説明

熱膨張性マイクロカプセル及び熱膨張性マイクロカプセルの製造方法

【課題】 本発明は、高温での耐久性に優れ、高い発泡倍率を実現可能な熱膨張性マイクロカプセルを提供する。また、本発明は、該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】 ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性組成物を用いて得られる熱膨張性マイクロカプセルであって、前記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の含有量は、前記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部であり、かつ、シェル部分のゲル分率が30%以上である熱膨張性マイクロカプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温での耐久性に優れ、高い発泡倍率を実現可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱膨張性マイクロカプセルは、意匠性付与剤や軽量化剤として幅広い用途に使用されており、発泡インク、壁紙をはじめとした軽量化を目的とした塗料等にも利用されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、熱可塑性シェルポリマーの中に、シェルポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤が内包されているものが広く知られており、例えば、特許文献1には、低沸点の脂肪族炭化水素等の揮発性膨張剤を重合性モノマーと混合した油性混合液を、油溶性重合触媒とともに分散剤を含有する水系分散媒体中に攪拌しながら添加し懸濁重合を行うことにより、揮発性膨張剤を内包する熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この方法によって得られた熱膨張性マイクロカプセルは、80〜130℃程度の比較的低温では、揮発性膨張剤のガス化によって熱膨張させることができるものの、高温又は長時間加熱すると、膨張したマイクロカプセルからガスが抜けることによって発泡倍率が低下するという問題があった。また、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性や強度の問題から、いわゆる「へたり」と呼ばれる現象が生じ、高温時に潰れてしまうことがあった。
【0004】
一方、特許文献2には、ニトリル系モノマー80重量%以上、非ニトリル系モノマー20重量%以下および架橋剤0.1〜1重量%含有する成分から得られるポリマーを用いて、該ポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる揮発性膨張剤をマイクロカプセル化した熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。
このような熱膨張性マイクロカプセルは、ニトリル系モノマーを用いることで、ガス抜けの問題はある程度解消されるものの、耐熱性は低く、溶融混練工程において、熱膨張性マイクロカプセルの耐熱性や強度の問題から、へたりが発生していた。
また、非ニトリル系モノマーとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル等を用いているが、このような非ニトリル系モノマーとニトリル系モノマーとを併用した場合であっても、発泡倍率については依然として不充分であった。
【0005】
更に、特許文献3には、熱膨張性マイクロカプセルのシェルを構成するモノマーとして、分子内に2以上の重合性二重結合を有する単量体を用いることで、シェル内部に架橋構造を形成した熱膨張性マイクロカプセルが開示されている。このような熱膨張性マイクロカプセルでは、高温領域において良好な発泡性能を有し、耐熱性をより向上させるとしているが、実際には、最大発泡温度は高い値を示すものの、ガス抜けの問題は解消されておらず、発泡倍率が低いものとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭42−26524号公報
【特許文献2】特開平9−19635号公報
【特許文献3】国際公開第03/099955号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高温での耐久性に優れ、高い発泡倍率を実現可能な熱膨張性マイクロカプセル及び該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性組成物を用いて得られる熱膨張性マイクロカプセルであって、前記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の含有量は、前記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部であり、かつ、シェルのゲル分率が30%以上である熱膨張性マイクロカプセルである。
【0009】
また、本発明は、水性媒体を調製する工程、ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を調製する工程、前記水性媒体に油性混合液を添加して分散させる工程、並びに、前記重合性モノマーを重合させる工程を有し、前記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の全添加量が、前記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部である熱膨張性マイクロカプセルの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性組成物を用いて得られるものである。
【0011】
上記ニトリル系モノマーは、シェルのガスバリア性を向上させるために主成分として使用されるものであり、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル、又は、これらの混合物等が挙げられる。これらの中では、高ガスバリア性を確保するため、凝集エネルギー密度の高いニトリル系モノマーとして、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルが特に好ましい。
【0012】
上記重合性モノマー(全重合性モノマー)中におけるニトリル系モノマーの含有量の好ましい下限は30重量%、好ましい上限は100重量%である。上記重合性モノマー中のニトリル系モノマーの含有量が30重量%未満であると、シェルのガスバリア性が低くなるため発泡倍率が低下することがある。上記重合性モノマー中のニトリル系モノマーの含有量のより好ましい下限は40重量%、より好ましい上限は80重量%である。上記重合性モノマー中のニトリル系モノマーの含有量が80重量%を超えると、充分な耐熱性が得られないことがある。
【0013】
上記ニトリル系モノマー以外の重合性モノマーとしては、カルボキシル基を有し、炭素数が3〜8のカルボキシル基含有モノマーを含有することが好ましい。
上記カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、イオン架橋させるための遊離カルボキシル基を分子当たり1個以上持つものを用いることができ、具体的には例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸等の不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸等の不飽和ジカルボン酸やその無水物又はマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル等の不飽和ジカルボン酸のモノエステルやその誘導体が挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、特にアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸が好ましい。
【0014】
上記重合性モノマー中における、上記カルボキシル基含有モノマーの含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は70重量%である。上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーの含有量が5重量%未満であると、最大発泡温度が180℃以下となることがあり、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーの含有量が70重量%を超えると、最大発泡温度は向上するものの、発泡倍率が低下する。上記カルボキシル基含有モノマーの含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は40重量%である。
【0015】
上記重合性モノマー中には、上記ニトリル系モノマーやカルボキシル基含有モノマーに加えて、これら以外の他のモノマーを添加してもよい。
上記他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ジシクロペンテニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソボルニル等のメタクリル酸エステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、スチレン等のビニルモノマー等が挙げられる。
これら他のモノマーは、熱膨張性マイクロカプセルに必要な特性に応じて適宜選択されて使用され得るが、これらのなかでメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチル等が好適に用いられる。
【0016】
シェルを構成する全重合性モノマー中の上記他のモノマーの含有量は20重量%未満が好ましい。上記他のモノマーの含有量が20重量%以上であると、シェルのガスバリア性が低下し、熱膨張性が悪化しやすいので好ましくない。
【0017】
上記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物は、反応性が大きいため、重合時に飽和結合中の炭素に結合している水素を引き抜いて、新たなラジカルを生成させることができ、この生成ラジカルが再結合することで、飽和化合物間に架橋構造が形成される。これにより、得られるシェルの強度が増し、熱膨張性マイクロカプセルの高温加熱時における耐熱性が大幅に向上する。また、t−ブチル基は嵩高いことから、熱で分解したラジカルが重合性モノマーへ供給される際に、主たる重合性モノマーの配列を均一にすることができ、その結果、架橋構造を均一なものとすることが可能となる。
【0018】
上記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物としては、通常のアクリル重合における重合温度が40℃〜95℃の範囲であることから、10時間半減期温度が40℃〜95℃の有機過酸化物が好ましい。
上記10時間半減期温度が40℃〜95℃の有機過酸化物としては、例えば、日油社製のジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノネート[パーブチルND]、t−ブチルパーオキシネオヘプタノエート[パーブチルNHP]、t−ブチルパーオキシピバレート[パーブチルPV]、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノネート[パーブチルO]、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート[パーロイルTCP]、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン[パーヘキサMC]、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロへキサン[パーヘキサC]、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の含有量は、重合性モノマー100重量部に対して、20〜60重量部である。上記含有量が20重量部未満であると、充分に架橋できず、充分な発泡倍率が得られない。上記含有量が60重量部を超えると、得られるシェルのガスバリア性が不充分となる。上記含有量の好ましい下限は30重量部、好ましい上限は50重量部である。
【0020】
なお、上記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物は、予め上記油性混合液に添加してもよく、水性分散媒体と油性混合液とを重合反応容器内で攪拌混合した後に添加してもよく、また、上記重合性モノマーの一部が重合した後に添加してもよい。
【0021】
上記揮発性膨張剤は、シェルを構成するポリマーの軟化点以下の温度でガス状になる物質であり、低沸点有機溶剤が好適である。
上記揮発性膨張剤としては、例えば、エタン、エチレン、プロパン、プロペン、n−ブタン、イソブタン、ブテン、イソブテン、n−ペンタン、イソペンタン、ネオペンタン、n−へキサン、ヘプタン、石油エーテル等の低分子量炭化水素、CClF、CCl、CClF、CClF−CClF等のクロロフルオロカーボン、テトラメチルシラン、トリメチルエチルシラン、トリメチルイソプロピルシラン、トリメチル−n−プロピルシラン等のテトラアルキルシラン等が挙げられる。
なかでも、イソブタン、n−ブタン、n−ペンタン、イソペンタン、n−へキサン、石油エーテル、及び、これらの混合物が好ましい。これらの揮発性膨張剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明では、上述した揮発性膨張剤のなかでも、炭素数が5以下の低沸点炭化水素を用いることが好ましい。このような炭化水素を用いることにより、発泡倍率が高く、速やかに発泡を開始する熱膨張性マイクロカプセルとすることができる。
また、揮発性膨張剤として、加熱により熱分解してガス状になる熱分解型化合物を用いることとしてもよい。
【0023】
上記揮発性膨張剤の含有量は特に限定されないが、上記重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は15重量部、好ましい上限は50重量部である。上記揮発性膨張剤の含有量が15重量部未満であると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルが厚くなりすぎ、高温でないと発泡できないことがある。上記揮発性膨張剤の含有量が50重量部を超えると、得られる熱膨張性マイクロカプセルは、シェルの強度が低下し、高発泡倍率で発泡することができないことがある。
【0024】
上記シェルを構成する重合体の重量平均分子量の好ましい下限は10万、好ましい上限は200万である。重量平均分子量が10万未満であると、シェルの強度が低下することがあり、重量平均分子量が200万を超えると、シェルの強度が高くなりすぎ、発泡倍率が低下することがある。
【0025】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、シェルのゲル分率が30%以上である。
シェルのゲル分率が30重量%未満であると、主たる重合性モノマーとの架橋構造が不充分となり、高温領域でのへたりが顕著となる。
上記ゲル分率は、例えば、膨潤溶媒としてN,N−ジメチルフォルムアミドを用い、膨潤させた後のゲル分の重量を秤量することにより測定することができる。
【0026】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径の好ましい下限は5μm、好ましい上限は100μmである。上記体積平均粒子径が5μm未満であると、得られる成形体の気泡が小さすぎるため、成形体の軽量化が不充分となることがあり、100μmを超えると、得られる成形体の気泡が大きくなりすぎるため、強度等の面で問題となることがある。より好ましい下限は10μm、より好ましい上限は40μmである。
【0027】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、熱機械分析で測定した最大変位量(Dmax)の好ましい下限が300μmである。300μm未満であると、発泡倍率が低下し、所望の発泡性能が得られない。好ましい下限は400μmである。
なお、上記最大変位量は、所定量の熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、所定量全体の熱膨張性マイクロカプセルの径が最大となるときの値をいう。
【0028】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、最大発泡温度(Tmax)の好ましい下限が200℃である。200℃未満であると、耐熱性が低くなることから、高温領域や成形加工時において、熱膨張性マイクロカプセルが破裂、収縮することがある。より好ましい下限は210℃である。
【0029】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、発泡開始温度(Ts)の好ましい上限が180℃である。180℃を超えると特に射出成形の場合、発泡倍率が上がらないことがある。より好ましい下限は130℃、好ましい上限は160℃である。
なお、本明細書において、最大発泡温度は、熱膨張性マイクロカプセルを常温から加熱しながらその径を測定したときに、熱膨張性マイクロカプセルが最大変位量となったときにおける温度を意味する。
【0030】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルを用いて得られる発泡成形体は、高外観品質が得られ、独立気泡が均一に形成されており、軽量性、断熱性、耐衝撃性、剛性等に優れるものとなり、住宅用建材、自動車用部材、靴底等の用途に好適に用いることができる。
【0031】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルは、例えば、水性媒体を調製する工程、ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を調製する工程、前記水性媒体に油性混合液を添加して分散させる工程、並びに、前記重合性モノマーを重合させる工程を有し、前記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の全添加量が、前記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部である方法によって製造することができる。
このような熱膨張性マイクロカプセルの製造方法もまた本発明の1つである。
【0032】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、最初に水性媒体を調製する工程を行う。具体例には例えば、重合反応容器に、水と分散安定剤、必要に応じて補助安定剤を加えることにより、分散安定剤を含有する水性分散媒体を調製する。また、必要に応じて、亜硝酸アルカリ金属塩、塩化第一スズ、塩化第二スズ、重クロム酸カリウム等を添加してもよい。
【0033】
上記分散安定剤としては、例えば、シリカ、リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、シュウ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0034】
上記分散安定剤の添加量は特に限定されず、分散安定剤の種類、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径等により適宜決定されるが、重合性モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.1重量部、好ましい上限が20重量部である。
【0035】
上記補助安定剤としては、例えば、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物、尿素とホルムアルデヒドとの縮合生成物、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ゼラチン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、ジオクチルスルホサクシネート、ソルビタンエステル、各種乳化剤等が挙げられる。
【0036】
また、上記分散安定剤と補助安定剤との組み合わせとしては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせ、コロイダルシリカと水溶性窒素含有化合物との組み合わせ、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムと乳化剤との組み合わせ等が挙げられる。これらの中では、コロイダルシリカと縮合生成物との組み合わせが好ましい。
更に、上記縮合生成物としては、ジエタノールアミンと脂肪族ジカルボン酸との縮合生成物が好ましく、特にジエタノールアミンとアジピン酸との縮合物やジエタノールアミンとイタコン酸との縮合生成物が好ましい。
【0037】
上記水溶性窒素含有化合物としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートやポリジメチルアミノエチルアクリレートに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノプロピルアクリルアミドやポリジメチルアミノプロピルメタクリルアミドに代表されるポリジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド、ポリアクリルアミド、ポリカチオン性アクリルアミド、ポリアミンサルフォン、ポリアリルアミン等が挙げられる。これらのなかでは、ポリビニルピロリドンが好適に用いられる。
【0038】
例えば、上記分散安定剤としてコロイダルシリカを用いる場合、上記コロイダルシリカの添加量は、熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、重合性モノマー100重量部に対して、好ましい下限が1重量部、好ましい上限が20重量部である。より好ましい下限は2重量部、より好ましい上限は10重量部である。また、上記縮合生成物又は水溶性窒素含有化合物の量についても熱膨張性マイクロカプセルの粒子径により適宜決定されるが、重合性モノマー100重量部に対して、好ましい下限が0.05重量部、好ましい上限が2重量部である。
【0039】
上記分散安定剤及び補助安定剤に加えて、更に塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等の無機塩を添加してもよい。無機塩を添加することで、より均一な粒子形状を有する熱膨張性マイクロカプセルが得ることができる。上記無機塩の添加量は、通常、重合性モノマー100重量部に対して0〜100重量部が好ましい。
【0040】
上記分散安定剤を含有する水性分散媒体は、分散安定剤や補助安定剤を脱イオン水に配合して調製され、この際の水相のpHは、使用する分散安定剤や補助安定剤の種類によって適宜決められる。例えば、分散安定剤としてコロイダルシリカ等のシリカを使用する場合は、酸性媒体で重合がおこなわれ、水性媒体を酸性にするには、必要に応じて塩酸等の酸を加えて系のpHが3〜4に調製される。一方、水酸化マグネシウム又はリン酸カルシウムを使用する場合は、アルカリ性媒体の中で重合させる。
【0041】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、次いで、ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を調製する工程、及び、前記水性媒体に油性混合液を添加して分散させる工程を行う。この工程では重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を別々に水性分散媒体に添加して、水性分散媒体中で油性混合液を調製してもよいが、通常は、予め重合性モノマー、揮発性膨張剤を混合した後、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加し油性混合液としてから、水性分散媒体に添加する。この際、油性混合液と水性分散媒体とを予め別々の容器で調製しておき、別の容器で攪拌しながら混合することにより油性混合液を水性分散媒体に分散させた後、重合反応容器に添加してもよい。
【0042】
上記油性混合液を水性分散媒体中に分散させる方法としては、ホモミキサー(例えば、特殊機化工業社製)等により攪拌する方法や、ラインミキサーやエレメント式静止型分散器等の静止型分散装置を通過させる方法等が挙げられる。
なお、上記静止型分散装置には水系分散媒体と重合性組成物を別々に供給してもよいし、予め混合、攪拌した分散液を供給してもよい。
【0043】
上記油性混合液中には、上記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物以外に、他の重合開始剤が含有されてもよい。
上記他の重合開始剤としては、例えば、過酸化ジアルキル、過酸化ジアシル、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、アゾ化合物等が好適に用いられる。具体例には、例えば、メチルエチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド等の過酸化ジアルキル、イソブチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化ジアシル、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシネオデカノエート、(α、α−ビス−ネオデカノイルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン等のパーオキシエステル、ジ−n−プロピル−オキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エチルエチルパーオキシ)ジカーボネート、ジメトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチルパーオキシ)ジカーボネート等のパーオキシジカーボネート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0044】
上記油性混合液は、更に金属カチオン塩を含有してもよい。
上記金属カチオン塩を含有することで、イオン架橋が起こることから、架橋効率が上がり、耐熱性を高くすることが可能となる。その結果、高温領域において長時間破裂、収縮の起こらない熱膨張性マイクロカプセルとすることが可能となる。また、高温領域においてもシェルの弾性率が低下しにくいことから、強い剪断力が加えられる混練成形、カレンダー成形、押出成形、射出成形等の成形加工を行う場合であっても、熱膨張性マイクロカプセルの破裂、収縮が起こることがない。
また、共有結合でなくイオン架橋が起こることによって、熱膨張性マイクロカプセルの粒子形状が真球に近くなり、歪みが生じにくくなる。これは、イオン結合による架橋が、共有結合による架橋に比べて結合力が弱いため、重合中のモノマーからポリマーへ転化時において、熱膨張性マイクロカプセルの体積が収縮する際に均一に収縮が生じることが原因と考えられる。
【0045】
上記金属カチオン塩の金属カチオンとしては、上記ラジカル重合性不飽和カルボン酸モノマーと反応してイオン架橋させる金属カチオンであれば、特に限定されず、例えば、Na、K、Li、Zn、Mg、Ca、Ba、Sr、Mn、Al、Ti、Ru、Fe、Ni、Cu、Cs、Sn、Cr、Pb等のイオンが挙げられる。これらのなかでは、2〜3価の金属カチオンであるCa、Zn、Alのイオンが好ましく、特にZnのイオンが好適である。これらの金属カチオン塩は、単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記油性混合液中における、上記金属カチオン塩の含有量の好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限が10重量%である。上記金属カチオン塩の含有量が0.1重量%未満であると、耐熱性に効果が得られないことがあり、上記金属カチオン塩の含有量が10重量%を超えると、発泡倍率が著しく悪くなることがある。上記金属カチオン塩の含有量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は5重量%である。
【0047】
上記油性混合液には、更に必要に応じて、安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、色剤等を含有していてもよい。
【0048】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上述した工程を経て得られた分散液を、例えば、加熱することにより重合性モノマーを重合させる工程を行うことで、製造することができる。このような方法により製造された熱膨張性マイクロカプセルは、発泡倍率が高く、耐熱性に優れ、高温領域や成形加工時においても破裂、収縮することがない。
【0049】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上記重合性モノマーを重合させる工程において、更に、重合開始後に分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加する工程を行うことが好ましい。
これにより、重合時の反応を抑制され、得られる熱膨張性マイクロカプセルの発泡特性が良好なものとなる。
【0050】
本発明の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法では、上記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の全添加量が、上記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部である。
また、本発明では、重合開始後に分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加する工程において、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を上記重合性モノマー100重量部に対して10〜30重量部添加することが好ましい。これにより、重合反応が急激に起こることを抑制することができる。
【0051】
また、本発明では、重合開始後に分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加する工程において、重合性モノマーの反応転化率が60〜70重量%となった時点で、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加することが好ましい。これにより、重合時の反応を抑制され、得られる熱膨張性マイクロカプセルの発泡特性が更に良好なものとなる。
上記反応転化率は、重合性モノマーが反応して反応生成物(重合体)に転化した割合を示すものであり、次式で表される。
〔反応生成物/(重合性モノマー+反応生成物)〕×100(重量%)
なお、上記反応転化率は、50℃、0.1kPaの加熱減圧条件下で24時間乾燥することにより未反応の重合性モノマーを除去し、反応生成物を秤量することにより測定することができる。
【0052】
なお、上記重合性モノマーの反応転化率が60〜70重量%となった時点は、使用するモノマーの種類、使用する有機過酸化物の種類等の使用する配合物の種類や比率によって変化するため、予め予備実験を行うことで求めることになる。
具体的には、油性混合液と水性媒体を含む重合系内から一部をサンプリングし、急冷及び酸素と接触させることで反応を中止させ、50℃、0.1kPaの加熱減圧条件下で24時間乾燥することにより未反応の重合性モノマーを除去し、反応生成物を秤量することにより測定し、前記計算式から求めることになる。なお、サンプリングのタイミングは、1時間毎が好ましい。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、優れた耐熱性を有し、高い発泡倍率を実現できる熱膨張性マイクロカプセルを提供できる。また、本発明は、該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0055】
(実施例1〜7、比較例1〜8)
(熱膨張性マイクロカプセルの作製)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)20重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.2重量部と、1N塩酸0.7重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、表1に示した配合比のモノマーと、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び/又は他の重合開始剤と、揮発性膨張剤とからなる油性混合液を水性分散媒体に添加し、懸濁させて分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で24時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0056】
(実施例8〜10)
重合反応容器に、水250重量部と、分散安定剤としてコロイダルシリカ(旭電化社製20重量%)20重量部及びポリビニルピロリドン(BASF社製)0.2重量部と、1N塩酸0.7重量部とを投入し、水性分散媒体を調製した。
次いで、表1に示した配合比のモノマーと、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物と、揮発性膨張剤とからなる油性混合液を水性分散媒体に添加し、懸濁させて分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で24時間反応させた。その後、全重合性モノマーの反応転化率が65重量%の時点で一旦反応を中断させ、常温まで冷却後、表1に示した量の分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を反応系内に更に添加し、再度懸濁させて分散液を調製した。得られた分散液をホモジナイザーで攪拌混合し、窒素置換した加圧重合器内へ仕込み、加圧(0.5MPa)しながら60℃で24時間反応させることにより、反応生成物を得た。得られた反応生成物について、ろ過と水洗を繰り返した後、乾燥することにより、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
なお、上記反応転化率は、50℃、0.1kPaの加熱減圧条件下で24時間乾燥することにより未反応の重合性モノマーを除去し、反応生成物を秤量することにより測定し、下記式で算出することにより確認した。
〔反応生成物/(重合性モノマー+反応生成物)〕×100(重量%)
【0057】
(評価)
実施例1〜10、比較例1〜8で得られた熱膨張性マイクロカプセルについて、下記の評価を行った。結果を表1に示した。
【0058】
(1)ゲル分率
熱膨張性マイクロカプセルを1g秤量し、膨潤溶媒としてN,N−ジメチルフォルムアミドを29g秤量し、これらを容器内にて混合し24時間放置することで発泡粒子を膨潤させた。膨潤させたゲルを、0.1kPaに減圧し乾燥温度75℃の真空乾燥機にて48時間乾燥させ、ゲルのみを採取して秤量しゲル分重量とし、下記式を用いることでゲル分率を測定した。なお、予め熱膨張性マイクロカプセルを1g秤量し、すりつぶした後に減圧乾燥し秤量することでシェル部分の重量分率を求めた。
(ゲル分重量/(1g×シェル部分の重量分率))×100(重量%)
【0059】
(2)発泡倍率
熱膨張性マイクロカプセルを約0.1g秤量し、10mLのメスシリンダーに入れた。このメスシリンダーを160℃、180℃、200℃又は220℃に加熱したオーブンに5分間投入し、膨張した粒子のメスシリンダー内での容積を測定し、初期容積と加熱膨張後の体積から発泡倍率を得た。
【0060】
(3)耐熱性(へたり)
得られた熱膨張性マイクロカプセルを約0.1g計量し、10mLのメスシリンダーに入れた。その後、150℃に加熱したオーブンに5分間投入し、メスシリンダー内で膨張した熱膨張性マイクロカプセルの容積(L)を測定した。
その後、更に200℃に加熱したオーブンに10分間投入し、メスシリンダー内の粒子の容積(H)を測定し、比(H/L)を算出し、耐熱性(へたり)の評価を行った。
上記H/Lが0.5以上である場合を○、H/Lが0.1以上0.5未満である場合を△、H/Lが0.1未満である場合を×とした。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、高温での耐久性に優れ、高い発泡倍率を実現可能な熱膨張性マイクロカプセルを提供できる。また、本発明によれば、該熱膨張性マイクロカプセルの製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性組成物を用いて得られる熱膨張性マイクロカプセルであって、
前記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の含有量は、前記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部であり、かつ、
シェルのゲル分率が30%以上である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセル。
【請求項2】
請求項1記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法であって、
水性媒体を調製する工程、
ニトリル系モノマーを含有する重合性モノマー、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物及び揮発性膨張剤を含有する油性混合液を調製する工程、
前記水性媒体に油性混合液を添加して分散させる工程、並びに、
前記重合性モノマーを重合させる工程を有し、
前記分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物の全添加量が、前記重合性モノマー100重量部に対して20〜60重量部である
ことを特徴とする熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
重合性モノマーを重合させる工程において、更に、重合開始後に分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加する工程を行うことを特徴とする請求項2記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
重合開始後に分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加する工程において、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を前記重合性モノマー100重量部に対して10〜30重量部添加することを特徴とする請求項3記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
重合開始後に分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加する工程において、重合性モノマーの反応転化率が60〜70重量%となった時点で、分子内にt−ブチル基を有する有機過酸化物を添加することを特徴とする請求項3又は4記載の熱膨張性マイクロカプセルの製造方法。

【公開番号】特開2011−195777(P2011−195777A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66685(P2010−66685)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】