説明

熱成形用シート

【課題】低温雰囲気下、すなわち零度〜5℃程度で冷蔵される食品用包装容器、および零度以下で冷蔵される食品用包装容器として好適に使用され得る熱成形用シートを提供すること。
【解決手段】本発明の熱成形用シートは、メルトフローレート(MFR;ASTM D1238、230℃、荷重2.16kg)が0.1〜20g/10分の範囲にあり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が145〜170℃の範囲にあり、特定の要件を満たす室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)90〜70重量%と特定の要件を満たす室
温n−デカンに可溶な部分(Dsol)10〜30重量%とから構成されるプロピレン・エ
チレンブロック共重合体(A)を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温雰囲気下において食品包装に用いられる容器に利用されるポリプロピレンを主成分としたポリオレフィン系樹脂組成物からなる熱成形用シートに関する。より詳しくは、特に単層もしくは積層構造からなり、透明性、剛性、耐衝撃性および耐熱性のバランスに優れ、さらに衛生性、ヒートシール性にも優れた熱成形用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、食品用容器には、その機能的観点から剛性、耐衝撃性が求められるとともに、常温雰囲気下における使用だけでなく、低温雰囲気下における使用も余議なくされる。
たとえば、低温雰囲気下における使用例としては、零度〜5℃程度の温度領域における保存を要する貝などの海産物類またはゼリーのような菓子類等のチルド食品の包装用容器、あるいは零度以下の温度領域で保存される冷凍食品用容器などが挙げられる。
【0003】
特に、冷凍食品用容器の場合、高い耐寒衝撃性が求められると同時に、そのまま電子レンジにより調理されることが多いために耐熱性をも要求される。
一方、近年食品に対する安全性が強く求められており、たとえば、外部から異物の混入の確認を可能とする容器自体の透明性、異物・細菌等の混入を防止する蓋材とのシール性、容器自体から化学物質が食品に移らない低抽出性に代表されるような衛生性が求められる傾向にある。
【0004】
これら個々の要求課題に対して、種々のポリオレフィン系樹脂組成物および容器等が提案されている。たとえば、特許文献1には、造核剤を加えたMFRの異なるプロピレン−オレフィンランダム共重合体を多層化することにより、透明性、剛性、熱成形性の両立を図ったポリプロピレン系熱成形用シートが開示されている。しかしながら、該シートは透明性と剛性とのバランスには優れるものの、耐衝撃性については着目しておらず、プロピレン−オレフィンランダム共重合体から得られるシートでは、その効果や耐熱性などもあまり期待はできない。
【0005】
また、特許文献2には、プロピレン単独重合体または特定のα−オレフィン共重合体あるいはこれらの混合物に対して造核剤を加えることにより、透明性、剛性、耐熱性の向上を図り、さらに特定のポリエチレン系樹脂組成物を配合することにより、耐衝撃性や熱成形性を改良したポリオレフィン系樹脂組成物が開示されている。しかしながら、該シートであっても、透明性、剛性、耐衝撃性のバランスには優れるものの、ポリエチレン系樹脂組成物の配合を要するため、耐熱性が低下するおそれがあるとともに、複雑な配合系とならざるを得ない。
【0006】
さらに、特許文献3には、メタロセン触媒により製造されたプロピレンランダム共重合体に造核剤を配合して得られた、透明性、剛性、耐衝撃性、熱成形性に優れる単層シートが提案されている。該シートに用いられる共重合体はメタロセン触媒により製造されたものではあるが、プロピレンランダム共重合体であるため、高度な耐熱性および耐衝撃性を期待することができない。
【0007】
また、特許文献4には、メタロセン触媒により製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体にフィラーを配合することにより、耐寒衝撃性、剛性に加え、シート成形時におけるメヤニおよび臭気の発生を低減し、かつ良好な熱成形性をも有するシートが提案されている。しかしながら、該シートは、プロピレン・エチレンブロック共重合体を採用することにより剛性、耐衝撃性に優れたシートである半面、Dsolの135℃デカリン中に
おける極限粘度[η]およびDsol中のエチレンに由来する骨格の含有量の双方ともが必ず
しも好適な値を示すものではなく、また剛性および耐熱性のみに着目しているためにフィラーの配合を必須とすることから、充分な透明性を付与することができない。
【特許文献1】特開2003−236833号公報
【特許文献2】特開2000−72938号公報
【特許文献3】特開2002−226647号公報
【特許文献4】特開2004−210863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、低温雰囲気下、すなわち零度〜5℃程度で冷蔵される食品用包装容器、および零度以下で冷蔵される食品用包装容器として好適に使用され得る熱成形用シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を用いることにより、低温雰囲気下において好適に使用され得る熱成形用シートを実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に記載した事項により特定される。
本発明の熱成形用シートは、メルトフローレート(MFR;ASTM D1238、230℃、荷重2.16kg)が0.1〜20g/10分の範囲にあり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が145〜170℃の範囲にあり、下記(1)〜(3)を満たす室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)90〜70重量%と、下記(4)〜(6)を
満たす室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)10〜30重量%とから構成されるプロピ
レン・エチレンブロック共重合体(A)を含むことを特徴とする。
【0011】
(1)DinsolのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)から求めた分
子量分布(Mw/Mn)が1.0〜4.0
(2)Dinsol中のエチレンに由来する骨格の含有量が0.5モル%未満
(3)Dinsol中のプロピレンの2,1−挿入結合量と1,3−挿入結合量との和が
0.2モル%以下
(4)DsolのGPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜3.5
(5)Dsolの135℃デカリン中における極限粘度[η]が1.5〜4.0dl/g
(6)Dsol中のエチレンに由来する骨格の含有量が15〜40モル%。
【0012】
また、上記(1)DinsolのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)から
求めた分子量分布(Mw/Mn)は、2.0〜4.0であることが好ましく、上記室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)は、多段重合により製造されることが好ましい。
【0013】
また、本発明の熱成形用シートは、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)が、メタロセン触媒の存在下で重合されてなることが好ましい。
前記熱成形用シートは、トレイ用シートであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の熱成形用シートは、特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を用いることで、透明性、剛性、耐衝撃性、耐熱性等のバランスに優れるだけでなく、さらに衛生性およびヒートシール性といった表面特性をも有し、低温雰囲気下における使用に好適な熱成形用シートを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の熱成形用シートについて詳細に説明する。
本発明の熱成形用シートに用いる特定のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)について説明する。
【0016】
<プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)>
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、メルトフローレート(MFR;ASTM D1238、230℃、荷重2.16kg)が0.1〜20g/10分、好ましくは0.1〜5g/10分の範囲にあり、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が145〜170℃、好ましくは155〜170℃の範囲にあり、室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)90〜70重量%、好ましくは90〜75重量
%と、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)10〜30重量%、好ましくは10〜25
重量%とから構成される。ここで、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)におけるメルトフローレート、融点、室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)の重量分率、室
温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の重量分率は、上記範囲内において必要に応じて適
宜変更することができる。
【0017】
なお、メルトフローレート(MFR)とはASTM D1238、230℃、荷重2.
16kgで測定される値を意味し、融点(Tm)とは示差走査熱量計(DSC)で測定される値を意味する。
【0018】
そして、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)において、前記Dinsol
要件(1)〜(3)を満たし、さらに前記Dsolが要件(4)〜(6)を満たす。
(1)DinsolのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)から求めた分
子量分布(Mw/Mn)が1.0〜4.0
(2)Dinsol中のエチレンに由来する骨格の含有量が0.5モル%未満
(3)Dinsol中のプロピレンの2,1−挿入結合量と1,3−挿入結合量との和が
0.2モル%以下
(4)DsolのGPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜3.5
(5)Dsolの135℃デカリン中における極限粘度[η]が1.5〜4.0dl/g
(6)Dsol中のエチレンに由来する骨格の含有量が15〜40モル%。
【0019】
以下、上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)が備える上記要件(1)〜(6)について詳細に説明する。
〔要件(1)〕
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)か
ら求めた分子量分布(Mw/Mn)は、1.0〜4.0、好ましくは、2.0〜4.0である。このように該共重合体(A)に含有される室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol
)について、GPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲とするためには、触媒として後述するようなメタロセン触媒を用いるのが好ましく、かつ、より好適な分子量分布(Mw/Mn)の値とするためには、後述するように分子量の異なるプロピレン単独重合体もしくはプロピレンと少量のエチレンとからなるプロピレン共重合体を多段重合により製造するのがよい。Mw/Mnが上記範囲内であると、高分子量成分をより多く含むため、優れた熱成形性を付与することができる。また、Mw/Mnが4.0を超えると、低分子量成分が増えすぎるため、本発明の熱成形用シートから低分子量成分がブリードアウトするおそれがある。このように、本発明では、Dinsolにおいて好適なMw/Mnの
値を示すプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を用いるので、優れた熱成形性を有する熱成形用シートを得ることができ、必ずしもフィラーを配合する必要がない。そのため、より高い透明性を付与することもできる。
【0020】
〔要件(2)〕
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量は、0.5モル%未
満、好ましくは0〜0.4モル%である。Dinsol中のエチレンに由来する骨格の含有量
が0.5モル%以上であると、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の融点が低くなり、高温下での剛性が低下するおそれがある。
【0021】
〔要件(3)〕
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)中のプロピレンの2,1−挿入結合量と1,3−挿入結合
量との和が0.2モル%以下、好ましくは0.1モル%以下である。Dinsol中のプロピ
レンの2,1−挿入結合量と1,3−挿入結合量との和が0.2モル%を超えると、プロピレンとエチレンとの共重合性が低下し、その結果、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のプロピレン・エチレン共重合体ゴムの組成分布が広くなるおそれがあるため、低
温での耐衝撃性が低下するなどの不具合が発生することがある。
【0022】
なお、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)135℃デカリン中における極限粘度[η]は、通常1.0〜4.0dl/g
、好ましくは2.0〜4.0dl/gである。
【0023】
〔要件(4)〕
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)のGPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜3
.5、好ましくは1.2〜3.0、さらに好ましくは1.5〜2.5である。このように該共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)について、GPCから求めた
分子量分布(Mw/Mn)を上述のように狭くするためには、触媒として後述するようなメタロセン触媒を用いるのが好適である。そして、Mw/Mnが3.5よりも大きいと、
solに低分子量プロピレン・エチレン共重合体ゴムが増えるため、耐衝撃性の低下、ま
たは本発明の熱成形用シート保管時のブロッキング等の不具合が生ずる場合がある。
【0024】
〔要件(5)〕
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)の135℃デカリン中における極限粘度[η]が1.5〜4
.0dl/g、好ましくは1.5dl/gを超え3.5dl/g以下であり、より好ましくは1.8〜3.5dl/g、さらに好ましくは2.0〜3.0dl/gである。(Dsol)の極限粘度[η]を上記範囲内とすることにより、フィッシュアイ等の発生がなく、
耐衝撃性に優れる熱成形用シートが得られる。こうした共重合体の製造において、後述するメタロセン触媒を用いると、極限粘度[η]が1.5dl/gを超えるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を製造することが極めて容易であり、特に極限粘度[η]が1.8dl/g以上のプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を製造する際には
好適である。また、極限粘度Dsolの135℃デカリン中における極限粘度[η]が4.
0dl/gを超えると、超高分子量乃至高エチレン量プロピレン・エチレン共重合体ゴムを微量に含む場合があり、得られるシートの耐衝撃性の低下やフィッシュアイ等が発生するなどの外観不具合が生ずることがある。
【0025】
〔要件(6)〕
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のエチレンに由来する骨格の含有量が15〜40モル%、
好ましくは15〜35モル%、より好ましくは15〜32モル%である。Dsol中のエチ
レンに由来する骨格の含有量が15モル%未満であると、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の耐衝撃性が低下するおそれがある。また、Dsol中におけるエチレンに
由来する骨格の含有量が40モル%を超えると、透明性が低下するおそれがある。
【0026】
なお、本発明の熱成形用シートは、この室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)中のエ
チレンに由来する骨格の含有量を適正な範囲内にすることにより、透明性が低下しにくくなるとともに、耐衝撃性の低下が生じにくくなる。
【0027】
本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、好適にはメタロセン触媒の存在下に、第一重合工程([工程1])でプロピレン単独重合体もしくはプロピレンと少量のエチレンとからなるプロピレン共重合体を製造後、第二重合工程([工程2])でプロピレンと第一工程よりも多量のエチレンとを共重合してプロピレン・エチレン共重合体ゴムを製造して得られるプロピレン・エチレンブロック共重合体である。
【0028】
本発明において好適に使用されるメタロセン触媒としては、メタロセン化合物、ならびに、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物およびメタロセン化合物と反応してイオン対を形成することのできる化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、さらに必要に応じて粒子状担体とからなるメタロセン触媒であり、好ましくはアイソタクチックまたはシンジオタクチック構造等の立体規則性重合をさせることのできるメタロセン触媒を挙げることができる。前記メタロセン化合物の中では、本願出願人による国際出願(WO01/27124号パンフレット)に例示されている以下に示すような架橋性メタロセン化合物が用いられる。
【0029】
【化1】

【0030】
上記一般式[I]において、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10
11、R12、R13、R14は水素原子、炭化水素基、ケイ素含有基から選ばれ、それぞれ同一でも異なっていてもよい。このような炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、アリル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−のニル基、n−デカニル基などの直鎖状炭化水素基;イソプロピル基、tert−ブチル基、アミル基、3−メチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、1−メチル−1−プロピルブチル基、1,1−プロピルブチル基、1,1−ジメチル−2−メチルプロピル基、1−メチル−1−イソプロピ
ル−2−メチルプロピル基などの分岐状炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの環状飽和炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの環状不飽和炭化水素基;ベンジル基、クミル基、1,1−ジフェニルエチル基、トリフェニルメチル基などの環状不飽和炭化水素基の置換した飽和炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基、フェノキシ基、フリル基、N-メチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N−フェニルアミノ基、ピリル基、チエニル基などのヘテロ原子含有炭化水素基等を挙げることができる。ケイ素含有基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基などを挙げることができる。
【0031】
また、一般式[I]において、置換基R5〜R12は隣接する置換基と相互に結合して環
を形成してもよい。このような置換フルオレニル基としては、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、オクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルオクタヒドロジベンゾフルオレニル基、オクタメチルテトラヒドロジシクロペンタフルオレニル基などを挙げることができる。
【0032】
上記一般式[I]において、シクロペンタジエニル環に置換するR1、R2、R3、R4は水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基であることが好ましい。炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、前述の炭化水素基を例示することができる。さらに好ましくはR3が炭素数1〜20の炭化水素基である。
【0033】
上記一般式[I]において、フルオレン環に置換するR5〜R12は炭素原子数1〜20
の炭化水素基であることが好ましい。炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、前掲の炭化水素基を例示することができる。置換基R5〜R12は、隣接する置換基が相互に結合
して環を形成してもよい。
【0034】
上記一般式[I]において、シクロペンタジエニル環とフルオレニル環を架橋するYは周期律表第14族元素であることが好ましく、より好ましくは炭素、ケイ素、ゲルマニウムであり、さらに好ましくは炭素原子である。このYに置換するR13、R14は炭素原子数1〜20の炭化水素基が好ましい。これらは相互に同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、前掲の炭化水素基を例示することができる。さらに好ましくは、R14は炭素数6〜20のアリール(a
ryl)基である。アリール基としては、前述の環状不飽和炭化水素基、環状不飽和炭化
水素基の置換した飽和炭化水素基、ヘテロ原子含有環状不飽和炭化水素基を挙げることができる。また、R13、R14はそれぞれ同一でも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。このような置換基としては、フルオレニリデン基、10−ヒドロアントラセニリデン基、ジベンゾシクロヘプタジエニリデン基などが好ましい。
【0035】
また、上記一般式[I]で表されるメタロセン化合物は、R1、R4、R5またはR12
ら選ばれる置換基と架橋部のR13またはR14が互いに結合して環を形成してもよい。
上記一般式[I]において、Mは好ましくは周期律表第4族遷移金属であり、さらに好ましくはTi、Zr、Hfである。また、Qはハロゲン原子、炭化水素基、アニオン配位子
または孤立電子対で配位可能な中性配位子から同一または異なる組合せで選ばれる。jは1〜4の整数であり、jが2以上のときは、Qは互いに同一でも異なっていてもよい。ハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、炭化水素基の具体例としては前掲と同様のものなどが挙げられる。アニオン配位子の具体例としては、メトキシ、tert−ブトキシ、フェノキシなどのアルコキシ基、アセテート、ベンゾエートなどのカルボキシレート基、メシレート、トシレートなどのスルホネート基等が挙げられる。孤立電子対で配位可能な中性配位子の具体例としては、トリメチルホ
スフィン、トリエチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィンなどの有機リン化合物、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタンなどのエーテル類等が挙げられる。Qは少なくとも1つがハロゲン原子またはアルキル基であることが好ましい。
【0036】
このような架橋メタロセン化合物としては、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル-シクロペンタジエニル)(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジ
フェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル-シクロペンタジエニル)(2,
7−ジtert−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、ジフェニルメチレン(3−tert−ブチル−5−メチル-シクロペンタジエニル)(3,6−ジtert−ブ
チルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、(メチル)(フェニル)メチレン(3−tert−ブチル−5−メチル-シクロペンタジエニル)(オクタメチルオクタヒドロベン
ゾフルオレニル)ジルコニウムジクロリド、[3−(1’,1’,4’,4’,7’,7’,10’,10’−オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル)(1,1,3−トリメチル−5−tert−ブチル−1,2,3,3a−テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライド(下記式[II]参照)などが好ましく挙げられる。
【0037】
【化2】

【0038】
なお、本発明において使用されるメタロセン触媒において、上記一般式[I]で表わされる第4族遷移金属化合物とともに用いられる、有機金属化合物、有機アルミニウムオキシ化合物、および遷移金属化合物と反応してイオン対を形成する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物、さらには必要に応じて用いられる粒子状担体からなり、これらについては、本出願人による前記公報(WO01/27124号パンフレット)あるいは特開平11−315109号公報中に開示された化合物を制限無く使用することができる。
【0039】
本発明におけるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、二つ以上の反応装置を直列に連結した重合装置を用い、次の二つの工程([工程1]および[工程2])を連続的に実施することによって得られる。
【0040】
[工程1]は、重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレンを単独重合もしくはプロピレンと少量のエチレンとを共重合させる。[工程1]では、プロピレンを単独重合もしくはプロピレンに対してエチレンのフィード量を少量とすることによって、[工程1]で製造されるプロピレン系重合体におけるDinsol中のエチレン
に由来する骨格の含有量を0.5モル%未満、好ましくは0とすることができる。
【0041】
なお、[工程1]における重合は単段重合であっても多段重合であってもよいが、多段重合により行うのが好ましい。多段重合とは、具体的には、2段以上の多段にし、それぞれの工程で分子量の異なるプロピレン単独重合体もしくはプロピレンと少量のエチレンとの共重合体を製造することにより、Dinsolの分子量分布(Mw/Mn)を1.0〜4.
0、好ましくは2.0〜4.0の範囲に調整することができる。これにより、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)に優れた熱成形性を付与することができる。この場合、得られるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)がDinsolに係る要件(1)〜
(3)を充足する限り、多段重合における各段階での重合条件は特に限定されない。
【0042】
[工程2]は、重合温度0〜100℃、重合圧力常圧〜5MPaゲージ圧で、プロピレンとエチレンとを共重合させる。[工程2]では、プロピレンに対するエチレンのフィード量を多くすることによって、[工程2]で製造されるプロピレン・エチレン共重合ゴムがDsolの主成分となるようにする。
【0043】
このようにすることにより、Dinsolに係る要件(1)〜(3)は、[工程1]におけ
る重合条件の調整によって、Dsolに係る要件(4)〜(6)は、[工程2]における重
合条件の調整によって、満足させることが可能となる。
【0044】
また、本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)が満足すべき物性については、使用するメタロセン触媒の化学構造により決定されることが多い。具体的には、要件(1)DinsolのGPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)、要件
(3)Dinsol中のプロピレンの2,1−挿入結合量と1,3−挿入結合量との和、要件
(4)DsolのGPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)、およびプロピレン・エチレ
ンブロック共重合体(A)の融点については、主として、[工程1]および[工程2]において用いられるメタロセン触媒を適切に選択することによって、本発明の要件を満足するように調節することができる。本発明において好ましく用いられるメタロセン触媒については前述の通りである。
【0045】
さらに、要件(2)Dinsol中のエチレンに由来する骨格の含有量を0.5モル%未満
とするためには、[工程1]において、プロピレンを単独重合することが好ましく、プロピレンとエチレンとを共重合させる場合は、エチレンのフィード量を少量とすることが好ましい。要件(5)Dsolの135℃デカリン中における極限粘度[η]については、[
工程2]における水素などの分子量調節剤のフィード量などによって調節することが可能である。要件(6)Dsol中のエチレンに由来する骨格の含有量については、[工程2]
におけるエチレンのフィード量などによって調節することが可能である。さらに、[工程1]と[工程2]とで製造する重合体の量比を調整することによって、DinsolとDsolとの組成比、およびプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレート(MFR;ASTM D1238、230℃、荷重2.16kg)を適切に調節することが可能である。
【0046】
また、本発明において用いられるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)は、前記方法の[工程1]で製造されるプロピレン系重合体と、前記方法の[工程2]で製造されるプロピレン・エチレン共重合体ゴムを、メタロセン化合物含有触媒の存在下で個別に製造した後に、これら物理的手段を用いてブレンドして製造してもよい。
【0047】
<エラストマー(B)>
本発明の熱成形用シートには、耐衝撃性、ヒートシール性、透明性、柔軟性等の特性を付与する目的で、エラストマー(B)を添加することができる。
【0048】
エラストマー(B)としては、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−a)
、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)、水素添加ブロック共重体(B−c)、プロピレン・α−オレフィン共重合体(B−d)、その他の弾性重合体、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0049】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)とエラストマー(B)とを含む熱成形用シートに占めるエラストマー(B)の含有量は、付与される特性により異なるが、通常1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
【0050】
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体ゴム(B−a)は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体ゴムである。エチレン・α−オレフィンランダム共重合体ゴム(B−a)においては、エチレンから誘導される構成単位とα−オレフィンから誘導される構成単位とのモル比(エチレンから誘導される構成単位/α−オレフィンから誘導される構成単位)は、通常は95/5〜15/85、好ましくは80/20〜25/75である。また、このエチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−a)について230℃、荷重2.16kgで測定したMFRは、通常は0.1g/10分以上、好ましくは0.5〜30g/10分の範囲内にある。
【0051】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンと非共役ポリエンとのランダム共重合体ゴムである。上記炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、前記と同じものが挙げられる。非共役ポリエチレンとしては、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの非環状ジエン; 1,4-ヘキサジエ
ン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジ
エン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタ
ジエンなどの鎖状の非共役ジエン; 2,3-ジイソプロピリデン-5-ノルボルネンなどのトリ
エン等が挙げられる。これらの中では、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンが好ましく用いられる。エチレン・α−オレフィン・非共役ポ
リエンランダム共重合体(B−b)は、エチレンから誘導される構成単位が通常は94.9〜30モル%、好ましくは89.5〜40モル%であり、α−オレフィンから誘導される構成単位が通常は5〜45モル%、好ましくは10〜40モル%であり、非共役ポリエンから誘導される構成単位が通常は0.1〜25モル%、好ましくは0.5〜20モル%である。ただし、本発明では、エチレンから誘導される構成単位と、α−オレフィンから誘導される構成単位と、非共役ポリエンから誘導される構成単位との合計を100モル%とする。エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)について230℃、荷重2.16kgで測定したMFRは通常は0.05g/10分以上、好ましくは0.1〜30g/10分の範囲内にある。エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンラン
ダム共重合体(B−b)の具体例としては、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。
【0052】
水素添加ブロック共重合体(B−c)は、ブロックの形態が下式(a)または(b)で表されるブロック共重合体の水素添加物であり、水素添加率が通常は90モル%以上、好ましくは95モル%以上の水素添加ブロック共重合体である。
【0053】
【化3】

【0054】
上記式(a)または式(b)におけるXで示される重合ブロックを構成するモノビニル
置換芳香族炭化水素の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p-メチルスチレン、クロロスチレン、低級アルキル置換スチレン、ビニルナフタレン等のスチレンまたはその誘導体などが挙げられる。これらは一種単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。式(a)または(b)のYで示される重合ブロックを構成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。これらは一種単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。nは通常は1〜5の整数、好ましくは1または2である。水素添加ブロック共重合体(B−c)の具体的な例としては、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)およびスチレン・エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)等のスチレン系ブロック共重合体などが挙げられる。水素添加前のブロック共重合体は、例えば不活性溶媒中で、リチウム触媒またはチーグラー触媒の存在下に、ブロック共重合を行わせる方法により製造することができる。詳細な製造方法は、例えば特公昭40−23798号公報などに記載されている。水素添加処理は、不活性溶媒中で公知の水素添加触媒の存在下に行うことができる。詳細な方法は、例えば特公昭42−8704号公報、同43−6636号公報、同46−20814号公報などに記載されている。共役ジエンモノマーとしてブタジエンが用いられる場合、ポリブタジエンブロックにおける1,2-結合量の割合は通常は20〜80重量%、好ましくは30〜60重量%である。水素添加ブロック共重合体(B−c)としては市販品を使用することもできる。具体的なものとしては、クレイトンG1657(登録商標)(シェル化学(株)製)、セプトン2004(登録商標)((株)クラレ製)、
タフテックH1052(登録商標)(旭化成(株)製)などが挙げられる。
【0055】
プロピレン・α−オレフィン共重合体ゴム(B−d)は、プロピレンと炭素数4〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体ゴムである。プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−d)においては、プロピレンから誘導される構成単位とα−オレフィンから誘導される構成単位とのモル比(プロピレンから誘導される構成単位/α−オレフィンから誘導される構成単位)が通常は95/5〜5/95、好ましくは80/15〜20/80である。また、プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体ゴム(B−d)にお
いては、2種以上のα−オレフィンを使用しても良く、その1つはエチレンであっても良い。プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体ゴム(B−d)について230℃、荷重2.16kgで測定したMFRが通常は0.1g/10分以上、好ましくは0.5〜30g/10分の範囲内にある。
【0056】
エラストマー(B)は一種単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
本発明において上記のエラストマー(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対して、通常は0〜20重量部、好ましくは3〜10重量部の範囲内の量で使用する。
【0057】
<ポリエチレン樹脂(C)>
本発明の熱成形用シートには、耐衝撃性、ヒートシール性、透明性等の機能を付与する目的で、エラストマー(B)と共に、あるいはエラストマー(B)の代わりにポリエチレン樹脂(C)を添加してもよい。
【0058】
例えば、透明性の低下を抑えながら耐衝撃性を付与させる場合、メタロセン触媒の存在下で、エチレンとC4以上のα−オレフィンとを共重合させて製造した、密度0.900〜0.930kg/m3の直鎖状低密度ポリエチレンを添加することが好ましい。
【0059】
その他の例として、高速押出成形性を改良する場合、高圧法ポリエチレンを添加することが望ましい。ここで高圧法ポリエチレンとは、100kg/cm2以上の圧力において、パー
オキサイドの存在下に、エチレンをラジカル重合することにより得られる、長鎖分岐を有するポリエチレンである。高圧法ポリエチレンの好ましいメルトフローレート(ASTMD1
238、190℃、荷重2.16kgで測定)は、通常は0.01〜100g/10分、好
ましくは0.1〜10g/10分の範囲内にある。また密度(ASTMD1505)は、
通常は0.900〜0.940g/cm3、好ましくは0.910〜0.930g/cm3の範囲内にある。
【0060】
プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)とポリエチレン樹脂(C)とを含む熱成形用シートに占めるポリエチレン樹脂(C)の含有量は、付与される特性により異なるが、通常0〜20重量%、好ましくは3〜10重量部の範囲内にある。ポリエチレン樹脂(C)は一種単独で使用することもできるし、二種以上を組み合せて使用することもできる。
【0061】
また、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)とエラストマー(B)とポリエチレン樹脂(C)とからなる熱成形用シートである場合、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)の量は、付与される特性により異なるが、通常80〜99重量%、好ましくは90〜99重量%の範囲内にある。また、エラストマー(B)とポリエチレン樹脂(C)の合計量は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対して、通常1〜10重量部、好ましくは3〜7重量部である。なお、エラストマーとポリエチレンとの比率は目的に応じて任意に調整することができる。
【0062】
<結晶核剤(D)>
本発明の熱成形用シートには、透明性、耐熱性、成形性改良などのために必要に応じて結晶核剤(D)を添加してもよい。
【0063】
本発明で用いられる結晶核剤(D)の例としては、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトール化合物、有機リン酸エステル系化合物、ロジン酸塩系化合物、C4〜C12の脂肪族ジカルボン酸およびその金属塩などを挙げることができる。
【0064】
これらのうちでは、有機リン酸エステル系化合物が好ましい。有機リン酸エステル系化合物は、次に示す一般式[III]および/または[IV]で表わされる化合物である。
【0065】
【化4】

【0066】
前記の式[III]、[IV]中、R1は、炭素原子数1〜10の2価炭化水素基であり、R2
よびR3は、水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基であって、R2とR3とは同
じであっても異なっていてもよく、Mは、1〜3価の金属原子であり、nは1〜3の整数であり、mは1または2である。
【0067】
一般式[III]で表わされる有機リン酸エステル系化合物の具体例としては、ナトリウム-2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-エ
チリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2'-メチレン-
ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-エチリデン-ビス(4-i-プロピル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2'-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム-2,2'-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブ
チルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-ブチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-t-オクチルメチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス-(2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル
)フォスフェート)、マグネシウム-ビス[2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム-ビス[2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム-2,2'-メチレン-ビス(4-メチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-エチリデン-ビス(4-m-ブチル-6-t-ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム-2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-エチルフェニル)フォスフェート、カリウム-2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム-ビス
[2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フオスフェート]、マグネシウム-ビス[2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム-ビス[2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニ
ウム-トリス[2,2'-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェル)フォスフェート]、アルミニウム-トリス[2,2'-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)フォスフェート]、およびこれらの二種以上の混合物などを挙げることができる。
【0068】
一般式[IV]で表わされるヒドロキシアルミニウムフォスフェート化合物も使用可能な有機リン酸エステル系化合物であって、特にR2およびR3が共にtert-ブチル基である、一
般式[V]で表わされる化合物が好ましい。
【0069】
【化5】

【0070】
式[V]において、R1は、炭素原子数1〜10の2価炭化水素基であり、mは1または
2である。特に好ましい有機リン酸エステル系化合物は、一般式[VI]で表わされる化合物である。
【0071】
【化6】

【0072】
式[VI]において、R1は、メチレン基またはエチリデン基である。具体的には、ヒドロ
キシアルミニウム-ビス[2,2-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチル)フォスフェート]、ま
たはヒドロキシアルミニウム-ビス[2,2-エチリデン-ビス(4,6-ジ-t-ブチル)フォスフ
ェート]である。前記ソルビトール系化合物としては、具体的には、1,3,2,4-ジベンジリデンソルビトール、1,3-ベンジリデン-2,4-p-メチルベンジリデンソルビトール、1,3-ベンジリデン-2,4-p-エチルベンジリデンソルビトール、1,3-p-メチルベンジリデン-2,4-ベンジリデンソルビトール、1,3-p-エチルベンジリデン-2,4-ベンジリデンソルビトール、1,3-p-メチルベンジリデン-2,4-p-エチルベンジリデンソルビトール、1,3-p-エチルベンジリデン-2,4-p-メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-メチルベンジ
リデン)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4-
ジ(p-n-プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-i-プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-n-ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-s-ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-t-ブチルベンジリデン
)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4-ジ(
p-エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3-ベンジリデン-2,4-p-クロルベンジリデ
ンソルビトール、1,3-p-クロルベンジリデン-2,4-ベンジリデンソルビトール、1,3-p-
クロルベンジリデン-2,4-p-メチルベンジリデンソルビトール、1,3-p-クロルベンジリ
デン-2,4-p-エチルベンジリデンソルビトール、1,3-p-メチルベンジリデン-2,4-p-ク
ロルベンジリデンソルビトール、1,3-p-エチルベンジリデン-2,4-p-クロルベンジリデ
ンソルビトールもしくは1,3,2,4-ジ(p-クロルベンジリデン)ソルビトール等を挙げる
ことができる。特に、1,3,2,4-ジベンジリデンソルビトール、1,3,2,4-ジ(p-メチルベ
ンジリデン)ソルビトールまたは1,3-p-クロルベンジリデン-2,4-p-メチルベンジリデ
ンソルビトールが好ましい。
【0073】
本発明で結晶核剤(D)として使用可能なC4〜C12の脂肪族ジカルボン酸およびその金属塩としては、具体的には、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、およびこれらのLi塩、Na塩、Mg塩、Ca塩、Ba塩、Al塩などを挙げることができる。また、本発明で結晶核剤(D)として使用可能な芳香族カルボン酸およびその金属塩としては、安息香酸、アリール置換酢酸、芳香族ジカルボン酸およびこれらの周期律表第1〜3族金属塩であり、具体的には、安息香酸、p-イソプロピル安息香酸
、o-第3級ブチル安息香酸、p-第3級ブチル安息香酸、モノフェニル酢酸、ジフェニル酢酸、フェニルジメチル酢酸、フタル酸、およびこれらのLi塩、Na塩、Mg塩、Ca塩、Ba塩、Al塩などを挙げることができる。
【0074】
本発明で用いられる結晶核剤(D)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対して、通常は0.05〜0.5重量部、好ましくは0.1〜0.3重量部の割合で添加される。
【0075】
<その他>
必要に応じて、本発明の熱成形用シートに、プロピレン系樹脂(P)を添加してもよい。ここで使用されるプロピレン系樹脂(P)とは、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)とは異なるプロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・エチレンブロック共重合体、プロピレン・α−オレフィンブロック共重合体、シンジオタクチックプロピレン系重合体、アタクチックプロピレン系重合体等を指す。ここでα−オレフィンとしては、炭素数4から炭素数20のα−オレフィンを使用することができる。
【0076】
本発明の熱成形用シートは、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、ビタミン類、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、石油樹脂、ミネラルオイル等の添加物を含んでいてもよい。
【0077】
<熱成形用シート>
本発明の熱成形用シートは、上記の各成分および必要に応じて各種添加剤を、例えばヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、タンブラーミキサー等の混合機でブレンドした後、一軸乃至二軸の押出機を用いてペレット状とした後、得られたペレットなどを用いた成形法により得られる。シートの成形法としては、具体的には、たとえば、押出成形法、カレンダー成形法、圧縮成型法、注型成形法などが挙げられる。成形温度は、通常200〜280℃、好ましくは220〜260℃である。また、得られる熱成形用シートの厚みは、特に制限されないが、通常0.1〜2.0mm、好ましくは0.3〜1.0mmである。
【0078】
本発明の熱成形用シートは、単層構造であっても多層構造であってもよい。すなわち、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)からなる層を有する単層構造であってもよ
く、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)からなる層をコア層とし、ヒートシール層を積層して、これらコア層とヒートシール層とを含む2層以上の積層体である多層構造であってもよい。ヒートシール層として、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体、メタロセン触媒により重合されるプロピレン重合体及びこれらの混合物からなる層などを積層することができる。この場合における各層の層比は、層全体の厚さの合計を100%としたとき、コア層が70〜99%、好ましくは80〜95%、ヒートシール層が30〜1%、好ましくは20〜5%である。
【0079】
なお、上記コア層とヒートシール層との間に、中間層として、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)からなる層、メタロセン触媒により重合されるプロピレン系ランダム共重合体からなる層、エチレン・ビニルアルコール共重合体からなるバリア層などが積層されていてもよい。この場合における各層の層比は、1層目(コア層)が1〜50%、好ましくは5〜30%、2層目(中間層)が1〜98%、好ましくは5〜50%、3層目(ヒートシール層)が1〜30%、好ましくは5〜20%である(ただし、コア層、中間層およびヒートシール層の合計を100%とする)。これらコア層とヒートシール層とを含む2層以上の積層体を得る成形法としては、上記成形法のなかでも押出成形法が好ましい。
【0080】
また、本発明の熱成形用シートは、基材にラミネートされてもよい。基材としては、例えば、セロハン、紙、板紙、織物、アルミニウム箔、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、延伸ポリプロピレン等が挙げられる。そして、基材に、本発明の熱成形用シートをラミネートする方法としては、例えば、ドライラミネート法、ウェットラミネート法、サンドラミネート法、ホットメルトラミネート法等が挙げられる。
【0081】
上記のようにして得られる本発明の熱成形用シートは、熱成形により各種包装容器などの熱成形品が製造される。熱成形法としては特に限定されず、たとえば、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法などが挙げられる。また、熱成形時の加熱方法についても特に限定されず、たとえば、直接熱版で加熱する方法、遠赤外線ヒーターで加熱する方法などが挙げられる。さらに、得られる熱成形品の形状についても特に限定されず、箱型、カップ型、丼型、トレイ型、またはこれらの蓋材などの形状を必要に応じて適宜選択することができる。
【0082】
本発明では、熱成形用シートに、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を用いることで、透明性、剛性、耐衝撃性、耐熱性等をバランスよく付与することができるとともに、衛生性、ヒートシール性にも優れ、これらの物性は低温雰囲気下において好適に保持される。したがって、本発明の熱成形用シートは、熱成形品のなかでも低温雰囲気下における使用を余儀なくされる食品用容器に好適に採用され、特にトレイ型の熱成形品に採用され得るトレイ用シートとして最適である。
【実施例】
【0083】
次に本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明は係る実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における物性の測定方法は次の通りである。
(m1)メルトフローレート(MFR)
MFRは、ASTM D1238(230℃、荷重2.16kg)に従って測定した。
【0084】
(m2)融点(Tm)
示差走査熱量計(DSC、パーキンエルマー社製)を用いて測定を行った。ここで測定し
た第3stepにおける吸熱ピークを融点(Tm)と定義した。
【0085】
(測定条件)
第1step : 10℃/minで240℃まで昇温し、10min間保持する。
第2step : 10℃/minで60℃まで降温する。
【0086】
第3step : 10℃/minで240℃まで昇温する。
(m3)室温n-デカン可溶部量(Dsol
最終生成物のサンプル5gにn-デカン200mlを加え、145℃で30分間加熱溶解した。約3時
間かけて、20℃まで冷却させ、30分間放置した。その後、析出物(以下、n-デカン不溶部:Dinsol)を濾別した。濾液を約3倍量のアセトン中入れ、n-デカン中に溶解していた成
分を析出させた(析出物(A))。析出物(A)とアセトンを濾別し、析出物を乾燥した。なお、濾液側を濃縮乾固しても残渣は認められなかった。
【0087】
n-デカン可溶部量は、以下の式によって求めた。
n-デカン可溶部量(wt%)=〔析出物(A)重量/サンプル重量〕×100。
(m4)Mw/Mn測定〔重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)〕
ウォーターズ社製GPC-150C Plusを用い以下の様にして測定した。分離カラムは、TSKgel GMH6−HT及びTSKgel GMH6−HTLであり、カラムサイズはそれぞ
れ内径7.5mm、長さ600mmであり、カラム温度は140℃とし、移動相にはo-ジクロロベンゼ
ン(和光純薬工業(株))および酸化防止剤としてBHT(和光純薬工業(株))0.025重量%を用い、1.0ml/分で移動させ、試料濃度は0.1重量%とし、試料注入量は500マイクロリットルとし、検出器として示差屈折計を用いた。標準ポリスチレンは、分子量がMw<1000およびMw>4×106については東ソー(株)製を用い、1000≦Mw
≦4×106についてはプレッシャーケミカル社製を用いた。
【0088】
(m5)エチレンに由来する骨格の含有量
Dinsol、Dsol中のエチレンに由来する骨格濃度を測定するために、サンプル20〜30mgを1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(2:1)溶液0.6mlに溶解後、炭素核磁気共鳴分析(13C-NMR)を行った。プロピレン、エチレン、α-オレフィンの定量はダイアッド連鎖分布より求めた。例えば、プロピレン−エチレン共重合体の場合、
【0089】
【数1】

【0090】
を用い、以下の計算式(Eq-1)および(Eq-2)により求めた。
【0091】
【数2】

【0092】
(m6)極限粘度[η]
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。サンプル約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追
加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、
濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求めた。
【0093】
[η]= lim(ηsp/C) (C→0)。
(m7)2,1-挿入結合量、1,3-挿入結合量の測定
13C−NMRを用いて、特開平7-145212号公報に記載された方法に従って、プロピレンの2,1-挿入結合量、1,3-挿入結合量を測定した。
【0094】
(m8)シートのヘイズ(HAZE)
JIS K7105に準拠して測定した。
(m9)シートの引張弾性率
JIS K7113に準拠し、23℃で測定した。ここで、引張弾性率(MD)はシート成形時の樹脂が流れる方向に対して並行な方向に引っ張った時の測定値を表し、引張弾性率(TD)は樹脂が流れる方向に対して垂直な方向に引っ張った時の測定を表す。
【0095】
(m10)シートの耐衝撃性(デュポン衝撃強度)
JIS K7211に準拠し、23℃及び−20℃で測定した。
(m11)シートのヒートシール性(ヒートシール温度)
ヒートシールサンプルとして、0.07mmのフィルムを作製し、これを15mm巾の短冊片にサンプリングした。次いで、これら2枚のフィルムのシール層面同士を貼り合わせてヒートシール強度を測定した。
【0096】
ヒートシール条件、シール時間を1秒、圧力を0.2MPa・G、シール幅5mmに設定してシールした。シールバーの上部温度を変動させ、下部を70℃でヒートシールしたシートの両端を200mm/minで引張り、最大強度を測定し、上部温度−ヒートシール強度の関係を
プロットした図を作成した。このプロット図よりヒートシール強度が2.94Nになるシール温度をヒートシール温度として測定した。なお、ヒートシール温度が低いほど、シール時の温度条件が低くてもシール可能であることから、より均一で密封性の高いヒートシール性が発揮されることを意味する。
【0097】
(m12)熱成形性
真空圧空用熱成形機FK−0431−10(浅野研究所製)にてトレー用金型を用いて真空成形を行って得られたトレーの形状を目視にて観察し、以下の基準にしたがって評価した。間接加熱温度は上下500℃(設定)で行った。なお、型再現性とは、容器形状が型と同じ形状になることを意味する。
【0098】
◎:型再現性が非常に優れる。
○:型再現性が優れる。
△:型再現性がやや悪い。
【0099】
(m13)衛生性(n−ヘキサン最大抽出量)
サンプルをn−ヘキサンに入れ、50℃の温度を掛けて2時間抽出を行った。固形物をろ過後、n−ヘキサンを蒸発させ残留物の重さを測定し、抽出前のサンプル量に対する残留物の割合を算出した。
【0100】
[製造例1]プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)の製造
(1)固体触媒担体の製造
1L枝付フラスコにSiO2300gをサンプリングし、トルエン800mLを入れ、
スラリー化した後、5L4つ口フラスコへ移液をし、トルエン260mLを加えた。メチルアルミノキサン(以下、MAO)のトルエン溶液(10重量%溶液)を2830mL加え、室温下で30分間攪拌した。1時間かけて110℃まで昇温し、4時間反応させた。反応終了後、室温まで降温した。冷却後、上澄みトルエン液を除去し、再びトルエンを加え、置換率が95%になるまで、置換を行った。
【0101】
(2)固体触媒の製造(担体への金属触媒成分の担持)
グローブボックス内にて、5Lの4つ口フラスコに[3-(1',1'、4'、4',7',7',10',10'-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル])(1,1,3-トリメチル-5-tert-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライドを2.0g秤取った。フラスコを外へ出し、トルエン0.46リットルと(1)で調整したMAO/SiO2/トルエンスラリー1.4リットルを窒素下で加え、30分間攪拌し担持を行った。得られた[3-(1',1'、4'、4',7',7',10',10'-オクタメチルオクタヒドロジベンゾ[b,h]フルオレニル])(1,1,3-トリメチル-5-tert-ブチル-1,2,3,3a-テトラヒドロペンタレン)]ジルコニウムジクロライド/MAO/SiO2/トルエンスラリーはn−ヘプタンにて99%置
換を行い、最終的なスラリー量を4.5リットルとした。この操作は室温で行った。
【0102】
(3)前重合触媒の製造
前記(2)で調整した固体触媒成分404g、トリエチルアルミニウム218mL、ヘプ
タン100Lを内容量200Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、室温15〜20℃に保ちエチレンを1212g挿入し、180分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液を除去し、ヘプタンで2回洗浄した。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度が4g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当りポリエチレンを3g含んでいた。
【0103】
(4)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を2.5NL/時間、製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として2.6g/時間、トリエチルアルミニウム4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状反応器の温度は30℃であり、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0104】
得られたスラリーは内容量1000Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.07mol%になるように供給した。重合温度72℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0105】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.07mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0106】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.07mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0107】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.16mol%になるように供給した。エチレンは、圧力2.9MPa/Gとなるように供給した。重合温度54℃で重合を行った。
【0108】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行いプロピレン系ブロック共重合体を得た。得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥し、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)を得た。得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1
)の物性を表1に示す。
【0109】
[製造例2]プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)の製造
製造例1(1)で製造した固体触媒担体を用い、以下の方法によりプロピレン・エチレン
ブロック共重合体を製造した。
【0110】
(1)固体触媒の製造(担体への金属触媒成分の担持)
グローブボックス内にて、5Lの4つ口フラスコにジフェニルメチレン(3−t−ブチ
ル−5−メチルシクロペンタジエニル)(2,7−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリドを2.0g秤取った。フラスコを外へ出し、トルエン0.46リットルと製造例1(1)で調整したMAO/SiO2/トルエンスラリー1.4リットルを窒素下で加え、30分間攪拌し担持を行った。得られたジフェニルメチレン(3−t−ブチル−5−メチルシ
クロペンタジエニル)(2,7−t−ブチルフルオレニル)ジルコニウムジクロリド/MAO/SiO2/トルエンスラリーはn−ヘプタンにて99%置換を行い、最終的なスラリー量
を4.5リットルとした。この操作は、室温で行った。
【0111】
(2)前重合触媒の製造
前記(1)で調整した固体触媒成分404g、トリエチルアルミニウム218mL、ヘプタ
ン100Lを内容量200Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちエチレンを1212g挿入し、180分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液を除去し、ヘプタンで2回洗浄した。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で4g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。この前重合触媒は固体触媒成分1g当りポリエチレンを3g含んでいた。
【0112】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を2.5NL/時間、前記(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として5.3g/時間、トリエチルアルミニウム4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状反応器の温度は30℃であり、圧力は3.2MPa/Gであった。得られたスラリーは内容量1000Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.06mol%になるように供給した。重合温度72℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0113】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.06mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0114】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.06mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0115】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.16mol%になるように供給した。エチレンは、圧力2.9MPa/Gとなるように供給した。重合温度60℃で重合を行った。
【0116】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行いプロピレン系ブロック共重合体を得た。得
られたプロピレン系ブロック共重合体を、80℃で真空乾燥し、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)を得た。得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)の物性を表1に示す。
【0117】
[製造例3]プロピレン・エチレンブロック共重合体(A3)の製造
重合方法を以下の様に変えた以外は、製造例1と同様の方法で行った。
(1)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を2.5NL/時間、製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として3.7g/時間、トリエチルアルミニウム4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状反応器の温度は30℃であり、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0118】
得られたスラリーは内容量1000Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.02mol%になるように供給した。重合温度72℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0119】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.02mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0120】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.13mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0121】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.16mol%になるように供給した。エチレンは、圧力2.9MPa/Gとなるように供給した。重合温度54℃で重合を行った。
【0122】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行いプロピレン系ブロック共重合体を得た。得られたプロピレン系ブロック共重合体を、80℃で真空乾燥し、プロピレン・エチレンブロック共重合体(A3)を得た。得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A3)の物性を表1に示す。
【0123】
[製造例4]プロピレン・エチレンブロック共重合体(X)の製造
重合方法を以下の様に変えた以外は、製造例1と同様の方法で行った。
(1)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを40kg/時間、水素を2.5NL/時間、製造例1(3)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として2.6g/時間、トリエチルアルミニウム4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状反応器の温度は30℃であり、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0124】
得られたスラリーは内容量1000Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを45kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.07mol%になるように供給した。重合温度72℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行っ
た。
【0125】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.07mol%になるように供給した。重合温度71℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0126】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.07mol%になるように供給した。重合温度69℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0127】
得られたスラリーは内容量500Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、さらに重合を行った。重合器へは、プロピレンを10kg/時間、水素を気相部の水素濃度が0.12mol%になるように供給した。エチレンは、圧力2.9MPa/Gとなるように供給した。重合温度46℃で重合を行った。
【0128】
得られたスラリーを気化後、気固分離を行いプロピレン系ブロック共重合体を得た。得られたプロピレン系ブロック共重合体を、80℃で真空乾燥し、プロピレン・エチレンブロック共重合体(X)を得た。得られたプロピレン・エチレンブロック共重合体(X)の物性を表1に示す。
【0129】
[実施例1]
製造例1で製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)100重量部に対して、熱安定剤IRGNOX1010(チバ・ジャパン(株)商標)0.1重量部、熱安定剤IRGFO
S168(チバ・ジャパン(株)商標)0.1重量部、ステアリン酸カルシウム0.1重量部をタン
ブラーにて混合後、ナカタニ機械(株)製二軸押出機(同方向二軸混練機)を用いて230℃にて溶
融混練してペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を調整した。
【0130】
単層シート成形機(35mmφ)で押出温度260℃、ロール温度60℃、ダイリップ0.7mm、引取速度0.6m/分の条件で0.5mm厚みのシートを作製した。得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0131】
[実施例2]
製造例2で製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A2)を使用して実施例1と同じ条件でシートを作製した。得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0132】
[実施例3]
製造例3で製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A3)を使用して実施例1と同じ条件でシートを作製した。得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0133】
[実施例4]
製造例1で製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体(A1)100重量部に対して、熱安定剤IRGNOX1010(チバ・ジャパン(株)商標)0.1重量部、熱安定剤IRGFOS168(チバ・ジャパン(株)商標)0.1重量部、ステアリン酸カルシウム0.1重量部をタンブラーにて混合後、ナカタニ機械(株)製二軸押出機(同方向二軸混練機)を用いて230℃にて溶融混練してペレット状のポリプロピレン樹脂組成物を調
整しこれをコア層用樹脂とした。また、F−794NV((株)プライムポリマー製)をシール層用樹脂とした。
【0134】
これら樹脂組成物を、フィードブロックTダイを備えた2種2層シート成形機で押出温度260℃、ロール温度60℃、ダイリップ0.7mm、引取速度0.6m/分の条件で0.5mm厚みのシートを作製した。なお、コア層とシール層の厚み比率は80/20%とした。得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0135】
[比較例1]
F−274NP(ZN触媒系、(株)プライムポリマー製)を用いて製造例1と同じ単層シート成形機を用い、製造例1と同じ条件で0.5mm厚みのシートを作製した。F−274NPの物性を表1に、得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0136】
[比較例2]
E−150GK(ZN触媒系、(株)プライムポリマー製)を用いて製造例1と同じ単層シート成形機を用い、製造例1と同じ条件で0.5mm厚みのシートを作製した。E−150GKの物性を表1に、得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0137】
[比較例3]
製造例4で製造されたプロピレン・エチレンブロック共重合体(X)を使用して実施例1と同じ条件でシートを作製した。得られたシートの評価結果を表2に示す。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【0140】
これらの評価結果によれば、実施例1〜4は、耐熱性、剛性、耐衝撃性、および熱成形性に優れるだけでなく、透明性にも優れ、熱成形用シートとして要求される物性をバランスよく保持していることがわかる。
【0141】
一方、比較例1は特に剛性、耐衝撃性、および熱成形性に劣り、比較例2は透明性に劣る。また、比較例3は透明性および耐衝撃性ともに芳しくない。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の熱成形用シートは、透明性、剛性、耐衝撃性、耐熱性等のバランスに優れるだけでなく、さらに衛生性およびヒートシール性といった表面特性をも有し、低温雰囲気下における使用に好適であるので、食品用包装容器として好適に採用される。特にトレイ用シートに最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(MFR;ASTM D1238、230℃、荷重2.16kg)が0.1〜20g/10分の範囲にあり、
示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が145〜170℃の範囲にあり、
下記(1)〜(3)を満たす室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)90〜70重量
%と
下記(4)〜(6)を満たす室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)10〜30重量%
とから構成されるプロピレン・エチレンブロック共重合体(A)を含むことを特徴とする熱成形用シート;
(1)DinsolのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)から求めた分
子量分布(Mw/Mn)が1.0〜4.0
(2)Dinsol中のエチレンに由来する骨格の含有量が0.5モル%未満
(3)Dinsol中のプロピレンの2,1−挿入結合量と1,3−挿入結合量との和が
0.2モル%以下
(4)DsolのGPCから求めた分子量分布(Mw/Mn)が1.0〜3.5
(5)Dsolの135℃デカリン中における極限粘度[η]が1.5〜4.0dl/g
(6)Dsol中のエチレンに由来する骨格の含有量が15〜40モル%。
【請求項2】
前記(1)DinsolのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)から求めた
分子量分布(Mw/Mn)が、2.0〜4.0であることを特徴とする請求項1に記載の熱成形用シート。
【請求項3】
前記室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)が、多段重合により製造されることを特
徴とする請求項1または2に記載の熱成形用シート。
【請求項4】
前記プロピレン・エチレンブロック共重合体(A)が、メタロセン触媒の存在下で重合されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の熱成形用シート。
【請求項5】
前記熱成形用シートが、トレイ用シートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の熱成形用シート。

【公開番号】特開2009−185240(P2009−185240A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28761(P2008−28761)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】