説明

熱電材料とその製造方法

【課題】性能指数ZTと出力因子PFが良好であり、低温域において優れた熱電特性を有し、しかも環境調和性の面からも、コストパフォーマンスの面からも優れた熱電材料を提供する。
【解決手段】FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物からなる熱電材料。金属間化合物は、化学式FeNbSb1−XSn(0.03≦X≦0.10)で表される金属間化合物である熱電材料。Fe、Nb、SbおよびSnを各々化学量論比で秤量し、溶融して反応させ金属間化合物の第1のインゴットを作製し、前記Fe、Nb、SbおよびSnの総質量と第1のインゴットの質量差を求め、前記第1のインゴットに前記質量差と等しい質量のSbを追加して溶融して反応させ金属間化合物の第2のインゴットを作製するステップを有する熱電材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱電材料とその製造方法および前記熱電材料が用いられている熱電素子に関し、特にSnを添加したFeNbSbを主成分とする熱電材料とその製造方法および熱電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在種々の分野において多くの熱エネルギーが廃熱として廃棄されている。例えば熱機関を例に採ると、発電所における発電用大型タービンや船舶用大型内燃機関のように最も効率が良い熱機関(プラント)であっても熱効率が40%程度であり、残りの60%程度のエネルギーは廃熱として廃棄されている。このため、この廃熱を効率よく回収することは、熱機関のエネルギーコストの削減のみならず、近年の地球温暖化、原油価格高騰への対処の面からも重要である。
【0003】
そして、この廃熱を回収する手段として、高品位な電気エネルギーに直接変換する熱電発電技術(熱電変換技術)が、複雑な設備を必要とせず、自動車等の小型の熱機関にも容易に適用が可能であるため注目を集めている。
【0004】
ここで、現在どの程度エネルギーが廃熱として未利用のまま廃棄されているのか、そして廃熱を回収するための有力な手段である熱電発電システム(熱電変換システム)の原理について図1に基づいて簡単に説明する。
【0005】
図1の(1)は全一次エネルギーのうちの利用エネルギーと未利用エネルギーの比率を示す図である。図1の(1)に示すように、現状では全一次エネルギーの34%しか利用されていなく、残りの66%は大気中への放熱や排熱等として外部環境へ廃棄されている。
【0006】
図1の(2)は廃熱を回収するための一手段である熱電発電システムのうちアレイ型といわれる熱電発電システムの原理を示す図である。図1の(2)に示すように、アレイ型の熱電発電システムはN型半導体、P型半導体からなる熱電素子を用いて構成される。図1の(2)において10は熱電発電システムの熱源、20はN型半導体、21は電子、30はP型半導体、31は正孔、40は放熱(冷却)部(以下単に放熱部と記載する。)である。また、50は熱電発電によって得られた電気エネルギーによって点灯することを示す電球である。また、細い矢印は電子や正孔の流れを示し、太い矢印は電流の流れを示す。
【0007】
そして熱源10と放熱部40との間に温度差によって、N型半導体20内では電子21が熱源10側から放熱部40側に移動し、P型半導体30内では正孔31が熱源10側から放熱部40側に移動する。これにより電流が生じ、電球50が点灯する。実際の熱機関、例えば自動車においては、熱源10は排気等であり、放熱部40は例えば放熱板等である。
【0008】
以上のような熱発電システムを用いて廃熱を効率良く回収するためには、高い熱電変換効率が要求されるが、熱電変換効率は熱電素子を構成する材料(熱電材料)の性能によって決まる。そして熱電変換効率を評価する指標として、一般的に熱電材料の性能指数ZTが用いられている。性能指数ZTは、熱電材料のゼーベック係数をS、電気伝導率をσ、熱伝導率をκとし、作動温度(絶対温度)をTとしたときに、ZT=SσT/κで定義される指数である。このうち、Sσを出力因子(PF)と呼び、性能指数の電気的特性を決定付ける大きな指標となっている。
【0009】
性能指数ZTや出力因子PFの優れた熱電材料としては、BiTeが代表的であり、熱電材料にとって重要視されている室温付近の低温域においても優れた性能指数ZTや出力因子PFを有している。この材料の性能指数ZTと出力因子PFは、最大でZT=0.8、PF=3mWm−1−2であり、この熱電材料を用いて熱電素子を構成すると、素子にかかる温度差にもよるが、変換効率は10%を越え、様々な箇所に分散して存在する廃熱回収型発電システムとして十分に活用可能となる。
【0010】
しかしながら、このBiTeをベースとする材料は、材料の主成分であるBiとTeが共に毒性が高く、環境を汚染させる恐れがある。さらに希少な元素(BiとTeのクラーク数は、各々0.2ppm、0.002ppmと小さい)であるため高価でもある。
【0011】
このため、BiTeをベースとする熱電材料として広く使用することは、環境調和性対パフォーマンス(以下単に環境調和性ともいう)、コスト対パフォーマンス(以下単にコストパフォーマンスともいう)の面から困難である。即ち、例えば世界中で極めて多数使用されている自動車の排気熱の回収に用いることは困難である。このような背景の下、BiTeをベースとする熱電材料に替わることができる熱電材料の開発が広く行われている。
【0012】
例えば鉄系の材料として、FeSiが研究されている。
【0013】
また、FeVAl1−XGe(0≦X≦0.20)のようなホイスラー型の結晶構造を有する金属間化合物であって、金属であるにも拘らず半導体的性質をし、優れた熱電変換効率を示すものも開発されている。(特許文献1、非特許文献1)。
【0014】
さらに、FeMSb(M=V、Nb)の様なハーフホイスラー型の化合物中のNbの一部をTiに置換した化合物等の研究も行われている(非特許文献2)。
【0015】
その他にも、ハーフホイスラー型の結晶構造を有する金属間化合物のいくつかは、優れた熱電変換効率を示すものがあり、例えばZrNiSn、HfNiSn(特許文献2、非特許文献3)やTiCoSb等をベースとする金属間化合物が研究されている。
【特許文献1】特開2004−253618号公報
【特許文献2】特開2004−356607号公報
【非特許文献1】Y.Nishino,S.Deguchi and U.Mizutani「Thermal and transport properties of the Heusler−type Fe2VAl1−XGeX(0≦X≦0.20)alloys:Effect of doping on lattice thermal conductivity,electrical resitevity,and Seebeck coefficient」PHYSICAL REVIEW B 74,115115 (2006),2006 The American Physical Society
【非特許文献2】D.P.Young,P.Khalifah and R.J.Cava「Thermoelectric properties of pure and doped FeMSb(M=V,Nb)」JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,VOLUME 87,NUMBER 1,1JANUARY 2000,2000 American Institute of Physics
【非特許文献3】S.Sakurada and N.Shutoh「Effect of Ti substitution on the thermoelectric properties of (Zr,Hf)NiSn half−Heusler compounds」APPLIED PHYSICS LETTERS 86, 082105(2005),2005 American Institute of Physics
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、前記FeSi、ZrNiSn、HfNiSn等の材料は、熱電発電の性能のピークが例えば450〜600℃程度と比較的高温であって、室温付近での性能が低い。またFeVAl1−XGeXは出力因子(PF)に対して2乗で寄与するゼーベック係数Sが小さい。さらに、FeMSb(M=V、Nb)は温度領域に拘わらず性能自体が劣る。
【0017】
このため、室温付近の低温域においてもBiTeをベースとする熱電材料に劣らず、あるいはそれ以上に性能が良好であり、しかも環境調和性の面からも、コストパフォーマンスの面からも優れた熱電材料の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者は、クラーク数が高いという観点よりFe系に着目すると共に、熱電材料としての性能が発揮できないとされ研究が十分に行われていないハーフホイスラー型の結晶構造を有するFe系材料に着目して鋭意研究を重ねた結果、前記課題の解決手段を見出し本発明に至った。以下、各請求項の発明を説明する。
【0019】
請求項1に記載の発明は、
FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物を主成分とすることを特徴とする熱電材料である。
【0020】
FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物は、性能自体が優れると共に優れた性能のピークを室温付近に有するという稀有な材料であることが分かった。
【0021】
即ち、性能指数の電気的特性を決定付ける大きな指標である出力因子PFが高い材料は、ゼーベック係数S、電気伝導率σが大きい材料である。前記ゼーベック係数Sと電気伝導率σはいずれも材料のキャリア濃度の関数として表される。具体的にはキャリア濃度が大きい材料はゼーベック係数Sが小さく電気伝導率σは大きく、一方キャリア濃度が小さな材料はゼーベック係数Sが大きく電気伝導率σは小さい。通常の金属材料は、キャリア濃度が大きいため電気伝導率σは比較的大きいが、出力因子PFにとって2乗で利いてくるゼーベック係数Sが小さくなるため、出力因子PFはそれ程大きくならない。
【0022】
これに対して、前記FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物は金属特有の大きなキャリア濃度に依存して大きな電気伝導率σを有すると共に、意外にもゼーベック係数Sも大きな値を有し、さらに室温付近に性能のピークを有し、BiTeに匹敵する出力因子PFを有すること分かった。なお、室温付近において出力因子PFが大きくなる理由は、ゼーベック係数Sに関与するフェルミエネルギー付近の電子のエネルギーに対して電子の密度状態係数が大きい変化率を示すためと推測される。
【0023】
上記のように、FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物は、BiTeに匹敵する性能を有する。
【0024】
しかも、Fe、NbおよびSnは毒性がほとんどなく、Sbの毒性も低く環境調和性が良い。さらに、Feは地球上に豊富に存在する元素であり、そのクラーク数は4.7%で、酸素、珪素、アルミニウムに次いで第4位である。Fe以外のSb、Nb、Snのクラーク数も、各々0.1〜0.2ppm、24ppm、2ppmであり、Teの0.002ppmに比較してはるかに多い。その結果、自動車等に大量に用いられても量的に不足する恐れは少なく、コストパフォーマンスが良好である。
【0025】
請求項1の発明に係る熱電材料は、上記のような優れたFeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物を主成分とするため、室温付近の低温域において性能指数ZTと出力因子PFが良好であり、しかも環境調和性、コストパフォーマンスの面からも優れた熱電材料となる。
【0026】
なお、本発明に係る熱電材料としては、不可避的に混入する僅かな不純物を含有していてもよく、一部にハーフホイスラー型以外の結晶構造を有する金属間化合物が存在していてもよい。
【0027】
請求項2に記載の発明は、
前記金属間化合物は、化学式FeNbSb1−XSn(0.03≦X≦0.10)で表される金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱電材料である。
【0028】
Snの添加量の最適範囲は、X=0.03〜0.10である。中でも、X=0.05〜0.10であることが好ましい。
【0029】
請求項3に記載の発明は、
請求項1または請求項2に記載の熱電材料を製造する熱電材料の製造方法であって、
Fe、Nb、SbおよびSnを各々化学量論比で秤量し、溶融して反応させ金属間化合物の第1のインゴットを作製する第1インゴット作製ステップと、
前記第1のインゴットを秤量し、前記Fe、Nb、SbおよびSnの総質量と第1のインゴットの質量差を求め、前記第1のインゴットに前記質量差と等しい質量のSbを追加して溶融して反応させ金属間化合物の第2のインゴットを作製する第2インゴット作製ステップとを有していることを特徴とする熱電材料の製造方法である。
【0030】
FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物を作製するに際して、Fe、Nb、SbおよびSnを、各々化学量論比で秤量し、1回のインゴット作製ステップで金属間化合物のインゴットを作製すると沸点の低いSbが蒸発してSbの比率が低い金属間化合物しか得られず、このことが性能に大きく影響することが分かった。
【0031】
請求項3の発明においては、インゴット作製の過程を2段階で行い、第2のインゴット作製ステップにおいて、第1のインゴット作製ステップで減少したSbを補うことにより、正確な組成比を有する金属間化合物を作製できる。
【0032】
なお、第1および第2インゴット作製ステップは、材料元素の酸化等を防ぐため不活性ガス雰囲気または真空中で行うことが好ましい。なお、不活性ガス雰囲気については0.05MPa程度のアルゴン等、一般的なガス雰囲気が適用できる。
【0033】
請求項4に記載の発明は、
所定量のFe、Nb、SbおよびSnを溶融して反応させ金属間化合物のインゴットを作製した後、粉砕し、得られた粉末を用いて粉末焼結法により請求項1または請求項2に記載の熱電材料を製造することを特徴とする熱電材料の製造方法である。
【0034】
材料となる金属を溶融して反応させただけのインゴット(金属間化合物)にはクラックや空孔が存在し緻密さが十分とは言えない。また純度も十分に高いとは言えない。このクラックや空孔を低減させて緻密化し、さらに純度を高めることにより一層優れた出力因子PFを有する熱電材料を作製できる。
【0035】
請求項4の発明においては、材料となる金属を溶融して反応させインゴットを作製した後、粉末焼結法の技術を用いて金属間化合物を作製するため、クラックや空孔を低減させて緻密化することができ、また純度を向上させることができる。このため、一層良好な出力因子PFを有する熱電材料を提供することができる。
【0036】
また、粉末焼結法を用いることにより、所定の大きさおよび形状の材料を作製する際に、インゴットから切り出す方法に比べて容易に作製することができる。
【0037】
なお、粉末焼結を行う際に放電プラズマ焼結法(SPS)を用いることにより、より緻密化され、またより純度を高めた熱電材料を効率的に作製することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明により、室温付近の低温域においてもBiTeをベースとする熱電材料に劣らず、あるいはそれ以上に性能指数ZTと出力因子PFが良好であり、しかも環境調和性の面からも、コストパフォーマンスの面からも優れた熱電材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0040】
(第1の実施の形態)
本実施の形態は、FeNbSbのSbの5%がSnに置換された熱電材料、即ち化学式FeNbSb0.95Sn0.05で表される金属間化合物からなる熱電材料に関する。
【0041】
(1)試料の製造
最初に、試料の製造について説明する。
イ.Fe、Nb、Sb、Snの金属片をモル比で1:1:0.95:0.05の比で秤量し、0.05MPaのアルゴン雰囲気下でアーク溶解し、溶融して反応させ第1のインゴットを作製した。
ロ.作製した第1のインゴットを秤量し、前記Fe、Nb、Sb、Snの総質量と第1のインゴットの質量の差は全てSbの蒸発によるものと仮定して、前記第1のインゴットに前記質量差と等しい量のSbを追加して再度アーク溶解を行い、溶融して反応させ第2のインゴットを作製した。このようにして、Fe:Nb:Sb:Snの比が正確に1:1:0.95:0.05である金属間化合物のインゴットを作製した。
【0042】
ハ.前記第2のインゴットを粉砕し、ふるいにかけ、粒度が53μm以下の粉末を得た。
ニ.得られた粉末を、成型圧力50MPa、Ar気流下、成型温度1173K、加圧時間50分間において放電プラズマ焼結(SPS)することで、多結晶バルク体を作製した。
ホ.作製したバルク体を切断し、整形し、表面を研磨して物性測定用の試料を得た。
【0043】
以上の他、基本的な製造方法は、前記と同じ方法を用いてFeNbSb、即ちSbの一部がSnで置換されていない多結晶バルク体をも作製し、切断し、整形し、表面を研磨して試料を得た。
【0044】
(2)結晶構造解析
前記放電プラズマ焼結で得られたFeNbSbとFeNbSb0.95Sn0.05の多結晶バルク体の試料について、即ちこれらの結晶構造がハーフホイスラー型の結晶構造をしていることを確認するために、X線回折による同定を行った。図2の(1)、(2)にFeNbSbとFeNbSb0.95Sn0.05の多結晶バルク体の試料のX線回折図(XRD)を示す。また、図2の(3)に過去に報告されている{JCPDS(Joint Committee for Powder Diffraction Standards)01−087−2169)}ハーフホイスラー型の結晶構造を有するFeNbSbのX線回折(XRD)図を示す。
【0045】
図2の(1)と(2)は共に図2の(3)のX線回折図と同じ位置(回折角2θ)に回折ピークを有している。このことから、得られたFeNbSbとFeNbSb0.95Sn0.05の多結晶バルク体は、共にハーフホイスラー型の結晶構造を有していることが分かる。また、得られたFeNbSb0.95Sn0.05多結晶バルク体においては、添加したSnがきれいにSbに置き換わっていることが分かる。
【0046】
図3は、FeNbSbの結晶構造(ハーフホイスラー型)示す図である。図3の左下方の図は、この結晶のa軸、b軸、c軸の方向を示す図である。
【0047】
なお、試料FeNbSb0.95Sn0.05の密度は、理論密度(結晶格子の密度)の95%であり、外観は綺麗な金属状であった。
【0048】
(3)熱電特性
本実施の形態の熱電材料の試料であるFeNbSb0.95Sn0.05と、比較例としてのBiTeをベースとする金属間化合物の各温度における熱電特性を測定し、出力因子PFを計算した。FeNbSb0.95Sn0.05とBiTeの電気抵抗率ρ(電気伝導率σの逆数)、ゼーベック係数S、出力因子PFの温度依存性を、各々図4の(1)、(2)、(3)として、上から順に比較しつつ示す。図4の(1)、(2)、(3)における縦軸は各々電気抵抗率ρ、ゼーベック係数S、出力因子PF(S/ρ)であり、また横軸は全て絶対温度Tであり、実線は本実施の形態の物性測定用の試料であり、破線はBiTeをベースとする金属間化合物の特性である。
【0049】
本実施の形態のFeNbSb0.95Sn0.05は、BiTeをベースとする金属間化合物と比較したとき、ゼーベック係数Sは低温域において若干小さいものの、電気抵抗率ρは広い温度領域で小さい(電気伝導率σが大)値を示し、その結果図4の(3)の左中上側の□内に示す様に、室温から200℃(473K)付近までは平均的に大きな出力因子PFが得られ、特に100℃(373K)以上ではBiTeをベースとする金属間化合物より大きな出力因子PFが得られていることが分かる。
【0050】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態は、FeNbSbのSbのSnへの最適な置換量を求めることに関する。
【0051】
SbのSnへの最適な置換量を求めるため、前記の置換量が5%のときと同様の方法で、置換量が0%、1%、3%、10%の試料を作製し、電気抵抗率ρ、ゼーベック係数Sの温度依存性を測定し、さらに測定結果に基づいて各温度での出力因子PFを計算した。計算結果を図5に示す。
【0052】
図5から、置換量が0%の場合には全温度領域に亘って出力因子PFが殆ど0Wm−1−2であるが、Sbの一部をSnで置換することによって出力因子PFが向上していることが分かる。また、置換量が3%以上の場合には500K以下の低温領域においてPFが顕著に向上している。さらに、置換量3%および10%よりも置換量5%の方が出力因子PFが高く、置換量3%および10%の間で出力因子PFが極大値をとることが分かる。そして、高い出力因子PFを得るためには、置換量を3〜10%(Xが0.03〜0.10)とすることが好ましく、5〜10%(Xが0.05〜0.10)とすることがより好ましいことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】全一次エネルギーの利用状況と熱電発電システムの原理を説明する図である。
【図2】FeNbSbおよびFeNbSb0.95Sn0.05の多結晶バルク体等のX線回折図である。
【図3】ハーフホイスラー型のFeNbSbの結晶構造を示す図である。
【図4】第1の実施の形態のFeNbSb0.95Sn0.05と、比較例としてのBiTeの各温度における電気抵抗率、ゼーベック係数、出力因子の温度依存性を示す図である。
【図5】FeNbSbのSbのSnによる置換量が0%、1%、3%、5%、10%の場合の出力因子の温度依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
10 熱源
20 N型半導体
21 電子
30 P型半導体
31 正孔
40 放熱(冷却)部
50 電球

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeNbSbのSbの一部がSnにより置換されているハーフホイスラー型結晶構造を有する金属間化合物を主成分とすることを特徴とする熱電材料。
【請求項2】
前記金属間化合物は、化学式FeNbSb1−XSn(0.03≦X≦0.10)で表される金属間化合物であることを特徴とする請求項1に記載の熱電材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱電材料を製造する熱電材料の製造方法であって、
Fe、Nb、SbおよびSnを各々化学量論比で秤量し、溶融して反応させ金属間化合物の第1のインゴットを作製する第1インゴット作製ステップと、
前記第1のインゴットを秤量し、前記Fe、Nb、SbおよびSnの総質量と第1のインゴットの質量差を求め、前記第1のインゴットに前記質量差と等しい質量のSbを追加して溶融して反応させ金属間化合物の第2のインゴットを作製する第2インゴット作製ステップとを有していることを特徴とする熱電材料の製造方法。
【請求項4】
所定量のFe、Nb、SbおよびSnを溶融して反応させ金属間化合物のインゴットを作製した後、粉砕し、得られた粉末を用いて粉末焼結法により請求項1または請求項2に記載の熱電材料を製造することを特徴とする熱電材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−1506(P2010−1506A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158932(P2008−158932)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】