説明

燃料カートリッジ

【課題】 携帯電話、ノート型パソコン及びPDAなどの携帯用電子機器の電源として用いられる小型の燃料電池用に好適な燃料カートリッジを提供する。
【解決手段】 液体燃料Fを貯留するための毛管力が付与された燃料吸蔵体10を内包し、かつ、挿入される燃料供給芯によって液体燃料を燃料電池本体に供給する燃料カートリッジAであって、上記燃料吸蔵体10には、吸蔵される液体燃料Fと相溶せず、かつ、該液体燃料Fよりも表面張力が低い置換液体Gが充填されていることを特徴とする燃料カートリッジ。
【効果】簡単な構成により、燃料の再充填を防止することできるので、不正な燃料の充填による汚染された燃料の使用を防止することができる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用に好適な燃料カートリッジに関し、更に詳しくは、携帯電話、ノート型パソコン及びPDAなどの携帯用電子機器の電源として用いられる小型の燃料電池用に好適な燃料カートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、空気電極層、電解質層及び燃料電極層が積層された燃料電池セルと、燃料電極層に還元剤としての燃料を供給するための燃料供給部と、空気電極層に酸化剤としての空気を供給するための空気供給部とからなり、燃料と空気中の酸素とによって燃料電池セル内で電気化学反応を生じさせ、外部に電力を得るようにした電池であり種々の形式のものが開発されている。
【0003】
近年、環境問題や省エネルギーに対する意識の高まりにより、クリーンなエネルギー源としての燃料電池を、各種用途に用いることが検討されており、特に、メタノールと水を含む液体燃料を直接供給するだけで発電できる直接メタノール型燃料電池が注目されてきている(例えば、特許文献1及び2参照)。
これらの中でも、液体燃料の供給に毛管力を利用した各液体燃料電池等が知られている
(例えば、特許文献3〜8参照)。
これらの各特許文献に記載される液体燃料電池は、燃料タンクから液体燃料を毛管力で燃料極に供給するため、液体燃料を圧送するためのポンプを必要としないなど小型化に際してメリットがある。
【0004】
このような燃料の流通経路にポンプや電磁弁を設置しないパッシブ型の燃料電池では、発電していないときは燃料貯留体が燃料を保持できる構造であることが望ましい。
燃料貯留体自体に燃料を保持させるためには、通常中綿などと呼ばれている毛管力を付与した多孔質体を燃料の吸蔵体として用いる方法が、安全性や構造の簡素さから有効である(例えば、特許文献9及び10参照)。
【0005】
しかしながら、中綿等に燃料を吸蔵させ、それよりも大きな毛管力を付与した中継芯等を介して燃料を排出させる構造の燃料カートリッジでは、使用済み燃料カートリッジに容易に燃料を再充填することができるものとなっている。燃料電池において、燃料の組成は、発電に用いられる発電セルによって異なっており、当然それぞれの発電セルの規格に合う燃料を使用する必要がある。更に、燃料の精製度合いは非常に重要であり、不純物の多い燃料を使用すると発電セル自体が破壊されるため、不正な燃料の再充填による、汚染された燃料の使用を防止する必要がある。
従って、用いる燃料カートリッジは、上述のような実状等を有するものであるが、従来の燃料カートリッジの構造では、燃料の再充填を防止する機構がなかったり、不十分であるという課題がある。
【0006】
なお、燃料電池用の燃料カートリッジ以外の技術分野、例えば、インキジェツトプリンタ用ではインキカートリッジに対してインキの再充填を防止するための構造や機構等、カラーレーザープリンタ用では、トナーカートリッジに対して、トナーの再充填を防止するための構造、機構等が知られているが、これらのカートリッジは比較的単価が高いので、再充填する構造や機構等を複雑化しても問題はないものである。これに対して、燃料電池用の燃料カートリッジは、インキカートリッジやトナーカートリッジに較べ、更に単価を安くする必要性があり、低コストで、簡単な構成とすることが必要であり、また、インキやトナー等とは全く物性、取り扱いが異なるメタノールなどの液体燃料を用いるので、液体燃料の物性・使用性に悪影響を及ぼさない再充填を防止する構造等とすることが要求されるものである。
【特許文献1】特開平5−258760号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開平5−307970号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開昭59−66066号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平6−188008号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2003−229158号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特開2003−299946号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献7】特開2003−340273号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献8】特開2003−109633号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献9】特開2003−308871号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献10】特開2004−63200号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の燃料カートリッジにおける課題及び要求等に鑑み、これを解消するためになされたものであり、燃料の再充填を防止することにより、不正な燃料の充填による、汚染された燃料の使用を防止することができる燃料カートリッジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記従来の課題等について、鋭意検討した結果、液体燃料を貯留するための毛管力が付与された燃料吸蔵体を内包し、かつ、挿入される燃料供給芯によって液体燃料を燃料電池本体に供給する燃料カートリッジにおいて、該燃料カートリッジに、燃料の再充填を防止する特定の機構を設けることにより、上記目的の燃料カートリッジが得られることに成功し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(8)に存する。
(1) 液体燃料を貯留するための毛管力が付与された燃料吸蔵体を内包し、かつ、挿入される燃料供給芯によって液体燃料を燃料電池本体に供給する燃料カートリッジであって、上記燃料吸蔵体には、吸蔵される液体燃料と相溶せず、かつ、該液体燃料よりも表面張力が低い置換液体が充填されていることを特徴とする燃料カートリッジ。
(2) 置換液体は、燃料吸蔵体の燃料供給芯が挿入されない側に充填されている上記(1)記載の燃料カートリッジ。
(3) 置換液体が、鎖状炭化水素系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、シリコーンオイルから選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)記載の燃料カートリッジ。
(4) 置換液体の充填量が、体積比率で液体燃料の1〜20%である上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(5) 燃料カートリッジは、燃料吸蔵体を収容する燃料タンク部と、燃料供給芯を挿入する挿入口部とを備えてなる上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
(6) 燃料タンク部は、酸素バリア性の樹脂層を少なくとも1層以上有する上記(5)記載の燃料カートリッジ。
(7) 酸素バリア性の樹脂層は、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアクリロニトリル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルの単独若しくは2種以上の樹脂からなる上記(6)記載の燃料カートリッジ。
(8) 液体燃料がメタノール液、ジメチルエーテル(DME)、ギ酸、ヒドラジン、アンモニア液、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液から選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(7)の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構成により、燃料の再充填を防止することできるので、不正な燃料の充填による汚染された燃料の使用を防止することができる燃料カートリッジが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳しく説明する。
図1〜図3は、本発明の実施形態の一例を示す燃料カートリッジA及び燃料電池Bを示すものである。
本実施形態の燃料カートリッジAは、図1及び図2に示すように、液体燃料を貯留するための毛管力が付与された燃料吸蔵体10を収容する燃料タンク部11と、中継芯からなる燃料供給芯12を挿入する挿入口部13とを備えたものである。
この燃料カートリッジAは、燃料電池本体B1の上部に取り付け自在となり、挿入口部13に挿入される燃料供給芯12によって燃料吸蔵体10に吸蔵される液体燃料を燃料電池本体B1に供給することにより発電が行われるものである。
【0012】
本発明に用いる燃料吸蔵体10は、液体燃料を貯留するための毛管力が付与されたものであり、多孔質体及び/又は繊維束などから構成されている。
具体的には、フェルト、スポンジ、または、樹脂粒子焼結体、樹脂繊維焼結体などの焼結体等から構成される毛管力を有する多孔体や、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組合せからなる繊維束体からなるものが使用でき、これらの多孔体、繊維束体の気孔率、太さ、クリンプ率等は燃料供給芯12及び各単位セル20への供給量に応じて適宜設定されるものである。
【0013】
燃料タンク部11は、図1に示すように、本体部11aと後軸部11bとを嵌合することにより構成されるものであり、本体部11aの下端中央部には、燃料供給芯12を挿入する挿入口部13が設けられている。また、この本体部11aの下端部には、空気置換孔11cが設けられると共に、その内部には燃料吸蔵体10の下端面を支持する突起体11d、11dが設けられている。
なお、保管時には、本体部11aの下端面にシール部材を貼着して、挿入口部13及び空気置換孔11cを塞いで外気等との密閉をすることができ、使用時に上記シール部材を取り外すことにより使用に供する構造となっている。また、上記シール部材に代えて、または、シール部材と共に、本体部11aの下端面を更に密閉する蓋体(キャップ体)を取り付けいても良いものである。
【0014】
上記燃料タンク部11(本体部11a、後軸部11b)としては、耐久性、収容される液体燃料F及び置換液体Gに対して保存安定性、ガス不透過性(酸素ガス、窒素ガス等に対するガス不透過性)を有するものが好ましい。
また、液体燃料F及び置換液体Gの漏洩及び蒸発防止については、ガス不透過性の材質から構成されることが好ましく、更に好ましくは、酸素ガス透過度(酸素ガス不透過性)が100cc・25μm/m2・24hr・atm(25℃、65%RH)以下であれば実使用上問題はない。
【0015】
燃料タンク部11の材質としては、光線透過性を要求されない場合であれば、好ましい材質としてアルミニウム、ステンレスなどの金属、合成樹脂、ガラスなどが挙げられるが、前記した液体燃料F及び置換液体Gに対するガス不透過性、製造や組立時のコスト低減及び製造の容易性などから、好ましくは、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアクリルニトリル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの単独もしくは2種以上の樹脂を含む単層構造、2層以上の多層構造からものが挙げられる。更に好ましくは、これらの樹脂であって上記酸素ガス透過度(酸素ガス不透過性)が100cc・25μm/m2・24hr・atm(25℃、65%RH)以下であるものを選択することが望ましい。
特に好ましくは、上記特性の酸素ガス不透過度を有するエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアクリルニトリル、ポリ塩化ビニリデンが望ましい。
【0016】
また、燃料タンク部11は、好ましくは、2層以上の多層構造からなり、少なくとも1層は前記したガス不透過性を有する上述の樹脂群を含む材料から構成される2層以上の多層構造となるものが望ましい。この多層構造の内、少なくとも1層が、前記した性能(ガス透過度)を持つ樹脂で構成されていれば、残りの層は通常の樹脂でも実使用上問題はない。このような多層構造は、押出し成形、射出成形、共押出し成形などにより製造することができる。
また、これらの成形により設けられる少なくとも1層のガス不透過層の代わりに、前記した樹脂群から選ばれる樹脂の溶液などを塗布してガス不透過層を設けることもできる。この塗布方法では、上記押出し成形、射出成形などの成形による製造よりも特殊な製造設備を必要とせず、逐次製造することが可能である。
【0017】
これらの各成形法、塗布で設けられたガス不透過層は、好ましくは、10〜2000μmの厚みであることが望ましい。この厚みが10μm未満では、ガス不透過性を発揮することができず、一方、2000μmを超える場合には、容器全体の光線透過性、柔軟性などの性能が悪化することとなる。
また、前記した樹脂による成形又は塗布によるガス不透過層の代わりに、ガス不透過性のフィルムなどのガス不透過薄膜部材によって被覆することができる。被覆するガス不透過薄膜部材としては、好ましくは、アルミ箔などの金属箔、アルミナ、シリカなどの金属酸化物蒸着物、ダイアモンドライクカーボンコーティング物から選ばれる少なくとも1種が挙げられ、これらの不透過薄膜部材で貯蔵容器20の外表面部を被覆することにより、上述のとおりのガス不透過性を発揮させることができる。なお、この不透過薄膜部材の厚みは、上記と同様に10〜2000μmとすることが望ましい。また、上記ガス不透過薄膜部材が視認性を有しない部材、例えば、アルミ金箔などの場合は、ガス不透過性を損なわない程度に一部施さず、格子状、ストライプ状等に被覆して、覗き窓部を設けこの覗き窓部に光線透過性を有するガス不透過性フィルムを被覆してガス不透過性と視認性を確保することもできる。
【0018】
燃料吸蔵体10に吸蔵せしめる液体燃料Fとしては、メタノールと水とからなるメタノール水溶液が挙げられるが、後述する燃料電極体において燃料として供給された化合物から効率良く水素イオン(H+)と電子(e-)が得られるものであれば、液体燃料は特に限定されず、燃料電極体の構造などにもよるが、例えば、ジメチルエーテル(DME)、エタノール液、ギ酸、ヒドラジン、アンモニア液、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液などの液体燃料も用いることができる。
また、これらの液体燃料の濃度は、燃料電池の構造、特性等により種々の濃度の液体燃料を用いることができ、例えば、1〜100%濃度の液体燃料を用いることができる。
【0019】
本発明では、上記燃料吸蔵体10には、液体燃料Fの他、吸蔵される液体燃料Fと相溶せず、かつ、該液体燃料Fよりも表面張力が低い置換液体Gが充填されている。
この置換液体Gは、液体燃料の再充填を防止する点から、燃料吸蔵体10の燃料供給芯12が挿入されていない部分に充填、本実施形態では、図1及び2に示すように、燃料吸蔵体10の上部側に充填されている。
【0020】
用いることができる置換液体Gは、液体燃料の再充填を防止する点から、吸蔵される液体燃料Fと相溶せず、かつ、該液体燃料Fよりも表面張力が低いことが必要であり、この特性を有するものであれば、特に限定されるものではない。
このような特性を有する置換液体Gとしては、例えば、鎖状炭化水素系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、シリコーンオイルから選ばれる少なくとも1種を使用することができる。具体的には、鎖状炭化水素系有機溶剤としては、例えば、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカンや流動パラフィンなどが挙げられ、芳香族炭化水素系有機溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられ、シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0021】
本発明に用いる置換液体Gは、吸蔵される液体燃料Fと相溶せず、かつ、該液体燃料Fよりも表面張力が低いものでなければならないが、用いる液体燃料Fはその種類により表面張力が相違し、また、同一の液体燃料であってもその濃度により表面張力が違うものであるため、用いる液体燃料種、各濃度の表面張力を見極めた上で、好適な置換液体Gを選択して燃料吸蔵体10に吸蔵させることが好ましい。
【0022】
例えば、液体燃料としてメタノール水溶液を用いる場合、下記表1に示すように各濃度において、表面張力が相違するものである。
【表1】

【0023】
従って、用いる置換液体Gは、上記表1の各濃度の表面張力よりも低く、液体燃料(メタノール水溶液)Fと相溶しない液体が選ばれる。例えば、50wt%のメタノール液(表面張力:35mN/m、25℃)を液体燃料とする場合、置換液体Gとしては、例えば、キシレン(表面張力:29mN/m、25℃)、流動パラフィン(表面張力:30mN/m、25℃)、シリコーンオイル(表面張力:16mN/m、25℃)などを用いることができる。
本発明では、上記特性を有する置換液体を燃料吸蔵体10の上部側に充填してあれば、燃料消費の時、燃料吸蔵体10から液体燃料(メタノール水溶液)が排出されることで、該液体燃料に変わって燃料吸蔵体10の毛管に浸透でき、更に、置換液体Gで毛管の保持力を低下せせることができるため、液体燃料の再充填を防止することができるものとなる。
【0024】
この置換液体Gの充填量としては、体積比率で液体燃料の1〜20%、好ましくは、5〜10%である。
この置換液体の充填量が1%未満であると、燃料排出後、吸蔵体内を十分被覆することができず、燃料再充填防止効果が十分でなく、一方、20%を越えると、燃料を消費した後、燃料供給芯を介して発電セルに供給されることとなり、好ましくない。
【0025】
この置換液体Gを液体燃料Fと共に燃料吸蔵体10に充填する方法としては、例えば、充填管から液体燃料F及び置換液体Gをそれぞれ燃料吸蔵体(中綿)の反対側の端面から強制的に(加圧し)充填する方法や、燃料吸蔵体(中綿)に液体燃料F若しくは置換液体Gを吸い上げさせ、もう一方の端面から残りを吸わせる方法により行うことができる。
【0026】
このように構成される燃料カートリッジAは、図2に示すように、燃料電池本体B1の収納部(図示せず)に取り付け自在となり、使用に供されることとなる。
すなわち、本実施形態の燃料電池Bは、図2に示すように、燃料カートリッジAと燃料電池本体B1とにより構成されており、挿入される中継芯からなる燃料供給芯12及び燃料供給体30によって燃料吸蔵体に吸蔵される液体燃料Fを燃料電池本体B1に供給する液体燃料供給システムとなっている。
この燃料電池本体B1は、微小炭素多孔体よりなる燃料電極体21の外表部に電解質層23を構築し、該電解質層23の外表部に空気電極層24を構築することで形成される単位セル(燃料電池セル)20、20と、上記燃料カートリッジ10に接続される燃料供給芯(中継芯)12及び浸透構造を有する燃料供給体30と、該燃料供給体30の終端に設けられる使用済み燃料貯蔵槽40とを備え、上記各単位セル20、20は直列に連結されて燃料供給体30により燃料が順次供給される構造となっている。
【0027】
単位セルとなる各燃料電池セル20は、微小柱状の炭素多孔体よりなる燃料電極体21を有すると共に、その中央部に燃料供給体30を貫通する貫通部22を有し、上記燃料電極体21の外表部に電解質層23が構築され、該電解質層23の外表部に空気電極層24が構築される構造からなっている。なお、各燃料電池セル20の一つ当たり、理論上約1.2Vの起電力を生じる。
【0028】
この燃料電極体21を構成する微小柱状の炭素多孔体としては、微小な連通孔を有する多孔質構造体であれば良く、例えば、三次元網目構造若しくは点焼結構造よりなり、アモルファス炭素と炭素粉末とで構成される炭素複合成形体、等方性高密度炭素成形体、炭素繊維抄紙成形体、活性炭素成形体などが挙げられ、好ましくは、燃料電池の燃料極における反応制御が容易かつ反応効率の更なる向上の点で、アモルファス炭素と炭素粉末とからなる微細な連通孔を有する炭素複合成形体が望ましい。
【0029】
この多孔質構造からなる炭素複合体の作製に用いる炭素粉末としては、更なる反応効率の向上の点から、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、キッシュ黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ、フラーレンより選ばれる少なくとも1種(単独または2種以上の組合せ)が好ましい。
また、この燃料電極体21の外表部には、白金−ルテニウム(Pt−Ru)触媒、イリジウム−ルテニウム(Ir−Ru)触媒、白金−スズ(Pt−Sn)触媒などが当該金属イオンや金属錯体などの金属微粒子前駆体を含んだ溶液を含浸や浸漬処理後還元処理する方法や金属微粒子の電析法などにより形成されている。
【0030】
電解質層23としては、プロトン伝導性又は水酸化物イオン伝導性を有するイオン交換膜、例えば、ナフィオン(Nafion、Du pont社製)を初めとするフッ素系イオン交換膜が挙げられる他、耐熱性、メタノールクロスオーバーの抑制が良好なもの、例えば、無機化合物をプロトン伝導材料とし、ポリマーを膜材料としたコンポジット(複合)膜、具体的には、無機化合物としてゼオライトを用い、ポリマーとしてスチレン−ブタジエン系ラバーからなる複合膜、炭化水素系グラフト膜などが挙げられる。
また、空気電極層24としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)等を上述の金属微粒子前駆体を含んだ溶液等を用いた方法で担持させた多孔質構造からなる炭素多孔体が挙げられる。
【0031】
前記燃料供給芯(中継芯)12は、図2に示すように、燃料カートリッジA内に収容される液体燃料を吸蔵する燃料吸蔵体10に接続されると共に、燃料供給体30に接続される構成となっている。これにより、液体燃料を各単位セル20に供給できるものとなる。
前記燃料供給芯(中継芯)12及び燃料供給体30は、浸透構造を有するものであれば特に限定されず、例えば、フェルト、スポンジ、または、樹脂粒子焼結体、樹脂繊維焼結体などの焼結体等から構成される毛管力を有する多孔体や、天然繊維、獣毛繊維、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリフェニレン系樹脂などの1種又は2種以上の組合せからなる繊維束体からなるものが挙げられ、これらの多孔体、繊維束体の気孔率、太さ、クリンプ率等は燃料供給芯12及び燃料供給体30や、各単位セル20への供給量に応じて適宜設定されるものである。
【0032】
使用済み燃料貯蔵槽40は、燃料供給体30の終端に配置されるものである。この時、使用済み燃料貯蔵槽40を燃料供給体30の終端に直接接触させて使用済み燃料を直接吸蔵させても問題ないが、図4(図2の変形例)に示すように、燃料供給体30と接触する接続部に中綿や多孔体、または繊維束体などを中継芯40aとして設け、使用済み燃料排出路としてもよい。
また、前記燃料供給芯(中継芯)12及び燃料供給体30により供給される液体燃料は、燃料電池セル20で反応に供されるものであり、燃料供給量は、燃料消費量に連動しているため、未反応で電池の外に排出される液体燃料は殆どなく、従来の液体燃料電池のように、燃料出口側の処理系を必要としないが、運転状況により供給過剰時に至った際には、反応に使用されない液体燃料が貯蔵槽40に蓄えられ阻害反応を防ぐことができる構造となっている。
なお、50は、燃料貯蔵槽10と使用済み燃料貯蔵槽40を連結すると共に、燃料カートリッジAから各単位セル20、20の個々に前記燃料供給芯(中継芯)12及び燃料供給体30を介して直接液体燃料を確実に供給するメッシュ構造などからなる部材である。
【0033】
本発明の燃料カートリッジAは、例えば、上記構成の燃料電池本体B1に取り付けて、使用に供されるものであり、燃料消費に伴ない、燃料吸蔵体10から液体燃料が排出され、その代わりに空気が置換されるが、このとき、燃料吸蔵体10内に置換液体Gを充填しておくことで、燃料吸蔵体10内の毛管内に置換液体(油分)Gが浸透し、拡散することとなる。この置換液体Gは、液体燃料よりも表面張力が低いため、燃料吸蔵体10の毛管力が低下し燃料を保持することができなくなる。結果として、一度燃料が排出された燃料カートリッジは再度液体燃料を充填しても、燃料吸蔵体10が液体燃料を保持できないため、再充填を防止することができるものとなる。
また、上記実施形態の燃料電池Bでは、前記燃料供給芯(中継芯)12及び燃料供給体30の浸透構造により燃料カートリッジA内の燃料吸蔵体10に吸蔵されている液体燃料を毛管力により燃料電池セル20、20内に導入するものである。この時、燃料カートリッジAが、燃料電極体21または燃料供給体30に接続される部分に、図2に示したように、前記した吸蔵体10と同様の材質を持つ燃料供給芯(中継芯)12を設けたが、直接燃料供給体30を燃料供給芯として使用してもよいものである。なお、上記燃料供給芯(中継芯)12を設けることにより燃料電池セル20内への過剰な液体燃料の供給を防止することができ、燃料供給芯(中継芯)12の毛管力を調整することにより液体燃料の供給量を調節することができる。
【0034】
本実施形態では、図2に示すように、燃料吸蔵体10、燃料供給芯12、燃料電極体21及び/又は燃料電極体21に接する燃料供給体30、使用済み燃料貯蔵槽40(中継芯40a)の毛管力を、燃料吸蔵体10<燃料供給芯12<燃料電極体21及び/又は燃料電極体21に接する燃料供給体30と設定することにより、燃料電池Bがどのような状態(角度)、逆さ等に放置されても、燃料吸蔵体10から各単位セル20、20の個々に直接液体燃料が逆流や途絶を起こすことなく、安定的かつ継続的に燃料を供給することができるものとなる。好ましくは、各毛細管力を燃料貯蔵槽10(吸蔵体10a)<燃料電極体21及び/又は燃料電極体21に接する燃料供給体30<使用済み燃料貯蔵槽40(中継芯40a)とすることによって安定した液体燃料の流れを作ることができる。
この実施形態の燃料電池Bでは、ポンプやブロワ、燃料気化器、凝縮器等の補器を特に用いることなく、液体燃料を気化せずそのまま円滑に供給することができる構造となるため、燃料電池の小型化を図ることが可能となる。
【0035】
図5は、本発明の第2実施形態の燃料電池Cを示すものである。なお、前記第1実施形態の燃料電池Bと同様の構成及び効果を発揮するものについては、図1〜図3と同一符号を付してその説明を省略する。
この本実施形態の燃料カートリッジ60は、図5に示すように、支持体70内に取り付け自在に収納される構造であり、先端部に燃料供給芯(中継芯)12aを保持する保持部61と後端部に固着された尾栓部62とを有する筒状の燃料タンク部となる本体部63から構成され、この本体部63内部には液体燃料Fと置換液体Gが充填された燃料吸蔵体10が収納されると共に、該燃料吸蔵体10に燃料供給芯12aが接続された構造からなるものである点で、上記実施形態の燃料カートリッジと相違するものである。
また、この燃料カートリッジ60の燃料吸蔵体10に接続された中継芯からなる燃料供給芯12aは、支持体70内に収納される燃料供給体30に接続されている。なお、図示しないが、燃料供給体30の先端(図5の矢印方向)には、上記第1実施形態と同様に燃料電池セル20、20…に接続される構造となっている。なお、この燃料カートリッジ60には、図示しないが、燃料供給芯12aの周囲に空気置換孔が形成されており、また、保管時には保持部61の周囲に蓋体(キャップ体)が取り付けられて燃料カートリッジ60の下端部を密閉する構造となっている。
【0036】
この実施形態の燃料カートリッジ60でも、燃料消費に伴ない、燃料吸蔵体10から液体燃料が排出され、その代わりに空気が置換されるが、このとき、燃料吸蔵体10内に置換液体Gを充填しておくことで、燃料吸蔵体10内の毛管内に置換液体(油分)Gが浸透し、拡散することとなる。この置換液体Gは、液体燃料よりも表面張力が低いため、燃料吸蔵体10の毛管力が低下し燃料を保持することができなくなる。結果として、一度燃料が排出された燃料カートリッジ60は再度液体燃料を充填しても、燃料吸蔵体10が液体燃料を保持できないため、再充填を防止することができるものとなる。
また、前記カートリッジ構造体60から液体燃料を燃料供給体30に、燃料供給芯12aを通して、液体燃料を継続的に供給することができるので、カートリッジ60が燃料供給体30よりも下に位置した状態でも継続して燃料供給が可能となる。
【0037】
なお、本発明の燃料カートリッジは、上述の如く構成されるものであり、液体燃料Fを貯留するための毛管力が付与された燃料吸蔵体10を内包し、かつ、挿入される燃料供給芯12によって液体燃料Fを燃料電池本体B1に供給する燃料カートリッジであって、上記燃料吸蔵体10には、吸蔵される液体燃料Fと相溶せず、かつ、該液体燃料Fよりも表面張力が低い置換液体Gが充填されていることを特徴とするので、これ以外の燃料カートリッジ自体の形状・構造、燃料電池本体B1の形状・構造は、特に限定されず、既知の構造等を採用することができる。
また、燃料電池セル20として円柱状のものを用いたが、角柱状、板状の他の形状のものであってもよく、また、燃料供給体30との接続は直列接続のほか、並列接続であってもよい。更に、各形態の燃料電池の構造の一部を相互に変更して使用することもできる。例えば、上記第1実施形態の燃料カートリッジAの代わりに、上記第3実施形態の燃料カートリッジ60を取り付けた構造としてもよいものである。
【実施例】
【0038】
次に、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜3及び比較例1)
図5に準拠する燃料カートリッジ60を使用した。
実施例1〜3として置換液体1〜3を充填したカートリッジと、比較例1として置換液体を充填していないカートリッジから、液体燃料を排出させ、その後排出量と等しい液体燃料を再充填した。液体燃料が燃料吸蔵体で保持できず、こぼれたら、再充填防止効果ありとして評価した。
【0040】
使用した燃料吸蔵体、液体燃料、置換液体、燃料タンクは、下記の構成のものを用いた。
燃料吸蔵体:外径12mm、長さ85mm、気孔率91%、繊維ポリエステル、繊維太さ4デニール、繊維本数25200本、クリンプ率27%、毛管力110mm
燃料供給芯(中継芯):外径7mm(最大径)、長さ37mm、気孔率62%、繊維ポリエステル、繊維太さ3デニール、繊維本数45450本、クリンプ率15%、毛管力360mm
燃料タンク部:酸素ガス透過度(酸素ガス不透過性)が100cc・25μm/m2・24hr・atm(25℃、65%RH)以下であり、かつ、光線透過率が80%以上となるポリエチレンテレフタレート樹脂から構成、大きさφ20×50mm。
液体燃料:50wt%メタノール水溶液液、充填量7.5cc(6.8g、d=0.91)
置換液体1:キシレン、充填量0.5cc、和光純薬工業社製、表面張力:29mN/m(25℃)
置換液体2:流動パラフィン、充填量0.5cc、和光純薬工業社製、表面張力:30mN/m(25℃)
置換液体3:シリコーンオイル、KF96−1CS(信越化学工業社製)、充填量0.5cc、表面張力:16mN/m(25℃)
燃料吸蔵体への液体燃料及び置換液体1〜3の充填は、液体燃料を針付シリンジにて燃料吸蔵体に充填し、燃料吸蔵体の他方から置換液体を針付シリンジにて同様に充填した。
【0041】
上記構成の組み合わせで、実施例1〜3(置換液体1〜3を充填したカートリッジ)と、比較例1(置換液体を充填していないカートリッジ)を作製した。
これらの燃料カートリッジを用いて下記各評価方法により、燃料排出性試験、燃料再充填防止性試験を行い評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0042】
(燃料排出性試験)
実施例1〜3及び比較例1の燃料排出性を調べるため、燃料排出後の重量変化から燃料排出量を測定した。燃料排出性は、燃料吸蔵体に挿入した中継部材(12a)から燃料を毎分0.1mlの速度で吸引し、空気が侵入してくるまで試験し、その排出量を測定した。
【0043】
(燃料再充填防止効果試験)
燃料を排出させた実施例1〜3及び比較例1のサンプルに6ccの液体燃料(50wt%のメタノール水溶液)を再充填した。なお、再充填は、本体部63から尾栓62を外し、シリンジにて強制的に再充填させた。その後、尾栓62を再び取り付けた。
燃料を強制的に再充填した実施例1〜3及び比較例1のサンプルを中継芯12aをした向きに放置し、燃料がこぼれるか下記評価基準で評価した。
評価基準:
○:充填した燃料が50%以上こぼれた。
△:こぼれた燃料が充填量に対して、50%以下である。
×:燃料がこぼれない。
【0044】
【表1】

【0045】
上記表1の結果から明らかなように、本発明となる置換液体が充填された実施例1〜3の燃料カートリッジは、本発明の範囲外となる置換液体が充填されていない比較例1に較べて、液体燃料の再充填を防止する効果が高いことが判った。また、実施例1〜3において、排出された液体燃料には、各置換液体は含まれないことも確認した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す燃料カートリッジの縦断面図である。
【図2】図1の燃料カートリッジを用いた燃料電池の一例を示す概略断面図である。
【図3】(a)及び(b)は、燃料単位セルの斜視図、縦断面図である。
【図4】本発明の燃料カートリッジを用いた燃料電池の他例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の実施形態の他例を示す燃料カートリッジを用いた燃料電池の他例を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
A 燃料カートリッジ
B 燃料電池
B1 燃料電池本体
F 液体燃料
G 置換液体
10 燃料吸蔵体
11 燃料タンク部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料を貯留するための毛管力が付与された燃料吸蔵体を内包し、かつ、挿入される燃料供給芯によって液体燃料を燃料電池本体に供給する燃料カートリッジであって、上記燃料吸蔵体には、吸蔵される液体燃料と相溶せず、かつ、該液体燃料よりも表面張力が低い置換液体が充填されていることを特徴とする燃料カートリッジ。
【請求項2】
置換液体は、燃料吸蔵体の燃料供給芯が挿入されない側に充填されている請求項1記載の燃料カートリッジ。
【請求項3】
置換液体が、鎖状炭化水素系有機溶剤、芳香族炭化水素系有機溶剤、シリコーンオイルから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の燃料カートリッジ。
【請求項4】
置換液体の充填量が、体積比率で液体燃料の1〜20%である請求項1〜3の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項5】
燃料カートリッジは、燃料吸蔵体を収容する燃料タンク部と、燃料供給芯を挿入する挿入口部とを備えてなる請求項1〜4の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。
【請求項6】
燃料タンク部は、酸素バリア性の樹脂層を少なくとも1層以上有する請求項5記載の燃料カートリッジ。
【請求項7】
酸素バリア性の樹脂層は、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂、ポリアクリロニトリル、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルの単独若しくは2種以上の樹脂からなる請求項6記載の燃料カートリッジ。
【請求項8】
液体燃料がメタノール液、ジメチルエーテル(DME)、ギ酸、ヒドラジン、アンモニア液、エチレングリコール、水素化ホウ素ナトリウム水溶液から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜7の何れか一つに記載の燃料カートリッジ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−125757(P2006−125757A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−316065(P2004−316065)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】