説明

熱電発電モジュールおよびその製造方法

【課題】絶縁構造体に設けられた貫通孔の中に、熱電発電素子が形成された、機械的強度が高い熱電発電モジュールとその製造方法を提供する。
【解決手段】遠心加圧溶融法により熱電発電モジュールを製造する方法であって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子の原材料となる粉末材料を投入後、前記構造体における両開口面に蓋をして封入し、その後、前記構造体中の粉末材料に遠心力を付加しながら加熱して、該粉末材料を溶融させ、次いで凝固させることにより、複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュールとすることからなる熱電発電モジュールの製造方法、およびその熱電発電モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心加圧溶融法を用いて作製した熱電発電モジュールに関するものであり、更に詳しくは、複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子の原材料となる粉末材料を投入後、該構造体における両開口面に蓋をして封入し、その後、前記構造体中の粉末材料に遠心力を付加しながら加熱して、該粉末材料を溶融および凝固させることにより作製してなる、複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バルク形状の熱電素子を用いた、いわゆるパイ型モジュールといわれるタイプの熱電発電モジュールが公知技術として存在する。この熱電発電モジュールの製造方法としては、ゾーンメルト法、ホットプレス法、スパークプラズマ焼結法などの手法により、熱電材料のバルク体を作製し、必要形状に切り出した上で、電気的接合を行い、パイ型モジュールに組み上げる工法が主流である。
【0003】
この工法は、配向材料あるいは単結晶材料の切り出しを行うため、材料の劈開や、欠けが生じやすく、加工が難しいだけでなく、切粉の発生により、材料歩留まりが悪く、材料ロスが大きい、などの問題がある。また、パイ型熱電モジュールは、機械的強度が不足するため、ヒートサイクルによる伸縮に弱く、破損しやすいため、信頼性に問題があった。
【0004】
機械的強度不足の問題点を解決するために、絶縁構造体に設けられた複数の孔に、孔と同じサイズのバルク熱電素子を挿入し、モジュール全体の強度を向上させた、熱電発電モジュールが提案されている(例えば、特許文献1など)。
【0005】
しかしながら、この種の手法では、バルク熱電素子を、絶縁基板に設けられた孔内に挿入するので、高度の加工精度および高度の組み立て技術が要求され、製造コストが上昇する欠点がある(特許文献2)。
【0006】
また、これと類似の手法として、絶縁構造体に設けられた複数の孔に、溶融した熱電素子材料を流し込み、凝固させて、熱電モジュールを形成させる手法が提案されている(例えば、特許文献3など)。更に、絶縁構造体に設けられた複数の孔に、負圧吸引によって、溶融した熱電素子材料を注入し、凝固させて、熱電モジュールを形成させる手法も提案されている(例えば、特許文献4など)。
【0007】
しかしながら、この種の手法では、熱電素子の熱電性能を十分に引き出せない問題点がある。まず、絶縁構造体に設けられた複数の孔に、溶融した熱電素子材料を流し込み、凝固させて、熱電モジュールを形成させる手法では、凝固した後のバルク熱電素子の中に、溶融材料内の残存気泡による気孔が生じ、バルク熱電素子の断面は、図1のような、気孔の有る状態になる。
【0008】
気孔が存在すると、熱電性能が低下する問題があり、また、孔断面形状が、多角形形状をしている場合、多角形のエッジ部の壁面において、表面張力により空隙が発生し、モジュールとしての熱電性能が低下する、という問題がある。
【0009】
また、絶縁構造体に設けられた複数の孔に、負圧吸引によって、溶融した熱電素子材料を注入し、凝固させて、熱電モジュールを形成させる手法では、圧力を下げて、負圧吸引しながら、溶融した熱電素子材料を、吸引注入している。しかし、この手法では、熱電素子材料は、溶融した状態であり、低圧力下に曝すと、材料の組成ずれが発生し、熱電性能が低下する、という問題がある。
【0010】
【特許文献1】特開平5−283753号公報
【特許文献2】特開平9−199766号公報
【特許文献3】特開平5−315656号公報
【特許文献4】特開平9−139526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の課題を解決することを可能とする新しい熱電素子とその製造方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、粉末状の熱電材料に遠心力をかけながら、該材料を溶融および凝固させること(本発明では、これを遠心加圧溶融法という。)によって作製されるバルク熱電素子は、組成ずれと、残留気孔の問題がなく、熱電発電性能の低下を生じない、高品質で高性能の熱電発電モジュールが得られることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、絶縁構造体に設けられた貫通孔の中に、熱電発電素子が形成された、機械的強度が高い熱電発電モジュールにおいて、熱電材料の切断加工工程を極力削減し、加工コストの削減、材料歩留まりの向上を実現すると共に、複雑な材料加工技術を必要としない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
また、本発明は、熱電素子内の気孔や空隙の発生を極力減少させ、熱電発電性能の低下を生じない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、熱電素子材料の組成ずれを極力生じさせず、熱電発電性能の低下を生じない、高品質で高性能の熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術手段から構成される。
(1)遠心加圧溶融法により熱電発電モジュールを製造する方法であって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子の原材料となる粉末材料を投入後、前記構造体における両開口面に蓋をして封入し、その後、前記構造体中の粉末材料に遠心力を付加しながら加熱して、該粉末材料を溶融させ、次いで凝固させることにより、複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュールとすること、前記熱電素子が、p型熱電素子とn型熱電素子であり、これらの素子が、前記複数平行貫通孔に交互に形成され、かつ電極で接続されている構造を有すること、を特徴とする熱電発電モジュールの製造方法。
(2)前記貫通孔が、開口端のいずれか一方を予め封止した有底穴である、前記(1)に記載の熱電発電モジュールの製造方法。
(3)前記絶縁材が、無機絶縁材料である、前記(1)又は(2)に記載の熱電発電モジュールの製造方法。
(4)前記熱電素子が、ビスマスもしくはテルルを含む、前記(1)から(3)のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法。
(5)前記熱電素子が、ケイ素を含む、前記(1)から(3)のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法。
(6)前記熱電素子が、酸化物を含む、前記(1)から(3)のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法。
(7)遠心加圧溶融法によって、粉末状の熱電材料を溶融および凝固させることにより作製された熱電発電モジュールであって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子が形成された構造を有していること、遠心力による加圧条件下で、粉末状の熱電材料が溶融および凝固されたことで、熱電素子内の気孔、空隙の発生が減少し、熱電発電性能の低下が抑制されていること、を特徴とする複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュール。
(8)前記熱電素子が、p型熱電素子とn型熱電素子であり、これらの素子が、前記複数平行貫通孔に交互に形成され、かつ電極で接続されている構造を有する、前記(7)に記載の熱電発電モジュール。
【0015】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、遠心加圧溶融法により熱電発電モジュールを製造する方法であって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子の原材料となる粉末材料を投入後、前記構造体における両開口面に蓋をして封入し、その後、前記構造体中の粉末材料に遠心力を付加しながら加熱して、該粉末材料を溶融させ、次いで凝固させることにより、複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュールとすること、および、前記熱電素子が、p型熱電素子とn型熱電素子であり、これらの素子が、前記複数平行貫通孔に交互に形成され、かつ電極で接続されている構造を有すること、を特徴とするものである。
【0016】
また、本発明は、遠心加圧溶融法によって、粉末状の熱電材料を溶融および凝固させることにより作製された熱電発電モジュールであって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子が形成された構造を有していること、遠心力による加圧条件下で、粉末状の熱電材料が溶融および凝固されたことで、熱電素子内の気孔、空隙の発生が減少し、熱電発電性能の低下が抑制されていること、を特徴とするものである。
【0017】
本発明でいう遠心加圧溶融法とは、粉末状の熱電材料に遠心力を付加しながら、密閉空間内で材料を溶融および凝固させる方法のことである。本発明は、この遠心加圧溶融法により、熱電発電モジュールを作製することで、上記課題を解決するものである。遠心加圧溶融法によって作製されるバルク熱電素子は、組成ずれと、膜中の残留気孔のいずれの問題も生じることがなく、かつ絶縁構造体に設けられた孔の形状に沿った熱電材料のバルク体が容易に得られるため、熱電素子の切断加工などを必要としない。これにより、機械的強度が高く、加工コストが低く、高い熱電発電性能を有する、高性能の熱電発電モジュールとその製造方法を提供することが可能となる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態について詳しく説明する。
本発明は、熱電発電において、従来よりも、ヒートサイクルに強く、作製コストが安価で、高い熱電発電能力を有する、熱電発電モジュールとその製造方法を提供するものである。
【0019】
本発明の熱電発電モジュールは、例えば、ハニカム形態等の絶縁材の貫通孔形状に沿って、バルク状熱電素子結晶が、遠心加圧溶融法によって形成され、p型熱電素子とn型熱電素子からなる複数対の電気的回路が形成されるように、貫通孔の両開口端に電極が形成され、かつ熱電素子と電極を、周辺環境より保護する絶縁材からなる保護材によって、熱電素子と電極が覆われた構造を有すること、を好適な実施の形態としている。
【0020】
本発明では、上記ハニカム形態等の絶縁材の貫通孔の形状および構造は、その製品に応じて任意に設計することが可能である。本発明は、このような形態の熱電発電モジュールとすることで、従来製品よりも、ヒートサイクルに強く、製造コストが安価で、高い熱電発電能力を有する、熱電発電モジュールとその製造方法を提供することが可能となる。
【0021】
また、本発明において、ハニカム形態等の絶縁材には、無機絶縁材料、あるいは有機絶縁材料を使用することができる。無機絶縁材料は、一般的に、有機絶縁材料よりも耐熱温度が高いため、遠心加圧溶融法の実施時に、温度コントロールの選択域が広がり、熱電材料の選択肢が広がる利点を有する。
【0022】
本発明においては、遠心加圧溶融法により、材料に遠心力をかけながら、材料を溶融および凝固させるが、この遠心加圧溶融法での遠心力の付加方法は、適宜の方法を使用することができ、また、加熱方法は、ヒーター加熱が安価で、好適であり、また、その他にも、高周波加熱、マイクロ波加熱などを用いることが可能であり、加熱方法の種類は、制限されない。
【0023】
熱電発電モジュールの保護カバーは、絶縁材であればよく、無機絶縁材料、あるいは有機絶縁材料が用いられる。この保護カバーは、熱電素子材料と電極材料を、周辺環境から保護するための役割を担うので、保護カバーの材質と、ハニカム形態等の絶縁材の材質の熱膨張係数がなるべく近いものであり、ヒートサイクルによる両部材間の剥離などが生じないものであることが望ましい。
【0024】
図2は、本発明の熱電発電モジュール構造図の一例である。図2において、ハニカム絶縁構造体1の孔内には、交互に配置するように、p型熱電素子2とn型熱電素子3が形成され、p型熱電素子2とn型熱電素子3からなる、複数対の電気的回路が形成されるように、貫通孔の両開口端に、電極4を形成する。電極4の形成方法は、スパッタ法、めっき法、溶射法など、適宜の方法を用い、回路両端の電極には、リード線5を取り付ける。
【0025】
本発明の熱電モジュールの作製工程について説明すると、まず初めに、図3のハニカム絶縁構造体1を準備し、その片方の開口端を、図4のように、密閉板6で覆い、4辺を封止剤で封止する。封止剤には、高温にも耐えられるように、耐熱性の適宜の無機接着剤を使用する。更に、図4のように、開口端から熱電素子の原材料となる材料粉末を、ハニカム絶縁構造体1の孔内に投入して充填する。材料粉末充填後、図5のように、もう一方の開口端も、密閉板6で覆い、4辺を封止剤で封止して、材料粉末の充填されている空間を、密閉状態にする。
【0026】
図6のように、加熱手段のヒーター7を有する断熱容器8の内部において、高速回転するローター9に設けられたポケット10に、図5の封止されたハニカム絶縁構造体1を設置し、遠心力を付加しながら、加熱および冷却をする。粉末材料を、溶融および凝固させる遠心加圧溶融法により、ハニカム絶縁構造体1の孔内に、熱電素子を作製する。
【0027】
本発明では、溶融状態にある熱電素子材料は、密閉されているため、蒸発せず、組成ずれの心配はなく、また、溶融状態にある熱電素子材料には、遠心力が付加されているため、凝固した後の熱電素子内部に、残留気孔が発生しない。その後、図5の密閉板6を除去することで、図7の熱電素子の状態となる。この場合、ハニカム絶縁構造体1の孔内には、p型熱電素子2およびn型熱電素子3を交互に配置するように形成し、更に、これに、電極4およびリード線5を取り付ける。
【0028】
本発明では、p型熱電材料の原料粉末を、アルミナ製などの適宜の基板を底板として、無機接着剤にて接着した適宜の個数の穴を有するアルミナ、コージェライト製などの適宜のハニカムセラミックスの穴に交互に充填する。そして、蓋となる基板を乗せ、更に、ニッケル箔などの適宜の箔で包み込んで、ハニカムセラミックスの穴の深さ方向に300G〜10,000G、好ましくは1,000G程度の遠心力を加えながら、原料の融点から+0〜50℃程度、好ましくは、ビスマスまたはテルルを含む熱電材料では600〜650℃、ケイ素を含む熱電材料では1,100〜1,200℃で、溶融温度の保持時間を0超〜60min、好ましくは20min程度として、加熱溶融させた後、冷却してp型熱電素子を作製する。
【0029】
基板の材料としては、アルミナ、ジルコニア、石英に加え、アルミナ系、マグネシア系、シリカ系、チタニア系などの材料が例示される。また、ハニカムセラミックスの材料としては、アルミナ、コージェライト、ジルコニア、石英に加え、アルミナ系、マグネシア系、シリカ系、チタニア系などの材料が例示される。
【0030】
次に、n型熱電材料の原料粉末を、BN層などの反応防止層を形成した残りの穴に充填し、これに、蓋を乗せ、更に、ニッケル箔などで包み込み、p型熱電素子を形成したときと同様の方向に300G〜10,000G程度の遠心力を加えながら、1,100℃〜1,200℃程度で0超〜60min加熱して、n型熱電素子を作製する。本発明では、n型熱電素子を作製した後に、p型熱電素子を作製することも適宜可能である。また、p型熱電素子とn型熱電素子の溶融温度が非常に近い材料である場合は、p型熱電素子とn型熱電素子を同時に作製することも可能である。
【0031】
使用する原料粉末は、一旦、溶解したインゴットや、固相反応や液−固相反応による合成体を粉砕することで得られる合成粉末を用いても、同様に、熱電素子を作製することが可能である。本発明では、熱電素子の原材料として、例えば、ビスマスもしくはテルルを含む材料、ケイ素を含む材料、酸化物を含む材料などが例示されるが、本発明は、熱電素子の原材料の種類に制限されることなく適用されるものであり、公知又は新規の原材料である適宜の原材料を用いることができる。
【0032】
本発明では、遠心加速度が十分でない場合、溶融物とハニカムセラミックス壁面との濡れ性が悪く、凝固体は、塊となり、ハニカムセラミックスの穴内に均一に形成されず、高性能の熱電素子が得られず、また、凝固体は、ハニカムセラミックスから容易に剥がれ落ちる。
【0033】
遠心加速度が1,000G程度の場合、溶融物は、ハニカムセラミックスの穴内に均一に形成され、良質な熱電素子となる。また、この場合、熱電素子は、ハニカムセラミックスから剥がれ落ちることがなく、熱電素子断面の組成分析の結果によると、素子の組成は、均一である。
【0034】
加熱温度は、例えば、p型熱電材料として、Mn(Si0.995Ge0.005)1.73粉末を用いた場合、加熱温度が1150℃のとき、原料粉末は一部溶融するものの、全体が溶融することはなく、素子表面は、粗い状態であり、また、加熱温度を1,200℃とした場合、原料粉末は全て溶融し、良質な熱電素子として形成される。
【0035】
また、加熱温度を、高融点の原料に合わせ、p型およびn型熱電素子を同時に作製するプロセスにおいても、良質な熱電素子が形成される。ハニカムセラミックスに、アルミナ、コージェライトなどを用い、更に、反応防止層のBN層などを用いることで、熱電材料とハニカムセラミックスが反応することなく、ハニカムセラミックスの穴に、良質な熱電素子が形成される。
【0036】
加熱の際、揮発しやすいMgなどの元素は、蓋と密閉容器による密閉効果により、揮発が抑制される。蓋と密閉容器なしで加熱した場合、得られる熱電素子の重量は、加熱前の原料粉末に比べ、数10wt%減少し、この場合の熱電特性は、非常に低い特性を示す。一方、蓋と密閉容器において、密閉状態にしたものは、得られる熱電素子の重量は、加熱前の原料粉末に比べ、1wt%以下の減量に抑制され、所望の熱電特性が得られる。
【0037】
本発明では、例えば、熱電素子を形成したハニカムセラミックスを、高さ数mm程度の適宜の高さとなるようにスライスし、素子が直列回路で結線されるように電極を溶射することで、熱電発電モジュールを作製する。本発明の熱電発電モジュール製造方法は、従来の製造方法と比較して、歩留まりがよく、後加工の工程も簡略化でき、かつ良質な熱電素子を有する熱電発電モジュールを得ることができる。
【0038】
本発明により、熱電素子の内部に、組成ずれと、残留気孔のいずれの問題も生じることがなく、ハニカム絶縁構造体に設けられた孔の形状に沿った熱電材料のバルク体が容易に得られるため、熱電素子の切断加工などを必要とせずに、熱電モジュールの作製が可能となる。これにより、機械的強度が高く、加工コストが低く、高い熱電発電性能を有する、熱電発電モジュールとその製造方法を提供することができる。
【0039】
本発明において、ハニカム絶縁構造体の両開口端の熱電素子および電極の露出部は、そのまま露出した状態で使用してもよい。しかしながら、熱電素子および電極を周辺環境から保護するために、絶縁材による保護板で保護するか、絶縁モールド材により保護層を作製することが望ましい。この際、保護板、およびモールド材は、電気的に絶縁材料である必要があると共に、熱伝導性の良好な材料であることが望ましい。
【0040】
本発明は、機械的強度が高く、材料歩留まりがよいため、材料コストが低減できること、また、高度な材料加工技術を必要としないため、加工コストを低減できること、また、組成ずれがなく、残留気孔がないため、高い熱電発電性能を有する熱電発電モジュールを提供できること、などの利点を有する。
【発明の効果】
【0041】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)絶縁構造体に設けられた貫通孔の中に、熱電発電素子が形成された、機械的強度が高い熱電発電モジュールとその製造方法を提供することができる。
(2)熱電材料の切断加工工程を極力削減し、加工コストの削減、材料歩留まりの向上を実現すると共に、複雑な材料加工技術を必要としない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することができる。
(3)熱電素子内の気孔や空隙の発生を極力減少させ、熱電発電性能の低下を生じない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することができる。
(4)熱電素子材料の組成ずれを極力生じさせず、熱電発電性能の低下を生じない、高性能の熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することができる。
(5)遠心加圧溶融法によって作製されるバルク熱電素子は、組成ずれと、膜中の残留気孔のいずれの問題も生じることがなく、かつ絶縁構造体に設けられた孔の形状に沿った熱電材料のバルク体が容易に得られるため、熱電素子の切断加工などを必要としない。
(6)機械的強度が高く、加工コストが低く、高い熱電発電性能を有する熱電発電モジュールとその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
本実施例では、ビスマステルル系材料を用いて、図2に示す、本発明の熱電発電モジュールを作製した。ハニカム絶縁構造体1の孔内に、交互に配置するように、p型熱電素子2とn型熱電素子3を形成し、p型熱電素子2とn型熱電素子3からなる複数対の電気的回路が形成されるように、貫通孔の両開口端に、電極4を形成した。電極4の形成方法は、スパッタ法を用い、回路両端の電極に、リード線5を取り付けた。
【0044】
本発明の熱電モジュールを作製する工程は、以下のとおりとした。まず、図3に示す、ハニカム絶縁構造体1の片方の開口端を、図4のように、密閉板6で覆い、4辺を封止剤で封止した。封止剤には、高温にも耐えられるように、耐熱性無機接着剤(アロンセラミック、東亞合成株式会社製)を使用した。更に、図4に示すように、開口端から、熱電素子の原材料となる材料粉末を、ハニカム絶縁構造体1の孔内に投入し、充填した。
【0045】
材料粉末を充填後、図5に示すように、もう一方の開口端も、密閉板6で覆い、4辺を封止剤で封止して、材料粉末の充填されている空間を、密閉状態にした。図6に示すように、加熱手段のヒーター7を有する断熱容器8の内部において、高速回転するローター9に設けられたポケット10に、図5に示した、封止されたハニカム絶縁構造体1を設置し、遠心力を付加しながら、加熱および冷却をすることで、粉末材料を溶融および凝固させることにより、ハニカム絶縁構造体1の孔内に、熱電素子を作製した。
【0046】
その後、図5に示す、密閉板6を除去することで、図7に示す状態の、複数平行貫通孔に熱電素子を作製した。ハニカム絶縁構造体1の孔内には、p型熱電素子2およびn型熱電素子3が交互に配置するように形成した。更に、電極4およびリード線5を取り付けて、図2に示す、熱電発電モジュールを作製した。
【実施例2】
【0047】
(1)原料粉末の調製および素子の作製
p型熱電材料として、Mn(Si0.995Ge0.005)1.73組成となるように、純度99.99%以上のMn、Si、Ge金属粉末を、秤量・混合し、原料粉末を調製した。
【0048】
この原料粉末を、アルミナ製基板を底板として、無機接着剤(アロンセラミックD、東亜合成)により接着した、4×4×h10mmの穴を36個有する30×30×h10mmのアルミナまたはコージェライト(岩尾磁器工業)製のハニカムセラミックスの穴に、交互に充填した。そして、これに、蓋となるアルミナ基板を乗せ、更に、ニッケル箔で包み込んだ。
【0049】
ハニカムセラミックスの穴の深さ方向に平行に、0Gもしくは、1000Gの遠心力を付加しながら、1,200℃で、20min、加熱して、溶融させた後、冷却し、p型熱電素子を作製した。p型熱電素子を作製した後、蓋を外し、残りの穴に、n型材料とハニカムセラミックスとの反応防止層となるBN層を、マグネトロンスパッタによって形成した。
【0050】
n型熱電材料として、7,500ppmのSbを添加したMg2(Si0.6Ge0.4)組成となるように、純度99.99%以上のMg、Si、Ge、Sb金属粉末を、秤量・混合し、原料粉末を調製した。
【0051】
この原料粉末を、BN層を形成した残りの穴に充填し、これに、蓋を乗せ、更に、ニッケル箔で包み込み、p型熱電素子を形成したときと同様の方向に、0Gもしくは1,000Gの遠心力を加えながら、1,100℃で、20min、加熱して、溶融させた後、冷却し、n型熱電素子を作製した。
【0052】
使用した原料粉末は、混合粉末を用いたが、一旦、溶解したインゴットや、固相反応や液−固相反応による合成体を粉砕することで得られる合成粉末を用いても、熱電素子は、作製可能であった。
【実施例3】
【0053】
(1)熱電特性の評価
実施例2で作製した熱電素子を評価した。評価には、市販の熱電特性測定装置(真空理工製ZEM装置)を用い、熱電素子の高さ方向と平行方向に、電気伝導度とゼーベック係数を測定し、出力因子を算出した。その結果を、図8、図9に示す。
【0054】
(2)遠心加速度
遠心加速度が0Gの場合、溶融物とハニカムセラミックス壁面との濡れ性が悪く、凝固体は、塊となり、ハニカムセラミックスの穴内に均一に形成されず、熱電素子として得られなかった。また、凝固体は、ハニカムセラミックスから容易に剥がれ落ちた。
【0055】
遠心加速度1,000Gの場合、溶融物は、ハニカムセラミックスの穴内に均一に形成され、良質な熱電素子となった。また、熱電素子は、ハニカムセラミックスから剥がれ落ちなかった。熱電素子断面の組成分析の結果、熱電素子の組成は、均一であった。
【0056】
(3)加熱温度
p型熱電材料として、Mn(Si0.995Ge0.005)1.73粉末を用いた場合、加熱温度が1,150℃のとき、原料粉末は、一部溶融するものの、全体が溶融することはなく、素子表面は、粗い状態であった。加熱温度を1,200℃とした場合、原料粉末は、全て溶融し、良質な熱電素子として形成された。
【0057】
また、加熱温度を高融点の原料に合わせ、p型およびn型熱電素子を同時に作製するプロセスにおいても、良質な熱電素子が形成された。
【0058】
(4)ハニカムセラミックス
ハニカムセラミックスに、アルミナまたはコージェライトを用い、更に、反応防止層となるBN層を用いることで、熱電材料とハニカムセラミックスが反応することなく、ハニカムセラミックスの穴に、良質な熱電素子が形成された。
【0059】
(5)蓋および密閉容器の効果
加熱の際、揮発しやすいMgは、蓋と密閉容器による密閉効果により、揮発が抑制されることが分かった。蓋と密閉容器を使用しないで加熱した場合、得られた熱電素子の重量は、加熱前の原料粉末に比べ、数10wt%減少していた。この減量は、Mgの揮発によるものであった。
【0060】
この場合の熱電特性は、非常に低い特性を示した。一方、蓋と密閉容器によって密閉状態にしたものは、1wt%以下の減量に抑制され、所望の熱電特性が得られた。
【0061】
(6)電極形成およびモジュール化
熱電素子を形成したハニカムセラミックスを、高さ5mmとなるように、スライスし、素子が直列回路で結線されるように、Al電極を溶射することで、熱電発電モジュールを作製した。本発明の熱電発電モジュールの製造方法は、従来の熱電発電モジュールの製造方法と比較して、歩留まりがよく、後加工工程も簡略化でき、かつ良質な熱電素子を有する熱電発電モジュールを得ることができた。
【0062】
上記の説明から明らかなように、本発明により、熱電素子の内部に、組成ずれと、残留気孔のいずれの問題も生じないで、ハニカム絶縁構造体に設けられた孔の形状に沿った熱電材料のバルク体が容易に得られるため、熱電素子の切断加工などの後加工を必要とせずに、熱電モジュールの作製が可能となる。これにより、機械的強度が高く、加工コストが低く、高い熱電発電性能を有する高性能の熱電発電モジュールとその製造方法を提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上詳述したように、本発明は、熱電発電モジュールおよびその製造方法に係るものであり、本発明により、絶縁構造体に設けられた貫通孔の中に、熱電発電素子が形成された、機械的強度が高い熱電発電モジュールとその製造方法を提供することができる。また、熱電材料の切断加工工程を極力削減し、加工コストの削減、材料歩留まりの向上を実現すると共に、複雑な材料加工技術を必要としない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することができる。また、熱電素子内の気孔や空隙の発生を極力減少させ、熱電発電性能の低下を生じない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することができる。また、熱電素子材料の組成ずれを極力生じさせず、熱電発電性能の低下を生じない、熱電発電モジュールおよびその製造方法を提供することができる。また、遠心加圧溶融法によって作製されるバルク熱電素子は、組成ずれと、膜中の残留気孔のいずれの問題も生じることがなく、かつ絶縁構造体に設けられた孔の形状に沿った熱電材料のバルク体が容易に得られるため、熱電素子の切断加工などを必要としない。本発明は、機械的強度が高く、加工コストが低く、高い熱電発電性能を有する熱電発電モジュールとその製造方法を提供することを可能とするものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】従来技術において、絶縁構造体に設けられた孔に、溶融した熱電素子材料を流し込み、凝固させたときに生じる気孔の様子を示した写真である。
【図2】本発明によって提供される熱電発電モジュールの概略図である。
【図3】本発明によって提供される熱電発電モジュールに使用するハニカム絶縁構造体の概略図である。
【図4】ハニカム絶縁構造体に底板を設け、熱電素子の材料となる材料粉末を充填した様子を示した概略図である。
【図5】ハニカム絶縁構造体に熱電素子の原材料となる材料粉末を充填し、密閉板によって密閉した様子を示した概略図である。
【図6】遠心加圧溶融法により、ハニカム絶縁構造体の孔内に熱電素子を作製する工程の様子を示した概略図である。
【図7】遠心加圧溶融法により、ハニカム絶縁構造体の孔内に作製された熱電素子の様子を示した概略図である。
【図8】作製したp型熱電素子の電気伝導度とゼーベック係数および出力因子を示す。
【図9】作製したn型熱電素子の電気伝導度とゼーベック係数および出力因子を示す。
【符号の説明】
【0065】
1 ハニカム絶縁構造体
2 p型熱電素子
3 n型熱電素子
4 電極
5 リード線
6 密閉板
7 ヒーター
8 断熱容器
9 ローター
10 ポケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心加圧溶融法により熱電発電モジュールを製造する方法であって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子の原材料となる粉末材料を投入後、前記構造体における両開口面に蓋をして封入し、その後、前記構造体中の粉末材料に遠心力を付加しながら加熱して、該粉末材料を溶融させ、次いで凝固させることにより、複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュールとすること、前記熱電素子が、p型熱電素子とn型熱電素子であり、これらの素子が、前記複数平行貫通孔に交互に形成され、かつ電極で接続されている構造を有すること、を特徴とする熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項2】
前記貫通孔が、開口端のいずれか一方を予め封止した有底穴である、請求項1に記載の熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項3】
前記絶縁材が、無機絶縁材料である、請求項1又は2に記載の熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項4】
前記熱電素子が、ビスマスもしくはテルルを含む、請求項1から3のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記熱電素子が、ケイ素を含む、請求項1から3のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項6】
前記熱電素子が、酸化物を含む、請求項1から3のいずれかに記載の熱電発電モジュールの製造方法。
【請求項7】
遠心加圧溶融法によって、粉末状の熱電材料を溶融および凝固させることにより作製された熱電発電モジュールであって、絶縁材によって形成され、かつ複数の平行した貫通孔を有する構造体の貫通孔に、熱電素子が形成された構造を有していること、遠心力による加圧条件下で、粉末状の熱電材料が溶融および凝固されたことで、熱電素子内の気孔、空隙の発生が減少し、熱電発電性能の低下が抑制されていること、を特徴とする複数平行貫通孔に熱電素子が形成された熱電発電モジュール。
【請求項8】
前記熱電素子が、p型熱電素子とn型熱電素子であり、これらの素子が、前記複数平行貫通孔に交互に形成され、かつ電極で接続されている構造を有する、請求項7に記載の熱電発電モジュール。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図8】
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【図9】
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