燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両
【課題】耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を提供する。
【解決手段】水素極セパレータ8と酸素極セパレータ9とを有する燃料電池であって、水素極セパレータ8は、Moを含む第1の基材の表面窒化処理部である第1の窒化層8aを備え、第1の窒化層8aは第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造20を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されており、酸素極セパレータ9は、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面窒化処理部である第2の窒化層9aを備え、第2の窒化層9aは第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造20を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されていることを特徴とする。
【解決手段】水素極セパレータ8と酸素極セパレータ9とを有する燃料電池であって、水素極セパレータ8は、Moを含む第1の基材の表面窒化処理部である第1の窒化層8aを備え、第1の窒化層8aは第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造20を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されており、酸素極セパレータ9は、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面窒化処理部である第2の窒化層9aを備え、第2の窒化層9aは第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造20を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、反応ガスである水素含有ガス等の燃料ガスと、空気等の酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である。化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換できるため、燃料電池の発電効率は火力発電などの他の発電システムに比べて高い。また、化石燃料を使用しないため資源の枯渇が問題とならず、発電に伴い排気ガスが生じない等の利点を有するため、燃料電池は地球環境保護の観点からも注目されている。
【0003】
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する固体高分子電解質膜を使用して、固体高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は、比較的低温で作動し、発電効率も高いため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。固体高分子電解質型燃料電池は、例えば、以下に示す電極反応を示す。
【0004】
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極には水素ガスが供給され、式(1)の反応が進行してプロトンが生成する。プロトンは水和状態で固体高分子電解質内を移動して酸素極に至り、酸素極ではこのプロトンと供給された酸化剤ガス中の酸素により式(2)の反応が進行する。式(1)及び式(2)の反応が各極で進行して、燃料電池は起電力を生じる。
【0005】
このような固体高分子電解質型燃料電池の構成は、基本単位となる単セルを複数積層した燃料電池スタックを含むものである。各単セルは、ガス拡散層を有する水素極及び燃料極で固体高分子電解質膜を挟んだ膜電極接合体の両面に、それぞれ水素極側セパレータと燃料極側セパレータとを配置しており、各セパレータは単セル間の電流を接続すると共に、燃料と酸素とを隔離している。
【0006】
燃料電池セパレータは各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。また、固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、燃料電池セパレータにはpH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、水素極及び燃料極と同様に、燃料電池セパレータには強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。なお、ここで要求される耐食性とは、燃料電池用セパレータが強酸性の酸化環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は式(2)の反応により生成した水に溶け出すことにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境で、耐食性を測定する必要がある。
【0007】
そこで、燃料電池セパレータには、電気伝導性が良く耐食性に優れたステンレス鋼又は工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、その表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されているため耐食性に優れている。
【0008】
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
【0009】
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。電流密度が1[A/cm2]の場合には、セパレータとカーボンペーパ間の接触抵抗が40[mΩ・cm2]以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。
【0010】
そこで、ステンレス鋼をプレス成形した後、電極との接触面に直接金めっき層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を成形して燃料電池セパレータの形状に加工した後、電極との接触により接触抵抗を生じる面の不動態皮膜を除去して、貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−228914号公報(第2頁、第2図)
【特許文献2】特開2001−6713号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、貴金属を燃料電池セパレータ表面にメッキ又はコーティングすると製造時に手間がかかるだけではなく、素材コストもかかる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る燃料電池は、水素極セパレータと酸素極セパレータとを有する燃料電池であって、水素極セパレータは、Moを含む第1の基材の表面窒化処理部である第1の窒化層を備え、第1の窒化層は第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されており、酸素極セパレータは、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面窒化処理部である第2の窒化層を備え、第2の窒化層は第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、Moを含む第1の基材の表面をプラズマ窒化して第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第1の窒化層を形成する段階と、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面をプラズマ窒化して第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第2の窒化層を形成する段階とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料電池車両は、本発明に係る燃料電池を動力源として備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を提供することができる。
【0016】
本発明によれば、高性能の燃料電池の製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。
【0017】
本発明によれば、耐久性に優れた燃料電池車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両について、固体高分子型燃料電池に適用した例を挙げて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池を構成する燃料電池スタック1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。図3は、燃料電池スタック1を構成する単セル2の両側に水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9を配置した構成を示す要部をわかりやすく強調した断面図である。図4(a)は、水素極セパレータ8の要部の拡大図、図4(b)は、水素極セパレータ8のIVb-IVb線断面図、図4(c)は、水素極セパレータ8のIVc-IVc線断面図である。
【0020】
燃料電池は、燃料電池スタック1と、ユーティリティ系と、外部端子を含む。図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2と、後述する水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9とを張り合わせた一組のセパレータ10とを交互に複数個積層して構成される。図3に示すように、単セル2は、固体高分子型電解質膜3の一方の面に水素極4、他方の面に酸素極5が接合されている。水素極4及び酸素極5は、それぞれ白金触媒担持カーボンの触媒層6と、この触媒層6の外側に配置されたガス拡散層7とから構成される。水素極4の外側には水素極セパレータ8が配置され、酸素極5の外側には酸素極セパレータ9が配置されている。固体高分子型電解質膜3としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。単セル2とセパレータ10とを積層した後、両端部にエンドフランジ15を配置して、外周部を締結ボルト16により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
【0021】
図3に示した水素極セパレータ8の模式図を図4に示す。図4(a)に示すように、水素極セパレータ8は、ステンレス鋼からなる基材11の表面11aを窒化することにより得られ、基材11の表面11aの深さ方向に形成されている窒化層8aと、窒化されていない未窒化層である基層12からなる。水素極セパレータ8には、プレス成形により断面矩形状の燃料の流路13が形成されている。流路13と流路13との間には、流路13と流路13で画成された平板部14を備え、通路13及び平板部14の外面に沿って窒化層8aが延在する。平板部14は、水素極セパレータ8と単セル2とを交互に積層した際に隣接するガス拡散層7に接触し、ガス拡散層7との間に燃料ガスの流路13を画成する。窒化層8aは、基材11をプラズマ窒化することにより得られ、M4N型の結晶構造の単層、又はM4N型とε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の2相複合組織を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されている。酸素極セパレータ9もほぼ同様の構成であり、表面に窒化層9aを有する。そして、ガス拡散層7との間に酸化剤ガスの流路を画成する。
【0022】
基材は、少なくともオーステナイト系ステンレス鋼を用いるのが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317L等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼を選択する理由としては、基材組織をオーステナイト単相とするため、基材をプラズマ窒化した場合には基材表面に対する窒素固溶量が大きくなり、基材表面にプラズマ窒化により高濃度の窒素を含有した遷移金属窒化物が形成され易くなるためである。水素極セパレータ8は強酸性の酸化環境下に晒されるが、表面の窒化層8aがこの遷移金属窒化物を含むことにより、金属イオンの溶出が低く抑えられ、耐食性に優れたものになる。それに加えて、酸素極セパレータ9は強酸性雰囲気下に晒されるが、表面の窒化層9aがこの遷移金属窒化物を含むことにより、電気伝導性能を維持する耐久性に優れ、導電性に優れるようになる。また、基材を燃料電池用セパレータとして用いる場合には酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路などの凹凸をプレス成形する必要があり、その際、プレス成形する基材組織がオーステナイト単相の場合、伸び、絞り性に優れ、プレス成形性に優れる。これに対し、フェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼を基材として用いた場合には、伸び、絞り性が劣り、プレス成形性が劣るようになる。
【0023】
水素極セパレータ8として用いる基材11は、さらにMoを含むことが好ましい。Moは、結晶粒界に析出して粒界腐食を促進する炭化物の析出を抑制する効果がある。これにより、耐粒界腐食性が向上し、水素極セパレータのように、水素ガスが導入され、酸素分圧低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易くなり、強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される強酸性の環境下に晒される場合においても、金属イオンの溶出が低く抑えられ、耐食性に優れたものになる。
【0024】
酸素極セパレータ9として用いる基材は、少なくともCrの含有量が20[wt%]以上であることが好ましい。Crを20[wt%]以上を含むオーステナイト系テンレス鋼を用いると、プラズマ窒化により形成された窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するため、酸素極セパレータ9のように、酸素分圧が高く、表面酸化膜が溶解するよりは酸化膜が生成し易い80〜90[℃]の高温かつ強酸性環境下においても、電子の移動が妨げられず、導電性が維持されるようになる。
【0025】
このように、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9として、組成比の異なる基材を用いることにより、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池が得られる。また、窒化層は、プラズマ窒化という簡単な工程により得られるため、コストの低い燃料電池が得られる。
【0026】
水素極セパレータ8として用いる基材11はSUS316Lであり、酸素極セパレータ9として用いる基材はSUS310Sであることが好ましい。水素ガスが導入され、酸素分圧が低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極での環境では、Moを1.5[%]含むSUS316L材を用いることにより水素極セパレータは自己不動態化し易くなる。また、SUS316L材はローカーボン材のため、耐粒界腐食性が向上し、金属イオンの溶出が低く抑えられる。一方、空気が導入され、酸素分圧高く、表面酸化膜が溶解するよりも生成し易い酸素極での環境では、Crを20[wt%]以上添加したSUS310Sを用いることにより、窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するようになるため、電子の移動が妨げられず、導電性が維持されるようになり、その上、コスト的にも低コストを達成する。その他、水素極には、Moを含むオーステナイト系ステンレス鋼としてSUS317L、酸素極にはCrを20[wt%]以上含むオーステナイト系ステンレス鋼としてSUS309Sの組み合わせであってもよい。
【0027】
窒化層8a、9aは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型結晶構造を有する遷移金属窒化物を含む。図5にM4N型結晶構造20を示す。このM4N型結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表し、窒素原子22はM4N型結晶構造20の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、M4N型結晶構造20は、遷移金属原子21の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。
【0028】
このM4N型の結晶構造20では、Feに対するCr原子比が高い場合には、窒化層中に含まれる窒素が窒化層中のCrと結びついてCrNなどのCr系窒化物、すなわちNaCl型の窒化化合物が主成分となり、窒化層の耐食性は低下する。このため、遷移金属原子21はFeを主体とすることが好ましい。この結晶構造では、高密度の転位や双晶を伴い、硬さも1000[HV]以上と高く、窒素が過飽和に固溶したfccまたはfct構造の窒化物であると考えられている(安丸、蒲池;日本金属学会誌,50,pp362−368,1986)。そして、表面に近いほど窒素濃度が高いことや、CrNが主成分とならないため、耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も耐食性が保たれる。このように、窒化層8a、9aがM4N型の結晶構造を有する場合には、燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため耐食性に優れ、かつガス拡散層7との間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。このため、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池が得られる。
【0029】
窒化層8a、9aにおけるM4N型結晶構造20を形成するFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子は、不規則に混合されていることが好ましい。各遷移金属原子が不規則に混合されることにより、各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下するため、各遷移金属原子の活量を低く抑えることができる。これに伴い、窒化層8a、9a中の各遷移金属原子の、酸化に対する反応性を低くすることができる。そして、燃料電池内の強酸性環境下においても窒化層8a、9aは化学的安定性を有する。このため、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9と、電極との間の接触抵抗を低く維持でき、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9の耐久性を高めることができる。また、電極との接触面となる水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9上に、金めっき等により貴金属めっき層を形成することなく低接触抵抗を維持できるため、低コスト化を実現することができる。
【0030】
また、面心立方格子を形成するFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子は、不規則に混合することにより、混合エントロピが増大して各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下しているか、又は、各遷移金属原子の活量がラウールの法則により推定される値より低くなっていることが好ましい。これにより、更にまた、各金属元素の酸化に対する反応性を低下させることができ、化学的安定性が向上する。
【0031】
また、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9では、表面にM4N型の結晶構造20の結晶構造を含む窒化層8a、9aを設けている構成としたため、窒化層8a、9a中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、金属原子間には金属結合が形成されているため、電気伝導性に優れたセパレータ8、9を得ることができる。
【0032】
さらに、窒化層8a、9aは、M4N型の結晶構造のマトリクスと、このマトリクス中に形成されたε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の結晶層とを含むことが好ましい。M4N型の結晶構造のマトリクスにε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造を含む積層構造とすることで、窒化層の化学的安定性が確保される。窒化層は、結晶層を層間距離が数10〜100[nm]の範囲で有することが好ましい。この場合には、ナノレベルの微細な層状組織が2相平衡することにより自由エネルギーが低下して活量を低く抑え、酸化に対する反応性が低くなり、化学的安定性を有するようになる。そのため、特に強酸性雰囲気において酸化を抑制し耐食性に優れるようになる。
【0033】
このように、上記した構成を採用したことにより、本発明の実施の形態に係る燃料電池によれば、耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を実現することが可能となる。
【0034】
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明する。本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法は、Moを含む第1の基材の表面をプラズマ窒化して第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第1の窒化層を形成する段階と、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面をプラズマ窒化して第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第2の窒化層を形成する段階とを含むことを特徴とする。この方法により、水素極セパレータ及び酸素極セパレータの表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されている窒化層を有する燃料電池が容易に得られる。
【0035】
プラズマ窒化は、被処理物(ここではステンレス鋼箔)を陰極とし、直流電圧を印加してグロー放電、即ち、低温非平衡プラズマを発生させて、ガス成分の一部をイオン化し、非平衡プラズマ中のイオン化したガス成分を被処理物の表面に高速衝突させて窒化する方法である。図6は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置30の模式的側面図である。
【0036】
窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、窒化炉31に設置された真空式窒化処理容器31aを排気して真空圧にする真空ポンプ34と、真空式窒化処理容器31aに雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、真空式窒化処理容器31a内でプラズマを発生させるため高電圧にチャージされるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに周波数45[KHz]の高周波にパルス化された直流電圧を供給するマイクロパルスプラズマ電源33と、真空式窒化処理容器31a内の温度を検知する温度検出計37とを備える。窒化炉31は、上記真空式窒化処理容器31aを収容する断熱性の絶縁材からなる外側容器31bを備え、バルブ弁付送気口31gを備える。真空式窒化処理容器31aは、その底部31cに、プラズマ電極33a、33bを高電位に保持するための絶縁体35を備える。プラズマ電極33a、33bは、その上にステンレス製の支架36が設けられている。この支架36は、プレス成形により燃料又は酸化剤の流路が形成され、セパレータの形状に加工したステンレス鋼箔44(以下、しばしば基材とも呼ぶ。)を支持する。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを備え、ガス室38は所定数のガス導入用の開口(不図示)を有し、この開口は、それぞれガス供給弁(不図示)を備える水素ガス供給ライン(不図示)、窒素ガス供給ライン(不図示)、アルゴンガス供給ライン(不図示)に連通する。ガス供給装置32は、更に、ガス供給管路39の一端39aと連通するガス供給用の開口32aを有し、この開口32aにはガス供給弁(不図示)が設けられている。ガス供給管路39は、窒化炉31の外側容器31bの底部31dと真空式窒化処理容器31aの底部31cとを気密に貫通して真空式窒化処理容器31a内に延入し、垂直に立ち上がる立ち上がり部39bに至る。この立ち上がり部39bは、真空式窒化処理容器31a内にガスを噴出するための複数の開口39cが設けられている。真空式窒化処理容器31a内のガス圧は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられたガス圧センサ(不図示)により検知される。真空式窒化処理容器31aは、その外周に抵抗加熱式若しくは誘導加熱式のヒータ39の導電線39aが巻回され、これにより加熱される。真空式窒化処理容器31aと外側容器31bとの間には空気流路40が画成される。外側容器31bの側壁31eには、外側容器31bの側壁31eに設けられた開口31fから空気流路40に流入した空気を送る送風機41が設けられている。空気流路40は空気が流出する開口40aを備える。真空ポンプ34は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられた開口31hと連通する排気管路45を介して排気を行う。温度検出計37は、真空式窒化処理容器31aと外側容器31bの底部31c、31d及びプラズマ電極33a、33bを貫通して信号線路37aを介して温度センサ37b(例えば熱伝対)に接続される。
【0037】
マイクロパルスプラズマ電源33はプロセス制御装置42から制御信号を受け、オン、オフされる。各ステンレス鋼箔44は、アース側(例えば、真空式窒化処理容器31aの内壁31i。)に対し、マイクロパルスプラズマ電源33から供給される電圧分の電位差を有する。ガス供給装置32、真空ポンプ34、温度検出計37及びガス圧センサもプロセス制御装置42によって制御され、このプロセス制御装置42は、パーソナルコンピュータ43により操作される。
【0038】
本発明の実施の形態で用いたプラズマ窒化法についてより詳細に説明する。まず、窒化炉31内に被処理物であるステンレス鋼箔44を配置し、1[Torr](=133[Pa])以下の真空に炉内を排気する。次に、窒化炉31内に水素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入した後、数[Torr]〜十数[Torr](665[Pa]〜2128[Pa])の真空度で、ステンレス鋼箔44を陰極、真空式窒化処理容器31aの内壁31iを陽極として、電圧を印加する。この場合、陰極であるステンレス鋼箔44上にグロー放電が発生し、このグロー放電によりステンレス鋼箔44を加熱及び窒化する。
【0039】
本発明の実施の形態に係る燃料電池に用いるセパレータの製造方法として、第一の工程として、ステンレス鋼箔からなる基材44表面の不導態皮膜を除去するスパッタークリーニングを実施する。このスパッタークリーニングの際、導入ガスがイオン化した水素イオン、アルゴンイオンなどが試料表面に衝突することで、ステンレス鋼箔44表面のCrを主体とした酸化皮膜を除去することができる。
【0040】
第2の工程として、スパッタークリーニングの後、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを真空式窒化処理容器31a内に導入し、電圧を印加して陰極である基材44上にグロー放電を発生させる。この際、イオン化した窒素が基材44表面に衝突、侵入及び拡散することにより、基材44表面にM4N型結晶構造を有する連続した窒化層が形成される。窒化層の形成と同時に、イオン化した水素と基材表面の酸素が反応する還元反応により、基材表面に形成された酸化膜が除去される。
【0041】
なお、このプラズマ窒化法では、基材44表面での反応は平衡反応ではなく非平衡反応であり、その上、300[℃]以上550[℃]以下の温度で処理した場合に、基材44表面から深さ方向に高窒素濃度のM4N型結晶構造を含む遷移金属窒化物が迅速に得られ、この窒化物は導電性と耐食性に富む。
【0042】
これに対し、大気圧でかつ平衡反応により窒化が進行する窒化法、例えば、ガス窒化法などを用いた場合、基材表面の不導態皮膜を除去するのが難しく、かつ平衡反応のため、基材表面に、M4N型結晶構造を得るようにするには長時間を要し、かつ、所望の窒素濃度が得られ難くなる。このため、基材表面に酸化皮膜が存在するため導電性が悪化し、化学的安定性に欠けるため、この窒化法により得られた窒化物及び窒化層では強酸性雰囲気での導電性維持が困難となる。
【0043】
本発明の実施の形態では、電源としてマイクロパルスプラズマ電源を用いることが好ましい。プラズマ窒化法に用いる電源としては、直流電圧を印加し、この放電電流を電流検出器により検出し、所定の電流となるようサイリスタにより制御する直流波形を有する直流電源を用いるのが一般的である。この場合、グロー放電は連続的に継続され、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度は±30[℃]程度の範囲で変化する。これに対し、マイクロパルスプラズマ電源は、直流電圧とサイリスタによる高周波遮断回路から構成されており、この回路により直流電源波形は、グロー放電がオンとオフを繰り返すパルス波形となる。この場合、プラズマを放電させる時間とプラズマを遮断する時間を1〜1000[μsec]として放電、遮断を繰り返すマイクロパルスプラズマ電源を用いたプラズマ窒化を行うことで、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度の変化は±5[℃]程度の範囲になる。高窒素濃度を有する遷移金属窒化物を得るためには、基材温度の精密温度制御が要求されることから、基材温度の変化の小さいマイクロパルスプラズマ電源を用い、この電源は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能であることが好ましい。
【0044】
さらに、窒化処理を基材表面の温度を320[℃]以上550[℃]以下の温度に保持して行うことが好ましい。ステンレス鋼の表面に高温で窒化処理を施すと、窒素が基材中のCrと結びつき、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化物を析出するためにセパレータの耐食性が低下する。これに対し、320[℃]以上550[℃]以下の温度で窒化処理を施すと基材表面には、NaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化化合物ではなく、主として基材表面にM4N型結晶構造を有する窒化層が形成されるため、耐食性が向上したセパレータが得られる。また、セパレータと隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗を低く抑えることができ、燃料電池の発電効率を維持でき、優れた耐久信頼性を有する燃料電池を低コストにより得ることができる。なお、窒化温度が320[℃]を下回る場合には、この結晶構造を有する窒化層を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。このため、窒化処理は320[℃]以上550[℃]以下の範囲で行うことが好ましい。また、基材表面の温度を400 [℃]以上425[℃]以下の範囲に保持して窒化を行うことがより好ましい。
【0045】
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法によれば、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池のセパレータをプラズマ窒化により容易に得られるため、高性能の燃料電池の製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池を動力源とした燃料電池電気自動車を挙げて説明する。図7は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図7(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図7(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図7(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図7(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
【0047】
本発明の実施の形態に係る、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池を自動車等の移動体車両に搭載することにより、耐久性に優れた燃料電池車両を提供することができる。
【0048】
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4について説明する。これらの実施例は、本発明の有効性を調べたもので、異なる原料に対して異なる条件下で処理して各試料を調製したものであり、例示した実施例に限定されるものではない。
【0050】
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、基材として、JIS規格のSUS304L、SUS316L、SUS317L、SUS317J1、SUS310S、SUS309S及びSUS219J1を原材料とした□100×100[mm]、厚さ0.1[mm]の真空焼鈍材を用いた。この基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路を形成してセパレータとした。プレス成形により得られたセパレータを酸洗した後、真空焼鈍材の両面にマイクロパルスプラズマ電源を用いて直流電流グロー放電によるプラズマ窒化を施した。プラズマ窒化の条件は、窒化温度は295[℃]〜560[℃]、窒化時間60[分]、窒化時のガス混合比N2:H2=7:3、処理圧力3[Torr](=399[Pa])とした。なお、比較例1の試料はプラズマ窒化を行わなかった。また、比較例4では、マイクロパルスプラズマ電源の代わりに直流プラズマ電源を用いた。表1に、基材の鋼種、基材の化学組成、プラズマ窒化の有無、使用したプラズマ電源、窒化中の基材の温度を示す。
【表1】
【0051】
得られた各試料を、次に示す評価法を用いて評価した。
【0052】
<窒化層の結晶構造の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより行った。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
【0053】
<窒化層の観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料とするために、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られた窒化層の表面付近の薄膜試料を作製した。作製には装置として収束イオンビーム装置(FIB)日立製作所製FB2000Aを用い、FIB−μサンプリング法を用いて試料を作製した。この試料を、電界放射型透過電子顕微鏡(日立製作所製HF−2000)を用いて200[kV]にて観察した。
【0054】
<接触抵抗値の測定>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られたセパレータの接触抵抗を発電試験前と発電試験後において測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図8(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図8(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。なお、接触抵抗値は、後述する耐食試験の前後で2回測定を行った。耐食試験後の接触抵抗値は、燃料電池内で燃料電池用セパレータが曝される環境を模擬して、酸化環境下での耐食性を評価したものである。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
【0055】
<耐食試験>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られた試料をセパレータとして用い、電極構造体(MEA)の両側にセパレータを配置した1つの燃料電池ユニット(単セル)を組み立てた。この組み立てたユニットに燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を流し、電流密度0.5[A/cm2]で100[時間]の連続運転を行った。この連続運転中に生成した生成水中に含まれる金属イオン濃度をプラズマ発光−質量分析装置(ICP−MS)により測定し、金属イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
【0056】
<窒化層の元素の同定及び定量>
窒化層の表面から深さ5[nm]までの範囲において、オージェ電子分光分析のデプスプロファイル計測により、窒化層の元素の同定及び定量を行った。測定には、走査型オージェ電子分光分析装置(PHI社製 MODEL4300)を用い、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
【0057】
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4における基材の組織、窒化層の結晶構造、耐食試験前後の接触抵抗値、生成水中のイオン溶出量の測定結果を表2に示す。
【表2】
【0058】
比較例1で得られた試料の表面は結晶構造がγであり、セパレータ表面に窒化層が形成されていない。このため、水素極、酸素極両極で耐食試験前及び耐食試験後の接触抵抗値は高い値を示した。また、水素極セパレータ、酸素極セパレータ共に、表面に窒化層が形成されていないが、イオンの溶出量は実施例1と比較してほとんど変わらなかった。これは、表面に導電性を有さない厚い不動態皮膜が形成されているためと考えられる。
【0059】
比較例2で得られた試料では、セパレータ表面にM4N型の結晶構造を含む窒化層が形成されているが、水素極セパレータの基材として、Moを含まないSUS304Lを用いたため、耐食試験後の接触抵抗値が135[mΩ・cm2]に増加して導電性が悪化した。また、金属イオン溶出量が実施例1と比較して多く、耐食性も悪化した。一方、酸素極セパレータには、Crの含有量が20[wt%]を下回るSUS316Lを用いたため、耐食試験後の接触抵抗値が124[mΩ・cm2]へ増加して導電性が悪化し、イオンの溶出量も実施例1と比較して大きく悪化した。これは、水素ガスが導入され、酸素分圧低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極での環境では、Moを含まない材料を用いたことにより、表面が自己不動態化し難くなり、またローカーボン材ではないために耐粒界腐食性が悪化して金属イオンが多量に溶出した。このためにセパレータ表面は腐食による酸化が進行して接触抵抗値が悪化した。一方、空気が導入され、酸素分圧高く、表面酸化膜が溶解するよりも生成し易い酸素極での環境では、Crが20[wt%]以下の材料を用いたため、窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成し難くなり化学的に不安定になることで金属イオンが多量に溶出し易くなり、セパレータ表面は腐食による酸化が進行して電子の移動が妨げられ、導電性が悪化したと考えられる。
【0060】
比較例3で得られた試料では、水素極セパレータでは、窒化時の基材温度が300[℃]を下回ったため、表面に窒化層が形成されなかった。このため、耐食試験前及び耐食試験後の接触抵抗値は高い値を示した。一方、酸素極セパレータでは、窒化時の基材温度が550[℃]を上回ったため、窒化物の結晶構造が、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等となるために耐食性が悪化し、金属イオンが多量に溶出した。このため、セパレータ表面は腐食による酸化が進行して電子の移動が妨げられ、導電性も悪化した。
【0061】
比較例4で得られた試料では、プラズマ電源をマイクロパルスではなく、直流電源を用いて窒化したため、水素極セパレータでは、窒化時の基材温度が300[℃]を上回っていたが、表面には窒化物は形成されなかった。このため、耐食試験前及び耐食試験後の接触抵抗値は高い値を示した。一方、酸素極セパレータでは、窒化時の基材温度が550[℃]を下回っていたが、窒化物の結晶構造が、M4N型ではなく主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等であった。このため、耐食性が悪化して金属イオンが多量に溶出することで表面は腐食による酸化が進行し、電子の移動が妨げられ、導電性も悪化した。
【0062】
これに対して、実施例1〜実施例4の各試料では、水素極、酸素極共に耐食試験後であっても接触抵抗値は低く、イオン溶出量は少なかった。これは、水素極セパレータの基材として、Moを含み、かつ、ローカーボンを用いたことにより、水素ガスが導入され、酸素分圧低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極での環境では、表面が自己不動態化し易くなり、金属イオン溶出が抑えられたことが考えられる。また、Moを含み、かつ、ローカーボンを用いたことにより、未窒化層にCr濃度が低下したCr欠乏層が形成されることなく、M4N型結晶構造を含む窒化層が形成され易くなり、さらに、形成された窒化層が化学的に安定することによると考えられる。また、不純物である炭素の含有量の少ない基材を用いることにより、結晶粒界に析出し、粒界腐食を促進する炭化物などの析出物が低く抑えらる。炭化物などの析出物が抑えられることにより粒界腐食し難くなり、結晶粒界からのイオン溶出が抑制されて耐食性が向上する上、接触抵抗値の増大が抑制されるようになる。また、酸素極セパレータの基材として、Crを20[wt%]以上含む基材を用いたため、基材表面の窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するようになる。このため、酸素極セパレータのように、酸素分圧が高く、80〜90[℃]の高温かつ強酸性環境下においても、電子の移動が妨げられず、導電性が維持され、その上イオン溶出性に優れるようになる。
【0063】
実施例1及び実施例3の水素極では、M4N単層が形成され、実施例1の酸素極セパレータ、実施例2の水素極及び酸素極セパレータ、実施例3の酸素極セパレータ、及び実施例4の水素極及び酸素極セパレータの表面に形成された窒化層は、層状のε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造を有する析出物が数10〜100[nm]の間隔でM4Nマトリクスに析出した複合組織を形成していた。図9に実施例1により得られた酸素極セパレータの倍率30000倍のTEM写真を、図10(a)に図9に示す71a部の拡大写真(倍率100000倍)を、図10(b)に図10(a)に示す71b部の拡大写真(倍率300000倍)を示す。図9に示すように、基材として使用したステンレス鋼70の表面70aを窒化することにより、基材70の表面70aの深さ方向に窒化層71が形成され、窒化層71の直下は窒化されていない未窒化層である基層72となっている。図10に示すように、窒化層71には層状の組織が繰り返された2相複合組織が観測され、図中白く見えるM4N型の結晶構造のマトリクス73と、図中黒く見えるマトリクス73中に形成された層状のε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の結晶層74であることが判明した。結晶層74と結晶層74の層間距離は、数10〜100[nm]の範囲だった。図11に示す走査型オージェ電子分光分析の結果より、窒化層71はFeを主成分としていることがわかった。このように、実施例1〜実施例4ではM4N型の結晶構造及びε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造が形成されているため、実施例1〜実施例4の各試料の耐食試験前後における接触抵抗値はいずれも低い値を示した。また、いずれの試料もイオン溶出量が比較例よりも低い値を示しており、耐食性が良好であった。
【0064】
このように、実施例1〜実施例4の各試料が酸化性環境下における電気化学的安定性に優れ、耐食性が良好であった理由は、窒化層がM4N型結晶構造を有することにより遷移金属原子間の金属結合を保ち、遷移金属原子と窒素原子との間で強い共有結合性を示すことによる。加えて、面心立方格子を構成する遷移金属原子が不規則に混合することにより、各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下して活量を低く抑えることができたことによるものと考えられる。また、層状のε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の結晶層を有することにより、ナノレベルの微細な層状組織が2相平衡し、自由エネルギーが低下して活量を低く抑えることができ、これにより酸化に対する反応性が低くなり、化学的安定性を有するようになる。このため、特に強酸性雰囲気において酸化を抑制し、耐食性に優れるようになる。また、窒化層の最表層に数十ナノレベルの薄い酸化膜が形成されているため、導電性を悪化させることなく耐食性が向上する。
【0065】
この上、水素極にはMoを1.5[wt%]含むオーステナイト系ステンレス鋼を、また酸素極にはCrを20[wt%]以上含むオーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、水素ガスが導入され、酸素分圧が低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極の環境では、耐粒界腐食性が向上し、金属イオンの溶出が低く抑えられる。一方、空気が導入され、酸素分圧が高く、表面酸化膜が溶解するよりも生成し易い酸素極の環境では、窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するようになるため、電子の移動が妨げられず、導電性が維持されるようになる。
【0066】
なお、燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。このため、電流密度が1[A/cm2]の時には、セパレータとガス拡散層と間の接触抵抗が20[mΩ・cm2] 、つまり、図8(b)に示す装置での測定値が40[mΩ・cm2] 以下であれば接触抵抗による発電効率の低下が抑えられると考えられる。本実施例1〜実施例4では、耐食試験前後における接触抵抗値が40[mΩ・cm2] 以下であるため、これらの試料を用いた場合には、単位セル当りの起電力が高く、発電性能に優れた燃料電池を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池を構成する燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。
【図2】燃料電池スタックの展開図である。
【図3】燃料電池スタックを構成する単セルの両側に水素極セパレータ及び酸素極セパレータを配置した構成を示す断面図である。
【図4】(a)水素極セパレータの要部の拡大図である。(b)水素極セパレータのIVb-IVb線断面図である。(c)水素極セパレータのIVc-IVc線断面図である。
【図5】窒化層に含まれるM4N型結晶構造を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法に用いる窒化装置の模式的側面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを搭載した電気自動車の外観を示す図であり、(a)は電気自動車の側面図、(b)は電気自動車の上面図である。
【図8】(a)各実施例で得られた試料の接触抵抗の測定方法を説明する模式図である。(b)接触抵抗の測定に使用する装置を説明する模式図である。
【図9】実施例1により得られた試料のTEM写真である。
【図10】(a)71a部の拡大写真である。(b)71b部の拡大写真である。
【図11】実施例1により得られた試料の走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 固体高分子型電解質膜
4 水素極
5 酸素極
6 触媒層
7 ガス拡散層
8 水素極セパレータ
8a 窒化層
9 酸素極セパレータ
9a 窒化層
10 セパレータ
11 基材
11a 表面
12 基層
13 流路
14 平板部
20 M4N型結晶構造
21 遷移金属原子
22 窒素原子
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、反応ガスである水素含有ガス等の燃料ガスと、空気等の酸化剤ガスとを電気化学的に反応させて、燃料の持つ化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換する装置である。化学エネルギーを電気エネルギーに直接変換できるため、燃料電池の発電効率は火力発電などの他の発電システムに比べて高い。また、化石燃料を使用しないため資源の枯渇が問題とならず、発電に伴い排気ガスが生じない等の利点を有するため、燃料電池は地球環境保護の観点からも注目されている。
【0003】
燃料電池は、使用される電解質の種類に応じて固体高分子電解質型、リン酸型、溶融炭酸塩型及び固体酸化物型等がある。そのうちの一つである固体高分子電解質型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、電解質として分子中にプロトン交換基を有する固体高分子電解質膜を使用して、固体高分子電解質膜を飽和に含水させるとプロトン伝導性電解質として機能することを利用した電池である。固体高分子電解質型燃料電池は、比較的低温で作動し、発電効率も高いため、電気自動車搭載用を始めとする各種の用途が見込まれている。固体高分子電解質型燃料電池は、例えば、以下に示す電極反応を示す。
【0004】
水素極側:H2 →2H+ +2e- ・・・式(1)
酸素極側:(1/2)O2+2H+ + 2e-→H2O ・・・式(2)
水素極には水素ガスが供給され、式(1)の反応が進行してプロトンが生成する。プロトンは水和状態で固体高分子電解質内を移動して酸素極に至り、酸素極ではこのプロトンと供給された酸化剤ガス中の酸素により式(2)の反応が進行する。式(1)及び式(2)の反応が各極で進行して、燃料電池は起電力を生じる。
【0005】
このような固体高分子電解質型燃料電池の構成は、基本単位となる単セルを複数積層した燃料電池スタックを含むものである。各単セルは、ガス拡散層を有する水素極及び燃料極で固体高分子電解質膜を挟んだ膜電極接合体の両面に、それぞれ水素極側セパレータと燃料極側セパレータとを配置しており、各セパレータは単セル間の電流を接続すると共に、燃料と酸素とを隔離している。
【0006】
燃料電池セパレータは各単セル間を電気的に接続する機能を有するため、電気伝導性が良く、かつガス拡散層等の構成材料との接触抵抗が低いことが要求される。また、固体高分子型電解質膜は、スルホン酸基を多数有する高分子から形成されており、湿潤状態においてスルホン酸基をプロトン交換として用いるため、プロトン伝導性を有する。固体高分子型電解質膜は強酸性であるため、燃料電池セパレータにはpH2〜3程度の硫酸酸性に対する耐食性が要求される。さらに、燃料電池に供給される各ガスの温度は80〜90[℃]と高温であり、また、水素極ではH+が生じるだけでなく、酸素や空気等が通過する酸素極は、標準水素極電位に対して0.6〜1[VvsSHE]程度の電位が負荷される酸化性環境下にある。このため、水素極及び燃料極と同様に、燃料電池セパレータには強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される。なお、ここで要求される耐食性とは、燃料電池用セパレータが強酸性の酸化環境下においても電気伝導性能を維持できる耐久性を意味する。つまり、カチオンが加湿水又は式(2)の反応により生成した水に溶け出すことにより、カチオンが本来プロトンの通り道となるべきスルホン酸基と結合してスルホン酸基を占有し、電解質膜の発電特性を劣化させる環境で、耐食性を測定する必要がある。
【0007】
そこで、燃料電池セパレータには、電気伝導性が良く耐食性に優れたステンレス鋼又は工業用純チタン等のチタン材を使用する試みがされている。ステンレス鋼は、その表面にクロムを主金属元素とした酸化物、水酸化物又はこれらの水和物等の緻密な不動態皮膜が形成されているため耐食性に優れている。
【0008】
しかし、上記した不動態皮膜は、通常ガス拡散層として用いられるカーボンペーパとの間で接触抵抗を生じる。燃料電池内の抵抗分極による過電圧は、定置型用途ではコージェネレーション等により排熱を回収できるため、トータルとしての熱効率が向上する。一方、自動車用用途では、接触抵抗に基づく発熱ロスは冷却水を通してラジエータから外部に捨てるしかないため、接触抵抗が大きくなると発電効率の低下に繋がる。また、発電効率低下は発熱が大きくなることと等価であり、より大きな冷却系を装備する必要性が生じるため、接触抵抗の増大は解決すべき重要な課題となっている。
【0009】
燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。電流密度が1[A/cm2]の場合には、セパレータとカーボンペーパ間の接触抵抗が40[mΩ・cm2]以下であれば接触抵抗による効率低下がおさえられると考えられている。
【0010】
そこで、ステンレス鋼をプレス成形した後、電極との接触面に直接金めっき層を形成した燃料電池用セパレータが提案されている(特許文献1参照)。また、ステンレス鋼を成形して燃料電池セパレータの形状に加工した後、電極との接触により接触抵抗を生じる面の不動態皮膜を除去して、貴金属又は貴金属合金を付着させた燃料電池セパレータが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−228914号公報(第2頁、第2図)
【特許文献2】特開2001−6713号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、貴金属を燃料電池セパレータ表面にメッキ又はコーティングすると製造時に手間がかかるだけではなく、素材コストもかかる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、本発明に係る燃料電池は、水素極セパレータと酸素極セパレータとを有する燃料電池であって、水素極セパレータは、Moを含む第1の基材の表面窒化処理部である第1の窒化層を備え、第1の窒化層は第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されており、酸素極セパレータは、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面窒化処理部である第2の窒化層を備え、第2の窒化層は第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る燃料電池の製造方法は、Moを含む第1の基材の表面をプラズマ窒化して第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第1の窒化層を形成する段階と、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面をプラズマ窒化して第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第2の窒化層を形成する段階とを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料電池車両は、本発明に係る燃料電池を動力源として備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を提供することができる。
【0016】
本発明によれば、高性能の燃料電池の製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。
【0017】
本発明によれば、耐久性に優れた燃料電池車両を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池、燃料電池の製造方法及び燃料電池車両について、固体高分子型燃料電池に適用した例を挙げて説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池を構成する燃料電池スタック1の外観を示す斜視図である。図2は、図1に示す燃料電池スタック1の詳細な構成を模式的に示す燃料電池スタック1の展開図である。図3は、燃料電池スタック1を構成する単セル2の両側に水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9を配置した構成を示す要部をわかりやすく強調した断面図である。図4(a)は、水素極セパレータ8の要部の拡大図、図4(b)は、水素極セパレータ8のIVb-IVb線断面図、図4(c)は、水素極セパレータ8のIVc-IVc線断面図である。
【0020】
燃料電池は、燃料電池スタック1と、ユーティリティ系と、外部端子を含む。図2に示すように、燃料電池スタック1は、電気化学反応により発電を行う基本単位となる単セル2と、後述する水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9とを張り合わせた一組のセパレータ10とを交互に複数個積層して構成される。図3に示すように、単セル2は、固体高分子型電解質膜3の一方の面に水素極4、他方の面に酸素極5が接合されている。水素極4及び酸素極5は、それぞれ白金触媒担持カーボンの触媒層6と、この触媒層6の外側に配置されたガス拡散層7とから構成される。水素極4の外側には水素極セパレータ8が配置され、酸素極5の外側には酸素極セパレータ9が配置されている。固体高分子型電解質膜3としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体膜(ナフィオン1128(登録商標)、デュポン株式会社)等を使用することができる。単セル2とセパレータ10とを積層した後、両端部にエンドフランジ15を配置して、外周部を締結ボルト16により締結して燃料電池スタック1を構成する。また、燃料電池スタック1には、各単セル2に水素ガス等の水素を含有する燃料ガスを供給するための水素供給ラインと、酸化剤ガスとして空気を供給する空気供給ラインと、冷却水を供給する冷却水供給ラインが設けられている。
【0021】
図3に示した水素極セパレータ8の模式図を図4に示す。図4(a)に示すように、水素極セパレータ8は、ステンレス鋼からなる基材11の表面11aを窒化することにより得られ、基材11の表面11aの深さ方向に形成されている窒化層8aと、窒化されていない未窒化層である基層12からなる。水素極セパレータ8には、プレス成形により断面矩形状の燃料の流路13が形成されている。流路13と流路13との間には、流路13と流路13で画成された平板部14を備え、通路13及び平板部14の外面に沿って窒化層8aが延在する。平板部14は、水素極セパレータ8と単セル2とを交互に積層した際に隣接するガス拡散層7に接触し、ガス拡散層7との間に燃料ガスの流路13を画成する。窒化層8aは、基材11をプラズマ窒化することにより得られ、M4N型の結晶構造の単層、又はM4N型とε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の2相複合組織を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されている。酸素極セパレータ9もほぼ同様の構成であり、表面に窒化層9aを有する。そして、ガス拡散層7との間に酸化剤ガスの流路を画成する。
【0022】
基材は、少なくともオーステナイト系ステンレス鋼を用いるのが好ましい。オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、SUS304、SUS310S、SUS316L、SUS317L等が挙げられる。オーステナイト系ステンレス鋼を選択する理由としては、基材組織をオーステナイト単相とするため、基材をプラズマ窒化した場合には基材表面に対する窒素固溶量が大きくなり、基材表面にプラズマ窒化により高濃度の窒素を含有した遷移金属窒化物が形成され易くなるためである。水素極セパレータ8は強酸性の酸化環境下に晒されるが、表面の窒化層8aがこの遷移金属窒化物を含むことにより、金属イオンの溶出が低く抑えられ、耐食性に優れたものになる。それに加えて、酸素極セパレータ9は強酸性雰囲気下に晒されるが、表面の窒化層9aがこの遷移金属窒化物を含むことにより、電気伝導性能を維持する耐久性に優れ、導電性に優れるようになる。また、基材を燃料電池用セパレータとして用いる場合には酸素ガス流路、水素ガス流路及び冷却水流路などの凹凸をプレス成形する必要があり、その際、プレス成形する基材組織がオーステナイト単相の場合、伸び、絞り性に優れ、プレス成形性に優れる。これに対し、フェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼を基材として用いた場合には、伸び、絞り性が劣り、プレス成形性が劣るようになる。
【0023】
水素極セパレータ8として用いる基材11は、さらにMoを含むことが好ましい。Moは、結晶粒界に析出して粒界腐食を促進する炭化物の析出を抑制する効果がある。これにより、耐粒界腐食性が向上し、水素極セパレータのように、水素ガスが導入され、酸素分圧低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易くなり、強酸性雰囲気下で耐え得る耐食性が要求される強酸性の環境下に晒される場合においても、金属イオンの溶出が低く抑えられ、耐食性に優れたものになる。
【0024】
酸素極セパレータ9として用いる基材は、少なくともCrの含有量が20[wt%]以上であることが好ましい。Crを20[wt%]以上を含むオーステナイト系テンレス鋼を用いると、プラズマ窒化により形成された窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するため、酸素極セパレータ9のように、酸素分圧が高く、表面酸化膜が溶解するよりは酸化膜が生成し易い80〜90[℃]の高温かつ強酸性環境下においても、電子の移動が妨げられず、導電性が維持されるようになる。
【0025】
このように、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9として、組成比の異なる基材を用いることにより、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池が得られる。また、窒化層は、プラズマ窒化という簡単な工程により得られるため、コストの低い燃料電池が得られる。
【0026】
水素極セパレータ8として用いる基材11はSUS316Lであり、酸素極セパレータ9として用いる基材はSUS310Sであることが好ましい。水素ガスが導入され、酸素分圧が低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極での環境では、Moを1.5[%]含むSUS316L材を用いることにより水素極セパレータは自己不動態化し易くなる。また、SUS316L材はローカーボン材のため、耐粒界腐食性が向上し、金属イオンの溶出が低く抑えられる。一方、空気が導入され、酸素分圧高く、表面酸化膜が溶解するよりも生成し易い酸素極での環境では、Crを20[wt%]以上添加したSUS310Sを用いることにより、窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するようになるため、電子の移動が妨げられず、導電性が維持されるようになり、その上、コスト的にも低コストを達成する。その他、水素極には、Moを含むオーステナイト系ステンレス鋼としてSUS317L、酸素極にはCrを20[wt%]以上含むオーステナイト系ステンレス鋼としてSUS309Sの組み合わせであってもよい。
【0027】
窒化層8a、9aは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されたM4N型結晶構造を有する遷移金属窒化物を含む。図5にM4N型結晶構造20を示す。このM4N型結晶構造20において、Mは、Fe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子21を表し、Nは窒素原子22を表し、窒素原子22はM4N型結晶構造20の単位胞中心の八面体空隙の1/4を占有する。すなわち、M4N型結晶構造20は、遷移金属原子21の面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子22が侵入した侵入型固溶体であり、立方晶の空間格子で表すと、窒素原子22は各単位胞の格子座標(1/2,1/2,1/2)に位置する。
【0028】
このM4N型の結晶構造20では、Feに対するCr原子比が高い場合には、窒化層中に含まれる窒素が窒化層中のCrと結びついてCrNなどのCr系窒化物、すなわちNaCl型の窒化化合物が主成分となり、窒化層の耐食性は低下する。このため、遷移金属原子21はFeを主体とすることが好ましい。この結晶構造では、高密度の転位や双晶を伴い、硬さも1000[HV]以上と高く、窒素が過飽和に固溶したfccまたはfct構造の窒化物であると考えられている(安丸、蒲池;日本金属学会誌,50,pp362−368,1986)。そして、表面に近いほど窒素濃度が高いことや、CrNが主成分とならないため、耐食性に有効なCrが減少せずに窒化後も耐食性が保たれる。このように、窒化層8a、9aがM4N型の結晶構造を有する場合には、燃料電池として通常使用されるpH2〜3の強酸性雰囲気においても化学的に安定であるため耐食性に優れ、かつガス拡散層7との間の接触抵抗を低く抑えることが可能となる。このため、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池が得られる。
【0029】
窒化層8a、9aにおけるM4N型結晶構造20を形成するFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子は、不規則に混合されていることが好ましい。各遷移金属原子が不規則に混合されることにより、各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下するため、各遷移金属原子の活量を低く抑えることができる。これに伴い、窒化層8a、9a中の各遷移金属原子の、酸化に対する反応性を低くすることができる。そして、燃料電池内の強酸性環境下においても窒化層8a、9aは化学的安定性を有する。このため、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9と、電極との間の接触抵抗を低く維持でき、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9の耐久性を高めることができる。また、電極との接触面となる水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9上に、金めっき等により貴金属めっき層を形成することなく低接触抵抗を維持できるため、低コスト化を実現することができる。
【0030】
また、面心立方格子を形成するFe、Cr、Ni及びMoの中から選択される遷移金属原子は、不規則に混合することにより、混合エントロピが増大して各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下しているか、又は、各遷移金属原子の活量がラウールの法則により推定される値より低くなっていることが好ましい。これにより、更にまた、各金属元素の酸化に対する反応性を低下させることができ、化学的安定性が向上する。
【0031】
また、水素極セパレータ8及び酸素極セパレータ9では、表面にM4N型の結晶構造20の結晶構造を含む窒化層8a、9aを設けている構成としたため、窒化層8a、9a中の遷移金属原子が窒素原子との間で共有性に富んだ結合を形成していることに加え、金属原子間には金属結合が形成されているため、電気伝導性に優れたセパレータ8、9を得ることができる。
【0032】
さらに、窒化層8a、9aは、M4N型の結晶構造のマトリクスと、このマトリクス中に形成されたε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の結晶層とを含むことが好ましい。M4N型の結晶構造のマトリクスにε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造を含む積層構造とすることで、窒化層の化学的安定性が確保される。窒化層は、結晶層を層間距離が数10〜100[nm]の範囲で有することが好ましい。この場合には、ナノレベルの微細な層状組織が2相平衡することにより自由エネルギーが低下して活量を低く抑え、酸化に対する反応性が低くなり、化学的安定性を有するようになる。そのため、特に強酸性雰囲気において酸化を抑制し耐食性に優れるようになる。
【0033】
このように、上記した構成を採用したことにより、本発明の実施の形態に係る燃料電池によれば、耐久性及び発電性能に優れ、かつコストの低い燃料電池を実現することが可能となる。
【0034】
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法について説明する。本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法は、Moを含む第1の基材の表面をプラズマ窒化して第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第1の窒化層を形成する段階と、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面をプラズマ窒化して第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第2の窒化層を形成する段階とを含むことを特徴とする。この方法により、水素極セパレータ及び酸素極セパレータの表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されている窒化層を有する燃料電池が容易に得られる。
【0035】
プラズマ窒化は、被処理物(ここではステンレス鋼箔)を陰極とし、直流電圧を印加してグロー放電、即ち、低温非平衡プラズマを発生させて、ガス成分の一部をイオン化し、非平衡プラズマ中のイオン化したガス成分を被処理物の表面に高速衝突させて窒化する方法である。図6は、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの製造方法に用いる窒化装置30の模式的側面図である。
【0036】
窒化装置30は、バッチ式の窒化炉31と、窒化炉31に設置された真空式窒化処理容器31aを排気して真空圧にする真空ポンプ34と、真空式窒化処理容器31aに雰囲気ガスを供給するガス供給装置32と、真空式窒化処理容器31a内でプラズマを発生させるため高電圧にチャージされるプラズマ電極33a、33b及びこれらの電極33a、33bに周波数45[KHz]の高周波にパルス化された直流電圧を供給するマイクロパルスプラズマ電源33と、真空式窒化処理容器31a内の温度を検知する温度検出計37とを備える。窒化炉31は、上記真空式窒化処理容器31aを収容する断熱性の絶縁材からなる外側容器31bを備え、バルブ弁付送気口31gを備える。真空式窒化処理容器31aは、その底部31cに、プラズマ電極33a、33bを高電位に保持するための絶縁体35を備える。プラズマ電極33a、33bは、その上にステンレス製の支架36が設けられている。この支架36は、プレス成形により燃料又は酸化剤の流路が形成され、セパレータの形状に加工したステンレス鋼箔44(以下、しばしば基材とも呼ぶ。)を支持する。ガス供給装置32は、ガス室38とガス供給管路39とを備え、ガス室38は所定数のガス導入用の開口(不図示)を有し、この開口は、それぞれガス供給弁(不図示)を備える水素ガス供給ライン(不図示)、窒素ガス供給ライン(不図示)、アルゴンガス供給ライン(不図示)に連通する。ガス供給装置32は、更に、ガス供給管路39の一端39aと連通するガス供給用の開口32aを有し、この開口32aにはガス供給弁(不図示)が設けられている。ガス供給管路39は、窒化炉31の外側容器31bの底部31dと真空式窒化処理容器31aの底部31cとを気密に貫通して真空式窒化処理容器31a内に延入し、垂直に立ち上がる立ち上がり部39bに至る。この立ち上がり部39bは、真空式窒化処理容器31a内にガスを噴出するための複数の開口39cが設けられている。真空式窒化処理容器31a内のガス圧は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられたガス圧センサ(不図示)により検知される。真空式窒化処理容器31aは、その外周に抵抗加熱式若しくは誘導加熱式のヒータ39の導電線39aが巻回され、これにより加熱される。真空式窒化処理容器31aと外側容器31bとの間には空気流路40が画成される。外側容器31bの側壁31eには、外側容器31bの側壁31eに設けられた開口31fから空気流路40に流入した空気を送る送風機41が設けられている。空気流路40は空気が流出する開口40aを備える。真空ポンプ34は、真空式窒化処理容器31aの底部31cに設けられた開口31hと連通する排気管路45を介して排気を行う。温度検出計37は、真空式窒化処理容器31aと外側容器31bの底部31c、31d及びプラズマ電極33a、33bを貫通して信号線路37aを介して温度センサ37b(例えば熱伝対)に接続される。
【0037】
マイクロパルスプラズマ電源33はプロセス制御装置42から制御信号を受け、オン、オフされる。各ステンレス鋼箔44は、アース側(例えば、真空式窒化処理容器31aの内壁31i。)に対し、マイクロパルスプラズマ電源33から供給される電圧分の電位差を有する。ガス供給装置32、真空ポンプ34、温度検出計37及びガス圧センサもプロセス制御装置42によって制御され、このプロセス制御装置42は、パーソナルコンピュータ43により操作される。
【0038】
本発明の実施の形態で用いたプラズマ窒化法についてより詳細に説明する。まず、窒化炉31内に被処理物であるステンレス鋼箔44を配置し、1[Torr](=133[Pa])以下の真空に炉内を排気する。次に、窒化炉31内に水素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入した後、数[Torr]〜十数[Torr](665[Pa]〜2128[Pa])の真空度で、ステンレス鋼箔44を陰極、真空式窒化処理容器31aの内壁31iを陽極として、電圧を印加する。この場合、陰極であるステンレス鋼箔44上にグロー放電が発生し、このグロー放電によりステンレス鋼箔44を加熱及び窒化する。
【0039】
本発明の実施の形態に係る燃料電池に用いるセパレータの製造方法として、第一の工程として、ステンレス鋼箔からなる基材44表面の不導態皮膜を除去するスパッタークリーニングを実施する。このスパッタークリーニングの際、導入ガスがイオン化した水素イオン、アルゴンイオンなどが試料表面に衝突することで、ステンレス鋼箔44表面のCrを主体とした酸化皮膜を除去することができる。
【0040】
第2の工程として、スパッタークリーニングの後、水素ガスと窒素ガスの混合ガスを真空式窒化処理容器31a内に導入し、電圧を印加して陰極である基材44上にグロー放電を発生させる。この際、イオン化した窒素が基材44表面に衝突、侵入及び拡散することにより、基材44表面にM4N型結晶構造を有する連続した窒化層が形成される。窒化層の形成と同時に、イオン化した水素と基材表面の酸素が反応する還元反応により、基材表面に形成された酸化膜が除去される。
【0041】
なお、このプラズマ窒化法では、基材44表面での反応は平衡反応ではなく非平衡反応であり、その上、300[℃]以上550[℃]以下の温度で処理した場合に、基材44表面から深さ方向に高窒素濃度のM4N型結晶構造を含む遷移金属窒化物が迅速に得られ、この窒化物は導電性と耐食性に富む。
【0042】
これに対し、大気圧でかつ平衡反応により窒化が進行する窒化法、例えば、ガス窒化法などを用いた場合、基材表面の不導態皮膜を除去するのが難しく、かつ平衡反応のため、基材表面に、M4N型結晶構造を得るようにするには長時間を要し、かつ、所望の窒素濃度が得られ難くなる。このため、基材表面に酸化皮膜が存在するため導電性が悪化し、化学的安定性に欠けるため、この窒化法により得られた窒化物及び窒化層では強酸性雰囲気での導電性維持が困難となる。
【0043】
本発明の実施の形態では、電源としてマイクロパルスプラズマ電源を用いることが好ましい。プラズマ窒化法に用いる電源としては、直流電圧を印加し、この放電電流を電流検出器により検出し、所定の電流となるようサイリスタにより制御する直流波形を有する直流電源を用いるのが一般的である。この場合、グロー放電は連続的に継続され、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度は±30[℃]程度の範囲で変化する。これに対し、マイクロパルスプラズマ電源は、直流電圧とサイリスタによる高周波遮断回路から構成されており、この回路により直流電源波形は、グロー放電がオンとオフを繰り返すパルス波形となる。この場合、プラズマを放電させる時間とプラズマを遮断する時間を1〜1000[μsec]として放電、遮断を繰り返すマイクロパルスプラズマ電源を用いたプラズマ窒化を行うことで、基材温度を放射温度計により測定すると、基材温度の変化は±5[℃]程度の範囲になる。高窒素濃度を有する遷移金属窒化物を得るためには、基材温度の精密温度制御が要求されることから、基材温度の変化の小さいマイクロパルスプラズマ電源を用い、この電源は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能であることが好ましい。
【0044】
さらに、窒化処理を基材表面の温度を320[℃]以上550[℃]以下の温度に保持して行うことが好ましい。ステンレス鋼の表面に高温で窒化処理を施すと、窒素が基材中のCrと結びつき、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化物を析出するためにセパレータの耐食性が低下する。これに対し、320[℃]以上550[℃]以下の温度で窒化処理を施すと基材表面には、NaCl型の結晶構造を有するCrN等の窒化化合物ではなく、主として基材表面にM4N型結晶構造を有する窒化層が形成されるため、耐食性が向上したセパレータが得られる。また、セパレータと隣接するガス拡散電極等の構成材料との接触抵抗を低く抑えることができ、燃料電池の発電効率を維持でき、優れた耐久信頼性を有する燃料電池を低コストにより得ることができる。なお、窒化温度が320[℃]を下回る場合には、この結晶構造を有する窒化層を得るためには長時間の処理を必要とするために生産性が悪化する。このため、窒化処理は320[℃]以上550[℃]以下の範囲で行うことが好ましい。また、基材表面の温度を400 [℃]以上425[℃]以下の範囲に保持して窒化を行うことがより好ましい。
【0045】
このように、本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法によれば、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池のセパレータをプラズマ窒化により容易に得られるため、高性能の燃料電池の製造が容易になり、製造コストを低く抑えることができる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態に係る燃料電池車両の一例として、前述した本発明の実施の形態に係る燃料電池を動力源とした燃料電池電気自動車を挙げて説明する。図7は、燃料電池スタック1を搭載した燃料電池電気自動車の外観を示す図である。図7(a)は燃料電池電気自動車50の側面図、図7(b)は燃料電池電気自動車50の上面図である。図7(b)に示すように、車体51前方には、左右のフロントサイドメンバとフードリッジのほか、フロントサイドメンバを含む左右のフードリッジ同士を互いに連結するダッシュロア部材をそれぞれ組み合わせて溶接接合したエンジンコンパートメント部52を形成している。図7(a)及び(b)に示す燃料電池電気自動車50では、エンジンコンパートメント部52内に燃料電池スタック1を搭載している。
【0047】
本発明の実施の形態に係る、耐久性及び発電性能に優れた燃料電池を自動車等の移動体車両に搭載することにより、耐久性に優れた燃料電池車両を提供することができる。
【0048】
なお、燃料電池車両の一例として電気自動車を挙げたが、本発明は電気自動車等の車両に限定されるものではなく、電気エネルギが要求される航空機その他の機関にも適用することが可能である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施の形態に係る燃料電池用セパレータの実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4について説明する。これらの実施例は、本発明の有効性を調べたもので、異なる原料に対して異なる条件下で処理して各試料を調製したものであり、例示した実施例に限定されるものではない。
【0050】
<試料の調製>
各実施例及び比較例では、基材として、JIS規格のSUS304L、SUS316L、SUS317L、SUS317J1、SUS310S、SUS309S及びSUS219J1を原材料とした□100×100[mm]、厚さ0.1[mm]の真空焼鈍材を用いた。この基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路を形成してセパレータとした。プレス成形により得られたセパレータを酸洗した後、真空焼鈍材の両面にマイクロパルスプラズマ電源を用いて直流電流グロー放電によるプラズマ窒化を施した。プラズマ窒化の条件は、窒化温度は295[℃]〜560[℃]、窒化時間60[分]、窒化時のガス混合比N2:H2=7:3、処理圧力3[Torr](=399[Pa])とした。なお、比較例1の試料はプラズマ窒化を行わなかった。また、比較例4では、マイクロパルスプラズマ電源の代わりに直流プラズマ電源を用いた。表1に、基材の鋼種、基材の化学組成、プラズマ窒化の有無、使用したプラズマ電源、窒化中の基材の温度を示す。
【表1】
【0051】
得られた各試料を、次に示す評価法を用いて評価した。
【0052】
<窒化層の結晶構造の同定>
上記方法によって得られた試料の窒化層の結晶構造の同定は、窒化処理を施すことによって改質した基材表面をX線回折測定を行うことにより行った。装置は、マックサイエンス社製 X線回折装置(XRD)を用いた。測定は、線源はCuKα線、回折角20〜100[゜]、スキャン速度2[゜/min]の条件で行った。
【0053】
<窒化層の観察>
透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の試料とするために、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られた窒化層の表面付近の薄膜試料を作製した。作製には装置として収束イオンビーム装置(FIB)日立製作所製FB2000Aを用い、FIB−μサンプリング法を用いて試料を作製した。この試料を、電界放射型透過電子顕微鏡(日立製作所製HF−2000)を用いて200[kV]にて観察した。
【0054】
<接触抵抗値の測定>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られたセパレータの接触抵抗を発電試験前と発電試験後において測定した。装置は、アルバック理工製 圧力負荷接触電気抵抗測定装置 TRS-2000SS型を用いた。そして、図8(a)に示すように、電極61とサンプル62との間にカーボンペーパ63を介在させて、図8(b)に示すように、電極61a/カーボンペーパ63a/サンプル62/カーボンペーパ63b/電極61bの構成とした。そして、測定面圧1.0[MPa]にて1[A/cm2]の電流を流した際の電気抵抗を2回測定し、各電気抵抗の平均値を求めて接触抵抗値とした。なお、接触抵抗値は、後述する耐食試験の前後で2回測定を行った。耐食試験後の接触抵抗値は、燃料電池内で燃料電池用セパレータが曝される環境を模擬して、酸化環境下での耐食性を評価したものである。カーボンペーパは、カーボンブラックで担持した白金触媒を塗布したカーボンペーパ(東レ(株)製カーボンペーパ TGP-H-090 厚さ0.26[mm]、かさ密度0.49[g/cm3]、空隙率73[%]、厚さ方向体積抵抗率0.07[Ω・cm2])を用いた。電極は、直径φ20のCu製電極を用いた。
【0055】
<耐食試験>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4で得られた試料をセパレータとして用い、電極構造体(MEA)の両側にセパレータを配置した1つの燃料電池ユニット(単セル)を組み立てた。この組み立てたユニットに燃料ガスとして水素、酸化剤ガスとして空気を流し、電流密度0.5[A/cm2]で100[時間]の連続運転を行った。この連続運転中に生成した生成水中に含まれる金属イオン濃度をプラズマ発光−質量分析装置(ICP−MS)により測定し、金属イオン溶出量の値から耐食性の低下の度合いを評価した。
【0056】
<窒化層の元素の同定及び定量>
窒化層の表面から深さ5[nm]までの範囲において、オージェ電子分光分析のデプスプロファイル計測により、窒化層の元素の同定及び定量を行った。測定には、走査型オージェ電子分光分析装置(PHI社製 MODEL4300)を用い、電子線加速電圧5[kV]、測定領域20[μm]×16[μm]、イオン銃加速電圧3[kV]、スパッタリングレート10[nm/min](SiO2換算値)の条件で行った。
【0057】
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例4における基材の組織、窒化層の結晶構造、耐食試験前後の接触抵抗値、生成水中のイオン溶出量の測定結果を表2に示す。
【表2】
【0058】
比較例1で得られた試料の表面は結晶構造がγであり、セパレータ表面に窒化層が形成されていない。このため、水素極、酸素極両極で耐食試験前及び耐食試験後の接触抵抗値は高い値を示した。また、水素極セパレータ、酸素極セパレータ共に、表面に窒化層が形成されていないが、イオンの溶出量は実施例1と比較してほとんど変わらなかった。これは、表面に導電性を有さない厚い不動態皮膜が形成されているためと考えられる。
【0059】
比較例2で得られた試料では、セパレータ表面にM4N型の結晶構造を含む窒化層が形成されているが、水素極セパレータの基材として、Moを含まないSUS304Lを用いたため、耐食試験後の接触抵抗値が135[mΩ・cm2]に増加して導電性が悪化した。また、金属イオン溶出量が実施例1と比較して多く、耐食性も悪化した。一方、酸素極セパレータには、Crの含有量が20[wt%]を下回るSUS316Lを用いたため、耐食試験後の接触抵抗値が124[mΩ・cm2]へ増加して導電性が悪化し、イオンの溶出量も実施例1と比較して大きく悪化した。これは、水素ガスが導入され、酸素分圧低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極での環境では、Moを含まない材料を用いたことにより、表面が自己不動態化し難くなり、またローカーボン材ではないために耐粒界腐食性が悪化して金属イオンが多量に溶出した。このためにセパレータ表面は腐食による酸化が進行して接触抵抗値が悪化した。一方、空気が導入され、酸素分圧高く、表面酸化膜が溶解するよりも生成し易い酸素極での環境では、Crが20[wt%]以下の材料を用いたため、窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成し難くなり化学的に不安定になることで金属イオンが多量に溶出し易くなり、セパレータ表面は腐食による酸化が進行して電子の移動が妨げられ、導電性が悪化したと考えられる。
【0060】
比較例3で得られた試料では、水素極セパレータでは、窒化時の基材温度が300[℃]を下回ったため、表面に窒化層が形成されなかった。このため、耐食試験前及び耐食試験後の接触抵抗値は高い値を示した。一方、酸素極セパレータでは、窒化時の基材温度が550[℃]を上回ったため、窒化物の結晶構造が、主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等となるために耐食性が悪化し、金属イオンが多量に溶出した。このため、セパレータ表面は腐食による酸化が進行して電子の移動が妨げられ、導電性も悪化した。
【0061】
比較例4で得られた試料では、プラズマ電源をマイクロパルスではなく、直流電源を用いて窒化したため、水素極セパレータでは、窒化時の基材温度が300[℃]を上回っていたが、表面には窒化物は形成されなかった。このため、耐食試験前及び耐食試験後の接触抵抗値は高い値を示した。一方、酸素極セパレータでは、窒化時の基材温度が550[℃]を下回っていたが、窒化物の結晶構造が、M4N型ではなく主としてNaCl型の結晶構造を有するCrN等であった。このため、耐食性が悪化して金属イオンが多量に溶出することで表面は腐食による酸化が進行し、電子の移動が妨げられ、導電性も悪化した。
【0062】
これに対して、実施例1〜実施例4の各試料では、水素極、酸素極共に耐食試験後であっても接触抵抗値は低く、イオン溶出量は少なかった。これは、水素極セパレータの基材として、Moを含み、かつ、ローカーボンを用いたことにより、水素ガスが導入され、酸素分圧低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極での環境では、表面が自己不動態化し易くなり、金属イオン溶出が抑えられたことが考えられる。また、Moを含み、かつ、ローカーボンを用いたことにより、未窒化層にCr濃度が低下したCr欠乏層が形成されることなく、M4N型結晶構造を含む窒化層が形成され易くなり、さらに、形成された窒化層が化学的に安定することによると考えられる。また、不純物である炭素の含有量の少ない基材を用いることにより、結晶粒界に析出し、粒界腐食を促進する炭化物などの析出物が低く抑えらる。炭化物などの析出物が抑えられることにより粒界腐食し難くなり、結晶粒界からのイオン溶出が抑制されて耐食性が向上する上、接触抵抗値の増大が抑制されるようになる。また、酸素極セパレータの基材として、Crを20[wt%]以上含む基材を用いたため、基材表面の窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するようになる。このため、酸素極セパレータのように、酸素分圧が高く、80〜90[℃]の高温かつ強酸性環境下においても、電子の移動が妨げられず、導電性が維持され、その上イオン溶出性に優れるようになる。
【0063】
実施例1及び実施例3の水素極では、M4N単層が形成され、実施例1の酸素極セパレータ、実施例2の水素極及び酸素極セパレータ、実施例3の酸素極セパレータ、及び実施例4の水素極及び酸素極セパレータの表面に形成された窒化層は、層状のε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造を有する析出物が数10〜100[nm]の間隔でM4Nマトリクスに析出した複合組織を形成していた。図9に実施例1により得られた酸素極セパレータの倍率30000倍のTEM写真を、図10(a)に図9に示す71a部の拡大写真(倍率100000倍)を、図10(b)に図10(a)に示す71b部の拡大写真(倍率300000倍)を示す。図9に示すように、基材として使用したステンレス鋼70の表面70aを窒化することにより、基材70の表面70aの深さ方向に窒化層71が形成され、窒化層71の直下は窒化されていない未窒化層である基層72となっている。図10に示すように、窒化層71には層状の組織が繰り返された2相複合組織が観測され、図中白く見えるM4N型の結晶構造のマトリクス73と、図中黒く見えるマトリクス73中に形成された層状のε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の結晶層74であることが判明した。結晶層74と結晶層74の層間距離は、数10〜100[nm]の範囲だった。図11に示す走査型オージェ電子分光分析の結果より、窒化層71はFeを主成分としていることがわかった。このように、実施例1〜実施例4ではM4N型の結晶構造及びε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造が形成されているため、実施例1〜実施例4の各試料の耐食試験前後における接触抵抗値はいずれも低い値を示した。また、いずれの試料もイオン溶出量が比較例よりも低い値を示しており、耐食性が良好であった。
【0064】
このように、実施例1〜実施例4の各試料が酸化性環境下における電気化学的安定性に優れ、耐食性が良好であった理由は、窒化層がM4N型結晶構造を有することにより遷移金属原子間の金属結合を保ち、遷移金属原子と窒素原子との間で強い共有結合性を示すことによる。加えて、面心立方格子を構成する遷移金属原子が不規則に混合することにより、各遷移金属成分の部分モル自由エネルギが低下して活量を低く抑えることができたことによるものと考えられる。また、層状のε−(Fe,Cr)2〜3N型の結晶構造の結晶層を有することにより、ナノレベルの微細な層状組織が2相平衡し、自由エネルギーが低下して活量を低く抑えることができ、これにより酸化に対する反応性が低くなり、化学的安定性を有するようになる。このため、特に強酸性雰囲気において酸化を抑制し、耐食性に優れるようになる。また、窒化層の最表層に数十ナノレベルの薄い酸化膜が形成されているため、導電性を悪化させることなく耐食性が向上する。
【0065】
この上、水素極にはMoを1.5[wt%]含むオーステナイト系ステンレス鋼を、また酸素極にはCrを20[wt%]以上含むオーステナイト系ステンレス鋼を用いることにより、水素ガスが導入され、酸素分圧が低いために酸化膜生成よりは表面酸化膜が溶解し易い水素極の環境では、耐粒界腐食性が向上し、金属イオンの溶出が低く抑えられる。一方、空気が導入され、酸素分圧が高く、表面酸化膜が溶解するよりも生成し易い酸素極の環境では、窒化層の最表面に厚さが数十[nm]よりも薄く導電性を有するCr系の酸化膜が形成するようになるため、電子の移動が妨げられず、導電性が維持されるようになる。
【0066】
なお、燃料電池では、単位セル当りの理論的な電圧は1.23[V]となるが、反応分極、ガス拡散分極、抵抗分極により実際に取り出せる電圧が降下し、取り出す電流が大きくなるほど電圧は降下する。また、自動車用用途では、単位体積・重量当りの出力密度を大きくしたいことから、定置用より高電流密度側、例えば、電流密度1[A/cm2]で使用される。このため、電流密度が1[A/cm2]の時には、セパレータとガス拡散層と間の接触抵抗が20[mΩ・cm2] 、つまり、図8(b)に示す装置での測定値が40[mΩ・cm2] 以下であれば接触抵抗による発電効率の低下が抑えられると考えられる。本実施例1〜実施例4では、耐食試験前後における接触抵抗値が40[mΩ・cm2] 以下であるため、これらの試料を用いた場合には、単位セル当りの起電力が高く、発電性能に優れた燃料電池を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池を構成する燃料電池スタックの外観を示す斜視図である。
【図2】燃料電池スタックの展開図である。
【図3】燃料電池スタックを構成する単セルの両側に水素極セパレータ及び酸素極セパレータを配置した構成を示す断面図である。
【図4】(a)水素極セパレータの要部の拡大図である。(b)水素極セパレータのIVb-IVb線断面図である。(c)水素極セパレータのIVc-IVc線断面図である。
【図5】窒化層に含まれるM4N型結晶構造を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る燃料電池の製造方法に用いる窒化装置の模式的側面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る燃料電池スタックを搭載した電気自動車の外観を示す図であり、(a)は電気自動車の側面図、(b)は電気自動車の上面図である。
【図8】(a)各実施例で得られた試料の接触抵抗の測定方法を説明する模式図である。(b)接触抵抗の測定に使用する装置を説明する模式図である。
【図9】実施例1により得られた試料のTEM写真である。
【図10】(a)71a部の拡大写真である。(b)71b部の拡大写真である。
【図11】実施例1により得られた試料の走査型オージェ電子分光分析による深さ方向の元素プロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1 燃料電池スタック
2 単セル
3 固体高分子型電解質膜
4 水素極
5 酸素極
6 触媒層
7 ガス拡散層
8 水素極セパレータ
8a 窒化層
9 酸素極セパレータ
9a 窒化層
10 セパレータ
11 基材
11a 表面
12 基層
13 流路
14 平板部
20 M4N型結晶構造
21 遷移金属原子
22 窒素原子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素極セパレータと酸素極セパレータとを有する燃料電池であって、
前記水素極セパレータは、Moを含む第1の基材の表面窒化処理部である第1の窒化層を備え、前記第1の窒化層は前記第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されており、
前記酸素極セパレータは、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面窒化処理部である第2の窒化層を備え、前記第2の窒化層は前記第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記M4N型の結晶構造は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記第1の基材はSUS316Lであり、前記第2の基材はSUS310Sであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
Moを含む第1の基材の表面をプラズマ窒化して前記第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第1の窒化層を形成する段階と、
20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面をプラズマ窒化して前記第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第2の窒化層を形成する段階とを含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記第1及び第2の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路を形成する段階を含むことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記第1の窒化層を形成する段階及び前記第2の窒化層を形成する段階は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能なマイクロパルスプラズマ電源を用いて前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記第1の窒化層を形成する段階及び前記第2の窒化層を形成する段階は、前記第1及び第2の基材表面の温度を300 [℃]以上550[℃]以下の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記第1の窒化層を形成する段階及び前記第2の窒化層を形成する段階は、前記第1及び第2の基材表面の温度を400 [℃]以上425[℃]以下の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項3のいずれかに係る燃料電池を動力源として備えることを特徴とする燃料電池車両。
【請求項1】
水素極セパレータと酸素極セパレータとを有する燃料電池であって、
前記水素極セパレータは、Moを含む第1の基材の表面窒化処理部である第1の窒化層を備え、前記第1の窒化層は前記第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されており、
前記酸素極セパレータは、20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面窒化処理部である第2の窒化層を備え、前記第2の窒化層は前記第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有して連続して形成されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記M4N型の結晶構造は、Fe、Cr、Ni及びMoの群から選択される遷移金属原子によって形成された面心立方格子の単位胞中心の八面体空隙に窒素原子が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記第1の基材はSUS316Lであり、前記第2の基材はSUS310Sであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃料電池。
【請求項4】
Moを含む第1の基材の表面をプラズマ窒化して前記第1の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第1の窒化層を形成する段階と、
20[wt%]以上のCrを含む第2の基材の表面をプラズマ窒化して前記第2の基材の表面から深さ方向にM4N型の結晶構造を含む遷移金属窒化物を含有する連続した第2の窒化層を形成する段階とを含むことを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項5】
さらに、前記第1及び第2の基材にプレス成形を施して燃料又は酸化剤の通路を形成する段階を含むことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項6】
前記第1の窒化層を形成する段階及び前記第2の窒化層を形成する段階は、1〜1000[μsec]の周期でプラズマの放電及び遮断を繰り返すことが可能なマイクロパルスプラズマ電源を用いて前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記第1の窒化層を形成する段階及び前記第2の窒化層を形成する段階は、前記第1及び第2の基材表面の温度を300 [℃]以上550[℃]以下の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか一項に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記第1の窒化層を形成する段階及び前記第2の窒化層を形成する段階は、前記第1及び第2の基材表面の温度を400 [℃]以上425[℃]以下の範囲に保持して前記プラズマ窒化を行うことを特徴とする請求項7に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項3のいずれかに係る燃料電池を動力源として備えることを特徴とする燃料電池車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2008−59978(P2008−59978A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237468(P2006−237468)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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