説明

熱応答性ゲル組成物の製造方法

【課題】 熱可逆的で室温でより高い粘性を示し、かつ、物性の制御が可能なゲルの製造方法を提供する。
【解決手段】 下記の化学式(1)で示される組成物を、0℃から60℃の温度にした溶剤に、5重量%から15重量%となるように混合した。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化炭素鎖および炭化水素鎖を有する硫酸エステル塩からなるハイブリッド界面活性剤を主成分とするゲルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水溶性高分子からなるハイドロゲルが熱可逆的な性質を有するものがあることが知られている。これらは、物質の分離剤や医薬、化粧品などの分野において広く利用されている。例えば、ゼラチンや寒天などのたんぱく質等が挙げられる。これらの水溶液は冷却によりゲル化し、加熱によって液状(ゾル)となる熱可逆的ゾル−ゲル転移を示すことが知られている。
【0003】
また、界面活性剤の中にも、熱可逆的なゲルを形成するものがあることが知られている(非特許文献1,2参照)。非特許文献1,2には、フッ素系界面活性剤の溶液が特定の濃度でゲル化し、粘性を示すことが開示されている。これらの界面活性剤は、低温から常温における親水性に優れ、かつ、従来の界面活性剤と同等の高い表面張力低下能を有するものである。さらにまた熱可逆性ハイドロゲル材料としてポリ−N−イソプロピルアクリルアミドとポリエチレンオキシドの結合体が知られている。
【非特許文献1】阿部,好野 日本油化学学会誌 第45巻,第10号(1996)
【非特許文献2】M.Abe et al. Colloids And Surfaces A:Physicochem. Aspects 167(2000)47−60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1,2に記載の発明に係るゲルの粘性は低く、その物性を制御することは困難であった。また、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドとポリエチレンオキシドの結合体から得られたハイドロゲルは、その製造工程で、両高分子中に複数の反応活性な官能基を導入しているため、結合反応の際に架橋が生じて不溶化するおそれがあり、製造が困難であるばかりでなく、得られるハイドロゲルの物性を制御することは非常に困難である。
【0005】
以上の課題に鑑み、本発明では熱可逆的で室温でより高い粘性を示し、かつ、物性の制御が可能なゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は具体的に以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 下記の化学式(1)で示される組成物を、0℃から60℃の温度にした溶剤に、5重量%から15重量%となるように混合して、溶解してゲルを製造する工程を有する熱応答性ゲル組成物の製造方法。
【化1】

[式中、mは1から10であり、nは1から10であり、MはNa、K又はNHの塩基であるフッ化炭素鎖及び炭化水素鎖を有する硫酸エステル塩。]
【0008】
(1)の発明によれば、化学式(1)で示される組成物0℃から60℃でゲルを製造したことによってより高い粘性を有したゲルを得ることが可能となる。上記化学式において、mが4,6,8、nが3,5,7の組成物を用いた際に高い粘性を示し、mが8、nが3の組成物を用いた際により高い粘性を示す。ゲルの粘度は、ストレス式レオメーター(CSL100(Carri−Med Ltd製))を用いて20℃、濃度10質量%で測定した場合に、0.5から300Pa・sであることが好ましく、10から100Pa・sであることがさらに好ましい。
【0009】
(2) 前記溶剤は、水、メタノール、エタノール又はこれらの混合物からなる群から選ばれる1種以上である(1)に記載の熱応答性ゲルの製造方法。
【0010】
(2)の発明によれば、溶剤を、水、メタノール、エタノール又はこれらの混合物からなる群から選ばれる1種以上のものとしたことによって、化学式(1)で示される組成物を容易に溶解させることが可能となる。中でも特に水を溶剤に用いた場合は、粘性が高いゲルを製造することができるため特に好ましい。
【0011】
(3) 前記ゲルのゾル・ゲル転移点は、0℃から55℃である(1)または(2)に記載の熱応答性ゲルの製造方法。
【0012】
(3)の発明によれば、ゾル・ゲル転移点に一定の幅を持たせたことによって、同じ濃度のゲル溶液でも異なる粘性を有したゲルを製造することが可能となる。また、ゾル・ゲル転移点を0℃から55℃としたことにより、室温でも容易にゾルからゲルへと転移させることが可能となる。ゾル・ゲル転移点は、ゲルの濃度によってコントロールすることが可能である。すなわち、ゲルの濃度を高くした場合にはゾル・ゲル転移点は高温側にシフトし、ゲルの濃度を低くした場合には、ゾル・ゲル転移点は低温側にシフトする。
【0013】
(4) 前記ゲルは熱可逆性を有し、前記ゾル・ゲル転移点以下ではゾル状態であり、ゾル・ゲル転移点以上ではゲル状態である(1)から(3)いずれかに記載の熱応答性ゲルの製造方法。
【0014】
(4)の発明によれば、ゲルに熱可逆性を付与したことによって、様々な用途に用いることが可能となる。例えば、ゾル・ゲル転移点が35℃付近のゲルを医療用途として用いた際には、手術の際に傷口を縫合することが可能となり、また物質の分離剤に用いられる場合には室温で安定に物質を分離することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、化学式(1)で示される組成物を用いたことにより、熱可逆的で室温でより高い粘性を示し、かつ、物性の制御が可能なゲルの製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0017】
本発明は下記の化学式(1)で示される組成物を、溶剤に所定の濃度になるように混合して、溶解してゲルを製造する工程を有する熱応答性ゲル組成物の製造方法である。
【化2】

[式中、mは1から10であり、nは1から10のであり、MはNa、K又はNHの塩基であるフッ化炭素鎖及び炭化水素鎖を有する硫酸エステル塩。]
【0018】
上記の化学式(1)で示される組成物は、次のような工程を経て合成される。まず、フッ化炭素鎖含有エチルヨージドを、ジエチルエーテル溶媒中でマグネシウムと反応させて、グリニャール試薬を得る。
【化3】

【0019】
次いで、ジエチルエーテル溶媒中で、アルデヒド(RCHO:Rは炭素数1〜20のアルキル基)と反応させて、下記の化学式(2)で示されるフッ化炭素鎖含有アルコールである中間体を得る。
【化4】

【0020】
さらに、ピリジン溶媒中で、三酸化硫黄ピリジン錯体SO:Pyrと反応させて、下記の化学式(3)で示される硫酸エステルを得て、この硫酸エステルを、塩基性水溶液と反応させて中和を行うことによって、目的とする化学式(1)で示される組成物が得られる。
【化5】

【0021】
本発明に係るゲルは、化学式(1)で示される組成物を、0℃から35℃の温度にした溶剤に、5重量%から15重量%となるように混合して、溶解して製造する。その際、超音波等で攪拌を促進してもよい。また、本発明に係るゲルの製造時の温度は、0℃から35℃であることが好ましく、25℃から35℃であることが更に好ましい。
【0022】
本発明に係るゲルには、ゲルと反応しない所定の薬理成分等を含有させることができる。例えば、消毒剤、抗菌剤、止血剤、消炎症剤、鎮痛剤、栄養剤等の薬物;ペプチド、血漿製剤蛋白質、酵素、核酸関連物質等の生体高分子;各種生体由来物又はこれらの混合物等をゲルに内包させることができる。具体的には、例えば、化学式(1)の組成物をゲル化させるための媒体に、予めこれらの薬理成分を溶解、懸濁等しておき、続いてゲル化を行うことにより形成することができる。また、本発明に係るゲルは、体温付近で高い粘性を示すため、特に止血や消炎目的の皮膚貼付材として用いることが好ましい。これらの成分の配合割合は、その目的や用途に応じて適宜決定することができる。
【実施例】
【0023】
<組成物>
〔中間体の合成〕
化学式(1)の組成物の中間体を合成した。まず、還流冷却器と滴下濾斗を装備したナスフラスコに窒素下でマグネシウム2.53g(104mmol)と、溶媒の蒸留ジエチルエーテル20mlを採取し、2−(ペルフルオロブチル)エチルヨージド(2−(perfluorobutyl)ethyl iodide)38.8g(104mmol)を蒸留ジエチルエーテル20mlに溶解した溶液を室温にて滴下した。次に、ペルフルオロブチルヨージド10g(26.7mmol)を滴下後、室温で2時間撹拌した。撹拌終了後、氷冷下で5mlの蒸留ジエチルエーテルにブタナール5.00g(69.4mmol)を溶解した溶液を滴下して、24時間室温にて撹拌して反応させた。
【0024】
反応終了後の溶液に、水、希塩酸を順に加え、エーテル相に目的物を抽出した後エーテルを減圧留去した。残留物を減圧蒸留(48〜50℃/100Pa)することで下記の化学式(4)で示される無色透明液体を得た(収量 12.5g 収率 56.4%)。
【0025】
【化6】

【0026】
〔最終生成物の合成〕
上記の中間体3.0g(9.38mmol)と、三酸化硫黄ピリジン錯体SO/Pyr2.98gを順に採取し、溶媒としてピリジン15mlを加え24時間40℃で加熱撹拌して反応させた。反応終了後、過剰の炭酸水素ナトリウムを溶解した水溶液に内容物をゆっくりと移し入れ、120℃のホットプレートで乾燥固化させた。これにアセトンを加え、濾過することで無機塩を除去した後に、貧溶媒のヘキサンを加えることで目的となる最終生成物を得た(収量 1.88g 収率 47.5%)。
【0027】
<ゲルの製造>
上記の方法によって合成された化合物(1)に水を添加し、5重量%〜15重量%となるように溶解して攪拌することによってゲルを製造した。なお、このゲルの物性は恒温槽中、目視によって測定した。このときの溶解温度と濃度の関係を図1に示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】ゲル化する際の温度と溶解濃度との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化学式(1)で示される組成物を、0℃から60℃の温度にした溶剤に、5重量%から15重量%となるように混合して、溶解してゲルを製造する工程を有する熱応答性ゲル組成物の製造方法。
【化1】

[式中、mは1から10であり、nは1から10のであり、MはNa、K又はNHの塩基であるフッ化炭素鎖及び炭化水素鎖を有する硫酸エステル塩。]
【請求項2】
前記溶剤は、水、メタノール、エタノール又はこれらの混合物からなる群から選ばれる1種以上である請求項1に記載の熱応答性ゲル組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ゲルのゾル・ゲル転移点は、0℃から55℃である請求項1または2に記載の熱応答性ゲル組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ゲルは熱可逆性を有し、前記ゾル・ゲル転移点以下ではゾル状態であり、ゾル・ゲル転移点以上ではゲル状態である請求項1から3いずれかに記載の熱応答性ゲル組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241379(P2006−241379A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61422(P2005−61422)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】