説明

熱間圧延ラインにおけるロール制御方法

【課題】被圧延材を挟持するロールの偏芯による周期的な影響を簡単に抑制してロールの挟持状態を目標値に保持する。
【解決手段】仕上圧延機2で圧延された被圧延材3を巻取機4で巻き取る熱間圧延ライン1Aにおけるロール制御方法であって、対で設けられて被圧延材3を挟持するピンチロール42の偏芯による周期信号の発生機構として繰り返し制御器52を用い、繰り返し制御器52が発生する周期信号に同期してピンチロール42のギャップを操作することで、ピンチロール42の挟持状態として鋼板張力TPRを目標値に保持するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仕上圧延機で圧延された鋼板等の被圧延材を巻取機でコイル状に巻き取る熱間圧延ラインにおけるロール制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼板の熱間圧延ラインは、加熱炉で高温に加熱されたスラブを、粗圧延機および仕上圧延機により所望の板厚まで圧延して鋼板帯状に薄く延ばした後、巻取機にてコイル状に巻き取るように構成されている。また、巻取機の上流側にはピンチロールが設けられており、鋼板を所望の押力により挟持することにより、ピンチロールに巻き取られる鋼板に所定の鋼板張力を付与することで、テレスコや絞りといった巻取り不良の発生を抑制しようとしている。
【0003】
特許文献1では、熱間圧延ラインにおける巻取り制御に関して、ピンチロールの押力値又はトルク値を所定の範囲内にして鋼板を巻き取ることで、絞り疵などを生じることなく安定してコイル状に巻き取る方法が示されている。
【0004】
特許文献2では、鋼板等の金属帯の尾端が仕上圧延機を抜けた後に、ピンチロールを回転させる電動機の電流の実績をとらえ、それに基づいて上下ピンチロールのギャップを調整するように制御する方法が示されている。これにより鋼板の張力を目標通りに制御することで、絞りの発生を防ぐものである。
【0005】
特許文献3では、仕上圧延機と巻取機との間の被圧延材に生じる張力を推定する推定演算器を設け、該推定演算器による張力推定値に基づいて巻取機の駆動トルクを修正することにより、被圧延材の張力を目標張力に制御する巻取り制御方法が示されている。
【0006】
非特許文献1には、システムに印加される信号に制御量を追従させる、又は、抑制するためには、システムの内部にその信号の発生機構を含まなければならないという旨(いわゆる内部モデル原理)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−281262号公報
【特許文献2】特開2006−150403号公報
【特許文献3】特開平09−052119号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】中野 道雄ら、「繰り返し制御」 社団法人 計測自動制御学会編、コロナ社、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような鋼板の巻取り制御において、鋼板張力が周期的に変動し、その抑制が困難な場合があった。そこで、本発明者等が鋭意検討した結果、鋼板張力の周期変動の原因が、ピンチロールの偏芯にあることを突き止めた。
【0010】
なお、特許文献1、2はともに、ピンチロールの押力値又はトルク値(電流値)が適正範囲になるようにピンチロールのギャップを制御することで、絞り疵やテレスコの発生を抑制するものである。このようにピンチロールの押力値又はトルク値(電流値)を制御することで、巻取り形状不良を抑制できるが、ピンチロールに偏芯がある場合には、偏芯による周期的なピンチロールギャップ外乱のために前記制御量を適正範囲内に制御することが容易ではないという問題があった。
【0011】
また、特許文献3では、鋼板張力の外乱を推定し、巻取機のトルクを修正するものである。しかし、張力の外乱を推定するためには、非特許文献1にも記載されているように外乱の発生機構を推定器に組み込む必要があるが、本文献の場合には、定常外乱(周波数が0Hzの外乱)を想定範囲としているため、ピンチロールの偏芯が外乱となっている場合には、その影響を除去することは困難であり、張力変動が抑制できず巻取り形状の不良に繋がるという問題があった。
【0012】
ところで、仕上圧延機に関しては、ワークロールの偏芯の影響による被圧延材の板厚の周期的な変動を防止する技術が知られている。しかしながら、この対応策は、ワークロールの偏芯による凹凸に関する絶対的な位置情報としての角度情報を用いて制御を行うものである。このため、事前にワークロールを回転させて周波数解析を行ってロール偏芯量を割り出す必要があり複雑で汎用性に欠ける上に、エンコーダも必要とするものである。
【0013】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、被圧延材を挟持するロールの偏芯による周期的な影響を簡単に抑制してロールの挟持状態を目標値に保持することができる熱間圧延ラインにおけるロール制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる熱間圧延ラインにおけるロール制御方法は、仕上圧延機で圧延された被圧延材を巻取機で巻き取る熱間圧延ラインにおけるロール制御方法であって、対で設けられて前記被圧延材を挟持するロールの偏芯による周期信号の発生機構を用い、該周期信号の発生機構が発生する周期信号に同期して前記ロールのギャップを操作することで、該ロールの挟持状態を目標値に保持するようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる熱間圧延ラインにおけるロール制御方法は、上記発明において、前記周期信号の周期は、前記ロールの周速度に応じて可変であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる熱間圧延ラインにおけるロール制御方法は、上記発明において、前記周期信号の発生機構は、繰り返し制御器であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる熱間圧延ラインにおけるロール制御方法は、上記発明において、前記周期信号の発生機構は、外乱推定器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ロールの偏芯による周期信号の発生機構を用い、該周期信号の発生機構が発生する周期信号に同期してロールのギャップを操作することで、ロールに対する押力変動等を抑制することができ、よって、被圧延材を挟持するロールの偏芯による周期的な影響を簡単に抑制して被圧延材張力等のロールの挟持状態を目標値に保持することができる熱間圧延ラインにおけるロール制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1にかかる熱間圧延ラインの一部を概略的に示す図である。
【図2】図2は、繰り返し制御器の構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態2にかかる熱間圧延ラインの一部を概略的に示す図である。
【図4】図4は、従来法と繰り返し制御器を用いた実施の形態1との押力制御のシミュレーション結果を比較して示す説明図である。
【図5】図5は、ロール偏芯の実績と推定量との比較例を示す説明図である。
【図6】図6は、外乱推定器を用いた実施の形態2のシミュレーションによる制御結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明にかかる実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1について図1及び図2を参照して説明する。図1は、熱間圧延ラインの一部を概略的に示す図である。熱間圧延ライン1Aでは、図示しない加熱炉により高温に加熱された金属材料を粗圧延機(図示せず)、仕上圧延機2により所望の板厚まで圧延して鋼板帯状の被圧延材3として薄く延ばす。ここで、仕上圧延機2は、高温の被圧延材3を複数の圧延機で同時に圧延する熱間タンデム圧延機の形式をとるが、図1では対をなして最終段の圧延機を構成するロール21のみを図示する。
【0022】
また、熱間圧延ライン1Aでは、仕上圧延機2の後段に位置させて冷却機(図示せず)、巻取機4が設けられ、仕上げ圧延されて冷却された被圧延材3をコイル状に巻き取るように構成されている。巻取機4は、被圧延材3をコイル状に巻き取る回転心棒となるマンドレル41や、マンドレル41の上流側に位置して対をなし被圧延材3を押力による押圧状態で挟持するピンチロール42や、このピンチロール42を回転させる電動機43や、マンドレル41の巻取回転速度に応じて電動機43によるピンチロール42の速度を制御する速度制御器44を備える。ここで、巻き取り動作において、ピンチロール42は、被圧延材3に対してマンドレル41による鋼板張力TMDに対抗する所定の鋼板張力TPRを付与することで、テレスコや絞りの発生を抑制するものであり、ピンチロール42の挟持状態としては鋼板張力TPRを所望の基準値(目標値)に保持する必要がある。
【0023】
このようなピンチロール42の鋼板張力TPRは、例えば、ピンチロール42のロール間ギャップを操作することによる押力(圧下力)の調整により制御可能である。或いは、ピンチロール42を回転させる電動機43の電流値実績から鋼板張力を逆算し、その鋼板張力が目標値となるようにロール間ギャップを操作することにより制御可能である。
【0024】
そこで、本実施の形態1では、ピンチロール42を制御対象として、その鋼板張力TPRを所望の基準値に保持するよう制御するものであり、制御器5を備えている。この制御器5は、演算器51と繰り返し制御器52とPI制御器53とを備えている。演算器51は、鋼板張力TPRの目標値に対応する指示値として図示しないプロセスコンピュータ等から付与される基準押力又はトルクに対して、張力を調整するためにピンチロール42から検出される実績押力又はトルクを加算(減算)することで、両者の偏差をとるためのものである。実績トルクの場合には、ピンチロール42を回転させる電動機43の実績電流値から換算される。
【0025】
繰り返し制御器52は、ピンチロール42の偏芯による周期信号の発生機構であり、図2に示すように、演算器52aと演算器52bとからなる。繰り返し制御器52は、演算器51からの信号を入力とし、PI制御器53に出力信号を出力するものである。演算器52aは、入力信号と演算器52bからの1周遅れのフィードバック信号とを加算する。演算器52bは、演算器52aの出力に対してe−Tsなる演算処理をして演算器52aに1周遅れでフィードバックさせるものである。ここで、Tは、ピンチロール42が1回転にかかる時間であり、ピンチロール42の半径をR、周速をVPRとすれば、T=2πR/VPRとして計算できる。したがって、周期を示す時間Tは、ピンチロール42の周速(速度)が変化する場合には、周速VPRに応じて可変とし、テーブル等を参照するようにすればよい。また、sはラプラス演算子であり、eは自然対数の底である。これにより、繰り返し制御器52は、ピンチロール1周期分の周期信号の発生機構となり、PI制御器53による比例制御や積分制御を介して、ピンチロール42に対してその偏芯に同期したロールギャップ指令信号を付与することとなる。ピンチロール42は、偏芯に同期したロールギャップ指令信号に応じてロールギャップが開く側又は閉じる側に操作されることで、鋼板張力TPRを基準値に保持する。
【0026】
このように、本実施の形態1によれば、鋼板張力TPRを基準値に保持するためのピンチロール42の押力制御又はトルク制御において、ピンチロール42の偏芯周期、つまりピンチロール42の外周長さに対応する信号の発生機構である繰り返し制御器52を用いるようにしたので、ピンチロール42の偏芯の周期に同期したロールギャップ制御が可能となり、ピンチロール42の偏芯による影響(押力変動又はトルク変動)を完全に除去することができる。この実施の形態1では、ピンチロール42の偏芯の周期がわかればよく、事前の測定・解析等を要せず、簡単で汎用性の高い制御方法を実現できる。
【0027】
(実施の形態2)
本発明の実施の形態2について図3を参照して説明する。図3は、熱間圧延ラインの一部を概略的に示す図である。図1に示した部分と同一部分は同一符号を用いて示し、説明も省略する。本実施の形態の熱間圧延ライン1Bでは、制御器5に代えて、制御器6を用いるようにしたものである。制御器6は、演算器61と外乱推定器62とを備える。演算器61は、目標とする鋼板張力TPRの基準値に対応する基準押力となるギャップ指令値に対して、外乱推定器62により推定されるピンチロール42の偏芯による周期的なギャップ外乱であるギャップ変動推定値が逆位相となるよう減算入力され、両者の偏差をギャップ指令値としてピンチロール42の押力機構に与えるものである。外乱推定器62は、ピンチロール1周期分の周期信号の発生機構であり、ピンチロール42から検出される実績押力又はトルクを入力として、ピンチロール42の偏芯による周期的なギャップ外乱をギャップ変動推定値として推定する。
【0028】
ここで、外乱推定器62の構成について説明する。まず、ピンチロール42の指示から、押力までの応答を表現する伝達関数を1次遅れとしてモデル化すると、(1)式が成り立つ。
【0029】
(d/dt)x=−(1/T)x+K(u+d
y=(1/T)x
・・・・・・・・・・・・・・・(1)
ここで、
x:状態変数
T:時定数(sec)
K:ミル定数(ton/mm)
y:押力(ton)
u:ピンチロールギャップ指示値(mm)
:ピンチロール42の偏芯によるギャップ外乱(mm)
【0030】
また、外乱の周期は、ピンチロール42の1回転の周期であるので、(2)式に示す角周波数ωとなる。
【0031】
ω=V/r ・・・・・・・・・・・・・・(2)
ここで、
V:ピンチロール42の周速(m/sec)
r:ピンチロール42の半径(m)
【0032】
したがって、角周波数ωは、ピンチロール42の周速(速度)Vに応じて可変とし、テーブル等を参照するようにすればよい。
【0033】
この外乱のダイナミクスは、(3)式で表現できる。
【0034】
【数1】

【0035】
(1)式と(3)式をまとめると、(4)式に示す状態空間表現が得られる。
【0036】
【数2】

【0037】
この(4)式に対して、一般的に知られている状態推定器(オブザーバ)を構成することで、ピンチロール42のギャップ外乱であるdを推定することができる。
【0038】
簡単のため、(4)式を次の(5)式のように表現する。
【0039】
【数3】

【0040】
このとき、状態ベクトルzを推定する状態推定器は、(6)式のようになる。
【0041】
【数4】

【0042】
ここで、Lは、A−L・cの極の実部が負になるように選ばれたゲイン行列である。そして、推定した状態量z^(^はzの上につく)の要素dが、ピンチロール42の偏芯によるギャップ変動の推定値である。この推定値を演算器61において基準押力となるギャップ指令値から減算させて偏差をとることで、ピンチロール42の偏芯による影響を除去し、押力を基準押力として安定させることができる。
【0043】
このように、本実施の形態2によれば、鋼板張力TPRを基準値に保持するためのピンチロール42の押力制御において、ピンチロール42の偏芯周期、つまりピンチロール42の外周長さに対応する信号の発生機構である外乱推定器62を用いるようにしたので、ピンチロール42の偏芯の周期に同期したギャップ制御が可能となり、ピンチロール42の偏芯による影響を完全に除去することができる。
【実施例1】
【0044】
実施の形態1による制御方法と、図1中で繰り返し制御器52を用いない従来法とを、押力制御のシミュレーションにより比較することで、実施の形態1の効果の確認を行った。ここで、シミュレーション条件は、
ピンチロール半径:0.45m
ピンチロールの偏芯:20μm
ミル定数:23ton/mm
ピンチロール周速:10m/sec
基準押力:4000kg
とした。
【0045】
比較結果を図4に示す。この結果によれば、繰り返し制御器52を用いた実施の形態1の制御方法によれば、基準押力4000kgに変動なく安定化できるのに対して、従来法では周期的な変動が残ってしまうことがわかる。
【実施例2】
【0046】
外乱推定器62を用いた実施の形態2の制御方法についてシミュレーションを行った。この結果、ピンチロール42の偏芯の実績と推定値とを比較すると、図5に示すように、早い段階で偏芯の実績と推定値とが一致していることがわかる。そして、このような周期的な偏芯の推定値を制御に用いることで、図6に示すように、変動なく基準押力に制御できることがわかったものである。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施の形態1、2により発明が限定されるものではない。例えば、これらの実施の形態では、巻取機4のピンチロール42を制御対象とし、鋼板張力TPRが基準値となるようにピンチロール42の偏芯の周期に同期してロールギャップを操作するようにしたが、仕上圧延機2のロール21を制御対象とし、被圧延材3の板厚が基準値となるようにロール21の偏芯の周期に同期して圧延荷重を制御することでロールギャップを操作するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1A、1B 熱間圧延ライン
2 仕上圧延機
21 ロール
3 被圧延材
4 巻取機
42 ピンチロール
52 繰り返し制御器
62 外乱推定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕上圧延機で圧延された被圧延材を巻取機で巻き取る熱間圧延ラインにおけるロール制御方法であって、
対で設けられて前記被圧延材を挟持するロールの偏芯による周期信号の発生機構を用い、該周期信号の発生機構が発生する周期信号に同期して前記ロールのギャップを操作することで、該ロールの挟持状態を目標値に保持するようにしたことを特徴とする熱間圧延ラインにおけるロール制御方法。
【請求項2】
前記周期信号の周期は、前記ロールの周速度に応じて可変であることを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延ラインにおけるロール制御方法。
【請求項3】
前記周期信号の発生機構は、繰り返し制御器であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱間圧延ラインにおけるロール制御方法。
【請求項4】
前記周期信号の発生機構は、外乱推定器であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱間圧延ラインにおけるロール制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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