説明

燃料ガスの流量補正方法

【課題】製鉄所で発生し製鉄所内で利用されるガスのような特定の燃料ガスの状況に鑑みて、燃料ガス中の水蒸気分に基づく燃料ガスの流量補正を安価に行うことができる燃料ガスの流量補正方法を提供する。
【解決手段】水蒸気を含有する燃料ガスを燃焼炉まで導くまでに、燃料ガスの露点より低い所定の温度まで燃料ガスを冷却し、前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、前記所定の温度における飽和水蒸気圧に基づいて燃料ガスの流量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板を焼鈍する焼鈍炉等に代表される燃焼炉に導入される燃料ガスが水蒸気を含有している場合に、その水蒸気分に基づき燃料ガスの流量を補正する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所で発生するガスは、主として製鉄所内での加熱炉や焼鈍炉等の燃焼炉の燃料として用いられている。このような発生ガス、なかでも高炉ガスや転炉ガス等では、発生時にかなり高温となるので、これを搬送するために冷却する必要がある。その際、ガスに対して放水することにより冷却するため、前記ガス中には必ず水蒸気分が含有され、高露点のガスとなっている(通常、露点は40〜50℃程度になっている)。
【0003】
一方、このような発生ガスを用いた焼鈍炉を操業する際に、年間のうち夏場になると加熱能力不足になるという問題があった。この原因が炉体放散によるエネルギーロスと考えると、むしろ気温の低い冬場において放散する熱量は多くなるので、現状とは矛盾する。そこで、詳細に調査したところ、前述のとおり発生ガス中に含まれる水蒸気分によって、見かけの熱量が低下していることに思い至ったのである。
【0004】
ガス中の湿分を補正する方法として、特許文献1には、配管内に湿分計を設置して、その湿分計により測定された湿度に基づいて、ガス流量における水蒸気分を補正する方法が記載されている。
【特許文献1】特開昭63−132117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、既設の配管内に新たに湿分計を設置する必要があるため、設置のコストが多大となるとともに、配管内への設置のためメンテナンスが困難という問題があった。
【0006】
本発明は、製鉄所で発生し製鉄所内で利用されるガスのような特定の燃料ガスの状況に鑑みて、燃料ガス中の水蒸気分に基づく燃料ガスの流量補正を安価に行うことができる燃料ガスの流量補正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0008】
[1]水蒸気を含有する燃料ガスを燃焼炉まで導くまでに、前記燃料ガスの露点より低い所定の温度まで燃料ガスを冷却し、
前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、前記所定の温度における飽和水蒸気圧に基づいて前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【0009】
[2]外気温より高い露点を有する燃料ガスを、屋外の配管を経由して燃焼炉まで導く場合において、
前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、
外気温における飽和水蒸気圧に基づいて前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【0010】
[3]外気温より高い露点を有する燃料ガスを、屋外の配管を経由して燃焼炉まで導く場合において、
年間を複数の時期に分割し、その各時期における外気温の代表値を定め、
前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、前記外気温の代表値における飽和水蒸気圧に基づいて前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【0011】
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときの燃料ガスの温度が変化する場合、その温度変化による体積変化分について、前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、用いる燃料ガスが発生時に高露点となっていることを利用して、燃料ガス中の水蒸気量に基づく流量補正を、外気温等における飽和水蒸気圧を用いて行うようにしているので、配管内に露点計等のセンサーを有する必要がなく、設置は勿論のこと、露点計の較正等の日常におけるメンテナンスについても低コストとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
さて、発明者らは、同流量の燃料ガスについて、夏場と冬場で加熱能力に差が生じ、夏場で加熱能力が不足していることについて、前記した炉体からの熱放散という燃焼炉自体ではなく、燃焼炉までガスを搬送する供給過程に原因があると考えた。ここで、発生時に高温であったガスは屋外の配管を通って燃焼炉まで供給されるが、その配管におけるドレン発生量を調査したところ、夏場と冬場でその発生量の差が大きいことがわかった。すなわち、ガス中の水蒸気量も同様に夏場の方が多くなるので、このガス中の水蒸気量の差を原因と考えれば、夏場の加熱能力不足を矛盾無く説明することができる。
【0014】
ここで、さらに考慮すると、製鉄所で発生する燃料ガスは、発生時に高温であって多量の水分を含有し、それゆえ高露点であるが、屋外の配管まで搬送されると冷却されて結露しドレンを生じ、燃料ガスは屋外の配管内での温度における飽和水蒸気量を含んでいる。それゆえ、ガスの全量に対して屋外の配管内での温度対応する飽和水蒸気量の分だけ、見かけの熱量が下がっていることになる。ここで、燃料ガスが定常的に配管内を流れている場合には、燃料ガスと配管の温度(内外壁)の温度は等しくなっている。そこで、燃焼炉で燃料ガスの流量を制御する際に、外気温(つまり配管外壁の温度)に対応する飽和水蒸気圧により前記燃料ガスの流量を補正する、すなわち、ガスの全量より、外気温に対応する飽和水蒸気量の分を差し引いた流量を用いればよいのである。
【0015】
また、上記の例であれば、燃焼ガスの発生から燃焼炉まで供給される過程のなかで、屋外における配管において、燃焼ガス温度が最も低くなるので、水蒸気分を補正するために、屋外における燃料ガス温度、すなわち外気温(配管の温度)に対応する飽和水蒸気量(飽和水蒸気圧)を用いたが、要するに、供給中に燃焼ガスが最も低くなる所定の温度における飽和水蒸気量で燃焼ガスの流量を補正すればよい。
【0016】
具体的には、流量計での流量をQとし、一方、燃焼炉の温度調整等の制御をするのに実際に用いる流量をQ’とすれば、
Q’=Q×(1−H)
という補正式を燃焼炉の制御手段等に持たせて制御を行えばよい。ここで、Hは外気温(屋外における配管の温度)、もしくは燃料ガス供給中に最も温度が低くなる所定の温度における飽和水蒸気圧に基づく水蒸気濃度である。
【0017】
具体的には、流量計でのガス流量Qと、制御に用いるガス流量Q’との比Q/Q’を表したのが図1である。
【0018】
まず、燃料ガス中での水蒸気量に関する補正に関しては、0℃において燃料ガス中に含まれる水蒸気量を補正した流量を基準(0℃における流量を1)とすると、各温度での水蒸気量を補正した流量は図1の破線の通りに変化する(水蒸気補正)。すなわち、全体積濃度(全分圧:1atm)から0℃における飽和水蒸気濃度(飽和水蒸気圧)を引いた値と、全体積濃度(全分圧:1atm)から各温度(気温)における飽和水蒸気濃度(飽和水蒸気圧)を引いた値との比で表したものである。また、燃料ガスの温度により膨張・収縮するので、ガス温度に関する補正を行うことが好ましく、20℃の体積を基準とする(1とする)と、これは理想気体の状態方程式(PV=nRT)から図1の一点鎖線の通りに変化する(温度補正)。よって、これらを勘案したガス量の補正(温度・水蒸気補正)は、実線の通りとなり、これに基づきガス流量を補正することで加熱に必要となる熱量を精度よく制御することが可能となる。そして、この図より、冬場(気温10℃前後)に比べて、夏場(気温30℃前後)の方が、ガス流量を温度のみで補正した場合(破線)と温度および水蒸気量で補正した場合(実線)の差が大きくなり、夏場において加熱能力不足が顕著になることを矛盾なく説明することができる。
【0019】
なお、以上は流量測定時の温度と外気温が等しい場合であるが、流量測定は燃焼炉付近で行われることが多く、そのような場合において、流量測定時の温度と外気温が異なるのであれば、前記の水蒸気補正は外気温に基づいて行い、温度補正は流量測定時の温度に基づいて行うことになる。
【0020】
以上から、本発明は、用いる燃料ガスが発生時に高露点となっていることを利用し、燃料ガス中の水蒸気量の補正を、外気温を用いることにより可能としたもので、配管内に露点計等のセンサーを有する必要がないので、設置は勿論のこと、露点計の較正等の日常におけるメンテナンスについても低コストとすることがあり、有利である。
【0021】
また、炉温の制御にさほど精度を必要としない場合においては、年間を複数の次期に分割し、その各時期における外気温の代表値を定め、その外気温の代表値における飽和水蒸気圧により前記燃料ガスの流量を補正して制御してもよい。例えば、年間を春夏秋冬の4分割や月毎の12分割してその各分割に応じて代表値や、さらに前記のような各分割部分のそれぞれの昼夜について代表値を持たせてもよい。
【0022】
以上の説明では、水蒸気量を補正する際に用いる温度として、外気温を用いたが、要は水蒸気を含有する燃料ガスの露点より低い温度まで、燃料ガス温度を下げればよいのであって、燃料ガス温度が最も低くなる温度を以って、含有水蒸気量を補正する温度とすればよい。
【実施例】
【0023】
連続焼鈍炉にて、板厚0.30mm、幅1200mmの冷延鋼板を、通板速度130m/分で通板した。焼鈍炉の目標温度を800℃として、前記図1において破線で示されるように、温度補正のみによりガス流量を補正し、温度制御したところ、冬場(12月)では平均800℃と目標に達していたのに対し、夏場(8月)では平均775℃と加熱不足を生じていた。一方、本発明の方法により、前記図1において実線で示されるように、温度および水蒸気の両方を勘案してガス流量を補正し、温度制御したところ、冬場(12月)では平均800℃と目標に達したのは勿論のこと、夏場(8月)においても平均800℃と目標炉温通りに加熱することができ、炉温を年間における較差なく、制御することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ガス流量補正値を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気を含有する燃料ガスを燃焼炉まで導くまでに、前記燃料ガスの露点より低い所定の温度まで燃料ガスを冷却し、
前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、前記所定の温度における飽和水蒸気圧に基づいて前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【請求項2】
外気温より高い露点を有する燃料ガスを、屋外の配管を経由して燃焼炉まで導く場合において、
前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、
外気温における飽和水蒸気圧に基づいて前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【請求項3】
外気温より高い露点を有する燃料ガスを、屋外の配管を経由して燃焼炉まで導く場合において、
年間を複数の時期に分割し、その各時期における外気温の代表値を定め、
前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときに、前記外気温の代表値における飽和水蒸気圧に基づいて前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記燃焼炉における燃料ガスの流量を調整するときの燃料ガスの温度が変化する場合、その温度変化による体積変化分について、前記燃料ガスの流量を補正することを特徴とする燃料ガスの流量補正方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−139260(P2007−139260A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−331154(P2005−331154)
【出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】