説明

燃料極基板用グリーンシートの製造方法

【課題】
厚みむらが小さい厚膜燃料極基板用グリーンシートを効率的に製造する方法、およびASC製造に好適な燃料極基板用グリーンシートを提供することにある。
【解決手段】
多孔質燃料極基板を構造体とし、酸素イオン伝導体からなる緻密質固体電解質と多孔質空気極で構成された燃料極支持型固体酸化物形燃料電池セルの燃料極基板用グリーンシートの製造方法において、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末、酸化ニッケル粉末、および樹脂球状微粒子を主成分とする混練物を押出成形することを特徴とする燃料極基板用グリーンシートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池(以下、SOFCと記載する)の燃料極支持型セル(以下、ASCと記載する)に用いられる燃料極基板用グリーンシートの製造方法および当該製造方法によって得られる燃料極基板用グリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池はクリーンエネルギー源として注目されており、その用途は家庭用発電から業務用発電、更には自動車用発電などを主体にして急速に改良研究および実用化研究が進められている。
【0003】
SOFCの代表的な構造は、電解質シートの片面側にアノード電極、他方面側にカソード電極を設けた電解質型セル(以下、ESCと記載する)を縦方向に多数積層したスタックが基本であり、燃料電池の発電性能を高めるには、電解質シートを緻密且つ薄肉化することが有効とされている。ちなみに電解質シートには、優れたイオン導電性とともに、発電源となる燃料ガスと空気の混合を確実に阻止する緻密性と、導電抵抗を極力抑えるために極力薄肉であることが求められるからである。しかもSOFCは、前述の如くアノード電極/固体電解質/カソード電極を有するセルと、燃料ガスと空気を分離・流通させるためのセパレータとを交互に多数積層した構造のもので、電解質シートには大きな積層荷重がかかる他、作動温度は700〜1000℃程度で相当の熱ストレスを受けるので、高レベルの強度と耐熱性が要求される。
【0004】
この様な要求特性から、SOFC用固体電解質の素材としては主としてジルコニア主体のセラミックシートが使用されており、該シートの両面にスクリーン印刷などによってアノード電極とカソード電極を形成したESCが使用されている。
【0005】
本発明者らは、こうしたSOFC用電解質についてかねてより研究を進めており、積層荷重や熱ストレスに耐える物性と形状特性(ウネリや反り、バリなどの低減とそれに伴う局部応力による割れ防止)を確保しつつ、導電抵抗を低減するため極力薄肉化し、更には電極印刷の均一性と密着性を高めるため表面粗さを適正化する方向で研究を進め、先に特許文献1,2,3などに開示の技術を提案した。
【0006】
これらの技術で、固体電解質を大幅に薄肉且つ緻密化し得ると共に、形状特性の改善、即ちウネリ、反り、バリなどの低減により、セルを積層したときの耐積層荷重強度や耐熱ストレス性、更には電極印刷の密着性や均質性も大幅に改善することができた。
【0007】
本発明者らはその後もSOFCの性能向上を期して研究を進めており、先に、ESC用電解質として用いるセラミックシートの改良に代えて、ESC用の酸化ニッケルと安定化ジルコニアを含有するアノード支持基板として利用可能な多孔質セラミックシートとその製法、並びに当該製法に用いるセッターを開示した(特許文献4)。ちなみにESC用電解質は、薄肉化するほど積層荷重によって割れを起こし易くなるため、薄肉化するにしても自ずと限界があり、導電抵抗の低減にも限界があるからである。
【0008】
他方、薄肉の電解質とするためには、実用に叶う構造強度のセルを得る手段として、電解質を支持するアノード支持基板が主たる構造体として配置されるASCがある。しかし、この支持基板は、通電のための導電性を有すると共に、前記電解質シートとは異なり発電源となる燃料ガスと空気、或は燃料の酸化によって生成する排ガス(炭酸ガスや水蒸気など)を通過・拡散させ得るよう多孔質のセラミック材によって構成されるが、導電性の点に加えて、多孔質形状であることに起因する耐クラック性や耐衝撃性に対して特許文献5,6,7などに開示の技術を提案した。
【0009】
しかしながら、アノード支持基板が薄い場合は、薄肉の電解質膜を支持するための基板としては強度的に十分とは言えず、厚膜、たとえば厚さを0.5mm以上にする必要があるが、ドクターブレード法で厚膜の燃料極基板用グリーンシートを製造すると厚みむらが大きくなり、当該燃料極基板用グリーンシートや、これが焼成された燃料極基板に形成される電解質膜にも厚みむらや反りが生じる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−281438号公報
【特許文献2】特開2001−89252号公報
【特許文献3】特開2001−10866号公報
【特許文献4】再公表特許WO99/59936号公報
【特許文献5】特開2004−296093号公報
【特許文献6】特開2005−327511号公報
【特許文献7】特開2005−327512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、厚みむらが小さい厚膜燃料極基板用グリーンシートを効率的に製造する方法、およびASC製造に好適な燃料極基板用グリーンシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできた本発明にかかる燃料極支持型固体酸化物形燃料電池セルの燃料極基板用グリーンシートの製造方法において、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末、酸化ニッケル粉末、バインダーおよび樹脂球状微粒子を含む混練物を押出成形するところに要旨が存在する。
【0013】
上記製造方法において、当該球状微粒子が、平均粒子径が0.5μm以上12μm以下のポリメタクリル酸メチル系架橋物粒子であり、前記混練物中の球状微粒子が3〜30質量%含まれることが好ましく、前記記安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末が、平均粒子径が3μm以上30μm以下の粗粒子と平均粒子径が0.1μm以上1.0μm以下の微粒子の2種の粒子であるようにすればよい。
【0014】
さらに、上記製造方法において、前記混練物の粘度が、80〜130℃の範囲で500〜20000Pa・sであり、前記混練物を、0.1〜3.0m/分の速度で押出成形すればよい。
【0015】
また、本発明に係る燃料極基板用グリーンシートは、上述した方法により製造されたものであり、厚さが0.5〜2.0mmで、且つ任意の100cmの領域における厚みむらが3%以内の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の押出成形による燃料極基板用グリーンシートは、厚みむらが少ないので焼成後も反りやうねりの発生が少ない燃料極基板となり、当該燃料極基板の上の電解質膜も均一な厚み薄膜が形成できる。その結果、電解質通電抵抗も全面にわたって均一となり、良好な発電性能のASCとすることが可能になる。
【0017】
また、本発明の燃料極基板用グリーンシートの製造方法は、厚膜、好ましくは0.5mm以上の厚さでも厚みむらが非常に小さいグリーンシートを簡便かつ効率的に製造できるSOFCシステムのコスト低減に寄与できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、多孔質燃料極基板を構造体とし、酸素イオン伝導体からなる緻密質固体電解質と多孔質空気極で構成された燃料極支持型固体酸化物形燃料電池セルの燃料極基板用グリーンシートの製造方法において、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末、酸化ニッケル粉末、バインダーおよび樹脂球状微粒子を含む混練物を押出成形することを特徴とする。
【0019】
本発明の混練物は、燃料極基板構成素材である安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末と酸化ニッケル粉末の他に、押出成形時に混練物が金型口からシート状に押出されるときの抵抗を減らして厚みふれを低減するためのすべり材として樹脂球状微粒子を含む。
【0020】
前記樹脂球状微粒子は、混練物中では均一に分散し、押出成形中はすべり効果を発揮し、得られた燃料極基板用グリーンシートの脱バインダー中は速やかに熱分解、焼失されるものであれば特に限定されず、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物、ベンゾグアナミン・メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物、ポリメタクリル酸メチル系架橋物、ポリメタクリル酸ブチル系架橋物、ポリアクリル酸エステル系架橋物、ポリスチレン系架橋物、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合架橋物などからなる球状微粒子が選択されるが、熱分解性の観点から、ポリメタクリル酸メチル系架橋物、ポリメタクリル酸ブチル系架橋物、ポリアクリル酸エステル系架橋物が好ましく、ポリメタクリル酸メチル系架橋物が特に好ましく、これらはグリーンシート成形時にすべり材とともに燃料極基板の気孔形成としての機能も有する。
【0021】
熱分解を効率よく行なわせるため、前記樹脂球状微粒子は解重合性の樹脂であって、その熱分解温度は、100〜500℃が好ましく、より好ましくは150〜400℃である。ガラス転位温度も混練物中での均一分散性から40〜200℃が好ましくは、より好ましくは80〜150℃である。
【0022】
前記樹脂球状微粒子は、すべり材としての機能を有するには球状であることが必須であり、真球状が特に好ましい。
【0023】
また、すべり材としてはその平均粒子径は特に制限されず0.1μm以上、12μm以下のものが使用可能であるが、すべり効果としての好ましい平均粒子径は0.5μm以上5.0μm以下であり、さらに好ましく1.0μm以上3.0μm以下である。平均粒子径が0.1μm未満ではすべり効果が十分でなく燃料極基板用グリーンシート厚みふれが大きくなり、平均粒子径が12μmを超えると、すべり効果は発揮されるものの球状微粒子が混練物中で均一に分散されにくくなり、得られる燃料極基板中の気孔が偏在する問題があるからである。
【0024】
前記樹脂球状微粒子の分散の度合いは、粒度分布がシャープな方が形成する気孔が揃うため均質なセラミックシートが得られる傾向となり好ましい。粒度分布のシャープさを表す指標として変動係数(標準偏差を平均値で割った数を百分率で表したもの)で示すと、1〜20%が好ましく、1〜15%がより好ましく、1〜10%がさらに好ましい。
【0025】
また、球状微粒子のかさ密度、真密度も混練中への分散性に係わり、かさ密度が0.1〜0.8、真密度が1.1〜1.5のものが好ましい。かさ密度が0.1未満で真密度が1.1未満のものは混練物中で上部の方に偏在しやすく、かさ密度が0.8を超え真密度が1.5を超えるものは混練物へのなじみが不十分となり分散性が悪くなる。より好ましくは、かさ密度が0.15〜0.6、真密度が1.15〜1.45である。
【0026】
さらに、前記混練物中に球状微粒子が3〜30質量%含まれるときにすべり材としての効果が効率的に発揮される。好ましくは、5質量%以上、25質量%以下である。
【0027】
安定化ジルコニア粉末としては、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム等で安定化されたジルコニア粉末が用いられる。好ましくは、4〜12モル%の酸化スカンジウムで安定化されたジルコニア、3〜10モル%の酸化イットリウムで安定化されたジルコニア、4〜15モル%の酸化イッテルビウムで安定化されたジルコニア粉末であり、具体的には、11モル%スカンジア安定化ジルコニア(11ScSZ)粉末、10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア(10Sc1CeSZ)粉末、8モル%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)粉末を用いることが酸素イオン導電率などの観点から好ましい。さらに、これらの安定化ジルコニアへアルミナ、シリカ、チタニアなどを分散強化剤として添加した粉末も好適に用いることができる。
【0028】
また、ドープセリア粉末としては、10〜30モル%のイットリア、サマリア、ガドリニア等でドープされたセリア粉末が用いられる。具体的には、30モル%サマリアドープセリア(30SDC)粉末や20モル%ガドリニアドープセリア(20GDC)粉末を用いることが、電子導電率と酸素イオン導電率の観点から好ましい。
【0029】
上記安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末は、酸化ニッケル粉末とともに還元雰囲気で熱処理されてサーメットを形成するが、サーメットに安定した気孔を形成するために、平均粒子径が3.0μm以上30μm以下の粗粒子と平均粒子径が0.1μm以上1.0μm以下の微粒子の2種の粒子からなる。より好ましくは平均粒子径が4μm以上25μ以下、さらに好ましくは5μm以上20μm以下の粗粒子と、平均粒子径が0.2μm以上0.8μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上0.6μm以下の微粒子である。
【0030】
また、酸化ニッケル粉末は、酸化ニッケル粉末でも金属ニッケル粉末でもよく、さらにその一部に鉄、コバルトの成分が含まれていてもよい。前記酸化ニッケル粉末の平均粒子径は0.3μm以上3.0μm以下、好ましくは、0.5μ以上2.5μ以下の範囲内となるように粒度構成が調整されたものを用いれば良い。
【0031】
上記平均粒子径は、用いた粉末が市販のものであれば、カタログ値であってもよい。カタログ等から明らかでない場合には、画像解析法などにより決定すればよい。例えば本発明では、超深度カラー3D形状測定レーザー光顕微鏡(キーエンス製、商品名「VK−9500」)を用いて粒子画像を取り込み、これを印刷して印刷された粒子をノギスで計測し、その平均値を算出すればよい。
【0032】
本発明の混練物は上記粉末と樹脂球状微粒子以外に、バインダー、可塑剤を含み、必要に応じて潤滑剤を含み、混練物の粘度が、80〜130℃の範囲で500〜20000Pa・sになるようにその組成や添加量が調整される。
【0033】
本発明混練物でバインダーとして用いるものは、成形性や強度、特に押出成形におけるグリーンシート成膜性に優れたものが好ましい。例えばポリビニルアセタール樹脂が好適である。ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールの水酸基の一部または大部分がアセタール化されているものであり、例えば、ポリビニルアルコールにアセトアルデヒドを反応させたポリビニルアセトアセタール、ポリビニルアルコールにブチルアルデヒドを反応させたポリビニルブチラール等を挙げることができる。ポリビニルアセタール樹脂は、押出成形におけるグリーンシート成膜性に優れる上に、強度が高いことから、本発明において好適に用いられるものである。そのアセタール化度は、値が高いほど成形体の柔軟性や可塑性が高まることから65モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましい。一方、上限は特にないが、ポリビニルアルコールを完全にブチラール化することはできず、最高でも81.6%といわれている。
【0034】
本発明で用いるポリビニルアセタール樹脂としては、その重合度が350〜2000程度のものを用いることが好ましい。重合度が350未満のものは粘性が低く上記安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末と酸化ニッケル粉末との混合には好ましいが、グリーンシート強度が十分でなくなるおそれがあるからである。一方、2000を超えるとグリーンシート強度は高くなるが、粘性が高いために上記粉末との混合分散性が悪くなり、均質な厚さと気孔を有するグリーンシートが得られ難くなる場合があるからである。斯かる観点から、当該重合度は450以上がより好ましく、500以上がさらに好ましく、また、1700以下がより好ましく、1500以下がさらに好ましい。
【0035】
ポリビニルアセタール樹脂の配合量は、上記粉末の合計100質量部に対して5〜30質量部とする。5質量部未満であると、十分なバインダー効果を示せず押出成形性が不十分で強度が確保できない場合があるからであり、一方、30質量部を超えると、かえって成形性が悪くなると共にグリーンシートを焼成した燃料極基板を得る際に反りやうねりを生じ、歩留が低下するおそれがあるからである。斯かる観点から、当該配合量は8質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、また、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明で用いるバインダーは、本発明の効果を発揮できる範囲で他の樹脂を含んでいてもよい。その他の使用可能なバインダーとしては、熱可塑性樹脂でグリーンシートの形状を保持できるものであればよく、例えば(メタ)アクリレート系共重合体樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリアミド樹脂を挙げることができる。
【0037】
本発明混練物に添加する可塑剤としては、例えば、低分子可塑剤、コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤がある。低分子可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチルやフタル酸ジオクチルなどのフタル酸エステル類を挙げることができる。
【0038】
コオリゴマー可塑剤および高分子可塑剤としてはポリエステル類が挙げられ、特に下記一般式(1)で表される化合物が好適である。
R−(A−G)n−A−R ・・・ (1)
[式中、Aは二塩基酸残基を示し、Rは一価アルコール残基を示し、Gはグリコール残基を示し、nは重合度を示す]。
【0039】
ここで、ニ塩基酸としては、フタル酸、アジピン酸、セバチンなどを挙げられる。一価アルコールとしては、メタノール、プロバノール、ブタノール、ネオペンチルアルコール、トリデシルアルコール、イソノニルアルコール、2−エチルヘキシルアルコールなどが挙げられる。グリコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール類;ジエチレングリコールなどのグリコールエーテル類;ポリエチレングリコール誘導体などが挙げられる。重合度は、可塑剤の数平均分子量が500以上8000以下となるように調整するのが好ましい。
【0040】
可塑剤の配合量は、使用するバインダーのガラス転位温度にもよるが、前記粉末の合計100質量部に対して1質量部以上20質量部以下とすることが好ましい。当該割合が1質量部未満であると、十分な可塑効果が発揮されない場合があるからであり、一方、20質量部を超えると、かえって可塑性が強くなり過ぎ、また、焼成時の熱分解に悪影響を及ぼし得るからである。さらに好ましくは2質量部以上、15質量部以下であり、特に好ましくは3質量部以上、10質量部以下である。
【0041】
本発明混練物はバインダーを溶融することができる40〜200℃程度の温度で加熱混練するが、通常用いられている可塑剤である低分子可塑剤は加熱混練時に揮発することによりその作用効果を発揮できないおそれがある。その結果、グリーンシートの可撓性や柔軟性が低下する場合がある。一方、上記高分子可塑剤は揮発性が低いため、燃料極基板用グリーンシートの可撓性等を確保することができる。
【0042】
特に好適な可塑剤として用いるポリエステル類としては、例えば、分子量が1000〜2000のフタル酸系ポリエステル、分子量が1000〜4000のアジピン酸系ポリエステル、およびこれらの混合物である。特に、粘度が800〜1000mPa・s(25℃)程度のフタル酸系ポリエステルと、粘度が200〜520mPa・s(25℃)程度のアジピン酸系ポリエステルが、前記粉末との混練物を調製する際に攪拌適合性が良好であり、ドライブレンドに適している。
【0043】
本発明混練物へは、上記粉末、樹脂球状微粒子、バインダー、可塑剤の他に、セラミックグリーンシートへ配合される一般的な添加剤を配合してもよい。例えば、上記粉末間の摩擦を少なくして混練物の流動性を高める作用のある潤滑剤;バインダーとセラミック粒子との濡れ性を向上させるカップリング剤や界面活性剤、溶媒、気孔形成材などである。
【0044】
潤滑剤としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリグリセリン脂肪酸エステル系ワックス等のワックス類;ステアリン酸メチル、ステアリン酸アミド、ステアリルアミド、ステアリン酸ジルコニウム等のステアリン酸化合物;ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリル酸等の高級脂肪酸;ステアリルアミド等のこれら脂肪酸のアミド;ステアリン酸メチル等のこれら脂肪酸のエステル;ステアリン酸ジルコニウム等のこれら脂肪酸の金属塩;ステアリルアルコール等の高級脂肪族アルコール; 上記脂肪酸と多価アルコールとの部分エステル;多価アルコールなどを挙げることができ、これらから1種を選択するか、2種以上を選択し混合して用いることができる。
【0045】
また、本発明の混練物は溶媒を含んでもよいが、実質的に溶媒を含まないことが好ましい。混練物に溶媒を含まない場合は、押出成形によって成形されたグリーンシート中の溶媒を蒸発・飛散させる乾燥工程が不要となって生産性が向上するとともに、特に、厚膜グリーンシートの場合には、グリーンシート内の上面側と下面側の密度が均一になり焼成後の反り発生を抑制することができる。なお、「実質的に溶媒を含まない」とは、バインダー等に不可避的に含まれる溶媒は含んでいてもよいとの意であり、別途、溶媒を添加しないとの意味である。
【0046】
本発明の混練物は、上記各成分を所定量配合し公知の方法で混練して調製する。例えば、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサー等の混合機で混練して、或いはさらに連続ニーダーや3本ロールミル等の混練機で混練することによって、バインダーを溶融しながら前記粉末を分散する。混練の場合にドライブレンドすることが溶媒を実質的に用いない本発明においては好ましく、この場合、一般的にはバインダーのガラス転移温度以上の温度に混練層内を加温しつつ粘度調整する。また、混練後に、いったん粉状、粒状またはペレット状に加工・冷却した混練成形物としてもよい。
【0047】
このようにして得られた混練物あるいは混練成形物を、そのまま喰い込みローラーのある投入口から投入し、シリンダー内から押出成形金型の間を加熱できるスクリュー式やピストン式の押出成形機で加熱押出し、所望の形状に成形してグリーンシートとする。
【0048】
混練物の粘度は、80〜120℃の範囲で500〜20000Pa・sに調整される。ここで、本発明における粘度の数値は、島津製作所製フローテスター(CFT−500C)を用い、穴直径1mmおよび長さ1mmのダイに混練物を充填して、押出成形で設定しようとする温度(押出温度=測定温度)まで昇温したのち、0.98MPaの圧力を加えてフローレートを測定した結果から、下記式(2)を用いて計算した見かけ粘度である。
η(Pa・s)=πDP×10−3/128LQ ・・・(2)
〔式中、ηは見かけ粘度、Dはダイ穴直径(mm)、Pは試験圧力(Pa)、Lはダイ長さ(mm)であり、Qはフローレート(cm/s)である〕。
【0049】
このような条件で定められた混練物の粘度範囲が500Pa・s以上20000Pa・s以下となるような押出温度に設定することにより良好な流動特性で混練物を押出成形することができ、製造されるグリーンシートの厚さふれが3%以下の範囲に抑えることができる。粘度が20000Pa・sを超えるような押出温度では、バインダーが充分に可塑化していない状態が発生し、可塑化したバインダーと可塑化していないバインダーとが混在するため、押出成形機中でバインダーの含有率に差が生じ、前記粉末の均一混合性に悪影響を及ぼす。また、押出直後のグリーンシートが硬すぎて、ひび割れ等が生じやすくなる。
【0050】
逆に、粘度が500Pa・s未満となるような押出温度では、バインダーが熱分解しやすくなり、熱分解したバインダーと熱分解していないバインダーが混在するため、押出成形機中でバインダーの含有率に差が生じ、前記粉末の均一混合性に悪影響を及ぼす。また、押出直後のグリーンシートが軟らかすぎて、しわ等が生じやすくなる。
【0051】
押出温度を定めるための粘度範囲の好ましい下限は600Pa・sであり、より好ましくは800Pa・s以上である。好ましい上限は18000Pa・sであり、より好ましくは15000Pa・s以下である。
【0052】
押出温度範囲の好ましい下限は85℃であり、より好ましくは90℃以上である。好ましい上限は125℃であり、より好ましくは120℃以下である。
【0053】
本発明の方法では、通常0.1〜3.0m/分の押出速度で、前記混練物を押出成形する。好ましい押出速度の下限は0.2min/分であり、より好ましくは0.3min/分以上である。好ましい上限は2.5m/分であり、より好ましくは2.0m/分以下である。
【0054】
上記押出速度で押出成形機から得られたグリーンシートは、引き取り装置により室温で連続的に引き取るか、必要に応じて30〜100℃のベルト式乾燥機、熱風乾燥機、マイクロウェーブ乾燥機などで乾燥する。
【0055】
本発明の押出成形により製造される燃料極基板用グリーンシートは、厚さが0.2〜3.0mmのものが製造できるが、特に、厚さが0.5〜2.0mmの厚膜であり、且つ任意の100cmの領域における厚みむらが3%以内の範囲である非常に均一な厚みのグリーンシートである。当該グリーンシートを焼成することによって、厚さが略0.15〜2.7mmの燃料極基板が得られ、当該基板の100cmの領域における厚みむらが3%以内の範囲である非常に均一な厚みの燃料極基板となる。なお、本発明では、燃料極基板用グリーンシートの厚みむらは、100cm領域に1cm升目になるような位置で、マイクロメータで各位置の厚さを測定し、平均厚み(各測定値の平均値:M)、最大厚み(各測定値の中の最大値:X)、最小厚み(各測定値の中の最小値:Y)から、下記式(3)と(4)を用いて厚みむらを算出した値のいずれか大きい数値をとった。
(X−M)/M×100 ・・・ (3)
(M−Y)/M×100 ・・・ (4)
例えば、10cm角の正方形グリーンシートでは81箇所で厚さを測定したものである。
【0056】
得られたグリーンシートは、所定の形状に切断された後、バインダー、球状微粒子や可塑剤などの有機成分を除去するために150〜600℃、好ましくは250〜500℃で2〜24時間程度処理する。次いで、1000〜1500℃、好ましくは1200〜1400℃で1〜5時間焼成することによって、燃料極基板を得る。あるいは、当該燃料極基板用グリーンシートに、電解質層や燃料極層のグリーンシートを重ねてプレスして、あるいは電解質層や燃料極層のペーストを当該グリーンシートに塗布して、燃料極基板グリーンシートと電解質層や燃料極層の積層体を共焼結して燃料極基板を得る。
【0057】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0058】
実施例1
8モル%安定化ジルコニア粉末(第一稀元素製、HSY−8、平均粒子径:0.5μm)30質量部と酸化ニッケル粉末70質量部(平均粒子径1.8μm)との合計100質量部に対して、バインダーとしてアセタール化度が77%のポリビニルアセタール樹脂(積水化学製、エスレックBL−SH、重合度:350)15質量部、すべり材としてポリメタクリル酸メチル系架橋物球状微粒子(日本触媒製、商品名「エポスターMA1002」平均粒子径:2.5μm、真密度:1.2、かさ密度:0.2、分解温度=270〜290℃)10質量部、可塑剤としてアジピン酸系ポリエステル(大日本インキ製、ポリサイザーW−320)を8質量部、さらに潤滑剤としてパラフィンワックス4質量部の割合で、120℃に加温したオイルジェケット付のスクリュー式混練機に投入し、120℃に保持したまま1時間混練して、押出成形用混練物を得た。120℃での混練物の粘度は13000Pa・sであった。
【0059】
得られた押出成形用混練物を形状が幅200mm、厚さ1.2mmの金型を取り付けた混練−真空押出成形機(宮崎鉄工製、FM−P100)のホッパーに投入し、喰い込みローラーで0.01MPaに減圧した混練部に押し込んで十分に脱気しながら混練し、これを押出しスクリューにより抵抗管、整流板および金型からなるダイスへ押出速度1.0m/分で押込んでグリーンシートを成形した。なお、喰い込みローラー部から金型までは90〜105℃で加温し、得られたグリーンシートは引き取り装置により1.0m/分の速度で連続的に成形した。
【0060】
グリーンシート表面を目視にて観察したところ、押出し方向へのスジやクラックの発生は一切認められなかった。また、直径10mmのガラス棒に巻き込んでも割れやひびは認められず、十分なシート強度と可撓性を有していた。
【0061】
さらに、グリーンシートの両端15mmを除く任意の箇所で切断し100mm角に切断し、1cmの升目状位置に81箇所をマイクロメーターで測定して、平均値、最大値と最小値を求めた。平均値は1051マイクロ、最大値は1069マイクロm、最小値は1028マイクロmであった。前記式(4)から当該燃料極基板用グリーンシートの厚さふれは2.1%であった。
【0062】
実施例2
10モル%スカンジア1モル%セリア安定化ジルコニア粉末(第一稀元素製、10Sc1CeSZ、平均粒子径:0.6μm)を微粒子として15質量部、当該粉末を1050℃で3時間仮焼して得た粗粒子(平均粒子径:18μm)15質量部と酸化ニッケル粉末70質量部(平均粒子径1.8μm)との合計100質量部に対して、バインダーとしてアセタール化度が77%のポリビニルアセタール樹脂(積水化学製、エスレックBL−SH、重合度:350)14質量部、すべり材としてポリメタクリル酸メチル系架橋物球状微粒子(日本触媒製、商品名「エポスターMA1006」平均粒子径:4.5μm、真密度:1.2、かさ密度:0.3、分解温度=260〜280℃)8質量部、可塑剤としてアジピン酸系ポリエステル(大日本インキ製、ポリサイザーW−320)を10質量部、さらに潤滑剤としてパラフィンワックス5質量部の割合で、120℃に加温したオイルジェケット付のスクリュー式混練機に投入し、実施例1と同様にしてグリーンシートを得た。120℃での混練物の粘度は12000Pa・sであった。
【0063】
グリーンシート表面を目視にて観察したところ、押出し方向へのスジやクラックの発生は一切認められなかった。また、直径10mmのガラス棒に巻き込んでも割れやひびは認められず、十分なシート強度と可撓性を有していた。
【0064】
さらに、グリーンシートの両端15mmを除く任意の箇所で切断し100mm角に切断し、1cmの升目状位置に81箇所をマイクロメーターで測定して、平均値、最大値と最小値を求めた。平均値は780マイクロ、最大値は802マイクロm、最小値は765マイクロmであった。前記式(3)から当該燃料極基板用グリーンシートの厚さふれは2.8%であった。
【0065】
比較例1
上記実施例1において、すべり材としてのポリメタクリル酸メチル系架橋物球状微粒子を添加しない以外は同様にしてグリーンシートを得た。なお、120℃での混練物の粘度は16000Pa・sであった。
【0066】
グリーンシート表面を目視にて観察したところ、押出し方向へのスジやクラックの発生は一切認められなかった。また、直径10mmのガラス棒に巻き込んでも割れやひびは認められず、十分なシート強度と可撓性を有していた。
【0067】
さらに、グリーンシートの両端15mmを除く任意の箇所で切断し100mm角に切断し、1cmの升目状位置に81箇所をマイクロメーターで測定して、平均値、最大値と最小値を求めた。平均値は1085マイクロ、最大値は1154マイクロm、最小値は139マイクロmであった。前記式(4)から当該燃料極基板用グリーンシートの厚さふれは6.0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、固体酸化物形燃料電池用の燃料極基板用グリーンシートの製造方法に関する技術であり、本発明の製造方法によるグリーンシートは厚さふれが少ないことからASCの高発電性能化に寄与できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極支持型固体酸化物形燃料電池セルの燃料極基板用グリーンシートの製造方法において、
前記グリーンシートの原料として、安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末、酸化ニッケル粉末、バインダー、および樹脂球状微粒子を含む混練物を押出成形することを特徴とする燃料極基板用グリーンシートの製造方法。
【請求項2】
前記球状微粒子が、ポリメタクリル酸メチル系架橋物粒子である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記球状微粒子が、平均粒子径が0.5μm以上12μm以下の粒子である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混練物中の球状微粒子が3〜30質量%含まれる請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記安定化ジルコニア粉末および/またはドープセリア粉末が、平均粒子径が3μm以上30μm以下の粗粒子と平均粒子径が0.1μm以上1.0μm以下の微粒子の2種の粒子である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記混練物の粘度が、80〜130℃の範囲で500〜20000Pa・sである請求項求項1〜5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記混練物を、0.1〜3.0m/分の速度で押出成形する請求項1〜6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記グリーンシートの平均厚みが0.5〜2.0mmであることを特徴とする請求項1〜7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法により製造した燃料極基板用グリーンシート。
【請求項10】
厚さが0.5〜2.0mmで、且つ任意の100cmの領域における厚みむらが3%内の範囲である請求項9に記載のグリーンシート。

【公開番号】特開2011−222265(P2011−222265A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89622(P2010−89622)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】