後イミド化してもよい。マレイミド化合物を使用すると耐熱性が付与される。マレイミド化合物の使用量は、全単量体成分中の割合として、通常1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%である。
【0058】
不飽和酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。エポキシ基含有不飽和化合物としては、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0059】
水酸基含有不飽和化合物としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、N―(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0060】
オキサゾリン基含有不飽和化合物としては、ビニルオキサゾリン等が挙げられ、これらは2種以上を併用することが出来る。酸無水物基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0061】
置換または非置換のアミノ基含有不飽和化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、N―ビニルジエチルアミン、N―アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N―メチルアクリルアミン、アクリルアミド、N―メチルアクリルアミド、p―アミノスチレン等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0062】
その他の各種官能基含有不飽和化合物を使用した場合、スチレン系樹脂と他のポリマーとをブレンドした際、両者の相溶性を向上させることが出来る。斯かる効果を達成するために好ましい単量体は、エポキシ基含有不飽和化合、不飽和酸化合物および水酸基含有不飽和化合物である。その他の各種官能基含有不飽和化合物の使用量は、スチレン系樹脂(C)中に使用される当該官能基含有不飽和化合物の合計量として、スチレン系樹脂(C)に対し、通常0.1〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
【0063】
全ビニル単量体中の芳香族ビニル化合物以外の単量体の使用量は、全ビニル単量体を基準として(100質量%とし)、通常80質量%以下、好ましくは60質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0064】
ビニル単量体の好ましい組み合わせは、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル、スチレン/アクリロニトリル/グリシジルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/2−ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン/アクリロニトリル/(メタ)アクリル酸、スチレン/N―フェニルマレイミド、スチレン/メタクリル酸メチル/シクロヘキシルマレイミド等であり、特に好ましい組み合わせは、スチレン/アクリロニトリル=55/45〜90/10(質量比)、スチレン/メタクリル酸メチル=80/20〜20/80(質量比)、スチレン/アクリロニトリル/メタクリル酸メチル=スチレン量20〜80質量%、アクリロニトリル及びメタクリル酸メチルの合計量20〜80質量%である。
【0065】
スチレン系樹脂(C)は、公知の重合法、例えば、乳化重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合およびこれらを組み合わせた重合法で製造することが出来る。これらのうち、ゴム質重合体(C1)の存在下にビニル系単量体を(共)重合する好ましい方法は、乳化重合および溶液重合である。一方、ゴム質重合体の非存在下にビニル系単量体を(共)重合する好ましい方法は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合および乳化重合である。
【0066】
乳化重合で製造する場合、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤などが使用されるるが、これらは公知のものを使用できる。
【0067】
重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、p―メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、tert―ブチルハイドロパーオキサイド、過硫酸カリウム、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。また、重合開始助剤として、各種還元剤、含糖ピロリン酸鉄処方、スルホキシレート処方などのレドックス系を使用することが好ましい。
【0068】
連鎖移動剤としては、オクチルメルカプタン、n―ドデシルメルカプタン、t―ドデシルメルカプタン、n―ヘキシルメルカプタン、ターピノーレン類などが挙げられる。乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、ラウリル酸カリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、パルミチン酸カリウム等の高級脂肪酸塩、ロジン酸カリウム等のロジン酸塩などが挙げられる。
【0069】
なお、乳化重合において、ゴム質重合体およびビニル系単量体の使用方法は、ゴム質重合体の全量の存在下にビニル系単量体を一括添加して重合してもよく、分割もしくは連続添加して重合してもよい。また、ゴム質重合体の一部を重合途中で添加してもよい。
【0070】
乳化重合の後、得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、水洗、乾燥することにより、スチレン系樹脂(C)の粉末を得る。この際、乳化重合で得た2種以上のスチレン系樹脂(C)のラテックスを適宜ブレンドした後、凝固してもよい。凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム等の無機塩、または硫酸、塩酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸などの酸を使用することが出来る。凝固剤として酸を使用した場合は、凝固後、アルカリ性水溶液で中和処理をすることが好ましい。中和処理に使用するアルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0071】
溶液重合によりスチレン系樹脂(C)を製造する場合に使用することの出来る溶剤は、通常のラジカル重合で使用される不活性重合溶媒であり、例えば、エチルベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N―メチルピロリドン等が挙げられる。
【0072】
重合温度は、通常80〜140℃、好ましくは85〜120℃の範囲である。重合に際し、重合開始剤を使用してもよいし、重合開始剤を使用せずに、熱重合で重合してもよい。重合開始剤としては、ケトンパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物などが好適に使用される。また、連鎖移動剤を使用する場合、例えば、メルカプタン類、ターピノレン類、α―メチルスチレンダイマー等を使用することが出来る。また、塊状重合、懸濁重合で製造する場合、溶液重合において説明した重合開始剤、連鎖移動剤などを使用することが出来る。上記の各重合法によって得たスチレン系樹脂(C)中に残存する単量体の量は、通常10,000ppm以下、好ましくは5,000ppm以下である。
【0073】
また、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体を重合して得られるスチレン系樹脂(C)には、通常、ビニル系単量体がゴム質重合体にグラフト共重合した共重合体とゴム質重合体にグラフトしていない未グラフト成分が含まれる。スチレン系樹脂(C)のグラフト率は、通常20〜200質量%、好ましくは30〜150質量%、更に好ましくは40〜120質量%であり、グラフト率は、以下の式(II)により求めることが出来る。
【0074】
【数2】

【0075】
式(II)中、Tはスチレン系樹脂(C)1gをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数:23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sはスチレン系樹脂(C)1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。
【0076】
また、スチレン系樹脂(C)のアセトン可溶分の極限粘度〔η〕(溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、30℃で測定)は、通常0.2〜1.2dl/g、好ましくは0.2〜1.0dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。更に、スチレン系樹脂(C)中に分散するグラフト化ゴム質重合体粒子の平均粒径は、通常50〜3000nm、好ましくは100〜2000nm、更に好ましくは150〜800nmである。平均粒径は電子顕微鏡を使用する公知の方法で測定することが出来る。
【0077】
<熱可塑性重合体組成物>
本発明の熱可塑性重合体組成物は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)40〜97質量%と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)3〜60質量%(但し、成分(A)と成分(B)の合計を100質量%とする)から成る。脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の割合は、好ましくは45〜94質量%、更に好ましくは50〜94質量%、特に好ましくは50〜92質量%である。脂肪族ポリエステル系樹脂(A)の割合が40質量%未満の場合は、耐衝撃性が劣る傾向にあると共に、脂肪族ポリエステルを有効利用しようとする本発明の目的が達成できず、97質量%を超える場合は、耐衝撃性、制電性および耐久性が劣る。熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の割合が、3質量%未満の場合は、制電性、耐衝撃性および耐久性が劣り、60質量%を超える場合は、耐衝撃性が低下する傾向にあると共に、脂肪族ポリエステルを有効利用しようとする本発明の目的が達成できない。
【0078】
本発明の熱可塑性重合体組成物にスチレン系樹脂(C)を使用する場合、その割合は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の合計100質量部に対する割合として、通常5〜200質量部、好ましくは10〜190質量部、更に好ましくは10〜150質量部、特に好ましくは15〜120質量部である。スチレン系樹脂(C)の割合が5質量部未満の場合は、耐衝撃性を向上させる効果が得られず、200質量部を超える場合は制電性が劣る。
【0079】
本発明の熱可塑性重合体組成物には、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の相溶性を向上させる目的から、相溶化剤(G)を配合することが出来る。相用化剤(G)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンープロピレン共重合体などのオレフィン系重合体の官能基変性物;芳香族ビニル化合物重合体ブロックと共役ジエン化合物重合体ブロックを有するブロック共重合体およびその水素添加物;前記水素添加物の官能基変性物;芳香族ビニル化合物重合体ブロック−共役ジエン化合物重合体ブロック−芳香族ビニル化合物重合体ブロックから成るブロック共重合体とポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタンから選べれた少なくとも1種のブロックから成るブロック共重合体;ポリスチレンブロックと更に官能基変性スチレン系樹脂などが挙げられる。官能基としては、カルボキシル基、水酸基、エポキシ基、アミノ基、酸無水物基及びオキサゾリン基などが挙げられる。官能基の導入法は、特に制限されないが、官能基含有不飽和化合物を共重合する方法、官能基含有不飽和化合物を必要に応じて付加させる方法などが好適である。相溶化剤(G)の割合は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A)と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の合計100質量部に対する割合として、通常0.5〜80質量%、好ましくは1〜50質量%、更に好ましくは2〜30質量%である。
【0080】
本発明の熱可塑性重合体組成物には、制電性を向上させる目的から、アルカリ金属の塩および/またはアルカリ土類金属の塩(D)を配合することが出来る。本発明の熱可塑性重合体組成物を製造する際に配合されるが、上記の成分(D)は、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の重合前、重合時、重合後の何れかの時期に配合してもよい。
【0081】
上記の成分(D)のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム等が挙げられる。これらの塩としては、有機酸、無機酸塩、ハロゲン化物などが挙げられる。
【0082】
上記の成分(D)の具体例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属のハロゲン化物;過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等のアルカリ金属の無機酸塩;酢酸カリウム、ステアリン酸リチウム等のアルカリ金属の有機酸塩;オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、テトラデシルスルホン酸、ステアリルスルホン酸、テトラコシルスルホン酸、2−エチルヘキシルスルホン酸などの、アルキル基の炭素数8〜24のアルキルスルホン酸のアルカリ金属塩;フェニルスルホン酸、ナフチルスルホン酸などの芳香族スルホン酸のアルカリ金属塩;オクチルフェニルスルホン酸、ドデシルフェニルスルホン酸、ジブチルフェニルスルホン酸、ジノニルフェニルスルホン酸などのアルキル基の炭素数6〜18のアルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩;ジメチルナフチルスルホン酸、ジイソプロピルナフチルスルホン酸、ジブチルナフチルスルホン酸などのアルキル基の炭素数2〜18のアルキルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0083】
上記の成分(D)の使用割合は、本発明の熱可塑性重合体組成物100質量部に対し、通常0.001〜25質量部、好ましくは0.01〜15質量部、更に好ましくは0.01〜5質量部である。また、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の濃度としては、本発明の熱可塑性重合体組成物中の割合として、通常100〜30000ppm、好ましくは150〜20000ppmである。
【0084】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物には、制電性を向上させる目的から、他の化合物であるフッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオン部を有する塩(E)及び非イオン系界面活性剤(F)を配合することが出来る。
【0085】
フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオン部を有する塩(E)としては、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メタンリチウム等が挙げられるが、特にトリフルオロメタンスルホン酸リチウムが好ましい。これらは2種以上を併用してもよい。
【0086】
上記の成分(E)の使用割合は、本発明の熱可塑性重合体組成物100質量部に対し、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.05〜7質量部、更に好ましくは0.1〜3質量部である。成分(D)は、溶液として添加してもよく、他の重合体に予め高濃度で分散させたマスターバッチとして使用することも出来る。
【0087】
非イオン系界面活性剤(F)としては、公知の多価アルコールエステル、含窒素化合物(アミン化合物、アミド化合物など)等が使用され、これらは、本発明の熱可塑性重合体組成物100質量部に対して、通常0.05〜10質量部、好ましくは0.1〜5質量部の範囲で使用される。
【0088】
本発明の熱可塑性重合体組成物には、公知の耐候(光)剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、シリコーンオイル、可塑剤、摺動剤、着色剤、染料、発泡剤、難燃剤、結晶核剤、帯電防止剤などを適宜配合することが出来る。
【0089】
また、本発明の熱可塑性重合体組成物には、公知の無機・有機充填材を配合することが出来る。ここで使用される充填材としては、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラス繊維のミルドファイバー、ガラス粉、ガラスビーズ、中空ガラスビーズ、炭素繊維、炭素繊維のミルドファイバー、銀、銅、黄銅、鉄などの粉体あるいは繊維状物質、カーボンブラック、錫コート酸化チタン、錫コートシリカ、ニッケルコート炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、炭酸カルシウムウイスカー、ワラストナイト、マイカ、カオリン、モンモリロナイト、ヘキトライト、酸化亜鉛ウイスカー、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、板状アルミナ、板状シリカ、及び、有機処理されたスメクタイト、アラミド繊維、フェノール樹脂、ポリエステル繊維、木粉などがあり、これらは2種以上を併用してもよい。
【0090】
上記の充填材は、その分散性を向上させるため、公知のカップリング剤、表面処理剤、集束剤などで処理してもよい。公知のカップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤などがある。上記の無機・有機充填材の使用割合は、本発明の熱可塑性重合体組成物100質量部に対し、通常1〜200質量部である。
【0091】
更に、本発明の熱可塑性重合体組成物には、他の公知の重合体であるポリエチレン、ポリプロピレン、官能基変性ポリオレフィン、エチレンと官能基含有不飽和化合物との共重合体、プロピレンと官能基含有不飽和化合物との共重合体、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル等の熱可塑性ポリエステル樹脂、PMMA、メタクリル酸メチル・マレイミド化合物共重合体、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリカーボネート、エチレン・(メタ)クリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フェノキシ樹脂などを適宜配合することが出来る。
【0092】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、上記の各構成成分を、各種の押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、連続ニーダー、ロール等により溶融混練することにより得ることが出来る。混練りに際し、前記の各成分を一括添加して混練してもよく、分割して添加してもよい。このように調製された本発明の熱可塑性重合体組成物は、射出成形、プレス成形、カレンダー成形、Tダイ押出成形、中空シート押出成形、発泡シート押出成形、インフレーション成形、ラミネーション成形、真空成形、異形押出成形など、また、これらを組み合わせた成形法などの公知の成形法により成形品を得ることが出来る。また、カレンダー成形、Tダイ押出成形、インフレーション成形機などに混練り押出機、バンバリーミキサー等の混練り機が付帯されている場合、事前に本発明の熱可塑性重合体組成物を得ることなく、上記の付帯の混練り機で本発明の熱可塑性重合体組成物を得ながら成形品を得ることも出来る。
【0093】
本発明の熱可塑性重合体組成物は、シート、フィルム用途に好適な組成物であり、特に多層シート及び多層フィルムの表皮材として好適であり、これ等のシート及びフィルムとしては、単層のシート及びフィルム、他材量と多層化したシート及びフィルムであってもよく、粘着剤などを積層したシート及びフィルム、更に、前記のシート及びフィルムに公知のガスバリア膜を形成したものでもよい。ここで使用されるシート及びフィルムの肉厚としては、通常5μm〜100mm、好ましくは10μm〜50mm、特に好ましくは30μm〜10mmである。
【0094】
本発明の熱可塑性重合体組成物を表皮材とする多層シート・フィルムにおいて、表皮材はシート・フィルムの片面にあってもよく、また、両面にあってもよい。多層シート・フィルムにおけるコア層または片面層は、発泡したものでも、中空になったものでも、更に発泡・中空以外のものでもよい。多層シート・フィルムにおける表皮材の厚みは、通常5〜200μm、好ましくは5〜150μm、更に好ましくは10〜100μmである。
【0095】
上記の多層シートやフィルムを得る方法として好ましい方法は、Tダイによる共押出、インフレーションによる共押出である。このようにして得られたシートやフィルムは、必要に応じて真空成形などでトレイ等の成形品を得ることが出来る。
【0096】
上記のようにして得られた成形品は、リレーケース、ウエハーケース、レチクルケース、マスクケース等のケース類、液晶トレイ、チップトレイ、ハードディスクトレイ、CCDトレイ、ICトレイ、有機ELトレイ、光ピックアップトレイ、LEDトレイ等のトレイ類、ICキャリアー等のキャリアー類、偏光フィルム、導光板、各種レンズ等の保護フィルム、偏光フィルム切断時の下敷きシート、仕切り板等のクリーンルーム内で使用されるシート、フィルム類、自動販売機内部部材、液晶パネル、ハードディスク、プラズマパネル等に使用される制電バッグ、プラスチックダンボール、液晶パネル、液晶セル、プラズマパネル等の搬送用ケース、その他各種部品搬送用関連部材などの分野に使用することが出来る。
【実施例】
【0097】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。尚、実施例中において部および%は、特に断らない限り質量基準である。また、実施例および比較例中の各種測定は、下記の方法に拠った。
【0098】
〔1〕評価方法
【0099】
(1)制電性:
測定試料として、2.1mm厚み、100mm径の円板状成形品を使用した。三菱化学社製「ハイレスターUPMCP−HT450」を使用し、JISK6911に準拠し、印加電圧500V、23℃×50%RHの条件下での表面抵抗率(Ω/□)を測定した。
【0100】
(2)制電性の持続性:
上記(1)の成形品を温度23℃の蒸留水中に24時間浸漬した後、更に、23℃×50%恒温恒湿槽に7日間放置した後の表面抵抗率(Ω/□)を上記(1)の条件で測定した。
【0101】
(3)耐衝撃性:
試験片として、寸法2.4mm×50mm×100mmの成形品を使用し、打撃棒径25.4mm、打撃棒先端R25.4mm、打撃速度2.4m/secで試験片を打ち抜いたときの破壊エネルギー(J)を測定した。
【0102】
(4)耐久性:
ISO527に準拠し、引張強さを測定した。常態時の引張強さ(Ts1)及び試験片を、温度50℃、湿度90%RHの条件で60日間放置した後、引張強さ(Ts2)を測定し、以下の式(III)で保持率(%)を算出し、保持率から耐久性を評価した。そして、「◎」保持率80%以上、「〇」保持率50%以上で80%未満、「×」保持率50%未満の3段階の基準で表示した。
【0103】
【数3】

【0104】
〔2〕熱可塑性重合体組成物の成分
【0105】
(1)脂肪族ポリエステル(A):
A1:コハク酸/1,4−ブタンジオールを主体とする脂肪族ポリエステル〔三菱化学社製GSPlaAZ91T(商品名)〕
A2:ポリ乳酸〔ユニチカ社製テラマックTE−7000(商品名)〕
【0106】
(2)熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B):
B1:ディーアイシーバイエルポリマー社製「デスモパンTP−6580A」(ソフトセグメントPEG系)
B2:ディーアイシーバイエルポリマー社製「パンデックスT−8180」(ソフトセグメントPTMG系)
【0107】
(3)スチレン系樹脂(C):
後述の製造例1及び2で得られたゴム強化スチレン系樹脂(C1)及びスチレン系樹脂(C2)を使用した。
【0108】
(4)フッ素化アルキルスルホニル基を備えたアニオン部を有する塩(E):
E1:トリフルオロメタンスルホン酸リチウムの20%アジピン酸ジブトキシエトキシエチル溶液(三光化学工業社製「サンコノール0862−20T」)
E2:トリフルオロメタンスルホン酸リチウムの75%水溶液(三光化学工業社製「サンコノールAQ−75T」)
【0109】
製造例1:
次の方法により、ゴム強化スチレン系樹脂(C1)を製造した。すなわち、攪拌機を備えたガラス製フラスコに、窒素気流中で、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンラテックス(平均粒子径:3500Å、ゲル含率:85%)40部(固形分)、スチレン15部、アクリロニトリル5部を加え、攪拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部、ブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加えた。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。1時間重合させた後、更に、イオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン30部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部およびクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加し、更に1時間重合を継続させた後、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を完結させた。反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固し、水洗した後、水酸化カリウム水溶液で洗浄・中和し、更に、水洗した後、乾燥し、ゴム強化スチレン系樹脂(C1)を得た.この樹脂のグラフト率は68%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は、0.45dl/gであった。
【0110】
製造例2:
次の方法により、スチレン系樹脂(C2)を製造した。すなわち、リボン翼を備えたジャケット付き重合反応容器を2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン75部、アクリロニトリル25部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert―ドデシルメルカプタン0.12部およびトルエン5部の溶液、重合開始剤として1、1′―アゾビス(シクロヘキサンー1−カーボニトリル)0.1部およびトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は、110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けたポンプにより、スチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤および重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合は温度130℃で行い、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を使用し、直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度〔η〕0.48dl/gのスチレン系樹脂(C2)を得た。
【0111】
実施例1〜11並びに比較例1及び2:
表1記載の熱可塑性重合体組成物の配合割合で各構成成分(D成分以外)をヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(シリンダー設定温度200℃)を用いて溶融混練しペレット化した。尚(D)成分は、押出機途中からポンプを用いて注入した。
得られたペレットを充分に乾燥し、シリンダー温度を150〜190℃に設定した射出成形機で成形品を得た。この成形品を用いて制電性、制電性の持続性および耐久性を評価した。評価結果を表1に示した。
【0112】
【表1】

【0113】
表1に示す結果から次のことが分かる。すなわち、実施例1〜11は、本発明の熱可塑性重合体組成物から成る成形品であり、制電性、制電性の持続性、耐衝撃性および耐久性に優れる。これに対し、比較例1は、成分(A)の使用量が本発明で規定する範囲外で多く、成分(B)の使用量が本発明で規定する範囲外で少ない量であり、制電性、耐衝撃性および耐久性が劣る。また、比較例2は、成分(A)の使用量が本発明で規定する範囲外で少なく、成分(B)の使用量が本発明で規定する範囲外で多い例であり、耐衝撃性が下がる傾向にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル(A)40〜97質量%と、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)3〜60質量%(但し、成分(A)と成分(B)の合計を100質量%とする)から成ることを特徴とする熱可塑性重合体組成物。
【請求項2】
更に、ゴム質重合体(C1)の存在下または非存在下に芳香族ビニル化合物または芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体(C2)を重合して得られるスチレン系樹脂(C)を含有し、その割合が脂肪族ポリエステル(A)と熱可塑性ポリウレタンエラストマー(B)の合計100質量部に対し5〜200質量部である請求項1に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項3】
脂肪族ポリエステル(A)がポリ乳酸系樹脂(A1)である請求項1又は2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項4】
脂肪族ポリエステル(A)が1,4−ブタンジオールとコハク酸から主として得られる脂肪族ポリエステル(A2)である請求項1又は2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリエステル(A)がポリ乳酸系樹脂(A1)と1,4−ブタンジオールとコハク酸から主として得られる脂肪族ポリエステル(A2)を併用したものであり、その配合割合が(A1)/(A2)=30〜98/2〜70質量%である請求項1又は2に記載の熱可塑性重合体組成物。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の熱可塑性重合体組成物から成ることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2008−266454(P2008−266454A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111376(P2007−111376)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】