説明

熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法及びこれを用いた複合分離膜

【課題】損傷や形状変化を防ぎつつ、効率よくポロゲンを除去することのできる熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法を提供する。
【解決手段】ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シート1からポロゲンを抽出除去する工程において、相対的に低い温度の第1液に熱硬化性樹脂シート1を接触させた後、相対的に高い温度の第2液に熱硬化性樹脂シート1を接触させることによって、ポロゲンの抽出除去を行う。好ましくは、第1液の温度及び第2液の温度は、熱硬化性樹脂シート1のガラス転移温度以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法及びこれを用いた複合分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂多孔シートは、例えば複合半透膜の支持体として用いることができ、この熱硬化性樹脂多孔シート上にポリアミド等からなるスキン層を形成することで複合半透膜として用いることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような多孔シートの製造方法については従来様々な方法が用いられている。例えば、相分離法や抽出法などにおいて、樹脂中に連通孔を開孔する成分を混合し、当該成分を抽出除去することにより多孔シートを形成する方法が知られている。このような技術では従来、溶融押し出し成形や円柱状樹脂ブロックの切削などの方法によって樹脂をシート状に成形した後、一般にポロゲンや可塑剤と言われる開孔剤を樹脂シートから抽出除去することによって多孔シートとしている。この抽出除去の方法としては、各種溶剤や水溶液を用いる方法、超臨界二酸化炭素を用いる方法がある(例えば、特許文献2又は3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−099654号公報
【特許文献2】特開2007−209412号公報
【特許文献3】特開2010−121122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、高温の液体中でポロゲンの抽出除去を試みると樹脂シートが軟化して変形するなどの不具合が生じるため、除去効率を高めることが困難であった。
【0006】
本発明では、ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートからポロゲンを抽出除去して熱硬化性樹脂多孔シートを作製する際に、シートの損傷や形状変化を防ぎつつ、効率よくポロゲンを除去することのできる熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートから前記ポロゲンを抽出除去する工程を含み、
相対的に低い温度の第1液に前記熱硬化性樹脂シートを接触させた後、相対的に高い温度の第2液に前記熱硬化性樹脂シートを接触させることによって、前記ポロゲンの抽出除去を行う、熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法を提供する。
【0008】
ポロゲンの抽出除去は、例えば、順に温度が高くなる複数の液浴に順に浸漬して行うことができる。ポロゲンを抽出除去するための液浴の温度は熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下であることが好ましく、液浴中の液体は水又は水溶液であることが好ましい。さらに、ポロゲンを抽出除去する液浴においては、熱硬化性樹脂シートが最初に接する液浴(第1浴)の温度が30℃以上55℃以下であることが好ましく、第2浴以降の液浴の温度は60℃以上90℃以下であることが好ましい。
【0009】
ポロゲンを抽出除去する液浴は撹拌されて、液体が流動状態であることが好ましく、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂であることが好ましい。さらに、ポロゲンはポリエチレングリコールであることが好ましい。
【0010】
別の側面において、本発明は、
上記本発明の方法によって製造された平均孔径0.01μm〜0.4μmの熱硬化性樹脂多孔シートと、
前記熱硬化性樹脂多孔シートの表面に設けられたポリアミド系スキン層と、
を備えた、複合分離膜を提供する。
【0011】
さらに別の側面において、本発明は、
有孔中空管と、
前記有孔中空管に巻回された積層体と、
を備え、
前記積層体が、上記本発明の複合分離膜と、前記複合分離膜に組み合わされた流路材とを含む、スパイラル型分離膜エレメントを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、ポロゲンを抽出除去する工程において、低温の第1液に熱硬化性樹脂シートを接触させた後、高温の第2液に熱硬化性樹脂シートを接触させる。これにより、シートの損傷及びシートの形状変化を防ぎつつ、効率よくポロゲンを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明におけるポロゲン抽出除去工程の一例を示す概略図
【図2】本発明におけるポロゲン抽出除去工程の別の例を示す概略図
【図3】本発明におけるポロゲン抽出除去工程のさらに別の例を示す概略図
【図4】スパイラル型分離膜エレメントに用いられる積層体の部分切り欠き図
【図5】実施例1で得られたエポキシ樹脂多孔シートの写真
【図6】比較例1で得られたエポキシ樹脂多孔シートの写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0015】
熱硬化性樹脂多孔シートは、典型的には、ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートを作製する工程と、熱硬化性樹脂シートからポロゲンを除去する工程とを実施することにより製造される。
【0016】
ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートを作製する方法は特に限定されない。後述するように、ポロゲンを含む熱硬化性樹脂組成物をシート状に成形した後で硬化工程を実施することによって、熱硬化性樹脂シートが得られる。また、ポロゲンを含む熱硬化性樹脂組成物を用いてブロック状の硬化体を作り、その硬化体をシート状に成形することによって、熱硬化性樹脂シートを得ることもできる。
【0017】
次に、熱硬化性樹脂シートからポロゲンを抽出除去する。詳細には、ポロゲンを溶解しうる処理液を熱硬化性樹脂シートに接触させることによって、熱硬化性樹脂シートからポロゲンを抽出除去する。処理液を熱硬化性樹脂シートに接触させる方法は特に限定されない。処理液(浴液)を保持した液浴に熱硬化性樹脂シートを浸漬する方法が代表的である。すなわち、処理液として第1液及び第2液が、それぞれ、第1浴及び第2浴に保持されているとき、第1浴及び第2浴に熱硬化性樹脂シートをこの順に浸漬することによってポロゲンを抽出除去することができる。この方法によれば、熱硬化性樹脂シートに均一に処理液を接触させることができるので、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を有する樹脂多孔シートを得やすい。
【0018】
一般に液浴中でポロゲンを抽出する場合には、浴液の温度が高い方が、抽出効率が良い。熱硬化性樹脂シートは、ガラス転移温度を超える温度では軟化する。特に、熱硬化性樹脂シートにポロゲンが含まれているので、熱硬化性樹脂シートの見かけ上のガラス転移温度が低い。本実施形態では、順に温度が高くなる複数の液浴に温度が低い方から順に熱硬化性樹脂シートを浸漬してポロゲンの抽出除去を行う。例えば、第1浴の温度を低くし、第2浴以降について順に温度を高くする方法を用いる。詳細には、第1液の温度は、当該第1液に接触させる前(第1浴に浸漬する前)における熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下でありうる。また、第2液の温度は、第1液に接触させた後(第1浴から引き上げた後)かつ当該第2液に接触させる前(第2浴に浸漬する前)における熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下でありうる。複数の液浴は、それぞれ、その液浴を用いてポロゲンを抽出除去する直前の熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下の温度に保たれていることが好ましい。これにより、高効率の抽出除去を実現でき、高品質の熱硬化性樹脂多孔シートが得られる。なお、第1液に接触させた後かつ第2液に接触させる前に、第1液よりも低温の処理液に熱硬化性樹脂シートを接触させてもよい。
【0019】
ポロゲンの抽出除去に用いる浴液としては、ポロゲンと相溶性の高い物質であれば限定されることなく用いることができ、ポロゲンの種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、水、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、THF(テトラヒドロフラン)、これらの混合溶剤、これらの水溶液などが挙げられる。特に後処理が容易である純水を用いることが好ましい。
【0020】
第1液及び第2液は、同じ組成であってもよいし、異なっていてもよい。第1液及び第2液は、それぞれ、水又は水溶液でありうる。第1液の組成及び第2液の組成が同じ場合、図1を参照して後述するように、使用液量に対する廃液量の比率を小さくすることができる。このことは、液浴の数が3以上のときも同様である。
【0021】
浴液(処理液)の温度は、ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度(Tg)を上回らないように設定することが好ましい。ポロゲンが除去されるにつれてガラス転移温度が上昇するため、その温度を上回らないように第2浴以降の浴液の温度を設定することがよい。例えば、第1浴の浴液(第1液)の温度は15℃以上55℃以下(又は30℃以上55℃以下)とすることが好ましい。第2浴の浴液(第2液)の温度は60℃以上90℃以下の範囲で設定することが好ましい。第2浴以降の浴の浴液の温度も60℃以上90℃以下の範囲で設定しうる。なお、第1浴は熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下で出来るだけ高温とすることが好ましい。第2浴以降は浴液の沸点以下であり且つ、熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下の条件において適宜決定すればよい。
【0022】
例えば、(Tg−50℃)〜(Tg)(単位:℃)の温度範囲内に浴液の温度を設定することができる。ガラス転移温度(Tg)は、浴に浸漬する直前(処理液に接触させる直前)の熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度である。
【0023】
各浴への浸漬時間は、ポロゲンの除去程度に応じて適宜設定すればよい。第1浴への浸漬時間は5秒以上120秒以下程度であり、15秒以上60秒以下が好ましい。第1浴への浸漬時間が短すぎるとポロゲンの除去が不十分となり第2浴以降の浴液温度を十分に上げることができず、全体としての除去効率が悪化する場合がある。また、第1浴の浸漬時間が長すぎても、浴液温度が高く除去効率の良い第2浴以降での除去が早い段階でできずに、全体として除去効率が悪化する場合がある。したがって第2浴以降の浸漬時間は限定されるものではないが、5秒以上60秒以下程度であり、10秒以上45秒以下が好ましい。第2浴以降における除去は温度を上げて素早く除去する方法が特に好ましい。
【0024】
全体での液浴数は2つ以上であれば特に限定されるものではないが、多ければ多いほど使用液量と廃液量とが少なくなり、エネルギー効率がよくなるため、ランニングコストが低減できて好ましい。一方で初期費用やメンテナンスの手間を考慮すると、4つ以下が好ましい。
【0025】
各浴液は撹拌又は循環していることが好ましい。ポロゲンを抽出除去するほど浴液中のポロゲン濃度が高くなり、抽出しにくくなるため、浴液中のポロゲン濃度を管理する必要がある。この場合、浴中でポロゲン濃度の偏りが生じないように撹拌することと、浴液の温度を一定に保つことを目的として、浴液を外部循環させることが好ましい。また液浴は、後段になるほどポロゲン濃度が低く、温度が高くなるため、後段の浴液を前段の浴液に流入させてシートの搬送方向とは逆向きに浴液を流動させる対向流手段を用いてもよい。
【0026】
次に、ポロゲンを抽出除去する工程を実施するための装置の構成について図1に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
図1は3浴構成の例について示す。熱硬化性樹脂シート1は45℃の浴液を有する第1浴A、60℃の浴液を有する第2浴B、80℃の浴液を有する第3浴Cを経てポロゲンが抽出除去される。一方で浴液の流動方向は熱硬化性樹脂シート1の流れとは逆向きである。浴液供給部3から80℃に加温された純水が第3浴Cに供給され、各浴間にある浴液流出口2から、第2浴B、第1浴Aへと浴液が移動する。なお、各浴では循環ポンプ4を介して夾雑物除去フィルター5、温度調整器6によって、各浴液の夾雑物の除去、浴液中のポロゲン濃度及び温度の管理が行なわれる。最終的に、浴液は第1浴Aに設けられた浴液排出口7より排出される。
【0028】
熱硬化性樹脂シート1は、長尺の形状を有する。巻き出し位置から巻き取り位置へと搬送中の熱硬化性樹脂シート1が第1浴A、第2浴B及び第3浴Cの中をこの順に通過するように、複数の搬送ローラによって熱硬化性樹脂シート1の搬送経路が定められている。このようにすれば、高い生産性を達成できる。
【0029】
第1浴A、第2浴B及び第3浴Cは、市販の撹拌装置などでそれぞれ撹拌されうる。第1浴Aに保持された第1液、第2浴Bに保持された第2液及び第3浴Cに保持された第3液が流動状態でポロゲンを抽出除去してもよい。このようにすれば、ポロゲンの除去効率を高めることができる。熱硬化性樹脂シート1は、搬送経路に沿って一定の速度で搬送される。ただし、搬送速度が一定である必要はない。熱硬化性樹脂シート1を間欠的に搬送してもよい。
【0030】
図1に示す例では、第1浴Aの中における熱硬化性樹脂シート1の搬送距離が第2浴Bの中における熱硬化性樹脂シート1の搬送距離よりも長い。すなわち、第1浴Aに保持された浴液(第1液)への熱硬化性樹脂シート1の接触時間(詳細には、浸漬時間)が第2浴Bに保持された浴液(第2液)への熱硬化性樹脂シート1の接触時間よりも長い。このようにすれば、第1浴Aにて比較的十分な量のポロゲンが熱硬化性樹脂シート1から除去されるので、第1浴Aを出る頃には熱硬化性樹脂シート1のガラス転移温度も十分に上昇している。そのため、第2浴Bの温度を十分に上げて、第2浴Bでの除去効率を高めることができる。
【0031】
ポロゲンを抽出するための処理液を熱硬化性樹脂シートに接触させる方法は浸漬に限定されない。図2に示すように、熱硬化性樹脂シート1に向けて処理液を噴射してもよい。図2に示す例において、長尺の熱硬化性樹脂シート1は、搬送経路に沿って一定の速度で搬送されている。搬送経路の上流側に第1噴射装置10が配置され、下流側に第2噴射装置12が配置されている。第1噴射装置10から熱硬化性樹脂シート1に向けて、相対的に低い温度の第1液が噴射される。第2噴射装置12から熱硬化性樹脂シート1に向けて、相対的に高い温度の第2液が噴射される。この方法によっても、損傷及び形状変化を防ぎつつ、熱硬化性樹脂シート1から効率よくポロゲンを除去することができる。
【0032】
図1及び図2で説明した方法は、長尺の熱硬化性樹脂シート1を搬送しながらポロゲンを除去する連続処理であり、生産性に優れている。ただし、連続処理は必須でなく、図3に示すようにバッチ処理でポロゲンを除去することも可能である。具体的には、熱硬化性樹脂シート1をスペーサ16とともにコア14に巻き付け、巻回体20を作製する。スペーサ16は、熱硬化性樹脂シート1の周囲に処理液を流通させるための流路を形成する。スペーサ16としては、例えば、ネット又は編み物を使用できる。スペーサ16の構成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイドなどのポリフェニレン樹脂などが挙げられる。
【0033】
次に、巻回体20を圧力容器30に収容し、巻回体20の一方の側面から他方の側面に向かって処理液が流れるように、加圧した処理液を巻回体20の一方の側面に接触させる。処理液は、巻回体20の中でポロゲンを溶かしながら他方の側面に到達する。これにより、熱硬化性樹脂シート1からポロゲンが除去され、多孔シートが得られる。
【0034】
次に、ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートを作製する工程について補足する。まず、熱硬化性樹脂、硬化剤及びポロゲンを含む熱硬化性樹脂組成物を調製する。具体的には、熱硬化性樹脂及び硬化剤をポロゲンに溶解させて均一な溶液(樹脂組成物)を調製する。この溶液から熱硬化性樹脂シートを形成することができる。
【0035】
熱硬化性樹脂としては、硬化剤とポロゲンを用いて連通孔を有する多孔シートを形成可能なものが挙げられる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド、シリコーン樹脂、及びジアリルフタレート樹脂などが挙げられ、特にコストや実用性などの点から、エポキシ樹脂を好ましく用いることができる。
【0036】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、及びテトラキス(ヒドロキシフェニル)エタンベースなどのポリフェニルベースエポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、複素芳香環(例えば、トリアジン環など)を含有するエポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂;脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂肪族グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂などの非芳香族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
樹脂多孔シートは均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を有することが好ましい。エポキシ樹脂のうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するため、さらには耐薬品性や膜強度を確保するためには、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂;脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。特に、エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下であるビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、フルオレン含有エポキシ樹脂、及びトリグリシジルイソシアヌレートからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族エポキシ樹脂;エポキシ当量が6000以下で、融点が170℃以下である脂環族グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及び脂環族グリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の脂環族エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0038】
硬化剤としては、例えば、芳香族アミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルジメチルアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなど)、芳香族酸無水物(例えば、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸など)、フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、複素芳香環含有アミン(例えば、トリアジン環含有アミンなど)などの芳香族硬化剤;脂肪族アミン類(例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、1,3,6−トリスアミノメチルヘキサン、ポリメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ポリエーテルジアミンなど)、脂環族アミン類(イソホロンジアミン、メンタンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、これらの変性品など)、ポリアミン類とダイマー酸からなる脂肪族ポリアミドアミンなどの非芳香族硬化剤が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するため、また膜強度と弾性率を確保するために、分子内に一級アミンを2つ以上有するメタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、及びジアミノジフェニルスルホンからなる群より選択される少なくとも1種の芳香族アミン硬化剤;分子内に一級アミンを2つ以上有するビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、及びビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンからなる群より選択される少なくとも1種の脂環族アミン硬化剤を用いることが好ましい。
【0040】
エポキシ樹脂と硬化剤の組み合わせとしては、芳香族エポキシ樹脂と脂環族アミン硬化剤の組み合わせ、又は脂環族エポキシ樹脂と芳香族アミン硬化剤の組み合わせが好ましい。これらの組み合わせにより、得られるエポキシ樹脂多孔シートの耐熱性が高くなり、複合半透膜の多孔性支持体として好適に用いられる。
【0041】
また、エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合割合は、エポキシ基1当量に対して硬化剤当量が0.6〜1.5であることが好ましい。硬化剤当量が0.6未満の場合には、硬化体の架橋密度が低くなり、耐熱性、耐溶剤性などが低下する傾向にある。一方、1.5を超える場合には、未反応の硬化剤が残留したり、架橋密度の向上を阻害する傾向にある。なお、本発明では、上述した硬化剤の他に、目的とする多孔構造を得るために、溶液中に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、公知のものを使用することができ、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの三級アミン、2−フェノール−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェノール−4,5−ジヒドロキシイミダゾールなどのイミダゾール類などが挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂をシート化する方法としては、特に限定されるものではない。溶融押し出し法や平板上又は平板に挟持して硬化する方法、樹脂硬化体の表面を薄膜状に切削する方法などを必要な生産条件に応じて適宜選択できる。なかでも、表面状態の緻密性の観点から、熱硬化性樹脂、硬化剤、及びポロゲンを含む熱硬化性樹脂組成物の硬化体からなる円柱状樹脂ブロックの表面を、所定厚みで切削して長尺状の熱硬化性樹脂シートを作製した後、シート中のポロゲンを除去する方法を特に好ましく用いることができる。
【0043】
円柱状樹脂ブロックは、例えば、樹脂組成物を円柱状モールド内に充填し、その後、必要により加熱硬化することで作製できる。この際に樹脂架橋体とポロゲンとの相分離により共連続構造が形成される。また、この円柱状モールドを用いて円柱状樹脂ブロックを作製し、その後中心部を打ち抜いて円筒状樹脂ブロックを作製してもよい。
【0044】
樹脂ブロックを硬化させる際の温度及び時間は、エポキシ樹脂の場合、エポキシ樹脂及び硬化剤の種類によっても変わるが、通常15〜150℃程度、時間は10分〜72時間程度である。特に均一な孔形成のためには室温で硬化させることが好ましく、硬化初期温度は20〜40℃程度、硬化時間は1〜48時間であることが好ましい。硬化処理後、エポキシ樹脂架橋体の架橋度を高めるためにポストキュア(後処理)を行ってもよい。ポストキュアの条件は特に制限されないが、温度は室温又は50〜160℃程度であり、時間は2〜48時間程度である。
【0045】
樹脂ブロックの大きさは特に制限されないが、製造効率の観点から直径30cm以上であることが好ましく、より好ましくは40〜150cm程度である。また、ブロックの幅(軸方向の長さ)は、目的とするエポキシ樹脂多孔シートの大きさを考慮して適宜設定することができるが、通常20〜200cmであり、取扱いやすさの観点からは30〜150cm程度であることが好ましい。
【0046】
円柱状樹脂ブロックは円柱軸を中心に回転させながら該ブロックの表面を所定厚みで切削して長尺状の樹脂シートを作製する。切削時のライン速度は、例えば2〜50m/min程度である。切削厚さは特に制限されず、最終製品(多孔シート)の厚さを考慮して適切に設定される。
【0047】
ポロゲンとしては、相分離法の場合、エポキシ樹脂及び硬化剤を溶かすことができ、かつエポキシ樹脂と硬化剤が重合した後、反応誘起相分離可能な水溶性の可塑剤であることが好ましい。例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなどのセロソルブ類、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類、及びポリオキシエチレンモノメチルエーテル、ポリオキシエチレンジメチルエーテルなどのエーテル類などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
これらのうち、均一な三次元網目状骨格と均一な空孔を形成するためには、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、分子量600以下のポリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、及びポリオキシエチレンジメチルエーテルを用いることが好ましく、特に分子量200以下のポリエチレングリコール、分子量500以下のポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを用いることが好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
また、個々のエポキシ樹脂又は硬化剤と常温で不溶又は難溶であっても、エポキシ樹脂と硬化剤との反応物が可溶となる溶剤についてはポロゲンとして使用可能である。このようなポロゲンとしては、例えば臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート5058」)などが挙げられる。
【0050】
ポロゲンを除去した後にエポキシ樹脂多孔シートを乾燥処理等してもよい。乾燥条件は特に制限されないが、温度は通常40〜120℃程度であり、50〜80℃程度が好ましく、乾燥時間は3分〜3時間程度である。
【0051】
熱硬化性樹脂多孔シートの空孔率、平均孔径、孔径分布などは、使用する樹脂、硬化剤、ポロゲンなどの原料の種類や配合比率、及び反応誘起相分離時における加熱温度や加熱時間などの反応条件により変化する。そのため、目的とする空孔率、平均孔径、孔径分布を得るために系の相図などを作成して最適な条件を選択することが好ましい。また、相分離時における樹脂架橋体の分子量、分子量分布、系の粘度、架橋反応速度などを制御することにより、樹脂架橋体とポロゲンとの共連続構造を特定の状態で固定し、安定した多孔構造を得ることができる。
【0052】
熱硬化性樹脂多孔シートを複合分離膜の支持体として用いる場合、樹脂多孔シートの平均孔径は0.01〜0.4μm程度とすることが好ましく、0.05〜0.2μmとすることが特に好ましい。この平均孔径に調整するためには、樹脂、硬化剤、及びポロゲンの総重量に対してポロゲンを40〜80重量%程度用いることが好ましく、さらに好ましくは60〜70重量%程度である。このとき、ポロゲンの量が少なすぎると平均孔径が小さくなりすぎ、さらには空孔が形成されなくなる傾向にある。一方、ポロゲンの量が多すぎると平均孔径が大きくなりすぎるため、複合分離膜を製造する場合に均一なスキン層が形成しにくくなり、分離性能が著しく低下する傾向にある。他の方法としては、エポキシ樹脂を用いる場合は特に、エポキシ当量の異なる2種以上のエポキシ樹脂を混合して用いる方法も好適である。その際、エポキシ当量の差は100以上であり、常温で液状のエポキシ樹脂と固形のエポキシ樹脂を混合して用いることが好ましい。
【0053】
なお、空孔率は、以下の方法で測定できる。まず、測定対象を一定の寸法(例えば、直径6cmの円形)に切断し、その体積及び重量を求める。得られた結果を次式に代入して空孔率を算出する。
空孔率(%)=100×(V−(W/D))/V
V:体積(cm3
W:重量(g)
D:構成成分の平均密度(g/cm3
【0054】
熱硬化性樹脂シートを支持体として用いた複合分離膜としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂多孔シート上にポリアミド系スキン層を形成した複合半透膜が挙げられる。このエポキシ樹脂多孔シートの表面にスキン層を形成する場合、エポキシ樹脂シートが疎水性であるために、スキン層を形成する表面側に大気圧プラズマ処理やアルコール処理などの表面改質処理(例えば、親水性の向上、表面粗さの増大など)を施すことが好ましい。この処理を行うことによりエポキシ樹脂多孔シートとスキン層の密着性が向上し、スキン層浮き(エポキシ樹脂多孔シートとスキン層の間に水が浸入するなどして、スキン層が半円状に膨らむ現象)などが生じ難い複合半透膜を製造することができる。
【0055】
大気圧プラズマ処理は、窒素ガス、アンモニアガス、又はヘリウム、アルゴンなどの希ガスの存在雰囲気下において、0.1〜7.5W・sec/cm2程度の放電強度で行うことが好ましい。また、アルコール処理は、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、又はt−ブチルアルコールなどの1価アルコールを0.1〜90重量%含む水溶液を塗布するか、又は該水溶液中に浸漬して行うことが好ましい。
【0056】
熱硬化性樹脂多孔シートの厚さは特に制限されず、例えば、10〜300μm程度である。熱硬化性樹脂多孔シートの厚さが当該範囲内にあることによって、次の利益が得られる。熱硬化性樹脂多孔シートがエポキシ樹脂多孔シートである場合には、熱硬化性樹脂多孔シートをデバイスセパレータ、水処理膜などに好適に使用できる。デバイスセパレータ用途においては、エポキシ樹脂多孔シートの厚さは、例えば、10〜50μmであり、好ましくは15〜40μmである。複合逆浸透膜の支持体などの水処理膜用途においては、エポキシ樹脂多孔シートの厚さは、例えば、30〜250μmであり、好ましくは50〜200μmである。
【0057】
熱硬化性樹脂多孔シートの幅は、その用途に応じて適宜設定することができる。取り扱いやすさの観点から、熱硬化性樹脂多孔シートがエポキシ樹脂多孔シートである場合には、デバイスセパレータ用途では、例えば3〜50cmであり、好ましくは5〜30cmである。複合逆浸透膜用途では、例えば10〜200cmであり、好ましくは40〜150cmである。
【0058】
熱硬化性樹脂多孔シートの平均孔径は、水銀圧入法による測定値で例えば0.01〜0.4μmであり、好ましくは0.05〜0.2μmである。平均孔径が大きすぎると複合半透膜の多孔性支持体として用いる場合に均一なスキン層を形成し難く、小さすぎると複合半透膜の性能が損なわれる傾向にある。また、空孔率は20〜80%であることが好ましく、より好ましくは30〜60%である。
【0059】
以下では特にエポキシ樹脂多孔シートの表面にポリアミド系スキン層が形成されている複合半透膜について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
スキン層を形成する材料は特に制限されず、例えば、酢酸セルロール、エチルセルロース、ポリエーテル、ポリエステル、及びポリアミドなどを用いることができる。海水淡水化等の逆浸透膜用途として、多官能アミン成分と多官能酸ハライド成分とを重合してなるポリアミド系スキン層が好ましく用いられている。
【0061】
多官能アミン成分としては、2以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能アミンが挙げられる。
【0062】
芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、N,N’−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミン等が挙げられる。
【0063】
脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、n−フェニル−エチレンジアミン等が挙げられる。
【0064】
脂環式多官能アミンとしては、例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、4−アミノメチルピペラジン等が挙げられる。
【0065】
これらの多官能アミンは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高い塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能アミンを用いることが好ましい。
【0066】
多官能酸ハライド成分とは、反応性カルボニル基を2個以上有する多官能酸ハライドであり、芳香族、脂肪族、及び脂環式の多官能酸ハライドが挙げられる。
【0067】
芳香族多官能酸ハライドとしては、例えば、トリメシン酸トリクロライド、テレフタル酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド、ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸トリクロライド、ベンゼンジスルホン酸ジクロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0068】
脂肪族多官能酸ハライドとしては、例えば、プロパンジカルボン酸ジクロライド、ブタンジカルボン酸ジクロライド、ペンタンジカルボン酸ジクロライド、プロパントリカルボン酸トリクロライド、ブタントリカルボン酸トリクロライド、ペンタントリカルボン酸トリクロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライド等が挙げられる。
【0069】
脂環式多官能酸ハライドとしては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸トリクロライド、シクロブタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタントリカルボン酸トリクロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロヘキサントリカルボン酸トリクロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸テトラクロライド、シクロペンタンジカルボン酸ジクロライド、シクロブタンジカルボン酸ジクロライド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。
【0070】
これら多官能酸ハライドは1種で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高い塩阻止性能のスキン層を得るためには、芳香族多官能酸ハライドを用いることが好ましい。また、多官能酸ハライド成分の少なくとも一部に3価以上の多官能酸ハライドを用いて、架橋構造を形成するのが好ましい。
【0071】
さらに、ポリアミド系樹脂を含むスキン層の性能を向上させるために、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などのポリマー、ソルビトール、グリセリンなどの多価アルコールなどを共重合させてもよい。
【0072】
ポリアミド系樹脂を含むスキン層をエポキシ樹脂多孔シートの表面に形成する方法についても特に制限されず、あらゆる公知の手法を用いることができる。例えば、界面重合法、相分離法、薄膜塗布法などが挙げられる。界面重合法とは、具体的に、多官能アミン成分を含有するアミン水溶液と、多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成し、該スキン層をエポキシ樹脂多孔シート上に載置する方法や、エポキシ樹脂多孔シート上での界面重合によりポリアミド系樹脂からなるスキン層をエポキシ樹脂多孔シート上に直接形成する方法である。かかる界面重合法の条件等の詳細は、特開昭58−24303号公報、特開平1−180208号公報等に記載されており、それらの公知技術を適宜採用することができる。一般に多官能アミン成分を含むアミン水溶液からなる水溶液被覆層を多孔性支持体上に形成し、次いで多官能酸ハライド成分を含有する有機溶液と水溶液被覆層とを接触させて界面重合させることによりスキン層を形成する方法が好ましく用いられる。
【0073】
界面重合法においては、アミン水溶液中の多官能アミン成分の濃度は特に制限されないが、0.1〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜4重量%である。多官能アミン成分の濃度が低すぎる場合にはスキン層にピンホール等の欠陥が生じやすくなり、また塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能アミン成分の濃度が高すぎる場合には、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなって透過流束が低下する傾向にある。
【0074】
有機溶液中の多官能酸ハライド成分の濃度は特に制限されないが、0.01〜5重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜3重量%である。多官能酸ハライド成分の濃度が0.01重量%未満の場合には、未反応多官能アミン成分が残留しやすくなったり、スキン層にピンホール等の欠陥が生じやすくなって塩阻止性能が低下する傾向にある。一方、多官能酸ハライド成分の濃度が5重量%を超える場合には、未反応多官能酸ハライド成分が残留しやすくなったり、膜厚が厚くなりすぎて透過抵抗が大きくなり、透過流束が低下する傾向にある。
【0075】
有機溶液に用いられる有機溶媒としては、水に対する溶解度が低く、多孔性支持体を劣化させず、多官能酸ハライド成分を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、及びノナン等の飽和炭化水素、1,1,2−トリクロロトリフルオロエタン等のハロゲン置換炭化水素などを挙げることができる。好ましくは沸点が300℃以下、より好ましくは沸点が200℃以下の飽和炭化水素である。
【0076】
アミン水溶液や有機溶液には、成膜を容易にしたり、得られる複合半透膜の性能を向上させるための目的で各種の添加剤を加えることができる。添加剤としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、及びラウリル硫酸ナトリウム等の界面活性剤、重合により生成するハロゲン化水素を除去する水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、及びトリエチルアミン等の塩基性化合物、アシル化触媒、特開平8−224452号公報記載の溶解度パラメータが8〜14(cal/cm31/2の化合物などが挙げられる。
【0077】
エポキシ樹脂多孔シート上にアミン水溶液を塗布してから有機溶液を塗布するまでの時間は、アミン水溶液の組成、粘度及びエポキシ樹脂多孔シートの表面の孔径にもよるが、180秒以下であることが好ましく、さらに好ましくは120秒以下である。溶液の塗布間隔が長すぎる場合には、アミン水溶液がエポキシ樹脂多孔シートの内部深くまで浸透・拡散し、未反応多官能アミン成分がエポキシ樹脂多孔シート中に大量に残存する恐れがある。また、エポキシ樹脂多孔シートの内部深くまで浸透した未反応多官能アミン成分は、その後の膜洗浄処理でも除去し難い傾向にある。なお、エポキシ樹脂多孔シート上にアミン水溶液を被覆した後、余分なアミン水溶液を除去してもよい。
【0078】
アミン水溶液からなる水溶液被覆層と有機溶液との接触後、エポキシ樹脂多孔シート上の過剰な有機溶液を除去し、エポキシ樹脂多孔シート上の形成膜を70℃以上で加熱乾燥してスキン層を形成することが好ましい。形成膜を加熱処理することによりその機械的強度や耐熱性等を高めることができる。加熱温度は70〜200℃であることがより好ましく、特に好ましくは80〜130℃である。加熱時間は30秒〜10分程度が好ましく、より好ましくは40秒〜7分程度である。
【0079】
エポキシ樹脂多孔シート上に形成したスキン層の厚みは特に制限されないが、通常0.05〜2μm程度であり、好ましくは0.1〜1μmである。このポリアミド系スキン層を有する複合半透膜は、塩阻止率が98%以上であることが好ましく、99%以上であることがより好ましい。また透過流束は0.8m3/(m2・day)以上のものを好ましく用いることができる。
【0080】
複合分離膜を用いた複合分離膜エレメントとしては、その使用形態が限定されるものではなく、平膜型、チューブラー型、中空糸型などが挙げられる。特に、図4に示す積層体22を端部材と外装材で固定することによって得られるスパイラル型分離膜エレメントに複合分離膜を好適に用いることができる。
【0081】
図4に示すように、積層体22は、平膜状の分離膜23と、分離膜23に組み合わされた供給側流路材25及び透過側流路材24と、分離膜23、供給側流路材25及び透過側流路材24が周囲にスパイラル状に巻き付けられた有孔中空管21(集水管)とを備えている。分離膜23として、本実施形態の方法で製造された複合分離膜を使用できる。
【0082】
以下に、本発明について実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート828)139重量部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製、エピコート1010)93.2重量部、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン52重量部、及びポリエチレングリコール200(三洋化成社製)500重量部を容器に入れ、スリーワンモーターを用いて400rpmで15分間撹拌した。得られたエポキシ樹脂組成物を、円筒状モールド(外径35cm、内径10.5cm)内に高さ30cmまで充填して25℃で12時間室温硬化し、さらに130℃で18時間反応硬化させて円筒状樹脂ブロックを作製した。この樹脂ブロックを、円筒軸を中心に回転させながら切削装置を用いて、その表面を厚さ135μmで連続的にスライスし、長尺状のエポキシ樹脂シート(幅30cm、長さ150m)を得た。
【0084】
続いて、50℃の純水浴(第1浴)と60℃の純水浴(第2浴)を準備した。作製したエポキシ樹脂シートをライン速度3m/minで搬送しつつ第1浴、第2浴の順で浸漬した後、50℃の乾燥機で4時間乾燥することでエポキシ樹脂多孔シートを得た。各浴へのエポキシ樹脂シートの浸漬時間は26秒間であった。
【0085】
なお、純水浴浸漬前にエポキシ樹脂シートのガラス転移温度(Tg)及びポリエチレングリコール(PEG)残存量を測定した。同様に、第1浴への浸漬後かつ第2浴への浸漬後にエポキシ樹脂多孔シートのガラス転移温度(Tg)とポリエチレングリコール(PEG)残存量の測定を行った。結果を表1に示す。また、目視によるシート外観は皺や変形もなく良好であった。このシートの様子を図5に示す。
【0086】
(ガラス転移温度の測定方法)
ガラス転移温度は、温度変調DSC(示差走査熱量計)(TAインスツルメント社製、Q2000)を用いて測定した。
【0087】
(ポリエチレングリコールの残存量の測定方法)
ポリエチレングリコールの残存量は、次の方法で測定した。具体的には、アセトニトリルを用いてエポキシ樹脂シート又は多孔シートからポリエチレングリコールを抽出し、得られた抽出液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて分画後、RI(屈折率)測定装置で試料の屈折率を測定した。屈折率から試料におけるポリエチレングリコールの濃度を算出し、単位重量のエポキシ樹脂シート又は多孔シートに含まれたポリエチレングリコールの重量を算出した。
【0088】
(実施例2)
第2浴の浴液温度を80℃とした以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂多孔シートを作製した。その各測定結果を表1に示す。また、目視によるシート外観は、皺や変形もなく良好であった。
【0089】
(比較例1)
第1浴と第2浴の浴液温度をともに60℃とした以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂多孔シートを作製した。その各測定結果を表1に示す。このときの目視によるシート外観において、シートが波板状に変形していた。この様子を図6に示す。
【0090】
(比較例2)
第1浴と第2浴の浴液温度をともに80℃とした以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂多孔シートを作製した。その各測定結果を表1に示す。このときの目視によるシート外観において、シートが波板状に変形していた。
【0091】
【表1】

【0092】
(実施例3)
図3を参照して説明した方法によってエポキシ樹脂シートからポリエチレングリコールを除去し、多孔シートを得た。具体的には、まず、厚さを90μmとした点を除き実施例1と同様にして作製したエポキシ樹脂シートをポリエステル樹脂製のネット(スペーサ)とともにコアに巻き取り、巻回体(直径:200mm)を得た。この巻回体を圧力容器に入れ、ポリエチレングリコールの抽出除去を以下に示す条件で実施した。
【0093】
第1段階:20℃、15リットル/min、90min
第2段階:50℃、15リットル/min、60min
第3段階:80℃、4.8リットル/min、60min
処理液:純水
【0094】
コア(図3における有孔中空管14)を通じて得られたRO水(reverse osmosis water)のポリエチレングリコール濃度を測定した。第1段階において、通水開始から4分後のRO水のポリエチレングリコール濃度は0.64重量%であった。第3段階の終了後に純水を流して得られたRO水のポリエチレングリコール濃度は0.09重量%であった。巻回体を圧力容器から取り出し、エポキシ樹脂多孔シートの外観を目視観察した。実施例3のエポキシ樹脂多孔シートの外観は、皺や変形もなく良好であった。
【0095】
(比較例3)
実施例3と同じように、図3を参照して説明した方法によってエポキシ樹脂シートからポリエチレングリコールを除去し、多孔シートを得た。具体的には、まず、厚さを90μmとした点を除き実施例1と同様にして作製したエポキシ樹脂シートをポリエステル樹脂製のネット(スペーサ)とともにコアに巻き取り、巻回体(直径:100mm)を得た。この巻回体を圧力容器に入れ、ポリエチレングリコールの抽出除去を以下に示す条件で実施した。
【0096】
第1段階:80℃、20リットル/min、5min
第2段階:25℃、20リットル/min、5min
処理液:純水
【0097】
巻回体を圧力容器から取り出し、エポキシ樹脂多孔シートの外観を目視観察した。比較例3のエポキシ樹脂多孔シートは収縮しており、その表面にはスペーサ痕及び皺が残っていた。比較例3のエポキシ樹脂多孔シートに残存したポリエチレングリコールの量を測定したところ、巻回体の中心部に相当する部分で0.37mg/g、巻回体の中間部に相当する部分で0.32mg/g、巻回体の外周部に相当する部分で0.45mg/gであった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の熱硬化性樹脂多孔シート及び複合分離膜は、排水の浄化、海水の脱塩、医療用成分の分離、食品有効成分の濃縮、気体成分の分離、正浸透処理などの用途に用いることができる。本発明の熱硬化性樹脂多孔シートは、デバイスのセパレータに用いることもできる。
【符号の説明】
【0099】
1 熱硬化性樹脂シート
2 浴液流出口
3 浴液供給部
4 循環ポンプ
5 夾雑物除去フィルター
6 温度調整器
7 浴液排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポロゲンを含む熱硬化性樹脂シートから前記ポロゲンを抽出除去する工程を含み、
相対的に低い温度の第1液に前記熱硬化性樹脂シートを接触させた後、相対的に高い温度の第2液に前記熱硬化性樹脂シートを接触させることによって、前記ポロゲンの抽出除去を行う、熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項2】
前記第1液及び前記第2液が、それぞれ、第1浴及び第2浴に保持され、
前記第1浴及び前記第2浴に前記熱硬化性樹脂シートをこの順に浸漬することによって前記ポロゲンを抽出除去する、請求項1に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項3】
前記第1液の温度が、当該第1液に接触させる前における前記熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下である、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項4】
前記第2液の温度が、前記第1液に接触させた後かつ当該第2液に接触させる前における前記熱硬化性樹脂シートのガラス転移温度以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項5】
前記第1液及び前記第2液が、それぞれ、水又は水溶液である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項6】
前記第1液の温度が30℃以上55℃以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項7】
前記第2液の温度が60℃以上90℃以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項8】
前記第1液への前記熱硬化性樹脂シートの接触時間が、前記第2液への前記熱硬化性樹脂シートの接触時間よりも長い、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項9】
前記熱硬化性樹脂シートが長尺の形状を有し、
巻き出し位置から巻き取り位置へと搬送中の前記熱硬化性樹脂シートが前記第1浴及び前記第2浴の中をこの順に通過するように前記熱硬化性樹脂シートの搬送経路が定められている、請求項2に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項10】
前記第1浴及び前記第2浴がそれぞれ撹拌され、前記第1液及び前記第2液が流動状態で前記ポロゲンを抽出除去する、請求項2に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項12】
前記ポロゲンがポリエチレングリコールである、請求項1〜11のいずれか1項に記載の熱硬化性樹脂多孔シートの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法によって製造された平均孔径0.01μm〜0.4μmの熱硬化性樹脂多孔シートと、
前記熱硬化性樹脂多孔シートの表面に設けられたポリアミド系スキン層と、
を備えた、複合分離膜。
【請求項14】
有孔中空管と、
前記有孔中空管に巻回された積層体と、
を備え、
前記積層体が、請求項13に記載の複合分離膜と、前記複合分離膜に組み合わされた流路材とを含む、スパイラル型分離膜エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31399(P2012−31399A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146470(P2011−146470)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】