説明

熱媒体組成物

本発明は、水、グリコール類、アルコール類、あるいはグリコールエーテル類を主成分とし、長期間の使用によっても、pH6〜10の使用実用域で高い緩衝力を有する熱媒体組成物に関し、環を構成する1つの炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した脂環式化合物、または、前記脂環式化合物の環を構成する炭素原子のうち、1つまたは2つ以上が窒素または酸素に置き換わった複素環式化合物であって、前記環を構成する1つの原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した複素環式化合物、からなるpH緩衝剤を含有することを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は主としてエンジン等の内燃機関の冷却系統、またはソーラーシステムや床暖房システム、空調設備等に使用される熱媒体組成物に関し、詳細には長期間の使用によっても、使用実用域で十分な緩衝力を有する熱媒体組成物に関する。
【背景技術】
エンジン等の内燃機関の冷却系統、またはソーラーシステムや床暖房システム、空調設備等に使用される熱媒体組成物には、グリコール類やアルコール類を主成分とし、これに各種防錆剤を添加したものが用いられている。
従来、エンジン等の内燃機関の冷却系統に使用されている熱媒体組成物としては、例えばグリコール類を主成分とし、これにアルキル安息香酸、またはそのアルカリ金属、アンモニウムもしくはアミン塩と、C8〜C12の脂肪族一塩基酸、または、そのアルカリ金属、アンモニウムもしくはアミン塩と、炭化水素トリアゾールとを含有するものがある(特公平4−42477号公報参照)。
ところが、このような熱媒体組成物において、主成分として使用されるグリコール類やアルコール類は、使用時の高温、高圧の条件下で酸素と接触することになるため、僅かではあるが酸化され、グリコール酸などの酸に変化する。
このため、長期使用により、主成分であるグリコール類やアルコール類の酸化はさらに進行し、これに伴って熱媒体のpH値は、使用当初の実用域pH6〜10から次第に低下していくことになる。
この結果、防錆剤が存在するにも拘らず、冷却系統、またはソーラーシステムや床暖房システム、空調設備等を構成するアルミニウム、アルミニウム合金、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ及び銅などの金属が溶出し、金属腐食を生じることになる。
腐食は、例えばエンジン等の内燃機関の冷却系統の場合、ラジエータチューブの貫通の原因となり、また、シリンダヘッド結合部または冷却ホース接続部でのすきま腐食を引き起こす。これらの腐食は最終的には冷却剤の損失、引き続くエンジンのオーバーヒート及び部品の損傷の原因ともなり得る。
また、冷却系統、またはソーラーシステムや床暖房システム、空調設備等を構成するアルミニウム、アルミニウム合金、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ及び銅などの金属は、長期使用により僅かではあるが、金属イオンとして熱媒体中に溶出する。溶出した金属イオンは熱媒体中に含まれる防錆剤と結合し、沈殿を生じる。これに伴って、熱媒体中の防錆剤量も減少するため、熱媒体のpH値は、使用実用域外へと変化し、この場合も、金属腐食の発生要因となっていた。
【発明の開示】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、長期間の使用によっても、pH6〜10の使用実用域で高い緩衝力を有する熱媒体組成物を提供することを目的とするものである。
本発明の熱媒体組成物(以下、単に組成物という)は、水、グリコール類、アルコール類、あるいはグリコールエーテル類を主成分とするものである。
本発明の組成物に使用するグリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコールの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
グリコールエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
上記主成分中に、環を構成する1つの炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した脂環式化合物、または、前記脂環式化合物の環を構成する炭素原子のうち、1つまたは2つ以上が窒素または酸素に置き換わった複素環式化合物であって、前記環を構成する1つの原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した複素環式化合物、からなるpH緩衝剤を含有しているのである。
これらのpH緩衝剤は、組成物中に含まれる水酸化カリウムなどのpH調整剤によって調整されたpH6〜10の使用実用域にある熱媒体のpH値が、長期間の使用による主成分のグリコール類等の酸化、あるいは冷却系統、またはソーラーシステムや床暖房システム、空調設備等を構成する金属からの金属イオンの溶出に伴って、使用実用域外へと変化していくのを効果的に抑制する機能を持つ。
pH緩衝剤として挙げた脂環式化合物は、周知の如く炭素原子が環状に結合した構造を持つ化合物で、芳香族性を持たないものの総称であるが、そのうち、本発明のpH緩衝剤には、シクロアルカン、シクロアルケン、シクロアルキンなどの環を構成する1つの炭素に、カルボキシル基、またはそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩、アミン塩などの塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合した脂環式化合物、環を構成する隣り合う2つ以上の炭素に、カルボキシル基、またはそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩、アミン塩などの塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した脂環式化合物が適用される。
上記脂環式化合物の中でも、炭素数が3〜6で構成される環を有する脂環式化合物は高い緩衝力を有しているという点で好ましい。例えば炭素数が3で構成される環を有する脂環式化合物としては、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,2−シクロプロパンジカルボン酸、1−シクロプロペン−1,2−ジカルボン酸、2−シクロプロペン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロプロパンジカルボン酸、1−イソブチルシクロプロパン−1,2−ジカルボン酸、3−メチレン−1,2−シクロプロパンジカルボン酸、2−エチニル−1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1−アミノシクロプロパン−1,2−ジカルボン酸、1,2,3−シクロプロパントリカルボン酸から選ばれる1種もしくは2種以上を挙げることができる。
上述の炭素数が3で構成される環を有する脂環式化合物の中でも、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,2,3−シクロプロパントリカルボン酸は、入手容易性、価格の面から好ましい。
炭素数が4で構成される環を有する脂環式化合物としては、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸、3−メチレンシクロブタン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−2−シクロブテン−1,2−ジカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸から選ばれる1種もしくは2種以上を挙げることができる。
上述の炭素数が4で構成される環を有する脂環式化合物の中でも、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸は、入手容易性、価格の面から好ましい。
炭素数が5で構成される環を有する脂環式化合物としては、1,1−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸、3−シクロペンテン−1,1−ジカルボン酸、3,4−メチレン−1,1−シクロプロパンジカルボン酸、3−メチル−1,1−シクロペンタンジカルボン酸、4−ヒドロキシーシクロペンタ−2−エン−1,2−ジカルボン酸、3−カルボキシメチル−4−メチレンシクロプロパン−1,1−ジカルボン酸、1−アミノシクロペンタン−1,3,4−トリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸から選ばれる1種もしくは2種以上を挙げることができる。
上述の炭素数が5で構成される環を有する脂環式化合物の中でも、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸は、入手容易性、価格の面から好ましい。
炭素数が6で構成される環を有する脂環式化合物としては、1,1−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−イソプロピル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1,2,3−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、5−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、バイシクロ−2,2,1−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンド−バイシクロ[2,2,2]オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸から選ばれる1種もしくは2種以上を挙げることができる。
上述の炭素数が6で構成される環を有する脂環式化合物の中でも、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸は、入手容易性、価格の面から好ましい。
複素環式化合物としては、例えば2−オキソテトラヒドロフラン−4,5−ジカルボン酸、7−オキサビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジシクロカルボン酸、2,3−ピロリジンジカルボン酸、3,4−ピロリジンジカルボン酸、5,6−ジメトキシ−5,6−ジメチル−[1,4]ジオキサン−2,3−ジカルボン酸から選ばれる1種もしくは2種以上を挙げることができる。
上述の複素環式化合物の中でも、2−オキソテトラヒドロフラン−4,5−ジカルボン酸入手容易性、価格の面から好ましい。
上記pH緩衝剤が、熱媒体中において、十分な緩衝力を発揮するためには、水で希釈する前の当該組成物中に0.01〜10質量%の範囲で含まれていることが望ましい。pH緩衝剤の含有量が0.01質量%を下回る場合、熱媒体中において、十分な緩衝力が発揮されず、pH緩衝剤の含有量が10質量%を上回る場合には、不経済となる。
本発明の組成物は、主成分中に上記pH緩衝剤のほかに、少なくとも1つの防錆剤を含むことができる。当該組成物に好ましく使用される防錆剤の具体例としては、リン酸およびまたはその塩、脂肪族カルボン酸およびまたはその塩、芳香族カルボン酸およびまたはその塩、トリアゾール類、チアゾール類、ケイ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ホウ酸塩、モリブテン酸塩、およびアミン類などを挙げることができる。
リン酸およびまたはその塩としては、オルトリン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、およびそれらのアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
脂肪族カルボン酸およびまたはその塩としては、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、2−エチルヘキサン酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカン二酸、およびそれらのアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
芳香族カルボン酸およびまたはその塩としては、安息香酸、トルイル酸、パラターシャリブチル安息香酸、フタル酸、パラメトキシ安息香酸、ケイ皮酸、およびそれらのアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
トリアゾール類としては、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、シクロベンゾトリアゾール、4−フェニル−1,2,3−トリアゾールが挙げられる。
チアゾール類としては、メルカプトベンゾチアゾール、およびそのアルカリ金属塩、好ましくはナトリウム塩及びカリウム塩が挙げられる。
ケイ酸塩としては、メタケイ酸のナトリウム塩及びカリウム塩、および水ガラスと呼ばれるNaO/XSiO(Xは0.5から3.3)で表されるケイ酸ナトリウム塩の水溶液が挙げられ、硝酸塩としては、硝酸ナトリウムや硝酸カリウムが挙げられ、亜硝酸塩としては、亜硝酸ナトリウムや亜硝酸カリウムが挙げられる。ホウ酸塩としては、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウムが挙げられる。
モリブテン酸塩としては、モリブテン酸ナトリウム、モリブテン酸カリウム、モリブテン酸アンモニウムが挙げられ、アミン類としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンが挙げられる。
本発明の組成物が適用される内燃機関等の冷却系統、またはソーラーシステムや床暖房システム、空調設備等には、上述の如くアルミニウム、アルミニウム合金、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ及び銅などの金属が使用されている。このため、これらの金属の腐食を効果的に抑制するため、上に例示した防錆剤を複数種組み合わせて使用するのが望ましい。
尚、本発明の組成物には、上記主成分、pH緩衝剤、および防錆剤のほかに、例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのpH調整剤、消泡剤、あるいは着色剤などを適宜添加することができる。
【発明の効果】
本発明の組成物は、環を構成する1つの炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合したその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した脂環式化合物、または、前記脂環式化合物の環を構成する炭素原子のうち、1つまたは2つ以上が窒素または酸素に置き換わった複素環式化合物であって、前記環を構成する1つの原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した複素環式化合物、からなるpH緩衝剤を含有するので、長期間の使用によっても、pH6〜10の使用実用域で高い緩衝力を有する。
【実施例】
以下、本発明の組成物について、その好ましい実施例を挙げるとともに、各実施例と比較例とを対比しつつ、その性能(緩衝力)を評価した。尚、緩衝力の評価には、下記表1に示す各実施例1〜6並びに比較例1〜4について、これらをそれぞれ純水で30体積%の濃度に希釈したものを100ml用意し、試料として用いた。
表1に示す実施例1〜6は、本発明の組成物であり、水およびエチレングリコールを主成分とし、これにpH緩衝剤を加えると共に、それぞれ水酸化カリウムによって初期pH値が10となるようにpH調整した。
また、表1に記載の比較例1〜4の組成物は、実施例1〜6と同じく水およびエチレングリコールを主成分とし、これに芳香族環を構成する1つの原子に1個のカルボキシル基が結合した安息香酸を加えたもの(比較例1)、芳香族環を構成する隣り合う2つの原子に、それぞれカルボキシル基が結合したフタル酸を加えたもの(比較例2)、脂環式化合物の環を構成する1つの原子にカルボキシル基が1個結合したシクロヘキサンカルボン酸を加えたもの(比較例3)、脂環式化合物の環を構成する隣り合わない2つの原子にそれぞれ1個のカルボキシル基が結合した1,3−シクロヘキサンジカルボン酸を加えたもの(比較例4)である。これら比較例1〜5の各組成物についても、実施例1〜4と同様にそれぞれ水酸化カリウムによって初期pH値が10となるように調整されている。
実施例1〜6並びに比較例1〜4の各試料については、それらのpH値が、初期pH値10からpH6に至るまでに要する1/10規定の塩酸量(ml)を測定し、塩酸量が多く必要とするとき緩衝力が高く、塩酸量が少ないとき、緩衝力が低いものとの観点で評価した。その結果を表2に示した。


表2に示す結果から、比較例1〜3の各試料の塩酸量が3.4〜5.4mlであるのと比較して、実施例1〜6に係る試料は、何れも10.9〜24.5mlと高く、実施例1〜6に係る試料が緩衝力に優れていることが解る。
また、比較例4は、いずれも実施例1〜6と同じく脂環式炭化水素であるが、この脂環式化合物は、環を構成する1つの炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した構造を持たないことから、その塩酸量は6.5mlと少なく、実施例1〜6のものに比べて緩衝力に乏しいことが確認された。
尚、実施例に係る各試料は、pH6〜10という使用実用域において、pH緩衝剤の析出などがなく、安定性について優れていることが確認された。
尚、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸について異性体による差異を、シス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸と、トランス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸との2つの物質について、前述のとおり、初期pH値10からpH6に至るまでに要する塩酸量(ml)を測定することにより、それらの緩衝力を評価したところ、シス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸は18.2ml、トランス−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸は12.0mlとなり、シス体の方が優れていることが確認された。
次に、下記表3に示す実施例7および8並びに比較例5および6の各組成物について、これらをそれぞれ純水で30体積%の濃度に希釈したもの(何れも初期pH値は8に調整した。)を試料とし、これを120℃で672時間放置した。放冷後、pHを測定し、初期値からの変化を確認した。その結果を表4に示した。


表4に示す結果から、比較例5および6に係る試料は、pH値の変化が−1.4、−2.0であるのに対し、実施例7および8に係る試料は、いずれも−0.8、−0.7と僅かな変化であり、緩衝力に優れていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、グリコール類、アルコール類、あるいはグリコールエーテル類を主成分とする熱媒体組成物において、
環を構成する1つの炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の炭素原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した脂環式化合物、または、前記脂環式化合物の環を構成する炭素原子のうち、1つまたは2つ以上が窒素または酸素に置き換わった複素環式化合物であって、前記環を構成する1つの原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種が2個結合し、または隣り合う少なくとも2つ以上の原子に、カルボキシル基、またはその塩から選ばれる1種若しくは2種以上がそれぞれ1個結合した複素環式化合物、からなるpH緩衝剤を含有することを特徴とする、熱媒体組成物。
【請求項2】
pH緩衝剤が、炭素数が3〜6で構成される環を有する脂環式化合物からなることを特徴とする、請求項1記載の熱媒体組成物。
【請求項3】
炭素数が3で構成される環を有する脂環式化合物が、1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1,2−シクロプロパンジカルボン酸、1−シクロプロペン−1,2−ジカルボン酸、2−シクロプロペン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロプロパンジカルボン酸、1−イソブチルシクロプロパン−1,2−ジカルボン酸、3−メチレン−1,2−シクロプロパンジカルボン酸、2−エチニル−1,1−シクロプロパンジカルボン酸、1−アミノシクロプロパン−1,2−ジカルボン酸、1,2,3−シクロプロパントリカルボン酸、またはその塩から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする、請求項2記載の熱媒体組成物。
【請求項4】
炭素数が4で構成される環を有する脂環式化合物が、1,1−シクロブタンジカルボン酸、1,2−シクロブタンジカルボン酸、3−メチレンシクロブタン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−2−シクロブテン−1,2−ジカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、またはその塩から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする、請求項2記載の熱媒体組成物。
【請求項5】
炭素数が5で構成される環を有する脂環式化合物が、1,1−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸、3−シクロペンテン−1,1−ジカルボン酸、3,4−メチレン−1,1−シクロプロパンジカルボン酸、3−メチル−1,1−シクロペンタンジカルボン酸、4−ヒドロキシ−シクロペンタ−2−エン−1,2−ジカルボン酸、3−カルボキシメチル−4−メチレンシクロプロパン−1,1−ジカルボン酸、1−アミノシクロペンタン−1,3,4−トリカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、またはその塩から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする、請求項2記載の熱媒体組成物。
【請求項6】
炭素数が6で構成される環を有する脂環式化合物が、1,1−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、3−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサジエン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、2−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、4−イソプロピル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、1,2,3−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、5−ヒドロキシ−3,5−ジメチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、バイシクロ−2,2,1−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンド−バイシクロ[2,2,2]オクタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸、またはその塩から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする、請求項2記載の熱媒体組成物。
【請求項7】
複素環式化合物が、2−オキソテトラヒドロフラン−4,5−ジカルボン酸、7−オキサビシクロ[2,2,1]ヘプタン−2,3−ジシクロカルボン酸、2,3−ピロリジンジカルボン酸、3,4−ピロリジンジカルボン酸、5,6−ジメトキシ−5,6−ジメチル−[1,4]ジオキサン−2,3−ジカルボン酸、またはその塩から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする、請求項1記載の熱媒体組成物。
【請求項8】
pH緩衝剤の含有量が0.01〜10質量%であることを特徴とする、請求項1記載の熱媒体組成物。
【請求項9】
少なくとも1種の防錆剤を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の熱媒体組成物。

【国際公開番号】WO2005/063918
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512802(P2005−512802)
【国際出願番号】PCT/JP2003/016821
【国際出願日】平成15年12月25日(2003.12.25)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】