説明

熱可逆架橋性樹脂組成物及び該組成物を用いた軟質管状構造体

【課題】耐キンク性に優れ、成形後の架橋工程を必要としない熱可逆架橋性樹脂組成物、及び該組成物を用いた軟質管状構造体を提供すること。
【解決手段】本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを少なくとも一種の酸無水物で変成した、酸無水物変成熱可塑性エラストマーと、酢酸ビニルの単独重合体、又はオレフィンと酢酸ビニルの共重合体を鹸化し、その鹸化度が90モル%より小さい熱可塑性樹脂とを配合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可逆架橋性樹脂組成物及び該組成物を用いた軟質管状構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用器具に用いられるチューブ、ホースおよびカテーテルなどの軟質管状構造体の材料には、従来から優れた柔軟性、及び耐キンク性(曲げ操作、屈曲操作およびねじり操作などを行っても、形状を維持する性質)が求められる。そこで、医療用の軟質管状構造体には、柔軟性、耐キンク性等の性質を持つ軟質ポリ塩化ビニル樹脂が適用されることが多かった。しかし、軟質ポリ塩化ビニルには、フタル酸エステル類の可塑剤が大量に添加されている。このフタル酸エステル類は、生体内に溶出した際の人体への影響が指摘されている。そのため、軟質管状構造体の材料は、軟質ポリ塩化ビニル樹脂から、フタル酸エステル類の可塑剤を必要としないオレフィン系、スチレン系、ウレタン系およびエステル系などの熱可塑性エラストマーへの転換が進んでいる。
【0003】
しかし、前記の熱可塑性エラストマーを用いた場合の軟質管状構造体では、軟質管状構造体に求められている耐キンク性が不足しがちであるという問題があった。そこで、特許文献1,2で開示されているように、管状構造体成形後に電子線、ガンマ線又はその他の放射線などを照射し、分子間架橋構造を形成することで耐キンク性の向上を図っている。
【特許文献1】特開2005−207584号公報
【特許文献2】特開平8−57035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、管状構造体を形成する為の射出成形、押出成形、ブロー成形又はプレス成形などの成形方法は、成形後の処理工程が必要無いことが利点である。しかしながら、前記の様に熱可塑性エラストマーの分子間架橋構造を形成するためには、射出成形、押出成形、ブロー成形又はプレス成形などによる管状構造体の成形工程の後に、電子線照射、ガンマ線照射又はその他の放射線照射による架橋工程が必要となるという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、耐キンク性に優れ、成形後の架橋工程を必要としない熱可逆架橋性樹脂組成物、及び該組成物を用いた軟質管状構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを少なくとも一種の酸無水物で変成した酸無水物変成熱可塑性エラストマーと、酢酸ビニルの単独重合体、又はオレフィンと酢酸ビニルの共重合体を鹸化し、その鹸化度が90モル%より小さい熱可塑性樹脂とを配合してなることを特徴とする。
【0007】
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、前記酸無水物が無水マレイン酸であり、前記熱可塑性エラストマーの変成率が5質量%より小さいと好ましい。
また、前記熱可塑性樹脂がポリビニルアルコールであると好ましい。
【0008】
本発明の、医療器具に用いる軟質管状構造体は、前記熱可逆架橋性樹脂組成物のいずれかより形成されると好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐キンク性に優れ、成形後の架橋工程を必要としない熱可逆架橋性樹脂組成物及び、該組成物を用いた医療器具のチューブ、ホース及びカテーテル等の軟質管状構造体を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを少なくとも一種の酸無水物で変成した酸無水物変成熱可塑性エラストマーと、酢酸ビニルの単独重合体、又はオレフィンと酢酸ビニルの共重合体を鹸化し、その鹸化度が90モル%より小さい熱可塑性樹脂とを配合してなることを特徴とする。
【0011】
〔酸無水物変成熱可塑性エラストマー〕
(熱可塑性エラストマー)
熱可塑性エラストマーは、オレフィン系、スチレン系、ポリアミド系、ウレタン系およびエステル系などの熱可塑性エラストマー、またはこれらの2種類以上を組合せたものであると好ましい。
【0012】
オレフィン系の熱可塑性エラストマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン又は1−ペンテン等のα一オレフィンの共重合体が挙げられる。また、これらα−オレフィンと、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、ジシクロオクタジエン、メチレンノルボルネン又は5−エチリデン−2−ノルボルネン等の共役ジエンとの共重合体が挙げられる。
【0013】
スチレン系の熱可塑性エラストマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルスチレン又はジメチルスチレン等の芳香族ビニルによる共重合体が挙げられる。具体的には、芳香族ビニルと共役ジエンとの共重合体、芳香族ビニルとα−オレフィンとの共重合体等が挙げられる他、これら共重合体の水素添加物が挙げられる。
【0014】
ポリアミド系の熱可塑性エラストマーとしては、ポリアミド共重合体と、ポリエーテル共重合体又はポリエステル共重合体とのブロック共重合体が挙げられる。
ポリアミド共重合体としては、脂肪族ジカルボン酸又は芳香族ジカルボン酸と、ジアミン類との共重合体、又はε一カプロラクタム、ウンデカラクタム若しくはラウリルラクタム等との共重合体が挙げられる。ここで、脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸又はセバシン酸等が挙げられ、芳香族カルボン酸としては、テレフタル酸又はイソフタル酸等が挙げられる。また、ジアミン類としては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン又はノナンジアミン等が挙げられる。
ポリエーテル共重合体又はポリエステル共重合体としては、ジオール類の共重合体が挙げられる他、ジオール類と、アジピン酸、ピメリン酸又はスベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。
【0015】
ウレタン系の熱可塑性エラストマーとしては、ハードセグメントとしての短鎖ポリオールとジイソシアネートの反応で得られるポリウレタンと、ソフトセグメントとしての長鎖ポリオールとジイソシアネートの反応で得られるポリウレタンとのブロック共重合体が挙げられる。
長鎖ポリオールとしては、エーテル系長鎖ポリオールとエステル系長鎖ポリオールが挙げられる。
エーテル系長鎖ポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフランの開環重合で得られたポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。
エステル系長鎖ポリオールとしては、アジペート系長鎖ポリオール、ラクトン系長鎖ポリオール、ポリカーボネート系長鎖ポリオールが挙げられる。アジペート系長鎖ポリオールとしては、ポリ(エチレン−1,4−アジペート)グリコール、ポリ(ブチレン−1,4−アジペート)グリコールなどが挙げられる。ラクトン系長鎖ポリオールとしては、ポリカプロラクトングリコールが挙げられる。
短鎖ポリオールとしては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ビスフエノールAなどが挙げられる。
ジイソシアネートとしては、トルエンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0016】
エステル系の熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル共重合体とポリエーテル共重合体とのブロック共重合体が挙げられる。
ポリエステル共重合体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸と、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール又は2,2−ジメチルトリメチレングリコール等のジオール類との共重合体が挙げられる。
ポリエーテル共重合体としては、ジオール類の共重合体、又はジオール類と、アジピン酸、ピメリン酸若しくはスベリン酸等の脂肪族ジカルボン酸との共重合体等が挙げられる。
【0017】
これらの熱可塑性エラストマーには、必要に応じて、多価アルコール類又はオイル類の可塑剤、ヒンダードアミン系の酸化防止剤、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、リン酸エステル類の安定剤、着色剤、香料、増量剤、消泡剤、界面活性剤および発泡剤の添加剤を添加しても良い。
【0018】
(酸無水物)
酸無水物としては、脂肪族カルボン酸の無水物及び芳香族カルボン酸の無水物が挙げられる。これら酸無水物としては、環状酸無水物及び非環状酸無水物を挙げることができるが、本発明では環状酸無水物を用いると好ましい。具体的には、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水コハク酸、無水グルタル酸が挙げられる。さらに、反応速度および反応効率の点から、無水マレイン酸が最も好ましい。本発明で用いる酸無水物は、以上列挙したうちのいずれか1つのみであっても良く、複数の種を組み合わせて用いても良い。
また、酸無水物には、湿気や水分などによる固結を防止するために、固結防止剤を併用することもある。固結防止剤としては、公知の物から適宜選択することができるが、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の金属塩が好ましい。飽和脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸およびリグノセリン酸などが挙げられる。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸を挙げられる。
【0019】
(変成方法)
熱可塑性エラストマーを酸無水物で変成する方法としては、反応容器内の溶媒中にて行う溶液法と単軸又は多軸の押出機にておこなう溶融法とが挙げられる。中でも、溶媒を用いない溶融法にて酸無水物変成熱可塑性エラストマーを得るのが好ましい。
具体的には、二軸押出機にて、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、10質量部より少ない酸無水物をドライブレンドしたものを、150〜250℃で溶融させると好ましい。このとき、酸無水物の添加量が10質量部以上になると、変成発熱による温度上昇が大きくなり、熱可塑性エラストマーの分解劣化を促進して製品使用時の破損につながる恐れがある。
このとき、変成の反応効率を高める目的でラジカル反応開始剤を添加したり、変成物の安定性を高める目的で安定化剤を添加したりすることもある。ラジカル反応開始剤としては、公知の物から適宜選択することができ、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドおよびクメンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。安定化剤としては、公知の物から適宜選択することができ、ヒドロキノン、ベンゾキノンおよびニトロソフェニルヒドロキシ化合物などを挙げることができる。これら添加剤は、熱可塑性エラストマー100質量部に対し、10質量部を超えないことが好ましい。
【0020】
以上の条件下で、熱可塑性エラストマーの変成率が5質量%以下となるようにして変成させると好ましい。更に熱可塑性エラストマーの変成率は1質量%以下であると好ましい。変成率を5質量%より大きくするには、過剰のラジカル反応開始剤を添加し、酸無水物の反応効果を高くする必要がある。過剰のラジカル反応開始剤は、熱可塑性エラストマーの熱自動酸化分解による劣化を促進する作用があり、製品使用時の破損につながる恐れがある。
【0021】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物(架橋物)を構成する熱可塑性樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体、又はオレフィンと酢酸ビニルとの共重合体を鹸化したものである。熱可塑性樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、既知の方法によって製造されるものである。
一般的に、酢酸ビニルの単独重合体、又はオレフィンと酢酸ビニルの共重合体は、メタノール、エタノール又はイソプロピルアルコールなどのアルコール溶媒中でラジカル反応開始剤を用いて製造される。
このとき、酢酸ビニル100質量部、又は酢酸ビニル10〜90質量部及びオレフィン90〜10質量部に対して、アルコール溶媒50〜200質量部、ラジカル反応開始剤0.01〜10質量部であると好ましい。また、酢酸ビニル共重合体に用いられるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、又は1−ペンテン等のα−オレフィン類が好ましい。ラジカル反応開始剤としては、公知の物から適宜選択することができ、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドおよびクメンハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0022】
次に、得られた単独重合体又は共重合体を鹸化する。鹸化を行う方法としては、公知の方法を用いることができる。
得られた酢酸ビニルの単独重合体又は共重合体を、メタノール、エタノール又はイソプロピルアルコールなどのアルコール溶媒中で鹸化触媒を用いて鹸化を行う。具体的には、酢酸ビニルの単独重合体又は共重合体100質量部を、50〜200質量部のアルコール溶媒中に添加し、鹸化触媒を0.01〜5.0質量部加えて鹸化させて、本発明で用いる熱可塑性樹脂を得ると好ましい。このとき、鹸化度は90モル%より小さく、さらに鹸化度85モル%より小さいと好ましい。鹸化度が90モル%以上であると、酸無水物で変成した熱可塑性エラストマーとの相溶性が低くなり、溶融混練の際に互いの分子が接触できず、冷却固化時に分子間架橋構造を充分に形成できなくなる。鹸化触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラートおよびナトリウムエチラートなどのアルカリ金属の水酸化物や、アルコラートの様なアルカリ触媒、又は酸触媒を挙げることができる。
以上の操作で得られた熱可塑性樹脂としては、熱可塑性エラストマーとの相溶性の高さから、本発明ではポリビニルアルコールを用いるのが最も好ましい。
【0023】
〔熱可逆架橋性樹脂組成物〕
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを少なくとも一種の酸無水物で変成した、酸無水物変成熱可塑性エラストマーと、酢酸ビニルの単独重合体又はオレフィンと酢酸ビニルの共重合体を鹸化した熱可塑性樹脂とを配合してなるものである。
配合比としては、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂の合計質量を100質量%としたとき、酸無水物変成熱可塑性エラストマー90質量%(熱可塑性樹脂10質量%)〜99質量%(熱可塑性樹脂1質量%)であると好ましく、更に、酸無水物変成熱可塑性エラストマー95質量%(熱可塑性樹脂5質量%)〜98質量%(熱可塑性樹脂2質量%)であると好ましい。酸無水物変成熱可塑性エラストマーが99質量%を超えると分子間架橋構造の形成が不十分になり、90質量%未満であれば柔軟性が失われる。
【0024】
また、必要に応じて、多価アルコール類又はオイル類の可塑剤、ヒンダードアミン系の酸化防止剤、ベンゾフェノン系などの紫外線吸収剤、リン酸エステル類の安定剤、着色剤、香料、増量剤、消泡剤、界面活性剤および発泡剤の添加剤を、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂の合計質量を100質量部に対して0.01〜100質量部添加しても良い。
【0025】
配合の方法としては、特に制限は無く、公知の方法を用いて良い。例えば、単軸又は多軸の押出機、ロールミキサーまたはバンバリーミキサーなどを使用した溶融混練法が挙げられる。
【0026】
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを少なくとも一種の酸無水物で変成した酸無水物変成熱可塑性エラストマーの酸無水物基と、熱可塑性樹脂の水酸基とがエステル結合し、分子間架橋構造を形成する。
この酸無水物基と水酸基からなるエステル結合は、高温領域で解離し、低温領域で再結合する。従って、本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、高温領域では分子間架橋構造の解離、低温領域では分子間架橋構造の形成を繰り返す熱可逆架橋性を示すようになる。
通常、この高温領域と低温領域の境界領域は100℃から200℃の間に存在する。つまり、高温領域は、射出成形、押出成形、ブロー成形又はプレス成形などが可能な溶融温度領域に相当する。一方、低温領域は、成形物の冷却固化温度領域および成形品の使用温度である常温付近に相当する。高温領域では、分子間架橋構造を形成しないので、熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂との混練組成物として溶融することができる。低温領域に相当する常温付近では、分子間架橋構造を形成するので、分子間滑りが原因とされる塑性変形が抑制され、圧縮永久歪の低い、耐キンク性に優れた熱可逆架橋性樹脂組成物となる。
【0027】
〔軟質管状構造体〕
本発明の軟質管状構造体は、本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物により形成されるものである。
例えば、本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物を、単軸押出機にて高温領域(150〜250℃)で溶融し、管状構造体として形成した後、低温領域(−50〜100℃)で固化させると好ましい。
本発明の熱可逆架橋性樹脂組成物は、通常の溶融成形が可能で、冷却固化後に分子間架橋構造を形成するので、架橋工程を必要とすること無く、優れた耐キンク性を持った軟質管状構造体を形成可能である。従って、この熱可逆架橋性樹脂組成物を用いた医療用器具のチューブ、ホース及びカテーテルなどの軟質管状構造体は、成形後の架橋工程を経ずに、優れた耐キンク性を示す。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
また、各実施例及び比較例における測定及び評価は以下の方法による。
【0029】
〔変成率〕
実施例及び比較例で得られた、変成後の酸無水物変成熱可塑性エラストマーのペレットから、熱プレス成形機(ミニテストプレス、(株)東洋精機製作所製)を用い、加熱温度設定180〜250℃で厚さ50μm、100mm角のフィルムを作製し、70℃に加熱したトルエン1リットル中で攪拌溶解した後、室温まで徐冷して沈殿精製した。この酸無水物変成熱可塑性エラストマーの変成率A(質量%)を次の式により求めた。
A=((E/D)×((B+C)/C)−1)×100
ここで、Bは変成前の酸無水物の質量(g)、Cは変成前の熱可塑性エラストマーの質量(g)、Dは精製前の酸無水物変成熱可塑性エラストマーの質量(g)、Eは精製後の酸無水物変成熱可塑性エラストマーの質量(g)である。
【0030】
〔流動性〕
実施例及び比較例で得られた、熱可逆架橋性樹脂組成物及び樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、JISK6760に準拠し、190℃の条件下で測定した。
【0031】
〔永久圧縮歪〕
実施例及び比較例で得られた、熱可逆架橋性樹脂組成物及び樹脂組成物の圧縮永久歪は、JISK6262に準拠し、70℃、12時間、歪25%の条件下で測定した。
【0032】
〔耐キンク性〕
実施例及び比較例で得られた熱可逆架橋性樹脂組成物及び樹脂組成物のペレットを、単軸押出機(FS30、(株)池貝製)に投入し、180〜220℃で混練し、外径3mm、内径2mmのチューブを成形し、長さ20cmに切断し、チューブ片を得た。チューブ片を外径3cm、高さ3cmのアルミ製円柱に一回転分巻きつけ、チューブ片の様子を観察し、以下の評価を目視で行った。
○:チューブ片がつぶれたり折れたりしない。
×:チューブ片がつぶれたり折れたりしている。
【0033】
〔実施例1〕
熱可塑性エラストマーとして、オレフィン系エラストマー(ノバテックLL UE320、日本ポリエチレン(株)製、メルトフローレート(MFR):0.8g/10min、圧縮永久歪:50%)1kg、酸無水物として、無水マレイン酸((株)日本触媒製)10g、反応開始剤として、ジアルキルパーオキサイド(パーヘキサ25B、日本油脂(株)製)1gをドライブレンドした後、二軸押出機(口径:25mm、L(シリンダ有効長さ)/D(口径)=60)を用いて、回転数:300rpm、温度:180℃の条件下にて溶融し、無水マレイン酸変成オレフィン系エラストマー(変成率0.9質量%)のペレットを得た。
得られた無水マレイン酸変成オレフィン系エラストマーのペレットの全量と、鹸化された酢酸ビニル共重合体(ポバールJL‐22E、日本酢ビ・ポバール(株)製、鹸化度:80モル%)50gとをドライブレンドした後、二軸押出機(口径:25mm、L/D=60)を用いて、回転数:300rpm、温度180℃の条件下にて溶融し、熱可逆架橋性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可逆架橋性樹脂組成物のMFRは1.0g/10min、圧縮永久歪は35%であった。つまり、高温領域(190℃)で測定した流動性(MFR)が、架橋していない熱可塑性エラストマーと同等であるので、得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は高温領域では分子間架橋構造を形成していないといえる。対して、低温領域(70℃)で測定した圧縮永久歪が、架橋していない熱可塑性エラストマーより低くなっているので、分子間架橋構造を形成しているといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれる等の様子が認められず良好であった。
【0034】
〔実施例2〕
熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマー(セプトンコンパウンドCE003、クラレプラスチックス(株)製、MFR:10g/10min、圧縮永久歪:47%)1kg、酸無水物として、無水マレイン酸50g、反応開始剤としてジアルキルパーオキサイド(パーヘキサ25B)3g及びジ−t−ブチルパーオキサイド(バーブチルD、日本油脂(株)製)2gをドライブレンドした後、二軸押出機を用いて、回転数300rpm、温度190℃の条件下にて溶融し、無水マレイン酸変成スチレン系エラストマー(変成率4質量%)のペレットを得た。
得られた無水マレイン酸変成スチレン系エラストマーのペレット全量と、鹸化された酢酸ビニル共重合体(ポバールJL‐22E)30gとをドライブレンドした後、二軸押出機を用いて、回転数:300rpm、温度:200℃の条件下にて溶融し、熱可逆架橋性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可逆架橋性樹脂組成物のMFRはl2g/10min、圧縮永久歪は30%であった。つまり、得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、実施例1と同様に、高温領域(190℃)では分子間架橋構造を形成せず、低温領域(70℃)では分子間架橋構造を形成しているといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれる等の様子が認められず良好であった。
【0035】
〔実施例3〕
熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマー(ウベスタエクスパXPA9063、宇部興産(株)製、MFR:7g/10min、圧縮永久歪:55%)1kgを使用し、二軸押出機の溶融温度を210℃とした他は、実施例1と同様にして、無水マレイン酸変成スチレン系エラストマー(変成率0.9質量%)のペレットを得た。
得られた無水マレイン酸変成スチレン系エラストマーのペレット全量と、鹸化された酢酸ビニル共重合体(ポバールJP‐33、日本酢ビ・ポバール(株)製、鹸化度:87モル%)50gとをドライブレンドした後、二軸押出機を用いて、回転数:300rpm、温度:220℃の条件下にて溶融し、熱可逆架橋性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可逆架橋性樹脂組成物のMFRは10g/10min、圧縮永久歪は40%であった。つまり、得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、実施例1と同様に、高温領域(190℃)では分子間架橋構造を形成せず、低温領域(70℃)では分子間架橋構造を形成しているといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれる等の様子が認められず良好であった。
【0036】
〔実施例4〕
熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマー(ミラクトランP390、日本ミラクトラン(株)製、MFR:3.5g/10min、圧縮永久歪:48%)1kgを使用した他は、実施例3と同様にして、無水マレイン酸変成スチレン系エラストマー(変成率0.9質量%)のペレットを得た。
更に、実施例3と同様にして、熱可逆架橋性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可逆架橋性樹脂組成物のMFRは5g/10min、圧縮永久歪は35%であった。つまり、得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、実施例1と同様に、高温領域(190℃)では分子間架橋構造を形成せず、低温領域(70℃)では分子間架橋構造を形成しているといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれる等の様子が認められず良好であった。
【0037】
〔実施例5〕
熱可塑性エラストマーとして、スチレン系エラストマー(ハイトレル4047、東レ・デュポン(株)製、MFR:8g/10min、圧縮永久歪:40%)1kg、酸無水物として、無水マレイン酸5g及び無水コハク酸(日本油脂(株)製)5g、反応開始剤として、ジアルキルパーオキサイド(パーヘキサ25B)1gをドライブレンドした後、実施例3と同様にして二軸押出機を用いて、無水マレイン酸及び無水コハク酸変成スチレン系エラストマー(変成率0.8質量%)のペレットを得た。
得られた無水マレイン酸及び無水コハク酸変成スチレン系エラストマーのペレット全量と、鹸化された酢酸ビニル共重合体(ポバールJL‐22E)50gとをドライブレンドした後、実施例3と同様にして、熱可逆架橋性樹脂組成物のペレットを得た。
得られた熱可逆架橋性樹脂組成物のMFRはl2g/10min、圧縮永久歪は30%であった。つまり、得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、実施例1と同様に、高温領域(190℃)では分子間架橋構造を形成せず、低温領域(70℃)では分子間架橋構造を形成しているといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれる等の様子が認められず良好であった。
【0038】
〔比較例1〕
実施例3と同様にして、無水マレイン酸変成スチレン系エラストマー(変成率0.9質量%)のペレットを得た。
得られた無水マレイン酸変成スチレン系エラストマーのペレット全量と、鹸化された酢酸ビニル共重合体(ポバールJM‐33、日本酢ビ・ポバール(株)製、鹸化度:92モル%)50gとをドライブレンドした後、実施例3と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。
得られた樹脂組成物のMFRは11g/10min、圧縮永久歪は55%であった。つまり、高温領域(190℃)で測定した流動性(MFR)は、架橋していない熱可塑性エラストマーと同等であり、高温領域では分子間架橋構造を形成していないといえる。更に、低温領域(70℃)で測定した圧縮永久歪も、架橋していない熱可塑性エラストマーと同等であり、低温領域でも分子間架橋構造を形成していないといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれてしまったので、不良であると判断した。
【0039】
〔比較例2〕
スチレン系エラストマー(セプトンコンパウンドCEOO3)1kgと、鹸化された酢酸ビニル共重合体(ポバールJL‐22E)30gとをドライブレンドした後、二軸押出機を用いて、回転数:300rpm、温度:200℃の条件下にて溶融し、樹脂組成物のペレットを得た。
得られた樹脂組成物のMFRは11g/10min、圧縮永久歪は55%であった。つまり、得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、比較例1と同様に、高温領域(190℃)では分子間架橋構造を形成せず、低温領域(70℃)でも分子間架橋構造を形成していないといえる。また、耐キンク性は、試験の際にチューブ片がつぶれてしまったので、不良であると判断した。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例1〜5で得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、高温領域(190℃)での流動性(MFR)が変成前の熱可塑性エラストマーと大差ないので溶融時には分子間架橋構造を形成していないといえる。一方、低温領域(70℃)での永久圧縮歪は変成前の熱可塑性エラストマーより著しく低下しているので、低温領域で分子間架橋構造を形成しているといえる。つまり、実施例1〜5で得られた熱可逆架橋性樹脂組成物は、溶融時(高温領域)には分子間架橋構造を形成せず、冷却固化後(低温領域)に分子間架橋構造を形成する樹脂であると言える。
一方、比較例1で得られた樹脂組成物は、熱可塑性樹脂の鹸化度が90%を超えており、低温領域(70℃)での圧縮永久歪について、熱可塑性エラストマーと得られた樹脂組成物とを比較すると変化が見られない。従って、分子間架橋構造を形成していないといえる。比較例2で得られた樹脂組成物は、熱可塑性エラストマーを酸無水物で変成しなかったので、低温領域(70℃)での圧縮永久歪について、熱可塑性エラストマーと得られた樹脂組成物とを比較すると変化が見られない。従って、分子間架橋構造を形成していないといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーを少なくとも一種の酸無水物で変成した酸無水物変成熱可塑性エラストマーと、
酢酸ビニルの単独重合体、又はオレフィンと酢酸ビニルの共重合体を鹸化し、その鹸化度が90モル%より小さい熱可塑性樹脂とを配合してなる、熱可逆架橋性樹脂組成物。
【請求項2】
前記酸無水物が無水マレイン酸であり、前記熱可塑性エラストマーの変成率が5質量%より小さいことを特徴とする請求項1記載の熱可逆架橋性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がポリビニルアルコールである、請求項1又は2に記載の熱可逆架橋性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の熱可逆架橋性樹脂組成物からなる、医療器具に用いる軟質管状構造体。

【公開番号】特開2010−18678(P2010−18678A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179236(P2008−179236)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】