説明

熱膨張係数の測定方法。

【課題】薄膜状の材料のCTEを再現性よく測定する方法を提供する。
【解決手段】試験片の両端を保持部材により保持する工程と、前記保持された試験片の温度を変化させる工程と、前記温度の変化に対応した前記試験片の伸縮量を測定する工程とを有する、熱膨張係数の測定方法において、前記保持部材と前記試験片の間の少なくとも一方に微小粒子を存在させた状態で前記保持を行う、熱膨張係数の測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は材料の熱膨張係数(CTE)を測定する方法に関し、特に、薄膜状の材料の厚さ方向のCTEを測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコンなどの電子機器内の回路基板やパッケージには金属やセラミック、樹脂などの様々な材質の材料が使用されており、これらが多層かつ高密度に配置され高機能な構造体を形成している。電子機器の信頼性にとって重要な点の一つに異なる材質の材料の界面における接着性が挙げられる。熱膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)が異なる材料の接着界面では、環境の温度変化により内部応力が蓄積して、界面剥離が生じることがある。したがって、材料のCTEを正確に把握して材料設計を進めることが信頼性の高い製品開発にとって重要となる。
【0003】
従来のCTEの測定方法(JIS K7197−1991)は、長さ10mm、断面径5mmの円柱あるいは角柱を標準試験片として用いて、試験片長さの温度による変位測定(TMA:Thermo mechanical analysis)からCTEを算出するものである。また、測定誤差を小さくし、測定の信頼性を高めるため、試験片の保持方法を工夫する提案などもなされている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−240546号公報
【特許文献2】特開2010−151557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、回路基板や回路素子を構成する材料は薄膜状であったりスケールがマイクロスケールであったりすることが多く、上記の測定方法では材料形態が製品とは異なり実情を反映していないことが多かった。特に、CTEは材料組成ばかりではなく乾燥条件や硬化条件などの製膜プロセスによって大きく異なることがある。上記柱状の標準試験片は実際の製品形状での乾燥/硬化状況とは異なることが多く、当該方法では製品開発の指針を得るには不十分であった。
【0006】
また、薄膜状の試験片の厚さ方向のCTEをそのまま従来の方法と同様に測定しようとすると、柱状試験片を用いた場合と比較して、測定値のばらつきが大きいことがあった。
【0007】
本発明はかかる課題を解決し、薄膜状でのCTEを再現性よく測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、試験片の両端を保持部材により保持する工程と、前記保持された試験片の温度を変化させる工程と、前記温度の変化に対応した前記試験片の伸縮量を測定する工程とを有する、熱膨張係数の測定方法において、前記保持部材と前記試験片の間の少なくとも一方に微小粒子を存在させた状態で前記保持を行う、熱膨張係数の測定方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のCTEの測定方法によると、材料のCTEを再現性よく測定することが可能である。特に、薄膜状の材料において効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】TMA装置の試験片近傍の概略図
【図2】TMA装置の保持部材および試験筒の構成
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のCTE測定方法は、試験片の両端を保持部材により保持する工程と、前記保持された試験片の温度を変化させる工程と、前記温度の変化に対応した前記試験片の伸縮量を測定する工程とを有する測定方法であって、前記保持部材と前記試験片の間の少なくとも一方に微小粒子を存在させた状態で前記保持を行うものである。例えば図1に示すように、CTEを測定すべき材料の試験片をTMA装置などの保持部材間で保持する際に、保持部材と試験片との間に微小粒子を介在させる。
【0012】
上記のように、従来の方法で薄膜状の試験片の厚さ方向のCTEを測定すると、測定ごとに値がばらつくことが多かった。この理由について、発明者は以下の理由を考えた。例えば、CTEを測定する際に用いられるTMA装置では、試験片を2つの保持部材の間に挟み、その間隔の長さの変化を測定する。測定時に温度を変化させると試験片は伸縮するが、試験片を保持している保持部材付近では、保持部材から受ける力により、試験片は自由な伸縮を妨げられ、変則的な伸縮をすることになる。例えば、保持部材に保持された試験片に関して、測定している長さ方向を直交座標系のZ軸方向とし、保持部材でZ軸方向に押し込み荷重を加えて試験片を保持しているとする。ここで、温度が上がると、試験片はX、Y、Z軸の3方向に伸びようとするが、X、Y軸方向には保持部材からの摩擦力を受け伸びが抑えられる。すると、試験片は応力を解放しようとZ軸方向にさらに伸びようとする。したがって、測定されるCTEは材料が本来持つ値よりも大きく、また、保持部材の保持の仕方や力の加わり方が安定しないために測定されるCTEはばらつくことになる。
【0013】
試験片が測定している長さ方向に十分に長ければ保持部材付近の変則的な挙動は測定結果にあまり影響しない。例えば、日本工業規格のCTEの測定方法(JIS K7197−1991)では、標準試験片の長さを10mmとしている。しかしながら、薄膜状の試験片の厚さ方向のCTEを測定する場合は、上記挙動の影響が大きくなり問題となる。また、樹脂などはガラス転移点(Tg)以上に温度が上がると少なからず粘着性が生じ、保持部材と密着する面積が増加して変則的な挙動が大きくなる。
【0014】
これを避けるためには保持部材と接している表面内で試験片が自由に伸縮できればよい。本発明では、試験片と保持部材との間に微小粒子を介在させることにより、微小粒子が試験片の伸縮に伴い転がり、試験片と保持部材間の摩擦力を低減させるので、試験片の自由な伸縮を実現できる。
【0015】
本発明に用いられる微小粒子の材質は特に限定されず、金属、ガラス、セラミックなどが挙げられ、例えば、ジルコニア(CTE:10.3ppm/℃、以下、括弧内はCTEの値)、アルミナ(8.1ppm/℃)、銅(17ppm/℃)、アルミニウム(24ppm/℃)、銀(18ppm/℃)、鉄(12ppm/℃)、アルカリガラス(9ppm/℃)、無アルカリガラス(4ppm/℃)、石英(0.6ppm/℃)などが好ましく使用できる。中でも、硬度が高く表面が平滑であり、CTEが低い、ガラスやセラミックを用いると、測定の再現性が高まるので好ましい。微小粒子の硬度が高く表面が平滑であると微小粒子と試験片あるいは微小粒子と保持部材との間の潤滑性が良好となり測定精度が向上すると考えられ、微小粒子のCTEが低いと試験片の伸縮量に対する微小粒子の伸縮量が小さくなり測定精度が向上すると考えられる。
【0016】
本発明に用いられる微小粒子の粒子径は1μm以上1000μm以下であることが好ましい。微小粒子の粒子径が1μm以上であると、試験片と保持部材とが接することなく測定できるので、測定精度を高めることができる。また、微小粒子の粒子径が1000μm以下であると、微小粒子自体の熱膨張の影響が小さくなるので、測定精度を高めることができる。さらに、微小粒子の粒子径が、下限としては10μm以上であること、上限としては500μm以下、より好ましくは100μm以下であることが、これらの効果をさらに高める上で好ましい。
【0017】
ここでいう粒子径とは数平均粒子径である。また、本発明の測定方法に供される微小粒子の数平均粒子径を直接測定することは難しいが、以下の測定方法により、もしくは市販品として、あらかじめ数平均粒子径が分かっている粒子を用いることにより、その平均粒子径を本発明の測定方法に供される微小粒子の数平均粒子径とみなすことができる。微小粒子の数平均粒子径を測定する方法としては、光学顕微鏡やSEM(走査型電子顕微鏡)により直接粒子を観察し、粒子径の数平均を計算する方法が挙げられる。具体的には、任意の100個の粒子について、それぞれの粒子の直径を測定して、数平均粒子径を算出する。粒子が非球形の場合は、その粒子の全てを包含する円形のうち最小の円形と、粒子の一部を包含し、かつ、粒子以外の部分を包含しない円形のうち最大の円形を求め、これら2つの円形の直径の平均値をその粒子の直径とする。
【0018】
次に、本発明のCTEの測定方法の例について詳細に説明する。
【0019】
CTEの測定装置としては対向する2つの保持部材の間に試験片を挟んで保持して、温度を変化させたときの2つの保持部材間の長さの変化を差動トランスなどで測定するもの(TMA装置)やレーザー干渉法で測定するものがある。TMA装置のメーカーとしては、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)や(株)リガクなどが挙げられる。
【0020】
試験片の形状は特に限定されず塊状であっても薄膜状であってもよいが、保持部材と接する2つの対向する面は平坦かつ互いに平行であることが好ましい。前記2面が平坦でない場合や互いに平行でない場合は、測定時の温度変化により試験片が伸縮した際に、保持部材の位置が測定している長さ方向と垂直な方向に動くことがあり、測定の精度が悪くなることがある。
【0021】
試験片の両端を保持する保持部材と試験片の間の少なくとも一方に微小粒子を存在させた状態で、試験片の両端を保持部材により保持する工程の一例として、試験片を2つの保持部材間に挟むことにより保持する方法の例は以下のとおりである。ここでは2つの保持部材が鉛直方向に配置しており、保持部材間に保持された試験片の鉛直方向の伸縮量を測定するものとする。このような保持部材の配置を有するTMA装置としては、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製の“TMA/SS6100”などが挙げられる。なお、本発明の方法は、2つの保持部材が鉛直方向以外の方向(例えば、水平方向)に配置した場合にも適用できる。
【0022】
まず、下側保持部材の表面に微小粒子をピンセットの先などを用いて載置する。ピンセットの先などに微小粒子を静電気力により付着させ、下側保持部材の上で微小粒子が付着したピンセットの先を振動させて微小粒子をピンセットの先から落とすことにより、微小粒子を下側保持部材上に載置することができる。このとき、あらかじめピンセットの先を水などの液体で濡らしておくと、微小粒子が液体の表面張力によりピンセットの先に付着しやすくなる。また、微小粒子が付着したピンセットの先を軽く下側保持部材へ接触させることにより、容易に微小粒子を下側保持部材へ付着させることができる。さらに、液体の表面張力により微小粒子が下側保持部材上で横滑りしないことや、以下のように微小粒子が載置された下側保持部材上に試験片を載置する際に試験片が横滑りしないことから、作業性が良好となる。
【0023】
次に、微小粒子が載置された下側保持部材上に試験片を載置する。試験片の厚さは0.05mm以上5mm以下であることが好ましい。0.05mm以上であると、測定における保持部材間長さの変化量が大きくなるので測定精度が向上する。また、試験片の厚さが5mm以下であると、測定中に試験片が横滑りして動いたり倒れたりすることを避けることができるので測定精度が向上する。試験片の厚さが0.05mmに満たない場合は試験片を数枚重ねて実質の厚さを0.05mm以上にすることが好ましい。
【0024】
続いて、試験片の上に微小粒子を載置する。この場合も、濡らしたピンセットの先に微小粒子を付着させることにより、微小粒子を容易に試験片上に載置することができる。次いで、微小粒子が載置された試験片上に上側保持部材を押し当てる。
【0025】
上記の例のように試験片の両端部において保持部材と試験片の間に微小粒子を介在させてもよいし、一方の端のみに介在させてもよい。
【0026】
保持部材間に試験片を挟んだ状態において、上下の保持部材間の長さは実際の試験片の厚さよりも介在する微小粒子の分だけ大きくなる。したがって、通常はTMA装置が測定する保持部材間長さを試験片厚さとするが、本発明においては試験片の厚さをあらかじめマイクロメーターなどを用いて測定し、この値を試験片の厚さとすることが好ましい。
【0027】
保持部材の押し込み荷重は20mN以上80mN以下であることが好ましい。保持部材押し込み荷重が20mN以上であれば装置の振動や試験片の形状に起因する微小なノイズを除去でき精度の高い測定が可能となる。保持部材押し込み荷重が80mN以下であれば、試験片の自由な伸縮を妨げることなく正確なCTEを測定することが可能となる。
【0028】
次に、前記保持された試験片の温度を変化させる工程および前記温度の変化に対応した前記試験片の伸縮量を測定する工程の一例として、試験片を保持した上下の保持部材を温調が可能なチャンバー内に設置し、該チャンバー内の温度を変化させながら保持部材間の長さの変化を測定する。測定時のチャンバー内を窒素などの乾燥した不活性ガスで満たすと、低温領域で試験片が水分を吸収することを抑制したり、試験片が高温領域で酸化したりすることを防ぐことができ、測定精度が高まるので好ましい。
【0029】
測定時の温度プロファイルは、求められるCTEの測定範囲に関して任意に設定できるが、例えば、以下のように設定することができる。まず、温度を180℃まで昇温して30分間ホールドし、試験片に含まれる水分の除去や残留応力の解放などを行う。また、試験片を数枚重ねた状態で測定する場合には、それぞれの試験片の間に存在する空気の層を除去することができる。次に、−65℃まで温度を下げて10分間ホールド後、再度、180℃まで昇温して10分間ホールドする。この温度プロファイルにおいて、125℃から−55℃までの降温過程あるいは、−55℃から125℃までの昇温過程について、試験片の厚さの変化量を温度の変化量で除することにより、それぞれ降温あるいは昇温過程でのCTEを算出することができる。
【0030】
温度の昇降温は2℃/分以上10℃/分以下で行うことが好ましい。2℃/分以上であると1回の測定を短時間で行うことができるので、多くのデータを収集することができる。また、10℃/分以下であると測定の精度が向上する。
【0031】
保持部材間の長さの変化量(変位)には試験片自体の変位に加えて、測定装置自体の伸縮による変位(ベースライン変位)が存在するので、それを補正することが測定精度を上げるために好ましい。特に、試験片長さが5mm以下のものを測定する場合はベースライン変位の影響が大きくなるので、測定結果からベースライン変位を差し引いて補正することが好ましい。ベースライン変位は保持部材間に試験片を挟まない状態(保持部材間長さがゼロ)で、実試験と同じ温度プロファイル、押し込み荷重、チャンバー内気体にて測定できる。
【0032】
また、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製のTMA装置“TMA/SS6100”では、下側保持部材6(図2参照。なお、簡略化のため図2では微小粒子は図示していない。)を載せた試験筒7の基準位置9に対する上側保持部材5の相対位置により保持部材間長さを測定しているため、測定される保持部材間変位には、試験片自体の変位およびベースライン変位に加えて、試験片の厚さと同じ長さに相当する試験筒の変位が含まれるので、これを補正することが好ましい。試験筒の変位は保持部材間の変位を減ずるものであるので、測定される保持部材間変位に計算により得られる試験筒の変位を加えることにより補正できる。具体的には、例えば、試験筒が石英製(CTE:0.6ppm/℃)で、試験片の長さが0.5mm、0℃から100℃までの測定の場合、試験筒の変位は0.03μm(0.6ppm/℃×500μm×100℃)であるので、この値を測定される保持部材間変位に加算する。
【0033】
さらに、試験片を保持部材間に保持する際に使用する微小粒子の変位分も補正することが好ましい。保持部材間長さの中で微小粒子の占める部分は、装置が測定する保持部材間長さと、あらかじめマイクロメーターなどで測定した試験片の長さの差である。微小粒子の変位は保持部材間の変位に加わるものであるので、測定される保持部材間変位から計算による微小粒子の変位を差し引くことにより補正できる。具体的には、例えば、微小粒子がジルコニアビーズ(CTE:10.3ppm/℃)で、微小粒子が占める部分の長さが60μm、0℃から100℃までの測定の場合、微小粒子の変位は0.062μm(10.3ppm/℃×60μm×100℃)であるので、この値を測定される保持部材間変位から差し引く。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0035】
<材料ペーストの作製>
CTEを測定すべき材料を以下のように作製した。
【0036】
硫酸バリウム2次粒子“BF−40”(堺化学工業(株)製)200gとアクリレート樹脂“HOA−MPL”(共栄社化学(株)製)20g、テトラヒドロフルフリルアルコール280gを混合し、ビーズミル“ウルトラアペックスミルUAM−015”(商品名、寿工業(株)製)を用いて分散処理した。ビーズは粒子径が0.05mmのジルコニアビーズ “YTZボール”((株)ニッカトー製)であり、投入量は400gとした。また、ビーズミルのローターの周速は9.5m/sとし、送液圧力は0.1MPaとした。分散処理時間は10時間とし、分散処理終了後に液を回収し硫酸バリウム粒子の分散液を得た。次に、硫酸バリウム粒子分散液7gとアクリレート樹脂A(下記式(1)で表されるアクリレート樹脂、共栄社化学(株)製)1.5g、光重合開始剤“IRGACURE819”(BASF社製)0.08gを混合し、ペースト組成物Aを製造した。
【0037】
【化1】

【0038】
また、硫酸バリウム粒子の分散液を用いず、アクリレート樹脂A5g、光重合開始剤“IRGACURE819”(BASF社製)0.2g、テトラヒドロフルフリルアルコール4gを混合し、ペースト組成物Bを製造した。
【0039】
実施例1
上記ペースト組成物Aを、バーコーターを用いて、PETフィルム“SR−1”(厚さ38μm、大槻工業(株)製)上に塗布し、大気中100℃で15分間乾燥し、乾燥後の膜厚が50μmの未硬化シートを2枚製造した。100℃のホットプレート上に載置した膜厚50μmの未硬化シート上に、ゴムローラーを用いてもう1枚の膜厚50μmの未硬化シートを貼り合わせた。次いで、両面にPETフィルムが付いた未硬化シートを超高圧水銀灯露光装置“PEM−6M”(ユニオン光学(株)製)を用いて、露光量300mJ/cm(波長365nm換算)で全線露光した後、PETフィルムを剥離して、窒素中200℃で1時間加熱し、硬化物を作製した。得られた硬化物を1辺が5mm程度の正方形に数枚切断して、試験片を得た。切断した試験片から適当に5枚選び、重ねた状態でマイクロメーターにて厚さを測定したところ0.46mmであった。
【0040】
次に、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製のTMA装置“TMA/SS6100”を用いて材料のCTEを以下の方法で測定した。
【0041】
まず、装置のベースライン変位を把握するため、上下の保持部材間に何も挟まず、温度を室温から180℃まで昇温して30分間ホールドし、次に、−65℃まで温度を下げて10分間ホールド後、再度、180℃まで昇温して10分間ホールドした。保持部材および試験筒は石英製で、上側保持部材は直径5mmの円柱状で下側保持部材は直径12mmの円盤状のものを用いた。押し込み荷重は50mNで、窒素雰囲気中で行った。
【0042】
次に、ピンセットの先を水に濡らし、粒子径が30μmのジルコニアビーズ“YTZボール”((株)ニッカトー製)を水の表面張力によりピンセットの先に付着させ、ジルコニアビーズが付着したピンセットの先をTMA装置の下側保持部材上に接触させて水に濡れたジルコニアビーズを下側保持部材上に載置した。次いで、ジルコニアビーズが載置された下側保持部材上に上記選定した5枚の試験片の中の1枚を乾いたピンセットを用いて載置した。さらに、残りの4枚の試験片を重ねて載置した後、最上部の試験片の上に、上記のように先端の濡れたピンセットを用いてジルコニアビーズを載置した。試験片を載せた下側保持部材をTMA装置の所定の場所にセットし、上側保持部材を下げて、試験片に押し当てることにより、上下の保持部材で試験片を保持した。測定前の保持部材間長さは0.51mmであった。上記ベースライン変位測定と同様の温度プロファイルにて、押し込み荷重50mN、窒素雰囲気中で、上下保持部材間の長さの変化量(変位)の測定を行った。
【0043】
次に、−55℃から125℃までの昇温過程での材料のCTE計算を以下のように行った。上記のようにして得られた、上下保持部材間変位にはベースラインや石英製試験筒(CTE:0.6ppm/℃)、ジルコニアビーズ(CTE:10.3ppm/℃)による変位が含まれている。したがって、正確なCTEを算出するためにはこれらの影響を除外する必要がある。まず、試験片を挟んで測定した上下保持部材間変位からベースライン変位を差し引いた。次に、保持部材間長さが0.51mmであるためその長さにおける石英製試験筒の変位は0.6ppm/℃×0.51mm=0.00031μm/℃となり、また、保持部材間長さ0.51mmと試験片長さ0.46mmの差0.05mmがジルコニアビーズの占める部分であるので、ジルコニアビーズの変位は10.3ppm/℃×0.05mm=0.00052μm/℃となる。石英製試験筒の伸びは保持部材間長さの伸びを減ずるものであり、ジルコニアビーズの伸びは保持部材間長さの伸びに加わるものであるので、−55℃〜125℃までの間には試験片の変位は保持部材間の変位に対して、(0.00031−0.00052)×(125+55)=−0.038μmの補正が必要となる。
【0044】
測定された保持部材間変位に対し、上記のように、ベースライン変位、石英製試験筒変位、ジルコニアビーズ変位に関する補正を行った結果、材料の−55から125℃までの昇温過程でのCTEは20ppm/℃と計算された。上記選定した5枚の試験片とは別の5枚の試験片について同様の測定を行うことを、さらに、4回行って、それぞれの測定についてCTEを算出した。計5回の測定により得られた−55℃から125℃までの昇温過程でのCTEの平均値は20ppm/℃であり、レンジ(測定されたCTEの最大値と最小値の差)は2ppm/℃であった。
【0045】
実施例2〜7
使用する微小粒子を表1に示す材料、粒子径のものに変えて実施例1と同様に保持部材間変位測定およびCTEの計算を行った。結果を表1に示す。なお、ジルコニアビーズは(株)ニッカトー製の“YTZボール”、アルミナビーズは大明化学工業(株)製の“ダイミクロン”、ガラスビーズはポッターズ・バロティーニ(株)製の“GB301S”、球状銅粉は三井金属鉱業(株)製の“MA−CC−S”を使用した。
【0046】
実施例4では微小粒子の粒子径が800μmであったためレンジがやや大きくなったが、後に示す比較例1と比べると良好な範囲であった。実施例7では自身のCTEがやや大きく、表面の平滑性がやや劣る銅粉を用いたためレンジがやや大きくなったが、後に示す比較例1と比べると良好な範囲であった。
【0047】
実施例8
ペースト組成物Bを、スポイトでPETフィルム“SR−1”(厚さ38μm、大槻工業(株)製)上に1滴垂らし、スポイトの先端で直径3cmほどの円形に塗り広げた。大気中100℃で15分間乾燥し、超高圧水銀灯露光装置“PEM−6M”(ユニオン光学(株)製)を用いて、露光量300mJ/cm(波長365nm換算)で全線露光した後、PETフィルムを剥離して、窒素中200℃で1時間加熱し、硬化物を作製した。得られた硬化物を1辺が3mm程度の正方形に数個切断して、その中の1個を試験片として選定した。試験片の厚さをマイクロメーターにて測定したところ0.95mmであった。
【0048】
実施例1と同様に保持部材間変位測定およびCTEの計算を行ったところ、材料の−55から125℃までの昇温過程でのCTEは125ppm/℃と計算された。なお、実施例1では5枚の試験片を重ねて測定したが、本実施例では選定した1個の試験片をそのまま使用した。上記選定した試験片とは別の試験片について同様の測定を行うことを、さらに、4回を行って、それぞれの測定についてCTEを算出した。計5回の測定により得られた−55℃から125℃までの昇温過程でのCTEの平均値は125ppm/℃であり、レンジは2ppm/℃であった。
【0049】
比較例1
実施例1と同様にペースト組成物Aを用いて試験片を作製した。TMA装置による測定においてジルコニアビーズを使用せずに、実施例1と同様に保持部材間変位測定およびCTEの計算を行ったところ、5回の測定により得られた−55℃から125℃までの昇温過程でのCTEの平均値は45ppm/℃であり、本来の値と思われる約20ppm/℃よりも大きい値となった。レンジは15ppm/℃であり、再現性もよくなかった。
【0050】
比較例2
実施例8と同様にペースト組成物Bを用いて試験片を作製した。TMA装置による測定においてジルコニアビーズを使用せずに、実施例1と同様に保持部材間変位測定およびCTEの計算を行ったところ、5回の測定により得られた−55℃から125℃までの昇温過程でのCTEの平均値は151ppm/℃であり、本来の値と思われる約125ppm/℃よりも大きい値となった。レンジは13ppm/℃であり、再現性もよくなかった。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
1 上側保持部材
2 下側保持部材
3 試験片
4 微小粒子
5 上側保持部材
6 下側保持部材
7 試験筒
8 試験片
9 基準位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の両端を保持部材により保持する工程と、前記保持された試験片の温度を変化させる工程と、前記温度の変化に対応した前記試験片の伸縮量を測定する工程とを有する、熱膨張係数の測定方法において、前記保持部材と前記試験片の間の少なくとも一方に微小粒子を存在させた状態で前記保持を行う、熱膨張係数の測定方法。
【請求項2】
前記微小粒子の粒子径が1μm以上1000μm以下である請求項1記載の熱膨張係数の測定方法。
【請求項3】
前記微小粒子の材質がガラスまたはセラミックである請求項1または2記載の熱膨張係数の測定方法。

【図1】
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【図2】
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