説明

熱間等圧加圧装置及び熱間等圧加圧方法

【課題】 熱間等方圧加圧装置において、製造コストを高騰させることなく、高温処理に対しても撹拌ファンを用いた急速冷却を可能とする。
【解決手段】本発明にかかる熱間等方圧加圧装置1は、圧媒ガスを充填可能な高圧容器2と、高圧容器2内に設けられ且つ被処理品を収容する処理室5と高圧容器2内に設けられて処理室5内の圧媒ガスを加熱する加熱手段6とを備え、加熱手段6より下側に設けられて処理室5を上側の高温部31と下側の低温部32とに仕切ると共に圧媒ガスを透過可能とされた断熱部材28と、低温部32に設けられると共に低温部32内の圧媒ガスを高温部31に送ることで処理室5内の圧媒ガスを撹拌する撹拌ファン20と、処理室5内の圧媒ガスが撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に、撹拌ファン20を回転させて処理室5内を均熱化して冷却を促進する制御部35とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間等圧加圧装置及び熱間等圧加圧方法、特に高温でHIP処理を行う場合に効率的な冷却工程を実現可能な熱間等圧加圧装置及び熱間等圧加圧方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HIP法(熱間等方圧加圧装置を用いたプレス方法)は、数10〜数100MPaの高圧圧媒ガス雰囲気のもと、焼結製品(セラミックス等)や鋳造製品等の被処理物を高温にして処理するものであり、被処理物中の残留気孔を消滅させることができるという特徴がある。そのため、このHIP法は、機械的特性の向上、特性のバラツキの低減、歩留まり向上などの効果が確認されており、今日、広く工業的に使用されるに至っている。
【0003】
ところで、実際の工業生産の現場では処理の迅速化が強く望まれており、そのためにはHIP処理の工程の中でも時間がかかる冷却工程を短時間で行う必要がある。そこで、従来のHIP装置では、炉内に撹拌ファンを設けて、炉内ガスを強制的に撹拌することで、炉内の温度均一性を保ったまま急速冷却できる技術が提案されている。
例えば、特許文献1や特許文献2には、炉内に設けられている撹拌ファンによって強制的に圧媒ガスを撹拌することで、冷却時の炉内温度を均一化して冷却を促進させるHIP方法が開示されている。また、特許文献3には、圧媒ガスを炉内に設けられた強制循環ファンを用いて断熱層の内側から外側に送って、高圧容器の容器壁に接触させることにより冷却を促進させる間接急冷方式のHIP方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−309548号公報
【特許文献2】実開平03−80296号公報
【特許文献3】実公平03−34638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、HIP装置で急速冷却を行う場合、冷却された低温の圧媒ガスが炉内に流れ込むため、密度の大きい低温の圧媒ガスは炉の下側に集まりやすい。その結果、炉の上下で圧媒ガスの温度に大きな温度差がつき、効率的に冷却を行うことが困難になる。そこで、特許文献1〜3では炉内に撹拌ファンを設けて炉内の圧媒ガスを撹拌し、炉内を均熱化して効率的な冷却を実現しようとしている。
【0006】
ところが、このような撹拌ファンは、炉内においてHIP処理温度と同じ温度まで上がる高温部(ホットゾーン)内に配置される。加えて、高速回転する撹拌ファンには動荷重が加わるため、静荷重しか加わらない炉構造物より高い耐熱性が必要とされる。そのため、高強度、高耐熱性を備えた材料で撹拌ファンを形成する必要があり、製作に非常に手間がかかる、あるいは撹拌ファンが非常に高価なものになるという問題があった。
【0007】
また、撹拌ファンを強度や耐熱性が炉構造物と同程度の耐熱材料で形成して価格を抑え商用的に利用できるようにすることもできるが、このような場合はHIP処理温度を低めに設定せざるを得ず、高温のHIP処理だけを別のHIP装置(例えば、撹拌ファンがなく急速冷却も行わない炉)で行うこととなってかえって価格や手間が必要となってしまう虞がある。
【0008】
特に、近年はHIP処理温度がヒータなどに用いられる耐熱材料の耐熱性に対して限界まで高い温度に設定される場合もあり、このような場合は撹拌ファンを用いた強制冷却方式を採用することがさらに困難になる。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、従来の装置では撹拌ファンを用いることができなかった高温のHIP処理に対しても撹拌ファンを用いて急速冷却を行うことができる熱間等圧加圧装置及び熱間等圧加圧方法を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の熱間等圧加圧装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の熱間等圧加圧装置は、圧媒ガスを充填可能な高圧容器と、前記高圧容器内に配備されて被処理品を収容する処理室と、当該処理室内の圧媒ガスを加熱する加熱手段と、を備えた熱間等方圧加圧装置であって、前記処理室には、前記加熱手段より下側に設けられて前記処理室を上側の高温部と下側の低温部とに仕切ると共に前記圧媒ガスを低温部から高温部に透過可能とされた断熱部材と、前記断熱部材より下側の低温部に設けられると共に前記低温部内の圧媒ガスを高温部に送ることで処理室内の圧媒ガスを撹拌する撹拌ファンと、が備えられており、前記熱間等方圧加圧装置には、前記処理室内の圧媒ガスが前記撹拌ファンの耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に、前記撹拌ファンを回転させて当該処理室内を均熱化して冷却を促進する制御部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
このように断熱部材により仕切られた低温部は高温部より低い温度となっているため、この低温部に撹拌ファンを配備すれば、HIP処理中や昇温中に加熱手段からの熱が撹拌ファンに直接影響を及ぼす虞はない。
また、冷却が開始されても圧媒ガスの温度が撹拌ファンの耐熱性能から予め設定された許容温度以上のときは、撹拌ファンが回転せず高温の圧媒ガスが撹拌ファンに接触することもない。それゆえ、撹拌ファンを高温の圧媒ガスから保護することができ、従来の撹拌ファンのように高価な材料を用いる必要や、HIP処理の温度を下げる必要がなくなる。
【0011】
さらに、圧媒ガスの温度が撹拌ファンの耐熱性能から予め設定された許容温度以下になったときは、撹拌ファンを回転させて処理室内を均熱化するため、処理室内の温度差が被処理物に悪影響を及ぼすことがなく、冷却効率も飛躍的に上げることができる。
それゆえ、本発明の熱間等圧加圧装置では、製造コストを高騰させることなく、従来の装置では撹拌ファンを用いることができなかった高温のHIP処理に対しても撹拌ファンを用いて急速冷却を行うことができる。
【0012】
なお、前記撹拌ファンは、前記加熱手段と同じ耐熱性を備えた材料で形成されているのが好ましい。また、このように前記撹拌ファン及び加熱手段を同じ耐熱性を備えた材料で形成する場合は、例えばモリブデンを含む金属材料から撹拌ファン及び加熱手段を形成することができる。
一方、本発明の熱間等圧加圧方法は以下の技術的手段を講じている。
【0013】
即ち、本発明の熱間等圧加圧方法は、圧媒ガスを充填可能な高圧容器と、前記高圧容器内に配備されて被処理品を収容する処理室と、当該処理室内の圧媒ガスを加熱する加熱手段と、を備えた熱間等方圧加圧装置で熱間等方圧加圧処理を行った後、前記処理室内の圧媒を冷却するに際しては、前記処理室における加熱手段より下側に前記処理室を上側の高温部と下側の低温部とに仕切ると共に前記圧媒ガスを低温部から高温部に透過する断熱部材と、当該低温部に前記低温部内の圧媒ガスを高温部に送ることで処理室内の圧媒ガスを撹拌する撹拌ファンと、を設けておき、前記処理室内の圧媒ガスが前記撹拌ファンの耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に、前記撹拌ファンを回転させて当該処理室内を均熱化して冷却を促進することを特徴とする。
【0014】
このようにすれば、製造コストを高騰させることなく、従来の装置では撹拌ファンを用いることができなかった高温のHIP処理に対しても撹拌ファンを用いて急速冷却を行うことができるからである。
なお、上述の方法においては、炉内の温度が高い間は断熱層を介する伝熱作用による冷却(いわゆる炉冷)を行うか、または前記撹拌ファンを回転させる前に、前記処理室内の圧媒ガスを自然対流させて前記高圧容器の容器壁に接触させることにより、前記処理室内の圧媒ガスを予め前記許容温度以下までに冷却すると良い。
【0015】
このようにすれば、冷却の最初に行われる炉冷あるいは自然対流による冷却と、この自然対流による冷却に続いて行われる撹拌ファンによるホットゾーンへの低温ガス導入とにより、処理室内の圧媒ガスをさらに効率的に冷却することができるからである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱間等圧加圧装置及び熱間等圧加圧方法により、製造コストを高騰させることなく、従来の装置では撹拌ファンを用いることができなかった高温のHIP処理に対しても撹拌ファンを用いて急速冷却を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】昇温中またはHIP処理中における本発明のHIP装置の正面図である。
【図2】冷却中における本発明のHIP装置の正面図である。
【図3】流路開閉手段を用いて冷却を行う際のHIP装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る熱間等方圧加圧装置及び熱間等方圧加圧方法の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、本発明に係る熱間等方圧加圧装置1(以下、HIP装置1と呼ぶ)を示している。このHIP装置1は、圧媒ガスを充填可能な高圧容器2を有している。この高圧容器2の内側には円筒な筺状の断熱構造体3が配備されており、この断熱構造体3の内部は外部に対して熱的に隔離された空洞となっている。そして、この空洞には、圧媒ガスの流れを整流する整流筒4、整流筒4の内部に設けられて被処理品を収容する処理室5、及び処理室5内の圧媒ガスを加熱する加熱手段6などが設けられている。
【0019】
なお、以下の説明において、図1の上側及び下側を、HIP装置1を説明する際の上側及び下側という。
高圧容器2は、上下方向に沿った軸心回りに円筒状に形成された容器本体7と、容器本体7の上側開口を塞ぐように容器本体7の上側に配備された蓋体8と、容器本体7の下側開口を塞ぐように容器本体7の下側に配備された底体9とを有している。これらの容器本体7、蓋体8及び底体9は、いずれも圧媒ガスから加わる高圧に耐えられるように、低合金高強度鋼などを用いて強固に形成されている。また、容器本体7、蓋体8及び底体9は、互いにシール(図示略)を介して隙間なく嵌め込まれており、内部に封入した圧媒ガスを外部に漏らさないように組み立てられている。この高圧容器2には図示を省略する圧媒ガスの供給配管や排出配管が連結されており、高圧容器2の内部にはこれらの配管を通じて供給された高温高圧の圧媒ガスが封入されている。
【0020】
圧媒ガスは、アルゴンガス等の不活性ガスまたは窒素ガスであり、HIP処理が可能なように10〜300MPa程度の高圧に昇圧されている。
断熱構造体3は、セラミックファイバやジルコニアフェルトなどの断熱材料で円筒な筺状に形成されており、ホットゾーン内外(円筒の内部と外部と)を熱的に隔離している。断熱構造体3は、高圧容器2の内側に配備された外側断熱体10と、この外側断熱体10のさらに内側に配備された内側断熱体11とを内外二重に備えており、これらの内側断熱体11と外側断熱体10との下側開口にはこの開口を塞ぐように底側断熱体12が遊嵌状態で設けられている。
【0021】
外側断熱体10は、高圧容器2より小径な有蓋円筒状(逆コップ状)に形成されており、高圧容器2の内側に高圧容器2の内周面から距離をあけて収容されている。高圧容器2と外側断熱体10との間には上下方向及び径方向に隙間が形成されており、この隙間は圧媒ガスを高圧容器2の内周面に沿って上方から下方に案内する第1冷却流路13を形成している。外側断熱体10の下端と容器本体7の底体9の上面との間には隙間が形成されており、この隙間は第1冷却流路13を通って流れ下ってきた圧媒ガスを高圧容器2の内側に取り込む吸気口14となっている。
【0022】
内側断熱体11は、外側断熱体10よりさらに小径に形成されており、外側断熱体10の内側に外側断熱体10の内周面から距離をあけて収容されている。外側断熱体10と内側断熱体11との間にも上下方向及び径方向に隙間が形成されており、この隙間は圧媒ガスを高圧容器2の内周面に沿って下方から上方に案内する第2冷却流路15を形成している。
【0023】
外側断熱体10の上面の中央には外側断熱体10を上下に貫通する貫通孔16が形成されている。この貫通孔16は上述した第1冷却流路13と第2冷却流路15との双方に連通しており、内側の第2冷却流路15を通じて流れてきた圧媒ガスを外側の第1冷却流路13に案内できるようになっている。そして、貫通孔16の上方には、この貫通孔16に嵌入して第2冷却流路15から第1冷却流路13に向かう圧媒ガスの流れを遮断する栓部材17が上下方向に移動自在に設けられている。
【0024】
底側断熱体12は、円板状の断熱材料で形成されており、外側断熱体10の下側の開口に下方から遊嵌している。底側断熱体12の外周端と外側断熱体10の内周面との間には周方向に亘って隙間が形成されており、この隙間は上述した外側断熱体10の吸気口14から取り込まれた圧媒ガスの一部を内側断熱体11の第2冷却流路15に戻すガス戻し口18となっている。
【0025】
底側断熱体12の上面と内側断熱体11の下端面との間にも上下方向に隙間が形成されており、この隙間は後述する内側断熱体11と整流筒4との間を下方に向かって流れてきた圧媒ガスの一部を内側断熱体11の外側に排出する、あるいはガス戻し口18から流れ込んできた圧媒ガスの一部を内側断熱体11の内側に取り込む給排口19となっている。
底側断熱体12の中央側には、後述する撹拌ファン20の回転軸22を挿通する挿通孔24が形成されており、この挿通孔24の外周側には底側断熱体12を上下に貫通して底側断熱体12の下側の圧媒ガスを上方に取り込む流通孔25が形成されている。流通孔25の下側には、上下方向に移動してこの流通孔25を閉鎖可能な流路開閉弁26が備えられており、この流路開閉弁26と流通孔25とで底側断熱体12の下側に収容されて低温とされた圧媒ガスを撹拌ファン20に直接導いて処理室5内の冷却を促進させる流路開閉手段27が構成されている。なお、撹拌ファン20及び流路開閉手段27については、後ほど詳しく述べる。
【0026】
整流筒4は、上側と下側とにそれぞれ開口部を備えた円筒状に形成されており、断熱構造体3の内部に配備されている。
整流筒4の内部には、この整流筒4の内部を断熱的に上下に仕切る断熱部材28とこの断熱部材28の上方に配備されて圧媒ガスを整流する整流板29とが設けられている。整流板29の上側は図示しない支持台などに被処理品を載せてHIP処理を行う処理室5となっている。
【0027】
整流筒4の上端と内側断熱体11との間には隙間が形成されており、この隙間からHIP処理に使用された圧媒ガスを整流筒4の外側に送り出すことができるようになっている。また、整流筒4の下端と底側断熱体12との間にも隙間が形成されており、内側断熱体11と整流筒4との間を流れ下ってきた圧媒ガスの一部を撹拌ファン20側に引き込んで整流筒4の内部に戻せるようになっている。
【0028】
断熱部材28は、整流筒4(処理室5内)における第1ヒータ30の下側に設けられている。断熱部材28は、断熱性を有しながらも通気性を備えた断熱材料で形成されている。このような断熱材料としては、例えばセラミックファイバやジルコニアフェルトなどを用いて気孔率70%以上に形成されたガス透過性の材料や、断熱性能に影響ない範囲で圧媒ガスが通過可能な5〜10mm程度の開口径に穿孔された複数の通過穴を200〜500箇所/m2程度設けた材料が挙げられる。断熱部材28は、整流筒4の内部を完全に塞ぐように配備されており、圧媒ガスを下方から上方に案内できるものでありながら、処理室5の内部空間を互いに異なる温度とされた上側の高温部31と下側の低温部32とに断熱的に仕切っている。なお、高温部31及び低温部32については後で詳しく述べる。
【0029】
整流板29の表面には複数の整流孔33が貫通状に形成されており圧媒ガスを整流して上方に導けるようになっている。整流板29の下側には後述する加熱手段6の第1ヒータ30が配備されている。
加熱手段6は、整流筒4の下側に配備される第1ヒータ30と、整流筒4の外側に設けられる第2ヒータ34とを有している。第1ヒータ30は、整流板29の下側に配備されており、圧媒ガスを加熱して整流板29の整流孔33に送ることができるようになっている。第2ヒータ34は、内側断熱体11より小径且つ整流筒4より大径な円筒状のヒータであり、整流筒4と内側断熱体11との間に上下方向に互いに等間隔をあけて複数(本実施形態では3つ)設けられている。
【0030】
撹拌ファン20は、整流筒4の下側の開口部に設けられて圧媒ガスを上方に送るプロペラ21と、底側断熱体12の挿通孔24を上下方向に挿通すると共にプロペラ21を回転させる回転軸22、底側断熱体12の下方に設けられてプロペラ21を回転駆動するモータ23と、を備えている。なお、撹拌ファン20の配置や材料は、本発明の特徴であるため、後述する。
【0031】
流路開閉手段27は、底側断熱体12に上下方向に貫通するように形成された流通孔25と、流通孔25の下側に上下方向に移動自在に設けられて流通孔25を閉鎖可能な流路開閉弁26とを有している。流路開閉手段27は、処理室5内の冷却を促進させるために用いられるものであり、流路開閉弁26を下方に移動させて流通孔25を開通状態にすると、底側断熱体12の下側に収容されていた低温の圧媒ガスが流通孔25を介して撹拌ファン20側に直接導かれ、この低温の圧媒ガスが処理室5内の圧媒ガスと混合されて冷却を促進させることができるようになっている。
【0032】
ところで、上述の撹拌ファン20には回転する際に動荷重が加わるため、静荷重しか加わらない高圧容器2や加熱手段6より高い耐熱性が必要とされる。それゆえ、撹拌ファン20をヒータや高圧容器2と同じような耐熱材料で形成したとしても、撹拌ファン20が実際に使用できる使用温度はヒータや高圧容器2ほど高くはない。つまり、撹拌ファン20の実使用温度を考慮すれば、撹拌ファン20の実際の使用温度に合わせてHIP処理温度を下げねばならず、高温のHIP処理に対しては撹拌ファン20を用いた強制冷却方式を採用することが困難となってしまうという問題があった。
【0033】
そこで、本発明のHIP装置1では、処理室5内を上述した断熱部材28で断熱的に仕切って処理室5を上側の高温部31と下側の低温部32とに分け、撹拌ファン20をこの低温部32に配備して高温の圧媒ガスが接触しないように保護したうえで、処理室5内の圧媒ガスが許容温度以下までに冷却されてから撹拌ファン20を回転させるようにしている。
【0034】
具体的には、本発明のHIP装置1には、撹拌ファン20の耐熱性能から予め許容温度を設定しておき、圧媒ガスの温度が許容温度以下までに冷却された際に撹拌ファン20を回転させる制御部35が設けられている。
高温部31は、整流筒4の内部において断熱部材28より上側に位置する部分であり、その内部の一部は処理室5とされている。高温部31は、その下側に配備された断熱部材28とこの断熱部材28より上側の内側断熱体11とで外部から熱的に遮断されており、低温部32に比べて圧媒ガスを高温に維持できるようになっている。また、この高温部31は、その内部に加熱手段6の第2ヒータ34を有しており、内部には圧媒ガスを1000℃以上の圧媒ガスが収容できるようになっている。
【0035】
低温部32は、整流筒4の内部において断熱部材28より下側に位置する部分である。低温部32は、その上側に配備された断熱部材28とこの断熱部材28より下側の内側断熱体11とを用いて、第1ヒータ30及び第2ヒータ34から熱的に遮断されている。つまり、低温部32では、断熱部材28及び内側断熱体11が、昇温中やHIP処理中に第1ヒータ30及び第2ヒータ34から生じる熱を遮断し、冷却中にはこれらのヒータで加熱された高温の圧媒ガスからの伝熱を遮断する。それゆえ、この低温部32は、HIP処理中や昇温中のみならず冷却中においても高温部31ほど温度が上がることがなく、収容される圧媒ガスは高温部31より200〜300℃程度低い温度とされる。
【0036】
このように高温部31より圧媒ガスの温度が低い低温部32に撹拌ファン20を配備すれば、処理室5の高温部31(ホットゾーン)に配備されたものに比べて撹拌ファン20に加わる熱の影響を低減することができる。つまり、HIP処理を行う高温部31ほど低温部32では圧媒ガスが高温にならないので、撹拌ファン20に形成する材料にヒータや高圧容器2と同じような耐熱材料を用いることが可能となる。
【0037】
例えば、HIP装置1に用いられるチタンジルコニアモリブデン(チタン、ジルコニウム、微量のカーボンなどを含む粒子強化型モリブデン合金)やモリブデンランタン(酸化ランタンを含む酸化粒子強化型モリブデン合金)などの金属材料(以下、モリブデン系材料という)は高圧ガス下で1500℃程度まで使用可能であるが、1500℃以上では再結晶化が起こり脆化するとされている。つまり、モリブデン系材料を用いて動荷重が加わる撹拌ファン20を形成する場合、1250℃程度が実質的な使用上の上限である。それゆえ、処理室5の高温部31に撹拌ファン20を配備する場合には、モリブデン系材料を用いてファンを形成しても、高温部31の圧媒ガスが1500℃程度に加熱されるため撹拌ファン20が破損してしまう虞がある。しかし、本発明のように低温部32に撹拌ファン20を配備する場合には、低温部32の圧媒ガスは1250℃程度にしかならないので、モリブデン系材料で撹拌ファン20を形成したとしても耐熱性は足りることになり十分に使用可能となる。
【0038】
なお、撹拌ファン20を形成する材料の耐熱性が上述したモリブデン系材料より低い場合や、低温部32の温度が撹拌ファン20を形成する材料の耐熱温度を超える場合は、低温部32に配備したとしても撹拌ファン20の耐熱性が十分でない場合も考えられる。
そこで、本発明のHIP装置1では、圧媒ガスの温度が許容温度以下までに冷却された際に撹拌ファン20を回転させて、撹拌ファン20を破損から保護する制御部35が設けられている。
【0039】
制御部35は、処理室5内の圧媒ガスの温度を計測する温度センサ36と、この温度センサ36で計測された温度に基づいてモータ23を駆動させて撹拌ファン20を回転させるコントローラ37とを備えている。
温度センサ36は高圧容器2の外側から処理室5内に挿し込まれた先端で処理室5内の圧媒ガスの温度を計測する熱電対であり、この温度センサ36で計測された温度はコントローラ37に送られる。なお、本実施形態では、先端を高温部31に挿し込んで高温部31内の圧媒ガスの温度を計測する温度センサ36を例示しているが、例えば先端を低温部32に挿し込んで低温部32内の圧媒ガスの温度を計測する温度センサ36を用いることもできる。
【0040】
コントローラ37は、温度センサ36から送られてきた温度が、撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度以下であるかどうかを判断し、送られてきた温度が許容温度以下である場合に撹拌ファン20のモータ23を駆動回転させるものである。ここで、撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度とは、回転状態(動荷重付与状態)の撹拌ファン20の使用限界温度に基づいて定められる温度であり、静止状態(静荷重付与状態)の撹拌ファン20の使用限界温度に基づいて定められる温度ではない。例えば、上述したモリブデン系材料で形成された撹拌ファン20を用いる場合、静止状態におけるモリブデン系材料の使用限界温度が1500℃であるのに対し、静止状態におけるモリブデン系材料の使用限界温度は1250℃と低くなっている。それゆえ、この場合の許容温度は、低温部32の圧媒ガスが1250℃となるような温度センサ36の計測位置での温度となる。このように低温部32の圧媒ガスが許容温度以下の場合にだけ撹拌ファン20を回転させるようにすれば、撹拌ファン20にその耐熱性能を超える熱が加わることがなくなり、撹拌ファン20の破損を防止することが可能となる。
【0041】
次に、上述のHIP装置1を用いた本発明の熱間等圧加圧方法(以下、HIP方法と呼ぶ)を説明する。
本発明のHIP方法は、処理室5内の圧媒ガスを所定温度まで昇温する昇温工程と、所定温度まで昇温された圧媒ガスを被処理品に接触させてHIP処理を行うHIP処理工程と、HIP処理を行った後に処理室5内の圧媒ガスを冷却する冷却工程とを順に行うものであり、特に冷却工程において処理室5内を均熱化して冷却を促進することを特徴とするものである。つまり、本発明のHIP方法は、冷却工程で処理室5内の圧媒ガスが撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に撹拌ファン20を回転させて当該処理室5内を均熱化して冷却を促進することを特徴とするものである。
【0042】
具体的には、このHIP方法は以下の通りに行われる。
まず、昇温工程やHIP処理工程について、簡単に説明する。
図1に示されるように、昇温中やHIP処理中には、上述した外側断熱体10の貫通孔16に栓部材17が嵌入されており、貫通孔16は閉鎖されている。そのため、外側断熱体10の内側にある第2冷却流路15から外側にある第1冷却流路13に向かって圧媒ガスが流通できないようになっており、処理室5内の圧媒ガスは外側断熱体10より外側(高圧容器2側)に流れ出ることはない。つまり、処理室5内から流れ出た高温の圧媒ガスが高圧容器2(容器本体7)の内周面に接触すると、容器本体7の容器壁を介して内外に熱交換が行われ圧媒ガスが急激に冷却されるが、貫通孔16が閉鎖されていれば高温の圧媒ガスが高圧容器2の内周面に接触することもない。そこで、HIP処理中や昇温中は処理室5内の圧媒ガスは断熱構造体3の内部に収容され、圧媒ガスを高温状態に維持することが可能となる。
【0043】
昇温工程及びこの昇温工程に続くHIP処理工程が終了すると、被処理物の交換等のために処理室5内を冷却する冷却工程が行われる。
図2に示されるように、この冷却工程では、まず上述した栓部材17を上方に移動させて貫通孔16を開通させる。なお、栓部材17は動かさず、断熱構造体3を介して伝熱によって炉内を冷却する炉冷を行った後にこの動作(貫通孔16を開通させる動作)に移る場合もある。そうすると、第1冷却流路13と第2冷却流路15とが連通して第2冷却流路15から第1冷却流路13に圧媒ガスが流通できるようになる。第1冷却流路13に流れ出た圧媒ガスは高圧容器2の内周面に接触し、容器本体7の容器壁を介して熱交換が行われて圧媒ガスの冷却が急激に進む。このようにして第1冷却流路13で冷却され低温になった圧媒ガスはガス密度が大きくなるため下方に向かって流れ、一方では第2冷却流路15内の圧媒ガスは内側断熱層11を介した伝熱作用で加熱され、ガス密度が高くなるため上方に移動する。それゆえ、外側断熱体10の内外では、第2冷却流路15から第1冷却流路13を通って第2冷却流路15に戻る環状のガス流が外側断熱体10の内外に発生する。
【0044】
このような環状のガス流に沿って外側断熱体10の下側まで移動した圧媒ガスは、吸気口14から高圧容器2の下部に戻されようとするが、このとき、流路開閉手段27では、流通孔25に対して流路開閉弁26が閉鎖状態となっているため、下部に戻された圧媒ガスが流通孔25を通って撹拌ファン20に直接流れることはない。それゆえ、下部に戻された圧媒ガスは、その全てが外側断熱体10と底側断熱体12との間に形成されたガス戻し口18に流れ込む。
【0045】
このようにして内側断熱層11を介した伝熱により処理室5内の圧媒ガスは冷却され、その結果密度差により低温の圧媒ガスが処理室5内の下側に溜まるため処理室5内で上下の温度差が大きくなる。このような大きな温度差は被処理物に悪影響を与える虞がある。
そこで、本発明では、撹拌ファン20で処理室5の下側の圧媒ガスを上方に移動させて、処理室5内を均熱化している。なお、この温度差は、冷却初期は大きくないため、処理室5内の均熱化はあまり必要ではない。また、冷却初期は圧媒ガスの冷却が進んでいないので、上述したように撹拌ファン20が熱で破損する虞がある。そこで、本発明のHIP装置1では、処理室5内の圧媒ガスが撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に撹拌ファン20を回転させるようにしているのである。
【0046】
例えば、高温部31に配備された温度センサ36で高温部31の圧媒ガスの温度を計測し、この計測された温度が回転状態(動荷重付与状態)の撹拌ファン20の使用限界温度に基づいて定められる温度以下になったときに、制御部35から撹拌ファン20のモータ23に指令を送ってプロペラ21を回転させる。このようにすると、低温部32の圧媒ガスが撹拌ファン20により上方に向かって流れ、整流板29の整流孔33を通って高温部31に達し、ここで高温の圧媒ガスと低温の圧媒ガスとが混合されて、処理室5内が均熱化される。
【0047】
一方、処理室5内の冷却がさらに進むと、処理室5内の圧媒ガスを内側断熱体11と外側断熱体10との間に導入する本発明のような冷却方式(間接冷却方式)では、内側断熱体11と外側断熱体10との間に導入された圧媒ガスの熱の一部が内側断熱体11から処理室5内に戻るため、処理室5の冷却速度が落ちる場合がある。
このような場合は、図3に示されるように、流路開閉手段27の流路開閉弁26を下方に移動させて、底側断熱体12に形成された流通孔25を開通状態にする。そうすると、第1冷却流路13を下方に流れて吸気口14を通った圧媒ガスは流通孔25を介して撹拌ファン20側に直接導かれ、この低温の圧媒ガスが処理室5内の圧媒ガスと混合されて冷却をさらに促進させることができる。
【0048】
このように断熱部材28により仕切られた低温部32は高温部31より低い温度となっているため、この低温部32に撹拌ファン20を配備すれば、HIP処理中や昇温中に加熱手段6からの熱が撹拌ファン20に直接影響を及ぼす虞はない。
また、冷却が開始されても圧媒ガスの温度が撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度以上のときは、撹拌ファン20が回転せず高温の圧媒ガスが撹拌ファン20に接触することもない。それゆえ、撹拌ファン20を高温の圧媒ガスから保護することができ、従来の撹拌ファン20のように高価な材料を用いる必要や、HIP処理の温度を下げる必要がなくなる。
【0049】
さらに、圧媒ガスの温度が撹拌ファン20の耐熱性能から予め設定された許容温度以下になったときは、撹拌ファン20を回転させて処理室5内を均熱化するため、処理室5内の温度差が被処理物に悪影響を及ぼすことがなく、冷却効率も飛躍的に上げることができる。
それゆえ、本発明の熱間等圧加圧装置では、製造コストを高騰させることなく、従来の装置では撹拌ファン20を用いることができなかった高温のHIP処理に対しても撹拌ファン20を用いて急速冷却を行うことができる。
【0050】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 熱間等方圧加圧装置(HIP装置)
2 高圧容器
3 断熱構造体
4 整流筒
5 処理室
6 加熱手段
7 容器本体
8 蓋体
9 底体
10 外側断熱体
11 内側断熱体
12 底側断熱体
13 第1冷却流路
14 吸気口
15 第2冷却流路
16 貫通孔
17 栓部材
18 ガス戻し口
19 給排口
20 撹拌ファン
21 プロペラ
22 回転軸
23 モータ
24 挿通孔
25 流通孔
26 流路開閉弁
27 流路開閉手段
28 断熱部材
29 整流板
30 第1ヒータ
31 高温部
32 低温部
33 整流孔
34 第2ヒータ
35 制御部
36 温度センサ
37 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧媒ガスを充填可能な高圧容器と、前記高圧容器内に設けられ且つ被処理品を収容する処理室と、前記高圧容器内に設けられて前記処理室内の圧媒ガスを加熱する加熱手段と、を備えた熱間等方圧加圧装置であって、
前記加熱手段より下側に設けられて前記処理室を上側の高温部と下側の低温部とに仕切ると共に前記圧媒ガスを低温部から高温部に透過可能とされた断熱部材と、
前記断熱部材より下側の低温部に設けられると共に前記低温部内の圧媒ガスを高温部に送ることで処理室内の圧媒ガスを撹拌する撹拌ファンと、
前記処理室内の圧媒ガスが前記撹拌ファンの耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に、前記撹拌ファンを回転させて当該処理室内を均熱化して冷却を促進する制御部と
が設けられていることを特徴とする熱間等方圧加圧装置。
【請求項2】
前記撹拌ファンは、前記加熱手段と同じ耐熱性を備えた材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱間等方圧加圧装置。
【請求項3】
前記撹拌ファン及び加熱手段は、モリブデンを含む金属材料から形成されていることを特徴とする請求項2に記載の熱間等方圧加圧装置。
【請求項4】
圧媒ガスを充填可能な高圧容器と、前記高圧容器内に配備されて被処理品を収容する処理室と、当該処理室内の圧媒ガスを加熱する加熱手段と、を備えた熱間等方圧加圧装置で熱間等方圧加圧処理を行った後、前記処理室内を冷却するに際しては、
前記処理室における加熱手段より下側に前記処理室を上側の高温部と下側の低温部とに仕切ると共に前記圧媒ガスを低温部から高温部に透過する断熱部材と、当該低温部に前記低温部内の圧媒ガスを高温部に送ることで処理室内の圧媒ガスを撹拌する撹拌ファンと、を設けておき、
前記処理室内の圧媒ガスが前記撹拌ファンの耐熱性能から予め設定された許容温度以下までに冷却された際に、前記撹拌ファンを回転させて当該処理室内を均熱化して冷却を促進することを特徴とする熱間等方圧加圧方法。
【請求項5】
前記撹拌ファンを回転させる前に、
前記処理室内の圧媒ガスを自然対流させて前記高圧容器の容器壁に接触させることにより、前記処理室内の圧媒ガスを予め前記許容温度以下までに冷却することを特徴とする請求項4に記載の熱間等方圧加圧方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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