説明

熱媒体加熱装置及び車両用空調装置

【課題】熱媒体の圧力損失を低減させ、性能を向上させることが可能な熱媒体加熱装置及び車両用空調装置を提供することを目的とする。
【解決手段】熱媒体加熱装置10は、入口ヘッダ部から導入された熱媒体が流通して出口ヘッダ部22から導出される複数の扁平熱交チューブ17と、積層された二つの扁平熱交チューブ17に挟み込まれるPTCヒータ18と、扁平熱交チューブ17及びPTCヒータ18を収容するケーシング11と、ケーシング11のロアケース11aと一体的に形成され、ロアケース11aとの接続部から一方向に屈曲した屈曲部分11hを有し、出口ヘッダ部22から熱媒体を外部へ導出する熱媒体出口路11dと、ロアケース11aと熱媒体出口路11dとの接続部に取り付けられ、屈曲部分11hの屈曲内側に曲面を付与するシール材26cexとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTCヒータを用いて熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置及び車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱媒体加熱装置は、例えば電気自動車やハイブリッド車に搭載される車両用空調装置に用いられ、PTC(Positive Temperature Coefficient)半導体を用いて、水等の熱媒体を加熱する。PTC半導体は、温度が上昇すると抵抗値が上がる特性を有し、ある一定以上の温度になると抵抗値が急変し電流を制限できるため、負荷変動や電圧変動が生じても発熱体の温度をほぼ一定にすることができる。
特許文献1及び2には、車両用空調装置に適用可能なPTC素子を加熱素子とした熱媒体加熱装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−7106号公報
【特許文献2】特開2008−56044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱媒体加熱装置のケーシング内には、熱媒体が流れる流通路と、熱媒体を加熱するPTC半導体とが積層され、ケーシング外面には、流通路へ熱媒体を導入する熱媒体入口路と、熱媒体を流通路から外部へ排出する熱媒体出口路とが形成される。
【0005】
熱媒体加熱装置の流通路や熱媒体入口路及び出口路を流れる熱媒体は、圧力損失が小さいほど、熱媒体が効率良く循環することができるため、熱媒体の循環路の圧力損失を可能な限り低減することが望ましい。一方、熱媒体加熱装置のケーシングが合成樹脂製である場合、金型の抜き方向といった成形時の制約によって循環路内部に圧力損失を高める部位が生じることがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、熱媒体の圧力損失を低減させ、性能を向上させることが可能な熱媒体加熱装置及び車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の熱媒体加熱装置及び車両用空調装置は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明に係る熱媒体加熱装置は、入口ヘッダ部から導入された熱媒体が流通して出口ヘッダ部から導出される複数の扁平状の熱交チューブと、積層された二つの熱交チューブに挟み込まれるPTCヒータと、熱交チューブ及びPTCヒータを収容するケーシングと、ケーシングと一体的に形成され、ケーシングとの接続部から一方向に屈曲した屈曲部分を有し、出口ヘッダ部から熱媒体を外部へ導出する熱媒体出口路と、ケーシングと熱媒体出口路との接続部に取り付けられ、屈曲部分の屈曲内側に曲面を付与する曲面部材とを備える。
【0008】
この発明によれば、熱交チューブを流通する熱媒体は、PTCヒータによって加熱され、出口ヘッダ部から導出され、その後、熱媒体出口路を介してケーシングの外部へ導出される。熱媒体出口路は、ケーシングと一体的に形成され、ケーシングとの接続部から一方向に屈曲した屈曲部分を有する。そして、ケーシングと熱媒体出口路との接続部において、曲面部材が取り付けられ、屈曲部分の屈曲内側に曲面が付与されることから、熱媒体の流れの管壁からの剥離や乱れを減少させて、熱媒体の圧力損失を低減できる。
【0009】
上記発明において、曲面部材は、ケーシングと熱媒体出口路との接続部に形成された開口部を囲むように設置され、熱交チューブとケーシングに挟持される環状のシーリング部と、シーリング部と一体的に形成され、ケーシング断面によって形成される屈曲部分の屈曲内側よりも曲率半径が大きい曲面断面を含む湾曲部とを有してもよい。
【0010】
この発明によれば、シーリング部は、熱交チューブとケーシングとの間からの熱媒体の漏洩を防止でき、湾曲部は、熱媒体の流れの管壁からの剥離や乱れを減少させて、熱媒体の圧力損失を低減できる。シーリング部と湾曲部は、一体的に形成されていることから、部品点数を増やすことなく、かつ取り付けの手間を増加させることなく、シーリング性能を確保しながら、圧力損失の低減を図ることができる。
【0011】
上記発明において、熱媒体出口路は、軸方向がケーシングの底面に対して平行であり、ケーシングの底面と熱媒体出口路は、共通する部材で構成されてもよい。
【0012】
この発明によれば、熱媒体出口路がケーシングの底面に対して平行方向に延設され、ケーシングの底面と熱媒体出口路が共通していることから、ケーシングの高さが抑えられる。また、屈曲部分の屈曲内側は、ケーシングの底面と熱媒体出口路が共通する部材に位置する。したがって、ケーシング内の出口ヘッダ部から導出される熱媒体は、熱媒体出口路で流れ方向が急速に曲がることになる。この構成で、曲面部材が設けられていることによって、熱媒体の圧力損失を低減できる。
【0013】
また、本発明に係る車両用空調装置は、空気流路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置で加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、熱媒体加熱装置は、入口ヘッダ部から導入された熱媒体が流通して出口ヘッダ部から導出される複数の扁平状の熱交チューブと、積層された二つの熱交チューブに挟み込まれるPTCヒータと、熱交チューブ及びPTCヒータを収容するケーシングと、ケーシングと一体的に形成され、ケーシングとの接続部から一方向に屈曲した屈曲部分を有し、出口ヘッダ部から熱媒体を外部へ導出する熱媒体出口路と、ケーシングと熱媒体出口路との接続部に取り付けられ、屈曲部分の屈曲内側に曲面を付与する曲面部材とを備える。
【0014】
この発明によれば、空気流路中に配設されている放熱器へと循環される熱媒体を、小型・高性能化された熱媒体加熱装置により加熱し、循環させることができるため、車両用空調装置における空調性能、特に暖房性能の向上を図ることができるとともに、車両に対する空調装置の搭載性を向上することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、熱媒体の圧力損失を低減させ、性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱媒体加熱装置を備えた車両用空調装置を示す概略構成図である。
【図2】同実施形態に係る熱媒体加熱装置を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示す熱媒体加熱装置の熱媒体入口路に沿って切断した縦断面図である。
【図4】図2に示す熱媒体加熱装置の熱媒体出口路に沿って切断した縦断面図である。
【図5】図4に示す熱媒体加熱装置のロアケースのみの斜視図である。
【図6】図4に示す熱媒体加熱装置の屈曲部を示す部分拡大縦断面図である。
【図7】図5に示す熱媒体加熱装置の屈曲部を示す部分拡大斜視図である。
【図8】同実施形態に係る熱媒体加熱装置のOリングを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態に係る熱媒体加熱装置10について、図面を参照して説明する。
車両用空調装置1は、例えば電気自動車やハイブリッド車に搭載され、外気又は車室内空気を取り込んで温調した後、温調した空気を車室内へと導く。車両用空調装置1は、図1に示すように空気流通路2を形成するケーシング3を備える。
ケーシング3の内部には、空気流通路2の上流側から下流側にかけて順次、外気又は車室内空気を吸い込んで昇圧し、それを下流側へと圧送するブロア4と、該ブロア4により圧送される空気を冷却する冷却器5と、冷却器5を通過して冷却された空気を加熱する放熱器6と、放熱器6を通過する空気量と放熱器6をバイパスする空気量との流量割合を調整し、その下流側でエアミックスすることにより、温調風の温度を調節するエアミックスダンパ7とが設置されている。
【0018】
ケーシング3の下流側は、図示省略された吹き出しモード切替えダンパ及びダクトを介して温調された空気を車室内に吹き出す複数の吹き出し口に接続されている。
冷却器5は、図示省略された圧縮機、凝縮器、膨張弁等と共に冷媒回路を構成し、膨張弁で断熱膨張された冷媒を蒸発させることにより、そこを通過する空気を冷却するものである。また、放熱器6は、タンク8、ポンプ9及び熱媒体加熱装置10とともに熱媒体循環回路10Aを構成し、熱媒体加熱装置10で高温に加熱された熱媒体(例えば、不凍液、温水等)がポンプ9を介して循環されることにより、そこを通過する空気を加温するものである。
【0019】
熱媒体加熱装置10は、図2〜図4に示すように、制御基板13と、複数枚の電極板14と、制御基板13上に配設されたIGBT等の複数個の半導体スイッチング素子12と、熱交押え部材16と、複数枚(例えば、3枚)の扁平熱交チューブ17と、複数組のPTC素子18aと、これらの制御基板13、電極板14、半導体スイッチング素子12、扁平熱交チューブ17、熱交押え部材16及びPTC素子18a等を収容するケーシング11とを備えている。
なお、上記電極板14、PTC素子18a及び絶縁部材(図示せず)等によってPTCヒータ18が構成されている。
【0020】
ケーシング11は、上半部と下半部とに2分割されており、上半部を構成するアッパケース(図示省略)と、下半部を構成するロアケース11aとを備えている。このアッパケース及びロアケース11aの内部には、ロアケース11aの上方からロアケース11aの開口部11bにアッパケースを載置することによって、上記制御基板13、半導体スイッチング素子12、電極板14、熱交押え部材16、複数枚の扁平熱交チューブ17及び複数組のPTCヒータ18等を収容する空間が形成されている。
【0021】
ロアケース11aの底面には、積層された3枚の扁平熱交チューブ17に導入される熱媒体を導くための熱媒体入口路11c及び扁平熱交チューブ17内を流通した熱媒体を導出するための熱媒体出口路11dが一体に形成されている。この熱媒体入口路11c及び熱媒体出口路11dは、ロアケース11aの底面から同一の水平方向に互いに平行に延長され、ロアケース11aの一端から側方に突出されている。なお、アッパケース及びロアケース11aは、その内部空間に収容される扁平熱交チューブ17を構成しているアルミ合金材と線膨張が近い樹脂材料(例えば、PPS)により成形されている。このように、ケーシング11を樹脂材料で構成することにより、軽量化を図ることができる。
【0022】
なお、ロアケース11aの下面には、電源ハーネス及びLVハーネスの先端部を貫通するための電源ハーネス用孔及びLVハーネス用孔(いずれも図示省略)が開口されている。電源ハーネスは、制御基板13及び半導体スイッチング素子12を介してPTCヒータ18に電力を供給する。また、LVハーネスは、制御基板13に制御用の信号を送信する。
【0023】
半導体スイッチング素子12及び制御基板13は、上位制御装置(ECU)からの指令に基づいて複数組のPTCヒータ18に対する通電制御を行う制御系を構成するものであり、IGBT等の複数個の半導体スイッチング素子12を介して複数組のPTCヒータ18に対する通電状態が切替え可能である。そして、この複数組のPTCヒータ18をその両面側から挟み込むように複数枚の扁平熱交チューブ17が積層される。
【0024】
扁平熱交チューブ17は、アルミ合金材製のチューブであり、図2〜図4に示されるように、3枚の扁平熱交チューブ17が互いに平行になるように、下段、中段及び上段の扁平熱交チューブ17c、17b、17aの順に積層される。これらの扁平熱交チューブ17は、図2〜図4に示されるように、扁平チューブ部20の一端部に入口ヘッダ部21及び出口ヘッダ部22が並設され、他端部に熱媒体流れをUターンさせるUターン部23が形成されているとともに、扁平チューブ部20に入口ヘッダ部21からUターン部23を経て出口ヘッダ部22に至るUターン流路24が形成される。
【0025】
扁平熱交チューブ17は、扁平チューブ部20と入口ヘッダ部21及び出口ヘッダ部22が一体成形されたアルミ合金材製の薄い一対の成形プレート部材25a,25bを重ね合わせ、ロウ付け接合したものである。入口ヘッダ部21及び出口ヘッダ部22の厚さ方向寸法は、Uターン流路24を形成している扁平チューブ部20の厚さ方向寸法よりも厚くされており、3枚の扁平熱交チューブ17a、17b、17cを積層したとき、扁平チューブ部20間に所定寸法の隙間が形成される。この隙間に、上下両面を電極板14及び図示省略の絶縁体等によってサンドイッチされたPTCヒータ18が挟み込まれることにより、3枚の扁平熱交チューブ17と2組のPTCヒータ18が多層に積層される。
【0026】
また、各扁平熱交チューブ17は、積層されたとき、図3及び図4に示されるように、入口ヘッダ部21同士、又は出口ヘッダ部22同士が互いに密着され、入口ヘッダ部21及び出口ヘッダ部22に設けられている連通穴21a,22a同士が互いに連通されるようになっている。この際、各連通穴21a,22aは、その周りに配設されるOリング、ガスケット、液状ガスケット等のシール材26(本例では、Oリングが用いられている。)によってシールされる。
【0027】
シール材(Oリング)26は、弾性を有する合成樹脂部材であり、扁平熱交チューブ17aと扁平熱交チューブ17bの出入口ヘッダ部21,22間、扁平熱交チューブ17bと扁平熱交チューブ17cの出入口ヘッダ部21,22間、及び扁平熱交チューブ17cの出入口ヘッダ部21,22とロアケース11aの内底面間において、扁平熱交チューブ17b,17cを構成する成形プレート部材25b側の連通穴21a,22a周り、及びロアケース11aの内底面に形成されているシール材26の配設部位に設置される。
【0028】
シール材(Oリング)26cのうち、出口ヘッダ部22側のシール材(Oリング)26cexは、図5及び図6に示されるように、湾曲部26dが一体に設けられており、ロアケース11aに設けられた熱媒体出口路11dの開口部11eに形成されるエッジ部11fを滑らかな湾曲面とする。
【0029】
シール材26cexは、図8に示すように、シーリング部26eと、湾曲部26dからなる。シール部材26cexがロアケース11aの開口部11eに設置されることによって、熱媒体出口路11dの屈曲部分11hにおける屈曲内側、図4〜図7に示すエッジ部11fに曲面(R面)を付与する。
【0030】
ロアケース11aの底面には、熱媒体を出口ヘッダ部22から外部へ導出するための開口部11eが形成され、ロアケース11aの開口部11eには熱媒体出口路11dが接続される。その結果、熱媒体は、出口ヘッダ部22から開口部11e及び熱媒体出口路11dを介して外部へ導出される。
開口部11eは、出口ヘッダ部22の連通孔22aの内周形状に合わせて、円形状である。
【0031】
熱媒体出口路11dは、管部分11gと屈曲部分11hとに分けられ、管部分11gの管軸方向は、ロアケース11aの底面に対して平行である。管部分11gの管壁とロアケース11aの底面板とは、エッジ部11fからロアケース11aの側壁にかけて、共通化されている。これにより、ケーシング11の高さが抑えられる。また、屈曲部分11hの屈曲内側は、ロアケース11aの底面と管部分11gの管壁が共通する部材に位置する。したがって、ケーシング11内の出口ヘッダ部22から導出される熱媒体は、熱媒体出口路11dで流れ方向が急速に曲がることになる。屈曲部分11hは、ロアケース11aの開口部11eと、熱媒体出口路11dを結ぶ管路であり、本実施形態の場合、屈曲部分11hの管路は約90°曲がっている。
【0032】
上記ロアケース11aと熱媒体出口路11dが一体化した合成樹脂性の成形品を形成する際、金型の抜き方向を考慮すると、成形品には屈曲部分11hの屈曲内側のエッジ部11fに曲面(R面)を形成することができない。その結果、図4及び図6の断面図に示すとおり、屈曲部分11hの屈曲内側のエッジ部11fは、約90°の角(ピン角)とならざるを得ない。したがって、この形状のまま、熱媒体を流通させると、エッジ部11fの影響によって、エッジ部11fから出口方向に向けて管部11gの内壁面近傍で、熱媒体の流れは剥離や乱れが生じる。
【0033】
シール材26cexのシーリング部26eは、全体がリング形状を有し、縦断面が例えば円形状である。シーリング部26eは、ロアケース11aの開口部11eの周囲に設置され、ロアケース11aの底面と扁平熱交チューブ17cの間に挟まれて固定される。シール材26cexは、ロアケース11aの開口部11eに設置される際、湾曲部26dが管部分11g側に取り付けられる。
【0034】
湾曲部26dは、シーリング部26eの一部に周方向に沿って、シーリング部26eと一体成形された板部材であり、シーリング部26eの内周側から外周側に向けて湾曲した曲面を有している。湾曲部26dは、縦断面で得られる円弧部分の曲率半径が屈曲部分11hの屈曲内側であるエッジ部11fの角部の曲率半径よりも大きくなるように形成される。また、湾曲部26dは、中央部Aがシーリング部26e側に位置し両側端部Bがシーリング部26eから離れて位置するように形成される。そして、湾曲部26dの一側端部B、中央部A及び他側端部Bを結ぶ線を含む断面は、管部分11g断面の円形状に沿った曲線形状を有する。
【0035】
以上のとおり、湾曲部26dが内周側から外周側に向けて湾曲した曲面を有していることにより、熱媒体が熱媒体出口路11dを通過するときのエッジ部11fの角部における圧力損失を低減することができる。
すなわち、熱媒体出口路11dの屈曲部分11hにて、屈曲内側のエッジ部11fが曲面を有さず角部になっていたり、エッジ部11fの曲率半径が小さくなっていたりすると、エッジ部11fから出口方向に向けて管部11gの内壁面近傍で、熱媒体の流れは剥離や乱れが生じ、熱媒体の圧力損失が生じる。一方、本実施形態のように湾曲部26dが形成されることによって、屈曲内側の曲率半径が大きくなることから、管部11gの内壁面近傍で生じる剥離を低減することができ、熱媒体の圧力損失も減らすことができる。
【0036】
また、湾曲部26dの一側端部B、中央部A及び他側端部Bを結ぶ線を含む断面が、管部分11g断面の円形状に沿った曲線形状を有することによって、管部分11gの開口面積を広く確保することができる。したがって、シール材26cexが設置されることによる圧力損失の影響を減らすことができる。
【0037】
なお、発明者らは、本実施形態の湾曲部26dを有するシール材26cexを熱媒体加熱装置10に取り付けた場合と、湾曲部26dのないシール材26を熱媒体加熱装置10に取り付けた場合とで、熱媒体の流れを数値解析・シミュレーションした。その結果、湾曲部26dを有するシール材26cexを設置した場合、一見管路が狭くなるため、圧力損失が生じるように見受けられるが、湾曲部26dのないシール材26を設置した場合に比べて、熱媒体の流れの剥離や乱れを低減でき、圧力損失も減少することを確認できた。
【0038】
また、本実施形態のシール材26cexは、シーリング部26eと湾曲部26dが一体成形されていることから、部品点数を増やさず、圧力損失を低減できる。さらに、部品を取り付ける手間を増やすことなく、組み付け作業性が良く、漏洩防止の機能を維持したまま、圧力損失を低減できる。
【0039】
さらに、上記3枚の扁平熱交チューブ17の扁平チューブ部20間には、そのチューブ間の隙間に対して、複数組のPTCヒータ18が、電極板14及び図示省略の絶縁シート等を介して以下に記載の如く組み込まれる。
電極板14は、図3及び図4に示されるように、PTC素子18aに電力を供給するためのものであり、平面視において、矩形状を呈するアルミ合金製の板材である。この電極板14は、PTC素子18aを挟んでその両面に、PTC素子18aの上面に接するように一枚、PTC素子18aの下面に接するように一枚それぞれ積層されている。これら2枚の電極板14によって、PTC素子18aの上面と、下面とが上下から挟み込まれる。
【0040】
そして、PTC素子18aの上面側に配置される電極板14は、その上面が絶縁部材を介して扁平熱交チューブ17の下面に接するように配置され、PTC素子18aの下面側に配置される電極板14は、その下面が絶縁部材を介して扁平熱交チューブ17の上面に接するように配置される。本実施形態において、電極板14は、下段の扁平熱交チューブ17cと中段の扁平熱交チューブ17bとの間、及び中段の扁平熱交チューブ17bと上段の扁平熱交チューブ17aとの間に各々2枚、合計4枚が配置され、これらの電極板14で挟まれた状態でPTCヒータ18が、3枚の扁平熱交チューブ17の扁平チューブ部20間にそれぞれ積層配設される。
【0041】
基板サブアッセンブリ15は、制御基板13と熱交押え部材16とを絶縁シート等を挟み込み、一体化したものである。なお、制御基板13上に設けられているIGBT等の半導体スイッチング素子12は、発熱部品であり、その発熱は、半導体スイッチング素子12の設置部に対応して制御基板13に設けられている熱貫通部を経て熱交押え部材16側に放熱され、扁平熱交チューブ17内を流通する熱媒体により冷却される。
【0042】
基板サブアッセンブリ15を構成している熱交押え部材16は、平面視において扁平状のアルミ合金製板材である。熱交押え部材16の上面には、上記したように制御基板13が配置されている。熱交押え部材16は、各扁平熱交チューブ17の扁平チューブ部20及び出入口ヘッダ部21,22の上面を覆うことができる大きさである。
【0043】
基板サブアッセンブリ15は、積層された上段の扁平熱交チューブ17aの上面に載せられ、熱交押え部材16の下面が、上段の扁平熱交チューブ17aの扁平チューブ部20及び出入口ヘッダ部21,22の上面に接するようにして配設されている。この基板サブアッセンブリ15は、熱交押え部材16をロアケース11a側にネジ止め固定することにより、熱交押え部材16の下面とロアケース11aの内底面との間で、積層された扁平熱交チューブ17a、17b、17cの扁平チューブ部20と、その間に挟まれている各2枚のPTCヒータ18とを押圧して互いに密着させるとともに、各扁平熱交チューブ17の出入口ヘッダ部21,22に設けられている連通穴21a,22aの周りに配設されているシール材(本例では、Oリング)26を密着させて締め付け固定できる。
【0044】
これによって、熱媒体入口路11cから流入された熱媒体は、各扁平熱交チューブ17の入口ヘッダ部21から扁平チューブ部20内へと導入され、扁平チューブ部20のUターン流路24内を流通する間に、PTCヒータ18により加熱、昇温されて出口ヘッダ部22に至り、出口ヘッダ部22から熱媒体出口路11dを経て外部に流出される流路内を流通される。熱媒体加熱装置10から流出された熱媒体は、熱媒体循環回路10A(図1参照)を介して放熱器6に供給される。
【0045】
また、基板サブアッセンブリ15を構成している熱交押え部材16は、熱伝導性が良好なアルミ合金材製とされ、その下面が最上段の扁平熱交チューブ17aの上面と接触される。これにより、熱交押え部材16は、上記の如く、扁平熱交チューブ17内を流れる熱媒体を冷熱源とし、制御基板13上に設置されているIGBT等の半導体スイッチング素子12を冷却するためのヒートシンクとしても機能される。
【0046】
以上、本実施形態の熱媒体加熱装置10及び車両用空調装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
【0047】
各扁平熱交チューブ17が、一端側に入口ヘッダ部21及び出口ヘッダ部22が並設され、入口ヘッダ部21から流入した熱媒体が他端側のUターン部23で折返し、出口ヘッダ部22から流出されるUターン流路24を備えた扁平熱交チューブ17とされている。このため、扁平熱交チューブの両端に入口ヘッダ部と出口ヘッダ部とを設けた両端タンク構造の扁平熱交チューブを用いたものに比べ、扁平熱交チューブ17のチューブ長さを短くすることができ、熱媒体加熱装置10の小型化、低コスト化を図ることができる。
【0048】
また、ロアケース11aの開口部11eに設けられるシール材26cexには、湾曲部26dが形成されることによって、屈曲内側の曲率半径が大きくなることから、管部11gの内壁面近傍で生じる剥離を低減することができ、熱媒体の圧力損失も減らすことができる。そして、本実施形態のシール材26cexは、シーリング部26eと湾曲部26dが一体成形されていることから、部品点数を増やさず、圧力損失を低減できる。さらに、部品を取り付ける手間を増やすことなく、組み付け作業性が良く、漏洩防止の機能を維持したまま、圧力損失を低減できる。
【0049】
またさらに、入口ヘッダ部21及び出口ヘッダ部22を一端側に並設することで、上記の如くチューブ長さを短縮できる反面、Uターン流路24が形成されることにより流路圧力損失が大きくなるが、熱媒体の出口ヘッダ部22からの流出部位での流路圧力損失を低減し、扁平熱交チューブ17内での流路圧力損失を可及的に小さくすることができる。このため、Uターン流路24を備えた扁平熱交チューブ17の特長を最大限活かし、熱媒体加熱装置10を小型化することができるとともに、熱媒体の圧力損失低減により、該熱媒体加熱装置10を高性能化することができる。
【0050】
また、上記熱媒体入口路11c及び熱媒体出口路11dが、ケーシング11から同一方向に延長された構成とされているため、熱媒体加熱装置10に対して同一方向から熱媒体の循環回路10Aを接続することができる。従って、熱媒体の循環回路11Aの引き回しを簡素化、容易化し、熱媒体加熱装置10の車両への搭載性を向上することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1によれば、空気流路2中に配設されている放熱器6へと循環される熱媒体を、圧力損失を低減してPTCヒータ18から熱媒体への伝熱効率を高めることにより、小型・高性能化された熱媒体加熱装置10により加熱し、循環させることができる。このため、車両用空調装置1における空調性能、特に暖房性能の向上を図ることができるとともに、車両に対する空調装置1の搭載性を向上することができる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記した実施形態では、扁平熱交チューブ17を3層に積層し、各々の間にPTCヒータ18を組み込んだ構成としているが、これに限らず、扁平熱交チューブ17及びPTCヒータ18の積層枚数を増減してもよいことはもちろんである。また、ケーシング11を樹脂成形品とした例について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、アルミ合金等の金属製としてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 車両用空調装置
6 放熱器
10 熱媒体加熱装置
10A 熱媒体循環回路
11 ケーシング
11a ロアケース
11b 開口部
11c 熱媒体入口路
11d 熱媒体出口路
11e 開口部
11f エッジ部
11g 管部分
11h 屈曲部分
17,17a,17b,17c 扁平熱交チューブ(熱交チューブ)
18 PTCヒータ
21 入口ヘッダ部
21a 連通穴
22 出口ヘッダ部
22a 連通穴
23 Uターン部
24 Uターン流路
26,26a,26b,26c シール材
26cex シール材(曲面部材)
26d 湾曲部
26e シーリング部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口ヘッダ部から導入された熱媒体が流通して出口ヘッダ部から導出される複数の扁平状の熱交チューブと、
積層された二つの前記熱交チューブに挟み込まれるPTCヒータと、
前記熱交チューブ及び前記PTCヒータを収容するケーシングと、
前記ケーシングと一体的に形成され、前記ケーシングとの接続部から一方向に屈曲した屈曲部分を有し、前記出口ヘッダ部から前記熱媒体を外部へ導出する熱媒体出口路と、
前記ケーシングと前記熱媒体出口路との接続部に取り付けられ、前記屈曲部分の屈曲内側に曲面を付与する曲面部材と、
を備える熱媒体加熱装置。
【請求項2】
前記曲面部材は、
前記ケーシングと前記熱媒体出口路との接続部に形成された開口部を囲むように設置され、前記熱交チューブと前記ケーシングに挟持される環状のシーリング部と、
前記シーリング部と一体的に形成され、前記ケーシング断面によって形成される前記屈曲部分の屈曲内側よりも曲率半径が大きい曲面断面を含む湾曲部と、
を有する請求項1に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項3】
前記熱媒体出口路は、軸方向が前記ケーシングの底面に対して平行であり、
前記ケーシングの底面と前記熱媒体出口路は、共通する部材で構成される請求項1又は2に記載の熱媒体加熱装置。
【請求項4】
空気流路中に配設されている放熱器に対して、熱媒体加熱装置で加熱された熱媒体が循環可能に構成されている車両用空調装置において、
前記熱媒体加熱装置は、
入口ヘッダ部から導入された熱媒体が流通して出口ヘッダ部から導出される複数の扁平状の熱交チューブと、
積層された二つの前記熱交チューブに挟み込まれるPTCヒータと、
前記熱交チューブ及び前記PTCヒータを収容するケーシングと、
前記ケーシングと一体的に形成され、前記ケーシングとの接続部から一方向に屈曲した屈曲部分を有し、前記出口ヘッダ部から前記熱媒体を外部へ導出する熱媒体出口路と、
前記ケーシングと前記熱媒体出口路との接続部に取り付けられ、前記屈曲部分の屈曲内側に曲面を付与する曲面部材と、
を備える車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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