説明

熱転写シートの残像処理方法及び熱転写シート並びに熱転写プリンタ

【課題】熱転写シートからの情報漏洩を防止するため、より安価で簡便な熱転写シートの残像処理方法及び熱転写シート並びに熱転写プリンタを提供すること。
【解決手段】基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成されてなり、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートの処理方法である。染料受容層を形成した熱転写受像シート上に昇華性染料と転写性保護層とをサーマルヘッドで熱転写した後、巻き取りリールに使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱し、対向する残留転写性保護層と背面層とを熱融着させる、

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みの熱転写シート(インクリボン)からの情報漏洩防止に用いる、熱転写シートの残像処理方法及び熱転写シート並びに熱転写プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
昇華型熱転写プリンタでは、使用済み熱転写シートに印刷の残像が残っており、ここから情報が漏洩する可能性がある。特に業務用プリンタではユーザーが使用した熱転写シートは店舗内にあるプリンタ内に収納されたままの状態となっている。使用済み熱転写シートはプリンタ内にセットしてあるだけなので、プリンタの管理者は簡単にこれにアクセスすることが可能である。この使用済み熱転写シートをそのままゴミ箱に捨てた場合、一般の人に印刷情報が漏洩する可能性もある。このため、プリンタから使用済み熱転写シートを取り出す場合、使用済み熱転写シートに何らかの情報漏洩防止措置を施すことが求められている。
【0003】
これに対し、例えば、熱転写シートのインク未塗布領域に感熱接着剤を塗布し、サーマルヘッドを通過させた使用済み熱転写シートを巻き取りロールで巻き取る前に、加熱ローラにより加熱して感熱接着剤を活性化させ、巻き取りロールに巻き取りながら熱転写シートを接着一体化する方法が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−156489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、熱転写シートに新たに感熱接着剤を塗布する必要があり、材料コストの増加や製造工程の増加に伴い製造コストが上昇するという問題がある。そのため、より安価で簡便な情報漏洩防止方法が求められている。
【0005】
そこで、本発明は、熱転写シートからの情報漏洩を防止するため、より安価で簡便な熱転写シートの残像処理方法及び熱転写シート並びに熱転写プリンタを提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱転写記録方法においては、昇華性染料層の熱転写によって得られた画像上に、サーマルヘッドや熱ロール等の加熱手段を用いて転写性保護層を転写させ、画像上に保護層を形成して耐候性、耐薬品性、耐擦傷性等の耐久性を向上させる方法が用いられている。本発明者らは、転写性保護層の余裕領域が転写後においても使用済み転写シートに常に残留することに注目し、その残留転写性保護層と背面層とを融着させることにより、使用済み熱転写シートの残像の閲覧防止が可能なことを見出して本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の熱転写シートの残像処理方法は、基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成されてなり、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層の樹脂成分と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートの処理方法であって、染料受容層を形成した熱転写受像シート上に昇華性染料と転写性保護層とをサーマルヘッドで熱転写した後、巻き取りリールに使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱し、対向する残留転写性保護層と背面層とを熱融着させることを特徴とする。なお、本発明においては、特に断らない限り、接触角の差とは接触角の差の絶対値をいうものとする。また、特に断らない限り、樹脂成分の接触角とは、樹脂成分のみからなる塗膜に対する接触角をいう。
【0007】
ここで、使用済み熱転写シートを加熱するに際し、サーマルヘッドからの印加エネルギーよりも大きいエネルギーを与えて加熱することもできる。
【0008】
また、本発明の熱転写シートは、基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成され、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の熱転写プリンタは、基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成されてなる熱転写シートから、染料受容層を形成した熱転写受像シート上に昇華性染料と転写性保護層とをサーマルヘッドで熱転写し、サーマルヘッドから搬送された使用済み熱転写シートを巻き取る熱転写プリンタであって、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートを用い、かつ使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱する加熱手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱転写シートの残像処理方法によれば、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートを用い、使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱するだけで、容易に使用済み熱転写シートの残像の閲覧を防止することが可能となる。
【0011】
また、本発明の熱転写シートは、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差を5〜15度とすることにより、印刷時における転写性保護層の転写を可能とする一方、水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差を5〜30度とすることにより、印刷後の加熱により背面層と転写性保護層との融着を可能としたものである。これにより、熱転写シートに新たに接着剤を塗布する必要がなく、情報漏洩防止用のより安価な熱転写シートを提供することが可能となる。
【0012】
また、本発明の熱転写プリンタによれば、上記の本発明の熱転写シートを用い、かつ使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱する加熱手段を設けるようにしたので、使用済み熱転写シートの残像の閲覧防止を容易に行うことの可能な熱転写プリンタを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の熱転写シートの残像処理方法は、基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成されてなり、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートの処理方法であって、染料受容層を形成した熱転写受像シート上に昇華性染料と転写性保護層とをサーマルヘッドで熱転写した後、巻き取りリールに使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱し、対向する残留転写性保護層と背面層とを熱融着させることを特徴とするものである。
【0014】
本発明においては、水に対する接触角とは、接触角測定装置(例えば、協和界面科学社製のCA−Z)を用いて測定した値である。すなわち、室温(例えば20〜30℃)において、被測定対象物の表面に純水を1滴あるいは一定量滴下し、一定時間経過後の水滴形状を顕微鏡やCCDカメラを用い観察して求めた接触角の値をいう。なお、接触角は、基材や各層の極性を反映することから、接触角の差の絶対値が小さければ小さいほど同様の極性の程度を有しており親和性が大きくなる結果、加熱時には相互に混合して熱融着が起きやすくなると考えられる。一方、接触角の差の絶対値が大きくなればなるほど、極性が大きく異なり親和性が低下する結果、融着が起きにくくなると考えられる。
【0015】
本発明においては、転写性保護層は、転写時に基材から剥離され受像シートに転写される必要があり、かつ転写後の残像処理時には、残留する転写性保護層が背面層と融着する必要があり、この際、残留する転写性保護層はもちろん基材から剥がれないように基材と融着している必要がある。すなわち、本発明においては、基材/転写性保護層界面における層間の親和性と、背面層/転写性保護層界面における層間の親和性を考慮する必要がある。
【0016】
まず、基材/転写性保護層界面については、転写時には転写性保護層が基材から剥離され、かつ転写後の残像処理時には基材と残留転写性保護層とが融着する必要がある。そのためには、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差は5度〜15度が好ましい。より好ましくは、5度〜10度である。5度より小さいと、印刷時において基材と転写性保護層とが融着し、転写することができないからである。また、15度よりも大きいと、基材から残留転写性保護層が剥がれ易くなることや、印画後の残像処理時に基材との融着が起こらなくなるなどの問題が発生する。
【0017】
一方、背面層/転写性保護層界面については、通常の小巻状態(背面層と転写性保護層とが接触)で60℃環境に保存してもブロッキング(背面層と転写性保護層との融着)が起こらず、印刷後の残像処理時には速やかに融着が起こることが求められる。そのため、水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差は5度〜30度が好ましい。より好ましくは、10度〜26度である。5度より小さいとブロッキングが起きやすくなり、30度よりも大きいと背面層と転写性保護層とが融着しにくくなるからである。
【0018】
また、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が、背面層と転写性保護層の接触角の差よりも小さいことが好ましい。例えば、基材にPETフィルムを用いた場合、製膜過程で延伸する際に結晶化や配行が起こっており、また硬化剤を添加している場合もあるので、基材と転写性保護層との親和性を大きくして、印刷後の残像処理時において残留転写性保護層が基材から剥がれにくくする必要があるからである。
【0019】
本発明に用いる熱転写シートには、少なくとも、基材の一方の面に染料層を有し、かつ他方の面に耐熱活性層を有するものを用いることができる。
熱転写シートの基材としては、従来公知のある程度の耐熱性と強度を有するものであればいずれのものでも良く、例えば、0.5〜50μm、好ましくは1〜10μm程度の厚さのポリエチレンテレフタレートフィルム、1,4−ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリフェニレンサルフィドフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリサルホンフィルム、アラミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、セロハン、酢酸セルロース等のセルロース誘導体、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ナイロンフィルム、ポリイミドフィルム、アイオノマーフィルム等が挙げられるが、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0020】
また、染料層は、1色の単一層で構成したり、あるいは色相の異なる染料を含む複数の染料層を、同一基材の同一面に面順次に、繰り返し形成することもできる。染料層は、昇華性染料を任意のバインダーにより担持してなる層である。使用する染料としては、熱により、溶融、拡散もしくは昇華移行する染料であって、従来公知の昇華転写型熱転写シートに使用されている染料は、いずれも本発明に使用可能であるが、色相、印刷濃度、耐光性、保存性、バインダーへの溶解性等を考慮して選択することができる。
【0021】
染料としては、例えばジアリールメタン系、トリアリールメタン系、チアゾール系、メロシアニン、ピラゾロンメチン等のメチン系、インドアニリン、アセトフェノンアゾメチン、ピラゾロアゾメチン、イミダゾルアゾメチン、イミダゾアゾメチン、ピリドンアゾメチンに代表されるアゾメチン系、キサンテン系、オキサジン系、ジシアノスチレン、トリシアノスチレンに代表されるシアノメチレン系、チアジン系、アジン系、アクリジン系、ベンゼンアゾ系、ピリドンアゾ、チオフェンアゾ、イソチアゾールアゾ、ピロールアゾ、ピラールアゾ、イミダゾールアゾ、チアジアゾールアゾ、トリアゾールアゾ、ジズアゾ等のアゾ系、スピロピラン系、インドリノスピロピラン系、フルオラン系、ローダミンラクタム系、ナフトキノン系、アントラキノン系、キノフタロン系等のものが挙げられる。
【0022】
また、染料層のバインダーとしては、従来公知のバインダー樹脂がいずれも使用でき、好ましいものを例示すれば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂等が挙げられる。これらの中で、耐熱性、染料の移行性等の観点から、セルロース系樹脂、アセタール系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエステル樹脂及びフェノキシ樹脂等が特に好ましい。
【0023】
染料層は、上記染料、バインダーと、その他必要に応じて従来公知の各種添加剤を加えてもよい。その添加剤として、例えば、受像シートとの離型性やインキの塗工適性を向上させるために、ポリエチレンワックス等の有機微粒子、無機微粒子、シリコーンオイル、リン酸エステルなどが挙げられる。このような染料層は、通常、適当な溶剤中に上記染料、バインダーと、必要に応じて添加剤を加えて、各成分を溶解または分散させて塗工液を調製し、その後、この塗工液を基材の上に塗布、乾燥させて形成することができる。この塗布方法は、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の公知の手段を用いることができる。このように形成された染料層の乾燥時の塗工量は0.2〜6.0g/m、好ましくは0.2〜3.0g/mである。
【0024】
転写性保護層は、基材の一方の面に上記の染料層と面順次に形成することができる。転写性保護層に用いる樹脂には、例えば、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、これらの樹脂をシリコーン変性した樹脂及びこれらの樹脂の混合物を挙げることができる。好ましくは、ポリエステル樹脂である。これら樹脂の少なくとも1種を適当な溶剤に溶解させて塗工液を調製し、その後、この塗工液を基材の上に塗布、乾燥させて形成することができる。このように形成された転写性保護層の乾燥時の塗工量は0.5〜10g/mである。
【0025】
背面層には、耐熱滑性層を用いることができる。耐熱滑性層は、基材の耐熱性を向上させるため、サーマルヘッドとの滑り性を制御するものである。耐熱滑性層を形成する樹脂には、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、酢酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロース系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等のビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン変性ポリアミドイミド樹脂、シリコーン変性又はフッ素変性ウレタン樹脂等を挙げることができる。
【0026】
また、耐熱滑性層の中にフィラーを添加し、サーマルヘッドに付着するカスのクリーニングや、耐熱滑性層の滑性を変化させることができる。また、巻き形態での熱転写シート保存時における染料層塗工面とのブロッキングや染料移行を軽減させることができる。従来公知のフィラーはいずれも使用することが可能であるが、例えば、タルク、カオリン、マイカ、グラファイト、炭酸カルシウム、二硫化モリブデン、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物などを用いることができる。より好ましくは、タルク、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物である。フィラー成分の添加量は、樹脂100重量部に対して5〜40重量部が好ましい。添加量が5重量部未満であるとフィラーの効果を十分に発現するに至らず、40重量部より多いと被膜強度の低下によるカスの発生やフィラーの脱離がおこることがある。
【0027】
本発明の耐熱滑性層は、例えば、以下の方法により形成することができる。基材の上に、上記の樹脂やフィラーを、適当な溶剤により、溶解又は分散させて、耐熱滑性層塗工液を調製し、これを、例えば、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、グラビア版を用いたリバースロールコーティング法等の形成手段により塗工し、乾燥して形成することができる。耐熱滑性層の乾燥時の塗工量は、0.1g/m〜3.0g/mが好ましい。
【0028】
また、受像シートには、例えば、天然パルプ紙、コート紙、トレーシングペーパー、プラスチックフィルム、金属、セラミックス、木材、布等を用いることができる。
【0029】
図1は、本発明の熱転写プリンタの主要部の構成の一例を示す模式図である。図1中、熱転写シート10が巻回された熱転写シート供給リール1と、受像シート11が巻回された受像シート供給リール2が熱転写プリンタ内に配置されている。熱転写シート10と受像シート11の搬送経路の途中には、プラテンロール4とサーマルヘッド3が配設されている。熱転写シート10と受像シート11はプラテンロール4とサーマルヘッド3との間を圧接状態で通過する。サーマルヘッド3を通過した使用済み熱転写シート12は、搬送ローラ5により搬送され巻き取りリール6により巻き取られる。巻き取りリール6の外側には巻き取られた使用済み熱転写シートを加熱する加熱手段7が配置されている。ここで、熱転写シートは、基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成された構造を有する(不図示)。
【0030】
次に、熱転写プリンタの動作について説明する。
印刷待機状態である初期状態では、サーマルヘッド3はヘッドアップ状態であり、プラテンロール4とは離間している。熱転写シート供給リール1の装着時には、熱転写シート10の先端部を搬送ローラ5の隙間を通過させ、先端部を巻き取りロール6に固定する。一方、受像シート11は、その先端部を受像シート供給リール2から引出し、搬送ローラ(不図示)により挟持固定する。
【0031】
印刷時には、押圧機構(不図示)によりサーマルヘッド3をヘッドダウンさせ、熱転写シート10と受像シート11をプラテンロール4との間で圧接状態とし、複数の発熱抵抗体を有するサーマルヘッド3で画像情報に応じて選択的に熱を加えることにより受像シート11に画像を記録する。次に、形成された画像の上にサーマルヘッドを用いて転写性保護層を転写する。
【0032】
印刷が終了すると、押圧機構(不図示)によりサーマルヘッド3がヘッドアップされ、熱転写シート10と受像シート11の圧接状態が解除される。受像シート11は、所定の長さだけ搬送ローラ(不図示)により引き出され、排出部(不図示)へと搬送される。一方、使用済み熱転写シート12は、搬送ローラ5を通して巻き取りリール6により巻き取られる。巻き取られた加熱手段7により加熱され、対向する背面層と転写性保護層とが融着する。これにより、使用済み熱転写シートの残像を閲覧することができなくなる。
【0033】
図1には、巻き取った使用済み熱転写シートを加熱する例を示したが、搬送ローラ5を通過後、巻き取る前に加熱し、巻き取りながら背面層と転写性保護層とを融着させる方法を用いることもできる。加熱手段には、熱ロール、ラインヒータ等を用いることができる。加熱温度は、100〜200℃が好ましい。
【0034】
また、加熱手段を用いて使用済み熱転写シートを加熱するに際し、サーマルヘッドからの印加エネルギーよりも大きいエネルギーを与えることが好ましい。背面層と転写性保護層とを十分に融着させて剥離しにくくするためである。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(サンプル作製方法)
基材(ポリエステルフィルム、東レ社製ルミラー、厚さ5μm)の未処理面上に、下記組成の耐熱滑性層用塗工液を乾燥後塗布量が0.5g/mになるようにグラビアコーティングにて塗布し、乾燥して耐熱滑性層を形成した。更に、上記基材に対し、耐熱滑性層と反対側の面上(易接着処理面上)に、下記組成の転写性保護層用塗工液を、乾燥後塗工量が0.7g/mになるようにグラビアコーティングにて塗布し、乾燥して、熱転写シートを得た。
<耐熱滑性層用塗工液>
・供試樹脂 10.0重量部
・シリコーンオイル(KF965−100、信越化学工業株式会社) 0.4重量部
・MEK 44.8重量部
・トルエン 44.8重量部
<転写性保護層用塗工液>
・供試樹脂 20.0重量部
・MEK 40.0重量部
・トルエン 40.0重量部
【0036】
転写性保護層に用いた樹脂は、ポリエステル樹脂(東洋紡社製バイロン200,バイロン700)、アクリル樹脂(三菱レーヨン社製ダイヤナールBR−80)、アクリル樹脂(大塚化学社製PUVA−50M)、塩酢ビ樹脂(日信化学社製ソルバインCN)、ポリビニルアセタール樹脂(積水化学社製KS−5)である。また、耐熱滑性層に用いた樹脂は、ポリアミドイミド樹脂(東洋紡社製バイロマックス15ET,バイロマックス34ET)、ポリビニルアセタール樹脂(積水化学社製KS−5)、アクリル樹脂(三菱レーヨン社製ダイヤナールBR−80)である。
【0037】
(接触角測定)
協和界面科学社製の接触角測定装置CA−Zを用いて測定した。測定試料は、トルエンとMEKに溶解させた上記の供試樹脂を上記の基材に塗布し乾燥させた塗膜と、基材である。23℃において、被測定対象物の表面に純水を1滴あるいは一定量滴下し、一定時間経過後の水滴形状を顕微鏡やCCDカメラを用い観察して接触角を求めた。
【0038】
(評価方法)
1.印刷時
印刷は、2.0ms/L、パルスデューティー96%、電圧20Vで行った。
○:問題なく転写できた。
×:基材と転写性保護層が剥離しない。
2.巻き取り融着時
加熱手段に熱ロールを用い、温度100℃、処理速度1m/minで行った。
基材/転写性保護層間
○:剥離しない。
×:基材が剥がれる。
転写性保護層/背面層間
○:剥離しない。
×:基材が剥がれる。
3.小巻保存時
背面層と転写性保護層とを重ねて巻回し、60℃、85%、20kg/cmにて48時間保存した。
○:ブロッキング発生せず。
×:ブロッキング発生。
評価結果を表1−1と表1−2に示す。表1−2中、「接触角差」とは、接触角の差の絶対値を示し、「基材−保護層」は基材と保護層中の樹脂成分からなる塗膜との接触角差を示し、「保護層−背面層」とは保護層中の樹脂成分からなる塗膜と背面層中の樹脂成分からなる塗膜との接触角差を示す。
【0039】
【表1−1】

【0040】
【表1−2】

【0041】
実施例の結果から明らかなように、本発明によれば、小巻品保存時においてはブロッキングを発生することなく、使用済み熱転写シートを巻き取り融着させることができた。これにより、使用済み熱転写シートからの情報漏洩を容易に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態に係る熱転写プリンタの主要部の構成の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0043】
1 熱転写シート供給リール
2 受像シート供給リール
3 サーマルヘッド
4 プラテンロール
5 搬送ロール
6 巻き取りリール
7 加熱部
A 熱転写プリンタ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成されてなり、水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートの残像処理方法であって、
熱転写受像シート上に昇華性染料と転写性保護層とをサーマルヘッドで熱転写した後、巻き取りリールに使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱し、対向する残留転写性保護層と背面層とを熱融着させる、熱転写シートの残像処理方法。
【請求項2】
使用済み熱転写シートを加熱するに際し、サーマルヘッドからの印加エネルギーよりも大きいエネルギーを与えて加熱する請求項1記載の熱転写シートの残像処理方法。
【請求項3】
基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成され、
水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シート。
【請求項4】
基材の一方の面には少なくとも1色の昇華性染料層と転写性保護層とが面順次に形成され、他方の面には背面層が形成されてなる熱転写シートから、熱転写受像シート上に昇華性染料と転写性保護層とをサーマルヘッドで熱転写し、サーマルヘッドから搬送された使用済み熱転写シートを巻き取る熱転写プリンタであって、
水に対する基材と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜15度であり、かつ水に対する背面層と転写性保護層の樹脂成分の接触角の差が5度〜30度である熱転写シートを用い、かつ使用済み熱転写シートを巻き取るに先立ってあるいは巻き取った後に加熱する加熱手段を有する熱転写プリンタ。




【図1】
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【公開番号】特開2008−49663(P2008−49663A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230675(P2006−230675)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】