説明

熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置および方法

【課題】鋼板の長手方向に均一なクラウンと平坦な形状を同時に実現する。
【解決手段】クラウン・形状フィードバック制御を行う際、クラウン制御を分担するスタンドのうち上流スタンドのベンダー修正効果が及ばない鋼板部位について、下流スタンドのベンダー量を鋼板部位に対応づけて補正し、クラウン制御を高応答化する。さらにクラウン制御を分担するスタンドと形状制御を行うスタンドをクラウン偏差(またはクラウン比率偏差)と形状平坦度の値にしたがって最適化する。この結果、長手方向のクラウン精度と形状平坦度をともに高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延ミルのクラウン形状制御方法に係り、圧延中に検出したクラウンと形状の値を用いた演算で、これらを鋼板の長手方向に均一化するのに好適な制御方式に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱間圧延機のクラウン制御装置として以下のような手法が知られている。特許文献1には、圧延中に得られた鋼板のクラウン比率と目標クラウン比率の偏差を用いて、各スタンドの入側と出側のクラウン比率が一定になるようなベンダー指令を演算し、板クラウン変更点が各スタンドに到達する時点でそれぞれのベンディング操作量を変更する手法が示されている。ここでクラウン比率とは、クラウンを板厚で除した値である。この結果、板の形状(平坦度)に影響を与えることなく、クラウンを目標値に近づけることができるとされている。
【0003】
特許文献2には、セットアップ制御において中間スタンドのひとつをチェックスタンドとし、このスタンドにおける目標クラウン比率を求め、実際の値が超過していると推定される場合には、超過量を上流側のスタンドに分配して制御する。さらにクラウン制御操作量が限界に達しているスタンドでは、このスタンドおよび上流スタンドのクラウン比率設定値を変更する手法が示されている。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−123509号公報
【特許文献2】特開平4−200912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1の手法では、各スタンドの目標クラウン比率を一定に制限することが、クラウン制御範囲の制約になる問題があった。上述したようにクラウン比率はクラウンと板厚から算出されるが、各スタンドの入出側板厚は圧延スケジュ−ルにしたがっておりクラウン制御の都合で変更できないので、ミルに進入するときの鋼板のクラウン比率に相当したクラウン比率しか、目標クラウン比率として実現できない問題があった。またクラウンと同時に圧延中の形状の乱れを矯正することに、配慮していなかった。
【0006】
また特許文献2の手法を、検出クラウンを使用したフィードバック制御に使用した場合には、操作量が修正されるすべてのスタンドより上流にある鋼板部位にはフィードバック制御の効果が完全に反映されるが、ここより下流の鋼板部位では、フィードバック制御の効果が部分的にしか反映されない問題があった。例えばフィードバック制御で1〜5スタンドの操作量を変更する場合、フィードバック制御開始タイミングで3スタンド直下に位置した鋼板部位は、1スタンドと2スタンドの操作量変更が施されないため、フィードバック制御の効果が不十分になる問題があった。この場合、1スタンド以前に位置する鋼板部位にしか、フィードバック制御のすべての効果が反映されない問題があった。さらに、チェックスタンドを固定しているため、クラウン制御のために確保しているスタンド数は一定である。このためクラウン偏差の大きさにより、確保しているスタンド数が不十分であったり、過剰であったりする問題があった。
【0007】
また実績クラウンの目標クラウンからの偏差解消を上流スタンドで行うことで、クラウン制御が鋼板形状へ及ぼす影響を小さくすることには配慮しているが、クラウンと同時に形状の乱れを矯正することには、配慮していなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、実績クラウンの目標クラウンに対する偏差を、形状の矯正(鋼板の平坦化)にも配慮しつつ、操作端の制御能力をフルに使って解消することにある。さらに操作量変更をトラッキング鋼板部位のスタンド通過に従って段階化することで、フィードバック制御の応答を最大化することにある。またクラウン偏差解消に使用するスタンドと形状矯正に使用するスタンドを圧延中に最適配分することにより、操作端の過不足をなくし、クラウンと形状のフィードバック制御を、クラウン偏差解消と形状平坦化の両面から最適化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するために本発明では、鋼板から検出した実績クラウンから実績クラウン比率を求めるクラウン比率算定手段と、実績クラウン比率と目標クラウン比率の偏差を求め、この偏差を解消するスタンドを決定するとともに、各スタンドで解消すべき偏差から各スタンドの操作量変更量を求める操作量分配手段と、分配された操作量に対して、フィードバック制御の効果が完全に反映されない鋼板部位に対して、後段スタンドの補正操作量を算出し、補正操作量を該当鋼板部位のスタンド通過タイミングで切り替えて出力する操作量補正手段と、鋼板から検出した形状を矯正するための操作量を出力する形状制御手段を備え、さらに操作量補正手段の出力と形状制御手段の出力を合成して各スタンドの操作量のフィードバック修正量を算出するフィードバック操作量出力手段を備えた。
【0010】
さらにクラウンまたはクラウン比率の目標値からの偏差と形状矯正量の相対的な大きさに着目して、クラウン制御と形状制御に使用するスタンドを圧延中に最適化する制御スタンド決定手段を備えた。
【0011】
本発明の作用を説明する。クラウン比率算定手段が算定したクラウン比率に対して、操作量分配手段はクラウン制御に使用するスタンドの中で最も下流スタンドの出側クラウン比率との偏差を求め、この偏差をクラウン制御に使用する各スタンドに分配することでその解消比率を決定し、各スタンドの操作量を算出する。操作量補正手段は、フィードバック制御の効果が部分的にしか反映されない鋼板部位について、後段スタンドに分配された操作量を補正し、補正後の操作量を鋼板部位に対応づけて切り替えて出力する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋼板部位に対するフィードバック制御の効果を最大化できる。さらに制御手段決定手段は、クラウン比率の偏差と形状矯正量の相対関係に着目し、クラウン比率の偏差が大きく形状が比較的平坦なときは、上流から必要に応じたスタンド数をクラウン制御のために確保し、それ以降から最終スタンドまでを形状平坦化のために使用する。一方、クラウン偏差の比率が小さいときは、上流から確保したクラウン制御のためのスタンド数を少なくし、下流の多くのスタンドを形状平坦化に使用する。制御手段決定手段は、このようにクラウン制御と形状矯正に使用するスタンドを、圧延中に得られたクラウンと形状の実績値にしたがって、最適化する
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
熱間タンデムミルにおいて、各スタンドの制御能力をクラウン制御と形状制御に最適配分した結果、目標値に近いクラウンと平坦な形状が長手方向に分布する鋼板を生産する。この結果、高品質な鋼板が生産できる。
【実施例1】
【0014】
図1に本発明の一実施例によるクラウン・形状制御装置の構成を示す。クラウン・形状制御装置100は制御対象150から種々の信号を受信し、制御信号を制御対象150に出力する。
【0015】
まず制御対象150の構成を説明する。本実施例で制御対象150は、複数のスタンドからなる熱間圧延タンデムミルであり、この例でのミル151は、スタンド152を7つ連続配置した構成となっている。図1で鋼板は、左から右に移動し、前工程である粗圧延機で生産された厚さ30mm程度の粗材161はミル151の各スタンドで圧延により順次薄く加工されていき、F7出側で最終的に1mm〜10mm程度の鋼板160として、払い出される。本実施例ではミル151の最終スタンド(F7)出側に、鋼板160のクラウンと形状(平坦度)を測定するクラウン・形状計170が備えられている。
【0016】
図2でクラウンと形状の定義を説明する。クラウンCとは板の幅方向の姿形を示す指標であり、中央の厚みと、エッジから一定距離部の厚みとの差で代表される。図の表記を使用するとクラウンCは、(1)式で表される。
C=hc−(he1+he2)/2 (1)
クラウンCを板厚で除した値をクラウン比率εと称する。he1、he2の測定点であるエッジからの距離は40mmで定義されることが多いが、25mmや70mmの場合もある。クラウン・形状計170は、図のように板幅方向に複数の測定ポイント201を有しており、板幅方向の板厚分布を検出した上で、クラウン量を算出する。本実施例で板幅方向の厚み分布は、主としてワークロール153に与えられる鋼板幅方向の曲げ力で制御される場合を例に説明するが、上下のロ−ルをクロスさせ、クロス角で制御する場合にも、本発明を同様に適用できる。以下曲げ力をベンディング力と称する。
【0017】
一方形状は、鋼板中央部と端部の板長差を板長(単位長)で除し、所定の係数を乗じた値で表される。鋼板160の中央部に比べ端部の距離が長いと端伸びとなり、端部が波打った鋼板となる。これに対して端部に比べ中央部の距離が長いと、中伸びと呼ばれる形状になり、中央部付近が窪んだり出っ張りした形状となる。図の表記では板の形状(平坦度)Iunitは、(2)式で表される。
Iunit=100000・{lc−(le1+le2)/2}/lc (2)
Iunitが零のとき中央部と端部の板長が一致し、平坦な形状となることを示している。
【0018】
クラウン・形状制御装置100からミル151に出力される操作量はベンディング力の設定値である。またクラウン・形状計170は制御の結果得られた鋼板160のクラウンと形状の値を検出し、計測値としてクラウン・形状制御装置100に出力する。実際には多くの信号がやり取りされるが、ここでは必要なものに絞って説明する。
【0019】
次にクラウン・形状制御装置100の構成を説明する。クラウン・形状制御装置100は、目標の鋼板クラウンと平坦な形状を得ることを目的に各スタンドの目標クラウン比率(板厚を乗じることで目標クラウンと等価になる)を決定する。ここでは一般的なクラウン形状制御の方針として、上流から一定数のスタンドで目標クラウン比率を作りこみ、残りの下流スタンドではクラウン比率が一定になるように制御することで平坦形状を実現する場合を例に説明する。一例として、F1〜F5の制御で目標クラウン比率が得られるようにベンダーを制御し、F6、F7では圧延により板厚が減少するのに対応してクラウンを減少させ、クラウン比率を一定に保つようにベンダーを制御する。
【0020】
クラウン・形状制御装置100は制御モデル102を参照して目標クラウンと平坦形状を実現するための各スタンドのベンダー指令系列B0を算出するセットアップ手段101と、鋼板160を圧延中に、クラウン・形状計170の計測結果をクラウン・形状受信手段103を介して受信し、クラウンの目標値からの偏差と形状の平坦形状からの偏差を算出し、最終スタンド(F7)出側で目標クラウンと平坦形状を得るために各スタンドのベンダー指令の修正量ΔBを算出するクラウン・形状フィードバック制御手段104を有する。そしてセットアップ手段102の出力B0とクラウン・形状フィードバック制御手段104の出力ΔBを加算して、各スタンドへの最終的なベンダー設定値Brefを出力する操作量算出手段130を備えている。
【0021】
さらにクラウン・形状フィードバック制御手段104は、クラウン・形状受信手段103からクラウン量を受け取り、クラウン比率に換算するクラウン比率算出手段110、目標クラウン比率と算出したクラウン比率の偏差を解消するためのベンダー修正量を算出し、クラウン制御用に割り当てられたスタンドに配分する操作量分配手段111を有する。また、割当スタンドの中で相対的に上流側スタンドの操作量変更ほどクラウン偏差解消への遅れ時間が大きくなることに対して、クラウン制御の高応答化を図るために、トラッキング手段112から得た鋼板160の位置情報にしたがって、上流側スタンドの制御応答遅れを一時的に下流側スタンドのベンダー操作量補正で補うための操作量補正計算を行う操作量補正手段113を有する。さらに、クラウン・形状受信手段103から形状の計測値を受け取り、形状制御用に割り当てられたスタンドのベンダー修正量を算出する形状制御手段114、操作量補正手段113と形状制御手段114の出力を組み合わせて、各スタンドの最終的なベンダー修正量を算出して出力するフィードバック操作量出力手段115を備えている。
【0022】
以下、各部の処理を詳細に説明する。制御モデル102は圧延後(各スタンド出側)の鋼板のクラウン量を推定するための数式であり、クラウンは主として、ベンダーの値に加え、圧延前(各スタンド入側)の鋼板のクラウン量、圧延荷重、ワークロール152の幅方向のロール径プロファイル形状(ワークロールクラウン)により決定され、一例として(3)−(5)式のような代数式となる。前述したようにクラウンを板厚で除した値をクラウン比率と言い、代数式中でεHは圧延前のクラウン比率、εhは圧延後のクラウン比率を示している。
εh=A1・εH+A2・B+A3・P+A4CRW+A5 (3)
εh=Ch/hc (4)
εH=CH/Hc (5)
ただし、CH:鋼板入側クラウン量(圧延前クラウン量)、Ch:鋼板出側クラウン量(圧延後クラウン量)、Hc:入側板厚、hc:出側板厚、B:ベンディング量、P:圧延荷重、CRW:ワークロールクラウン、A1〜A5:板厚、板幅、鋼種等により決定される係数。
【0023】
セットアップ手段101は、目標板厚を得るために決定された各スタンド(F1〜F7)の圧延荷重、鋼板160の温度、幅、鋼種等から、最終パスで目標クラウンが得られるような各スタンド出側の目標クラウン比率を決定した後、入側クラウン、入側板厚、出側板厚、圧延荷重、およびワークロールクラウンの推定値を用い、(3)〜(5)式で与えられるこれらと鋼板出側クラウン量の関係から、各スタンド出側の目標クラウンを実現する各スタンドのベンダー値を算出し、出力する。またワークロールクラウンの推定は、圧延中の熱膨張量、ワークロール153交換後の磨耗によるロール径の減少効果、ワークロール153の鋼板幅方向のシフト量を考慮した演算で、決定される。
【0024】
図3にクラウン比率算定手段の処理を示す。S3−1でクラウン比率算定手段110は、クラウン・形状受信手段103から取り込んだ鋼板160のクラウン計測値Cactと最終スタンド(F7)出側の板厚h7を取り込む。h7は鋼板160からの計測値でも良いし、あらかじめ定められた製造指令(目標板厚)を使用しても良い。次にS3−2でクラウン計測値Cactを板厚h7で除することにより、クラウン比率εactを算定する。
【0025】
図4に操作量分配手段111の処理を示す。通常のクラウン・形状制御では、クラウンを大きく制御することが可能な上流スタンドで目標クラウン比率を作り込み、下流スタンドではクラウン比率一定を制御目標に、板厚にしたがってクラウンが減少するようにベンダー設定する。下流スタンドでクラウン比率を一定にして圧延することにより、平坦度が改善することが知られている。
【0026】
本実施例では、F1〜F5でクラウン偏差を解消し、F5出側で目標クラウン比率を達成した上で、F6、F7でクラウン比率一定制御を行う実施例を示す。S4−1でクラウン比率算定手段110の出力であるクラウン比率の実績と目標クラウン比率の偏差Δεhに対して、これをF1〜F5のどのスタンドでどの程度解消するかを示す、クラウン比率偏差解消比率γ1〜γ5を算出する。γ1〜γ5はあらかじめ定めた規範に従って決めればよく、F1、F2等の上流スタンドで可能な限り解消しても良いし、応答性に配慮してF5、F4等の下流スタンドでの解消比率を大きくすることもできる。
【0027】
次にS4−2で各スタンドに配分されたγ1〜γ5にしたがって、各スタンドのベンダー修正量を算出する。ベンダー修正量Δbは、各スタンドについて、(6)式により計算する。
Δbi=α・(∂b/∂εh)・Δεhi=α・(1/A2)・Δεhi (6)
ただし、α:フィードバック制御ゲイン、i:スタンド番号。
【0028】
ここで(∂b/∂εh)はクラウン比率偏差とベンダー修正量の影響係数であり、(3)式のベンダーの係数A2で与えられる。これを用いて、Δεhのクラウン比率偏差を解消するのに必要なベンダー修正量を導出できる。各スタンドで解消するクラウン比率は、γ1〜γ5(一般にγ1〜γ5の和は1)にしたがって、(7)式により求められる。
【0029】
Δεh1=γ1・Δεh
Δεh2=γ2・Δεh
Δεh3=γ3・Δεh (7)
Δεh4=γ4・Δεh
Δεh5=γ5・Δεh
αはスタンド毎に異なる値としても良いし、同じでも良い。一方、ベンダーには機械的な上下限制約(最大値および最小値)がある。
【0030】
S4−3ではベンダーの出力が上限または下限のいずれかに飽和しているスタンドがあるかないかを判定する。判定はベンダーの出力が上限値または下限値と一致しているかどうかで行えば良い。出力が飽和しているスタンドがない場合には処理を終了する。出力が飽和しているスタンドがある場合には、このスタンドの出側で所望のクラウンが得られないので、S4−4でベンダー出力に余裕のあるスタンドが他にあるかどうかを調べる処理を行う。ベンダー出力に余裕のあるスタンドがない場合には、制御能力を使い切っており、これ以上のクラウン制御改善が望めないということで、処理を終了する。
【0031】
ベンダー出力に余裕のあるスタンドがある場合には、これらのスタンドの余裕分を使用することで、さらにクラウン制御性能の改善が望めるので、S4−5で、ベンダー出力が上下限に飽和しているスタンド(制約違反スタンド)に割り振られた解消比率γのうち、該当スタンドで解消できない分を、余裕のあるスタンドに振り分ける。ベンダー出力が上限に飽和している場合を例にすると、該当スタンドで解消できないクラウン比率は(8)式で算出できる。
Δεhl1i=A2・(b0+Δb−Bmax)i (8)
ただし b0:現在のベンダー設定値、i:スタンド番号、Bmax:ベンダー出力最大値、Δεhl1i:第iスタンドで解消出来ないクラウン比率。
【0032】
ベンダー出力に余裕のあるスタンドのベンダー出力を余裕分にしたがって変更することでΔεh1を相殺する処理を行う。補正により、該当スタンドで解消可能なクラウン比率を(9)式に示す。
Δεhl2i=A2・(Bmax−b0+Δb)i (9)
ただし、Δεhl2i:第iスタンドの補正で解消可能なクラウン比率、i:スタンド番号。
【0033】
(9)式にしたがって、余裕のあるスタンドで解消可能なクラウン比率を算出しながら、クラウン比率偏差解消比率のγ1〜γ5振り分けを行う。このようにして、各スタンドのベンダー出力を最大限使用して、クラウン比率の偏差を解消する。S4−6で最終的なF1〜F5のベンダー修正量Δb1〜Δb5を算出して操作量補正手段に出力する。
【0034】
本実施例で、操作量分配手段111の起動周期(フィードバック制御周期)は、フィードバック制御ゲインαを大きくした上で、ベンダー修正後、F1より上流の鋼板がクラウン・形状計170に到達し、クラウン・形状計170での測定完了を次回の起動タイミングとしても良いし、通常のフィードバック制御系の設計方法にしたがって、フィードバック制御ゲインαを小さくして制御頻度を高めることもできる。
【0035】
図5に操作量補正手段の処理を示す。操作量補正手段113では、フィードバック制御が起動されたタイミングを起点とした鋼板部位の移動にしたがって、Δb1〜Δb5を補正する処理を行う。
【0036】
図6にフィードバック制御が起動されたタイミングにおける鋼板部位の領域を(1)〜(5)で定義した例を示す。クラウン比率の偏差に対してF1〜F5のベンダーを修正するので、(1)はF5のベンダー修正効果のみが有効な領域、(2)はF5とF4、(3)はF5〜F3、(4)はF5〜F2のベンダー修正効果が有効な領域である。さらに(5)はクラウン制御に割り当てた全スタンド(F5〜F1)のベンダー修正効果が有効な領域である。以上より領域(1)〜(4)ではベンダー修正のクラウン比率偏差解消効果が十分でないことから、操作量補正手段113では、下流側スタンドに制御余裕がある場合には、クラウン比率偏差の解消効果を高める目的で制御余裕を利用したベンダー出力の補正を行う。
【0037】
S5−1で過渡領域(1)〜(4)でのベンダー補正量Δb51、Δb52、Δb53、Δb54、Δb42、Δb43、Δb44、Δb33、Δb34、Δb24を算出する。Δbxyは領域yに対するxスタンドの補正量を示している。
【0038】
補正量の算出は、以下の演算で行う。すなわちクラウン比率偏差解消のためのベンダー値の修正を、領域(1)ではF1〜F4が分担していたクラウン比率偏差解消比率γ1〜γ4をF5にすべて配分する演算を行うことでΔb51を算出する。すなわちγ5を1とすると(7)式よりΔεh5=1なので、この条件で(6)式によりこの場合の第5スタンドのベンダー修正量Δb51を算出する。領域(2)ではγ1〜γ3をF4、F5に配分することでΔb52、Δb42を算出する。すなわちあらかじめ定められたγ4+γ5が1となるような配分の下で、(7)式よりF4とF5で修正するクラウン比率を算出し、(6)式によりこの場合の第4スタンドと第5スタンドのベンダー修正量Δb52、Δb42を算出する。同様に、領域(3)ではγ1〜γ2をF3〜F5に配分し、γ3+γ4+γ5が1となるような配分の下での計算で、Δb53、Δb43、Δb33を算出する。同様の計算で領域(4)では、γ1をF2〜F5に配分し、γ2+γ3+γ4+γ5が1となるような配分の下での計算で、Δb52、Δb42、Δb32、Δb22を算出する。
【0039】
配分演算は操作量分配手段111の処理で、配分対象となるスタンドをF1〜F5から上記のそれぞれに変更することで、図4に示す演算により実現できる。そしてスタンド毎にS5−2〜S5−7の処理を行うことにより、各領域が該当スタンドを通過する際のベンダー修正量を算出して、出力する。
【0040】
S5−2では、トラッキング手段112の出力から各スタンドが現在圧延している制御領域を判定する。トラッキング手段は制御対象150からロ−ル速度Vを取り込み、フィードバック制御が起動されて以降の鋼板160の移動量を計算して、各スタンドが現在圧延している領域が(1)〜(5)のどれかを判定する。領域(1)を圧延する可能性があるのは本実施例ではF5のみなので、S5−3でF5のベンダー修正量としてΔb5+Δb51を出力する。領域(2)を圧延している場合には、その可能性があるF5、F4について、S5−4でF5のベンダー修正量としてΔb5+Δb52、F4のベンダー修正量としてΔb4+Δb42を出力する。領域(3)を圧延している場合には、その可能性があるF5〜F3について、S5−5でF5のベンダー修正量としてΔb5+Δb53、F4のベンダー修正量としてΔb4+Δb43、F3のベンダー修正量としてΔb3+Δb33を出力する。領域(4)を圧延している場合には、その可能性があるF5〜F2について、S5−6でF5のベンダー修正量としてΔb5+Δb52、F4のベンダー修正量としてΔb4+Δb42、F3のベンダー修正量としてΔb3+Δb32、F2のベンダー修正量としてΔb2+Δb22を出力する。領域(5)を圧延している場合には、補正の必要はなくF5〜F1について、S5−7でF5〜F1のベンダー修正量としてΔb5、Δb4、Δb3、Δb2、Δb1を出力する。このような各スタンドのクラウン制御能力を使い切るための補正処理により、クラウン制御の応答を高めることができる。
【0041】
図7に形状制御手段114の処理を示す。S3−1でクラウン・形状制御手段103から取り込んだ形状Factを取り込む。そして一例として(10)式によりF6とF7のベンダー修正量を算出する。
F6=β1・Fact (10)
F7=β2・Fact
ただし、β1、β2:制御ゲイン。
【0042】
一般にエッジウェ−ブ(耳伸び)形状に対してはベンダーの出力を大きくし、センタ−バックル(中伸び)に対してはベンダーの出力を小さくすることで、形状の平坦化を図る。ベンダー修正量としては、F1〜F5でクラウン比率を修正した影響を相殺する演算を付加して、算出することも考えられる。すなわちF5出側のクラウン比率が大きくなるようにF1〜F5のベンダーを修正した場合には、形状には耳伸び傾向の影響を与えているので、F6、F7のベンダーを(9)式で得た値に対して大きくして、この影響を相殺する。逆にF5出側のクラウン比率が小さくなるようにF1〜F5のベンダーを修正した場合には、形状に対して中伸び傾向の影響を与えているので、F6、F7のベンダーを(9)式で計算した値に対して小さくして、この影響を相殺する。
【0043】
本実施例ではF1〜F5をクラウン偏差修正用スタンド、F6、F7を形状平坦化用スタンドとしたが、例えばF1〜F4をクラウン偏差修正用スタンド、F5〜F7を形状平坦化用スタンドのような、他の分担も考えられる。また簡単のため計測装置をクラウン・形状計170としたが、両者は単一のユニットに一体化されている場合もあるし、クラウン計と形状計に物理的に分離されている場合もある。どちらに対しても本発明を同様に、適用できる。さらに故障等で使用できないスタンド(ダミ−スタンド)があった場合にも、そのスタンドでのクラウン比率偏差解消比率γを0とすることで、本発明を同様に適用できる。
【実施例2】
【0044】
次に本発明の第2の実施例を示す。第1の実施例では、あらかじめ決められたスタンドをそれぞれクラウン制御と形状制御に割り当てたが、本実施例では、圧延中に検出したクラウン偏差と平坦度に応じて、クラウン制御に割り当てるスタンドと形状制御に割り当てるスタンドをリアルタイムで最適化する実施例を示す。
【0045】
図8は第2の実施例によるクラウン・形状制御装置の構成を示す。新たに設けられた制御スタンド決定手段801は、クラウン・形状受信手段103から取り込んだクラウンと形状(平坦度)の検出値をもとに、クラウン制御と形状制御に割り当てるスタンドの最適化処理を行い、結果をクラウン・形状フィードバック制御手段104に出力する。
【0046】
図9に制御スタンド決定手段801の処理を示す。S9−1でクラウン検出値Cact、形状検出値Fact、および最終スタンド(F7)出側板厚h7を取り込む。S9−2で(Cact/h7)により、最終スタンド出側のクラウン比率εactを算定し、さらにεactの目標クラウン比率εtからの偏差(εact−εt)をΔεhする。S9−3でεactとFactの相対関係から、クラウン制御に割り当てるスタンドと形状制御に割り当てるスタンドを決定する。
【0047】
定性的にはΔεhが大きい程、クラウン制御に割り当てるスタンド数を多くすることになるが、簡単な例では、下記に例を示す指針でクラウン制御に割り当てるスタンド数を決定することが考えられる。すなわち平坦度Factが小さいとき(鋼板が平坦なとき、たとえば|Fact|<30IUNITのとき)とそうでないときについて、Δεhの大きさにしたがってクラウン制御に使用するスタンドを、それぞれ(11)、(12)式にしたがって変更する。
|Fact|<30IUNIT のとき (11)
|Δεh|<0.001 F1のみ
0.001≦|Δεh|<0.002 F1〜F2
0.002≦|Δεh|<0.005 F1〜F3
0.005≦|Δεh|<0.010 F1〜F4
0.010≦|Δεh| F1〜F5
30IUNIT≦|Fact| のとき (12)
|Δεh|<0.002 F1のみ
0.002≦|Δεh|<0.005 F1〜F2
0.005≦|Δεh|<0.010 F1〜F3
0.010≦|Δεh|<0.025 F1〜F4
0.025≦|Δεh| F1〜F5
クラウン制御に割り当てられなかったスタンドは、自動的に形状制御に割り当てられることになる。クラウン・形状フィードバック制御手段104は、決定されたクラウン制御分担スタンドと形状制御分担スタンドの情報にしたがって、実施例1で示した処理を行い、ベンダー修正量を算出する。
【0048】
本実施例では、クラウン比率偏差に着目してクラウン制御を分担するスタンドを決定したが、クラウン比率偏差の代わりにクラウン偏差に着目することもできる。
【実施例3】
【0049】
次に制御スタンド決定手段801で、各スタンドのクラウン矯正能力に配慮して、必要最小限のスタンドをクラウン制御に割り当てることで、形状制御により多くのスタンドを割り当てる実施例を示す。
【0050】
本実施例では図9のS9−3の代わりに、図10に示す処理で制御スタンドを決定する。図10にクラウン比率偏差が正の値の場合を例に、制御スタンドを決定する処理の詳細を示す。S10−1でスタンド番号を1に設定する。S10−2で第1〜第nスタンドのベンダー値として最大値を代入し、(3)式によりこのスタンド出側のクラウン比率を算定する。S10−3で得られたクラウン比率から目標クラウン比率を引いた値が負かどうかを判定する。負の場合は、ここまでのスタンドによるクラウン矯正で正のクラウン比率偏差の解消が可能なことを意味しているので、S10−5で第1〜第nスタンドをクラウン制御に使用し、第(n+1)〜第7スタンドを形状制御に使用するとの結論を出力する。S10−3でクラウン比率偏差が正の場合には、第1〜第nスタンドのクラウン矯正能力は不足しているので、S10−4でクラウン制御を分担するスタンド数をひとつ増やし、S10−2に処理を戻す、そしてS10−2〜S10−4をS10−3が満足されるまで繰り返す。
【0051】
本実施例ではクラウン比率の偏差が正の場合を例に説明したが、負の値のときはS10−2で各スタンドのベンダーを最小値に設定し、S10−3で、クラウン比率偏差>0を判定すれば、図10と同一の処理で対応できる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、少なくとも最終スタンド出側にクラウン計が備えられた、タンデムミルのクラウン・形状制御に、有効に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例によるクラウン・形状制御装置の構成図。
【図2】クラウンと形状(平坦度)の定義を示した説明図。
【図3】クラウン比率算定手段の処理を示したフローチャート。
【図4】操作量分配手段の処理を示したフローチャート。
【図5】操作量補正手段の処理を示したフローチャート。
【図6】鋼板の領域を示す模式図。
【図7】形状制御手段の処理を示したフローチャート。
【図8】本発明の他の実施例によるクラウン・形状制御装置の構成図。
【図9】他の実施例による制御手段決定手段の処理を示したフローチャート。
【図10】更に他の実施例による制御手段決定手段の処理の一部を示したフローチャート。
【符号の説明】
【0054】
100…クラウン・形状制御装置、101…セットアップ手段、102…制御モデル、103…クラウン・形状受信手段、104…クラウン・形状フィードバック制御手段、111…操作量分配手段、113…操作量補正手段、114…形状制御手段、115…フィードバック操作量出力手段、130…操作量算出手段、150…制御対象、170…クラウン・形状計、801…制御スタンド決定手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延後の鋼板のクラウンを検出するクラウン計と平坦度を検出する形状計を備え、クラウンと形状を制御するための操作端として少なくともベンダーを備えた、複数のスタンドからなる熱間タンデム圧延ミルにおいて、
圧延後のクラウンを予測する制御モデルを備え、鋼板の圧延に先立って該制御モデルを使用したセットアップ計算で各スタンドのベンダー設定値を算出するセットアップ手段と、圧延中にクラウン計から取り込んだ鋼板のクラウン値からクラウン比率を算出するクラウン比率算定手段と、得られたクラウン比率と目標クラウン比率との偏差を求めこの偏差をクラウン制御に割り当てられたスタンドのどのスタンドでどれだけ解消するかを決定し、これにしたがったベンダー修正量を算出する操作量分配手段と、形状制御に割り当てられたスタンドに対して、形状計から取り込んだ鋼板形状を平坦にするためのベンダー修正量を算出する形状制御手段と、操作量分配手段と形状制御手段の出力から各スタンドのベンダー修正値を算出するフィードバック操作量算出手段と、該ベンダー設定値と該ベンダー修正値とから最終的なベンダー指令値を算出して熱間タンデム圧延ミルに出力する操作量算出手段を備えたことを特徴とする熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置。
【請求項2】
前記操作量分配手段はセットアップ計算の結果、ベンダー出力が上下限に達しているスタンドの有無を判定し、上下限に達しているスタンドがあった場合には、前記クラウン偏差のうち解消できない偏差を算出した上で、該解消できない偏差をクラウン制御に割り当てられているスタンドの中でベンダー出力が上下限に達していないスタンドに割り振ることを特徴とする請求項1記載の熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置。
【請求項3】
前記熱間タンデム圧延ミルから各スタンドのロ−ル速度を取り込み、ロ−ル速度にしたがって計算した鋼板の移動量を基に、各スタンドが圧延中の鋼板部位を特定するトラッキング手段と、フィードバック操作量算出時にスタンド間にある鋼板に対し、上流スタンドのベンダー修正量の効果が及ばない鋼板部位について、該効果を下流スタンドで補償するためのベンダー補正量を鋼板位置に対応づけて演算するとともに、該トラッキング手段が特定した鋼板部位を取り込み、前記ベンダー修正量と圧延中の鋼板部位に対応した補正量を加算して出力する操作量補正手段を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置。
【請求項4】
圧延中の鋼板のクラウンまたはクラウン比率の目標値からの偏差と鋼板の平坦度を比較し、比較結果からクラウン制御に使用するスタンドと形状制御に使用するスタンドを特定する制御スタンド決定手段を備え、該制御スタンド決定手段はクラウン制御に使用するスタンドと形状制御に使用するスタンドの割当を圧延中に変更することを特徴とする請求項1記載の熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置。
【請求項5】
前記制御スタンド決定手段は、圧延中の鋼板のクラウンまたはクラウン比率の目標値からの偏差が大きいときはクラウン制御に使用するスタンド数を増加させ、該偏差が小さいときはクラウン制御に使用するスタンド数を減少させることを特徴とする請求項4記載の熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置。
【請求項6】
前記制御スタンド決定手段は、圧延中の鋼板のクラウンまたはクラウン比率の目標値からの偏差を解消するのに必要なスタンド数を前記制御モデルを用いた演算で算出し、算出結果にしたがってクラウン制御に使用するスタンドを特定し、残りのスタンドを形状制御に使用することを特徴とする請求項4記載の熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御装置。
【請求項7】
圧延後の鋼板のクラウンを検出するクラウン計と平坦度を検出する形状計を備え、クラウンと形状を制御するための操作端として少なくともベンダーを備えた、複数のスタンドからなる熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御方法にいて、
圧延中の鋼板のクラウンまたはクラウン比率の目標値からの偏差と鋼板の平坦度にしたがって、クラウン制御に使用するスタンドと形状制御に使用するスタンドを決定し、クラウン制御に使用するスタンドではクラウン偏差を低減する方向にベンダー指令値を修正し、形状制御に使用するスタンドでは平坦度が増す方向にベンダー指令値を修正することを特徴とする熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御方法。
【請求項8】
圧延後の鋼板のクラウンを検出するクラウン計と平坦度を検出する形状計を備え、クラウンと形状を制御するための操作端として少なくともベンダーを備えた、複数のスタンドからなる熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御方法にいて、
圧延中の鋼板のクラウンまたはクラウン比率の目標値からの偏差と鋼板平坦度の変化を検出し、クラウン比率の目標値からの偏差が大きいときはより多くのスタンドをクラウン制御に使用し、鋼板平坦度が乱れているときはより多くのスタンドを形状制御に使用するようにして、クラウン制御に使用するスタンドと形状制御に使用するスタンドを圧延中に変更することを特徴とする熱間タンデム圧延ミルのクラウン形状制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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