説明

燃料電池および燃料電池の製造方法

【課題】フラッティングを抑制する燃料電池を提供する。
【解決手段】電解質膜11と、水素流路17を有するアノードセパレータ19と、空気流路18を有するカソードセパレータ20と、冷媒流路21を有する燃料電池スタック1において、アノードセパレータ19とカソードセパレータ20のうち少なくともどちらか一方を導電部19a、20aと絶縁部19b、20bによって構成し、水素流路17または空気流路18を水によって塞ぐ可能性が高い箇所ほど、絶縁部19b、20bの厚さを厚くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池に関するものであり、特にガス流路の伝熱性能を調節する燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池システムでは、例えばプロトン伝導性を有する高分子電解質膜とこれを狭持するように配置されたアノードおよびカソードとからなる単セルを複数個積層した燃料電池本体(スタック)を備える。アノード側ガス流路には燃料としての水素を、水素供給源として例えば高圧の水素ボンベから供給し、カソード側ガス流路には酸化剤としての空気を例えばコンプレッサもしくはブロアを介して大気より供給している。アノード、カソードにはそれぞれの極において反応を促進するためにPt等の貴金属を主とした触媒層を備える。
【0003】
アノードでは以下の反応を生じて、燃料としての水素がプロトンと電子に分離される。
【0004】
アノード:H2→2H++2e- 式(1)
プロトンは高分子電解質の内部を拡散してカソードに到達し、電子は外部回路を流れ燃料電池出力として取り出される。
【0005】
カソードにおいては、アノードから高分子電解質中を拡散してきたプロトン、アノードから外部回路を通じて移動してきた電子、および空気中の酸素がカソードの触媒層中に形成されている三相界面上で以下の反応を生じて水を生成する。
【0006】
カソード:1/2O2+2H++2e-→H2O 式(2)
高分子電解質膜は、プロトン一分子に複数の水分子を伴うことにより良好なプロトン伝導性を発揮することは公知であり、電解質が良好なプロトン導電性を保つためには燃料ガス、酸化剤ガスの少なくとも一方を適度に加湿する必要がある。しかしながら、ガス中の水分や式(2)の反応に伴って生成される水分子はガス拡散層のガス透過通路を閉塞する要素となり、式(1)、(2)の反応項成分と触媒との気固接触反応を妨害する要因となっている。
【0007】
また、従来の燃料電池のガス流路はカーボンもしくは金属等を加工して成型されており、セパレータにおいてガス流路はガス流れ方向でガス流速が均一になるように加工されている。
【0008】
このような構成において、発電により供給された燃料ガスおよび酸化剤ガスが消費されると、供給されるガスはセパレータを介して冷媒流路に供給される冷却媒体と熱交換される。そのため、ガス流路入口に対して相対的に流路出口方向はガス湿度が高くなり、かつ、ガス流速が遅くなるのでガス流れの慣性で生成された水を除去するのが難しくなる。
【0009】
これに対して、燃料ガスおよび酸化剤ガス流路のガス通路の深さを入口側と比較して相対的に出口側が浅くなるように、あるいはガス通路の幅を入口側と比較して相対的に出口側が狭くなるように構成することにより、出口付近のガス流速を増大させることによりガス拡散性を向上し、フラッディングを解消しているものが特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2003−132911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ガス流路の深さを変化させることで、アノードおよびカソードのセパレータ背面を電解質に対して平行に設置できないためスタックを構成する際に、応力の集中によりセパレータが劣化する可能性がある。または、セパレータ厚さを全体的に一定としてガス流路の深さを変化させた場合、セパレータの構成部材の厚さが不均一となるため、セパレータが劣化する可能性がある。
【0011】
また、ガス流路幅を変化させた場合、セパレータと電極との接触面積が不均一となるため、スタックを構成する際の応力集中や、燃料漏れが生じる可能性がある。
【0012】
そこで本発明は、上記問題を鑑みて、性能低下を抑制しつつ、ガス拡散性を向上した燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、アノード極とカソード極との間に挟まれた電解質膜と、アノード極に供給される燃料ガスを流通する燃料ガス流路を有する第1セパレータと、カソード極に供給される酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する第2セパレータと、燃料電池を冷却する冷却水が流通する冷媒流路と、を備えた燃料電池において、第1セパレータまたは第2セパレータのうち少なくともどちらか一方は、導電性の第1部材と前記導電性部材よりも熱伝導性の低い第2部材で構成され、燃料電池の発電時に燃料ガス流路または酸化剤ガス流路を水によって塞ぐ可能性が高い箇所ほど、第2部材の厚さを厚くする。
【0014】
また、アノード極とカソード極との間に挟まれた電解質膜と、アノード極に供給される燃料ガスを流通する燃料ガス流路を有する第1セパレータと、カソード極に供給される酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する第2セパレータと、燃料電池を冷却する冷却水が流通する冷媒流路と、を備えた燃料電池の製造方法において、第1セパレータと第2セパレータを燃料ガス流路と酸化剤ガス流路の背面が冷媒流路となるように接合する行程と、燃料ガス流路または酸化剤ガス流路または冷媒流路の少なくとも1つの流路の電解質液を接触させる時間を制御し、陽極酸化法によって酸化被膜を形成する行程と、からなり、燃料電池の発電時に燃料ガス流路または酸化剤ガス流路を水によって塞ぐ可能性が高い箇所ほど酸化被膜の厚さを厚くする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、燃料電池の空気流路または水素流路内で水によって流路を塞ぐ可能性が高い箇所の熱伝導性を低くし、流路内の温度を高くして、燃料電池から排出されるガス中の水量を多くすることができるので、流路内のフラティングを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の第1実施形態による燃料電池スタック1の構成を図1を用いて説明する。なお、図1には便宜的に燃料電池スタック1を一つの燃料電池2で示すが、複数の燃料電池2を積層し、積層方向に圧力を掛けてスタッキングすることにより燃料電池スタック1を構成する。
【0017】
燃料電池2は、電解質膜11と、電解質膜11の主面に形成されたアノード触媒層12、カソード触媒層13と、さらにその外側に配置された多孔質材よりなるアノードガス拡散層14とカソードガス拡散層15とからなる膜電極複合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)16を備える。電解質膜11としては、水素を透過するものであればよいが、ここではパーフルオロスルホン酸の膜を用いる。また、触媒層12、13としては白金担持カーボンを用いる。さらに、アノードガス拡散層14またはカソードガス拡散層15としては、水素または空気の反応ガスを拡散する多孔質材であれば良いが、ここではカーボンペーパを用いる。
【0018】
さらに、MEA16の外側には、MEA16に対峙する面に水素流路(燃料ガス流路)17を有するアノードセパレータ(第1セパレータ)19と、空気流路(酸化剤ガス流路)18を有するカソードセパレータ(第2セパレータ)20を備える。なお、水素流路17と空気流路18をそれぞれ複数の直線の溝により構成する。
【0019】
アノードセパレータ19とカソードセパレータ20の水素流路17、空気流路18を設けた面の背面に、複数の溝よりなる冷媒流路21を備える。なお、この限りではなく、冷媒流路21をアノードセパレータ19、またはカソードセパレータ20のどちらか一方に設けても良く、さらには冷媒流路21を構成する他の構成部材を備えても良い。冷媒流路21には冷却水が供給されるが、これに限られず、燃料電池2を冷却するものであればよい。
【0020】
また、電解質膜11の縁部に沿って絶縁性樹脂のエッジシール部22を備え、反応ガスの漏洩を抑制する。
【0021】
アノードセパレータ19とカソードセパレータ20は電気抵抗の小さいアルミニウムクラッド材を用い、特にカソードセパレータ20はアルミニウムクラッド材で構成する導電部(第1部材)20aとし、導電部20aよりも熱導電性の低い絶縁部(第2部材)20bから構成される。
【0022】
なお、アノードセパレータ19は電気抵抗が小さく比較的加工が容易な炭素部材を用いても良く、カソードセパレータ20は導電部20aとして炭素部材を用い、絶縁部20bに絶縁性セラミックスを用いても良い。
【0023】
次にカソードセパレータ20について図2を用いて説明する。図2は図1のA−A断面図である。
【0024】
カソードセパレータ20は、導電部20aと絶縁部20bによって形成する空気流路18を有する。導電部20aに構成された溝は空気が供給される空気入口近傍から空気出口近傍にかけて徐々に深くなるように傾斜を付けて形成され、絶縁部20bは空気が供給される空気入口近傍から空気出口近傍にかけて溝の傾斜と逆傾斜となるように徐々に厚さを厚くして構成する。空気流路18が空気出口近傍となるにつれて絶縁部20bの厚さが厚くなるが、カソードセパレータ20の厚さは空気流路18に沿って一定となる。つまり、空気流路18の流路断面積は空気流路18の上流、下流にかかわらず一定である。ここでは空気流路18の流路断面積を一定としたが、これに限られず、例えば出口近傍の流路断面積を小さくしてもよい。
【0025】
絶縁部20bは導電部20aに設けた溝の全壁面に設けられる。つまり空気流路18は絶縁部20bによって覆われている。なお、空気入口近傍では導電部20aの溝に絶縁部20bを設けずに、導電部20aのみによって空気流路18を構成しても良い。
【0026】
また、絶縁部20bはカソードガス拡散層15と導電部20aが電気的に接続し、燃料電池1の発電効率を低くしないように、つまりカソードガス拡散層15と導電部20aの接触面積が十分に確保できるように設けられる。
【0027】
以上の構成によってフラッディングが生じやすい空気流路18の出口近傍において、導電部20aよりも熱伝導性の低い絶縁部20bを空気流路18の入口近傍よりも空気流路18と冷媒流路21間で厚くすることにより空気流路18から冷媒流路21(導電部20b)への伝熱量を小さくすることができ、空気流路18の出口近傍の酸化剤ガス温度を高くすることで、水の凝縮を防止しフラッディングを抑制することができる。
【0028】
次にセパレータ(アノードセパレータ19、カソードセパレータ20)の製造方法について図3のフローチャートと図4の工程図を用いて説明する。
【0029】
ステップS100では、ろう材面30にJISA4343を用い、母材31としてJISA1050を用いてアルミニウムクラッド材32(導電部20a)を構成する(図4(a))。
【0030】
ステップS101では、アルミニウムクラッド材32を燃料電池1で使用するセパレータの形状にプレス成型し、水素流路17、空気流路18、冷媒流路21の溝を成型する(図4(b))。
【0031】
ステップS102では、2枚のアルミニウムクラッド材32のろう材面30同士を向かい合わせて、ろう材面30にアルミナ酸化被膜と化学反応を起こしてアルミナ酸化被膜を破壊するフラックス剤を接合面に塗布後、電気炉内にて620℃で10分間加熱する。これによってろう材面30を溶接し、ろう材面30によって冷媒流路21を形成する(図4(c))。
【0032】
ステップS103では、空気流路18に4wt%シュウ酸溶液を電解液として用いて循環させ、セパレータを陽極として、循環させた電解液を戻すタンク側にSUS304剤を陰極として含浸させ、陽極としたセパレータと陰極としたSUS304材を電源装置に接続し、電流調整装置としてガルバノスタットを用いて、電流密度50A/cm2条件の一定電流密度において、陽極酸化法により空気流路18内に酸化被膜33(絶縁部20b)を形成する(図4(d))。
【0033】
ここで、酸化被膜33の厚さと熱伝導性の関係を図5を用いて説明する。酸化被膜33が厚くなると熱伝導性は低下する。そのため空気流路18において、空気流路18の出口近傍の酸化被膜33を厚くすることにより、空気流路18の出口近傍の酸化剤ガス温度を高くし、水の凝縮を防止しフラッディングを抑制することができる。
【0034】
陽極酸化法による酸化被膜33の形成は、電解液を循環させずにタンク電解液液面高さを調整することで、酸化被膜33を任意の箇所に形成することができる。また、電解液との接触時間、電流密度を制御することにより、空気流路18内に任意の厚さの酸化被膜33を形成することができる。また、陽極酸化法によりステップS103で形成した冷媒流路21、または水素流路17に酸化被膜を形成することも可能である。
【0035】
ステップS104では、電解めっき法によりステップS103で酸化被膜33を形成した箇所以外に銅めっき、ニッケルめっきの順にめっき処理を施して下地とした後に金めっきをコーティングしてセパレータにめき処理を施す。なお、銅めっき、ニッケルめっき、金めっきは酸化被膜33の上には形成されず、導電部20aとなるアルミニウムクラッド材32にのみ金被膜34が形成される(図4(e))。
【0036】
なお、ここではセパレータの材料としてアルミニウムクラッド材を用いたが、これに限られず、導電性であり酸化被膜を形成可能な材料であれば良い。また、電解液にシュウ酸を用いたが、その他にリン酸、硫酸などを用いて陽極酸化法によって酸化被膜を形成しても良い。さらに陽極酸化法の他に、窒化処理によって窒化物をアルミニウムクラッド材に形成しても良い。
【0037】
この実施形態ではカソードセパレータ20に絶縁部20bを設けたが、これに限られず、アノードセパレータ19に設けても良い。アノードセパレータ19に設けることでカソードセパレータ20と同様に水素流路19内の温度を制御することができる。
【0038】
なお図6(a)、(b)に示すように空気流路18ではなく、冷媒流路21を構成する溝の壁面に絶縁部20bを設けても良い。図6(a)は冷媒流路21に絶縁部20bを設けた場合の燃料電池1の概略断面図であり、図6(b)は図6(a)のA−A断面図である。ここでは、冷媒流路21の溝壁面に絶縁部20bを構成する。冷媒流路21の溝壁面に空気流路18の入口近傍と比較して出口近傍が肉厚となるように絶縁部20bを設ける。
【0039】
さらには、図7(a)、(b)に示すように、導電部20aで絶縁部20bを被膜して構成しても良い。図7(a)は絶縁部20bを導電部20aで被膜した場合の燃料電池1の概略断面図であり、図7(b)は図7(a)のA−A断面図である。この場合には導電部20aを、それぞれ空気流路18側と冷媒流路21側に二分割した後、両面または片面に予め傾斜を設けて加工した絶縁部20bの傾斜に一致するように分割面を傾斜加工する。その後絶縁部20bを挟むようにして、再度カソードセパレータ20を張り合わせる。このとき、絶縁部20bは完全にカソードセパレータ20で被覆される。
【0040】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0041】
ここで、本発明を用いない場合の燃料電池スタック1内の反応ガス(空気)温度分布を図8に、燃料電池スタック1内の相対湿度を図9に示す。
【0042】
燃料電池スタック1の発電反応は発熱反応であり、図8に示すように、燃料電池スタック1内の空気の温度は、空気の入口から出口となる従って徐々に高くなる。空気の温度は、空気流路18と冷媒流路21との間に位置するカソードセパレータ20を伝わって冷媒流路21を流れる冷媒に伝わり、冷媒との熱交換によって空気は冷却される。
【0043】
また、空気流路18の上流側では相対湿度は比較的小さく、空気流路18の下流側になると相対湿度は100%に達して凝縮水が発生する。空気流路18の下流側では空気流量が小さくなるので、凝縮水は除去され難く、フラッディングを生じる要因となる。なお、このような現象は水素流路17においても生じる。
【0044】
本発明を用いた場合の空気温度分布を図10に示す。この実施形態では燃料電池内のカソードセパレータ20の空気流路18と冷媒流路21に挟まれた部分の熱伝導性を変化させ、空気流路18の入口近傍と比較して出口近傍の熱伝導性を抑制する。これにより、空気は出口近傍で冷却され難くなるので、出口近傍で温度が上がり、つまりは露点が上昇する。これにより、出口近傍で水の凝縮を生じ難くして、空気中に含まれる水分を増大してフラッディングを抑制する。
【0045】
同様に、アノードセパレータ19に絶縁部20bを設けた場合には、水素流路17と冷媒流路21に挟まれた部分の熱伝導性を変化させる。水素流路17の入口近傍と比較して出口近傍の熱伝導性を抑制する。これにより、水素も出口付近で冷却され難くなるので、出口近傍で温度が上がり、つまりは露点が上昇する。これにより、出口近傍で水の凝縮を生じ難くして、水素中に含まれる水分を増大してフラッディングを抑制する。
【0046】
カソードセパレータ20では空気流路18のまわりにカノードセパレータ20よりも熱伝導性の低い絶縁性材料のセラミックである絶縁部20bを設ける。そして空気流路18の入口近傍よりも出口近傍の絶縁部20bの厚さを厚くすることにより、空気流路18の出口近傍の温度を高め、フラディングを抑制することができる。
【0047】
導電部20aと絶縁部20bの厚さ比に傾斜を設けることで、熱伝導率の差異を徐々に変化させることができ、伝熱分布を的確に制御することができる。また、絶縁部20bの厚さに傾斜を付け、絶縁部20bを張り合わせる導電部20aには絶縁部20bと逆方向の傾斜を付けることで、空気流路18の流路断面積を一定とすることができる。
【0048】
カソードセパレータ20(アノードセパレータ19)の導電部20aを導電性の金属セパレータとして、絶縁部20bを陽極酸化法によって形成される酸化被膜33とすることで、容易に絶縁部20bを形成することができ、更にカソードセパレータ20をめっきする場合に、酸化被膜33上にはめっきされないので、絶縁部20bに導電性の部材が形成されずに、出口近傍の熱伝導性を確実に抑制し、出口近傍でのフラッディングを確実に抑制することができる。
【0049】
また、カソードセパレータ20またはアノードセパレータ19を酸化被膜33、または金めっきによる金被膜34の化学的に安定な物質によって覆うので、カソードセパレータ20またはアノードセパレータ19の劣化を抑制することができる。
【0050】
次に本発明の第2実形態の燃料電池スタック1について図11(a)、(b)を用いて説明する。図11(a)はこの実施形態の燃料電池スタック1の概略断面図であり、図11(b)は図11(a)のA−A断面図である。この実施形態はカソードセパレータ20に加えて、アノードセパレータ19を導電部19aと絶縁部19bで構成する。その他の構成については第1実施形態と同じ構成なので、ここでの説明は省略する。
【0051】
アノードセパレータ19の構成については第1実施形態で説明したカソードセパレータ20の構成と同様であり、詳しい説明は省略するが、アノードセパレータ19の水素入口近傍から出口近傍にかけて、絶縁部19bの厚さを厚くすることで出口近傍でのフラッティングを防止することができる。
【0052】
アノードセパレータ19の絶縁部19bの厚さdとカソードセパレータ20の絶縁部20bの厚さeとの関係が、絶縁部20bの厚さeが絶縁部19bの厚さdよりも厚くなるように構成する。なお、絶縁部19b、20bは、水素流路17の入口近傍に比較して出口近傍で、また空気流路18の入口近傍に比較して出口近傍で肉厚となるように傾斜を付けて構成する。
【0053】
なお、図12(a)、(b)に示すように水素流路17、空気流路18ではなく冷媒流路21に絶縁部19b、20bを設けても良い。図12(a)は冷媒流路21を絶縁部19b、20bによって覆った場合の燃料電池スタック1の一部を示す概略断面図であり、図12(b)は図12(a)のA−A断面図である。
【0054】
さらには、図13(a)、(b)に示すように導電部19a、20aによって絶縁部19a、20aを被膜しても良い。図13(a)は絶縁部19bを導電部19aで、また絶縁部20bを導電部20aにおいて被膜した場合の燃料電池スタック1の一部を示す概略断面図であり、図13(b)は図13(a)のA−A断面図である。この場合には導電部19a、20aを、それぞれ水素流路17側と冷媒流路21側、または空気流路18と冷媒流路21側に二分割した後、両面または片面に予め傾斜を設けて加工した絶縁部19b、20bの傾斜に一致するように分割面を傾斜を付けて加工する。その後絶縁部19b、20bを挟むようにして、再度導電部19a、20aを張り合わせる。これによって絶縁部19b、20bは完全に導電部19a、20aで被覆される。
【0055】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0056】
この実施形態ではアノードセパレータ19とカソードセパレータ20において、伝熱分布を正確に制御することができ、フラッディングを抑止することができる。
【0057】
次に本発明の第3実形態の燃料電池スタック1について図14を用いて説明する。図14はカソードセパレータ40において、電解質膜11と接する方向から見た正面図である。カソードセパレータ40以外の構成については第1実施形態と同じ構成なので、ここでの説明は省略する。この実施形態では空気流路41を絶縁部40bで覆うのではなく、特に水の凝縮が生じ易い部分にのみ絶縁部40b(図14中、斜線部)を備える。
【0058】
カソードセパレータ40は空気流路41に空気を導入する空気供給マニホールド43と、空気流路41から発電反応で使用されなかった空気を排出する空気排出マニホールド44を備える。なお水素、または空気が流れるマニホールドを有するが、ここでは省略する。
【0059】
空気流路41は直線部と折り返し部からなるサーペンタイン形状に形成される。サーペンタイン形状の折り返し部分、所謂R部45で水の凝縮が生じ易く、フラッディングが発生し易い。そこで、サーペンタイン形状の空気流路41においては、R部45に絶縁部40bを設ける。これによりR部45の熱伝導が絶縁部40bによって抑制されて温度が上昇するので、露点が上昇してR部45でのフラッディングを抑制することができる。
【0060】
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
【0061】
空気流路18をサーペンタイン形状とした場合に、フラッディングが発生し易い、R部45に絶縁部40bを設けることにより、フラッディングを抑制することができる。
【0062】
次に本発明の第4実形態の燃料電池について図15(a)、(b)、(c)を用いて説明する。図15(a)はカソードセパレータ50を電解質膜11と接する方向から見た正面図であり、図15(b)は図15(a)のA−A断面図であり、図15(c)は図15(a)のB−B断面図である。なお、この実施形態においては、燃料電池スタック2は燃料電池1の積層方向と鉛直方向(重力方向)が直交するように配置される。つまり、カソードセパレータ50の空気流路51を設けた面が鉛直方向と平行となるように配置される。カソードセパレータ50以外の構成については第1実施形態と同じ構成なのでここでの説明は省略する。
【0063】
カソードセパレータ50は空気流路51に空気を導入する空気供給マニホールド52と、空気流路51から発電反応で使用されなかった空気を排出する空気排出マニホールド53を備える。なお水素、または空気が流れるマニホールドを有するが、ここでは省略する。また、空気流路51を設けた背面に冷媒流路57を備える。
【0064】
カソードセパレータ50は空気流路51をサーペンタイン形状に形成し、サーペンタイン形状の直線部54においては、燃料電池スタック2を配置した場合に鉛直方向の下方側(図15(a))となるに従って絶縁部50bの厚さが徐々に厚くなる。また、導電部50aの厚さは鉛直方向の下方側となるに従って、かつ絶縁部50bの厚さと傾斜が逆となるよう徐々に薄くなる。これによって空気流路51の流路断面積は空気流路51において一定となる。
【0065】
また、R部56によって方向が代わり、並列する直線部54においては空気出口に近づくにつれて、つまり並列する直線部54では下流となるにつれて絶縁部50bの厚さが厚くなる。すなわち、カソードセパレータ50を水平方向に切断した場合の断面図において、空気入口近傍から出口近傍にかけて、絶縁部50bの断面積が大きくなる(図15(c))。
【0066】
以上の構成によって、空気流路51がサーペンタイン形状に形成され、燃料電池スタック2は燃料電池1の積層方向と鉛直方向が直交するように配置されると、重力によってカソードセパレータ50の下方に水が溜まり易くなるが、カソードセパレータ50において直線部54を下方となるに従って絶縁部50bの厚さを厚くすることで、水が溜まりやすい箇所の温度を高くすることができ、フラッディングを抑制することができる。
【0067】
なお、ここでは空気流路51をサーペンタイン形状としたが、この形状に限られるものではなく、図16に示すように空気流路51を直線形状を複数並列に設けてもよい。この場合では垂直方向の下方に位置する空気流路51となるにつれて絶縁部50b(図16中、斜線部)の厚さを厚くする。また、絶縁部50bを設ける範囲を広くしてもよい。つまり、並列する複数の空気流路において、絶縁部50bを構成した領域の面積は、下方に位置する溝ほど徐々に大きくなるように構成してもよい。
【0068】
以上の構成によって燃料電池1の積層方向が水平方向となるように燃料電池スタック2を配置した場合でも、フラッティングを抑制することができる。
【0069】
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
【0070】
燃料電池スタック2が燃料電池1の積層方向が水平方向となるように配置される場合にカソードセパレータ50の鉛直方向の下方に位置する空気流路の絶縁部50bの厚さを厚くすることで、重力によって水が溜まり易くなる箇所ほど温度を高くして、フラッディングを抑制することができる。
【0071】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0072】
燃料電池を搭載する燃料電池自動車に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の第1実施形態の燃料電池スタックの概略構成図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明のセパレータの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明のセパレータの製造工程を示す工程図である。
【図5】酸化被膜の厚さと熱伝導性の関係を示す図である。
【図6(a)】本発明の第1実施形態の変更例を示す概略構成図である。
【図6(b)】図6(a)のA−A断面図である。
【図7(a)】本発明の第1実施形態の変更例を示す概略構成図である。
【図7(b)】図7(a)のA−A断面図である。
【図8】本発明を用いない場合の燃料電池スタックの温度分布を示す図である。
【図9】本発明を用いない場合の燃料電池スタックの相対湿度を示す図である。
【図10】本発明を用いた場合の燃料電池スタックの温度分布を示す図である。
【図11(a)】本発明の第2実施形態の燃料電池スタックを示す概略構成図である。
【図11(b)】図11(a)のA−A断面図である。
【図12(a)】本発明の第2実施形態の変更例を示す概略構成図である。
【図12(b)】図12(a)のA−A断面図である。
【図13(a)】本発明の第2実施形態の変更例を示す概略構成図である。
【図13(b)】図13(a)のA−A断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態のカソードセパレータを示す概略図である。
【図15(a)】本発明の第4実施形態のカソードセパレータを示す概略図である。
【図15(b)】図15(b)のA−A断面図である。
【図15(c)】図15(a)のB−B断面図である。
【図16】本発明の第4実施形態の変更例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0074】
1 燃料電池スタック
2 燃料電池
11 電解質膜
16 膜電極複合体(MEA)
17 水素流路(燃料ガス流路)
18、41、51 空気流路(酸化剤ガス流路)
19 アノードセパレータ(第1セパレータ)
20、40、50 カソードセパレータ(第2セパレータ)
19a、20a 導電部(第1部材)
19b、20b、40b、50b 絶縁部(第2部材)
21 冷媒流路
32 アルミニウムクラッド材
33 酸化被膜
34 金被膜
45 R部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極とカソード極との間に挟まれた電解質膜と、
前記アノード極に供給される燃料ガスを流通する燃料ガス流路を有する第1セパレータと、
前記カソード極に供給される酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する第2セパレータと、
燃料電池を冷却する冷媒が流通する冷媒流路と、を備えた燃料電池において、
前記第1セパレータまたは第2セパレータのうち少なくともどちらか一方は、導電性の第1部材と、前記導電性部材よりも熱伝導性の低い第2部材で構成し、
前記燃料電池の発電時に前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路を水によって塞ぐ可能性が高い箇所ほど、前記第2部材の厚さを厚くすることを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路の入口から出口にかけて、前記第2部材の前記厚さを厚くすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項3】
前記冷媒流路の入口から出口にかけて、前記第2部材の前記厚さを厚くすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項4】
前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路が直線形状であることを特徴とする請求項2または3に記載の燃料電池。
【請求項5】
前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路が直線部と折り返し部からなるサーペンタイン形状であり、
前記第2部材は前記折り返し部の厚さを前記直線部よりも厚くすることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項6】
前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路を設けた面が、鉛直方向と略平行となるように前記燃料電池が配設された場合に、
前記第2部材は鉛直方向下向きとなるにつれて厚くなることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池。
【請求項7】
前記ガス流路または前記酸化剤ガス流路が直線部と折り返し部からなるサーペンタイン形状であり、
前記直線部に設けた前記第2部材の厚さは、水平方向の前記第2部材の断面積が前記ガス流路または前記酸化剤ガス流路の入口から出口にかけて前記断面積が大きくなることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。
【請求項8】
前記第2部材を前記第1セパレータと前記第2セパレータで挟持することを特徴とする請求項1から7のいずれか一つに記載の燃料電池。
【請求項9】
前記第2部材は絶縁性部材であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一つに記載の燃料電池。
【請求項10】
前記第1部材は、導電性の金属セパレータであり、
前記第2部材は、前記金属セパレータにコーティングされた絶縁性部材であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一つに記載の燃料電池。
【請求項11】
前記第2部材は陽極酸化処理によって構成された酸化被膜であることを特徴とする請求項10に記載の燃料電池。
【請求項12】
前記第2部材は窒化処理によって構成された窒化被膜であることを特徴とする請求項10に記載の燃料電池。
【請求項13】
アノード極とカソード極との間に挟まれた電解質膜と、
前記アノード極に供給される燃料ガスを流通する燃料ガス流路を有する第1セパレータと、
前記カソード極に供給される酸化剤ガスを流通する酸化剤ガス流路を有する第2セパレータと、
燃料電池を冷却する冷却水が流通する冷媒流路と、を備えた燃料電池の製造方法において、
前記第1セパレータと前記第2セパレータを前記燃料ガス流路と前記酸化剤ガス流路の背面が前記冷媒流路となるように接合する行程と、
前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路または前記冷媒流路の少なくとも1つの流路の電解質液を接触させる時間を制御し、陽極酸化法によって酸化被膜を形成する行程と、からなり、
前記燃料電池の発電時に前記燃料ガス流路または前記酸化剤ガス流路を水によって塞ぐ可能性が高い箇所ほど前記酸化被膜の厚さを厚くすることを特徴とする燃料電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6(a)】
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【図6(b)】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【図15(c)】
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【図16】
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