説明

燃料噴射インジェクタの製造方法およびノズル焼結体

【課題】金属製のノズルの先端部に微細な燃料噴射口を、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる燃料噴射インジェクタの製造方法を提供すること。
【解決手段】燃料噴射インジェクタの製造方法において、型閉め後、形成しようとするノズルの形状に対応した射出成形用金型のキャビティに、ノズルの先端部に形成しようとする微細な燃料噴射口に応じた径、数量、位置および角度のスライドピンを射出成形用金型から突出させるピン挿入工程と、キャビティにバインダー添加粉末金属を加圧充填し、固化させ、ノズル成形体とする射出成形工程と、スライドピンを射出成形用金型に後退させるピン後退工程と、ノズル成形体を射出成形用金型から取り出し、焼結させ前記スライドピンに対応した細長い管状空隙を備えたノズル焼結体を生成する焼成工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射インジェクタの製造方法およびノズル焼結体に関する。詳しくは、金型によって成形した粉末金属を焼成することによって形成したノズルを備える燃料噴射インジェクタの製造方法およびその製造方法を用いて製造される燃料噴射インジェクタのノズル焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関の燃料噴射インジェクタは、インジェクタ本体部の先端側及び後端側にそれぞれ、燃料噴射口を通じてインジェクタ外へ燃料を噴射する部分であるノズル部(噴射部)と、インジェクタを駆動するための駆動部とを有して構成されている。
なお、ノズル部は、例えばインジェクタ本体部の先端に、別体の金属製のノズルが装着されて形成される。
【0003】
また、インジェクタの燃料噴射口(噴孔)は、ノズル部に設けられている。詳しくは、ノズル部は、円筒状の外形を形成するノズルボディを主体に構成され、そのノズルボディが先端側に向かうにつれて縮径されることにより、その最先端に先端部が形成されている。そして、この先端部には、インジェクタの内外を連通する燃料噴射口として噴孔(微小孔)が必要な数だけ(例えば6〜8個)穿設されている。
【0004】
これらの噴孔(微小孔)は、金属製のノズルの先端部に対する、マイクロドリルを用いた超微小深穴加工、微細放電加工機を用いた微細穴加工、レーザー光(ファイバーレーザー、YAGレーザー、CO2レーザー、又はUV個体レーザー)を用いたレーザー加工、または電子ビーム(真空中で高温に加熱されたフィラメントより発した電子を高電圧で光速近くまで加速させ、更に電磁レンズを用いて極めて細く集束させ、加工対象物の微小面に衝突させ超高熱を発生させる)を用いた電子ビーム加工などの方法によって穿設されている(特許文献1、2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−87665号公報(特願昭60−226817号)
【特許文献2】特開昭62−89590号公報(特願昭60−226816号)
【特許文献3】特開平1−116280号公報(特願昭63−242668号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の燃料噴射インジェクタの製造方法では、それぞれ次の課題を有する。
金属製のノズルの先端部に対する、マイクロドリルを用いた超微小深穴加工においては、要求される微小孔がしばしばドリル加工の最少径限界を超え、また最少径限界近くでは刃先の摩耗による孔径の変化を抑えるため加工に非常な時間を掛ける必要がある。
放電加工においても、要求される微小孔がしばしば加工の最少径限界を超え、同様に最少径限界近くでは加工に非常な時間を掛ける必要がある。
レーザー加工、または電子ビーム加工では、要求される微小孔の加工は可能であるが、加工を行うためには非常に高額な設備を必要とする。
【0007】
本発明は、金属製のノズルの先端部に微細な燃料噴射口を、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる燃料噴射インジェクタの製造方法およびノズル焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 型閉め後、形成しようとするノズルの形状に対応した射出成形用金型のキャビティにノズルの先端部に形成しようとする微細な燃料噴射口に応じた径、数量、位置および角度のスライドピンを射出成形用金型から突出させるピン挿入工程と、キャビティにバインダー添加粉末金属を加圧充填し、固化させ、ノズル成形体とする射出成形工程と、スライドピンを射出成形用金型に後退させるピン後退工程と、ノズル成形体を射出成形用金型から取り出し、焼結させスライドピンに対応した細長い管状空隙を備えたノズル焼結体を生成する焼成工程と、を有する燃料噴射インジェクタの製造方法。
【0009】
(1)の発明によれば、型閉め後、形成しようとするノズルの形状に対応した射出成形用金型のキャビティに、ノズルの先端部に形成しようとする微細な燃料噴射口に応じた径、数量、位置及び角度のスライドピンを射出成形用金型から突出させる。
【0010】
次に、射出成形用金型のキャビティにバインダー添加粉末金属を加圧充填し、固化させる射出成形を行う。これにより、キャビティ内の空間は、先ず射出成形用金型から突出しているスライドピンが配置されている細長い管状空間を除きバインダー添加粉末金属で満たされる。バインダー添加粉末金属は、キャビティ内の空間で固化し、ノズル成形体が形成される。ここで、射出成形用金型のキャビティに配置されたスライドピンはそのままノズル成形体の中に残されている。
【0011】
次に、スライドピンを射出成形用金型に後退させる。これにより、スライドピンに対応した細長い管状空隙を備えたノズル成形体が形成される。
【0012】
次に、ノズル成形体を射出成形用金型から取り出しバインダー除去した後、焼結させスライドピンに対応した細長い管状空隙を備えたノズル焼結体を生成する。これにより、ピン挿入工程で突出させたスライドピンに対応した細長い管状空隙を有するノズル焼結体が形成されるが、スライドピンはノズルの先端部に形成しようとする微細な燃料噴射口に応じた径、数量、位置及び角度に設定されているため、生成されたノズル焼結体は、ノズルの先端部に形成しようとした径、数量、位置及び角度を有する微細な燃料噴射口を備える。
【0013】
以上より、金属製のノズルの先端部に微細な燃料噴射口を、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる。
【0014】
(2) (1)に記載の燃料噴射インジェクタの製造方法において、細長い管状空隙を形成した後に、細長い管状空隙に対して、サンドブラスト、液体ホーニング、超音波バリ取り、粘性流体バリ取り、酸洗い、および化学研磨からなる表面処理または調整法のうち、少なくともいずれか一つを行う表面処理調整工程を更に有する燃料噴射インジェクタの製造方法。
【0015】
(2)の発明によれば、ノズル焼結体に形成された細長い管状空隙の焼結肌を機械加工により除去する必要がない。
【0016】
(3) (2)に記載の燃料噴射インジェクタの製造方法において、細長い管状空隙を形成した後に、細長い管状空隙に対して、コーティングを行う表面処理調整工程を更に有する燃料噴射インジェクタの製造方法。
【0017】
(3)の発明によれば、ノズル焼結体に形成された細長い管状空隙の焼結肌を機械加工により除去する必要がない。
【0018】
(4) (1)に記載の製造方法を用いて製造される燃料噴射インジェクタのノズル焼結体において、ノズル焼結体は、焼成される際に、スライドピンに対応した細長い成形体管状空隙から生成された燃料噴射口に対応する細長い管状空隙が形成されている燃料噴射インジェクタのノズル焼結体。
【0019】
(4)の発明によれば、ノズル成形体を焼成することによって、ノズル成形体に保持されているスライドピンに対応した細長い成形体管状空隙からノズル焼結体内に対応する細長い管状空隙を生成する。ここで、スライドピンはノズルの先端部に形成しようとする微細な燃料噴射口に応じた径、数量、位置及び角度に設定されており、生成されたノズル焼結体に形成される細長い管状空隙は、ノズルの先端部に形成しようとした径、数量、位置及び角度を有する微細な燃料噴射口となる。
【0020】
(5) (4)に記載の燃料噴射インジェクタのノズル焼結体において、燃料噴射口に対応する細長い管状空隙は、ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔である燃料噴射インジェクタのノズル焼結体。
【0021】
(5)の発明によれば、スライドピンの形状を、形成しようとする「ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔」に対応した形状にすることにより、燃料噴射口を「ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔」にできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、金属製のノズルの先端部に微細な燃料噴射口を、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る燃料噴射インジェクタの製造方法によって製造したノズルの要部を示す部分断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】前記実施形態に係る射出成形機の側面図である。
【図4】前記実施形態に係る射出成形用金型の要部を示す部分概要断面図である。
【図5】前記実施形態に係る型閉め工程を示す部分概要断面図である。
【図6】前記実施形態に係るピン挿入工程を示す部分概要断面図である。
【図7】前記実施形態に係る射出成形工程を示す部分概要断面図である。
【図8】前記実施形態に係るピン後退工程を示す部分概要断面図である。
【図9】前記実施形態に係る型開放工程を示す部分概要断面図である。
【図10】aは、前記実施形態に係るワーク分離工程を示す部分概要断面図であり、bは、ワークであるノズル成形体の先端側から見た正面図である。
【図11】aは、前記実施形態に係る焼成工程を示す部分概要断面図であり、bは、ワークであるノズル焼成体の先端側から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係る燃料噴射インジェクタの製造方法によって製造したノズル100を示す。このノズル100は、直噴式エンジン、直噴式ディーゼルエンジンに好適なものである。
【0025】
ノズル100は、ノズル外面100hおよびノズル内面100gを有するとともに、円筒状のノズル本体部100aと、ノズル本体部100aの先端に一体的に形成されたほぼ半球状又は円錐状の先端部100bとからなり、先端部100bには内部の中空部100nと連通する複数の燃料噴射口100cを有する。中空部100nは燃料流路となるとともに、その内部に針弁(図示せず)が挿入される。
【0026】
図1及び2に示すように、ノズル100は、先端部100bにおいて円周方向に等間隔に分布する6つの燃料噴射口100cを有する。各燃料噴射口100cの径、数量、位置及び角度は、燃焼室の形状、エンジンの諸元によりそれぞれ決定される。燃料噴射口100cの断面形状は真円でも良いが、燃焼効率の向上のために、矩形、星形、十字形、ひょうたん形等の異形状であってもよい。各燃料噴射口100cの出口端部には、ロート形状の座ぐり形状100dを設けるのが好ましい。
【0027】
各燃料噴射口100cの出口端部にロート形状の座ぐり形状100dを設け、ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔とすることにより、以下の利点がある。
すなわち、燃料噴射口の内径を微細化すると(Φ0.15mm以下)、運転時の燃料の燃焼の熱により、当該燃料噴射口から噴霧される燃料の一部が煤およびタールのいずれかに変質し、いわゆるカーボン・デポジットとして、それらのものが燃焼されずに燃料噴射口に堆積する。カーボン・デポジットは燃料噴射口を狭め、必要な燃料の流量が確保できない虞がある。ここで、ノズルの外側の方の内径を内側より内径の大きい段付き孔(例えば、外側の内径Φ3mm以上)とすると、変質された煤およびタールが、エンジン燃焼室内を対流してノズルの燃料噴射口に堆積しても燃料噴射口の開口は確保され、必要な燃料の流量が確保される。また、変質された煤およびタールが、ノズルの燃料噴射口に堆積または堆積しようとする際に、内側の内径の小さい部分から間欠噴射される燃料により吹き飛ばされて、燃料と共に燃焼される。
【0028】
また、燃料噴射口100c出口端部の形状は、ロート形状、すなわち、ノズル外側の大口径部と内側の小口径部とが傾斜内面で連結されている例を示したが、ノズル外側の大口径部と内側の小口径部とが直結されているものも同様の利点を有する。
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る燃料噴射インジェクタの製造方法について、ノズル100を製造するまでの工程につき図3乃至図11を参照しつつ説明する。
【0030】
ノズル100は、バインダー添加粉末金属M(図7参照)を射出成形によってノズル成形体W(図9、10参照)とし、次にノズル成形体Wを焼成によってノズル焼結体Xとすることによって製造される。
【0031】
先ず、射出成形によるノズル成形体Wの形成に原料として用いるバインダー添加粉末金属Mについて説明する。
粉末金属は、アトマイズ法(溶融金属を空気、不活性ガスなどのジェット流で破砕)、遠心力アトマイズ法(溶融金属を高速回転ディスクで破砕)、プラズマ・アトマイズ法回転電極法、機械的プロセス、化学的プロセスなどの方法から適宜選択して製造されたものが使用される。また、粉末金属は、必要に応じて複数の種類の粉末金属、又は異なる製法で製造した粉末金属を混合して調製してもよい。粉末金属の組成は、耐熱性を有する合金組成とするのが好ましく、具体的には構造用鋼、ステンレス鋼、工具鋼等の粉末合金、又は純Fe粉にNi粉末やC粉末を混合したもの、構造用鋼にC粉末を混合したもの等であってよい。また、粉末金属の平均粒径は、射出成形時の流動性や焼結時の高密度化、さらに燃料噴射口100cの形状の精密性等を考慮して、出来るだけ微細であるのが好ましい。
【0032】
粉末金属に添加されるバインダーは、射出成形性や脱脂性に優れたものであれば特に限定されず、公知の熱可塑性バインダーを使用することができる。熱可塑性バインダーに必要に応じて可塑剤や潤滑剤、界面活性剤、脱脂促進剤等を添加しても良い。熱可塑性バインダーは熱可塑性樹脂及び/又はワックスを主体としたものである。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアセタール、ABS樹脂等が挙げられる。またワックスとしては、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス等の天然ワックスや、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、低分子量ポリエチレン等の合成ワックスが挙げられる。これらのバインダーは2種以上混合して用いても良い。バインダー添加粉末金属Mは、良好な射出成形性を得るために金属粉末のタップ充填時の空隙量以上の量のバインダーを添加されているのが好ましい。
【0033】
バインダー添加粉末金属Mは、粉末金属とバインダーとをプラネタリーミキサーや加圧ニーダー等を用いて混練して調製する。得られたコンパウンドは、必要に応じてペレタイザーや粉砕機等で造粒し、ペレット化する。
【0034】
次に、射出成形によるノズル成形体Wの形成に用いる製造設備について説明する。
図3は、射出成形機50の側面図を示す。
射出成形機50は、脚部64に支持され、固定盤61、及び支持部材62を備えている。固定盤61、及び支持部材62の間には、お互いに平行に配列した4本の案内ロッド63が固定され、案内ロッド63には、可動盤60が摺動可能に配置されている。支持部材62には、型締め装置30の一端が支持されており、型締め装置30の他端は連結部材31を介して可動盤60に接続されている。この構成により、図示しない制御装置からの指示に従って型締め装置30を作動させることにより、可動盤60を案内ロッド63に沿ってスライドさせることができる。型締め装置30は、油圧駆動方式、電動サーボ機駆動方式のいずれであってもよい。また、連結部材31は、トグル機構を含んでいてよい。
【0035】
雄金型11および雌金型12は、雄金型11が可動盤60に、雌金型12が固定盤61にそれぞれ固定され、可動盤60および固定盤61の間に向かい合うように配置される。雌金型12および雄金型11は、両者で射出成形用金型Dを形成し、射出成形用金型Dは、型締め装置30の作動に基づく可動盤60の往復動により周期的な型閉め状態、および型開放状態が可能である。射出成形用金型Dは、型閉め状態のとき、雌金型12および雄金型11の組み合わせによってキャビティC(図4参照)を形成する。
【0036】
射出成形ユニット51は、固定盤61の雌金型12とは反対側に配置され、固定盤61の開口を介して雌金型12に接続されている。射出成形ユニット51は、型閉め状態の所定のタイミングに図示しない制御装置からの指示に従って、バインダーを添加された粉末金属をキャビティCに加圧充填できる。
【0037】
図4は、射出成形用金型Dの、要部を示す部分断面図である。
射出成形用金型Dは、ワークであるノズル成形体Wの外面を成形するための雌金型12と、ノズル成形体Wの内面を成形するための雄金型11とを有している。雌金型12と雄金型11を組み合わせることによって形成されるキャビティCの形状は、得ようとするノズル成形体Wの形状に対応している。すなわち、雌金型12のキャビティ面12sとノズル成形体Wの外面が正確に対応しており、雄金型11のキャビティ面11sとノズル成形体Wの内面が正確に対応している。ここで、ノズル成形体Wの外面およびノズル成形体Wの内面は、ノズル成形体Wに対する焼成工程における設計収縮分を考慮して設定されている。
【0038】
雄金型11は、雄金型基部11cと、雄金型基部11cから突出した雄金型柱状部11bとを有する。雄金型柱状部11bは、その先端に先端円錐面11aを有する。雄金型11のキャビティ面11sは、主に雄金型柱状部11bの側面および先端円錐面11aによって構成されている。
【0039】
雌金型12には、雌金型12の外部とキャビティCとを連通するゲート15が形成されている。ゲート15が雌金型12の外部に開口する箇所に、射出成形ユニット51のランナー17のノズル16が取り付けられている。ゲート15とノズル16とランナー17は、バインダー添加粉末金属Mの射出部を構成し、ランナー17が所定の圧力でバインダー添加粉末金属Mを押し出すことにより、バインダー添加粉末金属Mはゲート15からキャビティCに充填される。
【0040】
雌金型12は、スライドピン貫通孔12aと、スライドピン貫通孔12a内を摺動可能なスライドピン13とを備えている。スライドピン13は、電磁弁、油圧シリンダ等によって構成される駆動機構K1とリンクL1を介して連結されスライドピン13の軸方向に可動となっている。スライドピン13は、雌金型12から前進しスライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接するまで突出でき、逆に雌金型12に向かって後退しスライドピン13の先端面13aが雌金型12内に収納されるまで後退できるように構成されている。駆動機構K1は図示しない制御装置に接続されており、スライドピン13は、図示しない制御装置からの指示に従って突出および後退を制御される。
【0041】
スライドピン13は、雌金型12から前進しスライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接するとき、製造しようとするノズル100の複数の燃料噴射口100cに対応した径、数量、位置および角度に設定されている。このときのスライドピン13の径、数量、位置および角度は、ノズル成形体Wに対する焼成工程における設計収縮分を考慮して設定されている。
【0042】
燃料噴射口100cを「ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔」に形成しようとするときは、スライドピン13の形状を「ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔」に対応した形状にするだけで同様に形成できる。
【0043】
スライドピン13は、スライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接した後も、駆動機構K1による駆動力によって所定の圧力で継続的にスライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接する。
【0044】
また、スライドピン13にバネ(図示せず)により押圧力が付与されていて、スライドピン13は内側に押され、所定の圧力で継続的にスライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接するように構成されていてよい。この場合、駆動機構K1によってスライドピン13の突出および後退を行い、バネ(図示せず)によってスライドピン13の先端面13aを雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接させてもよい。
【0045】
スライドピン13によってノズル成形体Wに形成される各細孔の内側開口端部にバリが生じないようにするためには、スライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aと隙間なく当接しなければならない。そのためには先端円錐面11aにスライドピン13の軸に垂直な面を持つ、スライドピン13用の台座14を設けるのが好ましい。スライドピン13用の台座14には、スライドピン13の位置決めのために凹部を設けてもよい。
【0046】
ノズル100に設けようとする燃料噴射口100cの形状は、真円に限られず、楕円形、矩形、星形、十字形、ひょうたん形等の異形状であってもよい。この場合スライドピン13の断面形状を、設けようとする燃料噴射口100cの形状に対応して、楕円形、矩形、星形、十字形、ひょうたん形等の異形状に設定し、スライドピン13の周方向の取り付け角度を設定すればよい。
【0047】
また、雄金型11は、雄金型基部11のキャビティCに面した位置にエジェクタピン18を備える。エジェクタピン18は、その先端に先端部18aを有するとともに、電磁弁、油圧シリンダ等によって構成される駆動機構K2にリンクL2を介して連結され、雄金型柱状部11bの軸と略平行に可動となっている。駆動機構K2は図示しない制御装置に接続されており、エジェクタピン18は、図示しない制御装置からの指示に従ってキャビティC内に突出できる。
【0048】
次に、射出成形によるノズル成形体Wの形成の各工程について説明する。
【0049】
先ず、型閉め工程につき説明する。図5は、型閉め工程によって射出成形用金型Dが型閉め状態になったときを示す部分概要断面図である。
説明上、最初の状態として、射出成形用金型Dが型開放状態であるものとする(初期状態)。すなわち、可動盤60はその周期的な往復動の中で固定盤61と最も離れた位置にあり、雌金型12および雄金型11はお互いに十分離れており、雌金型12のキャビティ面12sおよび雄金型11のキャビティ面11sは、外部に面している。
型閉め工程では、この初期状態から、図示しない制御装置からの指示に従って型締め装置30を作動させることにより、可動盤60を案内ロッド63に沿って固定盤61に向かってスライドさせ、射出成形用金型Dの雌金型12および雄金型11が組み合わされた型閉め状態にする。図5は、型閉め工程によって射出成形用金型Dが型閉め状態になったときを示す。型閉め状態では、雌金型12および雄金型11は、それらの組み合わせによってキャビティCを形成する。
【0050】
型閉め工程では、スライドピン13は、後退した状態であり、雌金型12に収納されている。
【0051】
次に、ピン挿入工程につき説明する。図6は、ピン挿入工程によってスライドピン13が突出した状態を示す部分概要断面図である。
スライドピン13は、図示しない制御装置からの指示に従って、駆動機構K1によってリンクL1を介して駆動され、雌金型12から突出しスライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接するまで前進する。スライドピン13は、スライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接した後も、所定の圧力で継続的にスライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接し、設定された位置を保持する。
【0052】
次に、射出成型工程につき説明する。図7は、射出成形工程を示す部分概要断面図である。
射出成形ユニット51は、スライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接した後、図示しない制御装置からの所定のタイミングの指示に従って、バインダー添加粉末金属MをキャビティCに加圧充填する。具体的には、ランナー17が所定の圧力(射出圧力)でバインダー添加粉末金属Mを射出すると、バインダー添加粉末金属Mはゲート15からキャビティCに充填されていく。これにより、キャビティC内の空間は、先ず射出成形用金型の雌金型12から突出しているスライドピン13が配置されている細長い管状空間を除きバインダー添加粉末金属Mで満たされる。
【0053】
バインダー添加粉末金属MをキャビティCに充填し終えると、ランナー17の射出圧を射出圧力より低い所定の圧力(保持圧力)に降下させ、所定の時間バインダー添加粉末金属Mを保持圧力に保持する。保持圧力は、キャビティCに充填されたバインダー添加粉末金属Mの冷却および凝固に伴う収縮によってバインダー添加粉末金属Mが雌金型12のキャビティ面12sおよび雄金型11のキャビティ面11sから剥離することを防ぐものである。
【0054】
バインダー添加粉末金属Mは、キャビティ内の空間で冷却によって固化し、ノズル成形体Wが形成される。ただし、この段階では、雌金型12から突出し射出成形用金型DのキャビティCに配置されたスライドピン13は、そのままノズル形成体Wの中に残されている。
【0055】
次に、ピン後退工程につき説明する。図8は、ピン後退工程によってスライドピン13が後退した状態を示す部分概要断面図である。
この工程では、図示しない制御装置からの指示に従って、スライドピン13は、駆動機構K1によってリンクL1を介して駆動され、スライドピン13の先端面13aが雄金型柱状部11bの先端円錐面11aに当接した状態から雌金型12に向かって後退し、雌金型12内に収納される。これにより、それぞれのスライドピン13に対応した複数の細長い成形体管状空隙98cを備えたノズル成形体Wが、雌金型12および雄金型11の組み合わせによって形成されたキャビティCの内部に形成される。
【0056】
次に、型開放工程につき説明する。図9は、型開放工程によって射出成形用金型Dが型開放状態になったときを示す部分概要断面図である。
型開放工程では、ノズル成形体Wが雌金型12および雄金型11の組み合わせによって形成されたキャビティCの内部に形成された状態から、図示しない制御装置からの指示に従って型締め装置30を作動させることにより、可動盤60を案内ロッド63に沿って固定盤61から遠ざかるようにスライドさせ、雌金型12および雄金型11を開放する。このとき、ノズル成形体Wは、雄金型11の雄金型柱状部11bおよび先端円錐面11aに密着しており、雄金型11の移動に伴い、雌金型12から分離される。ノズル成形体Wに形成されたスライドピン13に対応した細長い成形体管状空隙98cは、ノズル成形体W内に保持される。
【0057】
次に、ワーク分離工程につき説明する。図10(a)は、ワーク分離工程によって射出成形用金型Dからワークを分離する状態を示す部分概要断面図であり、図10(b)は、ワークであるノズル成形体の先端側から見た正面図である。
型開放工程の後、雄金型11の雄金型基部11のキャビティCに面した位置に配置されたエジェクタピン18は、図示しない制御装置からの指示に従って駆動機構K2によってリンクL2を介して駆動され、雄金型柱状部11bの軸と略平行にキャビティC内に突出する。エジェクタピン18がキャビティC内に突出すると、エジェクタピン18の先端の先端部18aは、雄金型11の雄金型柱状部11bおよび先端円錐面11aに密着しているノズル成形体Wを雄金型柱状部11bの軸と平行に押して、ノズル成形体Wを雄金型11から分離する。
【0058】
ノズル成形体Wに形成された細長い成形体管状空隙98cは、ノズル成形体Wが射出成形用金型Dから分離されてもノズル成形体W内に保持されている。尚、ノズル成形体Wが分離されると、射出成形用金型Dは初期状態に戻り、次のノズル成形体Wの形成サイクルに備えた状態になる。
【0059】
次に、焼成工程につき説明する。射出成形用金型Dから取り出したノズル成形体Wは、ゲート15に対応して形成されたその先端の突起部を除去された後、焼成装置20を用いて焼成される。焼成装置20は、SiC発熱体を用いたメッシュベルト焼成炉などを用いることができる。焼成工程は、真空、不活性ガスまたは還元性ガスの雰囲気中で行う。焼成温度は、1250K乃至1650Kであるのが好ましく、また焼成雰囲気の圧力は、常圧、減圧、または加圧のいずれでもよい。
【0060】
ノズル成形体Wを焼成することによって、ノズル成形体Wを形成するバインダー添加粉末金属Mを焼結させ、ノズル成形体Wに保持されているスライドピン13に対応した細長い成形体管状空隙98cからノズル焼結体X内に対応する細長い管状空隙99cを生成する。ここで、スライドピン13はノズル100の先端部100bに形成しようとする微細な燃料噴射口100cに応じた径、数量、位置及び角度に設定され、しかもスライドピン13の径、数量、位置および角度は、ノズル成形体Wからノズル焼結体Xを生成する焼成工程における設計収縮分を考慮して設定されているため、生成されたノズル焼結体Xに形成される細長い管状空隙99cは、ノズル100の先端部100bに形成しようとした径、数量、位置及び角度を有する微細な燃料噴射口100cとなっている。
【0061】
射出成形用金型Dから取り出したノズル成形体Wに対して、焼成工程を行う前に、バインダーを除去する脱脂工程を設けてもよい。脱脂方法としては、ノズル成形体Wを加熱しバインダーを加熱分解またはガス化する方法や、有機溶媒を用いてバインダーの一部を溶出除去する一次脱脂工程の後、残りのバインダーを加熱分解する二次脱脂工程を行う方法などが挙げられる。バインダーは750K乃至900Kの温度でほぼ100%除去されるので、脱脂温度を750K乃至900Kとすれば良い。
【0062】
脱脂工程と焼成工程は、例えば前段を750K乃至900Kに設定し、後段を1250K乃至1650Kに設定した一つの炉で行ってもよく、また別の炉で行ってもよい。
【0063】
最後に、形状調整工程につき説明する。
焼成工程によって生成されたノズル焼結体Xに対して、機械加工によりノズル内面100gの形状調整(例えば、ネジ生成)、先端部100bの周辺部分の形状調整を行ってよい。ノズル焼結体Xに形成された細長い管状空隙99cは、実質的に焼結肌のままで燃料噴射口100cとして用いることができ、機械的後加工を必要としない。尚、必要に応じて、生成されたノズル焼結体Xに対して各種公知の表面処理又は調整を行っても良い。このような表面処理または調整法として、サンドブラスト、液体ホーニング、超音波バリ取り、粘性流体バリ取り、酸洗い又は化学研磨等が挙げられる。表面処理又は調整により、細長い管状空隙99cの肌が洗浄されたりコーティングされたりすることがあるが、その焼結肌を機械加工により除去する必要はない。
【0064】
以上より、金属製のノズル100の先端部100bに微細な燃料噴射口100cを、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる。
【0065】
図1、図2、図10で示した燃料噴射口100c出口端部の形状がロート形状、すなわち、ノズル外側の大口径部と内側の小口径部とが傾斜内面で連結されている段付き孔であっても、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる。
また、燃料噴射口100c出口端部の形状がノズル外側の大口径部と内側の小口径部とが直結されているものも同様に、高額な設備を必要とすることなく、短時間で確実に形成できる。
【0066】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0067】
13 スライドピン
98c 細長い成形体管状空隙
99c 細長い管状空隙
100 ノズル
100b 先端部
100c 燃料噴射口
C キャビティ
D 射出成形用金型
M バインダー添加粉末金属
W ノズル成形体
X ノズル焼結体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型閉め後、形成しようとするノズルの形状に対応した射出成形用金型のキャビティに、前記ノズルの先端部に形成しようとする微細な燃料噴射口に応じた径、数量、位置および角度のスライドピンを前記射出成形用金型から突出させるピン挿入工程と、
前記キャビティにバインダー添加粉末金属を加圧充填し、固化させ、ノズル成形体とする射出成形工程と、
前記スライドピンを前記射出成形用金型に後退させるピン後退工程と、
前記ノズル成形体を前記射出成形用金型から取り出し、焼結させ前記スライドピンに対応した細長い管状空隙を備えたノズル焼結体を生成する焼成工程と、
を有する燃料噴射インジェクタの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射インジェクタの製造方法において、
前記細長い管状空隙を形成した後に、前記細長い管状空隙に対して、サンドブラスト、液体ホーニング、超音波バリ取り、粘性流体バリ取り、酸洗い、および化学研磨からなる表面処理または調整法のうち、少なくともいずれか一つを行う表面処理調整工程を更に有する燃料噴射インジェクタの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料噴射インジェクタの製造方法において、
前記細長い管状空隙を形成した後に、前記細長い管状空隙に対して、コーティングを行う表面処理調整工程を更に有する燃料噴射インジェクタの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法を用いて製造される燃料噴射インジェクタのノズル焼結体において、
前記ノズル焼結体は、焼成される際に、前記スライドピンに対応した細長い成形体管状空隙から生成された燃料噴射口に対応する細長い管状空隙が形成されている燃料噴射インジェクタのノズル焼結体。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料噴射インジェクタのノズル焼結体において、
前記燃料噴射口に対応する細長い管状空隙は、ノズルの外側の方が内側より内径の大きい段付き孔である燃料噴射インジェクタのノズル焼結体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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