説明

熱硬化型導電性ペースト

【課題】揺変性に優れ、良好な塗布適性を有し、低い比抵抗値を維持しながら、ブリードアウトを抑制することができる熱硬化型導電性ペーストを提供する。
【解決手段】(A)導電性フィラーと、(B)熱硬化性バインダーと、(C)セルロース樹脂と、(D)場合によりアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含む熱硬化型導電性ペーストであって、熱硬化型導電性ペースト中に含まれる(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量が1〜10質量%であり、(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量中の(C)セルロース樹脂の含有量が2〜60質量%であることを特徴とする熱硬化型導電性ペーストである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関し、電子部品の電極や回路パターン、太陽電池の外部電極等に好適に用いることができる熱硬化型導電性ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の電極や回路パターン、太陽電池の外部電極等を形成するために、例えば銀微粒子等の導電性フィラーを含む導電性ペーストが用いられている。
【0003】
近年、電子部品の小型化、高積層化等の要求により、緻密で精密な電極や回路パターンを形成することが望まれている。最近では、基板と導電性ペーストとの組合せにおいて、500℃以上の高温で焼成するタイプの導電性ペーストよりも、100〜300℃の比較的低温で硬化させるタイプの導電性ペーストが適当な場合がある。また、基板と導電性ペーストとの組み合わせにおいて、基板の表面状態が変化することによって、回路パターンまたは電極用に印刷した導電性ペーストに含まれる樹脂成分が基板に滲み出し、この樹脂とともに導電性成分も基板に滲み出す、いわゆるブリードアウトと呼ばれる現象が生じ、緻密で精密な電極や回路パターンを形成することができない場合がある。
【0004】
例えば(a)熱硬化性樹脂であるアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル化合物、(b)ラジカル開始剤、(c)分子中に燐原子を含む有機チタン化合物及び(d)充填材を含有し、(c)分子中に燐原子を含む有機チタン化合物によって、樹脂と充填材との親和性を向上させてブリードアウトを抑制するダイボンディング材用樹脂ペースト組成物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−283199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているように、ダイボンディング材用樹脂ペーストは、ブリードアウトを抑制するための改善がなされている。しかしながら、ダイボンディング材の用途以外にも、電子部品の電極や回路パターン、太陽電池の外部電極等に用いる熱硬化型導電性ペーストにもブリードアウトを抑制する改善が求められている。
【0007】
本発明は、100〜300℃程度の比較的低温で硬化が可能である熱硬化型導電性ペーストにおいて、揺変性に優れ、良好な塗布適性を有し、熱硬化型導電性ペーストによって形成される電極等の低い比抵抗値を維持したまま、ブリードアウトを抑制することができる熱硬化型導電性ペーストを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、比較的低温で硬化が可能な熱硬化型導電性ペーストに、特定量のセルロース樹脂を含有させることによって、揺変性に優れ、良好な塗布適性を有し、導電性ペースト中の樹脂とともに導電性フィラーが基板に滲み出す、いわゆるブリードアウトを抑制することができ、低い比抵抗値を維持した電極や回路パターンの形成が可能となることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)導電性フィラーと、(B)熱硬化性バインダーと、(C)セルロース樹脂と、(D)場合によりアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含む熱硬化型導電性ペーストであって、熱硬化型導電性ペースト中に含まれる(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤樹脂と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量が1〜10質量%であり、(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量中の(C)セルロース樹脂の含有量が2〜60質量%であることを特徴とする熱硬化型導電性ペーストに関する。
本発明は、(C)セルロース樹脂がエチルセルロースである、前記熱硬化型導電性ペーストに関する。
本発明は、(B)熱硬化性バインダーがエポキシ樹脂を含み、さらにエポキシ樹脂中に3官能以上のエポキシ樹脂を50質量%以上含む、前記熱硬化型導電性ペーストに関する。
本発明は、(A)導電性フィラーが銀または銀を含む合金からなるものであってもよく、さらに(F)溶剤を含んでいてもよい、前記熱硬化型導電性ペーストに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、100〜300℃程度の比較的低温で硬化が可能な熱硬化型導電性ペーストによって形成される電極等の低い比抵抗値を維持したまま、ブリードアウトを抑制することができる熱硬化型導電性ペーストを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】塗布適性試験に使用するチップインダクタの端面の概略構成を説明する図である。
【図2】本発明の熱硬化型導電性ペースト(実施例7)を線幅が100μmとなるようにスクリーン印刷した状態を示す20倍のCCD写真である。
【図3】本発明の熱硬化型導電性ペースト(実施例8)を線幅が100μmとなるようにスクリーン印刷した状態を示す20倍のCCD写真である。
【図4】本発明の熱硬化型導電性ペースト(実施例9)を線幅が100μmとなるようにスクリーン印刷した状態を示す20倍のCCD写真である。
【図5】本発明の熱硬化型導電性ペースト(実施例10)を線幅が100μmとなるようにスクリーン印刷した状態を示す20倍のCCD写真である。
【図6】本発明の熱硬化型導電性ペースト(実施例14)を線幅が100μmとなるようにスクリーン印刷した状態を示す20倍のCCD写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、(A)導電性フィラーと、(B)熱硬化性バインダーと、(C)セルロース樹脂と、(D)場合によりアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含む熱硬化型導電性ペーストであって、熱硬化型導電性ペースト中に含まれる(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤樹脂と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量が1〜10質量%であり、前記合計量中の(C)セルロース樹脂の含有量が2〜60質量%であることを特徴とする熱硬化型導電性ペーストに関する。
【0013】
熱硬化型導電性ペーストに含まれる(A)導電性フィラーにより、硬化後の導電性が得られる。(A)成分は、特に限定されず、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、スズ(Sn)及びこれらの合金等の金属微粉末や金、銀、パラジウムでコーティングされた無機フィラーが挙げられ、好ましくは銀または銀を含む合金である。これらの形状は、特に限定されず、球状、リン片状等が挙げられ、好ましくはリン片状のものを使用することができ、平均粒径としては5〜15μmのものが好ましい。(A)成分は、単独のものを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書における平均粒径は、金属微粉末の形状にかかわらず、レーザー回折法によって測定した体積基準のメジアン径をいう。
【0014】
熱硬化型導電性ペースト中の(A)導電性フィラーの含有量は、好ましくは90〜99質量%、より好ましくは93〜99質量%、さらに好ましくは96〜98質量%である。熱硬化型導電性ペースト中の(A)導電性フィラーの含有量が上記範囲内であると、100〜300℃の比較的低温で硬化が可能な熱硬化型導電性ペーストによって形成される電極等の低い比抵抗値を維持することができる。
【0015】
熱硬化型導電性ペーストに含まれる(B)熱硬化性バインダーは、熱硬化性樹脂と、必要であれば硬化剤等を含み、100〜300℃の低温で硬化させることが可能なものであることが好ましい。
【0016】
(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂としては、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、脂環式等のエポキシ樹脂;オキセタン樹脂;レゾール型、ノボラック型のようなフェノール樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独のものを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、エポキシ樹脂、フェノール樹脂が好ましい。
【0017】
(B)熱硬化性バインダーに含まれるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、フェノールノボラック型、ベンゼン環を多数有した多官能型であるテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型またはトリス(ヒドロキシフェニル)メタン型、ビフェニル型、トリフェノールメタン型、ナフタレン型、オルソノボラック型、ジシクロペンタジエン型、アミノフェノール型、脂環式等のエポキシ樹脂、シリコーンエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、単独のものを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルのようなビスフェノールA型エポキシ樹脂、p−グリシドキシフェニルジメチルトリルビスフェノールAジグリシジルエーテルのような分岐状多官能ビスフェノールA型エポキシ樹脂、α−2,3−エポキシプロポキシフェニル−ω−ヒドロポリ(n=1〜7)[2−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンジリデン−2,3−エポキシプロポキシフェニレン]のようなトリフェノールメタン型エポキシ樹脂、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂が好ましい。
【0018】
エポキシ樹脂は、体積収縮により抵抗を比較的小さくすることができるため3官能以上のエポキシ樹脂を含むことが好ましく、(B)熱硬化性バインダーに含まれるエポキシ樹脂100質量%のうち、3官能以上のエポキシ樹脂の含有量が50質量%以上であることが好ましい。ここで、3官能以上のエポキシ樹脂とは、3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂をいう。(B)エポキシ樹脂中の3官能以上のエポキシ樹脂の含有量は、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは60〜100質量%以上である。(B)熱硬化性バインダーに含まれるエポキシ樹脂100質量%に対して、3官能以上のエポキシ樹脂の含有量が50質量%以上であると、体積収縮により抵抗を比較的小さくすることができる。3官能以上のエポキシ樹脂としては、トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型固形エポキシ樹脂(エポキシ当量169〜179g/eq)、p−アミノフェノール型液状エポキシ樹脂(エポキシ当量90〜150g/eq)、1,1,2,2−テトラキス(ヒドロキシフェニル)エタン型エポキシ樹脂(エポキシ当量169g/eq)、α−2,3−エポキシプロポキシフェニル−ω−ヒドロポリ(n=1〜7)[2−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンジリデン−2,3−エポキシプロポキシフェニレン]、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(例えばDIC社製「エピクロンN-665-EXP」 エポキシ当量198〜208g/eq)等が挙げられる。
【0019】
エポキシ樹脂の硬化機構としては、フェノール樹脂をエポキシ樹脂の硬化剤として機能させることが好ましく、アミン類またはイミダゾール類のような硬化促進剤を用いてもよい。
【0020】
フェノール樹脂としては、エポキシ樹脂の硬化剤として通常用いられるフェノール樹脂初期縮合物であればよく、レゾール型でもノボラック型でもよいが、その50質量%以上がアルキルレゾール型、アルキルノボラック型、アラルキルノボラック型のフェノール樹脂、キシレン樹脂またはアリルフェノール樹脂であることが好ましい。また、アルキルレゾール型フェノール樹脂の場合、優れた塗布適性を得るためには、平均分子量が2,000以上であることが好ましい。これらのアルキルレゾール型またはアルキルノボラック型フェノール樹脂において、アルキル基としては、炭素数1〜18のものを用いることができ、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、デシルのような炭素数2〜10のものが好ましい。
【0021】
(B)熱硬化性バインダー中のフェノール樹脂のフェノール性水酸基のモル数/エポキシ樹脂のエポキシ基のモル数は、好ましくは0.7〜1.3、より好ましくは0.8〜1.2、さらに好ましくは0.9〜1.1である。(B)熱硬化性バインダー中のフェノール性水酸基のモル数/エポキシ基のモル数が上記範囲内であれば、未反応物を少なくすることができるので好ましい。
【0022】
硬化促進剤としては、特に限定されず、公知のものを使用することができるが、アミン系硬化促進剤及び/または変性イミダゾール系硬化促進剤を使用することが好ましい。硬化促進剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
アミン系硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等のイミダゾール化合物、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデンセン−7等の3級アミン等が挙げられる。具体的には、2−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、ベンジルジメチルアミン等が好ましい。
【0024】
変性イミダゾール系促進剤としては、エポキシ−イミダゾールアダクト系化合物やアクリレート−イミダゾールアダクト化合物が使用できる。エポキシ−イミダゾールアダクト系化合物として市販されているものとしては、例えば味の素ファインテクノ社製・「アミキュアPN−23」、同社製「アミキュアPN−40」、旭化成社製・「ノバキュアHX−3721」、あるいは、富士化成工業社製・「フジキュアFX−1000」等が挙げられる。また、アクリレート−イミダゾールアダクト系化合物として市販されているものとしては、例えばADEKA社製・「EH2021」等が挙げられる。
【0025】
(B)熱硬化性バインダーには、熱硬化性樹脂や硬化剤の種類や量により、また、素子や基板への印刷性や塗布適性、細部への充填等を考慮して、熱硬化型導電性ペーストが適切な粘度となるように粘度調整のために、溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、アルコール類(例えばターピネオール、α−ターピネオール、β−ターピネオール等)、エーテル類(例えばエチルカルビトール、ブチルカルビトール等)、エステル類(例えばヒドロキシ基含有エステル類、2,2,4―トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチラート、ブチルカルビトールアセテート等)等が挙げられる。例えばスクリーン印刷に適用する場合には、ブルックフィールド製B型粘度計(10rpm)を用いて、20℃の熱硬化型導電性ペーストの粘度が200〜300Pa・sになるように溶剤を添加することが好ましく、浸漬塗工する場合には、20℃の熱硬化型導電性ペーストの粘度が25〜40Pa・sになるように溶剤を添加することが好ましい。
【0026】
本発明の熱硬化型導電性ペーストには、さらに(D)場合によりアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含んでいてもよい。アクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含有させることで、硬化膜の応力を緩和させ接着性を向上することができる。アクリロニトリル・ブタジエン共重合体としては、両末端にカルボキシル基を有する一般式R[(CHCH=CHCH){CHCH(CN)}R(式中、Rはカルボキシル基を表し、xは1〜8、yは1〜5、zは1〜15を表す。)で示される末端カルボキシル基アクリロニトリル・ブタジエン共重合体であることが好ましく、エラストマーの相溶性の観点からも好ましい。末端カルボキシル基アクリロニトリル・ブタジエン共重合体は、数平均分子量が3,000〜5,000、アクリロニトリル含有量が、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体の全体量に対して0〜30質量%のものが、熱硬化型導電性ペーストの粘性、応力緩和特性の点から好ましい。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により、標準ポリスチレンによる検量線を用いた値とする。
【0027】
熱硬化型導電性ペースト中のアクリロニトリル・ブタジエン共重合体の含有量は、好ましくは0〜0.8質量%、より好ましくは0.1〜0.7質量%、特に好ましくは0.3〜0.6質量%である。熱硬化型導電性ペースト中のアクリロニトリル・ブタジエン共重合体の含有量が上記範囲内であると、硬化膜の応力を緩和させ、熱硬化型導電性ペーストの接着性を向上することができる。
【0028】
熱硬化型導電性ペーストには、(C)セルロース樹脂が含まれる。(C)セルロース樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、アセチルセルロース等が挙げられる。中でも、エチルセルロースであることが好ましい。エチルセルロースは、粘度が5〜20mPa・sのエチルセルロース(低粘度エチルセルロース)でもよく、粘度が100〜300mPa・sのエチルセルロース(高粘度エチルセルロース)でもよい。なお、エチルセルロースの粘度は、トルエン:エタノールの比率が80:20である混合液にエチルセルロースが5質量%になるように溶解した溶液をASTM D914に準拠して測定した値である。
【0029】
熱硬化型導電性ペースト中の(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量が1〜10質量%である。
【0030】
熱硬化型導電性ペースト中の(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量は、より好ましくは1〜8質量%、さらに好ましくは1〜7質量%、特に好ましくは1〜5質量%である。前記合計量が1質量%未満であると、硬化膜の強度が小さくなり、10質量%を超えると、熱硬化型導電性ペーストにより形成された電極等の低抵抗値を維持することが困難となる。
【0031】
(C)セルロース樹脂の含有量は、(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量100質量%に対し、2〜60質量%、より好ましくは5〜60質量%、さらに好ましくは10〜55質量%である。(C)セルロース樹脂の含有量が、前記合計量100質量%に対し、2質量%未満であると、塗布適性が低下し、60質量%を超えると、熱硬化型導電性ペーストによって形成される電極等の低い比抵抗値を維持することが困難になる。
【0032】
塗布適性をより良好にするためには、(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量100質量%に対して、(C)セルロース樹脂の含有量は、好ましくは2〜60質量%、より好ましくは5〜50質量%である。(C)セルロース樹脂の含有量が、前記範囲内であると、揺変性及び塗布適性に優れる。ここで揺変性は、熱硬化型導電性ペースト中の(A)導電性フィラー等の良好な分散性が維持され、適度なチキソトロピー性を有することを示し、揺変指数の値が小さいほど好ましい。
【0033】
ブリードアウトをより抑制するためには、(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量100質量%に対して、(C)セルロース樹脂の含有量は、好ましくは15〜60質量%、より好ましくは20〜50質量%、さらに好ましくは30〜45質量%である。(C)セルロース樹脂の含有量が前記範囲内であると、良好な塗布適性を維持し、かつ、熱硬化型導電性ペーストによって形成される電極等の低い比抵抗値を維持したまま、ブリードアウトを抑制することができる。
【0034】
本発明の熱硬化型導電性ペーストには、(E)その他の成分として、さらにカップリング剤や添加剤等を含んでいてもよい。
【0035】
熱硬化型導電性ペーストにカップリング剤を含有させることで、導電フィラーの分散性を向上させることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤を使用することができる。シランカップリング剤は、特に限定されず、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン、p−スチリルトリメトキシシラン等のスチリル基含有シラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアルコキシ基含有シラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シラン等を使用することができる。中でも、芳香環を含まないものが好ましく、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシジル基含有シランを好ましく使用することができる。なお、(d)シランカップリング剤は、単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0036】
熱硬化型導電性ペースト中のカップリング剤の含有量は、導電フィラーの分散性の観点から、導電フィラー量に対し、好ましくは0.05〜0.5質量%、より好ましくは0.1〜0.3質量%である。
【0037】
本発明の熱硬化型導電性ペーストには、さらに必要に応じて、可塑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、安定剤、密着促進剤等を添加剤として配合することができる。
【0038】
本発明の熱硬化型導電性ペーストは、配合成分を、らいかい機、プロペラ撹拌機、ニーダー、ロール、ポットミルなどのような混合手段により、均一に混合して調製することができる。調製温度は、特に限定されず、例えば10〜40℃で調製することができる。
【0039】
本発明の熱硬化型導電性ペーストは、スクリーン印刷、グラビア印刷、ディスペンス、ディッピングなど、任意の方法で基板に印刷または塗布することができる。熱硬化型導電性ペーストに溶剤を用いる場合には、印刷または塗布の後、常温で、または加熱によって、該溶剤を揮散させることが好ましい。さらに、熱硬化型導電性ペースト中に含まれる樹脂、硬化剤及び硬化触媒に種類に応じて、通常70〜250℃、例えばフェノール樹脂を硬化剤として用いるエポキシ樹脂の場合、150〜200℃で2〜30分加熱して硬化させて、基板表面の必要な部分に、導電回路を形成させることができる。
【0040】
本発明の熱硬化型導電性ペーストを印刷または塗布する基材としては、シリコン基板、ポリイミドフィルム、PETフィルム、FR4基板が挙げられる。表面にITO膜を有する基板は、導電性ペーストのブリードアウトが生じ易い。本発明の熱硬化型導電性ペーストは、ブリードアウトを抑制することができるので、例えば表面にITO膜を有する基板に適用することが好ましい。
【0041】
本発明の熱硬化型導電性ペーストは、基板上に適用したペーストのブリードアウトを抑制することができるので、太陽電池用電極、チップ部品用外部電極、ダイボンディング剤等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を更に詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
熱硬化型導電性ペーストを構成する各成分は以下のものを用いた。
(A)導電性フィラー
リン片状銀(Ag)粉、平均粒径10μm
(B)熱硬化性バインダー
[熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂)]
ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルエポキシ樹脂、エポキシ当量910〜970g/eq
変性エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業社製、商品名:EPICLON EXA−4850−150)、エポキシ当量350〜550g/eq
[熱硬化性樹脂(3官能以上のエポキシ樹脂)]
多官能エポキシ樹脂1:α−2,3−エポキシプロポキシフェニル−ω−ヒドロポリ(n=1〜7)[2−(2,3−エポキシプロポキシ)ベンジリデン−2,3−エポキシプロポキシフェニレン]、エポキシ当量160〜180g/eq
多官能エポキシ樹脂2: トリス(ヒドロキシフェニル)メタン型固形エポキシ樹脂、エポキシ当量169〜179g/eq
[硬化剤]
フェノール樹脂、軟化点98〜102℃、水酸基(OH)当量104〜106g/eq
[硬化促進剤]
2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール
[溶剤]
ジエチレングリコールモノブチルエーテル
(C)セルロース樹脂
高粘度エチルセルロース、粘度:150〜250mPa・s
低粘度エチルセルロース、粘度:8〜11mPa・s
エチルセルロースの粘度は、トルエン:エタノールの比率が80:20である混合液にエチルセルロースが5質量%になるように溶解した溶液をASTM D914に準拠して測定した。
(D)アクリロニトリル・ブタジエン共重合体
カルボキシ末端アクリルニトリルブタジエン共重合体、数平均分子量:10,000
(E)その他
[カップリング剤]
3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン
【0044】
(実施例1〜5、比較例1〜2)
表1に示す配合割合で、各組成を150℃で三本ロールミルを用いて混練し、実施例1〜5及び比較例1〜2の熱硬化型導電性ペーストを調製した。
【0045】
[塗布適性試験]
図1に示すように、チップインダクタ1(銅内部電極)の端面に、硬化後の厚さが30μm(距離A)程度になるようにesi社製パロマ印刷機(型番:MODEL2001)で、表1に示す組成を有する熱硬化型導電性ペーストを均一に浸漬塗布した後に、塗布面2の凹凸を光学顕微鏡にて10倍で観察した。凸部の頂点から凹部の底点までの距離Bが1μm未満の場合を○、1〜3μmの場合を△、3μmを超える場合を×とした。結果を表1に示す。
【0046】
[揺変指数の測定方法]
熱硬化型導電性ペーストの粘度をブルックフィールド製B型粘度計を用いて20℃で測定した。5rpm時と50rpm時の測定値の比(5rpm/50rpm)をもって揺変指数とした。
【0047】
[比抵抗値の測定方法]
熱硬化型導電性ペーストを、表面がITO処理されたシリコン基板上に、スクリーン印刷機で、ステンレス290メッシュ、乳剤厚20μmのスクリーンを用いて、クリアランス1.5mm、印圧0.32MPa、スキージ角70°、スキージ速度150mm/秒で、0.1×150mmのパターンを印刷した。この印刷されたパターンを、熱風乾燥機を用いて200℃で30分間硬化させた。硬化後の線状パターンの比抵抗値を、LCRメーターを用いて4端子法で測定し、硬化後の線状パターンの断面積を、三次元形状測定装置(MITANI CORPORATION社製)を用いて測定した。
【0048】
[粘度の測定方法]
熱硬化型導電性ペーストの粘度を、ブルックフィールド製B型粘度計(10rpm)を用いて20℃で測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表1に示すとおり、実施例1〜5は、揺変指数が5.0以下と適度なチキソトロピー性を有し、塗布適正が良好であることが確認できた。なお、比較例1、2に示すように、特定量のセルロース樹脂を含有していない場合には、塗布適性が実施例1〜5よりも劣るものであった。
【0051】
(実施例6〜15、比較例3〜4)
表2に示す配合割合で、各組成を150℃で三本ロールミルを用いて混練し、実施例6〜15及び比較例3〜4の熱硬化型導電性ペーストを調製した。溶剤は、熱硬化型導電性ペーストの粘度が200〜300Pa・sとなるように添加した。粘度は、ブルックフィールド製B型粘度計(10rpm)を用いて20℃で測定した。
この熱硬化型導電性ペーストを、上記比抵抗値の測定方法と同様にして印刷されたパターンを形成し、この印刷されたパターンを、熱風乾燥機を用いて200℃で30分間硬化させた。硬化後の各熱硬化型導電性ペーストを用いて形成したパターンをCCDイメージセンサー(Charge Coupled Device Image Sensor)を用いて20倍で写真を撮影した。熱硬化型導電性ペーストを用いて形成した線状パターンの写真のうち、実施例7〜10、14をそれぞれ図2〜6に示す。また、上記比抵抗値の測定方法と同様にして、硬化後の線状パターンの比抵抗値を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
[ブリード幅の測定方法]
CCD写真からブリード幅を測定した。結果を図2〜6及び表2に示す。
【0053】
[印刷性試験]
印刷性は、スクリーン印刷した硬化膜の表面の3次元凹凸を凸部の頂部から凹部の底部までの距離を三次元形状測定装置(MITANI CORPOATION社製)を用いて測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2に示すように、実施例6〜15は、良好な印刷性を維持し、かつ、比抵抗値が1.27×10−5(Ω・m)以下の低い比抵抗値を維持したまま、ブリード幅を小さくすることができた。特に、実施例6〜11に示すように、(B)熱硬化性バインダーと(C)セルロース樹脂と(D)アクリロニトリル・ブタジエン共重合体の合計量100質量%に対して、(C)セルロース樹脂の含有量が15〜60質量%の範囲内であると、ブリード幅を82μm以下に小さくすることができ、(C)セルロース樹脂の含有量が20〜50質量%の範囲内であると、ブリード幅を33μm以下とより小さくすることができ、ブリードアウトを抑制することができた。実施例6〜9、14に示すように、セルロース樹脂として低粘度のエチルセルロースを使用した場合であっても、実施例10〜12、15に示すように高粘度のエチルセルロースを使用した場合であっても、ブリードアウトは抑制することができた。実施例6、15に示すように、エポキシ樹脂に含まれる3官能以上のエポキシ樹脂の含有量が50質量%未満であると、やや比抵抗値が上昇した。
一方、比較例3、4に示すように、熱硬化型導電性ペーストの樹脂中のセルロース樹脂の含有量が2〜60質量%の範囲外であると、低い比抵抗値が維持できても、ブリードアウトを抑制することができず、ブリードアウトの抑制ができても、低い比抵抗値が維持できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の熱硬化型導電性ペーストは、低抵抗値を維持したまま、ブリードアウトを抑制することができるので、太陽電池用電極、チップコンデンサ、チップインダクタ、チップ抵抗器等のチップ電子部品用端子電極、ダイボンディング剤等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性フィラーと、(B)熱硬化性バインダーと、(C)セルロース樹脂と、(D)場合によりアクリロニトリル・ブタジエン共重合体を含む熱硬化型導電性ペーストであって、
熱硬化型導電性ペースト中に含まれる(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量が1〜10質量%であり、(B)熱硬化性バインダー中の熱硬化性樹脂及び硬化剤と、(C)セルロース樹脂と、(D)場合により含まれるアクリロニトリル・ブタジエン共重合体との合計量中の(C)セルロース樹脂の含有量が2〜60質量%であることを特徴とする熱硬化型導電性ペースト。
【請求項2】
(C)セルロース樹脂がエチルセルロースである、請求項1記載の熱硬化型導電性ペースト。
【請求項3】
(B)熱硬化性バインダーがエポキシ樹脂を含み、さらにエポキシ樹脂中に3官能以上のエポキシ樹脂を50質量%以上含む、請求項1または2記載の熱硬化型導電性ペースト。
【請求項4】
(A)導電性フィラーが銀または銀を含む合金からなる、請求項1〜3のいずれか1項記載の熱硬化型導電性ペースト。
【請求項5】
さらに(F)溶剤を含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の熱硬化型導電性ペースト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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