説明

熱抵抗測定装置

【課題】
測定終了時点から次のサンプル交換までの交換時間を短縮し、熱抵抗測定装置の測定効率及び精度を向上する。
【解決手段】
測定サンプル3を加熱軸1と冷却軸2との間に挟み、測定サンプル3の表裏面の温度差と熱量から熱抵抗を求める熱抵抗測定装置において、加熱軸1及び冷却軸2にそれぞれ取り付けられ冷媒が流れる冷却ジャケット4,8と、加熱軸1と冷却軸2の後方に設けられ、加熱軸1と冷却軸2とに冷却空気を吹き付ける冷却ファン56と、加熱軸1と冷却軸2を取り囲む様に設置可能とされ、かつ分割された断熱材6と、断熱材6を移動させる断熱材移動機構と、を備え、測定サンプル3を加熱軸1と冷却軸2との間に挟み込んだ後、断熱材6は、断熱材移動機構によって加熱軸1と冷却軸2とを取り囲むように移動される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定サンプルを加熱軸と冷却軸との間に挟み、そのサンプルに所望の熱量を流し、その表裏面の温度差から熱抵抗値などを求める熱抵抗測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンピュータ用CPUや小型電子部品の冷却性能向上のために、熱伝導グリースや熱伝導シートなどの高分子材料が多用され、また、その開発も盛んに行われている。そのため、熱伝導グリースや熱伝導シートの熱抵抗や熱伝導率などの熱物性を高精度で評価できる評価装置が用いられ、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−121397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術のような熱伝導グリースや熱伝導シートなどの熱抵抗や熱伝導率を高精度で測定する熱抵抗測定装置において、多数のサンプルを連続測定する場合、サンプル交換時に測定部の温度を所望の温度まで低下させるための時間が長く、測定効率が低い。
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、測定終了時点から次のサンプル交換までの交換時間を短縮し、熱抵抗測定装置の測定効率及び精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、測定サンプルを加熱軸と冷却軸との間に挟み、前記加熱軸から前記冷却軸方向に所望の熱量を流し、測定サンプルの表裏面の温度差と熱量から前記測定サンプルの熱抵抗を求める熱抵抗測定装置において、前記加熱軸及び前記冷却軸の反前記測定サンプル側にそれぞれ取り付けられ冷媒が流れる冷却ジャケットと、前記加熱軸と冷却軸の後方に設けられ、前記加熱軸と冷却軸とに冷却空気を吹き付ける冷却ファンと、前記加熱軸と前記冷却軸を取り囲む様に設置可能とされ、かつ分割された断熱材と、前記断熱材を移動させる断熱材移動機構と、を備え、前記測定サンプルを前記加熱軸と前記冷却軸との間に挟み込んだ後、前記断熱材は、前記断熱材移動機構によって前記加熱軸と前記冷却軸とを取り囲むように移動されるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、測定終了後の加熱軸と冷却軸を高速で冷却できるため、測定サンプル交換の時間が大幅に短縮でき、測定効率が向上できる。また、連続して同一サンプルを測定する場合、初回測定終了後から次回測定開始までの時間が短くなるため、測定誤差を少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明による一実施形態の熱抵抗測定装置の全体構成を説明する。
図1は、ベース板22に4本の支柱21とZ軸ステージ13が固定設置され、支柱21には、デジタル隙間検出器発光部11,デジタル隙間検出器12,上部プレート15が固定され、上部プレートには、ロードセル10が取り付けてある。
中間プレート17は、支柱21に沿って上下方向に移動できる様な構造であり、中間プレート17には、加熱軸1,加熱軸側ヒータブロック5,加熱軸側冷却ジャケット4(例えば、細い金属製の管の中に冷媒を流し、循環させる構造)および加熱軸側断熱材6より成る加熱ユニットが固定設置されている。また、Z軸ステージ13には、冷却軸2,冷却軸側ヒータブロック7,冷却軸側冷却ジャケット8および冷却軸側断熱材9からなる冷却ユニットが固定設置されている。更に、加熱軸1と冷却軸2には、各軸の温度勾配を測るための熱電対が複数本取り付けてある。
【0009】
また、加熱軸1および冷却軸2の測定サンプル3を挟む面の形状は同じで、同一面積であることが望ましく(例えば測定サンプルを挟む面積としては、10mm2 )また、測定上、ゆがみ,ひずみが生じている状態では測定値に影響を及ぼすため、両方の面が均一に接触する様に製作する必要がある。
安全カバー14は測定部分の前方および左右部分を覆ったL字型のものであり、測定中のけがや高温測定時の火傷を防ぐために装着する。材質は特定しないが、測定サンプル3の設定温度に耐えられる耐熱性のあるものであればよい。アルミ製あるいはアクリル製を使用することが良く、測定には全く影響がみられない。
Z軸ステージ13の移動中、および測定作業中、また、測定終了後でも測定サンプル温度が50℃以上の場合は、ロックがかかり、安全カバーが外れないようにしている。
【0010】
軸周辺断熱材は、加熱ユニットと冷却ユニットを取り囲む様に設置してある。なお、使用する断熱材は例えばグラスファイバーをベースにした硬度の高いものを材質としている。
【0011】
図2は熱抵抗測定装置本体34と周辺機器との接続図を示している。
制御ユニット36には主として加熱軸1,冷却軸2の温度データを取り込み、パソコン
35に送信するデータロガーと、加熱軸1,冷却軸2に取り付けた熱電対用の温度基準を設定する基準零接点装置と、測定動作の制御を行うシーケンサと、設定した電力を元に制御する直流安定化電源等の制御装置を備えている。熱抵抗測定装置本体34と制御ユニット36とは25から31までの7本のケーブルで接続してある。その内、30と31は熱電対から送られてくる測定温度のデータ管理用である。また、恒温槽38は入力用と出力用の2本の配水チューブ(32,33)により、熱抵抗測定装置本体34に冷媒を供給している。途中、出力用の配水チューブ32には流量調整バルブ37を通して、水量を調整している。
【0012】
図3は冷却ユニットと加熱ユニットの構造であり、加熱ユニットの加熱軸1の測定部と反対側の面に、熱抵抗が小さくなる様に、まず、加熱軸側ヒータブロック5が接続され、さらに加熱軸側冷却ジャケット4が接続されている。加熱軸側冷却ジャケット4には、冷媒を加熱軸側冷却ジャケット4内に流すための出入口が設けてある。同様に、冷却ユニットの冷却軸1の測定部と反対側の面に、熱抵抗が小さくなる様に、冷却軸側ヒータブロック7が接続され、冷却軸側冷却ジャケット8が接続されている。冷却軸側冷却ジャケット8には、冷媒を冷却軸側冷却ジャケット8内に流すための出入口が設けてある。
【0013】
次に、冷却ジャケット内への冷媒の流し方を説明する。恒温槽38からの温調された冷媒を、流量調整バルブ39,40を用いて、加熱軸側冷却ジャケット4と冷却軸側冷却ジャケット8に流れる流量を調整し、所望の量になる様に分流する。この分流された冷媒は、各冷却ジャケット内を流れることで、加熱ユニットおよび冷却ユニットに蓄積された熱を受熱,温度上昇し、各冷却ジャケットから流出し、恒温槽38に戻る。
【0014】
図4から図6を用いて、断熱材の構造と冷却ファンの取り付け位置を説明する。図5は、図4のA−A矢視図である。
断熱材は、4分割された形状で、加熱軸1と冷却軸2を取り囲む様に設置してある。但し、図5では冷却軸2が加熱軸1に隠れるため図示していない。それぞれの軸周辺断熱材49,50,53,54には、断熱材を移動させるための移動用取手47,48,51,52が取り付けてある。この移動用取手はねじ込み式構造のため、軸周辺断熱材への取り付け,取り外しが容易に可能である。
【0015】
加熱軸1,冷却軸2および測定サンプル3は4本の軸周辺断熱材49,50,53,
54に覆われ、隙間からしか目視できない。前方左側断熱材49と前方右側断熱材50の隙間が生じているが、極僅かであり、他の断熱材の間も同様である。更には安全カバー
14によって外気とほぼ遮断されているため、測定終了後に測定サンプル3の温度降下に多くの時間が必要となる。
【0016】
冷却ファン56(例えば、縦横40mm,厚さ10mm程度が望ましい)は軸周辺断熱材の外側で、加熱軸1と冷却軸2の後方に設置してある。冷却ファン56は最も温度が高くなる加熱軸1を集中的に冷やすため、加熱軸1の後方に1個だけ示したが、加熱軸1および冷却軸2に沿って複数個設置してもよい。また、図6に示す様に、冷却ファン56は、背面カバー55に取り付けてあり、背面カバー55はベース22に固定してある。
【0017】
次に図7および図8を用いて、測定終了後の軸周辺断熱材の移動方法について説明する。図7は測定終了後に移動用取手47,48,51,52を横方向に引いた状態を示したものである。図8は、図7のA−A矢視図である。
移動用取手47,48,51,52を左右に引く事により、軸周辺断熱材49,50,53,54が横方向に移動し、加熱軸1および冷却軸2の周辺に空気流路が形成される。この空気流路を設けることにより、冷却ファン56からの冷却空気が、加熱軸1と冷却軸2の周りを滑らかに流れる様になり、加熱軸1と冷却軸2の温度を迅速に冷やすことが可能となる。但し図8では冷却軸2が加熱軸1に隠れるため図示していない。なお、移動用取手を横に引く動作を手動で行う場合の説明をしたが、もちろん、モータなどで、動かすことで良い。
【0018】
次に熱抵抗測定装置の測定原理について図9で説明する。
加熱軸1と冷却軸2の間に測定サンプル3を挟んだ状態で、一定の熱量Qを加熱軸1から冷却軸2方向に流すと、加熱軸1と冷却軸2に温度分布(勾配)が発生する。この温度分布を、例えば、各軸の測定サンプルを挟む側の先端からいずれも一定の距離を置き、等間隔に取り付けた熱電対41〜46で検出する。熱電対の本数は、図9では加熱軸1と冷却軸2に各3個ずつ記載しているが、温度分布が把握できる本数であればよい。
【0019】
測定した温度分布から、加熱軸1と測定サンプル3の接触部分の温度Thと、冷却軸2と測定サンプル3の接触部分の温度Tcを推定し、その差分を分子とし、流した熱量Qで除することにより、界面の接触熱抵抗を含む測定サンプルの熱抵抗Rを求めることができる。式で表わすと以下の通りである。
R=(Th−Tc)/Q
測定方法を図1から図8を用いて、以下説明する。
Z軸ステージ13を上昇させることにより、冷却軸2の測定面を加熱軸1のそれと接触させるまで近づける。
一定の荷重がかかって、両軸の測定面が接触した状態をデジタル隙間検出器12で検出し、そこをゼロ基準と位置付け、以降、測定中はゼロの状態からどれだけ変化しているかをデジタル表示させる。
【0020】
次に測定サンプルを両軸の間に挟むため、Z軸ステージ13を降下させる。降下させる位置は任意に設定可能だが、作業性を考慮した位置まで下げることが望ましい。測定サンプル3は、与えた熱量が確実に測定サンプルに伝わる様に、予め両軸の測定面と同一の寸法に揃えておく。また、測定サンプルの材質,表面形状等により、例えば表面の凹凸が顕著な場合、直接両軸の測定面と接触すると隙間に空気が入り、測定サンプル自体の測定値が正確に算出できないと判断した場合は、測定サンプルと両軸の測定面に、緩衝材として熱抵抗の極めて小さいグリース等を塗布した状態で測定する。その際は、予め使用するグリース等の熱抵抗値を本装置で測定し、測定サンプルの測定結果として算出された熱抵抗値からその数値を引くことにより、測定サンプル自体の熱抵抗値を求める。
【0021】
測定サンプル3を冷却軸2の測定面に乗せた後に、Z軸ステージ13を上昇させ、加熱軸1の測定面と接触させる。この状態で測定サンプル3が両軸の間から、はみだしたり,位置がずれたり、している場合は、再度Z軸ステージ13を下降させ、再設定する。測定サンプル3が正常に挟まれていることを確認した後に、軸周辺断熱材は各軸を取り囲むように据え付ける。所定の測定条件を充たした時点から測定を始める。測定終了後、加熱ユニットのヒータブロックと冷却ユニットのヒータブロックによる加熱を停止する。
軸周辺断熱材49,50,53,54を移動用取手47,48,51,52を用いて、手動で外方向に移動させ、冷却ファン56を作動させる。
加熱ユニットの加熱軸側冷却ジャケット4と冷却ユニットの加熱軸側冷却ジャケット8に冷媒を流す。これにより、測定終了後の加熱軸1,冷却軸2および測定サンプル3を高速に冷却することができる。
【0022】
測定サンプルが50℃以下になった時点で、Z軸ステージ13を降下させ、安全カバー14を外し、測定サンプル3を取り出し、測定データをファイル形式でパソコン35に自動格納する。
以上の動作を繰り返して、多数の測定サンプルの測定を行う。
本測定方法によれば、測定終了後の加熱軸1,冷却軸2および測定サンプル3を高速に冷却することができるため、測定サンプル交換時間が大幅に短縮でき、測定効率を向上できる。また、連続して同一サンプルを測定する場合、初回測定終了後から次回測定開始までの時間が短くなるため、測定誤差が少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明による一実施の形態である熱抵抗測定装置本体を示す側面図。
【図2】一実施の形態である熱抵抗測定装置のブロック図。
【図3】一実施の形態である冷却ユニットと加熱ユニットを示すブロック図。
【図4】測定時の軸周辺断熱材位置を示す側面図。
【図5】図4のA−A矢視断面図。
【図6】一実施の形態である冷却ファン取り付け位置を示す側面図。
【図7】冷却時の軸周辺断熱材位置を示す側面図。
【図8】図7のA−A矢視断面図。
【図9】熱抵抗測定装置の測定原理を示す説明図。
【符号の説明】
【0024】
1 加熱軸
2 冷却軸
3 測定サンプル
4 加熱軸側冷却ジャケット
5 加熱軸側ヒータブロック
6 加熱軸側断熱材
7 冷却軸側ヒータブロック
8 冷却軸側冷却ジャケット
9 冷却軸側断熱材
10 ロードセル
11 デジタル隙間検出器発光部
12 デジタル隙間検出器
13 Z軸ステージ
14 安全カバー
15 上部プレート
16 リニアブッシュ
17 中間プレート
18 測長計マウント
19 測長計ステージ
20 中間固定ベース
21 本体支柱
22 ベース板
23〜31 接続ケーブル
32,33 配水チューブ
34 熱抵抗測定装置本体
35 パソコン
36 制御ユニット
37 流量調整バルブ
38 恒温槽
39,40 流量調整弁
41〜43 加熱軸側熱電対
44〜46 冷却軸側熱電対
47 移動用取手(左前方側)
48 移動用取手(右前方側)
49 軸周辺断熱材(左前方側)
50 軸周辺断熱材(右前方側)
51 移動用取手(左後方側)
52 移動用取手(右後方側)
53 軸周辺断熱材(左後方側)
54 軸周辺断熱材(右後方側)
55 背面カバー
56 冷却ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定サンプルを加熱軸と冷却軸との間に挟み、前記加熱軸から前記冷却軸方向に所望の熱量を流し、測定サンプルの表裏面の温度差と熱量から前記測定サンプルの熱抵抗を求める熱抵抗測定装置において、
前記加熱軸及び前記冷却軸の反前記測定サンプル側にそれぞれ取り付けられ冷媒が流れる冷却ジャケットと、
前記加熱軸と冷却軸の後方に設けられ、前記加熱軸と冷却軸とに冷却空気を吹き付ける冷却ファンと、
前記加熱軸と前記冷却軸を取り囲む様に設置可能とされ、かつ分割された断熱材と、
前記断熱材を移動させる断熱材移動機構と、
を備え、前記測定サンプルを前記加熱軸と前記冷却軸との間に挟み込んだ後、前記断熱材は、前記断熱材移動機構によって前記加熱軸と前記冷却軸とを取り囲むように移動されることを特徴とする熱抵抗測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のものにおいて、前記断熱材は前記測定サンプルの熱抵抗測定終了後、前記断熱材移動機構により移動され、前記加熱軸と前記冷却軸との取り囲みを開放し、前記加熱軸と前記冷却軸の周辺に前記冷却ファンからの冷却空気の流路を形成することを特徴とする熱抵抗測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載のものにおいて、前記断熱材は前記測定サンプルの熱抵抗測定終了後、前記断熱材移動機構により移動され、前記加熱軸と前記冷却軸との取り囲みを開放し、前記加熱軸と前記冷却軸とを前記冷却ファンからの冷却空気で冷却すると共に、前記冷却ジャケット冷媒を流し、前記加熱軸,前記冷却軸,前記測定サンプルを冷却することを特徴とする熱抵抗測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載のものにおいて、前記断熱材は4分割されたことを特徴とする熱抵抗測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載のものにおいて、前記冷却ファンは前記加熱軸及び前記冷却軸に沿って複数設置されたことを特徴とする熱抵抗測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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