説明

熱線吸収性あるコーティング布帛の製造方法

【課題】布帛の表面にコーティング加工により、当該布帛を安定して品質よく、保温性等に優れた製品とする方法を提供する。
【解決手段】布帛の片面に、アンチモンを含む熱線吸収剤を合成樹脂バインダーと共に含むコーティング組成物を、ドクターブレードコーティングするもので、使用するドクターブレードがブレードの下方が2〜12cmの幅で、ブレード本体に対して110〜160度の角度で前方に傾斜しているものであるものとすることにより、安定して、熱線吸収性ある布帛の製造を可能とする。このブレートの下方部分3の先端部5は、3〜10mm幅で、前記ブレードの下方部分3に対して、後方に50〜150度の角度で折り曲げられてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛の表面に熱線吸収性ある薬剤をコーティング加工することにより、当該布帛を安定して品質よく、保温性等に優れたコーティング布帛に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
保温性又は耐寒性ある衣料を製造することは種々試みられている見られているが、薄いコーティング布帛で、機能性ある製品を得ることは困難とされてきた。
【0003】
また、熱線吸収性を有する薬剤として、アンチモン含有酸化スズ微粒子が知られており、特許文献1には、熱線遮蔽性を有するガラスの製造に使用されることが開示されている。別途、特許文献2には、それをコーティングして保温性衣料などを製造することが開示されている。特許文献2の[0029]には、パッド法、沈積法、印刷法、スプレー法で繊維に加工することができると記載され、実施例ではロールコーターでの印刷法が示されている。しかし、このような通常のコーティング法では、均一に繊維製品を加工することが困難であり、実用化できる製品は得られていない。
【特許文献1】特許第3286071号公報
【特許文献2】特開平8−325478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、布帛の表面にコーティング加工により、当該布帛を安定して品質よく、保温性等に優れた製品とする方法を提供すること、及び実用性ある保温性に優れたコーティング布帛からなる裏地(芯地を含む)を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、布帛の片面に、アンチモンを含む熱線吸収剤を合成樹脂バインダーと共に含むコーティング組成物を、ドクターブレードコーティングするもので、使用するドクターブレードがブレードの下方が2〜12cmの幅で、ブレード本体に対して110〜160度の角度で前方に傾斜しているものであるものとすることにより、安定して、熱線吸収性ある布帛の製造を可能とする。
【0006】
本発明では、ドクターブレードのブレートの下方の先端が3〜10mm幅で、前記ブレードの下方に対して、後方に50〜150度の角度で折り曲げられているものを使用するのが好ましく、特に上記ブレードの下方の先端が、布帛に対して、コーティング組成物供給側で、90〜20度となるようにするのが好ましい。
【0007】
なお、コーティング組成物は、フローティングナイフコーターで、布帛の表面にのみ塗布されるのがよく、特に、通常、6000cps〜15000cpsの粘度で適用するのが好ましい。
【0008】
本発明におけるコーティング組成物は、アンチモンを含む熱線吸収剤を合成樹脂バインダーと共に含むものであればよく、増粘剤や浸透剤、界面活性剤などを添加使用してもよい。
【0009】
アンチモンを含む熱線吸収剤とは、例えばアンチモンと酸化スズを併含するもの、疎水性アンチモン含有酸化スズ、スズとアンチモンとの複合酸化物、アンチモンをドープした酸化スズなどの微粒子で、熱線吸収用加工剤として一般に市販されているものがいずれも適用できる。
【0010】
布帛は、織物、編物、不織布のいずれであってもよく、綿、絹、ウールなどの天然繊維からなるものであっても、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維からなるものであってもよく、また、これらの混紡、交編又は交織物であってもよい。
【0011】
本発明の方法では、薄布帛にも、コーティング組成物を均一に塗布でき、例えば熱線吸収剤の付着量が固形分で0.5〜40g/mある製品をも品質よく製造でき、20g/m以下、10g/m以下、特に3.5g/m〜0.8g/mの付着量でも、非常に優れた保温効果を発揮する製品を得ることができる。
【0012】
このようにして、布帛の片面に、アンチモンを含む熱線吸収剤を合成樹脂バインダーと共に含むコーティング組成物を、前記熱線吸収剤の固形分付着量が0.5〜40g/mとなるように塗布した加工布帛は、保温性に富んだ裏地(芯地を含む)として、実用性に富んだものとなる。特に、熱線吸収剤の固形分付着量が3.5g/m〜0.8g/m程度である場合、布帛の風合に影響を与えることなく、保温性に富んだ製品を得ることができるので、非常に広範な用途に応用が可能となる。
【0013】
布帛は、目付20〜200g/m程度の薄地のものであっても、均質なコーティング層を有する保温性ある加工布帛となるため、該加工布帛を裏地(又は芯地)として使用することにより、非常に軽量にして、しかも保温性あるある衣料の製造が可能となる。すなわち、通常、本発明では、防寒衣料などの裏地としては考えられなかった目付150g/m以下、例えば20〜100g/mである布帛をも、保温性ある裏地(又は芯地)として利用可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明では、例えば図1に示す如く、ドクターブレード1が接する箇所で布帛2を空中に浮いた状態で移送するフローティングナイフコーターで、樹脂加工するのが好ましい。
【0015】
ドクターブレード1としては、例えば図2に例示するように、平板状のドクターブレードの下方が、ブレード本体に対して110〜160度の角度で前方に傾斜しているものを使用することにより、所望の目的を達成するものであるが、このブレードの先端は、樹脂加工の目的に応じて、ブレードの下方に対して、後方に50〜150度の角度で折り曲げられてもよい。
【0016】
例えば、図2の(a)のブレード1は、幅95mm、長さ2000mm、厚さ2mmの平板鋼からなるものであり、75mm幅の下方部分3が20mm幅の上方部分4に対して135度の角度で、前方に折り曲げられているものであり、
図2の(b)のブレード1は、幅85mm、長さ2000mm、厚さ2mmの平板鋼からなるものであり、30mm幅の上方部分4対して、135度の角度で、下方部分3が前方に折り曲げられており、該下方部分3の先端部5が5mm幅で、該下方部分本体に対して135度の角度をなすように後方に折り曲げられているものであり(この先端部5は布帛に対して90度となる)、
図2の(c)のブレード1は、幅85mm、長さ2000mm、厚さ2mmの平板鋼からなるものであり、30mm幅の上方部分4に対して、135度の角度で、下方部分3が前方に折り曲げられており、該下方部分3の先端部5が5mm幅で、該下方部分本体に対して85度の角度をなすように後方に折り曲げられているものであり(この先端部5は布帛に対して40度となる)、
図2の(d)のブレード1は、幅85mm、長さ2000mm、厚さ2mmの平板鋼からなるものであり、30mm幅の上方部分4に対して、135度の角度で、下方部分3が前方に折り曲げられており、該下方部分3の先端部5が5mm幅で、該下方部分本体に対して68度の角度をなすように後方に折り曲げられているものである(この先端部は布帛に対して23度となる)。
【0017】
これらのブレード1は、図1のように矢印方向に送られる布帛2に、先端部5が布帛2に接するようにし、ブレード1の傾斜した下方部分3の先端でコーティング組成物6が薄く布帛2にコーティングされるようにする。この際、ブレード1の下方部分3が前方に傾斜して存在するため、コーティング組成物6は、図1に示す如く、ブレード1の先端部5全体にわたり、時計周りに回転しながら、均一に、布帛2に接し、薄く品質のよいコーティングを可能とするのである。
【0018】
なお、通常は図3のAのように水平な状態で布帛2を移送しながら、コーティングするが、超薄地の布帛2を使用する場合など、図3のBのように、布帛2を3〜10度程度上方に傾斜させながら移送した状態で、コーティングしてもよい。後者の場合、図2の(a)のように、先端部が後方に折り曲げられていないもの(下方部分3が前方に折り曲げられただけのもの)を使用するのが好ましい。
【0019】
次に、実施例を示す。
(実施例1)
住友大阪セメント社製の熱線吸収剤(二酸化スズと五酸化アンチモンを含む無機フィラー分散液)を使用して、表1に示す五種のコーティング組成物を製造し、図2の(b)のブレードを使用して、ウール、ナイロン、ポリエステル及び木綿の布帛に、それぞれコーティングし、表2に示す付着量のコーティング布帛を得た。
各コーティング布帛を22℃室内でスリガラス越しに日光を当てた場合と透明ガラス越しに日光を当てた場合の、1分後の温度を測定した。その結果を表2に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
表2に示されるように、無機フィラーの付着量が固形分で4g/mより少なくても、未加工品に比べて即座に3〜12℃も温度が高くなることが分かった。
【0023】
(実施例2)
表3のコーティング組成物を製造し、これらのコーティング組成物を、図2の(b)(c)(d)のブレードを使用して、白色の木綿布帛と紺のウール布帛にコーティングした。(b)のブレード先端部の布帛に対する角度90度、(c)のブレード先端部の布帛に対する角度40度、(d)のブレード先端部の布帛に対する角度23度である。
得られたコーティング布帛を、室温26℃において、50cm上から200Wのレフランプで一分間照射し、その直後の温度を測定した。その結果を表4に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
(b)(c)(d)いずれのブレードを使用した場合にも、熱線吸収性のよい品質のよいコーティング布帛を得ることができた。特に、(c)のブレードを使用した場合に、風合いのよい製品となった。
【0027】
(比較例1)
通常のブレードを使用して実施例2のGのコーティング組成物を、実施例2と同様の白色木綿布帛にコーティングしたところ、コーティング組成物が不均一に裏通りし、風合及び外観共に悪くなり、実用性ある製品を得ることができなかった。
【0028】
(実施例3)
目付65g/m のポリエステルタフタ、目付75g/m のナイロンタフタ、目付80g/m の綿ブロード、目付68g/m のレーヨンタフタに、実施例1のコーティング組成物Dを、(c)のブレードを使用して、コーティングした。得られたコーティング布帛は、いずれも風合いのよいものであり、衣料用裏地として、パンツの縫製に使用したところ、非常に保温性に優れたパンツを得ることができた。
【0029】
実施例3で得た製品を、炬燵布団の芯地やジャケットの芯地に使用したところ、薄い芯地の存在を実質的に感じさせることなく、各製品に、非常に保温性を付与するものとなった。太陽光や、赤外線などによって、一旦、温度上昇した芯地は、布団やジャケットの綿や表地に覆われて、その保温性を保持しうるのである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は本発明のコーティング法の一例を示す説明図である。
【図2】図2は本発明のドクターブレードを例示する側面図である。
【図3】図3は本発明のコーティング法を例示する説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 ブレード
2 布帛
3 下方部分
4 上方部分
5 先端部
6 コーティング組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛の片面に、アンチモンを含む熱線吸収剤を合成樹脂バインダーと共に含むコーティング組成物を、ドクターブレードコーティングするものであって、使用するドクターブレードがブレードの下方が2〜12cmの幅で、ブレード本体に対して110〜160度の角度で前方に傾斜しているものであることを特徴とする熱線吸収性あるコーティング布帛の製造方法。
【請求項2】
前記ドクターブレードのブレートの下方の先端が3〜10mm幅で、前記ブレードの下方に対して、後方に50〜150度の角度で折り曲げられているものであることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
前記コーティング組成物を、フローティングナイフコーターで、布帛の表面にのみ塗布されるものであることを特徴とする請求項1又は2の方法。
【請求項4】
前記コーティング組成物の粘度が6000cps〜15000cpsであることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項の方法。
【請求項5】
前記熱線吸収剤の付着量が固形分で0.5〜40g/mであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項の方法。
【請求項6】
布帛の片面に、アンチモンを含む熱線吸収剤を合成樹脂バインダーと共に含むコーティング組成物を、前記熱線吸収剤の固形分付着量が0.5〜40g/mとなるように塗布したコーティング布帛からなることを特徴とする保温性に富んだ裏地。
【請求項7】
前記熱線吸収剤の固形分付着量が0.8〜3.5g/m である請求項6の裏地。
【請求項8】
前記布帛の目付が、20〜200g/mである請求項6又は7の裏地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−19546(P2008−19546A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343941(P2006−343941)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(593005415)株式会社堅牢防水化学 (5)
【出願人】(594171344)株式会社テフコ (3)
【Fターム(参考)】